【ベヘモット34柱師団】お嬢様剣士ティリエルの憂鬱   作:Nera上等兵

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8話 第二王子契約者との邂逅

旧ヴァッハムート公国の本拠地であった城は、今なお堅牢な城壁を残し見る者を圧倒させる。

何度も発生した大戦ですら大破しなかった難攻不落の要塞は未だ健在であった。

その中枢である会議室でベヘモット34柱師団の幹部である柱爵が勢揃いしていた。

 

 

「未だに紋章使い(スペルマスター)の動向が判明しておりませんが、主君である焔王様の居場所が判明しました」

「侍女悪魔3名と共に人間界でも目立つ高級マンションで活動をなされてー」

 

 

淡々と発言をするレイミア柱爵は、副団長を兼任している女悪魔である。

彼女の発言に耳を傾ける柱爵たちの表情は様々な思惑があった。

ただ、主君の居場所が発見できたという報は、彼らの表情を和らげるには充分である。

 

 

「――以上となります」

 

 

斥候が焔王様に仕える侍女悪魔の居場所を特定した事。

人間界に派遣する部隊はベヘモット団長直々に選抜された事。

既に部隊は出撃命令を待っている状態である事。

そして独断で動いた柱将の2名と柱爵の1名の処分は保留となった事。

それらを簡潔に伝えたレイミア副団長は、眉1つ変えずに発言を終えた。

 

 

「将兵たちには引き続き内密に。彼らの処遇は追って伝えます。では解散」

 

 

副団長によって会議はお開きになったが、異議がある者達が居る。

彼女が会議を締めくくる挨拶を述べたが瞬間、彼らは口を開く。

 

 

「おいおい!!お咎めなしかよ!」

「そうだな。少なくとも柱将の2名は処分するべきだ」

 

 

武闘派のバジリスク柱爵と夜刀柱爵は今回の結論に納得がいっていない。

特に弟であるグラフェルを処刑したい夜刀に至っては「殺すべき」と提言していた。

それほどまでに独断で動いたナーガ班の行動を問題視している。

 

 

「どうでもいいよ。焔王さまの方が大事だからね」

「それに決定事項に反すればナーガ班の二の舞になっちゃうよー」

 

 

両手を組んで他人事のように話すサラマンダー柱爵は、2人を牽制した。

内心では彼らを見下している彼の発言は、異議を黙らせる威力があった。

 

 

「転送玉はもうじき使えるようになるのだろう?どの部隊が行くのだ?」

 

 

女柱爵のヴリトラは、自身の班が先遣隊に選抜されずに不満であった。

しかし、この場に居る柱爵に心当たりがないと分かって彼女は疑問を口にした。

 

 

「ベヘモット団長が直々に選抜された方々です。さきほど伝えた通りですよ」

 

 

それに対してレイミア副団長は、部隊の詳細を一切話す気はなかった。

もし、他言すれば彼らが一斉に抗議をするのが目に見えているからだ。

 

 

「ベルゼ様の契約者抹殺に関しては、もっと慎重に行うべきです」

「各々、勝手な行動は慎んで下さい」

 

 

あくまで組織である以上、私情で動くべきではない。

ナーガ班のような失態を犯したくないのであらば尚更命令に従うべき。

本来であれば、これで終わる話であった。

 

 

「レイミア!直属の部下を人間界に派遣しておきながらよくそんな口が聞けたな!!」

 

 

副団長が気に入らないフィフニール柱爵の怒声に対して彼女は一切臆さずに口を開く。

 

 

「ティリエル柱将を人間界に派遣した件は、緊急招集の時に決定したではありませんか」

「ああん?オレ様は認めた覚えはないんだが?」

「師団が決めた決定事項です。それに異議を唱えるとなれば反逆者となりますよ」

 

 

苦情を言っているフィフニール柱爵は、老害になったと将兵たちが密かに噂をしている人物だ。

自分の非を差し置いて副団長の座を奪われたと妄想する柱爵はこの決定に納得していなかった。

ベヘモット34柱師団の次期団長の座を狙っていると警戒し、怒りを露わにした。

 

 

「このアバズレが!!貴様が隠している事などお見通しなんだぞ!!」

 

 

ついに席から立ち上がったフィフニール柱爵は、副団長の胸ぐらを掴もうと試みる。

しかし、彼の威勢はその前に終わりを迎えた。

 

 

「ぐわああああああああ!!!ああああああああ!!?」

 

 

突如、目に見えぬ速度で両手首を切断された彼は、激痛で絶叫をし、絨毯の上を転げ回る。

魔界でも上位魔族である邪竜族の鮮血は、赤色でありこの点では人間と同じように感じられる。

しかし、それに含まれている魔力を欲した者たちが先駆けをしようと試みる。

そんな下級魔族の思念体を覇気で追い払ったレイミア副団長は、反逆者を見下ろした。

 

 

「さきほどからあなたの言動や行動は“柱爵”に相応しくありません」

「引き続き騒動を起こした場合は、厳罰に処しますのでご理解頂ける事を願っております」

「…他に異議を申し立てる方はいらっしゃいますか?……無いのであれば解散とします」

 

 

『『『さすが副団長…!』』』

 

 

一見すると司書のように見えるレイミア副団長であるが実力は柱爵でも段違いである。

実力主義である武闘派の組織の構成員をまとめる人物が弱いわけがなかった。

見せしめのように止めを刺さない彼女に感心しつつ一同は、勤め所へと戻っていく。

 

 

「おのれえええ!!」

 

 

負傷して床に転がっているフィフニール柱爵に反省の色は一切見受けられない。

どう処分するか思考を巡らさせるレイミア副団長であったが…。

 

 

「良い女になったなレイミア」

「…ジャバウォック!戻ってきたの?」

「ああ、親父に呼ばれてな」

 

 

会議室に出現した赤髪の男を見てその名前を口にした。

“凶竜”ジャバウォック、あまりの残虐さに事実上、ベヘモット34柱師団を除籍された人物である。

 

 

「だが、前よりぬるくなったな」

 

 

レイミアの背後から彼の声が聴こえたと同時にフィフニール柱爵の声が途絶えた。

気に食わないなら同族殺しも辞さない性格は変わっていないようだ。

 

 

「ベヘモット34柱師団の上に立つ者として律しているだけです」

「そうか、お前らしい」

 

 

魔力を使わず腕力だけで柱爵クラスを殺害したジャバウォックにはレイミアも冷や汗を掻く。

例え昔の馴染であっても、彼らにできた溝は未だに存在していた。

 

 

「死体の処理は任せておけ」

「では、お任せします。あとで報告の一報を入れておいてください」

 

 

予定が詰まっている女副団長は、幼馴染に後始末を任せて会議室を出る。

あまりにも激務の為、業務に追われて私情を見せる事も少なくなった彼女の背中に隙は無い。

これにはジャバウォックも「食えない女だぜ」と一言呟いた。

 

 

-----

 

 

「勝手な行動をされた方々、少しは反省をされましたか?」

「勝手な行動?心外だな。オレたちは焔王様の為に動いたまでだ」

「ああそうだ。下らない功名心なんてねぇぞ」

 

 

レイミア副団長の問いかけに対してヘカドスとグラフェルは即答した。

彼らは元から裁かれる覚悟で人間界に進軍したのだ。

それに関する言い訳はしないが、焔王さまへの忠誠心は本物だと告げる。

 

 

「その事に関しては、疑っておりません。ですが独断で動いたのは事実です」

「なにより失敗して戻ってきたのが問題なのですよ」

「ベヘモット34柱師団の看板を背負っているのをお忘れではありませんよね?」

 

 

副団長の冷酷な一言を聞いた彼らは言い訳をしなかった。

既に人間界で起こった事は報告済みであり、反論しようがなかったのだ。

 

 

「そこで…ナーガ」

「はい、レイミア副団長」

「分かっておりますよね?」

「もちろんです」

 

 

副団長に呼ばれて入室したのは、ヘカドスとグラフェルの上官、ナーガである。

柱爵という身分のおかげで追及は一時保留となったが師団では立場が悪い。

緘口令のおかげで将兵たちにより柱将への降格が囁かれる事は無いが、後が無かった。

 

 

「なっ!?それは転送玉!?」

「何故、ナーガ様がお持ちに!?」

 

 

そんな上官の手には、国宝である【転送玉】が握られており、さすがの彼らも動揺した。

その答えを示すべく副団長は驚愕する彼らの顔を見据えて発言をした。

 

 

「ベヘモット団長の言葉をそのまま伝えます」

「『負けておめおめ帰って来るんじゃねぇ。やるなら最後までやれ』との事です」

 

 

ベヘモット団長の発言を聴いた彼らは、すぐさま敬礼をする。

独断行動を取った自分たちを許してくれたばかりか汚名返上のチャンスを頂いた。

これには、主君である焔王さまに次いで忠誠を誓っているベヘモット団長に心から感謝した。

 

 

「お二方とも分かっていると思いますが、契約者の抹殺は通過点です」

「我々の本分を忘れてはおりませんよね?」

 

 

副団長の問いに対して彼らは自信をもって返答をする。

 

 

「「もちろん、我らが主と合流して参ります!!」」

 

 

ベヘモット34柱師団は、焔王の護衛集団である。

第二王子の契約者抹殺などおまけに過ぎなかった。

むしろ、それを疎かにしたらこの場で粛正されるほどの大罪である。

 

 

「幸いにも焔王様に仕える侍女悪魔の居場所を特定してあります」

「くれぐれも次元転送悪魔に主君を転送されないように注意してください」

 

 

副団長の言葉に熱心に耳を傾ける柱将2名に迷いはない。

今度こそ作戦を成功させようと集中していた。

 

 

「地理と作戦決行日に関しては、ナーガ柱爵に伝えてあります」

「彼の発言に従って計画を立ててください」

「それとグラフェル柱将!」

 

 

作戦を聴いていると突然自分の名前を呼ばれたグラフェルは驚いた。

 

 

「はい!!」

 

 

返事が少しだけ遅れてしまったのに恥じたが幸いにも副団長は気にしていなかった。

むしろ、納得したように彼を見つめた。

 

 

「人間界で人間に不意打ちされて吐血されたそうですよね?」

「な、何故それを…」

「今こそ初心に戻り、任務を遂行する事を心より祈っています」

「…承知いたしました」

 

 

発言を終えたレイミア副団長は囚人に目もくれずに監獄の面会室から立ち去った。

彼女から「失態はしっかりと監視している」と告げられたグラフェルには後がない。

わざわざ「油断するな…」と副団長に釘を刺された彼は、死ぬ気で頑張る気である。

 

 

『うーん、ティリエルが心配だわ…』

 

 

一方、レイミア副団長は、直属の部下が未だに魔界に帰れないのを心配していた。

健気に自分の席を狙っている女柱将を酷使し過ぎていると実感している。

特に自分の娘のせいで作戦に支障が出ていると告げられれば尚更感じていた。

 

 

『どうにか助けてあげたいのだけど、どうしようもないわね』

 

 

さきほど直属の部下を特別視していると告げられた副団長にはどうする事もできない。

ナーガ班にはティリエルが潜伏しているとは告げておらず、相変わらず孤軍奮闘のままだ。

せめて空いた柱爵の席をあげたいのだが、彼女の実力では早過ぎる。

 

 

「うかない顔だな」

「フォルカス先生…」

 

 

気付かないうちに暗い顔をしていたのだろう。

副団長として相応しくないと感じた彼女は気を取り直して発言をする。

 

 

「人間界で諜報活動している部下が私の娘と接触をしたようで対応に困っています」

「それは大変だな」

「娘が元気そうでやっている情報が届きますので悪い事だけではありません」

 

 

娘のラミアが第二王子に仕える侍女悪魔に惚れて一緒に活動しているのをレイミアは知っている。

一人前になるようにフォルカス先生に預けた以上、母として動ける事は無い。

 

 

「フォルカス先生、娘のラミアのこと、よろしくお願いします」

 

 

だが、我が道を往く娘を見守る恩師に想いを告げる事はできる。

副団長としての立場では無く母としての頼みで先生に想いを告げた。

 

 

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その頃、人間界では1人の女悪魔が溜息を吐いた。

 

 

「はぁ……未だに手がかりなしか」

 

 

焔王様に仕える侍女悪魔の拠点を発見したが、それだけで彼女は満足しなかった。

しかし、紋章使い(スペルマスター)の尻尾さえ掴ませない振る舞いで未だに情報が入手できていない。

直属の上官が自分の事で悩んでいるのを知らないティリエルにやる気はなかった。

 

 

『革瀬!!姫川に【黒髪無精ひげのおっさん】を探すように言ってくれない?』

『さすがに範囲が広すぎる!せめて格闘技のチャンピオンとか特徴は無いのか?』

『私だって口頭で聞いた話だから他にどんな特徴か分かんないわよ!』

 

 

なので契約者を無理難題で虐めるのが彼女の日課になっていた。

ゲームでの接待プレイが嫌になった彼女は、そういった愉しみしか残っていない。

 

 

『お願いだから寝かせてくれ。徹夜でゲームをやってたから眠いんだ…』

『24時間寝ないだけで死ぬわけじゃないでしょ?もう少し私に付き合いなさいよ』

『思念会話のせいで頭が割れそうなんだ…』

 

 

お嬢様キャラが完全崩壊してしまったティリエルは、パワハラ女と化していた。

せめて以前のミニスカニーソの格好をしていれば目の保養ができたのであるが…。

ジャージの上着にシーパンと運動靴という色気の欠片すらなかった。

その上にどこに居ても脳に直接彼女の声が届くのだから一種の拷問と化していた。

 

 

『まあ、紋章使い(スペルマスター)に関しては心当たりがあるけどね』

 

 

そもそもナーガ班と交戦した紋章使い(スペルマスター)の素性自体は判明している。

王家の紋章である蠅王紋(ゼブルスペル)を出現させている時点でその名前は分かっていた。

しかし、下手に踏み込むと交戦する可能性がある為、彼女も不用意に詮索できなかったのだ。

 

 

『革瀬の発言でそいつの居る場所も分かってる。でもリスクがデカすぎるわ』

 

 

自分と契約している革瀬によると第二王子契約者を気絶させた黒髪のおっさんが居るらしい。

しかも、通っている学校の教師というのだから疑惑が確定になりつつあった。

ただし、不意打ちとはいえナーガ柱爵を撃退する猛者に勘付かれたくはなかった。

 

 

『ひとまず男鹿の動向でどうするか決めましょう』

 

 

王家の者と契約する紋章使い(スペルマスター)は、王家の王位継承に踏み込んでこないのは分かっている。

その件で散々酷い目に遭ったのだから彼としても自分達と交戦するのは不本意と考えるしかない。

いや、そもそも彼が中立を放棄して第二王子契約者を手助けしたのは理由があるのは明白だった。

ティリエルは、最優先を焔王の居場所確認、次点で男鹿辰巳の動向を注目する事にした。

 

 

『聴こえているんだよな…』

 

 

そんな思念すら革瀬は聴こえており、これからどうするか考えなければならない。

ただでさえ徹夜のせいでテンションと体調が狂っているのに男鹿との接触も考えないといけない。

それを考えるだけで憂鬱となった彼は、ゴミ袋を部屋の隅によせて彼女の入室を待った。

 

 

「はい!お待たせしましたわ」

 

 

ティリエルもといティターニアがゲーム部屋に入室すると徹夜でゲームを続ける男達が居た。

革瀬が掃除したのか、思ったより散らかってないがそれでも大量のゴミ袋のせいで見栄えが悪い。

そう考えていたら他の不良女たちも目覚めたのか瞼を擦りつつ合流してきた。

 

 

「ティターニア、えんおーとかいう奴からご指名を受けてたぞ」

「はあ、キリが無いわね」

「全くだ。せめて直接やり取りできりゃあこっちのもんだが」

 

 

つまらなそうにゲームをする神崎は、ティリエルに情報を伝達した。

焔王は、負けず嫌いであると同時に自分の都合で約束を反故にする幼さがある。

そのせいで、チャットで交渉しても一方的に打ち切られた挙句、着信拒否されてしまった。

 

 

「ん?おいラミ公!」

「ラミ公って誰よ!」

「ラミアに決まってるだろうが」

 

 

交代要員が来て思わずゲームコントローラを投げた神崎は少女ラミアに話しかけた。

変なあだ名をつけられた彼女は顔を顰めたが、直後の会話で眉を潜めた。

 

 

「お前、えんおーとかいう奴とゲームをした仲なんだろ?」

「えぇそうよ。ホントあいつは子供っぽくて嫌いなんだから…」

「じゃあ、えんおーにチャットを送ってやれよ」

「え?」

 

 

突如、神崎から「チャットを送れ」と指示されたラミアは困惑した。

しかし、それに悪乗りした古市が意味深な発言をする。

 

 

「神崎先輩、ナイスアイディアっス!!女の子のメールなら男は我慢できないっスよ!!」

「は?何言ってるのこのキモ市!?」

 

 

古市が自分だったら女の子からのメールを無視できないと断言し、決めポーズをした。

これには、ラミアも素で『こいつを殴り倒してやろうかな』と思ったほどだ。

 

 

「いいねー。面白そうだからやってみてもいいんじゃないかな」

「夏目の言う通りだ。やってダメなら他をやればいいだろう」

 

 

みんなとゲームができてご満悦な夏目の意見にガタイが良い城山が同意した。

 

 

「さっそくラミアに扮してチャットを送ってみるか!」

 

 

革瀬の一言により、石矢魔勢力はラミアの名を借りてチャット攻撃を仕掛けようとしていた。

 

 

「これでよしと!」

「ちょっと待って!?何このメール文!?」

 

 

勝手に自分の名を使われてメールを作成する一同を見てラミアは呆然としていた。

そのせいで送信前のメール文を確認したらとんでもない事が書いてあった。

 

 

〈エンオウちゃま~!お久しぶりね ラミアよ うっふん♡♡♡〉

 

 

品のない女の中でも碌でもないほどバカそうな文章であった。

これには、ラミアは思わず大声で否定してティリエルは口を手で抑えて笑っていた。

一方、男共は思う所があったのだろう。

 

 

「パンチ弱くないっスか?」

 

 

インパクトがある文章を入力した古市は、まだ何かが足りないと思っていた。

 

 

「そうだな。少しだけリアルっぽさを加えるか」

 

 

品がない女がすり寄って来た経験がある神崎は、更に文章をバカっぽくしようとする。

 

 

「♡マークを付けまくる女って嫌いなんだよねー。でもこれは面白いと思うよ」

 

 

実際付き合うとしたら『無い』と考える夏目だが、このやりとり自体は面白く感じた。

なにより、神崎や古市が一生懸命にバカ女の文章を考えているのを傍で見て新鮮な気分になった。

 

 

〈ぬおぉぉぉぉぉ!!ラミアか!?ラミアなのかっ!?〉

〈何故お主が!?いやどこにおるのじゃ!?そこにいるのか!?〉

 

 

めっちゃ喰らい付いた焔王のメッセージを見て皆は心を1つにした。

『こんなので釣られやがったと…』と思ったが、これは好都合である。

 

 

〈イヤーン♡ウフーン♡きてるーきてるの!えれきてるー〉

〈ずーっとあなたの事を探しているのよ~♡まいっちんぐ〉

 

 

これには、顔を真っ赤にして怒ろうとしたラミアであったが…。

それより焔王の返信は速かった。

誰かこいつにネットリテラシーとネチケット(死語)を教えてやれよ。

 

 

〈すまんラミア…故あって今は身を隠しているのじゃ〉

〈しかし、余はいつでもお前の事を大切に思っているぞ〉

 

 

おそらく返信速度から主君の指示で侍女悪魔が打ったと思われるメッセージ。

愛の告白文とも読み取れる文章を見た女不良達はこれには大興奮!

 

 

「えーっ!!なにこれ!なにこれ!!もしかして彼氏!?」

「ラミたん!見かけによらず凄いっスね!」

「ぜんぜんちがいます!!あいつが勝手に私を思っているだけで…」

 

 

必死にラミアは、焔王との関係を否定するが、その必死さは猛火にガソリンを注ぐ行為である。

石矢魔女子は大盛り上がりし、野郎共は下品な女の文章を打とうと相談しあっていた。

 

 

「私にもやらせて!」

 

 

男の下心を利用した挙句、破滅させて高笑いするのが好きな女悪魔ティリエルもこれに乗った。

下ネタを連呼したり、頭ユルユルな女会話を考えている野郎共からチャット入力画面を奪い取る。

さくっと文章を入力して焔王にメッセージを送信した。

 

 

〈エンオウさま!私、あなたの事が好きぃ!好き!大好きなのー!!〉

〈ここで言わせて!大切なお話がしたくて!2人っきりになりたいけど!どうしよう!!〉

〈私、まってるから!!いっしょになれる時間があったら教えて!お願い!〉

 

 

もちろん、入力した文章には意味がある。

2人っきり、つまり次元転送悪魔を兼ねている侍女悪魔から焔王を引き離そうと考えた。

あえて「待ってる」というのは、焔王自ら文字を入力させる為である。

さすがに親バカならぬ焔王バカの女トリオは、主君自ら入力する文章を訂正する事は無いだろう。

ツンデレが本音を告白するシーンにする為にバカっぽい文章から真面目な文章にした。

これにより最初にバカっぽい文章を書いたのは、素直になれない乙女心という演出を醸し出した。

 

 

「ティターニア!!私、こんな文章を打たないわよ!!取り消して!!」

「ごめんなさい。もう送信しちゃった」

「あああ!!もういやあああ!!」

 

 

なお、直属の上官の娘さんを弄る快楽はなによりも捨てがたい。

期間限定とはいえラミア嬢を振り回せる快楽は、ティリエルにとって楽しいお時間となった。

 

 

「ティターニアさん!!次はオレに貸してください」

 

 

今度は自称智将の古市がチャット入力をする事になった。

中途半端に真面目な彼の入力した文章を記す。

 

 

〈どうも古市ですー!〉

〈ラミアがとっても焔王様に逢いたがってますよ!〉

〈連れていきますので是非居場所を!〉

 

 

古市が自信満々に送信した文章を見たティリエルは、思わず彼の胸ぐらを掴んだ。

 

 

「このアホ!!なんてことをしたの!!」

「え?急にどうしたっすか!?」

「せっかく逢引きになるように仕向けたのに台無しになったじゃない!!」

「良く分かりませんが…」

「第三者がさっきのやり取りを見たとバレたのよ!!告白の手紙を勝手に開封する愚策だわ!」

 

 

いきなり怒り出したティターニアに困惑する古市。

しかし、それっきりチャットが返って来ず、慌ててラミアに扮して文章を送ってたのだが…。

何度やっても返答が来ることは無かった。

これでようやく自分がやらかしたのだと古市は自覚したのであった。

 

 

「なぁ~にぃー!やっちまったなぁ古市!!」

「もう古太君はしょうがないなー」

「古市、見損なったぞ」

 

 

テンションが狂ってる神崎のネタ振りで夏目と城山がボケるほどには、打つ手段がなかった。

頼みの綱である姫川は外出しており、誰もが疲弊して思考能力が落ちていた。

 

 

「まあ、焔王がラミアに好意を寄せているって分かっただけで収穫だろう」

「あの様子だと向こうからやってきそうな感じもするしな」

「それにプレイヤーキャラを『ラミア』にするだけで向こうが勝手に食いつくだろうし…」

 

 

とりあえず女不良達から古市がボコられる空気を感じ取って革瀬はフォローを入れた。

本人にその気が無くても、状況が見えない相手は騙せる。

そう考えた彼らは、必ずゲームをやる時は、誰か1人をラミアと名乗らせてプレイさせた。

 

 

 

「ん?スナック菓子が切れたな」

「ルームサービスを呼びますか?」

「姫川の世話になるのは気に食わねぇ。奢るから適当なもんを買ってこいや」

 

 

そしたらスナック菓子やジュースが切れたので神崎は、古市に菓子を買うように指示を下す。

諭吉1枚を渡す辺り、彼の太っ腹さをアピールすると同時に横領は許さないと暗に示した。

 

 

「オレ1人じゃ心細いっスので誰か付いて来てくれませんか?」

「じゃあ、一緒に付いてあげるよ」

 

 

古市の申し出で夏目とパー子、そして菓子の選別担当のラミアが同行する事となった。

一方、気分転換にと屋上に出たティリエルは、目の前の景色を見下ろす。

ヘリポートがある屋上は、付近の高層ビル群を見下ろす絶叫ポイントであった。

魔界と違って靄がなく遠くまで見える景色は、人間界が広大であるのを示すようである。

 

 

「この光景がいずれ無くなるって思うと何だか悲しくなるわね」

「悪魔でも感傷に浸る事があるのか」

「まあね。だって貧弱な人間が地べたを這いずり回る光景が見納めになると考えると…」

「同情した俺がバカだった」

 

 

護衛として革瀬を指名した彼女は、もうじき魔界に帰れると嫌でも実感する。

前まではささっと人間界からおさらばしたかったのに今ではもう少しだけ居たいと感じていた。

『人間に毒されつつあるわね』と感じるほどには、複雑な心境に苦しんでいた。

 

 

「え?」

「どうした?」

「空間が遮断されたわ。……あのバカ!!またしてもやりやがったわね!!」

 

 

すると、侍女悪魔が潜伏した空間が突然、切り離された時に発する魔力の流れを感じ取った。

すぐさま。次元転送悪魔が絡んでいると分かったティリエルは、古市たちに殺意を向けた。

このままでは、逃げられると考えて隠し持っていた双剣を握り締めて物陰に隠れた。

 

 

「どうするんだ?このままだと逃げられるぞ」

「一度に次元転送をする人数には限りがあるの。ラミア嬢が居るならば二度に分けて行うはず」

「つまり、次元転送するまでの間にケリをつけるのか」

「本来ならば、先遣班がやる仕事だったんだけどね。まあ、しょうがないわ」

 

 

ここで逃せば、二度と遭遇する事が無いと分かっているティリエルは侍女悪魔の殺害を試みる。

第二王子派閥の勢力に自分の存在がバレるリスクがあったが、もはやどうでもよかった。

魔力感知に力を入れて次元や空間を司る悪魔の隙を伺って臨戦状態で待機した。

 

 

「……もういいわ。革瀬、このマンションから退避するわよ」

「え?なんで?」

「先遣班が隙を見て部屋に強襲したの。急がないとビルが崩壊するわ」

 

 

魔力感知をしていると何故か空間の隔離状態が解除されて魔力所持者が1名増えた。

なんでそうなったのか理解できなかったが、すぐに転送玉の魔力を感知。

ナーガ班が部屋に突撃したのを確認したティリエルは、急いで階段に向かった。

それを見て革瀬も大慌てで彼女の背中を追う。

 

 

「伏せなさい!!」

「うお!?」

 

 

急に方向転換したティリエルは契約者を地面に押し付けつつ伏せた。

それと同時に爆発音と共に衝撃が迸り、マンションが大きく揺れた。

 

 

「ゴホゴホ…なにが」

「悪魔同士が交戦してる。速やかに退避を…」

 

 

自分の役目は果たしたと言わんばかりに彼女は逃げの一手を選択していた。

なので契約者の質問に返答していたが、目の前で発生した光景に言葉を失った。

 

 

『え?なにこいつ?』

 

 

新品のトランクスを履いたむさ苦しい髭のおっさんがそこに居た。

さきほどの衝撃まで感知をしていたティリエルは、良く分からない存在に本気で困惑した。

 

 

「ふむ、これは一大事ですな」

 

 

髭のおっさんが独り言を呟くと身体が二つに割れて両開きをした。

エイリアンが寄生してます的なグロな光景は広がらず、1人の若者が出て来る。

黒髪で黒色の学ランを羽織った青年、そしてその肩には緑髪の赤子が抱き着いていた。

 

 

「……男鹿だ」

「こいつが…!」

 

 

その若者を見た革瀬の一言でティリエルは、目の前に居る男が第二王子の契約者と知る。

ヘカドスの報告をベヘモット団長を介して知った彼女は、彼の実力を見据える。

言われたほど弱くはなさそうだが、目つきの悪さと言い凶暴な感じがする。

 

 

「ん?革瀬!なんでここにお前が居るんだ?」

「それはこっちの台詞だ!というかお前、今どうやって出て来た」

「え?あー。アレだ!手品だ!!」

「お前がそんな高度な手品ができるわけねぇだろ!!」

「なんだと!?オレなりに考えて言ったんだぞ!!」

 

 

とりあえず、第二王子継承者と革瀬は顔見知りで軽口を叩ける関係である。

それを知ったティリエルは、これからの作戦を立案しつつ、退路を確保しようと試みた。

 

 

「辰巳様、ヒルダ様がお待ちになっております」

「ああ、修行の成果を見せる時がきたな」

 

 

髭のおっさんの話を聴いて男鹿は、おっさんの足を掴んでブンブンと縦に振った。

まるで木刀の柄を掴んでます的なノリで振ってるが、第三者からみると異常な光景だった。

 

 

「お前、何をしてるんだ?」

「見れば分かんだろ?修行の成果を見てるところだ」

「何の修行だよ…おっさんを武器にして戦うなんて聞いたことが無いぞ…」

「こいつは悪魔だ。お前が考えてるほど弱くねぇよ」

「つうか、そいつ古市に懐いているおっさんじゃん。お前何やってんだよ」

 

 

男鹿と革瀬のやり取りを聴いていたティリエルは、ようやく目の前のおっさんを思い出した。

【次元転送悪魔】バティム・ド・エムナ・アランドロン。

見かけと違って凄まじい才能の持ち主であり、誰もが欲する逸材であった。

それを剣のように振り回す男鹿を見て彼女は、恐怖を感じた。

 

 

『次元転送悪魔を物の様に扱うなんて、男鹿辰巳…なんて恐ろしい人物なの』

『いや、明らかにギャグシーンだろコレ』

 

 

貴重な次元転送悪魔を武器と扱う第二王子契約者を見て内心で慄くティリエル。

それに対して呆れたように革瀬は思念会話でツッコミを入れた。

かくしてティリエルの石矢魔の潜伏活動は、最終局面を迎えたのである。

 

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