【ベヘモット34柱師団】お嬢様剣士ティリエルの憂鬱   作:Nera上等兵

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10話 大騒動のあとしまつ

それは偶然の出来事であった。

自分の化身と戦う羽目になった男鹿は、そいつを倒して消滅させなかった。

東条とは違って好きで喧嘩している訳じゃないので無力化したらそのまま放置した。

ベル坊の姿を黒くした存在を殴り倒したくない気持ちが大きかったのもある。

 

「*+`&*@"(}#!!」

 

 

するとお腹が空いた素振りを見せたので持参した哺乳瓶でミルクを飲ませた。

自分達の録音した声で生み出された存在なのだが、意外と食事ができるようで嬉しそうに飲んだ。

これに気に食わないのは、ベル坊である。

 

 

「ダ!」

「#%”(!」

「ダダ!!」

「#)("'#0-$"!!」

 

 

自分のミルクを横取りされていると感じた彼は、黒色の自分と喧嘩を始めた。

魔王の末子とそれに匹敵する化身、本気で喧嘩をすれば周囲に多大な被害を及ぼす。

 

 

「ケンカするんじゃねぇよ!また作ってやるから大人しくしてろ!」

「仲良く飲まねぇならオレが全部飲んじまうぞ!」

 

 

喧嘩両成敗した男鹿辰巳は、2人の赤子に仲良くしろと命じた。

そもそも赤子は泣くのが仕事であってそんな事を言われても従う訳がない。

男鹿としては、自分に被害を及ばない様にする意図があったが赤子たちは知った事じゃない。

 

 

「ミ゛!?」

「+"=!!」

 

 

叱れても関係は改善されず、お互いの肌を摘まんで喧嘩を始めたベル坊とブラックベル坊。

このままでは、この場が消し飛ぶ魔力が吹き荒れるだろう。

 

 

「よぉし!!オレが飲んでやる!!」

 

 

喧嘩を続ける以上、男鹿は2人に罰を与える為に哺乳瓶に口を付けてミルクを飲み込む。

その時、ドクンと心臓の鼓動が感じられて目の前が真っ暗になった。

―――どれくらい経ったのだろうか。

 

 

「おい!!」

「ん?」

「ん、じゃねぇよ!!何で悪魔と同化したんだ!?つうかどうやったらそうなるんだ!?」

 

 

少しだけ意識が朦朧した男鹿は呼びかけ声に反応するとバンダナをしたおっさんがそこに居た。

ムカつくので頭を下げたくないのだが、諸事情により彼が提案した修行に付き合っていた。

さきほどのブラックベル坊もこいつが持ってきた魔界ラジカセで生み出されたものである。

 

 

「え?ん?怪我したのか?」

「そうだ、悪魔と同化したお前を止めようとしたら両腕が傷だらけになっちまった」

 

 

男鹿が素直におっさんの言う事を聴いていたのは、自分より強いせいである。

聖石矢魔学園の校舎でこいつに殴打されて気を失った事を恥じない日はない。

よって、まだ倒せるほど実力をないと自覚していたのだが…良い事を聴いたかもしれない。

 

 

「……いいか。良く聴け」

「ヤなこった」

「お前の事だから止めてもやるだろう。だから1つだけ警告してやる」

 

 

男鹿の修行に付き合っている早乙女は、禁止しても絶対に守らないと分かっている。

目の前に居るのは、石矢魔高校の不良でも凶悪な男である。

自分が何を言っても、悪魔と同化すると分かっているからこそ彼は重要事項だけ伝える。

 

 

「さっきの様子を見る限り、悪魔との融合はもって数分だ」

「何が?」

「赤子と融合できる時間だっつってるだろうが!」

「頑張ればもっとできる!!」

「完全にさっき意識失ってたじゃねぇか!いいか、良く聴けよ」

「ドラクエの無限ループかよ」

 

 

また同じことの繰り返しになると分かった男鹿はドラクエの無限ループを思い浮かべる。

「そんなひどい」とか「~仲間にして」とかそういう流れだと感じた。

 

 

「もって5分、それ以上使えば、お前は人間に戻れなくなるぞ」

「でも今、平気だろ?」

「だから!オレが止めたから無事なの!!ホントお前バカだな!!」

「なんだと!?」

 

 

とりあえず先公面したおっさんから男鹿は最低限の事を覚えさせられた。

 

・悪魔と同化するとベル坊のパワーを100%使える

・悪魔と同化する時間は5分、それ以上やると肉体が崩壊する

・悪魔と同化すると人格が薄れて同化した悪魔に意識を乗っ取られる

・連続して使うな。ダメ絶対!!大麻や覚醒剤と同じように絶対にやるな!!

 

以上の事を覚えさせられたが、男鹿はパワーアップイベントとしか思っていない。

おっさんから「分かったか?」と言われても「へーへー」と返すほど無関心だった。

今、感心があったのは悪魔たちとの再戦である。

そう、今の状況の様な。

 

 

-----

 

 

「へっ――悪いな。そろそろ良い感じだ」

 

 

とりあえず先日の晩に襲撃してきた敵は爆裂パンチでぶっ飛ばした。

ただ、紋章術ではこれ以上、戦えないと男鹿は分かっていた。

なので悪魔と同化する為にミルクを作って人肌に冷えるまで待った。

黒髪のヤンキーっぽい奴がパワーアップしたのは予想外だが、他に問題はない。

 

 

『――うげっ!?まず!?』

 

 

そして哺乳瓶でミルクを飲むが、粉ミルクのせいなのか。

それともベル坊が好みのミルクにアレンジしてあるのか相変わらずまずかった。

 

 

「アーダ!アーダ!!」

「ベル坊君っ!!ダメだ。これ以上は…」

「アーイ!」

「吐くから勘弁してください」

 

 

まるで飲み会で先輩に無理やり酒を飲まされる後輩の図である。

平成では、アルコール・ハラスメントという単語があるように飲酒強要、ダメ絶対。

 

 

「う~~い、キタキタ!!」

 

 

ベル坊と同化して魔力がアップしているのを男鹿は実感する。

対峙する悪魔たちも男鹿の変化に気付いていた。

いきなり魔力の放出量が2倍、3倍、5倍以上になれば嫌でも気付ける。

 

 

「まさか――無理やりリミッターを外しているのか!?」

 

 

侍女悪魔のヒルデガルダは、さきほどの男鹿の行動に困惑していた。

緊急時ではなかったらすぐに主君のミルクを飲むドブ男をぶっ飛ばしていた。

しかし、平然とミルクを飲む男鹿の様子がおかしいとすぐに分かった。

人間という枷を外して悪魔になろうとするような感じがしたのだ。

 

 

「アダ!!」

「ぐっ!!」

 

 

足元に【蠅王紋】を出現させてその爆発力により男鹿は急加速した。

突然の行動により両腕で防御するしかできなかったナーガ柱爵を蹴り飛ばす。

 

 

「アダ!!」

 

 

ぶっ飛ばされた大物悪魔の肉体に再び蠅王紋、それも複数出現させた。

すぐさま足元に出現させた紋章を爆発させて男鹿は急加速し、獲物に急接近した。

 

 

「アダダダダ!!!」

 

 

某独特な画風の少年漫画の主人公の「オラオラオラオラ」みたいに殴り続ける。

柱爵と互角に戦えるほど魔力の出力を上げた以上、ナーガも激痛で動けない。

再び殴り倒されてぶっ飛んだ瞬間、大爆発が起こり黒煙を出して錐揉み墜落していく。

 

 

「キャッキャッキャッ!!」

 

 

屋上に降り立った男鹿は付近のビルに激突したナーガを指差して笑っている。

無茶苦茶で奔放、まるで赤子がそのまま成人男性になったような。

魔王の力を100%引き出して魔界の戦士を蹴散らす姿はまさに魔王の大晩餐会(スーパーミルクタイム)

まさしく魔王の独壇場であった。

 

 

「――しかし、これは…」

 

 

当然、悪魔と同化している以上、後遺症は残るはず。

今回は主君が男鹿の肉体に憑依している状態であり、主君そのものは問題ない。

だが、悪魔と同化する技能は、王国では禁忌とされており、どのような結末になるか分からない。

 

 

「アダ?」

 

 

一方、ベル坊と意識を共有する男鹿はもう1人の敵の姿が見つからないのに疑問に思っていた。

右手の掌を額に当てて辺りを見渡すが、どこにも姿は見えなかった。

 

 

「ゴホッ!?」

 

 

突如として床から出現したグラフェル柱将は、男鹿の顎を魔力を纏った拳で強打した。

猛烈な一撃を食らって脳震盪になった彼は一時的に意識を手放す。

 

 

「舐めたァ!!真似を!!しやがって!!死ねェ!!」

 

 

意図せず人間と契約したグラフェルは本気の魔力を纏った拳で男鹿を殴打する。

みぞおちに2発、首に1発、額に1発!

殴られる度に吐血してグラフェルを血で汚していくが攻撃は止まらない。

 

 

「アダ!!」

「ぐっ!!」

 

 

さすがに不利だと感じたベル坊はグラフェルに引っ掻き攻撃を行なった。

悪魔と同化して強化された影響は、契約者だけでもなく彼にもあった。

そのせいで顔面を軽く引っ掻かれてグラフェルは一時的に後退する羽目になった。

 

 

「このクソガキがぁ!!」

 

 

恥をかかされたグラフェルは、両拳に大量の魔力を付与させて高熱に燃え上がらせた。

狙うは生意気にも抵抗してきた緑髪の赤子!!

 

 

「グラフェル!!ベルゼ様を手にかける気か!?」

「ぐっ!!」

 

 

ナーガ柱爵の発言を受けて辛うじて残っていた理性でグラフェルは殺意に耐えた。

何故、自分がここまで主君の弟君に激怒しているのか彼にも分かっていない。

誰かに催眠で操られている様に意識が怒りで覆い尽くされそうだった。

 

 

「ゴホゴホ…」

「…ダー?」

「あぁ…あり…と。おか…たす…ったぜ…」

 

 

再び吐血して屋上の床を鈍い赤色に染める男鹿は瀕死状態であった。

ベル坊の応戦が無ければ死んでいたと彼自身が分かっている。

なので感謝の言葉をベル坊に告げるが息が絶え絶えで呼吸も苦しかった。

 

 

「いいか、契約者を仕留めればベルゼ様は解放される。契約者を狙えばいい」

「わかってるよ!!要するにぶっ殺せばいいんだろ!!」

「それは私がやる。グラフェルは援護しろ」

 

 

ナーガ柱爵としてもグラフェル柱将を野放しにするのは危険と感じていた。

戦闘では短気で戦場を暴れ回る性格なのはナーガは把握している。

しかし、王家の血筋を殺そうとするまで錯乱する事はなかった。

 

 

『もしや王宮で暗躍する者の仕業か?いや、今はよそう』

 

 

何故か人間と契約しているグラフェルに疑問に思うナーガは嫌な事を考えた。

最近、王宮に不穏な動きありと報告を受けていたのでそれに関連するのかと思ったのだ。

ただ、それは契約者を殺す事と関係がないので思考を断ち切って前を見据えた。

 

 

「くるぞ!!」

 

 

目の前に居る契約者は再び哺乳瓶を口付けてミルクを飲み干した。

すると第二王子は男鹿の肉体に吸収されて完全に融合した。

緑髪になり蠅の翼を生やして黄色のおしゃぶりを咥えるその姿は滑稽すらある。

それが大魔王に匹敵するような魔力を放出しないのであればそうだったであろう。

 

 

「アウ!!」

 

 

そんな心中を知らないベル坊は急成長した自分の肉体に興味津々だ。

 

 

「アーイアイ♪アーイアイ♪」

 

 

今までと違って大きくなった肉体と力が溢れて来る高揚感。

なにより自分のちんちんがどうなっているのか気になった。

 

 

「フンッ!!ニュウゥ゛ウ゛ウ゛ウ゛ッ!!」

 

 

なのでズボンを掴んで引き千切ろうとする姿は、丸出しに誇りすらあった。

これには敵味方双方が焦らせるほどの行動である。

 

 

「いかん!!ベルゼ坊っちゃまが丸出しになろうとしている!!」

「やめてええええええ!!」

「男鹿!!いくらなんでも猥褻物陳列罪(わいせつぶつちんれつざい)は少年漫画でも許されないぞ!!」

「なんという丸出しへのこだわり」

 

 

味方陣営であるはずの侍女悪魔一行は呼びかけて行動を止めようとした。

というかレベルが違い過ぎてヒルダもラミアも古市も他になす術がなかったのだ。

約1名、思春期の股間に興味津々であったが他は通常な反応を示した。

 

 

「ウ!?」

「そこ…までだ…人間…」

 

 

投擲してきた槍に気付いてベル坊が行動を中断して回避行動を取った。

これにより男鹿の肉棒が誰かに見られる事は阻止された。

少年漫画あるある…なのかな?

 

 

「よくやった!!エラの人!!」

「うむ!!」

「生きていたのね!!」

 

 

ガッツポーズで喜ぶ3名はボロボロになったヘカドスの奮闘を讃えた。

一応、敵なのだがそれでいいのか。

 

 

「残念ですな…」

 

 

次元転送悪魔アランドロンは男鹿の股間が見れなくて素直に残念がった。

誰も敵勢力の動向を気にしていない所を見るとよっぽど丸出しが嫌のようだ。

 

 

「捕らえたぞ!!この人間があああ!!」

「アダ!?」

 

 

当然、隙だらけの行動を見逃す訳もなくグラフェルは融合した悪魔を羽交い絞めした。

後方からの拘束技を想定しなかったベル坊は、大慌てで解こうとするが無理だった。

 

 

「今だナーガ!!オレの身体ごとやれ!!」

「馬鹿野郎!!お前も死ぬ気か!?」

「馬鹿はお前だ!!オレの魔力を見て見ろよ!!ナーガ様より上なんだぜ!!」

 

 

ナーガ柱爵が魔力を凝縮する間、必死にベル坊は拘束を解こうとする。

しかし、格闘技も護身術も習ってない彼は拘束から逃れる手段が分からない。

今回は魔力では無く人体の構造の隙を突かれたせいでどうしようもなかったのだ。

 

 

「よくやった2人共、これで最後だ!!」

 

 

大気を揺るがすほどの膨大な魔力は契約者を仕留めるという覚悟だ。

人間界で出力できる魔力を全て注いで生成した塊はナーガですら制御しきれない。

 

 

水燼濁々(すいじんだくだく) 蛇竜掌(じゃりゅうしょう)!!」

 

 

穢れた水害で生き残った人々に邪竜を司る意味がある掌という技名。

これは大洪水による水害を【暴れ水龍】と評する由来に匹敵する濁流のような魔力。

それに全力の掌底打ちを加えたものである。

 

 

『これで終わらせる…!!』

 

 

かつて柱将であったナーガは、【魔界七大竜】の1角である水竜と交戦した。

暴走して濁流で全てを押し流そうとした竜に対して彼はこの技を放ち勝利した。

それに畏怖した魔界の住民から【水竜王】と称されて彼は、柱爵の地位を得た過去がある。

 

 

「な!?」

 

 

技名を叫んだナーガの眼前には、蠅紋章(ゼブルスペル)が左右に広がっていた。

片方だけで100個を超える紋章の壁は、彼を挟み込む形で存在している。

 

 

連鎖大爆殺(ゼブルフィニッシュ)!?まずい!!』

 

 

手っ取り早く言えば、この技は蚊を両手で叩くようなものだ。

問題なのは、高速で壁同士が激突して小型の核兵器に匹敵する爆発が起こる。

この技を繰り出した本人も本能で分かっているのか。

複数の紋章を爆破して急加速し、拘束するグラフェルごと爆発範囲から全力離脱をした。

 

 

「ウソでしょ!?」

 

 

必死にグラフェルの契約を解除しようとしていたティリエル柱将はその行為を中断。

全身が真っ赤に染まっている契約者を抱えて全力で非常階段を降りて行く。

しかし、あまりにも遅すぎた。

 

 

「ナーガ…!!」

 

 

光り輝く紋章群で姿が見えなくなった上官に向かって手を伸ばすヘカドス柱将。

それはあまりにも遠くそして大魔王の技を皮肉にも間近に見る事となった。

その瞬間、天空が閃光と共に弾けた。

 

 

「きゃあっ!?」

 

 

爆風と衝撃で階段の踊り場の柵から飛び出したティリエルは宙を舞った。

平衡感覚を失った彼女は、高熱を帯びる契約者の腕を掴むのが精一杯であった。

爆発の規模を予想していた職業軍人ですらこの有様で成す術はなかった。

このままでは地上に激突してティリエルは志半ばで散る事となる。

 

 

「って!!私を舐めないで!!」

 

 

やむをえず魔力を放出し、適当なでっぱりを掴み振り子の様に宙を舞った。

その間にも爆発による瓦礫が彼女たちの真上に降り注ごうとする。

 

 

「この!!」

 

 

彼女は目の前に窓があるのを発見した。

魔力調整を行い位置を調整し、蹴り破る形で室内に侵入、転がって衝撃を殺した。

一応、魔力を纏って緩衝材にしたがそれでも壁に激突するまで止まらなかった。

 

 

「くっ…。五体満足、五感不満足ぅ……革瀬は…」

 

 

なんとか立ち上がったティリエルは聴覚に異常を感じつつ相方を見る。

相変わらず全身が釜茹でされたように体表が真っ赤であった。

それを覆うように刺青のようなものが鈍色に発光している。

 

 

「まだ機能している…つまりグラフェルは…痛っ!!」

 

 

それを意味するのは、未だに革瀬から魔力を引き出していると同意義である。

しかし、頭痛が彼女を襲い無意識で索敵をし、室内に人がいない事を確認。

それと同時に床に倒れ込んで意識は朦朧とした。

 

 

-----

 

 

ヘリポートがあった屋上どころか高級マンションの上階をいくつか吹っ飛ばした。

その際に発生した瓦礫の山は大半が地上に落下したとはいえ酷い有様だ。

人類の叡智による成果、ミサイルが直撃したように崩壊した上階に押し潰された形となった。

 

 

「やってくれたな人間が!!」

 

 

200kg以上ある瓦礫を吹っ飛ばしてグラフェルは激情の赴くままに立ち上がった。

膨大な魔力は確かに彼に打撃を与えたが、それでも有効打にはならなかった。

 

 

「そこか!!」

 

 

意識を失ってうつ伏せで瓦礫に乗っている第二王子の契約者を発見した。

すぐさま殺そうと双拳に魔力を纏いグラフェルは全速力で駆け抜ける。

既に融合が解けており、無防備状態の契約者には致命的な攻撃であった。

もはや彼の暴走を止められる者など居ないと思われた。

 

 

「誰じゃあ!!余のゲームの邪魔をしてくれたのはっ!?」

「なっ!?」

 

 

ところが、焔王の悔しがる叫びを聞いたグラフェルは思わず攻撃を中断した。

彼の脳裏には、レイミア副団長の言葉が響いていた。

 

 

『今こそ初心に戻り、任務を遂行する事を心より祈っています』

 

 

グラフェルのやるべきことは何かと言えば第二王子契約者の抹殺である。

だが、それはあくまで戦果であってそれが目的ではない。

仕える主君の脅威となるので排除する事になっただけでその過程で生まれた。

そう、彼が最優先でやるべきなのは、()()()()()()()()()()()()

 

 

「焔王様!!ご無事ですか!?」

「なんじゃいグラフェル!?余は無事じゃがゲームがダメになってしもうた!」

 

 

先ほどとは違って全身が冷え込んだ彼は急いで主君の元へと駆けつけた。

わざわざ屋上で交戦したのは、主君に危害が及ばない様にする為である。

なのにそれを忘れた挙句、さきほどこの一帯をぶっ飛ばそうとしたのだ。

 

 

「焔王様!!申し訳ございません!」

「グラフェル?一体何が起こったのじゃ?それにヘカドスがやられとるではないか!?」

 

 

焔王からすれば『さっきから花火がうるさいのう』くらいしか思っていなかった。

ところが急に天井が崩落して目玉が飛び出しそうになるほどには驚愕した。

幸いにも侍女悪魔たちによる奮闘で傷は負わなかった。

だが、いつの間にか家臣たちがボロボロになっており、1名はうつ伏せで倒れていた。

これには、彼も困惑して状況説明を求めた。

 

 

「うわああああ!!」

「きゃああああ!!」

「ん?」

 

 

その瞬間、瓦礫の崩れる音と共に男女の声を聴いた。

グラフェルと焔王はその声のした方を見ると衝撃的な光景が広がっていた。

 

 

「なっ!!」

 

 

焔王は絶句した。

大好きなラミアがパンツ一丁の銀髪男に押し倒されていたのだ。

しかもその銀髪は知り合いであり、メールで一緒に居るのは分かっていた。

 

 

「ロリコン」

「ヘンタイ」

「フケツ」

 

 

厄介な事に烈怒帝瑠の3名(石矢魔の女子たち)に幼女を押し倒す古市の姿を目撃されてしまった。

買い物から行方不明になった2人が密室で何かをやろうとしていた…。

そう勘違いした彼女たちの目線は明らかに変化していた。

急速に汚物未満の扱いとなった古市はたまらず反論をし出す。

 

 

「いやいや誤解っすよ!!」

「そうよ、古市は瓦礫から私を庇おうとして…」

「いいからズボン履きなさい」

 

 

しかし、明らかに情事に及ぼうとしたとしか思えなかった。

古市とラミアは行方不明になったと思ったら隣室に居たという事実。

女子組や焔王の頭の中では、ロリコンがラミアに手を出そうとしたという事になった。

烈怒帝瑠(レッドテイル)4代目総長(大森寧々)の一言によって古市は慌ててズボンを履こうとした。

 

 

「よくも余の嫁に手を出そうとしたな古市…!!」

「え?ええ?」

「全面戦争じゃ!!貴様だけは余の手でぶち殺す!!」

 

 

よって泣き叫んで古市を殺害予告をしたと同時に宣戦布告した。

本来であれば、この辺り一帯を焼け野原にするはずだったが溢れる怒りが状況を変えた。

第一王子の全身は激しく燃え上がりグラフェルすら慄くほどの魔力が溢れていた。

 

 

「えええええええ!!!」

 

 

殺害予告を受けた古市は思わぬ飛び火に絶叫し、全力で後退りをしたが壁にぶつかった。

「もうダメだ…おしまいだぁ…!」と野菜王子の声が幻聴するほどには彼は追い詰められた。

 

 

「「待ちな!!」」

 

 

万事休すという時に助っ人が到来した。

 

 

「全面戦争か…おもしれぇ!!」

「あぁ!買ってやるよ」

 

 

石矢魔高校4大トップの神崎一と姫川竜也が立ち上がった。

絶対に勝てる相手では無いとはいえ『頼もしいな』と古市に思わせるほどだった。

 

 

「良く見れば東条とやりあった奴が居るじゃねぇか!」

「てめぇらが悪魔野学園か!人んちを何だと思っているだコラァ!!」

「爆弾で宣戦布告してくるとは思わなかったぜ」

「ああ、こいつらにはケジメを付けてもらわねぇと!!こいつのようにな!!」

 

 

神崎の一言で目の前の連中が悪魔野学園所属だと姫川は気付いた。

なので威圧する様に睨めつけると同時に【ゴミ】を放り投げた。

 

 

「ナーガ!?」

 

 

焔王はボロボロになって虫の息であるナーガ柱爵を見て驚きを隠せない。

たかが人間がナーガに勝てるとは思っておらず、呆然としてしまった。

 

 

「「その勝負…受けてたつぜ!!」」

「誰じゃ貴様らは!?」

「ベルゼ様の兵達のようです」

「ウヌヌヌ…!」

 

 

宣戦布告を受諾した2人は臨戦状態へと移行した。

指をパキパキと鳴らす神崎に武器を取り出した姫川。

その凄みは、石矢魔中の不良達を震え上がらせるほどであった。

侍女悪魔から敵勢力の詳細を聴いた焔王は、どうするべきかと悩んだ。

 

 

『いや、なんかあいつらを倒したみたいに言ってるけどやったの男鹿だし』

『つーか、マンションを爆破したのも男鹿ですから』

 

 

その中で古市は、内心でツッコミを入れた。

男鹿のせいとはいえそれを公表すればこっちに飛び火するかと思ったからだ。

ただ、2人の雄姿は頼もしくあり、なんとか状況を打開してくれると期待する。

 

 

「焔王様、お任せください。こいつらを3秒で皆殺しにしてやります」

「ああん?神崎様から逃げたてめぇがそれを言うか?」

「言ってくれるな人間風情がぁ!!」

 

 

神崎はグラフェルが撤退したのを自分を恐れたせいだと勘違いしている。

なので自分と交戦する気満々の敵に対して挑発を行なった。

その挑発に乗ったグラフェルは魔力を解放し、再び両拳に熱を帯びさせた。

今度は、焔王様の矛となり使命を全うする気満々である。

 

 

「よし、古市!時間を稼げ。すぐにうちの組を集めて来る」

「ああ、そうだな。なんとしても食い止めておけよ」

 

 

あまりの実力差のせいで彼らはすぐさま戦意を喪失した。

覇王色の覇気で気絶できれば、まだ良かったかもしれない。

しかし、ここは某海賊漫画の世界では無いのだ。

そのまま絶叫をして尻尾を巻いて逃走するのは格好悪い。

そこで彼らが取った行動は、顔を変えないまま高速でムーンウォークをした。

 

 

「神崎先輩!!姫川先輩カームバックゥ!!」

 

 

涙目になって手を伸ばす古市を他所に全力で後退する2人の姿はとっても格好悪かった。

だが、古市には助っ人がまだ居る。

 

 

「ヒルダさん…!!ってもうボロボロなの!?」

「当然だ。あの瓦礫群の直撃から守ったのは誰だと思っている。」

「アランドロンは!?」

「貴様を庇って瓦礫の下敷きだ。全く…そのせいで逃げられなかった」

 

 

侍女悪魔ヒルデガルダも瓦礫を対処するために魔力を全て使い尽くした。

逃走手段でもあるアランドロンは古市の盾を全うして瓦礫に埋もれており、使い物にならない。

古市を守ってくれる者は誰もいなかった。

 

 

「いやああぁ~~~~!!!」

 

 

ムンクの叫びのように両手を頬に当てて絶叫する古市は高速接近する悪魔を見て少しチビった。

どう足掻いても逃げられないと自覚した彼は瞼を閉じたが、何故か痛みがやってこない。

 

 

『あれ?』

 

 

いつまで経っても痛みが来ないので瞼を開くと覚醒したはずの悪魔は痛みで転がっていた。

さきほどの威勢はどこにいったのか。

過呼吸で顔面を真っ青にして脂汗を床に垂らす敵対悪魔がそこに居た。

この場に居る者たちは、グラフェル本人も含めて何が起こったのか分からなかった。

 

 

『なんとか無効化できた…』

 

 

4階の1室に飛び込んだティリエルは、グラフェルの魔力を断つ事に成功した。

彼が強化された原因は、彼女の契約者にある呪印を通じて魔力を送受信していたせいだ。

故にさっきまで彼らの契約をなんとかしようとしたが全て弾かれていた。

 

 

『逆転の発想で呪印を封印する羽目になるなんてね…』

 

 

悪魔と人間が交わした契約は、どんな事があっても他者が介入する事ができない。

しかし、グラフェルが革瀬に交わした契約は特殊であった。

先に契約したティリエルが仕込んだ呪印を介してグラフェルが契約していた。

つまり、ティリエルは彼らの契約を無効化はできないが自分の契約は無効化できる。

なので自分の呪印を無力化する事によりグラフェルへの魔力供給を断ったのだ。

 

 

『絶大な力は必ず代償を支払う事となるわ…それは私も同じ事…』

 

 

今頃、グラフェルはパワーアップした代償を支払っている事であろう。

ティリエルの場合は、意図せずに呪印を活発化させた代償を支払っていた。

いや、彼女はそれを行使してないので支払う必要はなかったが、やむを得ず受け入れた。

そうしないと契約者である革瀬が死んでしまうから。

 

 

『別に契約者が死んでも困らないけどさ。後が大変なのよねー』

 

 

もちろん、人間を下に見ている彼女は同情心で肩代わりを行なった訳ではない。

彼が死んだら遺品の整理や対応、下手すれば喪主をする羽目になるからだ。

人間界というのは【死人】に敏感である。

人間ですら死人の対応が面倒なのに悪魔がそう思わない訳がなかった。

 

 

『でも悪い事じゃない~!むしろデータ収集が捗ったわー!!』

 

 

だが、転んでもただは起きぬ彼女は、いつだって前向きだ。

悪魔と人間が契約するとどうなるのかというのを感じ取る事が出来た。

本来であれば、パワーアップを実感するものだが、今回は違う。

他人同士の契約であるはずなのに触れる事ができたのだ。

 

 

『これで更にあのバカ共を出し抜けるわ。きゃはははは!!』

 

 

革瀬を利用すれば、更に自分がパワーアップする事が分かったのだ。

副作用や暴走なども呪印を分析すれば、何が起こったか判明する。

なので安全に自分を強化できると知った彼女は、内心で高笑いをした。

 

 

『え?魔力の流れ!?』

 

 

すると遥か上階から魔力反応があった。

これは、次元転送悪魔が次元転送を行なう時に発する魔力だ。

なので侍女悪魔のヨルダが部隊の脱出にしようしたのだろう。

そう分析して彼女は思った事がある。

 

 

『あれ?私は!?』

 

 

またしても人間界に置いて行かれたティリエル柱将。

残されたのは、ボロボロになった契約者と疲労感である。

 

 

「嘘でしょおおおおお!?」

 

 

再び人間界に潜伏する羽目になった彼女がやるべきこと。

動けなくなった契約者を看病すると同時に異常を誤魔化す事だ。

現にパトカーや救急車がサイレンを鳴らしてこっちに向かって来ている。

「悪魔と契約した男がボロボロになりました」と突き出すわけにはいかない。

 

 

「あああ!!!」

 

 

慌てて契約者を抱き寄せたティリエルは、飛び込んできた窓から脱出した。

野次馬のせいで他に退路がない以上、こうするしかなかった。

邪竜族でもエリートお嬢様の彼女は、これからも酷い目に遭い続ける。

その予兆は既にこの時点で存在していたのだ。

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