【ベヘモット34柱師団】お嬢様剣士ティリエルの憂鬱   作:Nera上等兵

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ベヘモット34柱師団 石矢魔 駐留編
11話 教えて!ティリエル先生!


前回のあらすじ

 

焔王「許さん!!よくも余をコケにしてくれたなァ!!殺してやる…!」

ヒルダ「まずいぞドブ男!!」

男鹿「クッ!」

ベル坊「ダッ!」

 

 

その一方で古市は他人事のようにコーヒーを啜っている。

実際、命を狙われているのは男鹿なのでこのような余裕があった。

 

 

古市「大変だねアンタら」

焔王「殺してやるぞ古市!!絶対に余の手で殺してやる!!我が軍団で全面戦争じゃ!!」

古市「ええええええええええっ!!?」

焔王「余が全軍を連れて来るからの!!せいぜい首を洗って待ってるのじゃ!!」

 

 

こうして第一王子の焔王は、古市に死刑宣告をして全面戦争を挑もうとしていた。

古市がパンツ一丁で思いの人を押し倒された現場を目撃したからね。

仕方ないね。

 

 

「なんか合ってるから困る!!というかオレってとこ○天の助かよ!?」

「今更気付いたのか」

 

 

男鹿の家に転がり込んだ古市は、さきほどの嘘あらすじにツッコミを入れた。

死にたくない一心で何とかして欲しいのにギャグ展開にされたのに納得がいかなかった。

しかもよりによってヘイトタンク役のギャグ展開だからたまらない。

つまりボコられる前提で話が進んでいるので古市は真面目に対処してほしいと思っている。

 

 

「というか全軍って何!?」

「全員、軍手着用してくるとかではないのか」

「指紋気にしてるのか!?じゃない!!どうすればいいっすかヒルダさん!!」

「知らん、うるさい。黙れ」

「辛辣!?」

 

 

パワーアップした男鹿でも倒しきれない悪魔たちが全軍出撃してくるという悪夢。

なにより指名で殺害予告された古市は、人生が詰んだと嫌でも実感する。

そんな彼を哀れんでハンカチを持って泣いてくれる存在は…居る。

 

 

「かわいそうな貴之…おーいおいおい」

「おい、おっさん!!なんで呼び捨て!?つーかどさくさに紛れて距離を詰めるな!!」

 

 

既婚者のおっさんがハンカチで顔を抑えて男子高校生の苦難を想像し、泣いていた。

若い乙女ならともかくおっさんに愛されたくない古市は嫌悪感で本気にツッコミを入れる。

こういう苦難の時は、ヒロインが立ち上がって慰めてくれるのではないのか。

彼は本気で女の子に慰めて欲しかった。なので…。

 

 

「ティターニアさん!!オレを慰めてください!!」

「なんで?」

「だってオレ殺されちゃうんですよ!?誤解で生まれた被害者なんですよ!!」

「あっそ」

「せめてせめて!!オレに優しい一言をかけてください!!」

「ご冥福をお祈り申し上げますわー」

「違う、そうじゃない!」

 

 

ティターニアの名で呼ばれたティリエルは古市の願いを却下した。

ヒルダさんと同じ金髪ボインの子であるが、性格も似ていると古市は内心考えてしまった。

実際の彼女の性分は、他者を見下し小馬鹿にするという小悪魔系のキャラである。

本来であれば、「アハハハ!ダッサーイ!キモいから早く死んでくれる?」と発言していた。

 

 

『レイミア副団長の娘さんをパンイチで押し倒すとかドン引きだわ…』

 

 

だが、【古市が副団長の娘さんをパンツ一丁で押し倒してました】という事件は衝撃的だった。

これには、さすがの彼女も困惑してしまい騒動に巻き込まれる前に突き放していた。

下手すれば責任問題が自分に飛び火するので火傷する前に関わりを断とうとしていたのだ。

 

 

「そもそもなんで私がこんなところに来る羽目になったわけ?」

「うむ、ドブ男の戦いを目撃してしまった以上、説明をしないといけないと思ってな」

 

 

侍女悪魔ヒルデガルダは、同じく金髪の乙女に事情を説明しようとしていた。

もちろん、赤の他人に事情を説明するのはヒルダにとって不本意だ。

しかし、魔界及び坊っちゃまの関係者ではない彼女を放置するわけにはいかなかった。

ヒルダはティターニアという女に人間界に来た理由と坊っちゃまとドブ男の関係性。

そしてベヘモット34柱師団という武装組織が人間界に侵攻してくるのを語った。

 

 

「…というわけだ。いかんせん臣下も仲間も足りんのでな。どうしたものか」

「事情は分かりましたけど…何故それを私に打ち明けたの?」

「秘密を共有する仲間が欲しくてな。特に女関係者は貴重であるからな」

 

 

ティリエルからすれば、証拠隠滅の為に事件現場に戻ったら捕まってしまった。

なのでさっさとここからおさらばしたいので、とにかく何故自分を巻き込むのか。

第二王子の契約者の家で事実上軟禁される理由を知りたがっていた。

 

 

「うむ、さきほども言ったように坊っちゃまを守るには臣下が足りないのだ」

「私やアランドロン、そこに居る【古なんとか】も臣下としてカウントしてもまだ足りない」

「そこで秘密を打ち明けた貴公に戦力になりそうな人物を連れて来てほしいのだ」

 

 

赤の他人に本音で述べるほどにヒルデガルダは、追い詰められていた。

今、魔界に帰れば焔王によって自分が始末されるのは分かり切っている。

なにより人間と契約してまで自分たちを消そうとする邪竜族に警戒していた。

 

 

「でもヒルダさん!狙いは男鹿やオレですよ!隠れていれば…」

「――古市。さきほど襲撃してきたのが3人だけだと思ったのか?」

「…えっ?」

 

 

これに対して異論を唱えたのはティリエルではなく古市であった。

男鹿の修行に付き合ってくれた先生に匿ってもらえばいいと彼は思っていた。

現に悪魔3人を撃退したおっさんの事は知っていたので保護してもらおうとまで考えていた。

ところが、ヒルダから衝撃的な一言を告げられて言葉を失った。

 

 

「私も気付くのが遅れてしまったが、あの場には他にも邪竜族が居た」

「一体どこで!?」

「爆発から身を護るために魔力を全て解放した時だ。あの時、新たな魔力を感じた」

「マジですか!?」

「それもヘカドス柱将に匹敵するような邪悪な魔力をな」

「そんな!!」

「……古市、私の発言が終わるまで黙ってろ」

 

 

ヒルダはいちいち自分の発言に反応する古市が鬱陶しいと感じていた。

身の危険を感じて敏感になっているのは分かるが説明の邪魔であった。

なのでピンク色の日傘に仕込んだ刃を見せつけて強制的に黙らせた。

 

 

「つまり、我々の動向を探っている偵察兵が居るという事だ」

「迂闊だった…。刺客が既に目と鼻の先まで迫っているのかも知れぬ」

 

 

ヒルダの危惧は当たっていた。

既にベヘモット34柱師団の刺客が目の前でおり、会話までしていたのだ。

『目の前にいるんですけどね…』とティリエルが他人事で思うほどには想定外だったが。

しかし、次に発したヒルダの発言によって彼女の気が変わる事となる。

 

 

「私もアランドロンも魔力が枯渇した以上、今ほど危険な状態はないだろうな」

 

 

この一言によりティリエルは気付いてしまった。

この場には魔力を枯渇して無力になった侍女悪魔と次元転送悪魔が居る。

そして第二王子とその契約者も同化による疲弊で弱り切って就寝している状態だ。

副団長の娘さんやロリコンも居るが大した障害ではない。

一方、ティリエルは魔力を温存しており全員を相手にしても実際、圧勝できる状態である。

 

 

『ここで目的を達成するのも可能ってわけね。さて、どうしたのかー』

 

 

普段のティリエルだったらすかさず不意打ちを仕掛けていただろう。

ところが、とある事情により彼女の行動を鈍らせていた。

 

 

『焔王の発言がなかったらすぐさまこいつらを仕留めてたのに…』

 

 

主君である焔王が古市に堂々と宣戦布告した以上、勝手な行動は許されない。

なんなら古市と男鹿の首を柱師団に持ち帰れば逆に袋叩きにされる可能性が高かった。

それほど主君の命令というのは大きいのだ。

 

 

「事情は分かりましたわ。こちらの方でも情報を探っておきますわ」

 

 

――ティリエルは、第二王子の派閥を仕留める好機を逃す事にした。

これがベヘモット34柱師団が男鹿辰巳の快進撃を止められる唯一の機会だったとは…。

彼女は知る由もなかった。

 

 

「ヒルダ姉さま!ベルゼ様が目を覚ましました!」

 

 

ある意味今回の騒動のキーパーソンである白衣を纏った少女が扉を開いて入室した。

ラミアの一言でヒルダは口元が一瞬だけ緩んだが、彼女の顔を見て眉を潜めた。

 

 

「……何があったのだ?」

「それが、ベルゼ様と男鹿の意識が入れ替わってまして…治療方法が分かりません」

「「「えっ?」」」

 

 

「これってもしかして わたしたち 入れ替わってる~!?」的な展開になってしまった。

いくら人間と悪魔が同化が進んだとしても解除すれば元通りになる。

本来であれば、肉体と魂は精神によって結ばれているのでこうなる事はなかったのだ。

しかし、限度を超えても同化を続けようとした結果、前例がない事態が発生した。

 

 

「おうヒルダか…オレあいつら倒したっけ?なんか長く寝てたみてーだけど…」

 

 

急いでヒルダが主君の寝るベッドに駆け付けるとなんと人語を喋っているベルゼ様の姿が!

緑髪を右手でポリポリと掻いて侍女悪魔に質問するその目つきはまさしく男鹿そのものであった。

 

 

「男鹿!!」

「なんだよ古市?というかなんかでかくなってねぇ?」

「お前がちっさくなったんだよ!!」

 

 

記憶が抜け落ちている男鹿は古市の姿を見て『やけにでかいな』と感じていた。

ところが、彼の反論を受けて自分の両手を見ると小さく感じた。

 

 

「な、なんじゃこりゃあ!!」

 

 

ジーパン刑事みたいな絶叫をするベル坊(男鹿)と他人事のようにスヤスヤと眠る男鹿(ベル坊)。

どこからツッコミを入れれば迷った魔界関係者は、古市にツッコミを任せる様に退室した。

 

 

「って!これを押し付けるな!!」

「古市なんとかしろ!!」

「知るか!!もう一回同化でもしてろよ!!」

「それもそうだな」

「納得するんかい!?」

 

 

男鹿と古市は腐れ縁なので放置すればいいという風潮があった。

実際、彼らの討論で一瞬で結論が出てしまった。

逆に考えるんだ。もう一回融合しちゃえばいいんだ的なノリで再融合する事となった。

 

 

「結論が出たようだな」

「でも、ベルゼ様に負担が大きすぎます」

「うむ、ならば紋章使いに相談するべきだな」

 

 

結論が出た瞬間、再び寝室に戻って来たヒルダとラミア。

まるで待ってましたと言わんばかりの登場に男鹿は苛立ちティリエルは困惑する。

ただ、男鹿はこの流れを良く知っているので…。

 

 

「しゃあねぇ。学校行くか」

 

 

自称教師のおっさんに「どうすればいいか」と訊く事にした。

無駄に考えるよりは聴いた方が早いし、楽だと思ったからだ。

そんな訳で今回はお開きとなり、集結したメンバーは解散し帰路に着いた。

 

 

『悪魔と同化をしすぎるとあんな後遺症が出るのねー』

 

 

契約者が療養しているアパートに帰る道中、ティリエルは考え事をしていた。

悪魔から見ても今回の騒動は興味深かった。

人間界で悪魔が本来の実力を発揮するには人間との契約が不可欠である。

しかし、必要以上に契約しすぎた代償を知る事ができたのは幸運だった。

 

 

『つまり、対等な関係以上だとむしろ制限しないと双方とも影響が出るというわけね』

 

 

邪竜族はプライドが高い故に人間と契約した例はほとんど存在しない。

逆に言えば、人間無しでも人間界で圧倒できる戦闘力がある一族と言える。

他者の力を必要としない概念はティリエルもあったが、ここ最近で考えが変わった。

だからといって特に変わる事も無く無事に帰宅したティリエルは衝撃的な光景を目にする。

 

 

「なにやってんの…」

「勉強してるんだよ」

「呆れた。無駄に頑丈なのも考えものよねー。というかここの連中にも言えるけど」

 

 

何故か契約者である革瀬は、ベッドの上で数学の教科書を読んでいた。

数時間前まで全身が真っ赤に染まっていた重傷者がやる事では無い。

一応、最低限の看護をしたティリエルはあまりの頑丈っぷりに呆れた。

 

 

「あんたの向上心と頑丈さを下級悪魔にも分けてやりたいくらいよ」

「そんなに脆いのか?」

「むしろ、なんであんたは生きてるの?絶対死んでる状況だったんだけど?」

「さあ?ティリエルが適切な治療を施してくれたおかげじゃないのか?」

「さすが私!どんな重傷者も他人事に話すまで完治できるわけないでしょうが!!」

 

 

思わずノリツッコミをするくらいにはティリエルは契約者の頑丈さに疑問に思った。

魔力耐性がないはずの人間があれほどの魔力を流れても生きているのはおかしい。

この疑問を解決できれば出世できるほどの偉業になると思うほどだった。

 

 

「コホン、さて、気分はいかがかしら?」

「身体中が痛くてめまいがするし、熱もある気がするな…」

「大人しく寝ときなさいよ。あんたが死ぬと色々面倒なのよ」

 

 

革瀬が死ぬとその手続きが面倒なのは彼女も知っている。

いや、その対処よりも検死で死因を調べられるとかなり面倒な事になる。

必ず同居人の自分が重要参考人として出頭を命じられる光景を思い浮かべて溜息を吐いた。

 

 

「……なあ、俺の身体に何が起こったんだ?」

「少なくとも私の想定外だったわ」

「何があったか教えてくれないか?」

 

 

革瀬としても暢気に発言しているわけではなかった。

ここで訊かないと一生有耶無耶にされると自覚していたから起きていたのだ。

 

 

「別の悪魔があんたを強化アイテムとして使い捨てにしようとした…って言えば分かる?」

「なんでそうなったんだ?」

「しょうがないわねー。説明してあげるから少しだけ時間を頂けないかしら」

 

 

そう発言したティリエルは自分の部屋に戻っていった。

20分くらい経った頃に何故か軍服に着替え直して彼女は再び姿を現す。

久しぶりに金髪の縦ロールからお嬢様だという事実を男に突きつけて来た。

 

 

「なんで軍服を着たんだ?つーかどっからホワイトボードを持ってきた?」

「軍服を着たのは人間界で馴染んでしまった着こなし方を戻す為よ」

「ホワイトボードは?」

「あんたに分かりやすく説明する為に持ってきたのよ。なんか文句ある?」

「ないです」

 

 

そしてなによりホワイトボードの出所に疑問に思った革瀬は質問するが…。

何故か質問をはぐらかされたので追及するのは止めた。

彼女の機嫌を損ねれば、自分の身に何が起こったか知る術がなくなるからだ。

 

 

「本題に入る前に契約の説明をさせて」

「お願いします」

 

 

そもそも悪魔との契約に関して革瀬は一切知らなかった。

この機会で訊いておけば男鹿が引き起こすトラブルに巻き込まれずに済むかもしれない。

なので気力でティリエルの話に耳を傾けた。

 

 

「まず悪魔の契約方法は、“同意契約”“強制契約”の大きく2つに分けられるの」

「同意契約に関しては文字通り、悪魔と人間が同意して契約を結ぶもの」

「強制契約は人間の血を採取した悪魔が体内に取り込んで強制契約を結ぶの」

「革瀬の場合は、私が血を取り込んで契約したから後者となるわ」

 

 

古来から悪魔は人間の血を体内に取り込んで人間を使役した。

なので革瀬を強化アイテムとして使用する用途は間違ってはいない。

問題なのは、意図せずそうなった事である。

 

 

「つまり強制契約されたせいで無理やり酷使されたのか」

「逆よ。強制契約の方が扱いはマシよ」

「え?」

「考えてみなさい。わざわざ悪魔が人間を契約を結んだのよ」

「…悪魔が人間を必要としてるから死なれると困るのか」

「正解!私があんたを看病してやったのもその理由が大きいの」

 

 

一見すると強制契約の方が人間の扱いが悪く感じるかもしれない。

しかし、悪魔が人間を必要として無理やり契約したので扱いはマシであった。

 

 

「じゃあ同意契約っていうのは?」

「悪魔の力に溺れて肉体と精神を破壊した挙句、破滅する廃人予備軍ってとこ」

「なんで?お互いが同意したら扱いは良いはずだろ?」

「血を採取してないせいで契約者の状態が分からないのよ。第二王子の件はそれね」

 

 

同意契約で分かりやすいのは、男鹿辰巳とベル坊の関係である。

血を採取できない赤子は、凶悪人面して暴れ回る男鹿に懐いた。

男鹿も「仕方がないから世話してやるか」みたいなノリで動いていた。

これにより双方が同意して契約が成立し、男鹿はベル坊の育て親になったというわけだ。

 

 

「侍女悪魔から聴いたんだけどさ。男鹿は第二王子から15m以上離れられないのよ」

「なんで?」

「寂しがって泣いたベルゼ様によって致死量の電撃を浴びせられるからよ」

 

 

何故ベル坊は仲良くなった男鹿に致死量の電撃を浴びせているのか分かっていない。

それは赤子であるから分からないと同時に契約者の異変に気付けないのだ。

泣くのが赤子の仕事と言わんばかりに泣いてたら育て親が黒コゲになったとしか思わない。

 

 

「その理由は血を取り込んでいないから。赤子にやれというのはムリゲーなんだけどね」

「血?」

「人間界でも採取した血を使ってDNA鑑定とかやるじゃない?それほど血って情報があるのよ」

 

 

血液というのは情報の塊である。

人間界で行なわれている健康診断やDNA鑑定など血は多くの情報を持っている。

革瀬が真っ先に思い浮かべたのは鋼の錬○術師やNAR○TOの口寄せなど漫画関連であった。

とりあえず血を取り込んで悪魔は契約者の情報を得られるというのは想像できた。

 

 

「じゃあ、俺の異変も分かってたわけか」

「…実は目視するまで異常に気付けなかったの」

「なんで?」

「ああもう!ちゃんと説明するから重傷者らしく黙って聞いてなさい」

 

 

なので本来であれば、ティリエルは契約した革瀬の異変に気付けたはずだった。

だが、彼女も見落とした抜け穴のせいで異変を見逃していた。

プライドが高いせいか遠回しに不備を指摘されたと思ったティリエルは苛立って返答をする。

 

 

「良い?さっきは契約の方法を教えたけど契約自体にも種類があるの!」

「仮契約や本契約、召喚契約や実体契約とかたくさんあるけどここでは手短に話すわ」

 

 

ホワイトボードに書きながら説明するティリエルであるがこの行為に意図がある。

革瀬に分かりやすく説明するという点もあるが、状況分析をする為に行なっている。

今回の件は、彼女にとって不本意であり対策案も考える為に情報を小出しに書いていた。

 

 

「そもそも私が革瀬と契約したのは、人間界に短期間潜伏する為の協力者が欲しかったの」

「でもがっつり契約を結ぶと後で解約が面倒になるじゃない?」

「だから“仮契約”であんたと契約を結んだの。そうすれば双方とも解約が楽になるからね」

 

 

ティリエルは、同格であるヘカドスとグラフェルを席から蹴落とす為に人間界にやってきた。

しかし、いくら優秀な人材でも現地人が居ないと作戦に支障が出てしまう。

そこで、ティリエルは出会った人間でもっともマシだった革瀬と仮契約を結んだ。

そうすれば現地人の知識が生かせるし、万が一長期に滞在する事となっても対処できるから。

 

 

「悪魔と人間の契約は、当事者以外では神であっても介入はできないほど重要なのよ」

「だから他者に私の契約を上書きされるなんて思っていなかったの…」

 

 

本来であれば、革瀬とティリエルの契約という事で話が済んだ。

間違ってもグラフェル柱将の強化アイテムとして革瀬を使われることは無かった。

 

 

「契約にうるさい悪魔だからこそ先に謝っておくわ。あんたが死にかけたのは私のミスよ」

 

 

あれほど自尊心が高い彼女が見下している人間に素直に頭を下げている現状。

相当予想外だったんだな…と革瀬は理解したと同時にそのミスを知ろうと試みた。

 

 

「つまり俺は他の悪魔と意図せず契約してたってわけか?」

「それを口頭で説明すると長くなるからホワイトボードに書かせてちょうだい」

 

 

ティリエルも自分のミスを改めて確認する為にホワイトボードに書き込んでいく。

黙って見ている革瀬は、彼女の後姿が不思議と小さく感じられた。

書かれた内容を簡潔にまとめたのは以下の通りである。

 

 

・革瀬とティリエルは、簡易契約の状態であり、上書きできる状態であった

・強制契約なので契約した直後から邪竜族の呪印が革瀬の左手首に出現していた

・契約を結ぶ関係上、左手首から出血している状態だった

・偶然にも別の悪魔と血が混ざる機会がありそれに呪印が触れた

・別の悪魔はティリエルと同じ純血の邪竜族

・別の悪魔は紋章使いの戦闘の際に魔力を使用した

 

 

…と書かれても革瀬からすれば何が問題だったのかは理解しきれない。

とりあえず血と血が混ざり合ったのがまずいというくらいの印象でしかない。

彼がそう思うのも当然でティリエルでさえこの騒動がなかったら異変に気付かなかった。

 

 

「こう書いても分からないと思うから簡潔に今の現状を伝えるわ」

 

 

必死に眠気と戦っている革瀬に向かって彼女は真剣な眼差しで告げる。

 

 

「私たちの契約が別の悪魔に上書きされている状態なの」

 

 

ティリエルが契約した証である仮契約を示す呪印がグラフェルの呪印で上書きされた形となった。

なので先の戦闘におけるグラフェルは、彼女の呪印を使って革瀬を魔力増幅の触媒にしていた。

というのは、彼女の考えている事で急にそれを言われても革瀬は理解できなかった。

さきほど当事者以外は契約に介入できないと説明されていたからである。

 

 

「でも、さっき契約は当事者以外介入できないって…」

「あんた、宝くじを当てるより奇跡的な確率で二重契約をしたってわけよ」

「マジで?」

「おかげさまで私の都合で解約できなくなったの。はぁーついてない…」

 

 

お絵かきソフトで例えると下書きのレイヤーの上に正書のレイヤー(透明)がある状態だった。

ティリエルは、下書きのレイヤーの時点で満足してしまいそのままデータを保存しようとした。

ところが誤ってグラフェルの書いた正書のレイヤーが紛れ込んでしまった。

この時点では下書き(仮契約)が重要なので正書(本契約)のレイヤー(呪印)を消せば問題なかった。

 

 

「あの馬鹿が紋章使い相手に全力を出そうとしなければこうならなかったのよ…」

 

 

不運は重なるもので人間界で制限されるグラフェルが全力を出そうと魔力を放出した。

そのせいで重複状態だったレイヤー(呪印)は強制的に結合されてしまった。

ティリエルが異変に気付かなかったのは、自分の契約を上書きされたとは思わなかった事。

なにより前回は、紋章使いの放った技から逃れる為にグラフェル一行は魔界に強制帰還した。

すなわち契約者の異変が起きる前に彼が撤退したせいで異常に気付けるわけがなかったのだ。

 

 

「で?俺はどうすればいいんだ?」

「今は大人しく寝ておきなさい」

「その様子だと再発の対策をしたみたいだな」

「私の契約は改竄できるから私以外に魔力を付与しないように弄っておいたわ」

 

 

同じミスを再発するなどありえない。

王立士官学校を首席で卒業したティリエルはすぐに手を打っておいた。

これにより革瀬の契約が解約できなくなったこと以外は問題なくなった。

 

 

「ん?逆に言えば他者に魔力を付与できるのか?」

「武器でも生物でも…なんなら前やってたゲームにすら影響を及ぼせるわよ」

 

 

信頼できる味方に魔力を付与する“王臣紋”など色々な手段や方法が存在する。

しかし、ティリエルはこれ以上の情報は出すことは無かった。

必要に応じて最低限の知識のみを選抜して伝える彼女からすれば余計な情報であった。

 

 

「でも何の対価も無しに手取り足取り教えるほど私は優しくないの」

「今回は私のミスだからそれの関連は話すけどさ。それも今回だけよ」

 

 

説明を終えたティリエルは近くの椅子に座って足を組んでリラックスをした。

ベヘモット34柱師団が人間界に来る以上、革瀬との同居生活は終わりに近づいている。

もっとも同居が終わるだけで関係は終わらないのでどう酷使してやるか考えていた。

 

 

『どうせ碌な事を考えていないだろうな…』

 

 

身体を労わって呪印が無効化されている影響かティリエルの思念は革瀬には聴こえない。

ただ、これまでの経験から絶対碌な事を考えていないな…とは分かる。

それほど性格が最悪でプライドが高くて他者を内心で見下すのが大好きな女悪魔であった。

ニーハイとミニスカが目の保養になる外国人風お嬢様キャラではなかったら苦痛であっただろう。

 

 

『どうせ碌な事を考えていないでしょうねー。まあ多めに見てあげるけど』

 

 

ティリエルも革瀬の思念を分析し続けた結果、彼の考えは大体把握しつつある。

私が可愛いのが一番大きいというのは分かっているが、それは彼女の自尊心を満たす。

だけではなくそれと同時に老化によって自分の魅力が激減すると同意義に苛立ちすらある。

 

 

「だからやって欲しい事を1つだけ叶えてあげる。もちろんできる範囲だけどね」

 

 

ティリエルとしては魅力的な自分の一部しか把握していない革瀬に思い知らせてやろう。

そう考えてわざわざ人間の為に何かをしてやると意思表示をした。

美声で子守唄を歌ってあげてもいいし、お粥程度の料理をしてもいいし、添い寝してもいい。

とにかく自分の姿以外で魅了してもらわないとプライドが高い彼女は満足しない。

全てが魅力的と自負する以上、退けない事であった。

 

 

「ベヘモット34柱師団について教えてくれないか?」

「はあ?あんたバカ?性欲皆無のイ○ポ野郎なの?少年漫画の主人公って奴?」

 

 

あまりにも斜め上の回答を聴いたティリエルは椅子からズレ落ちそうになった。

思わず下ネタを発言してしまうほど彼女は契約者の考えが一瞬分からなくなった。

 

 

「付き合ってもいないのにイチャイチャするわけねぇだろ」

「はぁー。膝枕とか少しだけ添い寝してあげるとかやってもいいのよ?」

「逆に裏があるだろ?対価を考えるとコレが一番最適だ」

 

 

ティリエルは意図していなかったが、革瀬はこれは罠だと考えた。

彼女にとってメリットがないのでむしろ何かあると考えた。

パフパフとか膝枕とか要求すれば、相応の対価が求められると怪しんだ。

高利貸しが甘い審査で金を貸す代わりに法外な利息をふっかけるのと似ていると感じたのであった。

 

 

『ああ、革瀬ってそういう奴だったわ。このティリエル様がこんな些細なミスを犯すなんて…』

 

 

良く考えたら1室をわざわざ壁で区切ってるほど革瀬は自分に配慮している。

そしてなによりさっきから自分の発言を覚えており、それに関して指摘してくる。

本能を規則や法律で抑えている男に何を言っても動かないだろう。

そう考えたティリエルは、彼の望み通りに所属している組織について語り出す。

 

 

「ベヘモット34柱師団はね。ベヘモット様に心酔した34名の家臣によって創設された組織なの」

「あくまでも『団長の為の護衛師団』って事で厳密にはベヘモット団長は構成員ではないの」

「この国で例えると防衛省の背広組と制服組の関係だけど…ここ最近は区別が曖昧になってるわ」

 

 

ティリエル柱将が所属するベヘモット34柱師団は、魔界でも屈指の武装集団である。

今でこそ王宮直属の組織ではあるが、創設当初はベヘモットの家臣の集まりであった。

故にベヘモット34柱師団という名に反して団長は組織の構成員ではなかった。

しかし、名が独り歩きした結果、ベヘモット団長も柱師団の一員とする風潮が広まった。

 

 

「現在は、10名の柱爵と24名の柱将が指揮をする組織を団長が運用している形となってるの」

「柱爵は、2名もしくは3名の柱将を配下としていて事実上トップの副団長も所属してるわ」

「私の第一目標は副団長になる事、つまりその前段階として柱爵に出世しようとしているわけ」

「邪竜族の公国を再建するならその邪竜族が多く所属する組織に入るのは当然よねー」

 

 

地味に自身の最終目標を語った初の存在が革瀬だったりする。

彼女の夢は滅亡したヴァッハムート公国の再建をし、初代女公主の偉業を再現する事だ。

その前段階として邪竜族が所属しているベヘモット34柱師団の頂点に立とうとしていたのだ。

その結果、格下と思っていた人間と対等に会話するなど()()()というのは分からないものである。

 

 

「私と同格である柱将は、15名の兵士を指揮しているんだけど部外者も含めた数だったりするの」

「例えばナーガ班は、ナーガ柱爵とグラフェル、ヘカドス、その配下24名が存在するけどね」

「残りの6名は王国から呼んだ諜報員や医師などの専門職で兵員としては認識されてないの」

 

 

いくら腕っ節で評価される戦闘集団であっても、情報戦や兵站を無視する事はできない。

なので正規兵以外にも専門分野のエキスパートを師団に入団させている。

あくまでも後方要員という事で所属はしているが、兵士ではないという匙加減であった。

 

 

「見習いやお医者さんを兵士として酷使するわけにはいかんからのー」

 

 

こんな複雑になった経緯は、団長が彼らを戦場に出すのを嫌がったからこうなった。

なのでこういった人材の長は、所属している班長ではなくレイミア副団長となる。

指揮系統が無茶苦茶であるが、敵対スパイを炙り出す王国の意図が大きい。

なのでティリエルも内心では、34柱師団を正規兵で統一したいと考えている。

 

 

「これは1個班で1個大隊のような独立した活動ができるように…って聴いてる?」

 

 

他の魔王軍と違ってベヘモット34柱師団は少数精鋭をモットーとしている。

――と、ここまで説明して契約者の反応がないのに気付いたティリエルは不機嫌そうに彼を見た。

 

 

「……どうやら私の美声は、安眠効果があるようね」

 

 

そこには、疲れ切って寝落ちした男の姿があった。

いきなり組織の話をしても分かるわけがなかった。

解説をしている彼女ですらそう思っているのだからこうなるのは必然である。

 

 

「私も間抜けね。なんで人間風情に真面目に解説してるのかな…」

 

 

人間界に来てそろそろ2週間が経過しようとする彼女は人間に毒されつつあった。

いざ、34柱師団と合流して以前の様にやっていけるのかと考えるほどには追い詰められていた。

何より問題なのは…。

 

 

『仲良くなりすぎたせいか…』

 

 

ティリエルは、必要以上に石矢魔の住民と仲良くなり過ぎた。

大魔王の命令で人類を殲滅する事となっているのに情が湧いても重荷になるだけだ。

特に人間界のお化粧を教えてくれた大森や花澤を手にかける事ができるのか。

軍服を纏って自分の立場を思い出すようにしたが、それでも気が重かったのだ。

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