【ベヘモット34柱師団】お嬢様剣士ティリエルの憂鬱   作:Nera上等兵

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2話 ある晩、廃墟の中、悪魔に出会った

都会でもないが、だからといっても田舎でもない。

悪く言えば、中途半端な立地に【県立 石矢魔高等学校】が存在する。

かの高校の評判は散々どころか最悪であった。

 

 

「不良の最終処分場」

「ヤンキーの登竜門」

「日本唯一の危険レベル4地区」

 

 

しかし、需要があるからこそ存在しているのは間違いない。

そして意外と仁義に厚く規則が存在し、薬物をばら撒くような輩は即座にゴミ箱行きになる。

派閥や規則を把握していれば、不良が発生(スポーン)する石矢魔を1人で歩くよりは安全な場所()()()

そう、確かに存在した高校だったのだ。

 

 

《深夜未明に石矢魔高校の校舎が爆発により全壊しました。負傷者は多数とみられ警察は…》

 

 

深夜に校舎が爆発で全壊し、大量の負傷者が発生したという事件はマスコミにとって餌であった。

一時は全国の記者が押し寄せたが治安の悪さから即座に退散したほど魔境である。

すぐさま主戦場は、現場からテレビ局のスタジオに移る事となった。

 

 

「どうせ不良共がガスボンベの近くで火遊びしていたんでしょ。あいつらバカだから!」

「こんな高校など日本の恥デス!汚物の象徴は消毒できましたガ!発生源が消毒できてまセン!」

 

 

安全地帯から識者が偉そうに憶測や願望を電波を介してお茶の間に届けていたのは記憶に新しい。

不良のたまり場がなくなった地域住民は、さぞかし嬉しがっているかと思われるがそうではない。

好き好んで石矢魔に住むなど大体、不良を輩出する一族か肝が据わった変わり者だけだ。

むしろ、ひとまとめにされていた凶悪な不良が複数の他校に割り振られた。

インペルダ〇ンの脱獄囚のようにこれほど近隣地域を恐怖のドン底に突き落とした事があるのか。

いや、ないと断言できよう。

 

 

「学校の偏差値と治安がバカのせいで悪くなる前にゴミ処分場に収容しろ!!」

「汚物は消毒するモノ!コレ世界の常識!ジャップは遅れてるYO!」

 

 

石矢魔高校に在籍する生徒が戦時中のような疎開をする様子を映した映像は有名である。

まあ、放送コードを投げ捨てて発言するご意見番の印象に残った人が多いかもしれないが。

 

名前で弄られがちな【人気コメンテーター】亜保 丸球

エセ外国人【鶏競争(チキンレース)】ミ●キー・マウズ(両親共に先祖代々日本国籍)

 

この2名は、とにかくインパクトがある発言をしていたので覚えていた者も多いだろう。

ところが、ある日を境に自宅に引き籠ったそうだ。

ガチモンの超大物ヤクザのご子息が在籍していた噂から事情を察する者は続出したという。

閑話終わり。

 

 

「おいゴラァ!!なにガン飛ばしてるんじゃコラァ!!」

 

 

当然、そんな悪名高い石矢魔高校に在籍する学生でも喧嘩を売られる事がある。

只今、石矢魔高校1年生の革瀬(かわせ) 円泰(かずた)は他校の不良に喧嘩を売られていた。

 

 

「おいおい!!帝毛工業を格下だと思ってねェか!?」

 

 

革瀬だって望んで石矢魔高校に通う事になったのではない。

ちゃんと偏差値42くらいの高校に正規の受験で合格はしていた。

ところが、受験校に兄の円孝(かずたか)が石矢魔高校の学生とバレて合格が取り消されたのだ。

よって理不尽には慣れており、スキンヘッド5人によって壁に追い詰められても動じる事はない。

 

 

「ちょっといいか?」

「あん?命乞いか?出すもんは分かってんだろうな?」

 

 

革瀬がリーダー格らしきスキンヘッドに話しかけると更に調子に乗り出した。

路地裏に追い詰めた獲物を見て舌舐めずりしながら近づいてきた。

そして右の親指に丸めた人差し指の爪を突き立てるというジェスチャーをした。

 

これは、『見逃して欲しければ、有り金を全部よこせ!!』という意味だ。

だが、この後の展開を理解している革瀬は煽る様に返答をする。

 

 

「なんでわざわざ俺が1人で歩いていたのかまだ理解できないのか」

「あん!?なんだ?下に出てみれば調子に乗りやがって!!」

 

 

さすがに喧嘩売られたと理解したスキンヘッドの5人組は青筋を立てた。

このままでは、革瀬は袋叩きにされる…はずだった。

 

 

「ぐあああああああああああああ!!」

「ぐいいいいいいいいいいいいい!!」

「ぐううううううううううううう!!」

「ぐおおおおおおおおおおおおお!!」

「え?」

 

 

いざ、殴り掛かろうとした瞬間、勢いよく突っ込んできた存在に子分たちが吹っ飛んでいく。

ボーリングボールに衝突したピンのように飛んでいく4人は、芸術的だった。

路地裏の先の道路を越えて傍にある外壁に均等に減り込む姿は『汚い壁尻』に見える。

 

 

「え?え?E!?what's(ホワッツ)!?Occult(オカルト) people(ピーポー)!?」

 

 

唯一スキンヘッドのリーダー格だけ巻き込まれなかったが、呆然としていた。

思わず小学生が覚えてそうな英語すら覚えてない彼が思い出すほどにはショックを受けていた。

その様子を見た革瀬はネタ晴らしをする。

 

 

「今、ぶつかってきたの男鹿(おが) 辰巳(たつみ)だぞ。お前らだって知ってるだろ」

「お、男鹿だと!?」

 

 

男鹿辰巳、石矢魔高校1年生にして高校の最上位ヒエラルキー全てに喧嘩を売った男。

驚くほどの暴れっぷりに【アバレオーガー】という異名が他県すら響き渡るほどだった。

最近は、緑髪の赤子を背負う姿から【子連れ番長】と呼ばれる様になったが凶暴性は更に増した。

昨日も帝毛工業の不良のトップに「父さんー!魔王がいるよ!!」と叫ばせたほどである。

 

 

「な、なんで?」

「お前らがあいつに喧嘩売り過ぎたんだろ?今じゃ無意識にぶっ飛ばすほどになったって事だ」

「そんなバカな話があるかぁ!!じゃあなんでオレは見逃されたんだあああ!!」

「そりゃあ、壁に近いお前をわざわざぶっ飛ばすのが手間だったんだろ」

 

 

男鹿 辰巳という男は、目つきが悪いって事で昔から不良に喧嘩を売られていた。

その度に全て返り討ちにしてきた結果、【アバレオーガー】が誕生したという訳だ。

わざわざ路地裏を通ってきたのは、その方が邪魔する輩が少ないと思ったのだろう。

 

 

「俺が1人で歩いていたのは同行者が居たら巻き添えに遭うからだよ。分かったか?」

「ぐぬぬぬ…!」

 

 

少なくとも入学して来てから同級生を観察してきた革瀬はそう思った。

まあ、男鹿が登下校で不良に遭遇する確率は120%(必ず遭遇する上に20%で追加される)もある。

ゲームが大好きな彼がここまで暴れる理由になるには充分であった。

 

ここで一句!

男鹿辰巳(おがたつみ) ヘイト押し付け 楽しよう

 

という俳句にしてはあんまりであるが、実際に革瀬はこのノリで男鹿の通学ルートを歩いている。

実際、今回も含めて3回も達成しているので明日もやるつもりだった。

ただ、今回はなんか違和感があったが、それより不良にやるべき事をする。

 

 

「で?」

「で?って何だよ!」

「さっき子分たちの悲鳴って覚えているか?」

「ぐああ…とか?」

「さて問題だ!ぐあ、ぐい、ぐう、ぐお!後足りないのは何だと思う?」

 

 

突然、弱そうな奴から変な質問されてスキンヘッドは困惑した。

だが、さすがにこんな問題を解けないと思われるのは心外だった。

 

 

「ぐえ「正解!!」えええええええええええええええええほげええええ!!!」

 

 

自信満々に回答を告げると返って来たのは回し蹴りだった。

顎を強打されたスキンヘッドは、1秒間に4回転を何度か繰り返して壁に激突した。

噛ませ犬として比較するにはクリ〇ンに失礼なほど負けっぷりだった。

せめてここがアイスバーンで胴体の回転軸を90度に変更すれば金メダルが獲れたかもしれない。

でもそれより言いたい事がある。

 

 

「お前らのせいで俺らに対する聖石矢魔学園の評判が酷いんだよ!!」

「昨日の学園祭で暴れ回った挙句、散々迷惑かけて後片付けせずに帰りやがって!!」

 

 

説明しよう!

喧嘩を売って来た帝毛工業高校の皆さんは昨日も騒動を引き起こしていたのだ。

よりにもよって学園祭で一般にも解放されている時期に不良をフルコンプして襲撃してきた。

 

 

「学園祭かーたのしみだなー」

「お前ら、今日くらい大人しくしろよなー」

「「「おー!!」」」

 

 

石矢魔高校は創立3年目にして修学旅行が廃止されるほど問題を起こし続けた。

そのせいで始業式と卒業式以外の学校行事は全て廃止されてしまった。

ところが、編入先の聖石矢魔学園では石矢魔の生徒も学園祭に参加できる事となった。

もちろん、石矢魔勢のトップと学園が揉めているのでかなり厳しい条件が課せられた。

それでも石矢魔勢の不良たちはトップの顔に免じて条件を守って純粋に祭りを楽しんでいた。

 

 

「…って事は、オレら帝毛がガチれば、石矢魔の連中を退学させる事ができるじゃねぇか!!」

 

 

そんな縛りプレイをしていた石矢魔高校生徒に対して帝毛工業の不良たちは殴り込みをかけた。

彼らの目的は、石矢魔高校の生徒に喧嘩を売って全員、退学させようとしていたのだ。

しかし、不良の代表格である男鹿と学園の生徒会長、出馬によって問題を解決。

2つの高校の学生に喧嘩を売った元凶であるボス霧矢は、精神病院に入院している。

 

 

「最近の不良ですらペットのワンちゃんの糞を回収するぞ!!分かってんのかコラァ!!」

 

 

昔は憧れだった兄貴は、最近になって幸運を奪う疫病神だと発覚しました。

でも、こうやって鍛えてくれた肉体のおかげで糞未満野郎をボコボコにできます。

ありがとうお兄ちゃん!そして二度と俺に顔を見せるな!!借金押し付け●×野郎が!!

ゲシゲシと蹴り続ける内に兄を思い出して蹴りの勢いが増したが残念、相手は戦闘不能。

ずっと俺のターンからのオーバーキル状態が続いた。

 

 

「はぁ…すっきりした」

 

 

蹴り始めたから5分後、額に湧き出た汗を左手の甲を使って拭いた革瀬は路地裏から立ち去った。

残されたのは、額にネームペンで【負け犬】と落書きされた全治半年の重傷者であった。

まさに生き恥であり、2度と彼は石矢魔高校の生徒に喧嘩を売る事はなかった。

なお、搬送されら病院で暴れた過去があったので医師、看護師から誰1人同情されなかったとさ。

 

 

「おはようございます!!」

「あ、おはようございます」

 

 

校門を通過したら聖石矢魔学園の生徒から挨拶された革瀬は困惑した。

昨日の学園祭で大騒動を起こしたのにむしろ好感度は増していた。

以前は、学園の生徒と不良が揉め事を起こしてギクシャクしてたが…。

 

 

『これも男鹿と出馬会長のおかげだな。ああ、怖がられないって素晴らしいなー』

 

 

やはり、不良の代表格である男鹿と学園の生徒会長の芝居のおかげのだろう。

普通って素晴らしいな…と思いつつ玄関を通り自分の靴箱に向かった。

 

 

「オッス!革瀬BOY(ボーイ)!アハハハ今日もいい天気だな!」

「おは…おい大丈夫か?」

 

 

そしたら黙っていたらイケメンの部類に入る銀髪の男が挨拶をしてきた。

ただでさえ気持ち悪くて【キモ市】やら【痴将】と言われるのに挨拶すら酷い。

これには医者も匙を投げるほど手遅れの部類だなと感じても仕方がなかった。

 

 

「…って!【地の文】ですらオレの扱いが酷過ぎないか!?」

「どうした古市、男鹿に振り回されてテンションが狂ったか?」

「いやだってよ。学園の女の子から朝の挨拶されたんだぞ?これってオレに恋してるよね?」

「寝言は寝て言え。普通の挨拶だろうが!だからキモ市って言われるんだぞ」

 

 

そしたらいきなり変なツッコミを入れて来たので男鹿のせいで古市は疲れていると革瀬は思った。

なので理由を問えば、全身頭フルチンの返答が「ハイ!ストップ!!」…。

 

 

「ちょっといいか?せめてオレの自己紹介をしてから弄ってくれないか?」

「これじゃあ、全国の読者に銀髪の男は変態だと思われ…って無視すんな!!」

 

 

急に『字の文』やら『読者』やら変な単語を口出す古市に革瀬はドン引きしていた。

時折、街中で見かけるブツブツと独り言を呟く障害者だったらまだ扱いは考える。

赤色の手帳サイズに白色の十字にハートマークがある…つまり【ヘルプマーク】持ちなら分かる。

だが、本人の精神、肉体共に正常な男が急に電波みたいな事を発言すれば対応は変わる。

よって靴に履き替えた15歳の高校1年生は教室に直行する事にしたが…何故か古市も付いて来た。

 

 

「ん?そういえば…男鹿は一緒じゃないのか?」

「あんな暴力男なんて知りませんー!」

「あっそ」

「それよりさ!さっきさ!可愛い女の子にさ!『試合見てました』なんて声かけられちゃって!」

「うるさい黙れ」

 

 

こんな気持ち悪い男だが、自分より成績が一歩上回っているのだから腹が立つ。

念の為に男鹿の動向を暗に尋ねたら分からなかった以上、用はない。

どうせくだらない事を発言しようと察した革瀬は、古市の発言を一蹴し、教室に向かった。

 

 

「はぁ?」

 

 

黒板前に位置する教卓の上にある出席簿に出席者をチェックする担当は革瀬だ。

この教室には、どうせバカだからと1年から3年生までが集まっている。

つまり派閥、上下関係など考慮しておらず闇鍋状態の火薬庫と言えた。

そんな中で名前を書けば入学できて出席さえすれば卒業できるという石矢魔高校。

その出席簿の管理を先輩から認められている革瀬は目の前の出来事を理解できなかった。

 

 

『マジか!?』

『嘘だろ…!』

『何だアレは!?』

『また幻術なのか!?』

 

 

石矢魔高校で最強と謳われた東条 英虎、そして最凶の男鹿 辰巳。

その最強コンビをかついで教室に入って来た教師を見れば誰もが度肝を抜かれた。

石矢魔高校の中でも最上位ヒエラルキーに位置する不良たちは進展を見守るしかなかった。

 

 

『この無駄に格好つけているおっさん…何者なんだ』

 

 

『出席簿記入』及び『予定黒板記入』担当の革瀬 円泰も例外では無かった。

 

 

『なんだこのおっさん』

『セクハラ親父にしか思えんが…』

『やだ。うちの教師、適当過ぎ』

『県教育委員会に職務怠慢とセクハラを密告してやろうかな』

 

 

いざ会話をしてみれば若いネエチャンが大好きなガタイの良いおっさんだった。

自分から危害を加えてくる戦闘狂じゃないと判明した瞬間、生徒から舐められた。

どこまで弄れるかチキンレースすら開催寸前だったが、最強の2人を気絶させた事実は消えない。

ボロクソな評価をした『おっさん先生』もとい早乙女 禅十郎をボコる奴は居なかった。

 

 

「あー。バイトの時間だ」

 

 

そんな摩訶不思議な光景を見て充実した1日だったと感じてしまうほどであった。

あっという間に授業は終わりガラケーで時刻を確認した革瀬は下校してバイト先に向かった。

これから23時までバイトをして生活費と借金返済に繋げるつもりだった。

 

 

「マジかよ」

 

 

ところが、季節を感じさせるインフルエンザがバイト先で蔓延していた。

なので1週間は、バイトがなくなってしまい生活が苦しくなった。

 

 

「まあ、流行り病ならしょうがねぇな。東条さんのバイト先に短期間入れされてもらおうかな」

 

 

張り紙を見て回れ右をした革瀬は、安全地帯である県立の図書館で予定を再度組み直していた。

『休業なら連絡してくれよ…』と思ったが、そもそも石矢魔の学生は不良が多い。

徒党を組んで襲撃してくる可能性がある為、よっぽどの事がない限り連絡が来ないのだ。

それでも金が欲しいので先輩である東条さんのバイトに入れてもらおうかと考えていた。

 

 

「ん?」

 

 

すると突然、身体が一瞬だけ痙攣した気がした。

まるで巨大な静電気の塊のような物がぶつかってきたような不思議な感じであった。

 

 

「……気のせいか」

 

 

最近、身体がなまってるから違和感を覚えるのだろうと無視をして予定を考えていた。

そしたらいつの間にか日が落ちていたので仕方なく施設から出て帰路に着いた。

 

 

「あれ?」

 

 

普段なら気にしない事でも時刻によって気にする事がある。

見慣れない制服が目立つミニスカの金髪ニーソ女子が廃墟に入っていったのを偶然目撃した。

 

 

「こんな時間帯に?」

 

 

深夜の石矢魔市は、ガチでヤバい連中が徘徊している。

チンピラや不良、ヤクザが少ない時間帯は、薬物売買や海外のマフィアに遭遇する可能性がある。

一昔前だったら石矢魔高校の学生が居たので治安はそれなりだったが、現在は分散して手薄だ。

なので革瀬は親切心が半分、明日に話すネタを欲するのを半分とし、行動を開始した。

さすがに20分も経過しても出てこなければ何かあったと考えての行動であった。

 

 

『確か4階以降は老朽化で階段が崩落していたな』

 

 

興味本位で近隣の心霊現象、スポットなどを調べた経緯から革瀬はこの廃墟の情報を知っていた。

この世界では、幽霊や呪いよりも不良の方が強いので話題にはならないが、話のネタにはなった。

今回もネタにしてやろうと持参した懐中電灯で床を照らしながら進んで行った。

そして2階から3階に上がろうとしたら何か呻き声が聞こえた。

 

 

『さっきの…いや野郎の呻き声だな』

 

 

女には相応しくない糞みたいな呻き声からさっきの子が被害者じゃないと一蹴。

しかし、気になるのでもう少しだけ近づく事にした。

 

 

『コソコソ動く事はねぇな』

 

 

そもそも女の子に警告する為に崩れ落ちそうな廃墟に入ったのだ。

革瀬は堂々と靴音を立てて懐中電灯で目の前を照らして歩き始めた。

 

 

「クソ、なんかやったな!!」

 

 

奥の方から物音が聴こえて来て振動も何度か感じた。

既に異常事態ではあるが、ここで尻尾を巻いて帰るならここには来ていない。

不意打ちに警戒しながら進んでいくと大きな円柱の柱の裏から光が漏れ出しているのを発見した。

ここで退けば、面倒な問題に巻き込まれてなくて済むと本能が囁く。

 

 

『一体何が…』

 

 

そんな事に慄いていたら石矢魔市に住めないだろと本能をねじ伏せて柱の影から覗き込んだ。

そこに広がっていた光景とは…。

 

 

「【キラーマシン】阿部!?【石矢魔の双頭竜】真田兄弟!?【グッドナイト】下川まで!?」

「お前ら、こんな辺鄙(へんぴ)な場所で瞬殺されるキャラだったのかよ!?」

 

 

石矢魔高校が誇る【2年不良連合】が倒れ込んでいたのを目撃した革瀬は思わず叫んだ。

現役ヘビー級ボクサーを一発ノックアウトで5人抜きをしたキラーマシン阿部。

ナイフ使いの弟とチェーンソー使いの兄で石矢魔の勢力図を掻き回した問題だらけの兄弟。

風俗嬢を口説こうとして何故か出現する用心棒を店ゴト潰したその数は13件、オサレ系の下川。

どいつもこいつも自分のクラスメートだが、一応中堅であるはずの格の弱さに嘆いてしまった。

 

 

「あら、新手?今晩は相手が多いわねー」

 

 

この理不尽(じゃないと思われる)な暴力源と見られる女は笑っていった。

しかし碧眼は笑っておらず、いつでも殺せるぞという意志を表明をしていた。

ちなみに倒れ込んでいる不良たちは意識があり、声を聴いて革瀬の存在に気付いた。

 

 

「お、おい…革瀬。神崎さ…を呼ん…化け…だ」

 

 

意識が朦朧とするキラーマシン阿部は、知り合いに神崎さんの救援を願い出て気絶した。

 

 

「気を付けろ…そいつ。明らかにおかしい…痛…っ」

「オレらが瞬殺されたんだ。お前が勝てる相手じゃない…逃げろ…ぐふっ!」

 

 

真田兄弟は意外と敵対人物以外には優しいので、知り合いに逃走するように促して気絶した。

 

 

「革瀬……この僕が復帰するまで時間稼ぎをしてくれ。この子を僕の女にする為に頼んだ…?」

 

 

この中では比較的軽傷だった下川は、隣の席に居る奴を見つけて応戦するように促した。

だが、彼からは承諾の返答は無く代わりに返って来たのは何十回の蹴りであった。

 

 

「うるせよ!!お前のせいで香水の匂いが移って大変なんだぞ!!」

「それに何でお前の為に俺が被害を被らないといけねぇんだよ!!」

 

 

【グッドナイト】下川は、所持金と強さと持ち物以外は古市より劣化していると噂される。

なので古市と違って合法的に暴力を振るえる(?)という事もあり革瀬は躊躇いもなく攻撃した。

 

 

「グ、グゥ…グッナイ」~☆

「こ、こいつ、一番の見せ場を理解して決め台詞を言って気絶しやがった!?」

 

 

「キラン」というオノマトペをウィンクで表現したかと思えば双瞼を閉じてドヤァ顔を気絶した。

まさに自分の役目を全うしたというやりきった感のせいで革瀬は何故か敗北感を味わった。

残ったのは、トイレに設置してある業務用の消臭剤を全部ぶっかけた様な匂いと無音だけだ。

 

 

「あらあら、お知り合いに対して非情過ぎない?この私に用があったんじゃないの?」

「1人で夜中に出歩いていると【こんなの】に遭遇するって忠告したかっただけだ。他意は無い」

「ふーん、本音は?」

「明日に話すネタができて満足した」

「下等な人間らしい回答をもらえて満足よ」

「おいおい、ここで目立つ行動を起こすと大物に目を…っ!?」

 

 

まるで自分が人外だと表現する自信過剰の女に忠告しようと顔を見る。

すぐに彼は、本能で実感してしまった。

目の前にいる存在は、実際に人外であり彼女によって自分の命綱を握られている事に。

一瞬だが、あの男鹿に匹敵する殺意を向けられた革瀬は両手を挙げて投降した。

 

 

「なるほど…俺が生還できるのはあんたの気分次第って事か」

「下等な存在の癖に良く気付いたわね。あえて泳がせたのも今気付いたようだけどもう遅いわよ」

 

 

金髪の縦ロールで碧眼という白人のお嬢様を彷彿させる絶世の美少女。

しかし、あまりにも顔が整い過ぎて逆に人外である事を示すほどに不気味だった。

 

 

「まあ、1つの質問を答えてくれたら見逃してもいいけどね」

「へぇ、回答したところで用済みになって()()されるんじゃないか?」

「悪魔は契約にうるさくてね。その点は保障してやるわよ。で?やるの?やらないの?」

 

 

目の前に垂らされたアリアドネの糸であるが、掴まない方が良いのかもしれない。

自分を【悪魔】と表現した女にボコられても死なないのは()()を見れば分かる。

むしろ、その方があっさりとこの女との縁を切れそうな気がしなくもない。

 

 

「ああ、分かった。俺が分かる範囲で答えるよ」

 

 

だが、誰だって痛い思いをするのは御免である。

彼もまた無害で済むなら情報を漏洩するくらいの口の軽さはあった。

 

 

「ねえ、緑髪の赤ん坊ってこの辺りで見た事が無いかしら?」

 

 

質問の回答があの男鹿と一緒に居る赤子なんてすぐ分かった。

そもそも日本国籍で緑髪の赤子なんて限られるに決まってる。

女の顔を見れば、可愛らしさと妖艶さに紛れて残虐な感情が見え隠れしている。

質問を受けた革瀬は一呼吸置いてから返答をした。

それが自分の人生を大きく変えるとは知らずに…。

 

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