【ベヘモット34柱師団】お嬢様剣士ティリエルの憂鬱   作:Nera上等兵

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19話 回想 邦枝葵VSアギエル

ベヘモット34柱師団といえば名を出すだけで盗賊団が投降するほどの精鋭部隊である。

柱将の地位に就く者は、小国の騎士団長クラスの名声と地位、そして実力を併せ持つ。

柱爵であれば、魔王軍の一個師団を相手に一方的になぶり殺しができる実力差だ。

 

 

「……ううっ、やっと帰れた」

 

 

間違っても人間界の不良に喧嘩を売られたり、人間に媚びを売る存在ではない。

思春期の男子生徒が見た悪夢の愚痴を聞かされたりアドバイスする立場ではない。

なのにティリエル柱将は、たった1日の出来事なのに数か月経過した感覚がした。

ただの1LKのアパートの部屋が安らぎの空間に見えて仕方がない。

 

 

「おかえり……なんか想像を絶する激戦を繰り広げた表情をしてるな」

 

 

最後に会ったのは1日も経過していないはずなのに契約者の声が久しぶりに感じる。

それに対してティリエルは意志を表明する事はなかったし、革瀬も反応を求めなかった。

疲弊した女悪魔を気遣うという行為が重要なのである。

 

 

「風呂場ならいつでも開いているぞ」

「さっそく入らせてもらうわ」

「それと入浴剤を用意したから好きなタイプを開封して楽しんでくれ」

「入浴剤?」

 

 

契約者から珍しい単語を聴いたティリエルは思わず聞き返した。

魔界自体にも入浴剤自体はあるのだが、碌でもない物ばかりなので警戒したのだ。

 

 

『入浴剤?入浴剤ってあの!?いえ、革瀬があんなのを買ってくるわけがない…』

 

 

例えば、【シュワシュワ遊べる入浴剤】という製品は湯船に入れて泡を愉しむと思うだろう。

実際は、風呂の水を強酸にしてドラゴンの卵を変質させて遊ぶとかいう劇薬だったりする。

しかも、対象年齢は2歳からというアメリカだったら訴訟待ったなしのいい加減さである。

だが、ティリエルは自分が選んだ契約者がそんなのを渡す訳ないと考えて必死に堪えた。

 

 

「入浴剤って言っても、保温効果、香り、保湿、気泡による刺激によるマッサージがあって…」

「ありがとう、好きに使わせてもらうわ」

「え?あっハイ」

 

 

契約者の説明を聞いて普通の製品だと理解した彼女は、あっさりと彼の説明を打ち切った。

そして風呂場に向かうと扉の前に6種類ほどの使い切りタイプが固まって置いてあった。

缶にしなかったのは、自分の好みに合わない可能性があると彼は考えたのだろう。

 

 

「これにしよう」

 

 

疲労、腰痛、肩こり、冷え性に効果ありと書かれた入浴剤の1つを選択した。

注意したのは、トイレの芳香剤に使われている香りだけは避けたくらいか。

ティリエルは革瀬が自室に引き籠っているのを確認し、バックを床に置いて衣服を脱ぎ始めた。

 

 

「なあ、なあ!!ティターニアさんって意外とスタイル抜群じゃねえ?」

「メイドさんのコスプレをしたらめちゃくちゃ可愛くなるって!」

「メイド服を買って来たら着てくれるかな!!」

 

 

一方その頃、古市宅では古市貴之がティリエルの肉体について熱く語っていた。

スポーティという色気が大幅に落ちるファッションのせいで中々気付く事はできなかったが…。

ヒルダさんのようにメイドの格好をしただけでめちゃくちゃ可愛くなると自説を語っていた。

 

 

「あの古市殿…」

「おっと!アランドロン、お前はオレの話を聴くだけでいい!余計な真似するな!」

「ですが…」

「きっと今頃、全裸になってお風呂に入っているんだろうな……」

「古市殿!!」

「なんだよ、うっせぇな!!」

 

 

しつこく話しかけて来るアランドロンにとうとう古市がキレた。

数少ない妄想を台無しにされた古市は、彼を睨みつける。

 

 

「ご家族に見られておりますが…」

「あっ!」

 

 

あまりにもうるさい独り言に妹と両親がやってきてしまった。

不運な事に男鹿辰巳が扉を閉めなかった為、そのまま開けっ放しであった。

そして、彼らが来た時にはアランドロンにメイド服を語っている。

同居するおっさん、男子高校生、メイド服、何も起きないはずもなく。

 

 

「なんか恨みでもあるのかー!?せめてサービスシーン持ってこい!!」

 

 

古市の絶叫は、空しく響く事になった。

それから50分後、ティリエルは風呂から出て来て濡れた髪をタオルで拭いた。

入浴剤の効果は、肌が潤った以外に実感しにくかったが、少なくとも悪くは無い。

真冬であったら湯船から出て来れなくなりそうな不思議な魅力があった。

 

 

「次の入浴剤はどんな効果かしらね」

 

 

とりあえず人間界の入浴剤について興味をもったティリエル。

しかし、この生活も今日で終わるかもしれない。

 

 

『悪魔野学園がある以上、ここに長居する必要はない…か』

 

 

人間界におけるセーフティハウスであるが、用済みの時が来てしまった。

長いようで短いような不思議な感覚であるが、本隊への合流は待ち望んだ事だ。

決意したティリエルはパジャマ…ではなくバックに入っていた軍服に着替えた。

パジャマを持ってきていないのもあったが、一番の要因は革瀬を煽る為である。

そしてキッチンに置いてある料理を確認しに行った。

 

 

「今日の晩御飯は~!エビチリ!!」

 

 

人間界に来て数少ないメリットは、日光を浴びられるのと人間界の料理が喰える事だ。

魔界にも美味しい料理は存在するものの人間界と違って食材が安定供給されていない。

だから金を出すだけで食材が集まるこの国は恵まれているのだが、原住民は全く理解していない。

とにかく甲殻類が大好きなティリエルは、前にリクエストしたメニューが出てご満悦になった。

 

 

「あれ?加熱してある?」

 

 

さっそく加熱しようとした既に熱々の状態であった。

これは自分が入浴している間に契約者が予め温めてくれたのだろう。

彼の気遣いに感謝しつつティリエルはようやく安らぎの一時を過ごした。

 

 

「あー幸せー。もっと贅沢を言うならタラバガニとやらを食べてみたい」

 

 

独り言を呟いたティリエルだが、さすがにこれは契約者に頼むつもりは無かった。

借金を返済しつつ学費を稼ぐ男に強要するわけにはいかない。

それにこの生活も終わりを迎えるのだ。

 

 

「本当に?」

 

 

だが、ちょっと待って欲しい。

明日、悪魔野学園に行ったら「おめぇの席ねぇから!!」と言われる可能性がある。

全軍が集結するのであり得ない話ではあるが、ティリエルだけ事情が違う。

下手すれば、無理難題の命令を下されて再びパシリにされるかもしれない。

 

 

「となると残した方がいいわね」

 

 

当初の予定では、生活費を支払ったらここには寄らない予定だった。

しかし、どうも自分に対して情報を制限されていると疑心暗鬼になった。

まるで、重大なミッションを課せられる前段階のような気がしてならない。

 

 

『革瀬!!革瀬!!早く来なさい!!』

 

 

ティリエルは呪印を用いて契約者の脳に呼び掛けて緊急招集する!

そして椅子を2つ向かい合うように置いた。

 

 

「どうした?味付けが悪かったか?」

「あんた、悪魔野学園に行ったそうね?」

「ああ、夜間のバイト代が高くてな」

「違う!今日の昼頃、不良たちと一緒に学園内に侵入したの?」

 

 

呼び出された革瀬はてっきり味付けがお気に召さなかったのかと思った。

幸いにも違ったが、やけに悪魔野学園について質問してくるのに首を傾げる。

もしかしたら自分と契約したのを他の悪魔にバラされたくないのかと感じるほどだ。

 

 

「不良たちに威圧されて仕方なく…」

「そこで悪魔に遭遇した?」

「遭遇したし、焔王にも会ったが、それがどうかしたのか?」

「ビキニの上にコートを羽織った眼鏡の女剣士と遭遇しなかった!?」

 

 

ところが、質問を受けるうちにピンポイントの悪魔について知りたいようだ。

誤魔化しても利点はないので革瀬は素直に話す事にした。

 

 

「アギエルっていう悪魔に逢ったな。確か……」

「そこの椅子に座って!詳しく教えてくれない!?」

「わ、わかった。だから少し落ち着いてくれ…」

 

 

軽く報告しようかと思ったらティリエルは座席を指定して座れと命じた。

あまりにも必死過ぎて革瀬はその勢いに圧されて大人しく座った。

ティリエルもしっかり話を聴くつもりなのか椅子に腰かけて脚を組んだ。

 

 

「ん?」

 

 

革瀬は違和感を覚えた。

入浴後なのにパジャマじゃなくて軍服を纏っている事。

本日着用したとみられる真っ白なニーハイソックスを履いている事。

なにより、座って1分も経ってないのに何度も足を組みなおしている事。

 

 

『こいつ!!俺を誘ってるのか!?』

『きゃはははは!!』

 

 

対面するミニスカニーハイ女子が脚を組んで入れるとなれば男の視点は固定される。

男というのは、あわよくば組んだ脚やスカートの隙間から下着が見えるのを期待する。

つまり、女の子そのものか、脚か、股間に視線が誘導されがちなのだ。

ティリエルは、そういう男を煽るのが十八番なのは革瀬も薄々気付いてる。

…が、睡眠間近で煽って来るとは思わなかった。

 

 

「あら?どうしたの?アギエルと遭遇した時の事を話してくれない?」

 

 

可愛らしい彼女の表情と口調からそんな感じはしない。

だが、革瀬は分かっている。

どうせ、オカズがあるのに股間を弄れなくてウズウズしている自分を見て嗤っているのだろう。

 

 

『あら、私はご褒美に飴を与えているだけよ。それとも鞭の方がお望み?』

『いえ、しっかりと今日の出来事を報告させて頂きます』

『素直なしもべは好きよ。報告次第では、更にご褒美を与えるわ』

 

 

念波会話で直接、革瀬の脳に囁くティリエルの声はとっても魅力的である。

一線を越えない信念以外骨抜きになっている革瀬は本日の出来事を報告した。

 

 

-----

 

 

不良は激怒した!

必ず、かの悪魔野学園を除かなければならぬと決意した。

不良には政治は分からぬが、彼らは石矢魔高校の生徒、一致団結する事はできる。

道着を纏った古市を前に歩かせて唯一開いていた勝手口から校舎に侵入した。

 

 

「洋風な建物だな……取り返したところで違和感しかねぇぞこの規模は…」

「神崎、気を付けろ。どうも、日本の建築基準法で建築された建物じゃねぇ」

「なんだよ姫川、ビビってんのか?」

 

 

道中で合流した姫川は、一流の御曹司なのですぐに建物の異常が分かった。

結構歩いたはずなのにどこにも階段がないのだ。

それについて神崎は笑って一蹴し、革瀬に呼び掛けた。

 

 

「おい革瀬!ここでバイトやってるんだろ!なんか知らんのか?」

「内装は上に行くほど未完成なんですよ!だから場所によっては非常階段が必要です」

 

 

呼びかけられた革瀬は簡潔に説明するが、彼自身も1階に来るのは初めてだ。

確かに階段がすぐに発見できないのはおかしいし、何か空間自体がねじ曲がってる。

そんな気がしてならない。

3階の内装とほぼ同じのはずなのに何故か、柱の間隔が異様に長く感じるせいかもしれない。

 

 

「それと1つ良いか?」

「なんだよ!?」

 

 

先頭を進んでいた姫川は立ち止まって質問をした。

またしても文句が言いたそうな彼を見て神崎は声を荒げて返答を待った。

 

 

「なんか人数増えてねーか」

 

 

姫川の一言で聖石矢魔学園組は後ろを振り返った。

そこには黒色のコートを纏った3人組が居た。

 

 

「ありゃ、さすがに足音を立てたらバレるか」

 

 

赤髪で3つ編みのお下げが2つあるビキニ女剣士は、彼らに気付かれて笑っていた。

明らかに痴女の格好をしているが、革瀬には分かる。

自分が契約しているティリエルに匹敵する上級悪魔という事に……。

 

 

「ベヘモット34柱師団、柱将!アギエルちゃんだよ!!」

 

 

ベヘモット34柱師団の【第1の柱】アギエル柱将は、侵入者たちに自己紹介した。

事情を知らない不良達は、頭の上に『はてなマーク』を浮かべたが、革瀬は違う。

 

 

『ティリエルの肩章と同じだからもしやと思ったが…後ろの2人も柱将かよ』

 

 

ティリエルの軍服はジャケットタイプであり腰はフリーとなっている。

他の集団を見る限りは、コートタイプが主流のようだ。

まあ、正義のコートのようなものと考えれば、合点はいく。

ならば、肩章は階級を表してるのかと予想したが当たってしまった。

 

 

「同じく柱将オドネル」

「……柱将ゼラ」

 

 

頭に包帯を巻いて胴体は腕ごと鎖で巻かれているのはオドネル柱将。

言葉数が足りなくて血相が悪そうなのがゼラ柱将。

…とわざわざ自己紹介してきたのだが、何か意味があるのだろうか。

 

 

「フーン、こんな奴らにヘカちゃんとグラちゃんをボコボコにできるのかなぁ?」

 

 

様々な疑問はさておき、アギエルは神崎や姫川などの不良を見て弱いと判断した。

 

 

「ホントにベルゼ様の家臣?使い捨ての駒じゃないの?」

 

 

そのせいで彼女は彼らを挑発して様子を見る事にした。

良く分からないが、馬鹿にされた事を理解した不良達の額に青筋が立つ。

 

 

「おいおいおいネエチャン、ちょっと調子乗ってねぇか?」

「オレらは石矢魔高校で最上位カーストだぞ?分かってんのか?」

「神崎さんや姫川さんに向かってなんつう暴言を吐いてるんだゴラァ?」

 

 

さっそくモブの不良たちがアギエルを囲んで恐喝を始めた。

女だから狙いやすいという下心は大変分かりやすい。

しかし、革瀬はこの後の結末を予想できた。

むしろ、彼らに乗っかって一緒に恐喝するんだったと後悔したくらいだ。

 

 

「あっはっはっはっ!ムサクるしいなー」

「あ?」

 

 

アギエルは笑って不良たちの顔にデコピンした。

するとアイロンビーズがぶっ飛ぶように遥か遠くまで飛んで窓を突き破った。

男鹿ですらこんなに遠くに人をぶっ飛ばせないので目撃者は呆然とした。

 

 

「言っておくけど、関係者以外立ち入り禁止だよ!」

 

 

アギエルはそう警告すると剣を構えて石矢魔生徒に向き合った。

これを見て革瀬は羨ましく感じる。

だって、無事に生きて校舎から脱出できたのだから。

 

 

『アギエルと面識はねぇが、どうもティリエルと相性が悪そうだな…』

 

 

女のあざとさを武器にしているが、革瀬は本能でティリエルと相容れないと理解する。

すぐさま女剣士が大森寧々に向かって剣を振り下ろそうとする様子を見れば嫌でも…。

 

 

「おっ?」

 

 

刃物が弾かれて一度退き下がったアギエルは異常の原因を探る。

確かに赤髪の女を殺害しようと剣を振り下ろしたはずであった。

 

 

「危なかったわね」

「あ、姐さん!!」

 

 

不意打ちされた寧々を守ったのは刀を構えた邦枝葵だった。

いつもの木刀ではなく真剣を持ち込んでいる時点でヤバいと分かる。

 

 

「何だお前?もう人が入れないように細工したはずなんだけどな…」

 

 

アギエルは予期せぬ侵入者に困惑したがすぐに興味の方が打ち勝った。

とりあえず自分の一振りをガードできる人間が居ると分かっただけで収穫である。

 

 

「ねぇコマちゃん、普通の人は見えないんでしょうね?」

 

 

邦枝葵は相棒について念押しで確認をした。

悪魔と戦えない部下たちを修羅の道に巻き込まないようにする為に。

 

 

〈当然やろ、葵ちゃんかて最初は見えへんかったやろ〉

 

 

革瀬は関西弁らしき言語を喋る何かが居る事に気付く。

目の前に居る悪魔たちも感じ取れたのか、周囲を警戒していた。

だが、他は気にしていないところを見ると悪魔との接点がないと分からないのだろう。

 

 

「行くわよコマちゃん」

「ええで!!」

 

 

何かが駆け回った後、邦枝葵の横に小さなシーサーっぽいキャラが…。

 

 

『邦枝の守護霊じゃねーか!?めちゃくちゃ弱そう!?』

 

 

以前その存在を目撃した革瀬は思わず、心の中でツッコミを入れた!

あの時は、てるてる坊主みたいな扱いだったので見間違えたのかと思った。

やはり、邦枝は…あんな弱そうな奴と契約していたのだと衝撃を受ける。

 

 

「ねぇコマちゃん…一応初陣なんだから本気出しなさい」

「せやけど、お披露目シーンは女子に…」

「はよやれ!」

「はいぃ!!」

 

 

さすがの邦枝も空気を読まないアホに激怒したのか脅迫をした。

そしてシーサーもどきが力むと聖獣と思わしき大きな狼に変化した。

体高2.5m以上、尻尾も含めて8mありそうなその姿は、悪魔も注目する。

 

 

「ふむふむ、珍しいものを飼ってるね。見た感じ下級悪魔には見えないけど…」

 

 

アギエルは、軽く分析したものの獣の正体が分からなかった。

ただ、こいつが飛び回った痕は床や壁に残されているので実体はある。

 

 

「“シーサリオン”、大昔に人間界に逃げ込んだ悪魔の種族だ」

「祓魔の獣神の使いなどと呼ばれているそうだが…実物は初めてみるな」

 

 

代わりに顔面に包帯を巻いているオドネルが解説をしてくれた。

彼曰く「所詮魔界の生存競争に敗れた負け犬」と評したいのだろう。

 

 

「なんなら私がこいつを相手にしても…」

 

 

物理攻撃しかできない相手なら封印術と遠距離攻撃が得意な彼が有利だ。

オドネルはアギエルに代わって相手をすると提言しようとしたが…。

 

 

「アタシの獲物だよ、手出しするな」

「好きにしろ」

「愛してるわよオドネルちゃん」

 

 

アギエルが首元に剣を突き付けて来たのでオドネルは獲物を譲った。

すると彼女は上機嫌となり、彼の頭を撫でて未知なる女剣士に振り向いた。

 

 

『なんて殺気……これが男鹿が敵対する悪魔…!』

 

 

一方、邦枝葵は空間が震えるほどの殺気に脂汗を掻く。

遭遇したのは初めてではないが、実際に対峙するからこそ分かる猛者!

男鹿辰巳は1人でこいつらを全員相手にすると思うからこそ尊敬する。

 

 

『コマちゃんに言われるまま付いて来たけど…正解みたいね』

 

 

…と考えてコマちゃんの様子がおかしいのに気付く。

 

 

〈あの真ん中の眼鏡っ娘えぇえなぁ!エロいわぁあれ!〉

「うん、言うと思ったけど黙ってて」

〈攻撃したはずみにうっかりポロリとかあってもええやろ!〉

「黙れってのエロ犬」

 

 

相変わらず中身がエロ親父の狛犬は、アギエルに一目惚れしていた。

本気で戦闘する前にボケるエロ犬に邦枝は本気でキレた。

 

 

『……なんだろう?邦枝先輩の心の声が聴こえる…』

 

 

革瀬はそのやり取りを目撃して邦枝とコマちゃんの声がしっかり聴こえていた。

いや、心の声もしっかり聴こえており、まるで契約しているかのようだ。

 

 

『これもティリエルが仕組んだのか?』

 

 

彼女は用意周到なので呪印に細工しているのかもしれない。

例えば、他の契約者に遭遇したら信号を送り、すぐに異常に気付くとか…。

そもそも最初からコマちゃんが見えているので影響しているのは間違いない。

 

 

「別にいいけどさ、あまり長居してていいのかな~?」

「何を…」

「そろそろ第1班が到着する頃なんだけど…」

 

 

なお、さきほどから無視されているアギエルは挑発する。

彼女の言葉を聴いた邦枝、古市、革瀬はその重大さに気付く!

 

 

「古市君っ!みんなを連れて外へ!」

「姐さん!?」

「寧々もお願い!!」

「は、はい!!」

 

 

すぐさま邦枝葵は、不良達を逃がそうと試みる。

どうやら目の前に居る3名の悪魔の足止めをするようだ。

 

 

「あら、舐められたものね。させると思う?」

「いいえ、絶対にさせないわ!」

 

 

無謀にも足止めをしようと試みる女剣士の瞳を見たアギエルは笑った。

とっても、真っすぐで穢れ無き純粋な青臭い女の瞳だった。

目的の為なら自分をも偽るティリエルと違っていつまでも見たくなる瞳…。

彼女は、その瞳に惹かれた。

 

 

「じゃあ、こうしよう!私に勝ったらこの場は見逃してあげる」

「ずいぶん優しいのね?」

「いーや、あんたが負けたらその命を頂くとするよ!!」

 

 

戦いの結果など決まっている。

だからこそ、どれだけ足掻いてくれるのかを見てみたいのだ。

勝利条件に希望を加えることで決して心が折れないようにアギエルは仕組んだ。

そしてその希望を圧倒的な力でねじ伏せようと剣に魔力を加え始めた。

剣は真っ黒に染まり、純潔の乙女の血を欲するように唸り出した!

 

 

『アギエルの奴、本気だな。暗黒剣“ブラッディグレイブ”をやる気だ…』

 

 

革瀬はビキニの女剣士の構え方でどんな技を繰り出してくるのか見抜いた。

…とここまで感じて異常に気付く。

 

 

『なんで知らない奴の技名を知ってるんだ!?』

 

 

これに革瀬は本気で混乱した。

もし、契約している者同士の知識が得られるなら自分はここまで馬鹿ではない。

なのに知っているという事は、ティリエルが意図的に残したとしか考えられない。

 

 

「最後に名前を聞いてあげるよ!なんて名前なの?」

「石矢魔高校2年生、邦枝葵よ!」

「そっか、葵!葵かぁああ!!」

 

 

どうやらアギエルは強者相手だと殺害する前に名前を聴くようである。

しかし、彼女が喜んでいる姿と裏腹に漆黒に染まった剣は、清純な乙女の血を欲する!

 

 

暗黒剣“ブラッディグレイブ”!!」

心月流抜刀術 弐式、百華乱れ桜

 

 

予想通りに技名を叫んだアギエルは、邦枝を襲撃する。

それはあっという間だった。

 

 

魔装 “絢爛(けんらん) 花吹雪(はなふぶき)

 

 

すれ違った邦枝が刀を鞘に納めると女悪魔のコートがズタズタに切り裂かれた。

ご丁寧にも両肩や手首、大腿にも傷付けており、その気になれば斬り落とせたと分かる。

 

 

「…こ、これは、かまいたち?人間風情が…?」

「対悪魔用に磨いた心月流よ!石矢魔も人間も舐めるんじゃないわよ!」

 

 

彼女たちの台詞を聴いて革瀬は、邦枝がカマイタチを放ったと理解した。

いや、理解したのだが、むしろあの女悪魔の対抗心に火をつけたようである。

虚ろな目で「葵、葵…」と呟き「覚えた」と口にした。

 

 

「革瀬、何してるの!!早く逃げなさい!!」

「は、はい!!」

 

 

アギエルの様子を見ていた革瀬は邦枝に急かされてその場から去った。

そして…。

 

 

「ありがとう、その後の展開は知ってるからいいわ」

 

 

話を聴いていたティリエルは、それ以上の情報提供を望まなかった。

左手を顎に当ててさきほど得た情報の整理をし出した。

彼女としても興味深い点がいくつかある。

 

 

『心月流抜刀術か…』

 

 

聖石矢魔学園で心月流抜刀術の使い手の爺さんにティリエルは遭遇した。

おそらく彼は、邦枝葵の祖父か師匠なのだろう。

あちらは人間の力のみであったが、葵は悪魔を使役する魔力で抜刀術を強化していた。

これが意味するのは、同じ流派であっても使い手によって戦い方が変わるという事だ。

 

 

『そして同化する魔力…』

 

 

悪魔と契約した人間が紋章で膨大な魔力を制御するのが紋章術。

そしてその対極に位置するのは悪魔の魔力と同化する憑依術である。

憑依という単語に忌避し、暗黒舞踏と洒落た名前が付いているそうだが、それはどうでもいい。

 

 

『アギエルがやられたという事は、更になにかあるわね』

 

 

魔力を真剣に纏っていたとはいえ同じ事ができるアギエルが負けるわけがない。

契約したシーサリオンの特殊能力か、生まれ持った技能なのか調べる必要がある。

 

 

『そうすれば、あいつらを出し抜けるからね…!』

 

 

未だに本隊の連中は自分が魔界に居る時と同じように動けると慢心しているようだ。

その無駄に伸びた鼻っ面を男鹿と邦枝にへし折ってもらわないと困る。

それと同時に目の前に忠誠を誓っている革瀬で実験しなければならない。

 

 

「革瀬、明日に本軍と合流するんだけどさ。寝床は残してほしいの」

「え?ああ、分かった」

 

 

ティリエルが本軍合流したがっていたのはここに来てからずっとの事であった。

なのでついに合流できるのかと労いの言葉をかけようとしたが止めた。

なにやらまた変な問題をよこしてくる気がしたのだ。

 

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