ようこそ背中合わせの教室へ   作:V.IIIIIV³

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現在本編を3話まで投稿済みなのですが,あまりにも主人公がブラックボックスすぎるのでプロローグをひとつまみ.

ほぼ連続投稿になってますので,もし3話を見てない方がいたらそちらもあわせてどうぞ.


プロローグ

 ある片田舎に、一人の少年がいた。

 

 少年には、映像記憶能力と呼ばれる才能があった。一度見たもののことはなにがあっても忘れることはなく、どんなに些細なことを聞かれても答えることが出来たという。

 

 少年は周りの人々から大変もてはやされた。

 

 そんな噂をどこから嗅ぎつけたのか、とある研究施設の研究員が少年の家にやってきた。

 

「10億あります」

 

 少年は売られた。

 

 もとから薬におぼれてろくでもない生活を送っていた母親だった。金に目がくらみ、即決で実の息子を売りに出した。きっと今頃また薬漬けの生活を送っているだろう。

 

 連れてこられた研究施設では、日々壮絶な人体実験が行われた。

 

 最初に行われたのは、記憶の耐久力実験。どんな出来事があっても記憶に綻びが生じないかを調査するための実験だ。

 

 絶食込みの24時間放置などはかわいいもので、終盤には拷問まがいの行為も行われた。

 

 少年は時に泣きわめき,時に痛みに悶えのたうち回りながらも,そのすべてをなんなくクリアした。

 

 次に行われたのは、脳をいじる実験。記憶能力を聴覚にまで拡張し、映像記憶から完全記憶への昇華を目的とした実験だ。

 

 実験は完遂された。少年は1000を超えるページ数の小説を目の前で朗読された後、その内容を一言一句違わずに暗唱して見せた。

 

 能力が拡張されれば、また耐久力実験が繰り返される。

 

 少年の脳裏には、いまもなお壮絶な実験の記憶が鮮明に刻みこまれている。

 

 少年は恐怖に震え、脱走を試みた。研究の隙を見つけては施設の外に脱出し、深い森の中を駆け抜けた。

 

 毎日、毎日、ボロボロになりながら。あの地獄のような日々を過ごしたくないという一心で森の中を駆け巡った。

 

 少年の身体能力は、施設に入る前に比べ格段に跳ね上がっていた。脳をいじる実験の副作用により、力を制御するためのリミッターが外れてしまったらしい。

 

 しかし少年の願いはかなわず、何度繰り返しても施設から逃れることは不可能だった。

 

 脱走の処罰が記憶の中の地獄を超え始めた頃、少年は抵抗することをやめた。

 

 せめて痛みを最小限に抑えるために、少年は淡々と全ての実験をこなしていった。

 

 既に少年の目には僅かな光も灯っておらず、この世界に心底絶望していた。

 

 自決を試みた回数も数回ではないが、そのことごとくを未然に防がれてしまう。

 

 ある日、少年は研究員に連れ出され、とある別の研究施設に訪れた。

 

 千載一遇の脱走のチャンスだったが、少年にそれを試みる気力は残されていなかった。

 

「そのガキが例の被験体か」

「はい。拡張実験にも耐えた、我々の最高傑作です」

「ふん、人が手を加えたとはいえ所詮は天才の改造だ。生来の天才に興味はない」

 

 何処を見ても真っ白な壁に囲まれた一室で、少年の研究員とこの施設の責任者が会話しているが、そんな話に興味はなかった。

 

 少年の興味はただ一つ、目の前に佇む白い服の少年のみ。

 

「そちらが例の息子さんですか?」

「ああ。現状の最高傑作だ。人工の天才とは言い難いのが惜しいところだがな」

 

 白い服の少年は冷ややかな目で、少年を観察している。

 

 少年もまた垂れ下がる前髪をすり抜けて、少年たちの目が合った。

 

(俺と同じ目をしてる。自分の未来に希望なんてないと悟っている、そんな目を)

 

 生まれて初めての、自分と同じ境遇にある者との出会い。

 

 これが彼の救いとなったかと言えば、そのようなことはない。

 

 出会い自体に意味があったのかと聞かれれば、特に意味もなかったのかもしれない。

 

 確かに存在するのは、後に彼らがお互いの大きな救いとなるという、事実だけである。

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