【ベヘモット34柱師団】お嬢様剣士ティリエルの憂鬱   作:Nera上等兵

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12話 たった1日で人生が変わる悪魔の仕草

人生というのは、たった1日で大きく環境が変わってしまう事がある。

例えば、勉強机の引き出しから青色の猫型ロボットが飛び出してくるとか。

そんな極端な例でなくても、毎日見慣れた光景でもどこかが変わっている。

 

 

「早乙女先生いらっしゃるかな…?」

 

 

黒髪ロングに清楚な大和撫子という絶滅危惧種。

県立石矢魔高校2年生の邦枝(くにえだ) (あおい)もそうであった。

連日の修行を終えて再び学校生活を迎えようとしていた。

 

 

「あれ?」

 

 

お世話になった先生に挨拶しようと職員室に向かう道中からなにかがおかしい。

石矢魔高校のトップの2人である神崎と姫川が廊下で楽しそうに雑談していた。

以前、手下を侍らせていた2人は犬猿の仲であったが、表向きな衝突はしなかった。

だが、牽制や脅迫、武力衝突するメリットがなかったからそうなっていただけだ。

故に利点もなしにああやって接触するのは非常に珍しかった。

 

 

「なんかおかしい」

 

 

今度は、“烈怒帝瑠(レッドテイル)”の総長を譲った大森寧々と神崎の部下、夏目が雑談している。

いがみ合っていた関係であったのにここまで仲良くなれるのか。

一応、バレーボール対決の件で親交を深めたが、それだけではないようだ。

 

 

「後で訊いてみましょ」

 

 

自分が居ない間に何かが起こったと実感する。

ただ、ここは平和な日常が溢れており、刻々と迫る悪魔の気配は…。

 

 

「するけどね…」

 

 

悪魔の様な強さと言われた事がある彼女だが、本物の悪魔には勝てなかった。

自分でも苦戦するのにライバルや仲間が勝てるわけがない。

友好的な侍女悪魔ヒルデガルダすら他校の不良とは比べ物にならない強さを誇る。

これでは、石矢魔女子を守るどころか自分の身すら守れない。

 

 

「寧々も由加も千秋も悪魔との戦いに巻き込むわけにはいかないわ…」

 

 

邦枝は、かつて率いて来た部下を悪魔との戦いに投入する気はなかった。

まず自分が強くならないと皆を守れないと自負するから。

武人の祖父の血を引いている彼女は、護るために更に強くなろうとしていた。

 

 

「なんだありゃ?」

 

 

そんな彼女の背中を見た男子生徒は違和感を覚えた。

小さなマスコットキャラが目隠しをされて簀巻き状態で吊るされていた。

いわば、てるてる坊主の状態だが、何故邦枝の背中にそれが付いているのか。

全く理解できなかった。

 

 

『ティリエルさん!訊きたい事が……ああ、念波会話できないんだった…』

 

 

革瀬 円泰は、念波を飛ばして契約している女悪魔に質問したが反応はなかった。

ここで呪印が無効化されているのを思い出した彼は、諦めた様に彼女を見つめた。

 

 

『あれって悪魔か?それか守護霊か?』

 

 

革瀬にとって疑問なのは、あれが悪魔なのか守護霊なのかという点だ。

悪魔と契約したおかげで霊視ができるのか単純に悪魔が憑依しているのか。

何故、これを気にしているのかというと、前者だとかなり厄介な事になる。

 

 

『やだよ。彷徨う魂を見続けるのは…』

 

 

ただでさえ不良を見るだけでうんざりするのに亡霊まで見えたら精神が擦り減る。

何が楽しくて亡霊を見続けなければならないのか。

日常という環境から外れた存在、この世の理から逸れた存在など見たくはない。

 

 

『でも、あれが守護霊なのもやだな…』

 

 

だからと言って「エクスペ○ト・パトローナム!」と唱えたらあれが出てくるのも嫌である。

石矢魔高校の4大トップの紅一点があんな雑魚っぽい守護霊を行使するのは見たくない。

吸○鬼(ディメンター)”どころか不良1人すら撃退できなさそうな感じがしてしょうがない。

 

 

『そういえばハリー○ッターの最終巻、今年出たんだよな。図書室で読んで…あるかな?』

 

 

世は2008年、石矢魔高校に入学した男鹿が4月から騒動を起こして半年以上になる。

文化祭も終わり、3年生は受験勉強も視野に入れていなければならない時期。

ハリー○ッター最終巻が発売されてから数か月経ったが、図書室にはあるだろうか。

 

 

『まあ、ないよな。って!!男鹿の奴なにやってんだ!?』

 

 

発売されて間近の為、図書室にはないだろうな…と革瀬は考えた。

そんなくだらない事を考えていると、ベル坊が男鹿を抱えて廊下を走っていった。

赤子に男子高校生を持ち上げさせて走らせるなどと児童虐待としかいいようがない。

まあ、赤子と男鹿の意識が入れ替わっているせいなんですがね初見さん。

どちらにしろ、赤子のスペックで男子高校生を持ちあげられるのは凄い事であるが。

 

 

『アホらしい。ほっとくか』

 

 

女悪魔ティリエルのおかげで男鹿の取り巻く事情は分かった。

下手に関われば、古市のように巻き込まれるのは間違いない。

なので無視をして教室に向かった。

 

 

「おい革瀬、聞いたか?」

「なにが?」

「悪魔野学園という学校と全面戦争するらしいぞ」

「聴いたことが無い学校だな」

 

 

教卓の上にある名簿を手に取った革瀬はクラスメートから話しかけられた。

思いっきりベヘモット34柱師団と対決するのは知れ渡っているようだ。

名無しのモブですらこうなのだから、下手すれば聖石矢魔学園にも知られているかもしれない。

 

 

「それとお前のとこのバイト先、潰れたそうだぞ」

「なんで?」

「店長とバイトリーダーが女子中学生に手を出したそうだ」

「へえ、あの店長がね…」

 

 

ついでにとんでもない情報が飛び込んできた。

ハゲ店長は職人肌の頑固な性格であったが、案外むっつりだったのか。

それとも性犯罪者が頑固オヤジのフリをしていたのか。

どちらにしろ新しいバイト先を探さねばならない。

 

 

「オレらも見回りした方がいいのかな?」

「警察に任せればいいじゃん。むしろ俺らが職務質問されるぞ?」

「それもそうだな」

 

 

石矢魔といえば、不良とチンピラが名産物である。

間違っても性犯罪者を輩出する様な場所では無かった。

やはり石矢魔高校が無くなった影響で小物が動き回っているのだろうか。

そう考えた革瀬は室内を見まわしつつ名簿にチェックを入れていく。

 

 

『……なんだ?』

 

 

突然、ピリッと電流が身体に流れた様な違和感を覚えた。

【何か】がこの学校にいるらしい。

少年漫画の主人公ならすぐさま現場に直行するであろう。

 

 

『どうせ男鹿だろ』

 

 

しかし、革瀬は男鹿が『またなんかやらかした』と思って無視をした。

昨日は死にかけた以上、今日はゆっくり休む予定だ。

 

 

「革瀬、東条さんにチェックを入れてくれ」

「陣野先輩、居ない人にチェックは入れらないですよ。ここは聖石矢魔ですよ?」

「わかってる。だが、今日が欠席だと卒業が危うくなるんだ」

 

 

黒髪を後ろに結んで眼鏡をかけた男が革瀬に名簿のチェックを入れる様に告げた。

インテリの雰囲気を漂わせながら無理難題を告げたのは、陣野かおりである。

数少ない東条派の3年生で成績トップで革瀬もお世話になっている。

さすがにそれは無理だと革瀬は反論するが、陣野は本気であった。

 

 

「……学園側の先公は3時間目からなので、それまでに来る様に伝えてくださいよ?」

「たすかる」

 

 

東条英虎に次ぐ強さがある男に威圧された革瀬は折れた。

不良の頂点を集めたこのクラスの科目を担当する教師は基本的に石矢魔の先生である。

学園側の先生では対処できないと判断された故にこのような状態となった。

石矢魔側の先生なら誤魔化せると判断した革瀬はしぶしぶチェックを入れる。

 

 

「ところで革瀬、リストバンドをするとは珍しいな」

「ハハハ、気付いちゃいましたか。ちょっとお洒落をしてみました」

「別に構わんが、右腕には付けないのか?」

「これは1つで正解らしいのでこうしています」

「そうか」

 

 

優等生の陣野は、瞬時に革瀬の違和感を見抜いた。

彼は悪魔と契約を交わした証である【呪印】を隠すリストバンドを指摘した。

これに焦った革瀬は適当に言い訳して話を流そうとする。

 

 

「まあ、頑張れよ」

「ありがとうございます」

 

 

陣野は目的を達成したのでそれについて追及をする事はなく自分の席に戻った。

冷や汗を掻いた革瀬だが、これには理由がある。

何故ならこの学校に悪魔関係者が最低でも2名居ると分かっているからだ。

 

 

「よお、革瀬!その様子だと元気そうだな!」

「神崎先輩も爆発事件に巻き込まれたと聴きましたが、すごいですね」

「あたりめぇよ!!この神崎さんがあの程度でくたばる男じゃねぇよ」

 

 

神崎から話しかけられた革瀬は無難な会話をした。

正直、昨日の記憶が曖昧なのでこう返答するしかなかった。

 

 

「フン、てめぇは何もしてねぇ癖に」

「なんだと姫川!?マンションがぶっ飛んだ割には元気そうだな!?」

「ほとんどタダで手に入れたもんだからな。問題ねぇよ」

 

 

一方、リーゼント頭が特徴の姫川は神崎を煽った。

煽られた神崎からの質問を返答した内容が凄まじい金持ち発言であった。

これには、この場に居る全員がドン引きした。

 

 

「そろそろホームルームが始まりますよ!!席につきましょうよ!」

「ん?古市居たのか?」

 

 

そしたら何故か古市が存在感をアピールする様に発言した。

自然に会話に混ざろうするようであったがこれは悪手である。

さっき確認した時には居なかったせいで革瀬は本音を告げた。

 

 

「うわ、ロリコンが来やがった」

「おめぇの面の厚さだけは感心するぜ」

「全くだ、さすが男鹿の腰巾着野郎」

「あれが噂の…」

 

 

古市がラミアをパンツ一丁で押し倒した事件は皆にも伝わっていた。

ついでに革瀬のバイト先の店長が性犯罪で捕まったという件もあり…。

古市貴之の評価は底辺まで落ち込んでいた。

 

 

「男鹿ああああああああああああ!!!」

 

 

あまりにも目線が痛かったのか古市は謎の奇声を発して廊下へ飛び出していった。

ついさっきホームルームが始まるから席に付けと言った男の行動ではない。

 

 

「売れないリアクション芸人並みに忙しい奴だな」

 

 

呆れた革瀬は、古市と男鹿の欄にチェックを入れた。

その後、神崎と男鹿がトラブルを起こしたが、ボヤ騒ぎ程度に収まった。

それ以外に問題らしき事は起こらず無事に授業を終えた。

 

 

「さて、バイト先どうしようかな?」

 

 

古市が悪魔に命を狙われるより新たなバイト先を探す方が大事だ。

なので必死にバイト先を探す革瀬だったが、良い所が見つからなかった。

お坊ちゃんやお嬢ちゃんが通う学校が承認するバイトでは合わなかったのだ。

 

 

「革瀬、バイト先を探してるのか?」

「相沢先輩、ここだと良い所が見つからなくて…」

 

 

どうするかと悩んでいると「東条その部下1」と自称する相沢庄次が革瀬に絡んだ。

サングラスが印象的な彼であるが、意外と学力は高い。

革瀬も何かバイト情報をくれるのかと期待し、返答をした。

 

 

「それなら東条さんのバイト先とかどうよ?校舎を作るというやつ」

「放課後だとほとんど終わってませんか?」

「いや、急ピッチで作っているみたいでさ。内装工事ならいつでもやってるってよ」

 

 

相沢先輩が提案したのは、東条先輩のバイト先であった。

今年の夏に全壊した石矢魔高校の校舎の工事であるが急ぎで作っているらしい。

よっぽど他校で番長をやる連中が100人単位収められる箱庭を作りたいのか。

内装工事ならいくらでも仕事があるらしい。

 

 

「相沢先輩ありがとうございます。それにします」

「おう!東条さんに逢ったらよろしく言ってくれ!」

「はい!分かりました!」

 

 

人手不足の建設業界でフルで稼働させるところなら給料は良いだろう。

それにブラックではあるが、県立高校なので一応、大手ゼネコンに発注しているはず。

そう考えた革瀬は、相沢先輩の提案に乗る事にした。

 

 

『…でも、ここまで早く完成させるものなのか?』

 

 

先日まで工事していた石矢魔総合病院の別棟は完成まで6年かかっている。

単純な比較はできないとはいえ内装工事があるなら基礎工事は終わっている。

本当に基礎工事ができているのか疑問に思える完成速度である。

 

 

『まあ、適当に作ってもいいだろうな。どうせ壊れるし…』

 

 

普通だったらK県の工事監査にツッコミが入るはずだが普通の高校ではない。

むしろ、手を抜いて作らないと東京都の税収があっても大赤字になりかねない。

それほど備品が良く壊れるのでこうなっていると革瀬は勝手に決めつけた。

相沢先輩に手を振って別れた後、彼はアパートに帰る事にした。

 

 

「ティリエルさん!!携帯電話を使わせてくれないか?」

 

 

やはり連絡を取るとするなら携帯電話である。

公衆電話でもいいが、それだと適時に連絡が取れない。

アパートに戻った革瀬は、仮設ドアをノックしてティリエルに呼び掛けた。

 

 

「相変わらず無駄に頑丈ね」

「だって借金を返さないといけないし…」

「じゃあ私も返すわ」

「え?」

 

 

呆れた様に出て来たティリエルは、革瀬の言い分を聞いて野口5枚(5千円)を渡した。

いきなり渡されて困惑する彼を見て彼女は念を押すように口を開く。

 

 

「今日のバイトの分よ。日給だから入り次第、あんたに返済するわ」

「悪魔なのにやけに律儀に返済…」

「一応、お世話になってるからね。これ以上借りを作りたくないだけよ」

 

 

個人情報がないティリエルは、革瀬の携帯電話だけが身分証明になる。

なので彼から借りており、ようやくバイト代で返済する事ができた。

 

 

「はい、携帯。知らない番号が掛かってきたら迷惑電話に入れておいて」

「いいのか?バイト先の番号だけは「決して出ないでね」…分かった」

 

 

金髪のお嬢様であるティリエルは、歩くだけで通行人から視線を集めるほど人気だ。

なんならバイト先で口説かれたり連絡先を何度も訊かれたに違いない。

やけにバイト先を伏せようとする彼女のやり方に革瀬は察するしかなかった。

 

 

「とりあえずお疲れ様。何かこれで買ってこようか?」

「そうね、気分展開がしたいから同行してもらってもいいかしら?」

 

 

彼女を労わろうとした革瀬の意図に反してティリエルは外出をしたいようだ。

どうして夜に出歩かないといけないのか彼は疑問であった。

 

 

「夜間の街はあまり詳しくないが、それでもいいか?」

「別に構わないわ。少なくとも口説かれる事はないからね」

「じゃあ、行くか」

「お願い」

 

 

やっぱり口説かれたな…と革瀬は考えつつも、彼女に同行する事にした。

私服を着ていても、その魅力的な肉体は隠す事は出来ない。

彼氏持ちですー!とアピールして下半身で動く獣を牽制するつもりであろう。

逆に不良に絡まれる確率が上がるような気がしなくもないが。

 

 

「いざ出発ー!」

 

 

能天気に発言をするティリエルだが、本性は別にある。

なにか企んでいると見抜きつつ革瀬は彼女と共に夜の街へと飛び出した。

 

 

「……で、早乙女先生から何か言われたの?」

「別に何も言われてないが…」

「ならよかった。まだ気付かれるわけにはいかないからねー」

 

 

ティリエルが警戒しているのは、【紋章使い(スペルマスター)】である。

既に革瀬が通う学校にそいつが居ると把握しつつあった。

しかし、ベヘモット団長に居場所を伝えるつもりはなかった。

何故ならあのクソジジイはそれを知ると追加命令を下すと分かり切っているからだ。

 

 

「あっ革瀬にティターニアさん!こんな時間にデートっスか?」

「やめなさい由加」

 

 

そんな雑談をしていると大森寧々とパー子こと花澤由加に遭遇した。

パー子が2人の関係を弄るが、それを見かねた寧々が注意していた。

 

 

『ああ、人間と付き合っている事にされたらティリエルは怒るよな…』

 

 

邪竜族のエリート中のエリートである彼女は異様にプライドが高い。

なので人間程度と付き合っていると評価されたら激怒しているに違いない。

そう思って彼は彼女の顔を見た。

 

 

「ん?」

 

 

だが、予想に反して彼女はそこまで怒っていないようだ。

呪印の機能を停止しているせいか、思念が分からず意図がさっぱりわからない。

 

 

「で?ホントのところはどうなの?ティターニアさんって他校の生徒でしょ?」

「そうっスよ!!革瀬とティターニアさんってどんな関係なんですか?」

 

 

革瀬がティリエルの思念を分析している間に追撃を喰らう羽目になった。

何て答えようかと沈黙を続ける革瀬だったが…。

ティリエルの目が「キラン」と光った様な気がした。

 

 

「おい…待て」

「革瀬とは結婚を前提にお付き合いさせて頂いておりますわ」

 

 

嫌な予感がした革瀬は口封じしようとしたが遅かった。

ティリエルは女不良たちに向かって爆弾発言をぶつけた。

 

 

『ティリエル!!この!!絶対に反応を楽しんでるな…!!』

 

 

見える、見えるぞ。

内心では、m9(^Д^)プギャーと指して大笑いしているティリエルの姿が。

革瀬の羞恥心と女不良の反応を見る為にわざとやらかしやがった!

女悪魔は、絶対に結婚する気がないにも関わらずあえてやらかした。

ストレス発散で契約者を弄る為にカップル関係すら偽って来たのだ。

 

 

「な、なんかとんでもない事が起こった気がする!!」

 

 

同時刻、自宅の洋式便器で用を足す古市は直感で感じ取った。

ニュータイプのように「ピキーン」という効果音が確かに聴こえたのだ。

 

 

「どうかされましたか古市殿!?」

「トイレの個室に入って来るな!!」

 

 

すぐさま反応を示した彼は、扉を開けたアランドロンにツッコミを入れる羽目になった。

なお、当のおっさんは頬を赤く染めてモジモジとしている。

いや、マジでキモいから本気で止めてくれ。

 

 

「大丈夫です!!ここは絶対に死守してみせます!!」

「その前に扉を閉めろや!!」

 

 

その直後、この光景を家族に見られて古市は悪評が増える事となった。

「なんでだよ!!」と古市は叫びたくなるが、お約束であるから仕方がない。

既婚者のおっさんと男子高校生のCPの需要なんて限られるので話を元に戻す。

 

 

「私は16歳だから結婚できるのに革瀬は律儀に18歳じゃないと結婚できないって…」

「ティターニアさん、マジで止めてくれ…」

 

 

「自分は16歳で結婚できるのに」と述べる*1 ティリエルを革瀬は本気で黙らせたかった。

しかし、そんな事をすれば返り討ちになるのは目に見えている。

彼は、拳を震えさせて怒りをアピールするしかできなかった。

 

 

「同居は?同居はしているの!?」

「もちろん!!でも、革瀬ったらさ。一度も手を出して来ないの」

 

 

やたらと喰らい付く大森寧々にティリエルはどんどん餌を与えていく。

これで翌日、学校に行けばその話題に大盛り上がりになっているに違いない。

パー子に至っては、顔を真っ赤にしてオーバーヒートで機能停止している状態だ。

明日の事を考えた革瀬は本気でうんざりした。

 

 

「やっぱり入浴している場合じゃない気がする!!」

 

 

一方、古市は濃厚なラブコメの匂いを感じ取ったのか風呂から飛び出そうと扉を開く。

 

 

「イヤン!古市殿のエッチ!!」

 

 

更衣所の前には、何故かパンツ一丁のアランドロンが佇んでいた!!

全裸の古市を見て慌てて両手で自分の顔を隠したが、その指は隙間だらけであった。

 

 

「てめぇ!!そこ退け!!オレは行かないといけない所があるんだァ!!」

「ベッドに行くなんて古市殿も大胆ですなぁ」

「ぶざけんなァ!!なんでオレは、このおっさんなんだよ!!」

 

 

すぐさま着替えて夜の街に飛び出さなければならない。

いや、全国に居るネット民(陰キャラ)の意志を継いでこのラブコメ展開を潰さなければ!!

なのにおっさんに邪魔されて古市は激怒した!!

 

 

「お兄ちゃんうるさい!!…えっ!?」

 

 

そんな大声を出しているもんだから妹のほのかが出て来てしまった。

当然、全裸の古市とパンツ一丁のおっさんを目撃してしまうわけで。

 

 

「ママ!!パパ!!お兄ちゃんとおっさんがー!!」

「ほのかー!!カームバック!!いや着替えるまで待って!!お願いします!!」

 

 

妹の名を呼ぶが時遅し、古市は弁明に時間をかけてしまった。

おっさんとの関係を古市は全力で否定するが、おっさんはノリノリである。

同じ悪魔で同居している関係でノリノリなのにここまで差が出てしまった。

古市と革瀬、どうして差がついたのか…慢心、環境の違い。

 

 

「ねぇ見た見た?さっきの女子たちの反応!!笑いを堪えるのが大変だったわー」

「へぇーそうですね」

「アハハハハッ!!良いわその顔。サイコーね!」

 

 

アランドロンは本気で古市を愛しているが、ティリエルは革瀬を愛していない。

現に顔を真っ赤にした女子たちと別れた瞬間、彼女は本性を現した。

不貞腐れて返事が適当な革瀬の反応も含めて彼女は、大笑いをしている。

さきほど言った事は、事実を交えつつも、本気で革瀬と結ばれる気はない。

あくまでも、男除けとして発言をしたつもりである。

 

 

「気が済んだか?」

「今夜は熟睡できそうで結構、帰りましょ」

 

 

やっぱり碌な事を引き起こさないな悪魔という奴は!

絶対にこいつをギャフンと言わせたい。

ただ、それはどうすればいいのか革瀬の中で答えは出なかった。

とりあえず女悪魔に誘導されてアパートに戻ろうとした。

 

 

「……なんか女の声がしなかったか?」

 

 

そしたら路地裏から助けを求める女の声が聴こえた気がした。

なので革瀬はティリエルに同じように聴こえたのか尋ねた。

 

 

「確かに()()()()()()()()()()()()()()()がするわね」

「悪魔憑き?」

「悪魔に憑依された人間の事よ。亡霊に乗っ取られたといえば分かりやすいかしら?」

 

 

すると、ティリエルは既に把握しているようでわかりやすい返答を繰り出した。

彼女からすれば、あまりにも格下過ぎて認識すらしたくないほどの存在のようだ。

現に革瀬に簡潔な解説をした後、そのまま無視をして歩いていく。

 

 

「悪魔と契約するのと憑依されるのとどう違うんだ?男鹿の合体と同じじゃないのか?」

 

 

革瀬としては、男鹿とベル坊の合体との違いが分からない。

悪魔は人間を触媒にして魔力を増幅させるというのは知っている。

昨日は、ベル坊と合体した男鹿が大暴れしたのであれも憑依の一種のはずである。

なので、通常の契約との差が分からず、ティリエルに違いを訊ねた。

 

 

「そうね、『魔が差した』っていう単語を聴いたことは無い?」

「カンニングしたとかー盗撮したとか、一過性や出来心で動いた奴が言う事だな」

「正解!文字通り悪魔が心に入り込んだ状況を指すのよ。日本語っていいわよねー」

 

 

ティリエルの返答は、解答に見えて全然違った。

地味に表意文字と表音文字の混ざった日本語を褒めているが、解答になっていない。

これだと、意識が半日間も入れ替わっていた男鹿も悪魔憑きになる。

そう告げようとした革瀬より先にティリエルは話を続ける。

 

 

「下級悪魔っていうのはね。実体が存在しないの」

「魔素という成分から魔力を抽出しないと生きられないほど非力な存在」

「でも魔素が強いと逆に魔素に分解されるほど貧弱な思念体」

「故に誰かのおこぼれを狙わないと存在できないほどの悪魔の面汚しね」

 

 

さきほどとは打って変わってティリエルは本気で下級悪魔を見下した。

人間を見下している彼女だが、ここまで不快感を露わにすることは無かった。

 

 

「その中でも最底辺は、人間の邪心にしか寄生できない」

「唯一の成長手段は、人間が発する絶望の感情を喰らうしかないの」

「だから彼らは、寄生した人間が破滅するその瞬間まで憑依する」

生魑魅(いきすだま)*2でも亡霊でもない半端物、理から拒絶されるべき存在」

「ああ、そう。滅ぼすべき存在。でもこのティリエル様が自ら手を出すほどではないの」

 

 

解説するティリエルは、少しずつ悪魔らしい表情を見せ始めた。

【七大罪】と肩を並べた上級悪魔の純血種は、捕食者としての顔を晒し出す。

いつのまにか双剣の柄を掴んでおり、抜剣状態になっていた。

 

 

「お、お願い!助けてェ!!」

 

 

「なんで抜剣しているんだ?」と革瀬が口を開こうとすると路地裏から女が出て来た。

幼さが微かに残るOLが衣服が乱れた状態で泣きながら助けを求めて来た。

きっと性犯罪者から必死に逃れて来たのだろう。

もうじき冬という季節にも関わらず額には脂汗を掻いており、過呼吸になっている。

そんな悲痛な想いはティリエルには届くことは無い。

 

 

「え?」

 

 

革瀬は見間違いだと思った。

漫画のワンシーンである「やべーぞレ○プだ!」画像を思い浮かべる光景のはずだった。

間違ってもティリエルが助けを求めて来たOLの首を刎ねるはずはない。

 

 

「おい…」

 

 

この時、革瀬の頭脳処理は以下の通りであった。

 

1.ティリエルが助けを求めた女の首を刎ねる光景が視覚によって頭脳に届く

 

2.明らかにおかしい情報なので頭脳が再確認を要求する

 

3.頭脳からの指示が届いて再び現場を目視確認する

 

4.やっぱり殺人してるじゃないですかヤダー

 

 

首が刎ねられた女の胴体は鮮血を凄まじい勢いで噴出しながら地面を赤色に染めていく。

これを見て殺人してませんと判断する奴はどれだけいるのだろうか。

 

 

「だから見逃してやったのに悪魔憑き!わざわざ喧嘩を売って来るとはね」

「力を手に入れたから調子に乗ったの?アハハハハ!マヌケね!!」

 

 

OLの首が地面に激突すると同時に黒色の糸のような物体に変化した。

それと同時に首が無い胴体と血痕も黒色に変化した。

そう、助けを求めて来た女は魔力で生み出された紛い物であった。

 

 

「何故分かった?」

「匂うのよ。ドブ未満の臭い下級悪魔の匂いがね」

 

 

続けて出てきたのは、眼鏡をした真面目そうなサラリーマンであった。

ここでようやくさっきの女は作り物だったと革瀬は気付く事ができた。

悪魔憑きは、一発でバレるとは想定していなかったようで質問してくる。

それに対してのティリエルの返答は、完全に見下しての発言だった。

 

 

「まあいい。お前たちも私の糧になってもらうぞ」

 

 

悪魔憑きらしき男が発言したと同時に複数の男たちが周りを囲み始めた。

その辺に居る不良とは訳が違う。

明らかに人外のような気配を発しており、なにやら身体からモヤが噴出している。

 

 

「下級悪魔の底辺が、誰に喧嘩を売ってるの?」

 

 

囲まれたにも関わらずティリエルは、下級悪魔を見下していた。

いや、歯牙にもかけない存在だったせいなのか慢心どころか隙だらけだった。

 

 

「いいわ、教えてあげる。上級悪魔に喧嘩を売った代償をねぇ!!」

 

 

この日、革瀬 円泰は、上級悪魔と下級悪魔の実力差を垣間見る事となる。

そして男鹿辰巳が育てている赤子はどれほどの存在なのか同時に知る事となった。

 

*1
作中は2008年です。2022年の民法改正で女性も18歳以上じゃないと結婚できなくなりました

*2
生きている人の怨霊。ここでは生者の魂を示す

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