【ベヘモット34柱師団】お嬢様剣士ティリエルの憂鬱 作:Nera上等兵
上級悪魔であるティリエルは、人間界で酷い目に遭い続けた。
特にこの石矢魔という地域は、不良やチンピラがやたらと喧嘩を売って来るからだ。
『下等生物が…ここで仕留めてもいいのよ!』
そのせいか、前情報以上に人間を見下しており、何度も殺すかと考えた。
それを実行しないのは、任務を優先するのもあったが…。
『どうせ1人殺したところで変わらないし、むしろ面倒になるのよねー』
「殺すまでもない」の一言に尽きる。
家でゴキブリが出たら潰すが、わざわざ自然公園に行って潰しにいくつもりはない。
…なのだが、その自然公園で寝泊りしているのでいくらでもゴキブリが湧くというわけだ。
ならば、目の前に居るゴキブリを潰せば良いのかと言われればそうではない。
「下級悪魔の底辺が、誰に喧嘩を売ってるの?」
だが、目の前にいる小物は仕留めると決めた。
それほどの愚業を下級悪魔はしでかしたのだ。
「いいわ、教えてあげる。上級悪魔に喧嘩を売った代償をねぇ!!」
悪魔における階級の差は、人類が考えるよりも深刻である。
とある上級悪魔が
比喩では無くそれほどの実力差があるのだ。
故にティリエルは、上級悪魔の中でも両手で数えられる最高位の強さを見せると断言する。
「じょ、上級悪魔!?」
それに焦ったのが悪魔憑きのサラリーマンである。
アリアハン周辺でレベリングしていたらキラーマジンガと遭遇したような状況だった。
「な、なんで!?」
「あんたみたいに堂々と暴れるわけにはいかないからよ」
これは、人間界に潜伏する為にティリエルは魔力を一切放出していなかったのに起因する。
つまり、ただのお嬢さまキャラと侮ったら裏ダンジョンの雑魚敵だったというわけだ。
慌てて悪魔憑きは、取り巻きに指示を下す。
「おいお前ら!!…って瞬殺されてる!?」
自分では絶対に上級悪魔に勝てないので取り巻きをぶつける事にした。
しかし、彼が指示を下した時点で全滅していた。
しかも、女悪魔ではなくその辺の男性に瞬殺されて地面に転がっていた。
「アハハハハ!さっきの勢いはどうしたの?ま、さ、か、逃げようだなんて思ってないわよね?」
「い、意外と弱かった…。てっきりめちゃくちゃ強いのかと…」
悪魔の力を得た集団に警戒していた革瀬だったが…。
何故か棒立ちで「あれ?こいつら弱くねぇ?」と感じてぶん殴ったら本当に弱かった。
病み上がりである不良のワンパンで全員を一発ノックアウトしてしまった。
「お、お前!暴行罪だぞ!?」
「この石矢魔で何言ってんだこいつ」
「いいのよ、どうせ小物なんだから」
自分が注意を惹いている間に契約者が敵勢力を瞬殺してご満悦なティリエル様。
淑女のように微笑む裏には、想像を絶する悪魔としての傲慢さと過激さを兼ね備える。
残った下級悪魔をどうやって惨たらしく殺してやろうか考えていた。
「それは銃刀法違反だ!!警察を呼ぶぞ!!」
ついにティリエルの所持している双剣を指差して豪語する悪魔憑き。
常識が通用しない石矢魔で真面目な反応を示した。
というかこいつ敵だよね?
彼は慌ててガラケーを取り出して通報しようとしたが遅すぎた。
「ぐぎゃ!?」
ティリエルの一振りでガラケーをジャンク品にジョブチェンジさせられた悪魔憑き。
辛うじて攻撃を回避したものの明らかに肉体のスペックの差を実感する。
「いいのか!?殺すとお前も警察にマークされるぞ!?」
「何を今更?」
万策尽きた下級悪魔が上級悪魔に命乞いをする。
あまりにも滑稽な話ではあるが、魔界ではよくある事である。
人間である事を盾にする悪魔憑きであったが、職業軍人には通用しない。
「やめて!!お父さんを殺さないで!!お父さんは私がァ!?」
路地裏から6歳ほどの少女が父親を庇うように飛び出してきた。
それを見たティリエルは、泣き叫ぶ少女の首を刎ねた。
彼女の瞳には迷いはない。
「なに?さっきから同情を買って欲しいの?キモいんだけど」
少女だった亡骸は魔力となり空中へと飛散していくのを悪魔憑きは呆然と見つめる。
あまりにも女の子に似せすぎたせいで戦闘能力など皆無に等しい。
男鹿辰巳や東条英虎を騙すには効率が良い手段ではあるが…相手が悪すぎた。
「ひ、ひいい…」
アリアハン周辺で数時間レベリングしただけでキラーマジンガに勝てるわけがなかった。
新たな命乞いをしようとする悪魔憑きが最後に見たのは、口角を上げた女悪魔の姿であった。
「死んだのか?」
「下級悪魔は死んだわ。こいつは社会的に死ぬでしょうけどまだ生きてるわ」
一部始終を見ていた革瀬は、あまりにもあっさりとした幕切れに違和感があった。
さきほど契約した悪魔が暴れまわっていたが、最後の攻撃だけは手加減に見えたのだ。
なので質問してみると人間だけは見逃したようだ。
ただ、警察にマークされていると自白したので社会的な破滅は免れないだろう。
「悪魔憑きってもっと強いイメージがあるんだが…」
「言ったでしょ。こいつは小物界でも格下なのに大物ぶったアホってだけよ」
「そんなに弱いのか?」
「第二王子が近づいて来ただけで跡形も無く弾け飛ぶくらいには弱いわね」
「え?」
ついでに男鹿辰巳がこういう騒動に巻き込まれない理由が判明した。
大魔王の次男であるベル坊はその存在だけで下級悪魔を昇天させる事ができるらしい。
まあ、男鹿に絡む不良の中に悪魔憑きが交ざっており普通にぶっ飛ばされてるだけかもしれんが。
「魔界の悪魔には序列があってさ。差があり過ぎると下級悪魔は強制的に死ぬの」
「カースト制とは比較できないほどの格差だな…」
藍染惣〇介は霊圧が強すぎて接近しただけで人間を消滅させてしまう現象のようなものか。
漫画の知識で大体理解した革瀬は特に異論は唱えなかった。
「大した事に感じられなかったのは能力を幻覚と幻聴に特化したのもあるわ」
「さっきのOLや少女みたいに?」
「そう、わざわざ小手先だけ鍛えたせいで自身の存在力を疎かにしたってワケ」
某念能力漫画の「メモリーの無駄使い」と発言したピエロ野郎を思い出す。
あれは文字通り、専門外の分野を複数特化させたせいで逆に弱くなった現象だ。
戦士を無理やり魔法戦士として運用するような愚能という感じで考えればいいだろう。
「なにより上級悪魔の五感に影響させようとしたのは許せなかったの…!」
「それが本音か」
大魔王の配下の手下に“おおがらす”が喧嘩を売ったようなものだ。
ドラクエのスライムだったらマスコットキャラとして放置されたかもしれない。
だが、現実は非情である。
「もう許さない!!34柱師団総出で下級悪魔を掃討させるわ!!」
「よっぽど屈辱だったのか…」
某死神代行のように下級悪魔との闘いの日々にならないようだ。
予想以上に激高しているティリエルは通信機を取り出して本隊と連絡を取ろうとしている。
もうじき石矢魔に住む下級悪魔たちは恐怖のどん底に突き落とされる事になるだろう。
『よく考えれば、人類を滅ぼす予行練習じゃねぇかなコレ?』
ベヘモット34柱師団は、大魔王により人類を滅ぼせと仰せつかった主君“焔王”の手下である。
今は他人事で言えるが、彼の手によって人類を滅ぼされる未来は近い。
2012年にマヤ文明の長期暦の1つが区切りを迎えるのでその年に滅ぼされるかもしれない。
「嬢ちゃん、その通信機を下ろしてくれないかな?それと抵抗しないと助かる」
突然、男の声と共に得体のしれない気配を感じた。
慌てて革瀬とティリエルが声がした方に振り向くと無精髭のおっさんが居た。
街灯に照らされたその姿は、革瀬にとって忘れられない光景となった。
「
「こいつが…」
担任の姿を見て驚愕した革瀬が呟いた一言によってティリエルは彼の正体に気付いた。
ナーガ班を妨害して第二王子契約者の窮地を救った
いや、大魔王の兄上と契約をした“大戦の覇者”と言うべき存在。
彼女としては絶対に遭遇したくない存在が目の前に居る。
「……分かったわ」
「いやー助かるね。うちの弟子たちと違って素直でよろしい」
大人しく通信機を地面に置いて両手を挙げるティリエル。
さっきと違ってやたらと素直なのは理由があるのだろう。
例えば大魔王の親族とか……と革瀬は他人事に感じていた。
「ヤンチャをするバカをしつけようと来たらとんだ蛇がいたもんだ」
「さっきの魔力といい、何者だ嬢ちゃん?」
下級悪魔が周辺で悪さをしていると知った早乙女は現場に直行した。
ところが、そこで見たのは明らかに上級悪魔の金髪ボイン娘が暴れていた。
返答によっては、石矢魔が火の海に沈むと感じつつも見逃す事などできなかった。
「…ベヘモット34柱師団、第19の柱、ティリエルと申します。さきほど小物を討伐してました」
観念したかのように身分と名前、行動を簡潔に述べるティリエルだが、警戒は解いていない。
すぐさま逃げられるように周囲を見て退路を模索していた。
「そろそろ誰かが来るかと思ったが、まさかこんなボイン娘がそうだとはね…」
早乙女禅十郎は、魔界の悪魔が人間界に侵入しているのは知っていた。
以前、ベヘモットの手下にチョッカイを出したせいでマークされているのも気付いている。
なので次に遭遇するのは【柱爵クラス】かと警戒はしていた。
しかし予想に反してお嬢様キャラを演じる女悪魔が来るとは予想外だった。
「我々は大魔王の勅令を受けた第一王子の命を受けて行動をしておりますわ」
「もし干渉されるのであれば、再び【王位継承戦争】をするという事でよろしいのでしょうか?」
ティリエルは戦闘を避けたいのでわざわざ正体を明かした上で面倒事を持ってくる気かと述べる。
これは、早乙女にとって辛い過去と出来事を思い出させる事で自分に介入させないようにした。
すなわちティリエルと戦闘すれば、王宮を巻き込んだ壮大な戦争になると告げていた。
「いやいや、オレは王位継承戦争なんて仕掛けるつもりはない」
「ならば、第二王子の契約者を救ったのは何故?身内でもないのに介入したでしょう?」
「あいつはオレの生徒だからだ。教師として当然の務めを果たしたまでよ」
早乙女としても、女悪魔をどうにかして撃退しようと試みていた。
コイツ相手だと男鹿や東条では撃退するのは難しいと考えたからだ。
だからといって自分が手を出せば、王宮が動く建前を作ってしまうのは厄介である。
「
「今回の件に関してはそうしましょう」
「いや、焔王坊ちゃんの件も含めて退いて欲しいんだがな…」
「我々にも面子がありますわ。主君に直接説得なされたら如何かしら?」
お互いに戦闘は避けたいと思っているのに退き下がれない。
地位がある連中ってこういう展開には不利だな…と革瀬はやり取りを見て思う。
彼にできることは無くどちらかが譲歩してくれるのを待つしかできない。
「ベヘモットに伝えておけ。もうちっとばかし待ってろってな」
《その必要はないぞ》
「なっ!?」
とりあえず早乙女は、悪魔たちに釘を刺す為にベヘモットの名を出した。
だが、これは悪手だった。
新たな声は地面から聴こえた。
《ふーむ、ティリエルちゃんが緊急信号を送ったから何事かと思えば…》
《早乙女殿の件となればそうなるのう》
ティリエルが落とした通信機から映像が表示される。
まるでホログラムのように出現した白髪の爺さんは早乙女を見て笑う。
「ベヘモット…!!」
早乙女先生の一言を聞いて革瀬は、彼がベヘモット団長であると理解する。
声自体はティリエルの通信で聴こえていたが実際、姿を見るのは初めてである。
『うわ…亀○人みたいなお爺ちゃんだな』
第一印象は、橙色の玉を7個集める漫画に出て来るお爺ちゃんである。
つまり、高性能じいちゃんです。お月様くらい投石で破壊できる実力がありそう。
そんな小学生並の感想を浮かべた革瀬だったが、それは間違いではない。
「くそったれ…女狐め…」
「あら、通信機を下ろせと仰せられましたのでそれに従っただけですわよ?」
苦い顔をした早乙女の愚痴にティリエルは自信満々に返答をする。
彼女自身は約束を守っており、罵倒される筋合いはないと示している。
『なんか始まったが……話の流れが掴めん』
高度な頭脳戦が繰り広げられているのは革瀬にも分かる。
だが、これがどれほどの規模なのかは分からない。
情報を整理すると大魔王の親族が大魔王の家臣と揉めている事しか分からない。
……と考えれば、非常にまずい気がする。
「まずいな、ベヘモットと逢う気はなかった」
《わしは逢いたかったがのう?ティリエルちゃんに捜索命令を下したはずじゃが?》
「なるほどフェイクというわけか。まんまと釣られちまったな…」
ここで早乙女は、そこに居る金髪ボイン娘に嵌められたのを理解した。
やけにあっさり正体をバラしたと思ったが、何のことは無い。
あの暴れ回った下級悪魔を今日まで見逃したのは自分をおびき寄せる餌。
調子こいたせいでまんまと釣られたと分かってしまった。
『むしろ、関わりたくなかったんだけど…』
なお、ティリエル本人にはそういった意図はない。
むしろ、接触を避けるためにわざわざ呪印を無効化にするほど警戒していた。
少なくとも本隊が人間界に到着するまでは接触する気などなかった。
つまり、双方とも意図せずに接触する羽目となって後悔しているのだ。
《近い内に貴公に逢いに行くとするのだが、お土産は何が欲しいのじゃ?》
「昔と比べてお茶目になったなベヘモット。そういうのはお断りしてるんだ」
《つれないのう…》
「まんまと釣られちまった奴にそれを言うか?」
ここでいう土産など碌でもないのに決まっている。
《言葉通りじゃ。貴公と戦争をする気など毛頭ない》
「人間界には宣戦布告するようだが?」
《大魔王様の勅令だからの。貴公も参戦するのか?》
悪魔と契約した以外に無関係の革瀬どころかティリエル柱将ですら蚊帳の外になっている。
ただ、一介の人間と悪魔が強大な存在との交渉をしたくないのは一致している。
バルカン半島の火薬庫よりも不安定な環境に口を出したくはない。
なので2人共、黙って教師と団長のやりとりを聴く事しかできない。
「いや、教師として生徒を守りたいだけだ」
《ほう?猪突猛進しかできなかった貴公がか…わしも歳をとるわけじゃ》
「手下3人に伝えたはずだが?」
《単純に師弟関係だと思っていたが……なるほど》
さきほどまで他人事のように話すベヘモットだったが…。
第二王子契約者の先生だと知った瞬間、純粋な笑みを浮かべた。
《ちょうど良かった。貴公が教鞭をとる学校に挨拶に行くとしよう》
「
《いやいや、文字通り挨拶だけじゃ。戦争する気など無いと言っているだろう?》
話の流れがまずい事になって来た。
少なくともティリエルはそう考えて話の流れを変えようとしたが、遅かった。
《ティリエルちゃん!早乙女先生が居る学校を教えてくれないかのう?》
「くそったれ!!おいボイン娘。言うんじゃねぇぞ!」
どうする?どうするの私?どうするのこれ?
LI○E CA○DのCMのようにティリエルは手持ちのカードを切らなくてはならない。
【学校名を言う】
【学校名を言わない】
【死ぬ 現実は非情である】
元ネタは、「カードの切り方が人生だ」という話だが、今回は文字通り命に関わる。
傲慢な彼女の性格から三番目の選択肢は外れる。
【学校名を言う】
【学校名を言わない】
【死ぬ 現実は非情である】
では、どちらにするべきか。
『終わった…どう足掻いても積んでる…』
学校名を言えば、ベヘモット団長は満足するが
学校名を言わなければ、
特に後者は非常にまずい。
何故なら事実上、早乙女禅十郎の居場所を報告するのが最優先命令となっているからだ。
「聖石矢魔学園に勤めておりますわ。第二王子契約者の男鹿辰巳も通っております」
「くそったれ」
団長の命令には勝てなかったよ…。
ベヘモット34柱師団に所属する柱将である以上、団長命令に逆らえるわけがなかった。
でも、彼女はただで死ぬ気はない。
「おい?何の真似だ?」
「団長、追加命令を頂きますわ。なんなりとお申し付けくださいませ」
団長のホログラム前に降り立った彼女は双剣を構えて早乙女を見る。
団長に課せられたノルマを達成した以上、彼女は束縛から解放された。
如何せん、そのせいで即刻見捨てられても可笑しくない立場となった。
《よせティリエル。わしは挨拶をしたいだけなのじゃ》
《そうじゃ!聖石矢魔学園側と交渉してわしを出迎える準備をして欲しいのう》
そしたら更にムリゲーの命令がティリエルに下された。
『だから紋章使いの居場所を伝えたくなかったのよ!!』と内心で彼女はハンカチを噛み締める。
《特に校長先生とはじっくりお話をしたいからのー。よろしくなー》
「…承知しましたわ。すぐに手続きを……切られた」
右手の親指を突き立てたベヘモット団長は、ティリエルの返答を待たずして消えた。
残されたのは、怒り心頭である
「……との事ですので見逃して頂いてもよろしいでしょうか?」
「逃がすと思うか?」
「いえ、早乙女先生は絶対に私を見逃さないといけませんわ」
「ほう?何故だ?」
なんとか逃げようとするティリエルは頭脳をフル稼働させる。
別に交戦してもいいが、痛いのは嫌であった。
「団長は早乙女様に譲歩して人間界のしきたりに殉じて面会を希望なされておりますわ」
「そして私が交渉役に命じられた以上、希望日程、人数などは私に任命権があります」
「なので私を害すれば、
わざわざティリエルは難解な表現をして誤魔化そうとしているが…。
意訳すると「私をボコボコにしたら団長は黙ってねーよ?」と発言していた。
ぶっちゃけ、さっきの警察頼りにしていた下級悪魔と言っている事は大して変わっていない。
「そして私が把握していない情報は、あなた様のご住所のみ。この意味がお分かりですか?」
「ふん、それがどうした?」
「わざわざ接触して頂けるとは幸いでございますわねー」
「チッ!そういう事か」
最初に第二王子の契約者の住所を知っていると動揺させる。
そして自身を軟禁しようとすれば住処を感知されると暗に伝えた。
この事により、封印術以外ではティリエルを拘束するのは不可能になった。
『まあ、嘘じゃないけどね』
実際、古市や男鹿の住所は把握しているので間違いは言っていない。
が、ティリエルに発信機のような物は付いていない。
付いてあったら人間界に侵攻したナーガ班で大騒動にはならない。
「嬢ちゃんを見逃すメリットがこっちにねェんだけどな?」
「だから【連絡役としてつつみ隠さずに情報をお伝えします】と言っておりますわ」
「こっちの情報が筒抜けの状態でそれを信じろと言うのか?」
「契約は守ります。団長が学校に到来する日まで侵攻しない事を約束致します」
ティリエルが必死な口弁で誤魔化している間、革瀬は空気属性を入手した。
古市のようにツッコミ属性を得るわけにもいかない状況だった。
そして、いつの間にかティリエルと禅十郎の会話しか成り立っていない。
これには、彼女はご立腹。
『ちょっとは協力しなさい!!』
とティリエルが一言申したいのは分かるが、革瀬に打てる手はない。
よって彼ができるのは、気絶した元悪魔憑きくらいに空気になるくらいだった。
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解放されたのは、早乙女と遭遇して30分くらいが経過したくらいだった。
宿主を転々として人生をどん底に突き落とす下級悪魔を消滅させた時の勢いはない。
少なくともティリエルはアパートに帰って寝たい気持ちで一杯である。
『さて、どう発言しようかな』
下手に話しかけるとストレス発散の為の道具になりかねない。
ティリエルと契約している革瀬は、彼女のフォローをどうするか悩んでいた。
「よし、決めた」
「ん?」
「革瀬、あんたも巻き込んでやる」
「え?」
決心をしたように頷く女悪魔の一言で契約者は戦慄する。
どう足掻いても何かとんでもない事をさせられそうな予感がしたのだ。
「どうせ破滅するならあんたも巻き込んでやる…!」
「元から一蓮托生みたいなもんだからな。想定はしてる」
「なら、早乙女禅十郎の情報収集をしなさい」
一緒に地獄に堕ちるのは確定するな…と革瀬は考えていた。
何故か早乙女先生の個人情報収集を命じられてしまった。
思ったよりマシだが、疑問が先に出て来る。
「なんで?」
「悪魔は契約を守るけど約束外の事は考慮しないの。だからあそこまで交渉が難航したってワケ」
「いやいや!!」
「私を放置した苦しみを思い知りなさい」
人類を滅ぼす悪魔の尖兵となった革瀬 円泰に新たな使命が追加された。
謎に包まれた早乙女先生の個人情報収集である。
実際、早乙女禅十郎には秘密が多い。
ブラックベル坊との生活や契約している悪魔の事など指摘できるのは山ほどある。
なにより実力者であるせいか人間界も魔界にも介入しない中立な存在。
秘密が多い以上、その秘密を暴こうとして消息不明になる者は後を絶たない。
「ベヘモット団長が
「分かったなら明日から調査をしなさい」
パパラッチのように早乙女のプライバシーを踏み込めと命じられた革瀬は憂鬱となった。
せめて美しい女性の身元を…。
「変な事を考えたら処刑するからよろしくね。特に女絡みは容赦しないわよ?」
「他者の女に邪念を抱くな」と念を押された革瀬は、自由がどんどん無くなる気がした。
いつの間にか女運が消失したどころか、まともな女性と付き合える機会がなくなった気がする。
その考えが的中する事となるとは……手遅れになった時に知る事となる。