【ベヘモット34柱師団】お嬢様剣士ティリエルの憂鬱   作:Nera上等兵

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15話 次回ティリエル死す デュエルスタンバイ

「うぉおおおおっっっ!!石矢魔ふっかぁぁっつっっ!!!」

「おれ達の楽園が返って来たんだ!!」

「ううっ!!ついにこの時が…!!」

「そんな事よりおうどん食べたい」

 

 

聖石矢魔学園に創設された石矢魔高校の生徒の強制収容所じゃなかった…特別教室。

石矢魔高校の校舎が返って来るという事実は…。

授業中にも関わらず不良達は喜びの歓声で泣く者も居るほどであった。

それはもう、沖縄が日本に返還された時の日本国民の喜び具合である。

 

 

「やれやれ…うちの野郎共はアホばっかだな」

「そんな事を言って神崎君も混ざりたいんでしょ」

「バーカ、オレはあんなアホっぽくねぇよ。ああ、そうだ。あの程度で…」

 

 

【石矢魔のトップ】と自称する神崎一も石矢魔復活という報にウズウズしていた。

それを見た夏目は的を得た発言をするが、当の本人は強がって我慢している。

 

 

「よぉおおっし!!誰が最初に落書きするか決めようぜ!!」

「ジャンケンで決めるぞ!!」

 

 

どうやらジャンケンで最初に落書きをする人物を決めるようだ。

その間に他校に飛ばされた石矢魔生が落書きするとは考えない不良たちは大盛り上がりとなった。

 

 

「バカ野郎!!石矢魔のトップ、神崎さんの仕事だろうが!!」

 

 

石矢魔高校の看板に「神崎さんの」と書こうと決めている神崎は怒声を出す。

それに対して野次馬たちは、「ジャンケンで決めましょうよ」と譲らない。

乱闘になるかと思われたが、意外と素直にUN○で決める事となった。

おいジャンケンしろ。

 

 

「あの…数学の授業中なんだけど…」

 

 

その騒動で石矢魔高校特設クラスの担任だった佐渡原先生は涙目になっていた。

このグラサン先生は誰だと思ったと奴は多く居るだろう。

初手で石矢魔生徒を躾けようとしたら脅迫されるわ、電撃を浴びるわで入院していた。

なのでべるぜバブの登場人物でも空気であった。

まあ、意味ありげに登場してすぐ空気になるのは、べるぜバブあるあるの光景である。

 

 

『やべぇ…行きたくないな』

 

 

なお、石矢魔高校の新校舎は悪魔の巣窟となっている。

なので不良たちのノリに従って校舎を訪ねると、もれなく死が約束される。

契約したティリエルのおかげで事前情報がある革瀬は石矢魔高校の校舎に行くつもりは無かった。

 

 

「革瀬何やってんだよ!!お前も来いよ!!」

「えー。まだ完成してないだろ」

「だからだよ!!完成したら最初に落書きできねぇじゃん!!」

「じゃあ、行って来ればいいじゃん。俺は完成したら行くからさ」

 

 

何故か革瀬も強制連行される事となった。

それに納得できないので適当な建前で逃げようとする。

 

 

「記録係なんだから最初に聖石矢魔組が落書きしたと記録しろよ」

「ああ、なるほど」

 

 

工事現場なので門前払いされたり落書きを消させる可能性は高い。

だからこそ、落書きをした証拠が欲しいのだろう。

 

 

『見に行くだけならセーフ…か?』

 

 

まあ、まだ完成したわけじゃないので一般作業者が居る分、そんな事態は起こらないと思う。

そう考えた革瀬は、彼らに同行する事にした。

そうしないと殴られると思ったのは内緒だ。

というかバイト先である。

どうしてこうなった。

 

 

「「「サドハラ先生お世話になりました!!」」」

「いざ鎌倉!!良い国作ろう石矢魔高校!!」

Yankee go home(ヤンキー・ゴー・ホーム)!!」

合ってるのかその使い方(アメリカ人出ていけの意味じゃないのか?)?」

「オレたちヤンキーだし、合ってるんじゃね?」

 

 

意外と教師の苗字を憶えていた不良達は先公にお別れの挨拶をする。

そして挨拶を終えた不良達は、新校舎を見る為に教室から出て行った。

「あれ?なんかおかしくねぇ?」

何故、おバカな彼らが英語の一文を話せるか疑問に思った読者も居るだろう。

小学生低学年の男子にありがちな他国の罵倒用語を覚えようとするアレである。

なので「Fuck you(ファック・ユー)」と他国の罵倒用語を不良が話しても違和感がなくなるのだ。

 

つまり、小学生低学年並みの頭脳≒不良

Q.E.D.

 

 

「全く…せわしい奴らだ」

 

 

唯一教室に残った大財閥の御曹司、姫川竜也はくだらなそうに呟く。

銀髪のリーゼント頭は、誰もを圧倒する存在感をアピールしていた。

教師と彼以外誰も居ないので意味ないんですけどね。

 

 

「君は行かないのかい?」

 

 

グラサン先生の佐渡原は、教室に残る姫川に質問をする。

 

 

「ヘリで行く」

「もうヤダこの人たち」

 

 

突如として姫川財閥が保有する御曹司専用のヘリが教室の窓に近づいた。

降りて来た縄ハシゴを掴んだ姫川はそう呟いてヘリに乗り込む。

これを見届けた先生は本音を告げたが、誰も聴くことは無かった。

 

 

《石矢魔高校の新校舎に一番ノリするのはオレ様だ!!》

「あーずるいぞお前!!」

 

 

拡声器で地べたで張り付く虫けら共を挑発した姫川ヘリは石矢魔高校を目指して飛んでいく。

急いで後を追う不良たちと入れ替わる様に一台のタクシーが聖石矢魔学園前に停車した。

 

 

「ふむ、ここが聖石矢魔学園か」

 

 

タクシーの扉が開いて年配だが活発そうなお爺さんが聖石矢魔学園の校舎を見る。

――お忍び姿のベヘモットは、そこに居る存在を意識して口角を釣り上げた。

何の変哲もない無難な校舎であるが、それゆえに挨拶に行くには相応しい。

 

 

「それにしても、こんなに護衛はいるのかのう?」

「お忍びとはいえ王国の重臣を単独で敵地に向かわせるわけにはいきませんので…」

 

 

タクシー代を支払ったティリエルは頭を下げて元団長の質問に返答をする。

 

 

「人間界の乗り物に乗るなんて中々面白い経験だったぞ」

「くだらない。私はベヘモット様のお傍に居られればそれでいい」

 

 

ウキウキとしているボーイッシュ系のヴリトラ柱爵と裏腹な態度をするのはアナンタ柱爵である。

彼女も元団長の護衛に加わったが、人間風情が作った乗り物など気にしてはいない様子。

むしろ、団長と一緒に行動するのがメインと言わんばかりだった。

 

 

『ささっと帰りたい……』

 

 

聖石矢魔学園まで案内役をしていたティリエル柱将は帰りたいのが本音だ。

絶対、自分たちを待ち構える布陣をしているのは推測できて憂鬱である。

何が楽しくて激戦の予感しかしない敵地を案内しないといけないのか。

彼女は不満があったが、それを顔に出すことは無かった。

 

 

『ジャバウォック団長は遥か上空に居るし…どうすればいいの』

 

 

タクシーの乗客定員は4名がほとんどである。

ベヘモット元団長とヴリトラ柱爵、アナンタ柱爵、ティリエルで4人であった。

なので余ったジャバウォック団長はグランドバハムートに乗って石矢魔上空に待機していた。

普通に考えれば不敬というレベルじゃない無礼な行為だが、()()()彼が自らそれに立候補した。

『なんか裏があるわね…』とティリエルは勘付いているが、団長の意見を尊重するしかなかった。

 

 

「お待たせしました悪魔野学園の方々デスネ」

 

 

どう見ても外国人のハーフである新生徒会長のアレックスが一行に挨拶をした。

余談であるが、彼のフルネームは、新庄・アレックス・ロドリゲス・一郎である。

ベル坊の名前の長さはネタになったが、彼に至ってはネタすらなっていない。

彼のフルネーム言える奴、日本で7人くらいしかいないんじゃないかな。

 

 

「そうじゃ!!」

 

 

それはともかくベヘモットは悪魔野学園の校長なので生徒会長の質問に返答をする。

第一王子である焔王様の学校を作った彼は、近隣の学校に挨拶をしようと思っていたのだ。

丁度、知り合いがいる学校に来たわけだが、敵意を抑える為に私服でやってきたのだ。

部下のせいで台無しとなったが…。

 

 

「すごい萌え」

 

 

同じく生徒会の副会長である榊光輝は何故か竹光を持って「萌え」と呟いた。

ザ・隠れオタクの彼だが、ベヘモット副団長の護衛を見てそう思うのは無理もない。

魅力的な女性が3人も居るのだ。

そのような感想を述べてもおかしくなかった。

 

 

「新庄生徒会長様、石動学園長様との面会の件で参りましたわ。案内をお願いしますわ」

 

 

埒が明かないのでティリエルは生徒会長に案内を促した。

 

 

「そうデスネ。まずは事務室に来てくだサイ」

「ああん?今なんて言った?ベヘモット様に対してその口の利き方はなんなの?」

 

 

来客用のスリッパを履いてもらう為に生徒会長は事務室に来るように促した。

これに対して無礼な態度と勘違いしたアナンタ柱爵は声を出して威嚇をした。

 

 

「アナンタ、この程度の無礼で苛立っていたら損するぞ」

「しかし…」

「今日は挨拶をしにきただけじゃ。わしの面子を潰さないでくれ」

「承知しました」

 

 

元団長の発言を受けたアナンタは反省したように見えて変わっていない。

少なくともティリエルはそう感じてしまい、どうやって話を進めるか困った。

しかし、その悩みすら吹っ飛ぶ事態が発生した。

 

 

「お?あれはもしや男鹿辰巳では?」

 

 

いざ、来客用の入り口に行こうとすると偶然にもベヘモットは男鹿を発見してしまった。

全裸の第二王子がくっついている男子生徒といえば彼以外に他ならない。

 

 

「ちょっと挨拶してくる!!」

「ベヘモット様!!」

「お待ちを!!」

 

 

さっきまで面子を語ってた癖にベヘモットは男鹿に向かって駆け出した。

すると彼も面倒な事に巻き込まれると思ったのか逃走を開始した。

すぐさま追いかけるベヘモット元団長を2名の柱爵が追う。

 

 

「苦労してマスネ」

「お気遣いありがとうございます」

 

 

ぽつんと残されたティリエルは生徒会長の気遣いに感謝した。

仕方なく事務室に向かって頭を下げて人数分のスリッパを確保し、後を追った。

 

 

『ついでに女子トイレの場所も確認しておきましょう』

 

 

念の為に彼女はトイレの場所も確認した。

学校というのは例外を除いて階が違っても大体同じ場所に設置されている事が多い。

何故トイレの場所を確認したかというと今後を見据えていたからだ。

 

 

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「おぬし男鹿辰巳じゃろ?」

「違います」

「でも赤子が…」

「全然違います」

「待たんか!」

「なんか知らんが関わりたくないです」

 

 

一方その頃、男鹿辰巳は全速力で変なおじいさんから逃げていた。

“変なおじさん”だったら貴重な体験だと思って会話をしたが、そうではないので逃げた。

ただでさえ【ベヘなんとか団】とかいう組織と闘う日々があるというのだ。

余計なトラブルに巻き込まれるのは御免だった。

 

 

「…やはりティリエルちゃんを介さないとダメか」

 

 

交戦するつもりはないベヘモットは追跡に手を抜いたら巻かれてしまった。

なので男鹿の人脈を知る部下に命じて面会できるようにするつもりだった。

 

 

「ベヘモット様、さっきの男。例の契約者ですよね?」

「ヴリトラ、()()()()()()()()()()()()()

「分かってます」

 

 

柱爵たちと合流したベヘモットは牽制するように契約者に危害を加えるなと発言した。

ヴリトラは素直に従ったが、アナンタは黙っており、問題があれば交戦する気満々であった。

 

 

「ティリエルを置いてきましたが…如何なさいますか?」

「ここだと通行の邪魔じゃし、屋上に行くとしよう」

 

 

『ティリエルは自分たちの気配で探せる』と判断したベヘモットは屋上に向かう。

その道中、土足で歩き回る集団を物珍しさで見る多くの視線は彼にとって不快に感じさせた。

 

 

「視線を感じるな」

「人間界のルールに基づいてないから。どうします?」

「ほっとけ。とりあえず屋上なら土足でも文句は言われまい」

「…蹴散らしました。これでも問題ありませんよ」

「そうか…」

 

 

ヴリトラとベヘモットが会話している時、アナンタは殺意でガヤを蹴散らした。

これを受けてベヘモットも『これで友好的な会話はできんな』と考えてしまう。

しかし、邪魔だったのは事実なので特に苦言を呈することは無かった。

そして、屋上に辿り着くと見覚えがある男たちがそこに居た。

 

 

「よう、ベヘモット!悠々と敵地視察とは恐れ入った」

「はて?この学校の校長と貴公に挨拶しにきただけじゃが?」

「兵士を引き連れて宣戦布告しに来ただけだろ」

 

 

早乙女禅十郎はベヘモットに対して紋章を見せつける様に出現させた。

臨戦状態に移行したのは誰が見ても明らかである。

 

 

「まあよい。それにしても、ちと老けたな…石動源磨、邦枝一刀斎」

 

 

それよりも懐かしい人物たちを見たベヘモットは思い出すように名を口にする。

自慢であるベヘモット34柱師団と互角に戦える歴戦の猛者たち。

相応の戦力を配備していると予想したが、意外と元気そうな面子を見て笑みを浮かべた。

 

 

「お前に言われたくない」

 

 

聖石矢魔学園の学園長、石動源磨は敵の親玉の発言に返答をする。

下級悪魔の混血であり、迫害されがちな悪魔の混血種を保護している彼に隙は無い。

ここで退けば教え子たちが全滅するといわんばかりに立ち塞がっていた。

 

 

「十数年ぶりか」

 

 

原作でメインヒロインの邦枝葵の祖父にして第二次世界大戦を生き抜いた武人。

彼の名は、邦枝一刀斎。

数々の死線を潜り抜けて生き残ったその実力は未だに現役世代を凌ぐ。

ベヘモットの素振りから老いても「隙はない」と見抜くほど慧眼は健在であった。

 

 

「ベヘモット様、お下がりください。老害の血で手を汚す必要はありません」

 

 

元団長が舐められていると理解したアナンタ柱爵は魔力を放出して相手を牽制する。

女柱爵で最強の実力がここで示されようとしていた。

 

 

「まあ、暇つぶしにはいいかもね」

 

 

アナンタと双璧と評されるヴリトラもウキウキとして敵を迎え撃つつもりだ。

暇を持て余す彼女は、邪竜族の血で疼いており、やる気満々だった。

 

 

『なーにこれ?』

 

 

ようやく追いついたティリエルは現場の空気を感じて困惑した。

スリッパを抱えて駆けつけたらマリンフ〇ード頂上戦争が勃発するかの様な雰囲気が漂っている。

明らかに自分じゃ力不足になりそうな戦場が爆誕する感じがヒシヒシと伝わって来て震えた。

 

 

「ボーイッシュ、チャイナ娘、お嬢様、なるほど良い趣味をしてるなベヘモット」

「そうじゃろ、わしが直々に推せる配下たちじゃ!そこらの兵士とは訳が違うぞ」

 

 

早乙女の挑発を誉め言葉と受け取ったベヘモットは女兵士達を褒める。

『当然』と受け取るアナンタとヴリトラだが、ティリエルはそうではなかった。

 

 

『待って…ここで最弱って私!?』

 

 

“地球破壊爆弾”以上の兵器や実力者が存在する魔界基準でもティリエルは弱くない。

むしろ上から数えた方が早いはずなのだが、ここに居る相手が悪すぎた。

戦場になったらヤムチャ目線でオロオロとする姿も魅力的ではある。

それが勝利に繋がるかと言われるとそうではないが。

 

 

「お忍びで来れば敵対しないと思ったが、もうよい」

「頑固な爺さんたちにティリエルちゃんが選定した護衛集団の実力を思い知ってもらおう」

 

 

ベヘモットは護衛を選定したティリエルの名を出したが、当の本人は非常に嫌がった。

わざと敵意を見せなかったのに全員がこちらを見たのだ。

 

 

『いい加減にしなさいクソジジイ!!私にヘイトが向いたじゃないのよおおお!!』

 

 

レディ・ファイト!の鐘が鳴った瞬間、ティリエルは自分が瞬殺される未来が見えた。

ご丁寧にコンボを終わらせるまで着地させないようなイメージ映像付きである。

いい加減この爺さんを張り倒したくなってしょうがない。

いっそ、スリッパを投げつけてやろうかと考えたほど精神的に追い込まれた。

 

 

『挨拶代わりじゃ!!』

 

 

一触即発の戦場で最初に仕掛けたのは、石動源磨であった。

某海賊漫画出て来る“生命帰還”の達人と言わんばかりに力むと筋肉ムキムキになった。

これが悪魔の血がなせる力なのか、鍛錬の行きついた先なのかは不明だ。

ただ分かるのは、時速50キロで突っ込む10トントラックの激突に匹敵する掌底が放たれた。

たったそれだけだが、大抵の生物は死ぬ。普通はね。

 

 

「その程度か」

「ムッ」

 

 

放たれた掌底は空気砲となってベヘモットに向かって突っ込むはずだった。

それをアナンタは軽く振った右腕だけで衝撃を受け流して元団長を守った。

小手調べであったが、予想以上の大物が出て来て石動は自身の迂闊さに後悔した。

 

 

心月流抜刀術 八式――“神薙”

 

 

それをフォローする様に邦枝も追撃する。

僅かに抜いた真剣を仕舞うと真一文字の斬撃がベヘモットを襲った。

その速度は音速を超えており、まさに神業に等しい…はずだった。

 

 

「なるほど、ティリエルが私を護衛に付けるわけだ」

 

 

その斬撃はヴリトラの魔力によって飛散し、周りの柵や床の一部を削るしかできなかった。

お返しとばかりに彼女は中指を丸めて触れた親指で滑らせて空気を弾いた。

 

 

魔弾の射手(デア・フライシュッツ)

「グッ!!」

「回避不能の攻撃と判断し、被害を最小限に抑えたのも見事。次は手加減しないよ」

 

 

一見デコピンしたようで回避不能の飛び攻撃であった。

本来は殺傷力を上げる為に石や鉄くずを使用するのであるが…。

ヴリトラはベヘモット様に叱られたくないのでかなり手加減をしている。

現に邦枝一刀斎の右手に6カ所、右肩にも1カ所直撃したが、血どころか痣すらなかった。

 

 

『……?なんかあったの?』

 

 

刹那の戦闘でティリエルは何も把握できなかった。

なんか戦闘が始まって勝手に終わっているという印象しかない。

ミニゲーム:刹那の見斬りに出て来るメタナ〇ト相手に100連勝する実力でも分からないだろう。

それほど速くてTASさんで出てくる1フレーム単位でも測れないという高レベルな闘いだった。

 

 

『オイオイオイ死んだわ私』

 

 

ようやく事態の深刻さを理解したティリエルは自分の死を覚悟した。

だって、明らかに弱そうな奴が居て狙わない理由はない。

すぐに撃破できない強敵が出て来るマップは、一番狙いやすい雑魚を攻撃するのが基本だ。

RPGだろうがアクションRPGだろうがTRPGであろうが人生だろうが、それは共通している。

 

 

『ついにきたのかベヘモット…!』

 

 

男鹿辰巳が居るという事は15m以上離れられないベル坊が居る。

ならば、ベル坊のお世話をする侍女悪魔ヒルダが居るのは当然である。

彼女は、魔力を感知して物陰で身を隠し様子を伺っていたが、予想以上の出来事で戦慄した。

自分の魔力の10倍以上の持ち主がゴロゴロいる魔境であれば尚更である。

 

 

「あー逃げたら疲れた。屋上で昼寝するぞ」

「あーい!」

 

 

そしたら空気が読めないのは少年漫画の主人公の特権だ!

といわんばかりに呑気に欠伸をしながら男鹿はヒルダの前を歩いていた。

 

 

「バカモン、あの桁違いの魔力を感じないのか!?」

「な、ヒルダ?なんでこんなところに?」

「見ろ、ベヘモット34柱師団の主力がそこにおるのが分からんのか」

 

 

当然、ヒルダはドブ男を物陰に引き摺り込んで彼に小声で苦言を呈した。

ヒルダから説明を受けた男鹿もようやく深刻さに気付いたが、もう遅い。

こんな(自分にとって)好都合な展開をティリエルが見逃すはずも無かった。

 

 

「ベヘモット様、男鹿辰巳と侍女悪魔ヒルデガルダが屋上の入り口に身を隠されております」

「さすがティリエルちゃん」

 

 

ベヘモットを盾にしようと傍に寄っていたティリエルは、キーパーソンの居場所を告げた。

それを聴いたベヘモットは、にっこりと笑って彼女に感謝の言葉を告げた瞬間、姿が消えた。

 

 

「待て!」

 

 

早乙女も邦枝も自身の甘さに後悔したほど素早い動きをしたベヘモットは男鹿の前に降り立った。

 

 

「てめぇはあの時のじいさん…!団長のベヘモットだったのかよ」

 

 

屋上の入り口にある屋根から見下ろす爺さんを見て男鹿は理解した。

【べへなんたら団】の団長、ベヘモットが彼であるという事に。

 

 

「違います」

「お前、ベヘモットだろ?」

「違います」

「……てめぇ、あの時の仕返しかよ!」

 

 

ところが彼は否定してしまい男鹿は何度も問うが(ことごと)く否定された。

さっき「人違いです」とやってたのでその仕返しなのかと考えてしまった。

 

 

「ベヘモット34柱師団は確かにわしが創設した。だがわしも老いた」

 

 

ベヘモットは目の前に居る第二王子契約者に自身の立場を伝えようとしていた。

だが、彼のすぐ後ろに居る存在を目撃して本題を述べる事にした。

 

 

「引退して大将は、()()()に任せておる」

 

 

ベヘモットが言い終えた瞬間、とんでもない気配を感じて男鹿は後ろを振り返る。

そこには額に大きな傷跡がある赤髪の大男が居た。

ジャバウォックは、一瞬だけ男鹿の顔を一見するが興味を失った様に親父を見る。

 

 

「親父!そろそろ時間だ。あまり待たすと焔王のクソガキが癇癪(かんしゃく)を起すぞ」

「コラコラ、主君をクソガキ呼ばわりするな。ジャバウォック」

 

 

ジャバウォック自身は、自分が出ると騒動になると考えて上空で待機していた。

だが、面会の時間が終わったのに未だに進展がない状況を見かねて様子を見に来た。

それでも戻ろうとしない父親に業を燃やして彼は警告するに至ったという経緯である。

 

 

「何の真似だ侍女悪魔?」

 

 

侍女悪魔ヒルデガルダは、その強敵に対して剣を向けて魔力を放出していた。

意外と丸くなっているという事情を知らない彼女は、主君の身に危機が及ぶと勘違い。

刺し違えてでもジャバウォックを撃退しようと試みていた。

 

 

「おいヒルダ?」

 

 

さすがの男鹿もいきなり喧嘩を売るのは不利だと理解している。

それ以上に理解しているはずのヒルダが暴走しているのを見て困惑するしかなかった。

 

 

「いかん!」

 

 

人間界の最後の希望、ザ・爺さんズも動こうとしたが柱爵に牽制されて動けなかった。

彼女たちは、ティリエルと違ってもう1つの目的を理解していたのだ。

 

 

「ソドム…」

ギシャアアアアアアッ!!

「なっ!」

 

 

ジャバウォックが一言、ペットの名を呼んだ瞬間、巨大なドラゴンがヒルダを襲った。

結界魔法で姿を隠していたドラゴンの不意打ちでは、さすがの彼女も無力だった。

大きな牙の隙間に挟まれた彼女は、そのままドラゴンの装備品と化した。

 

 

「グランドバハムート!?」

「あんなものまで連れて来たのか!?」

 

 

ドラゴンの危険性を身をもって知っている早乙女禅十郎はドラゴンの姿を見てその名を叫ぶ。

歴戦の猛者たちも島根県くらいなら僅か10秒で丸ごと消し飛ばせるドラゴンに警戒する。

 

 

「嚙み殺すなよ。生かして連れてくるようにクソガキに言われてるんだ」

グルルルル

 

 

実は、焔王に仕える侍女悪魔たちの立場が一変していた。

ベヘモット34柱師団は、侍女悪魔たちに見切りをつけており後任を探していた。

そこで白羽の矢が立ったのが第二王子に仕える侍女悪魔というわけだ。

 

 

『え?なんでヒルデガルダを襲ったの?挨拶だけじゃなかったの!?』

 

 

なお、人間界で暗躍しているティリエルの耳には入っていない。

なので、なんで侍女悪魔を襲ったのかティリエルは全く理解できていない。

 

 

「オイ待て!?なんだお前ら!?」

 

 

急いでヒルダを救出しようと試みる男鹿を庇うように爺さんたちが守りに着く。

現にここで男鹿が暴れたところで勝ち目はない。

早乙女も彼女を救出するなら出来ない事は無いが全面戦争になるという危機感がある。

よって蛮行を黙って見逃すしかできなかった。

 

 

「ジャバウォック…噂以上にイカレた野郎だ。…その女を捕らえてどうする?」

「安心しろよ殺しはせん。しばらく預かるだけだ」

「お前らしくないな。真っ先にオレとやり合うかと思ったが…」

「ああ、“大戦の覇者”と御手合せ願いたいのだが…あいにくクソガキの機嫌取り(おせわ)に忙しくてな」

 

 

ジャバウォックとしても魔界統一戦争で大暴れした早乙女禅十郎と交戦したかった。

しかし、団長になった以上、不本意ながらも理性で本能を抑えて振舞うしかなかった。

さすがに戦闘狂である彼であっても、大魔王の機嫌を損ねる事はしたくなかったのだ。

 

 

「安心しろよ。ウチの弟子が()()()()に行くからよ」

「そこでわめいているガキがか?期待しないで待ってるよ」

 

 

双方とも直接交戦できないので負け惜しみのような言葉を出し合った。

それほど、この展開は不本意であり、想定外であり、なにより屈辱だった。

しかし、大人の世界というのは妥協で成り立っている以上、こうなるのは予定調和だ。

 

 

「放せ!!」

 

 

だが、そんな現実世界に一石を投じる存在が居る。

当たり前に疑問に持ち、どんな抑圧でも自分の価値を輝かせるなら反旗を翻す存在。

普通の生活という定義は曖昧であるが、規律と法律を厳守して人間社会に馴染む事であろう。

だが、それに従わないのが不良だ。

そんな不良という奴はバカでアホで間抜けだが、当の本人たちは絶対に後悔しない生き方をする。

 

 

「放…つってんだろっっ!!!」

 

 

ドラゴンに知り合いが攫われて共犯者を乗せて飛び立つ様子を見守るしかできない。

規律や法律を厳守する者が涙を呑んで、やったもん勝ちの奴らが勝ち誇る現状。

そんな現実に男鹿辰巳は納得できるわけがなかった。

ベル坊の魔力で邦枝一刀斎の拘束から抜け出した男鹿は、迷わずにドラゴンの尻尾を掴む。

それと同時に全長50m級のドラゴンが羽ばたくと大型台風並みの強風が吹き荒れた。

 

 

「あの馬鹿…!!」

 

 

もう、干渉できない状況に陥った以上、早乙女禅十郎を筆頭に何もできやしない。

予想と違って下手に出て来た悪魔たちが手加減してくれるのを祈るしかない。

 

 

「ん?」

 

 

ベヘモットとジャバウォック、そしてその取り巻きはドラゴンの背に乗って去っていた。

だが、1人だけ事情を知らずにぽつんと取り残された悪魔が居る。

 

 

「おい嬢ちゃん、何で残ってるんだ?」

 

 

半ば困惑する早乙女の問いに対してティリエルはこう答えたかった。

 

 

『私だって知りたいわよ!!』

 

 

ティリエルは、クソジジイ(ベヘモット元団長)が校長と紋章使い(スペルマスター)に挨拶をしたいとしか知らされていない。

なのでドラゴンで侍女悪魔を攫ったり、ドラゴンに乗って帰るなど想定外だ。

しかも律儀に命令を待っていたら、そのまま放置されて置いて行かれた形となった。

この現状に一番困惑したのはティリエル本人であった。

 

 

「丁度いい。ベヘモットがやろうとしている事を洗いざらい吐いてもらうぞ」

「今、投降すれば丁重に扱う事を約束しよう。さてどうする?」

「これも定めか。貴公の判断に身を任すとしよう」

 

 

早乙女禅十郎は、目の前に居る女悪魔に計画を吐かせようと本気モードに移行した。

石動源磨は、ティリエルに優しく投降する様に宣告しているが目は笑っていない。

邦枝一刀斎に至っては、意味深な発言と裏腹に交渉が拗れるのを予測して抜刀している。

これに対してベヘモット34柱師団【第19の柱】ティリエル柱将の出した答えとは…。

 

 

「うるさいわね!!どっからでもかかってきなさい!!」

 

 

ヤケクソでラスボス3人を迎え撃つ事となった。

明らかに自殺行為だが、ちょっと待って欲しい。

戦死するか情報漏らして捕虜になるか。

どっちが恥かと言えば、後者である。

 

 

「お相手してあげるわ!!」

 

 

①人間と下級悪魔の混血種と紋章使い(スペルマスター)に全力を挑んだ結果、殺されました。

②敵に情報を漏らして捕虜になったので後に公開処刑されました。

こんなクソみたいな選択肢を提示されたらやる事など決まっている。

無駄にプライドが高いティリエルは前者を選ぶしかなかった。

 

 

『ああ、終わったわ』

 

 

この時のティリエルは、全ての呪縛から解放された感覚があった。

そのせいか変な次回予告が脳内に流れる有様。

 

やめて!絶対に勝てない相手が3人も居るなんて敗北するしかないじゃない!

お願い…死なないでティリエル!

貴女が今、ここで倒れたらヴァッハムート公国の再興はどうなっちゃうの…!?

まだ五体満足で交戦すらしていない。

ここを耐えればきっと希望はあるんだから!

次回、ティリエル死す デュエルスタンバイ!!

 

 

「うっせぇわ!!」

 

 

勝手に激怒したティリエルは双剣で斬撃を繰り出す!!

彼女にとって長い1日はまだ続いていく…。

 

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