【ベヘモット34柱師団】お嬢様剣士ティリエルの憂鬱   作:Nera上等兵

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6話 古市貴之の破産RTA

ベヘモット34柱師団による第二王子の契約者襲撃事件は、その関係者に衝撃を与えた。

特に第二王子に仕える侍女悪魔であるヒルデガルダは自分の迂闊さに悔いが残る。

だからといって指を咥えたまま療養しているわけにはいかなかった。

 

 

「…ラミア、ひとつ頼まれてはくれないか…?」

「はい。なんでしょうか」

 

 

そこで自分を姉貴分として慕ってくれる少女に頼みごとをした。

もちろん、中立であるべき彼女の立場を利用する事に思うところはある。

しかし、仕える主の為なら死さえ望む彼女は、禁じ手を使うのも辞さなかった。

 

 

「えーっ!?私が焔王坊ちゃまを探すっっ!?」

「うむ、すまんが頼めんか。我々が動くとベヘモットに口実を与える事になるからな」

 

 

ベヘモット34柱師団は文字通り、焔王の護衛師団である。

なので主君である焔王に接触して交渉すれば、これ以上の戦闘は避ける事が出来る。

なにせ、仕えるべき主君と契約を結んでいる()()()が昨日フルボッコにされた直後なのだ。

自分も大怪我を負って療養している以上、回避できる戦闘は極力回避したいのが本音だった。

 

 

「唯一、連絡先を知っているイサベラの通信機だが、こちらのメール着信を全て拒否している」

「多分、このまま本格的にお姿を隠されるおつもりなのだろう」

「そうなっては打つ手がなくなってしまう」

 

 

同じく侍女悪魔のイサベラに向けて連絡を取ろうとしたのだが、着信拒否されてしまった。

最後の履歴は、「ネトゲー最高ヽ( ・ ε ・ )/」と他人事のように書かれた顔文字だった。

これには完璧で瀟洒(しょうしゃ)のヒルダもイラっとしたが、背に腹は代えられない。

焔王様に接触して頭を下げなければ、ベヘモット34柱師団の襲撃が止まる事がないのだ。

無理難題なお願いだとは分かっているが、可愛い妹分に頼るしかなかった。

 

 

「でも、焔王坊ちゃまが潜伏している場所なんて…」

 

 

そもそもこの石矢魔に潜伏しているのかも怪しい。

何も証拠も無く広大な人間界から探し出せるのだろうか。

元宮廷薬師フォルカスの弟子であるラミアは…腹を括った。

 

 

「ラミア…とにかく居場所を見つけるだけでいい。奴らが来るまでにどうか頼んだぞ」

「分かりました。ヒルダお姉さまのお願い。必ず叶えてみせます!」

 

 

ピンク色の短髪と白衣が印象的なラミアは尊敬する侍女悪魔のお願いを聞き入れた。

だからといって当てがあるはずもなく近くにある知り合いの家に向かった。

古市 貴之という第二王子の契約者の親友の家に直行で向かうのは必然的であった。

 

 

「古市!起きなさい!」

 

 

なんとか彼の家族を説得して家に侵入した彼女は、寝室で目当ての男を発見した。

さぞかし愉快の夢を見ているのか「ナハハのハー…」と自嘲する男が寝ている布団に飛び乗った。

そして何度も呼びかけているとようやく古市が目覚めた。

 

 

「ったく相変わらずキモいわね。何がナハハのハーよ」

「それより支度しなさい!今から一緒に焔王坊ちゃまを探しにいきましょ!!」

 

 

魔界関連の事情を知っている数少ない人間である古市は、焔王様と直接会話している。

ならば、捜索を手伝ってもらう人員としては合格であると考えたラミアは彼に行動を促した。

しかし、当の古市は「どうせならヒルダさん出て来てください」と呟いて二度寝をする有様。

 

 

「起きろっつってんだろキモ男!!」

「ぎゃあああああああああ!!」

 

 

これには、悪魔であるラミアも怒り一心で暢気に寝ている顔面を殴打した。

さすがに小学5年生のような体格とはいえ悪魔の攻撃は応えたのだろう。

この後、古市が妹にロリコンと勘違いされる事件を得てしっかりと協力してくれる事になった。

しかし、事情を伝えると古市の顔が険しくなった。

 

 

「邦枝先輩とデート…だと…!?」

「なんでそうなるのよ」

「うるせー!納得いかんぞ!!なんだこの差は!!」

「はぁ!?どういう意味よ!?」

 

 

男鹿は邦枝先輩と楽しく修行しているというのに自分はロリコン扱いにされている事実。

これは一大事であり、トランクス一丁のおっさんにしか好かれていない彼は本気で悔しがった。

古市の言動をいまいち理解できないラミアはボケを繰り出すアホに蹴りを入れて捜索を促す。

 

 

「まあ、ゲームって言ったらゲームセンターだろう」

「じゃあ、そこに行きましょ!」

 

 

この後、古市御一行は、焔王さまがゲーム好きという事もありゲームセンターに向かった。

でもせっかく来たんだから楽しんでも良いじゃないかという気持ちが大きくなってしまった。

偶然見つけたクレーンゲームを見てラミアと古市は、気分転換を兼ねて現金を投入する。

そしてクレーンの仕様に文句を言いつつ、上手い事クレーンゲームで縫いぐるみをゲットした。

 

 

「違うでしょ!焔王坊ちゃまを探さないと!」とラミアに急かされて再び古市は捜索を続行した。

しかし、ゲーム好きの焔王を探すとなればゲームセンターくらいしか心当たりがなかった。

 

 

『『そもそもお金持ってるの?』』

 

 

クレーンゲームでお金を消費した彼らは、根本的な疑問が生じてしまった。

それは、焔王御一行がお金を持っているのかという点だ。

一応、王族であるので人間界の通貨くらいあってもおかしくない。

ところが、第二王子に仕える侍女悪魔のヒルダは人間界の通貨を所持してなかった。

この点を踏まえると、お金を消費するゲームセンターに来るのかと疑問に思ってしまった。

 

 

「メイド3人は目立つからもしかしたら目撃証言くらいあるかもな」

「そうね」

 

 

内心では絶対にここに居ないだろうな…と2人は思いつつも捜索を続けた。

そしたら意外な人物たちを発見してしまい、古市は困惑する事となった。

 

 

「神崎先輩に姫川先輩、せめてもっと悪らしい場所で遊んでいてくださいよ」

「「はあ?何言ってんだこいつ」」

 

 

石矢魔高校で四大勢力と言われていたトップの2人がゲームセンターで遊んでいた。

神崎は大物ヤクザの二男で姫川は姫川財閥の御曹司であるので場違いと言える。

…と思っているのは古市だけで彼らからすれば、どうでもいい事であった。

例え敵対する人物が居ても、自分が楽しめる場所で喧嘩する気はなかった。

まあ、他の要素で2人に共通しているのは「石矢魔」のトップを獲るくらいなのだが。

 

 

「緑色のガキ?マジすか?」

「ナメ〇ク星人じゃねぇよ!!」

 

 

関東レディース最強の【烈怒帝瑠(レッドテイル)】の構成員であるパー子が居た事もあり古市は作戦を変えた。

無駄に暇人である石矢魔高校で最上級の不良たちに焔王捜索を手伝ってもらう事にしたのだ。

とはいえ、ゲームセンターで話をするのもなんなのでファミレスで事情を伝えるつもりでいる。

 

 

「本当に大丈夫なの?」

「石矢魔の問題と言っておけば勝手に食いつくから問題ないって」

 

 

あまりにも協力してくれなさそうな不良たちを見てラミアは古市に本音を告げた。

それに対して古市は、こいつらバカだから煽れば何とかなると無駄に自信があった。

そして目当てであるファミレスの店舗が見えてきた時、顔見知りを発見した。

 

 

「おっ!革瀬がいるな!」

「誰?」

「石矢魔ではどこの派閥に所属していない記録係だよ。ここらへんじゃ情報通さ」

 

 

古市にとって革瀬という人物は、ただの同級生に過ぎない。

ただ、バカばっかりの不良と違って話が通じるので真面目な話をするのに重宝している。

 

 

「…なんだが、誰だ。あの金髪ネエチャンは!?」

 

 

男鹿は邦枝先輩とイチャイチャしているのにあいつまで他の女と仲良くしていた。

これには古市は運命づけられた格差を実感する。

 

 

「へぇー。あいつが女を作るなんてねー」

「確かに珍しい事もあるもんだな」

 

 

神崎派閥に所属している夏目と城山も革瀬の意外な一面を目撃して驚いていた。

同じクラスメートである【烈怒帝瑠(レッドテイル)】の女たちも「へー」と感じるほど意外であった。

 

 

「ヨシ!古市!!あいつを揶揄いに行こうぜ!!」

「え?」

「そうだぞ。俺らに内緒で女を作っていた事を後悔させてやろうぜ」

 

 

神崎と姫川は面白そうなおもちゃを目撃して珍しく意見が合致した。

すなわち金髪のカワイコちゃんといちゃいちゃする革瀬を煽りに行こうとしたのだ。

すると、他にも同じ事を考えていたのか鉄パイプを持った不良集団に囲まれてしまった。

 

 

「あーあー。どうする姫川?」

「適当にボコられたら助けに行くとするか」

 

 

一応、その辺の不良にやられる奴じゃないと分かっているので神崎も姫川も助ける気はない。

むしろ、女を作って調子を乗っているあいつには良い薬だと思うほどであった。

 

 

「「はぁ?」」

 

 

ところが、金髪女が不良たちを1人残らず蹴り飛ばしてしまい再び革瀬と口論を続けていた。

【男鹿嫁】ことヒルダや【烈怒帝瑠(レッドテイル)】の三代目総長である邦枝 葵など強者の女は強い。

しかし、蹴りで鉄パイプをへし折って不良を20mも吹っ飛ばすパワー系は見た事なかった。

これには神崎や姫川も空いた口が塞がらなかった。

 

 

「ハハハ良いじゃん。古市!革瀬も仲間にしないかい?」

「夏目先輩?」

「石矢魔の一大事なんでしょ?彼らもきっと役に立つよ」

 

 

茶髪のロン毛が印象的な夏目は、彼らが面白そうだから古市に仲間に誘うのを促した。

珍しく革瀬が女に振り回されているというのもあり、一緒に居ると楽しそうという考えであった。

古市としても、珍しく武力や威圧で喧嘩を売って来ない不良を仲間にする事態は賛成である。

むしろ、女を作ったあいつを困らせたいという邪心の方が大きい。

 

 

「おーい!!革瀬!ちょっと良いか!?」

 

 

なので古市は彼らに呼び掛けると何故か2人共、嫌そうな顔をした。

『ええっ!?オレって嫌われているの!?』と思ったが背後に居る存在をすぐに思い出す。

石矢魔でトップの不良を掻き集めて他校に喧嘩を売りに行くのかと勘違いされたのだろう。

その疑惑を払拭するべくそして、自分一人では荷が重い不良たちを押し付けようと試みた。

 

 

「うげっ…古市かよ。それもご丁寧にも石矢魔のトップもお揃いなことでー」

 

 

一方、革瀬 円泰からすれば笑顔で近づいてくる古市が疫病神にしか思えなかった。

石矢魔でも選りすぐりの不良を引き連れて他校に喧嘩を売りに行くとしか思えない。

ただでさえ横に居るティリエルの扱いに困っているのだ。

これ以上、問題を増やされるのは御免であった。

 

 

「…革瀬。さっさと逃げましょ」

「珍しく気が合ったな」

「あそこにいる女の子。副団長の娘さんよ…」

「はあ?」

 

 

ティリエルからしても直属の上司の娘さんが近づいてくる光景に混乱していた。

さきほどストレス発散で不良をぶっ飛ばして高笑いしていた悪魔と同一人物とは思えないほどだ。

しかし、2人共ここで逃げると却って怪しまれると思ってあえて話しかける事にした。

 

 

「よっ!古市!お前が男鹿以外と徒党を組むとは珍しいな」

「ハハハ!まさか!それよりさ!この子誰だ?」

「最近、石矢魔にやってきた女の子さ。軽く石矢魔を紹介していたところだ」

 

 

 

とにかく古市は、金髪のポニーテールの子が気になってしょうがない。

肌見せが少ないもののスポーティなファッションは健康的に見える。

どっかの名家のお嬢様がお忍びで日本に来たと信じても良いほどの美人に古市は惚れていた。

 

 

「なんかキモいからこいつもぶっ飛ばして良いかしら?」

 

 

鼻の下を長くしていた古市であったが、金髪の子が放った一言で恋は冷めた。

「そうだよなー。石矢魔に来る女の子がまともなワケないよなー」と思わず愚痴を溢してしまう。

ついでにドン引きして後退りを忘れないのがさすが危機予知検定1級と言ったところか。

 

 

『で?どうやってこいつらを巻くの?』

『後ろに居る奴らはここでも大物だ。無駄に争いは避けたいんだがな…』

 

 

悪魔と契約した時に発生する“コントラクトスペル”というのは便利の物だ。

その気になれば、テレパシーのようにお互いの思念を相手に伝える事が出来る。

このおかげでさっきのように直接喧嘩を売って来るトラブル以外は全て回避できていた。

しかし、神崎や姫川を敵に回したくない革瀬はどう切り抜けるか反応に困った。

とりあえず悪魔が手を出す前に先手を打つ事にした。

 

 

『この銀髪は、第二王子の契約者、男鹿の親友だ。仲良くなっても損はない』

『はあ?私は【紋章使い(スペルマスター)】の情報を探しているんだけど…!?』

『そいつが【紋章使い(スペルマスター)】と接触している可能性はある。それに問題なのはそっちじゃないだろ』

『そうよ!!よりによって席を狙っている女の娘さんに遭遇するなんて想定外よ!!』

 

 

紋章使い(スペルマスター)】が男鹿と関係があると考えた革瀬は、ティリエルに接触するように促す。

しかし、直属の上官の娘さんという摩訶不思議な関係のせいで同意を得るのは難しかった。

 

 

「んー?」

「ど、どうしたの!?」

 

 

そしたらラミアがティリエルを意味深そうに眺め始めた。

これには、いつもなら他者を見下し高笑いする彼女も動揺してしまい、思わず声をあげた。

 

 

「なんか性格が悪そうな女。いかにも同性から嫌われてそう」

 

 

「うるさいわね!!」と叫びたいティリエルは必死に我慢して出て来た言葉を喉に飲み込んだ。

「あんたに言われたくない」とも叫びたかったが、優秀な自分はそんな事言わないと我慢する。

さすがに上官の娘さんを暴行すれば牢屋行きなのを彼女は自覚していた。

 

 

「神崎さんや姫川さんを待たせるのはまずいだろ。どっかで話し合いをしないか?」

「それならそこのファミレスに行きませんか?そこで重要な知らせをするっスよ」

 

 

これは耐え切れないなと革瀬が助け舟を出したおかげで無難にも話が進んだ。

不良集団の引率をする自称:智将の古市によって彼らは近くのファミレスへと足を運ぶ。

当事者を除く石矢魔高校の不良たちが悪魔が2人紛れ込んでいるのに気付く事は無かった。

 

 

「――というわけで皆様に集まっていただいたのは他でもない」

「とある人物を手分けして探し出す為です」

 

 

ある意味で古市は、絶好調であった。

本来なら顔を見る事すらできない不良たちに自分を注目させる事に成功している。

大物ヤクザの二男、大財閥の御曹司、レディースの4代目総長など名だたるメンツの前でだ。

 

 

「おい古市、てめぇーブッ殺されたいのか?オレ達の勝負を邪魔してまで価値があるだろうな?」

「同感だね。ここ最近、古市君は調子に乗り過ぎじゃないかなー」

 

 

まずリーゼント頭の姫川が自身より無駄に目立っている古市にガン飛ばして夏目も同調した。

 

 

「男鹿のおまけが調子に乗りやがって…」

「それより葵姐さんはどこにいるのよ!!」

 

 

神崎や大森総長も古市に対する好感度は皆無だ。

一致団結どころか勝手に瓦解していくような関係性にはラミアも大丈夫なのかと心配している。

 

 

「もちろん、皆さんに無関係ではありません。というか石矢魔の沽券(こけん)にかかわる問題です」

 

 

古市の一言によって不良たちの目が変わった。

石矢魔という場所に執着する彼らからすれば、自分たちを集結させる大した理由だったのだ。

無論、大した事では無いなら古市の人生は二度と建て直せなくなる事態である。

 

 

「ちょっと…大丈夫なの!?」

「しょうがねぇだろ。こうなったら石矢魔全体の問題にするしかねぇんだよ」

 

 

以前、魔界で虚勢を張っていた古市を知っているラミアが思わず彼に小声で話しかけた。

対する古市もヤケクソであり、どうにもでもなれーという自暴自棄が見て取れる。

ヒソヒソと小声で話し合う2人を見た不良たちは更に疑念の眼を向けていた。

 

 

『大丈夫だ。勝算はある。舐められていると知ったら団結するからなこの人たちは…』

 

 

珍しく知将モードに突入した古市は、腹を括って発言をしようと試みた。

 

 

「苺パフェ一丁!お願いしますわ」

「はいそこ!!何で注文しているんだ!?」

「え?あんたの奢りじゃないの?」

 

 

そしたら金髪の子が勝手に苺パフェを注文しており、古市渾身のツッコミが炸裂した。

ティリエルからすれば、わざわざここに誘ったので奢りだと判断していた。

実際、副団長の娘さんがオレンジジュースを飲んでいるので彼の奢りだと分かっていた。

なので彼女は躊躇い無く注文したわけだが、そんな状況を不良たちが見逃すわけがなかった。

 

 

「ヨーグルッチ1つとハムサンドイッチを1つ追加だ」

「神崎君も悪だよねー。僕も同じでお願いします」

「はい!おれも同じ注文でお願いします!」

「しゃあねえ。古市が望むなら庶民の味を味わってみるとするか」

「待ってください姫川先輩!!神崎先輩!夏目先輩たちも!!奢る気なんてないです!!」

 

 

金髪女の意図を察した神崎は、ニヤケ顔で追加の注文をして神崎派閥の2人も同調する。

これには、姫川も『たまには庶民の飯を味わってみるか』と考えて注文を追加した。

古市は慌てて注文を阻止しようとするが、烈怒帝瑠(レッドテイル)の皆さま方も注文をしてしまった。

 

 

「おい革瀬!!なんとかしろ!」

「せっかく仕切るんだ。誠意くらい見せてやれよ。足りなかったら俺から借金していいぞ!」

「そうじゃねぇよ!!」

「あっ、利子は借りた金額に10%追加な!借りて10日過ぎたら借金の2倍上限で勘弁してやる」

「違うだろ!!お前の連れのせいで話が拗れたじゃねぇーか!!」

 

 

追い詰められた智将は、同級生に問題収拾を願い出るが完全にスルーされた。

少なくともこいつが連れて来た女さえ居なかったら奢る話なんて発生しなかった。

なのでノリノリなツッコミ芸を披露する古市を見てラミアは『大丈夫かなー』と他人事だ。

 

 

「それに男鹿に何かあったんだろ。だったら尚更気分転換した方がいいんじゃないのか?」

「お前……なんでそれを」

「だってさ。いつも男鹿と絡んでいるお前が石矢魔を1人で歩き回る訳ねぇだろ?そうだろ?」

 

 

なお、既に事情を知っていた革瀬は、石矢魔の生徒に聴こえる様にわざとらしく発言した。

「男鹿になにかあった」と聴いた不良たちの顔は変わった。

わずか数か月で石矢魔を制覇した男鹿 辰巳に何かあったとなれば一大事である。

慌てて自分に注目してきた不良たちを見て古市は分かってしまった。

 

 

『ああ、なるほどな。コイツ、分かってて止めなかったな!?』

 

 

腹が立つが、そのおかげで不良たちは自分に注目してくれている。

暢気にパフェを美味しく食べている女を除けば自分の話に引き込む事ができると自覚している。

 

 

『覚えてろよこの野郎!!絶対仕返しをしてやるからなー!』

 

 

だからこそ、古市はこのコンビを後で痛い目に遭わせると心の中で誓った。

それはともかくせっかくの好機を逃さない為にも古市は口を開く。

 

 

「昨日、男鹿と邦枝先輩が何者かによって襲撃を受けました」

「幸いにも2人共無事でしたが、相手が強すぎてあの男鹿ですら勝つことができませんでした」

 

 

男鹿の実力を知っている不良たちは、古市の言葉が信じられなかった。

ギャグ漫画の様に不良をぶっ飛ばすような奴が事実上敗北した事実に衝撃が奔る。

 

 

「そんな奴らが今度はこの石矢魔に本格的に攻めて来るというのです」

「しかも近いうちに…はっきり言ってピンチです」

 

 

古市の言葉を聞いて革瀬はパフェを楽しんでいるはずのティリエルを見る。

既にその尖兵として活動する羽目になった彼女の瞳は濁っていた。

目の前に敵が居るとは知らない古市はヤケクソ気味に演説を続けていく。

 

 

「当事者である男鹿と邦枝先輩は、とある場所で特訓をして襲撃に備えているそうです」

「本人たちからは内密にするように言われましたが、おれは黙っていられません」

「どうか、石矢魔の為に首謀者を探す為に協力して欲しいんです!お願いします!!」

 

 

古市は頭脳をフル稼働させて不良の皆さまの前で頭を下げた。

これでダメだったら、ラミアと一緒に焔王を探し回るしかない。

 

 

「妙なコートを着た奴らか?」

 

 

古市の話を聴いて始めに口を開いたのは神崎であった。

彼は確かに昨晩、ライバルであった東条をボコボコにした不審者を目撃していた。

 

 

「なあ?パー子!そうだよな!?」

「は、はい…!見ましたっス!」

 

 

花澤 由加も神崎の意見に同意するように口を開いた。

偶然当たったミラクルタイムに発言した古市もキタ―(゚∀゚)―!!状態となる。

あとはドミノ倒しにように順調に話が進んでいく事となった。

 

 

「いや、ウチも偶然見てたっスけどマジパネェっスよ!」

「あの東条先輩もボコボコにされてましたからね」

 

 

花澤が発言した事により東条に匹敵する勢力だと言わしめた。

さすがに状況証拠が複数揃えば、疑い深い姫川も素直に聞き入れるしかない。

 

 

「なるほど、神崎の言っていた奴か。厄介だな」

 

 

石矢魔ではめずらしい頭脳派の姫川が味方になれば、ペースはこっちのものである。

 

 

「どこの学校よ?」

「この辺の奴らじゃねぇよ…多分修学旅行生とかだぜ。アクマとかどうこう言ってたが…」

「悪魔だぁ?」

「いやでもマジで悪魔の様に強かったっスよ姫川先輩!!」

 

 

姫川や神崎に匹敵する実力者である夏目も危機感を覚え始めたのは良い傾向である。

実力は未知数という事もあり、少なくとも元トップ二人より話は通じやすく動かしやすくなる。

ここまで盛り上がれば、あとは何もしなくても勝手に動いてくれるだろう。

 

 

『ふぅーん。やるじゃん』

 

 

当初は古市を見下していたラミアは、彼の言動で人々がまとまったのを感じ取る。

さすがに認めざるを得なくて注文したオレンジジュースを啜りながら彼を素直に尊敬した。

しかし、それで終われば古市がキモ市と言われることは無い。

 

 

「その名も…“悪魔野学園”!!」

 

 

某海賊王漫画のように「ドン!!」と擬音が付きそうな決め台詞を古市が放った。

さきほどまで古市を尊敬していたラミアはやり過ぎた発言に唖然とした。

『調子に乗り過ぎよ!!』と怒鳴りたいが、発言は撤回できないので手遅れである。

こんなバカらしい名前の学園をさすがに信じるわけが…。

 

 

「なんて悪そうな名前の学園だ!!」

「あぁ!!オレたちがぶっ潰してやんぜ!!」

 

 

単純な名前だからこそ彼らは、悪魔野学園をロシアンマフィア級の脅威と認識した。

ついでにそいつらを潰せば、すぐに石矢魔の天辺を獲れるという事もある。

そのせいか、神崎と姫川は本気で悪魔野学園との戦いに参戦する気満々であった。

 

 

「フン、オレってば、やっぱすげぇよな!……無視かよ」

 

 

ドヤァ顔で決め台詞を決めた後の古市の声は誰の耳にも届かなかった。

智将を演じたつもりが致傷になった彼は少しだけ悲しくなった。

…が、ヒルダさんに褒められると妄想して割り切った。

 

 

『そういえば護衛が魔界に留まってるのに護衛対象が人間界に潜伏しているって不味くないか?』

『思いっきり不味いに決まってるでしょ!だから仮想敵の【紋章使い(スペルマスター)】を捜索しているの!!』

 

 

ナーガ班一派が独断行動を起こしたせいで人間界への進軍に支障が出ている。

一部の将校が暴走して護衛部隊全体の動きに支障が出るというのは本来あってはならない事態。

厄介な事に国宝である【転送玉】が先の戦闘で影響を受けており、機能復帰まで数日が掛かる。

その間に焔王様が【紋章使い(スペルマスター)】に狙われて危害を受けたとなれば目を覆いたくなる大失態だ。

当然、人間界で唯一活動しているティリエルに全責任を被せられるのは間違いない。

故に分かっている事を発言する契約者に彼女は苛立って思念会話で返答をした。

 

 

『さっきの話の流れだと紋章使い(スペルマスター)は、男鹿の修行の手伝いをしているように聞こえたが…』

『それが事実だという根拠は誰が保証してくれるの?あんたが魂を持って保証してくれるの?』

 

 

ヘカドスやグラフェルを席から蹴落とすどころか自分の席すら危うい彼女は苛立ちを隠せない。

そのせいか、苺パフェを追加で注文してしまい、古市の財布は更に厚みがなくなっていく。

結局、残高5円というご縁がありそうでない状況下に追い込まれるまで散財は続いた。

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