リミックス・ヒーローズ! 作:日立インスパイアザネクス人@妄想厨
ある日の昼間に空を見上げたら流れ星が流れたのを見た。
それが少女を動かす原動力だった。
何かが変わった世界で生活してから、一度も街の外へ出ていくことは無かった。
何故か、と聞かれても返答に困る。何となく『外に出てはいけない』と頭の隅に引っかかるものがあったと言うしかない。
けれど、
「ソラちゃん……」
何かが変わってから少し経ったある日、見たこともない敵が彼女を攫ってから少女は目に見えて焦りに駆られていた。周囲が心配してくれたけど少女は覚束なさげな声を返すだけ。共に居た仲間は目も当てられない少女のことを保護者に託し、彼女を攫った敵を追って先に街の外へ向かい――もう1週間経った。
この1週間、少女の保護者は少女のメンタルの回復に努めて、そのおかげでどうにか持ち直した少女だったが、外の世界に向かうのを躊躇ってしまう。
きっと大丈夫。
きっと2人が連れて帰ってくる。
きっと私が外に出ても入れ違いになってしまうかも。
きっと。
きっと。
きっと。
――当てのない希望が少女を街に縛り付けていたのだろう。
そんな生活が続いた頃、空を裂く流星は少女の心の鎖を一瞬で砕いたのだ。
「ソラちゃん……!」
運命、だと思った。
おかしな話だけど、彼女との最初の出会いは彼女と異世界のお姫様が空から降ってきた、というもので、少女には決して忘れられない思い出の一つだ。
少女が流星を見た時、ふと少女の頭に浮かんだのはその大切な思い出。
懐かしいと思うと同時に、もしかしたらという希望が生まれ、その後は足の赴くままに街の外へ走り出した。
車はおろか自転車すら使わない中学2年生の少女が自分の足だけで長距離を走りぬくなんて狂気の沙汰だ。
普段から走り込みをしてるとはいえ街の外へは遠い。しかし少女は決して足を止めず、1時間ほど経った辺りで生まれ育ったソラシド市から出た。のだが……、
「どうなってるのコレ?」
ソラシド市と他の街の間にある山道には、商店街が立ち並ぶ場所は無かったハズ。
思わず足を止めて不自然な町を見回ってみたら、ソラシド市の境界線から真っ二つになったような半分だけの民家があり明らかに異常なことが起きたとわかった。まさか民家のもう半分はソラシド市の反対にあるんじゃないだろうか?
何がどうなっているのか全く分からないけど、ここ数日に感じていた世界の異変はコレだったのだろうか? 混乱する頭で考えても纏まらないのでとりあえず当初の目的だった流れ星のもとへ向かうことにした。
町には人一人も見かけない。電気も通ってないようでシャッターが下りてないお店は真っ暗。新鮮な食材が並ぶはずのスーパーの店頭には異臭を放つ元・食材が並んでいて小走りで店前を抜けた。他に動くものと言えばハトとかネコとかそういった野良小動物ぐらい。
「……」
あまりに静かな光景に両腕で体を抱きしめる。
ここに居た住民たちに何が起こったのか? それを知るすべを少女は持っていないが、最悪な想像は起こらないでほしい、と少女は切に願った。
無人の商店街を抜けようとした頃、アーケードの入り口で変化があった。
何か変なのが居る。
紅いフードを身にまとい、白い無表情のお面をつけた二頭身の生き物だった。
今まで世界の常識じゃ考えられない存在に何度も出会ってきたけれど、その生き物は見たことがない。
そんな生き物とばっちり目が合ってしまった。
「……」
「……」
「…………こんにちわ~」
挨拶をかけてみるも返事は無い。というかお面で表情が読み取れず、得体のしれない不気味さで尻込みしてしまう。
どうしようと、考えたとき、少女の挨拶に反応するように、お面の生き物が手招きするように手を振った。
ぞろぞろぞろ……と。
アーケードの出口から同じお面の生き物が複数現れた。
同じ種族の生き物なのだろうか? 見た目は同じだけど、微妙に大きさが違ったり、色が青だったり、何もないところで躓いて転びそうになってる個体も居た。
それと短い手で物を持ってる奴もいる。
それはY字の棒とか槍とか虫取り網とか大砲みたいな筒だとかで、現代の日本で持ち歩きが無いようなモノばかりで。
最初に目が合った生き物が後から現れた者たちに何かしら話をして、その手がこっちを指差してるとわかった瞬間、少女の背筋に冷えたものが伝った。
「え~と、まずはお話しませんかそもそも言葉わかりますか何で何も言わないでじりじり寄って来てるのごめんなさいさようなら!!」
よく聞き耳を立ててお面の生き物の会話を聞いてみると、少女にはごにゃごにゃとしか聞こえなかった。
となると彼らもこちらの言葉がわからない。そう理解した瞬間に少女は元来た道を逆走した。ファーストコンタクト失敗!
とはいっても、アーケードは入り組んでるわけではない。真っすぐの一本道だ。
武器を持って追いかけてくるお面の生き物たちから逃れるにはアーケードの反対の出口から出る他無い。
幸い足の速さには自信がある。
頭身の低いお面から逃げられると高をくくっていたが、
「はっ、はっ、え、うそ!?」
反対側の出口から多数のお面の生き物がこちらに向かってきていた。
アーケードの一本道による挟み撃ち。
「ど、どうしようっ!?」
横には逃げ道は無い。
「こっち!」
が、人が隠れられる建物はあった。
腐敗臭が酷いスーパーから声をかけて来たのは少女よりも年下らしいリュックを背負ったボーイスカウトの茶色いユニフォームを着た人物だった。
何でこんなところに人が?
一瞬疑問が浮かんだものの、今は考える状況じゃない。異臭に顔をしかめつつ、少女はその見知らぬ人物の言葉に従った。
「裏からでれるよ!」
その言い分は正しく、今まで入ったことも無い店内の裏側に裏口があり、そこからアーケードを抜け出した。ボーイスカウトくんは外に出る少女を確認した際、お面の生き物が出にくいように店内を荒らしてから外に出ていた。どうやら相当手慣れているようだ。
「それでえっと、君は」
「もうちょっと待って、はやく逃げなきゃましろちゃん」
プルルルル……、と。
頭上を向くと、頭にプロペラを刺したお面の生き物が空を旋回してるのが見えた。少女の友達が見たら理論をまくしたてて憤慨しそうな光景だ。
「う、うん。そうだね」
鬼ごっこは続く。
頭身の低いお面達に比べて少女たちの方が速い。が、如何せん相手は数が多く、この商店街全体にチームとして分散しているようでどこに逃げても見つかってしまう。
加えて二人の体力の差が表れ始めた。
逃げ回る途中、ボーイスカウトくんが足をもつれさせてしまい地面に膝をぶつけた。
少女が手を引いて建物の間に隠れると、
「大丈夫?」
「――、――っ」
涙を浮かべて息絶え絶えに頷くボーイスカウトくん。普段から走り込みをする少女と違って流石に体力が限界になったのだろう。それと半ズボンから出た膝は赤く濡れていて、少女も顔をしかめる。
ポケットからハンカチを取り出して考える。
お面の生き物から逃れるにはどうすればいいか?
商店街から出てソラシド市に向かった場合、お面の生き物もソラシド市に侵入し、少女と同じ目に合わせる可能性が高い。お面達を撒くためにあちこち廻って帰るにも、ボーイスカウトくんのこのありさまじゃ難しい。
では隠れるのは?
駄目だ。そもそもお面の生き物の目的がわからない。
何のためにこの商店街に集まっていて、どうして人を追い回すのか。人を捕まえていったい何をするのか。何もわからない上に、いつまで隠れればいいのか? それらのことを想像してしまうと焦りが芽生え、気が狂いそうになる。
この状況、逃げるのも隠れるのも選択できない。
考えに考え、少女――虹ヶ丘ましろが選ぶのは――
「――ねぇ、君の名前は?」
「……くろすひろみ」
少し休んで上がった息を整え、痛みに慣れ始めたおかげか、ボーイスカウトくんことくろすひろみは落ち着いた面持ちで少女の話を聞いている。
その様子を見てましろは内心ほっと息を吐いた。
「もう痛くないかな? 立てる?」
「うん、大丈夫」
けど無理は禁物。
ソラシド市に向かわせるには少なくとも1時間以上、この子の状態を見てもそれ以上の時間が必要だ。
「この先にソラシド市っていう街があるの。道路に沿って行けばつけるから、そこに居る虹ヶ丘ヨヨっておばあちゃんに会って、私の友達を呼んで来て欲しいんだ」
「友達って……もしかして」
何かを察したような顔でましろの顔を見たひろみ。
既に覚悟を決めたましろは意を決して建物の陰から飛び出る。
ひろみに乞われたからじゃない。みんなが居た時から決められたわけじゃない。これは自分の意志でやること。
「おーい!!」
くろすひろみを逃がすために。
ヒーローを目指す少女の隣に居るために。
お面達の前に出たましろは、もう一度スカイミラージュを握る。
「スカイミラージュ! トーンコネクト!」
ピンク色の光に包まれたましろは宝石ちりばめる宇宙に立った。
「ひろがるチェンジっ、プリズム♪」
赤みのあるあずき色の髪が鮮やかなピンクのロングヘアーへ。
「きらめきホップ♪」
真っ白なリボンで髪をまとめ、愛らしいイヤリングを着けた。
「さわやかステップ♪」
ハートをあしらった白とピンクの衣装に身を包み、星輝く夜空のようなインナースカートを履いて、虹のようにちりばめられたアクセサリーがキラリと光る。
「ハレバレ、ジャンプ!」
最後はヒロインらしく。
見る者全てを見惚れさせるようなウィンクをキメて、ましろは現実世界に舞い戻る!
既にお面の生き物は周囲を取り囲んでる。
けど関係ない。
ましろはそんな彼らを前に凛々しく名乗りを上げた!
(そういえば)
周囲の観察と名乗り上げのわずかな隙間に、ましろは少し考える。
どうしてひろみは私の名前を知ってたんだろう? と。
「ふらりひろがる、優しい光。キュアプリズムっ♪」