【ベヘモット34柱師団】お嬢様剣士ティリエルの憂鬱   作:Nera上等兵

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4話 ご契約は計画的に

「ねえ、緑髪の赤ん坊ってこの辺りで見た事が無いかしら?」

 

 

たった1つの質問ではあるが、革瀬 円泰は心当たりがあった。

同級生の男鹿 辰巳という人物が子育てしている赤子。

何故か全裸であるが、緑髪でどんな不良を見ても恐れない肝っ玉がある子である。

 

 

「ああ、見た事がある。確か【子連れ番長】って呼ばれている奴が育てている子だ」

「その番長ってどんな人物なの?」

「おいおい…質問は1個だけってさっき言ったじゃないか。約束を破るのか?」

 

 

しかし、これ以上の話題を引き出させるわけにはいかない。

表情1つ変えずに質問を変えて来た金髪の女に対して革瀬はツッコミを入れた。

碧眼が一瞬揺らいだ気がするが、すぐに彼女は口角を釣り上げて笑った。

 

 

「あらあら、記憶力が良いのね」

「そこら辺で転がっている奴らより記憶力があると自分で思ってる」

「じゃあ訊き方を変えようかしらね。私が知りたいのは【育て親】の方よ」

 

 

ティリエルもせっかく手に入れた情報を無駄にしない為に私情を殺した。

あくまでも彼女がメインなのは、同僚の暴走した証拠集めである。

今やっているのは、ついでに第二王子の契約者の情報収集をやっているだけだ。

【子連れ番長】というワードを手に入れただけで充分であった。

 

 

『でも、まだ情報は引き出せるはず』

 

 

目の前に居る人間が警戒しているのは自分が赤子に危害を加えるという可能性である。

ならば、その不安を払拭させればもう少し情報を引き出せると踏んだ。

現に暴走している連中も狙いは契約者だけで第二王子に危害を加える気はない。

 

 

「あなたも気付いていると思うけどその育て親って強いでしょ?」

「ああ、そうだな」

「だからその人について尋ねても返答が無い時があるの」

「そりゃあ、あいつの話題を出したくないよな…」

「だから話題を変えて質問したのよ」

 

 

少なくとも大魔王の次男が弱い奴と契約しているわけがない。

なんなら人々から恐れられている人物が契約していると断言できる。

なので、あえてティリエルは質問を変えたのは否定せずに本音を告げた。

 

 

「で?その育ての親ってどんな人物なの?」

「目つきと頭が悪い黒髪の高校生さ。売られた喧嘩は全部買うような性格だ」

「逆に言えば、喧嘩を売られない限り無害ってこと?」

「ああ、あいつはゲームが大好きだからな。普通に接していれば無害だと思うぞ」

 

 

話を聴いていた革瀬もいずれ誰かが暴露するくらいの話題なら話す事にした。

あっさり情報を出したのは、勿体ぶっていると逆に攻撃されると思ったからだ。

せっかく図書館で明日以降の予定を考えたのに病院送りされるのは御免であった。

 

 

「凶悪な人物だと聴いたんだけど、意外とそうでもないの?」

「この地域じゃ有名な高校生さ。石矢魔高校の四大勢力全てに喧嘩を売った狂犬さ」

 

 

質問の返答を聴いていたティリエルは、頭の中で人物像を組み立てた。

【高校生】という身分で目つきが悪い黒髪の男。

石矢魔高校という場所に居る四大勢力に喧嘩を売るほど好戦的な性格。

しかし、普段は無害という事から四大勢力に喧嘩を売ったのは理由がある。

そして第二王子に実力で認められているのは間違いないだろう。

 

 

「ありがとう。これで充分よ」

 

 

本当は名前も知りたかったのだが、そこまで踏み込むと逆に口を閉ざされる可能性がある。

ようやくまともに会話ができたティリエルは、それ以上の詮索を避けて今後を見据えてた。

 

 

「じゃあ、そういう事で!」

 

 

質問が終わった以上、革瀬はこの場所に長居する気はなかった。

気絶した不良4人組などほっといてさっさと自宅に戻るつもりだった。

無害をアピールするように女に背を向けた彼は、早歩きで出口を目指す。

 

 

「痛っ!!」

 

 

突然、左手首に激痛が迸り懐中電灯で照らすと出血をしていた。

慌てて自称【悪魔の女】を見ると双剣の刃から血が滴り落ちていた。

キング・ブラッド×イ大総統の剣術かよ…とツッコミたくなるほど早業である。

 

 

「おい、見逃してくれるんじゃなかったのか!?」

「見逃すとは言ったけど危害を加えないなんて一言も言ってないわよ」

 

 

さきほどとは違って自分を嘲笑う女を見てゆっくりと革瀬は後退りをする。

正直に言って勝ち目がないので無難な会話をして時間稼ぎをするのが精一杯だった。

もちろん、それを見抜かれているのは分かっている。

 

 

「この廃墟にわざわざ入って来たって事はまだ時間があるのでしょ?」

「ああ、後悔しているところだ!」

「もうじき面白い事が起きるからもう少しだけ私と付き合いなさい」

「はぁー。今日はツイてないな…」

 

 

悪魔の女が楽しそうに刃を見せつける様に双剣を回していた。

一歩でも動けば胴体を切り捨てると言わんばかりに隙が無い。

仕方なく革瀬は観念したかのように肩を竦めてから床に座り込んだ。

 

 

「ほら来た!!」

「なんだ!?」

 

 

突然、凶悪な気配が複数、感じ取れた。

漫画で例えると強大な存在がオーラを剥き出しにして出現したような感じだ。

未だにビリビリと痺れる感覚は、さきほどの気配が嘘ではないのを示していた。

 

 

「なんだ今のは…」

「そうね、私と同じ存在って言えば分かるかしら?」

「悪魔かよ…」

「正解!下等生物にしてはやるわね」

 

 

そして女から同格の存在が暴れ回っていると聴き彼はうんざりした。

自分の様な被害者が他に居るのもそうだが、五体満足で帰れそうにないと分かったからだ。

 

 

「あっ、勘違いしないでね。私は暴れ回るバカを監視し上層部に報告する立場なの」

 

 

物分かりが良い故に自分もバカと一緒にされたくないティリエルは傍観者だと説明する。

あくまで監視役なので戦闘に参加する事はしないし、だからといって無視をするわけにもいかない。

調停者気取りの女は、目の前の男をどう使い捨てようか考えつつも動向を伺っていた。

 

 

「で?俺をどうしたいんだ?」

「私の代わりに悪魔が襲撃してきた場所に行ってもらおうかしら」

 

 

自分の処遇を問う男を見てティリエルは名案を思い浮かべた。

さきほどの質問でこいつは第二王子の契約者と接点があるのは分かっている。

ならば、彼を派遣して証拠を集めさせればいいと考えた。

 

 

「俺に死ねって事か?」

「死んで欲しいならさっさと殺してるわよ」

 

 

既に『仕込み』が終わってるのでどう扱っても問題はない。

しかし、せっかく手に入れたカードを切らずに帰るのは勿体ない。

なのでさっそくティリエルは手駒を利用した。

 

 

「良い?この近くにここと同じような空き地があるんだけどさ!」

「そこで私の上着と同じような物を着けている悪魔と悪魔の子孫が交戦してるの」

「あなたにやって欲しいのは、その激戦があった証拠集めをして持って帰って欲しいの」

 

 

交戦してえぐれた土塊や落とし物などの採取などはあえて口に出さなかった。

そんな事をしなくても目の前に居る男には伝わると思ったからだ。

 

 

「ここと同じところ?…そういえば工事現場があったな」

 

 

革瀬も悪魔の話を聴いて工事現場が近くにあるのを思い出した。

こことは違って資材置き場の現場であるのでこっそり立ち寄っても問題ないところではある。

 

 

「さあ、剣の錆になる前に行ってきなさい。決して逃げきれると思わないでね」

 

 

自分が指示するまでも無く立ち上がって出口に向かっていく男の背後から警告を告げた。

その後ろ姿が見えなくなった後、ティリエルは魔力レーダーの画面を見て動向を見守っていた。

 

 

「クソ…また戻らないといけないのか」

 

 

工事現場に向かって走る革瀬は、思わず愚痴を溢すほどやる気は無かった。

せいぜいガラケーで現場を撮影して戻るつもりであった。

 

 

「ん?あれは神崎さん?」

 

 

廃墟から出て20分もしないうちに工事現場に辿り着いた。

そして中に入ろうとした時、意外な人物が物陰に隠れているのを発見した。

石矢魔高校四大勢力の一角、神崎 一が用心深く何かを伺っている様子であった。

ついでにうちのクラスにいる不良の女も居るがそれは良いだろう。

タダならぬ事態が発生していると察した革瀬は、彼らに発見されないように別の物陰に隠れた。

 

 

『一体何が……あれは!!』

 

 

そして何が起こっているのか恐る恐る物陰から顔を出すとあり得ない光景を見てしまった。

石矢魔高校の四大勢力の一角にして【最強の男】と称された東条 英虎。

そして聖石矢魔学園の生徒会長にして空手部主将である出馬 要。

その2人が、たった1人によって一方的に暴力を受け続けていた。

 

 

『あの東条さんを一方的に……やはり悪魔だったか』

 

 

逆立った黒髪が印象的な男による暴力で【石矢魔最強の男】が吐血している。

それだけを見て目の前に居るのが人外だと分かった。

ご丁寧にもそれより若そうな人物も傍観しており、まだ本気すら出していない。

廃墟で出会った女と似た様な服装なので彼女の言っていた『バカ』とは彼の事だろう。

 

 

「フン、くたばったか」

「……行くぞ。グラフェル」

「ああ、わぁっているよ!!」

 

 

東条がうつ伏せで倒れ込んだのを見て逆立った髪型の男が吐き捨てる様に呟いた。

その人物より若そうな男が指示を下しているのを見て彼の方が偉いように感じられる。

ようやく終わったかという発言であるが、未だに敵は残っている。

 

 

「虎!!出馬君!!」

 

 

聖石矢魔学園の七海 静副会長が居るのに平然として無視をしていた。

その事実は彼らにとっては、彼女が居ないに等しい戦力差だと暗示している。

少なくとも彼らに手を出そうとする輩は居なかった…。

 

 

「待てよ……まだ終わり…じゃ…ねぇ…逃げるんじゃねぇよ…」

「何言ってんの!?もう無理に決まっているでしょ!!」

 

 

いや、手を出す奴はまだ居る。

喧嘩が大好きな東条が身体をボロボロにされたくらいで終わる訳がなかった。

女副生徒会長が彼の身を案じて警告をしているが聴いてはいない。

むしろ、東条は喧嘩を続けた果てに石矢魔の頂点に上り詰めたのだ。

『ここで気絶するくらいなら死んだ方がマシだ』という感情が見て取れる。

神崎も革瀬も『あいつらしいな』と後方彼女面して見守っていた。

 

 

「死んだふりしとけりゃ良かったのによぉ!!悪魔に勝てると思ったか!?」

 

 

さきほど暴力を振るった男が短気のようで立ち上がった東条に殴り掛かった。

あれを見て自分は運が良かったんだなと他人事に思う革瀬である。

しかし、頑丈さに定評ある東条が500mL以上の吐血したのを見て本気で心配になった。

 

 

『やべぇ!!あの東条さんが死ぬぞ!!』

 

 

不意打ちで何度か殴打できたものの東条は意識がない。

もはや立っているのが精一杯な状況であり、目を背けたくなった。

それでも立ち塞がるその姿にグラフェルと呼ばれた悪魔は殺人を犯そうとしていた。

 

 

「待ちなっ!!」

 

 

そこに待ったをかけたのは、神崎 一である。

同格の存在として石矢魔高校に君臨していたヤクザの二男は思う所があったのだろう。

 

 

「よくやった東条。あとはオレに任せておけ」

「なんだてめーは?」

「フッ…その言葉…そのまま返すぜ…」

「あ?」

 

 

新手が出て来て警戒したのか好戦的な悪魔は敵の正体を分析している様であった。

神崎と意識を失った東条以外、彼が横やりを入れてきたのか疑問に思っていた。

その答えを自信満々に神崎は告げる。

 

 

「てめぇ!どこの高校の者だこらっ!こっからは石矢魔のボス神崎一が相手になってやんよ!」

「うぉぉぉ!神崎先輩パねぇっすス!!マジ漢っス!!ハイエナっス!!」

「次ハイエナっつったら殺す」

 

 

決め台詞を決めた神崎を盛り上げるようにパー子が彼を讃える。

あまりにも空気を読めてない状況に本人たち以外が呆れていた。

 

 

『あっ……神崎死んだな』

 

 

あまりにも馬鹿っぷりに呆れた円泰は視線を逸らした。

ところが、悪魔が青筋を立てて黒い何かを出現させていた。

それを見た瞬間、革瀬は物陰に隠れて両耳の穴に指を突っ込んで見ぬふりをする。

まあ、良い奴じゃなかったが、言うほど悪い奴では無かった。合唱。

 

 

「ん?」

 

 

すると凄まじい何かが町中を駆け巡った気がした。

さきほどの悪魔が邪悪な魔力だと例えると、今のはむしろ真逆の存在。

浄化や裁きなど神のような魔力に感じられた。

 

 

「なん…だ?この桁外れの魔力は…!!」

「まさか人間界にこれほどの魔力の持ち主が居るとは…ヘカドス1人では荷が重いな」

 

 

グラフェルと呼ばれた男と冷静な男にも感じ取れたのだろう。

喧嘩を売って来た神崎を無視してどこかへと消えていった。

「てめぇとの決着はお預けだ。命拾いしたな…人間」という言葉を残して。

 

 

「フッ!口ほどにもねぇ…オレのオーラにビビッて逃げやがった」

「ま…マジスか!?パねぇっ!!オニパねえっ!!」

 

 

当然、神崎からしてみれば敵が自分にビビッて逃げたように見えた。

なので調子に乗っておりパー子のアシストもあり自分の実力に自惚れていた。

それを副会長が冷たい視線で見ていたが、すぐに負傷した2人の手当てを始めた。

 

 

『うげっ……早く立ち去ってくれないかな』

 

 

しかし、革瀬からしてみれば、ここからが本番なのだ。

さきほどの騒動で東条と悪魔が交戦している写真をいくつか撮影した。

だが、それだけではなく他にも証拠を集めないといけないのだ。

だからさっさと出て行ってもらわないとあの女悪魔になにされるか考えるだけで億劫になった。

 

 

『やっと…出て行った』

 

 

悪魔たちが撤退してから5分後、神崎さんとパー子は自宅に向かって帰り出した。

生徒会長たちは、動けなくなった東条をどこかへと運んでいった。

そして工事現場から誰もいなくなったのを確認した革瀬は現場で証拠を探し始めた。

 

 

『これが悪魔の血、他にはないな』

 

 

さきほど東条の殴打がまぐれに決まって悪魔が吐いた血を発見した。

他に証拠になりそうな物は発見できなかったのでそれを回収する事にする。

幸いにも神崎がポイ捨てしたビニール袋があったので素手で掬ってぶち込む事ができた。

その間にとんでもない気のような物が駆け巡ってきたのだが、無視をする。

 

 

『もう知らん。俺は関係ねぇ!!』

 

 

これ以上長居したくなかった革瀬は帰路に着いた。

さきほどの悪魔たちが何かと交戦した気がするのだが、それを確認するようには言われていない。

女悪魔から問い詰められたらそう返答するつもりだった。

 

 

「……おいおい」

 

 

だが、廃墟に戻ろうとした道中でごっそりと抉られた道路を発見した。

500m以上抉れており、ご丁寧にも煙が晴れてないのでさっき起こった現象だと分かる。

なんとなくガラケーで写真を撮った革瀬は、廃墟に居る女悪魔に逢いに行った。

 

 

「……よく生きてたわねあんた」

 

 

いざ帰ってみれば、女悪魔は先ほどとは違って暗い顔をしていた。

どうやら何かとんでもない物を発見したようだが革瀬は関わる気はない。

心配されたというより、生還できたのを驚いた様子だったから要件を早く済ませる事にした。

 

 

「あんたらのお仲間の画像とそいつが吐いた血が入った袋だ」

「その機械は、あまり画面を開きっぱなしをすると使えなくなるから気を付けてくれ」

 

 

革瀬は、ガラケーの使い方を女悪魔に教えた後、吐血混じりの土が入った袋を渡した。

ガラケーには大した連絡先は入っておらず、身分証明書程度でしかないのであっさりと手放した。

その報告を受けた女悪魔は、うんうんと頷きながら満足そうに笑う。

 

 

「これで約束は果たしたって事でいいよな?」

「えぇ。問題ないわ」

 

 

目的を達成した革瀬は、これで悪魔と関係が終わったと思っていた。

しかし、この出会いがきっかけでとんでもない事に巻き込まれるとは…。

この時、予想できるわけがなかった。

 

 

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