リミックス・ヒーローズ! 作:日立インスパイアザネクス人@妄想厨
ましろがプリキュアと名乗りを上げた時と同時刻。
「もっとスピード出せないの!? これじゃあ追いつかれちゃうよ!」
「クリーンクルーザーは運搬用モービルであってチェイスのポリスカーほどスピードは出ないであります! それに前にある木が邪魔で進めないでありますー!」
何の整備もされてない林道を複数の車両がカーチェイスを繰り広げていた。
先頭を走るのは緑の清掃車だ。二本のアームを前面に突き出し、前を遮る木々をなぎ倒して道を造っていく。本来そういったパワープレイはしないためか車速が通常より遅くなってしまっていた。
その所為で背後から迫りくるモノはあっという間に追いつかれてしまう。
「っ! ロッキーぶつかるよ!」
「へ? うわあ!?」
ごがッッッ!! と。
緑の清掃車を大きく揺らして、乗っていた2人は危うく放り投げだされそうだった。
「いひひ、ふぁいふぉううふぇあひあふ?(いてて、大丈夫であります?)」
「僕はケガしてないよ……よだれでべとべとするけど」
口で咥えられて車外放出を逃れた方は怒るに怒れない。相手は運転に集中しているのだから。
ぺっ、と車内に放り投げられた方は、彼らの背後から迫る『敵』を確認した。
一人用のゴーカートに乗った赤いフードをかぶった仮面の生き物。
赤い甲羅を片手にバイクに乗り回す緑の人間大の大きなカメ。
痛そうなトゲトゲを投げてくる雲に乗ったゴーグルをつけたカメ。
自分たちを追ってくる敵はそんなファンタジー感がある見たことのない生き物ばかりだ。
「もー! ずっと追いかけられてるでありますー!」
「本当に何なんだこの世界は! どこもかしこも敵だらけじゃないかー!」
見知らぬ土地で正体不明の『敵』に追われて
ともあれ今は満足に戦えないし、逃げに徹しておかないと『敵』に何をされるのかわからない。
再度カメから甲羅をぶつけられながらも2人は前を進んでいく。
☆
「やぁ!!」
キュアプリズムから放たれる虹色の光弾が赤いフードをかぶった仮面の生物に当たり、コインをまき散らしながら転がっていく。
迫ってくる槍を捌き、フードを掴んで空を旋回するプロペラフードに投げつけて撃墜させるとコインを撒き散らして落ちてくる。
赤いフードの生き物にパンチを繰り出すとコインをまき散らして商店街の向こうまで吹っ飛んでいく。
そんな光景が繰り返される中、キュアプリズムは思う。
(どうしよう……力が出ない!!)
世界が切り替わった時からプリキュアのパワーが上手く引き出せなくなっていたが、この商店街に来てプリキュアに変身してからはパワーの消耗を手に取るように自覚できた。
赤いフードの生き物はそう強くない。むしろ弱い。数が多いだけで危ないと感じることはそうなかった。
けれど、普段ならソフトボールを投げるような感覚で光弾を放てるのに、今はボウリングの球を投げてるようで、岩に向かってパンチしてるようで、とにかく一挙手一投足が重すぎる。
それなのに敵はどんどんやってきて、逃がすべきひろみは逃げ場を失って未だにキュアプリズムに守られている。
「こうなったら――!」
プリキュアの力をふり絞り、光弾を両手に集めだした。
「ひろみくん! 目をつぶって!」
「! んっ!」
言われた通りぎゅっと目をつぶったのを確認して、光を集めた球体を頭上に掲げて弾けさせた。
電球に過剰に電気を流して破裂させたように、辺りを白に染めるほどの光が放たれた。
それをまともに見た赤いフードの生き物はどうなっただろうか? それを確認する前に、キュアプリズムはひろみの体を抱えて離脱する。
「作戦大成功、だよ! あーひろみくん大丈夫っ? ケガはないっ?」
「んーだいじょうぶ。目がしょぼしょぼする」
「ゴメンね! でもまずはソラシド市に行かなきゃ!」
商店街を抜けて、ましろが歩いてきた道を逆に辿っていく。そうすればまず道に迷うことは無いから。
赤いフードの生き物がキュアプリズムと戦おうと集まっていたおかげだろうか。商店街にあれだけいたあの生き物は見当たらない。商店街にいた彼らのほとんどは先の目くらましを食らって動けなくなっているはずだ。
その隙に一気に逃げたいけれど、キュアプリズムの体力は尽きかけてる。洗い呼吸が治まらないし、ひろみを抱える腕は不意に落としてしまいそうで、足は今にももつれそう。プリキュアに変身していられるのもいつまで持つのだろうか?
まるでプリキュアになる前の自分だ。そう考えると妙な懐かしさを覚える。
ましろがプリキュアになる前、偶然出会ったソラがソラシド市で唯一のプリキュアで、自分はただソラの戦いを見てる脇役でしかなかった。それでも自身の無い自分を大切な友達と、周囲の人たちが認めてくれて、今プリキュアとしてひろみを守っている。
キュアプリズムの始まりを想い返し、不意に最初の『敵』が脳裏をよぎった時、
「ランボォォォ―――グッ!!」
え? と振り返る前に、背中から爆風が噴いてキュアプリズムの体は宙を舞う。
目まぐるしく回り空高くから落ちていく視界の中、衝撃で思わず手を放してしまったひろみを探し、
「――――!!」
悲鳴にならない声で回転してる子供を確認する。
キュアプリズムは自身が作った光弾を足場にしてひろみに接近、もう一度抱きしめて山道の木々にぶつからないように着地した。
「はぁっ! はぁ、はぁ……っ」
世界が切り替わる前のプリキュアに変身した自分なら今の一連の行動はたやすく行なえたのに、今ではあっという間に息が上がってしまう。
心配する声が横から聞こえてきたけれど、キュアプリズムはその声に応えずに先ほど自分が居た場所へ視線を向ける。
「ランボー――グッ!!」
威嚇をするように足を踏み鳴らしたり、タイヤで出来た拳を地面に叩きつけたりする二足歩行の車の怪物。
その正体はアンダーグ・エナジーという闇の力を注がれて猛獣のように暴れまわる無機物だ。
キュアプリズムは彼らのことをよく知っている。かつて自分達の『敵』として立ち塞がったから。
けれどその事実に疑問が生じる。
どうして? と。
「せっかく探し物をヘイホーどもに任せてぐっすり寝てたのに、騒がしくって起きたら何処かで見たしみったれた顔を見つけたからランボーグを連れてきたらやっぱり知ってる顔だったのねん」
車のランボーグの後ろから、突然聞こえてきた声にキュアプリズムは聞き覚えがあった。
声の主はでっぷりと肥えたお腹を揺らしてキュアプリズムのことを嘲笑い、
「か」
「しかもちょっと走っただけでフラフラになるぐらい疲れ切って? ヘイホー相手に手こずるYOEEE~! プリキュアになっちゃうなんて、こっちがびっくりするぐらい無様な
「カバトン!?」
モヒカン刈りにピアスといった世紀末なファッションを纏った紫色のブタの獣人、アンダーグ帝国の幹部カバトンは赤いフードの生き物を引き連れて現れた。
☆
「どうしてあなたが!? それにお面の人たちを引き連れて、どうするつもりなの!?」
カバトンの出現にキュアプリズムは混乱した。
世界が切り替わったこと、見知らぬ土地が現れたこと、奇妙な生き物に襲われたこと、ソラ達が攫われて居なくなったこと。ここ最近物事が入り乱れすぎて処理しきれないことが多かったが
そんなキュアプリズムに対し、カバトンはかつてのように敵意を向けて、
「だ~から探し物だって言ってるのねん。ちょ~ムカつく連中におしりを蹴っ飛ばされなきゃこんな寄り道せずにカイゼリンさまの命令を遂行出来たのに……っ」
「……カイゼリン?」
何処か苛立った様子のカバトンの言葉に、聞き逃せないワードがあった。
「カイゼリンの命令ってどういうことなの? スカイランドとアンダーグ帝国は和平を結んでいるのにこんな人を傷つけるようなマネをして、カイゼリンは何をしようと――」
「? お前は何を言ってるのねん?
「――え?」
会話がかみ合わない、所じゃなかった。
「っていうかさっきから質問ばっかでわけのわからないのねん。大体、お前みたいにYOEEE~やつがカイゼリンさまの名を気安く呼ぶんじゃねぇっ!!」
カバトンのその激昂は今まで見たことが無い、敬愛する人を侮辱されたことに対してのモノだ。
余計にわからない。
キュアプリズムとカバトンの間にある、根本的な何かがズレている。
ひっ、と息を飲む声はキュアプリズムの背後から聞こえた。カバトンの怒気を感じ取ったひろみの物だ。
それで混乱しきったキュアプリズムの思考は引き戻される。
「ん? ……何だ、商店街から逃げ遅れたただの
「っ、」
キュアプリズムは唇を噛み締めるが、やるべきことを思い出した。
今はひろみを助けることが最善。今の消耗しきったキュアプリズムではお面の生き物(ヘイホーと言うらしい)の軍勢とランボーグ、カバトンまで現れて追い詰められてしまった現状を打開する手は限られてる。逃げることだ。
正直悔しいけれど、ここまで戦力差がある以上立ち向かうのは不可能だ。一先ずソラシド市まで逃げてひろみの安全を確保しないと、キュアプリズムは全力を尽くすことも出来ない。
対策を考えるのはその後で良い。
「もー早く流れ星を見つけないとまたぐちぐち言われるのねん。やいヘイホー共! さっさとあいつをやっつけるのねん!」
カバトンの激が飛ぶと、ヘイホー達が槍を構え、じりじりと詰め寄ってくる。ランボーグも腕を広げてキュアプリズムのジャンプを防ごうとしてる。その辺りの連携はきっちりしてるのは予想外だ。
「……っ!」
「にょほっよほほほほっ! 今日でプリキュアもおしまいなのねん!!」
カバトンの言う通りかもしれない。
だけど、とキュアプリズムはひろみの手を固く握る。
まだ諦めたくない。
勝つことを諦めない限り、まだ自分は
そんな時だった。
☆
ブゥン、という音が聞こえた。
最初に気づいたのは仮にも獣人であったカバトンだった。
「ん? 何の音だ?」
きょろきょろと辺りを見回るカバトンだが、見つけられない。どうやら車のエンジン音のようだが……。
「……あ、そういえば
そう思いだし考えるのをやめた。
「……?」
一方キュアプリズムはカバトンのその様を見ていたため訝しく観察する。
いったい何があったのだろう? そう思って詰め寄るヘイホーから後ずさり。
不意に聞こえてきた、べきべきべきめきべきブォオオオン!! という音に心臓が飛び出しそうになり。
山道の木々を薙ぎ倒し、勢いそのままにカバトンを轢き潰した緑の車に呆気に取られてしまい。
「どぉぉぉーいてほしぃーでありまぁぁぁーす!!!!???」
「え、えええええええ―っ!!!???」
その車に乗ってた灰色のミックス犬が喋ったことに現状を忘れて仰天してしまうのであった。