【ベヘモット34柱師団】お嬢様剣士ティリエルの憂鬱   作:Nera上等兵

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3話 人間はおバカな生物です!

人間界基準で時を遡る事、4時間半前。

ナーガ班による独断行動を受けて開催された緊急会議では緊迫した空気が流れていた。

曲者揃いの猛者たちですら冷や汗を掻く異常事態であった。

そんな中、ベヘモット34柱師団のティリエル柱将は、上官たちに対して提言をする。

 

 

「ナーガ班の独断行動も問題ですが、第二王子の契約者も気になります」

「調査結果によると王宮のデータベースには未だに契約者の名前が登録されておりませんでした」

「これがこの証拠ですわ」

 

 

会議に参加した柱将たちは、ナーガ班の処罰に対して討論していたが彼女は違った。

第二王子の契約者になった人間も注目するべきだと提言した。

反論の余地を与える前にその根拠となる資料を同格や上官たちに配れば、無視などできやしない。

 

 

『ふふふ、これで他の柱将よりは発言力は増したわねー』

 

 

本来であれば、こんな適当な発言は許されなかった。

しかし、アギエル柱将と避けるルートで彼女は偶然、王宮データベース管理者と遭遇。

その瞬間、王宮のデータベースに契約者名の記入を義務付けられているのを思い出した。

これは、過去に人間と契約した大悪魔が魔界で暴れ回った過去の事例が起因している。

 

 

『良い事を思い付いたわ!!』

 

 

通路で管理者とすれ違う間に作戦を練った彼女の行動は早かった。

猫を被って優しく管理者にお願いし、調べてもらった結果、未だに該当者なし。

だが第二王子に仕えるトップエリートの【侍女悪魔】ヒルデガルダがそんなミスをする訳がない。

その結果に対して導ける答えは2つだと彼女は考えた。

 

 

「確かに妙ですね。いくら赤子であろうとここまで契約者の選考に苦戦するとは思えません」

「それにティリエルさんの言う通り、契約者のデータがあればナーガ班も動く事はなかったです」

 

 

幸いにも柱爵の中で部下から最も慕われているケツァルコアトル様が意見を肯定した。

人間界で例えると曲芸師のような化粧をしているが、この世界では戦化粧と同等な扱いであった。

ともかく彼が賛同したとなれば、同じく頭脳戦が得意なアイツも乗って来る。

 

 

「確かにおかしいねー。何でデータベースに無いんだろ?も、し、か、し、て、意図的とか?」

 

 

いつも笑顔だが腹黒いサラマンダー柱爵は、わざわざティリエルの顔に向かって発言した。

これは『君なら分かるよね』と『君みたいに強かな事をやってるんだね』という意味合いを持つ。

 

 

『…こいつは真っ先に追放処分してやりたいけど…我慢我慢!』

 

 

おちょくるように笑う仕草は人間だけではなく悪魔にも苛立たせる効果がある。

ただ、この場では一個人として意見を表明している立場なので彼女はニッコリ笑うしかできない。

 

 

「ティリエルは、この結果を受けてどの様な考えをお持ちになられたのですか?」

 

 

助け舟を出すようにレイミア副団長直々の質問を受けたティリエルは自信満々に返答をする。

 

 

「データベースに載ってない理由は、大きく2つに絞られますわ」

「2つ?」

「まずは、我らの主“焔王”様の脅威になるどころか歴史上で最弱の契約者という可能性です」

 

 

契約者の名前を載せないとなると、後ろめたい動機と目的が存在すると相場が決まっている。

真っ先に疑われるのは、契約者が弱すぎて載せる価値すらなかったパターン。

人間界で「悪魔と契約した」と発言する人間の9割以上が偽者、もしくは狂言である。

無事に悪魔と契約できたのは1割未満の人間で強者は、更にそこから1割にも満たないと見て良い。

 

 

「要するに第二王子と契約できる素質と強さが一致しなかった…いやそれだけじゃない」

「それはあくまで仮である為、本命を発見するまで登録しなかったというのか?」

 

 

冷静な判断力で女柱将から人気の柱爵、応龍からの発言によって空気が変わった。

主のライバルである契約者に関しての話題を聴いている内に耳を傾ける者が多くなった。

これはティリエルも予想していなかったが、せっかくなのでビックウェーブに乗る事にした。

 

 

「さすが応龍様、ご明察通りですわ。数少ない証拠で導ける洞察力を心底感服いたします」

 

 

両手の掌を合わせて微笑みながら柱爵を立ててつつ彼女はこっそりと自分も持ち上げた。

これに対してつまらなそうな視線で見つめるのは、【第1の柱】アギエル柱爵である。

彼女は、同じ班の同僚が自分を差し置いて勝手に盛り上がっているのが気に食わなかったのだ。

 

 

「でもさ!それだったら一度、大魔王様の方に報告が行かないかな?」

「だって第二王子の魔力を増幅させる道具を貸し出せば、少しはマシになると思うんだけどー!」

 

 

相変わらず生意気な女による急所を突く発言を受けてもティリエルは動揺しない。

むしろ、アギエルがそう発言してくると予測して返答を事前に用意していた彼女に隙は無い。

 

 

「それは道具に頼らないと大魔王様の勅令を達成できないとの発言と受け取ってもいいかしら?」

「うっ!」

 

 

ベヘモット34柱師団の護衛対象、焔王様に置き換えてみれば分かる事だ。

せっかく大魔王から勅令を授かったのに道具が無いと目的を達成できないと逃げ帰るという愚業。

これでは、王位を任せるどころか王国民に舐められかねない失態である。

嫌味を言ったつもりでカウンター攻撃を喰らったアギエルは呻いたが、すぐに黙り込んだ。

 

 

「まあ、契約者が最弱であるならば、焔王様の障害にはなりませんので問題はありませんけどね」

 

 

ここでティリエルは、自身の発言にあえてツッコミどころを用意した。

まるで焔王様の脅威ではないなら良かったのに…みたいな受け取り方もできる台詞を吐いている。

これは、注目されてしまった故に発生した自分に向けられたヘイトを分散させる行為である。

 

 

「おいティリエル!それじゃあ契約者が焔王様の脅威になるって言っているもんじゃねェか!」

「ワスボガ柱将!私が危惧しているのは、その可能性なのですよ」

 

 

熱血な格闘家でお馴染みの【第21の柱】ワスボガが喰らい付いた。

それに感謝をしつつティリエルは結論を述べた。

彼女の爆弾発言に驚いたり、眉を潜める柱師団の幹部たち。

しかし、副団長もケツァルコアトル柱爵も応龍柱爵もサラマンダー柱爵ですら黙り込んでいた。

これを受けて34柱師団の上層部は、その可能性を恐れていると柱将達は気付いてしまった。

 

 

『フフフ、危機感を煽って動揺させるのはいつ見ても楽しいわねー』

『…さてと、仕上げといきますか!』

 

 

ここまで来れば、あとは善意に付け入るのが得意な彼女の独壇場だ。

組織である以上、上位幹部の数名と大量の下っ端を味方にすれば意見のゴリ押しができる。

彼女は、同僚を心底に見下しつつも本音と建て前を交えて演説をする。

 

 

「今思えば焔王様ではなく第二王子様に大魔王様の勅令が下ったのは異常だと気付くべきでした」

「今なお我々は、第二王子様の活動記録どころか契約者の名前すら把握しておりません」

「それどころか大魔王様が不甲斐ない我らに配慮されていれば未だに異常に気づきませんでした」

「これはベヘモット34柱師団が創設されて以来、由々しき事態となりますわ」

 

 

まずは、主君より遥かに幼い第二王子に大魔王から勅令があった事自体が可笑しいと指摘する事。

もちろん、あの大魔王様は適当な思い付きで行動したのだとティリエルは理解している。

しかし、同僚たちを焚きつけて闘争心と不安を煽るには最適であった。

そう、第二王子の契約者が焔王の脅威となると危機感を覚えたナーガ柱爵と2名の柱将のように。

 

 

「今こそ我らベヘモット34柱師団を有する焔王様こそが王位継承1位と示すべきです!」

「それこそ魔界だけではなく人間界にも!焔王様の名と偉業を実績で示すべきですわ!」

 

 

忠誠を誓っていない焔王の名前を出すのは苦痛だが、それで一致団結するなら苦労してもいい。

現に柱将を中心に「その通りだ」やら「やってやるぞ」という私語が聴こえて来た。

副団長と複数の柱爵の表情を読み取る限りは、反論はないようだ。

 

 

「その一手として、第二王子様の契約者の情報収集とナーガ班の対処をするべきと提言致します」

「恐れ多くもこの大任、【第19の柱】ティリエルにお任せくださいませ!」

「必ずやベヘモット…いえ、焔王様の名に懸けて任務を遂行してみせますわ」

 

 

要約するとベヘモット34柱師団の合意の元にティリエルは、単独で人間界に向かおうとしていた。

なお、彼女としては焔王も契約者もどうでも良いと思っている。

では、何故やる気がないのに名乗りをあげたのか。

 

 

『厄介なライバルを2名と上の席が1つ空けられるなんてやるに決まってるじゃないのー』

 

 

むしろ、同僚2名とその上官の席を自分の手で引き摺り落とせる快楽が勝っていた。

同僚から一歩リードしたティリエルは、人間界での活動で更なる実績を得ようとしていた。

この場に大魔王が居たら「あれ?おかしくねぇ?」と一瞬で彼女の野望を粉砕できたであろう。

だが、大半の柱将の支持を得た彼女は、合法的に人間界へ出撃できる事となった。

魔王軍の側近である次元転送悪魔の力を借りて彼女は人間界へと旅立ったのであった。

 

 

-----

 

 

「うわ…臭い。ホント人間界ってゴミ以下の匂いなのね」

 

 

さっそく人間界に降り立ったティリエルは、いきなりやる気が失せた。

まず人間界は臭かった。

良く分からない金属の塊から出る排気ガスで鼻が曲がりそうだった。

そして空気も悪くて長居すると全身が穢れる感じがした。

 

 

「まあ、運命が私の野望を阻もうというのなら抗ってあげるけどね」

 

 

しかし、その程度の困難など容易く乗り越えられる彼女は、すぐに鼻を順応させた。

そして気が変わらない内に前もって練っていた計画を発動する。

まずは、同僚たちと人間界に残る下級悪魔、そして契約者の魔力を探知しようと試みる。

 

 

「……意外と魔力を持つ者が多いのね。これはさすがに想定外」

 

 

3つの大きな魔力は、ベヘモット34柱師団の構成員が発しているのは、分かっている。

しかし、予想以上に魔力を持つ者がおり、空気を使って探知するやり方では非効率であった。

人間界でも治安が悪いと事前に知っていたが、下級悪魔と人間が交配した子孫が多すぎたのだ。

悪魔の血が流れる住民が多いのであれば、人間界でも最悪の治安になるのは当然といえよう。

 

 

「仕方ない。魔力レーダーの出番ね」

 

 

某7個の橙色ボールを集める道具にそっくりな丸い小道具をジャケットのポケットから取り出す。

限られた範囲しか魔力を感知できないのは難点だが、魔力を識別できる便利機能は素晴らしい。

特に魔力の潜在能力というスペックさえ調べられるのは、情報戦ではかなり有利だ。

ナーガ班は、原始的な魔力感知を用いている以上、探知では彼女が一歩リードした形だ。

 

 

「この近くだと…この辺りか」

 

 

ティリエルが目を付けたのは、当然、王家の魔力の持ち主…ではないが潜在能力が高い人物だ。

最初から継承者や同僚と遭遇する気はない彼女は、こいつに注目して罠を仕掛けようとしていた。

継承者が無意識に発する魔力より上…つまり魔力を放出しているのでこの上ないカモであった。

 

 

「あいつら、バカ正直だから魔力がデカい方に来るんでしょうねー」

 

 

いくら魔力を感知されないようにしているとはいえ顔見知りでは分が悪い。

よって、一番囮として最適そうな存在を利用し、攻めて来るのを見守るだけでいい。

 

 

『同僚たちに説明したのと違うけどバカ正直にやるわけないじゃない!』

 

 

彼女からすれば、第二王子の契約者が勝とうが、柱将や柱爵が勝とうが知っちゃこっちゃない。

欲しいのは、王国上層部に提出する証拠である。

命令を無視して独断で動いたという証拠があれば、彼らを席から蹴落とす情報になる。

 

 

「うーん、背に腹は代えられないか」

 

 

下級悪魔の子孫と思われる魔力所持者の居る工事現場には入りたくはない。

だからといって見下している人間とは一切関わりたくない。

悩んだ末に一番近くて身を隠しやすい場所…廃墟を選んだ。

 

 

『……誰か私を見ている。まあ、活動時間的に妨害にはならないでしょ』

 

 

そして廃墟に入ろうとすると背後で懐中電灯を道路に照らして歩いてくる男を感知した。

しかし、敵意が無いのと放置しても問題ないと判断し、そのまま廃墟に入っていった。

そしてバカ正直な3名が勝手に暴れるのを待つだけのはずであった。

 

 

「失敗した……」

 

 

奥に進むと何故か部屋の中央に角灯を設置して4名の若者が酒盛りをしていた。

崩落の危険があると一目見て分かったので無人と確信し、感知をサボった彼女の落ち度ではある。

度胸試しならまだ理解できるが、この4人組は秘密基地で遊んでいるノリで楽しんでいる。

これにはティリエルも頭が痛くなってくるが、下等な生物の行動など理解できるわけがない。

そう割り切って来た道に戻り、彼らが居ないフロアに待機しようと歩き出した。

 

 

「ん?この香りは……おっ!べっぴんさんが居るじゃーん!」

「え?下等な人間に発見されるなんて…」

 

 

しかし、女である以上、【グッドナイト】下川の鼻レーダーからは逃げきれなかった。

わざわざ暗闇の中を走り抜けて自分を発見するなど彼女にとって予想外過ぎた。

 

 

『これは課題にしないとね…』

 

 

自分に相応しくない失敗続きの彼女は後で教訓と対策を考えると決めた。

そしてこっちに向かって無駄にポーズを決めている男を無視して立ち去ろうとした。

 

 

「おい!!待て!!俺らの基地に用があるのか!?」

 

 

今度は先回りした【キラーマシン】阿部が出入り口の前に立ち塞がった。

自慢の体格で出口を塞ぐその姿は、一般人からすれば恐怖以外に何物でもない。

 

 

「なんだよ下川!女を連れて来てるならオレらにも噛ませろよ!」

「弟よ!あの下川に女が出来る訳ねぇだろ!」

 

 

真田兄弟は、近頃相次ぐ不審者に警戒して得物を手に取りながら笑っていた。

ストレートに下川をバカにしているが彼はバカなのでバカにされているのに気付いていない。

 

 

「ノン!ノン!ノン!この子が俺の女になるのさ!」

 

 

現に指を振りながらウィンクをする下川の発言を聴けば、誰もがそう思う。

人間の事を下等生物と見下すティリエルですら脱力してさっさとこの場を去りたくなった。

しかし、せっかく第一村人発見…じゃなかった人類と接触したので質問をする事にした。

 

 

「ねえ、緑色の髪をした赤子って見た事ない?最近、ここで話題になっていると思うんだけどさ」

 

 

こんな質問をしているが、既に第二王子の居場所は特定しており、その気になれば逢いに行ける。

ここで彼女が質問した意図は、契約者の情報を少しでも引き出す為である。

 

 

「おーい!兄貴!俺たちが赤子だってさ!」

「ぎゃははは!そいつはひでえな!!」

「そうか、君は緑髪の子が好きなんだね。でも赤ん坊に毛染めは似合わないよ!」~☆

「アカゴって何だ?食えるのか!?」

 

 

言語は通じているはずなのに会話が成り立っていない。

争いは、同じレベルの者同士でしか発生しないというが会話も同じなのだろうか。

確かに目の前に居る2人は緑色の髪だが、ここまで煽り散らされるとは思わなかった。

 

 

『ん-。これって私の質問の仕方が悪かったのかな…?』

 

 

思った以上に人類のレベルが低くて困惑するティリエルであった。

そんな戸惑う女の子を見た野郎共は、ここぞばかりに追撃を仕掛けてくる。

 

 

「へい!カワイコちゃん!俺と一緒にグッナイしてみないかい」~~☆

「俺!強い!お前!弱い!アカコぶっ飛ばす!!」

「ぎゃははは!!お前、どこ校だよ!!マヌケの親御さんに喝を入れてやるーぜー?」

「止めなよ兄貴!こいつビビってるって!ヘヘヘ!」

 

 

エリート中のエリートにしてレイミア副団長の直属の部下であるティリエル様。

只今、下級生物である人類の中でも低俗なド底辺共に言われも無い誹謗中傷を受ける。

ただでさえ曲者揃いのベヘモット34柱師団の連中を言葉巧みに騙して疲弊しきった直後である。

あまりにも格下の存在による煽りによって怒りのボルテージは急激に上昇した。

 

 

『この下級生物が……』

 

 

しかし、いつでも自分が可愛いと自覚する彼女は、そう簡単には淑女の顔を崩さない。

だからといって悪魔をコケにされた以上、ケジメが必要であった。

とりあえずヘラヘラと自分に向かって来る2人の額にデコピンを1発かましてやった。

 

 

「ぶほぉ!?」

「ぐはっ!?」

 

 

デコピンされた勢いで床にも天井にもぶつからず宙を舞った2人は10秒後に物理法則に囚われた。

すなわち重力に基づいて落下し、床に叩きつけられて戦闘不能になった。

 

 

「よくも!!あれ?なんだっけ!!まあいい!こいつとあいつの痛みをかえしてやる!!」

 

 

真田兄弟の名前を覚えていない阿部は、目の前に居る女に向かって突撃した。

余談であるが、左顔の頬に傷があるのがチェーンソー使いの真田竜一(兄)。

眼鏡をかけて右頬に傷があるのが真田竜二(弟)で2人共、緑髪である。

 

 

「ぬわーーっっ!!」

 

 

…と真田兄弟を説明している間にキラーマシン阿部もデコピンで瞬殺された。

最後に残された【グッドナイト】下川が取った行動とは…。

 

 

「もう、オレと2人っきりになりたかったらそういいなよ。」~☆☆☆

 

 

当然、噛ませ犬として全う…じゃなかったいつも通りの下川であった。

何度もウィンクしているせいで逆に中途半端に整った顔が台無しである。

 

 

『うわ……人類ってこんな低レベルなの』

 

 

右手を額に当ててピースをしている男を見て女悪魔は、人間のレベルの低さに呆れ果てた。

殺したら負けの様な気がしたが、最後に残った無駄に香水が臭い男は強敵だった。

素手で触りたくないし、愛剣の刃ですらこんなの血で汚したくない。

 

 

「やっぱ、オレが好きだったんだねー!今行くよハニぶほっ!?」→↑↓~☆

 

 

よってティリエルが取った行動は、デコピンで空気を弾いて下川にぶつける事だった。

勘違いで動いている下川は、相手が自分に惚れているとわざわざ近づいてしまった。

そのせいで空気弾が胸部に直撃を受けて一度上に跳ねた後、床に落ちて悶絶した。

 

 

『……まだ居るの?』

 

 

偏差値15、100万人中99万9841位くらいの成績の連中と相手をした彼女は別の意味で疲弊した。

そのせいか、これで終わったと思ったティリエルは、新手がすぐ傍に居るとようやく気付いた。

またバカがやってきたのかとうんざりして身構えたが、今回は問題なさそうだ。

 

 

「うるせよ!!お前のせいで香水の匂いが移って大変なんだぞ!!」

「それに何でお前の為に俺が被害を被らないといけねぇんだよ!!」

 

 

他者の自己犠牲を強いる香水が臭いナルシスト野郎にツッコミを入れる判断力。

そして理性的な発言とは裏腹に暴力で止めを刺す場所を見ればすぐ分かる。

なによりスカッとしたのでこの場に居る奴らよりはマシだと判断した。

 

 

「あらあら、お知り合いに対して非情過ぎない?この私に用があったんじゃないの?」

「1人で夜中に出歩いていると【こんなの】に遭遇するって忠告したかっただけだ。他意は無い」

「ふーん、本音は?」

「明日に話すネタができて満足した」

「下等な人間らしい回答をもらえて満足よ」

 

 

この建物に入る時を目撃した人物は、自分に忠告をしてきたのだと目線を見れば分かる。

さきほど相手にした4人組と同じ制服を着ている点以外では、怪しい所はない。

何より会話がしっかりと成り立っているのに感動したティリエルは、1つの賭けに出た。

 

 

『これに気付くかしら?』

 

 

彼女は顔の表情を一切変えずに殺意を彼に向けたのだ。

これは一種の生物が持つ本能のテストである。

 

 

「なるほど…俺が生還できるのはあんたの気分次第って事か」

「下等な存在の癖に良く気付いたわね。あえて泳がせたのも今気付いたようだけどもう遅いわよ」

 

 

脳みそまで筋肉だったり無駄に戦闘狂であれば、逆効果の挑発である。

今回は、彼が下手に出たので交渉できる人物だと判明し、質問の返答に期待できると分かった。

…さっきが酷過ぎただけなのだが、彼女は人類のレベルが知らないので手探りで接している。

 

 

「まあ、1つの質問を答えてくれたら見逃してもいいけどね」

「へぇ、回答したところで用済みになって処分されるんじゃないか?」

 

 

男が質問の真意を探っているのも彼女は高評価した。

悪魔にとって契約は生命線と言っても過言ではない。

だから、軽率に契約にサインする人物ではないと分かりご満悦になった。

 

 

「悪魔は契約にうるさくてね。その点は保障してやるわよ。で?やるの?やらないの?」

「ああ、分かった。俺が分かる範囲で答えるよ」

 

 

ここで「何でも答える」とか口にしたら質問せずに先人の後を追わせるつもりだった。

意図せずに革瀬 円泰は命拾いしていたどころか、悪魔の機嫌を良くする事に成功した。

 

 

「ねえ、緑髪の赤ん坊ってこの辺りで見た事が無いかしら?」

 

 

さっきの反省点を踏まえた質問を黒髪の青年にぶつけた。

かなり戸惑った顔をして事情を知っていると察してティリエルは微笑む。

もうじき始まる大惨事を期待しつつも、その間の暇が潰せそうで嬉しかったのだ。

 

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