食禍の妖精   作:根本芳樹

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ミカン、リンゴ、タイム
リンゴ市場


 目が覚めるとそこは市場だった。喉の乾きを覚え、近くの屋台に向かう。

 値札に星が三つついているリンゴを見て「おいくらですか」と尋ねる。

「いや、タダだよ」

 店主が言った。

「いいんですか」

「タダだけど、感想がほしい」

「リンゴの味の?」

「おう」

 なんとなく一つ手に取ってかじる。まあ普通の林檎だった。喉を潤せたのはありがたかったが、味の感想と言われると、はて、この水っぽさと味の薄さをどうしたものか。苦心した末に、「喉が渇いていたので美味しく感じたが、甘みが足りない」を「瑞々しくてすっきりした後味」と言い換えて褒めた。

「おお、よかったよかった」

 また来いよ、と機嫌よく言われたので礼をして去る。なんとなく歩いていると、「味の批評大歓迎!」という看板の下、人の頭くらいありそうなサイズのリンゴを売っている人がいた。現金にも空腹を覚え始めていた私は、友人との話の種になるかと思い「批評をすればよいですか」と尋ねてリンゴを取った。

 かじって、うっ、と思った。甘いのだが、なんというか身が詰まりすぎていて咀嚼できない。薬品でも入れたんじゃないかと思うような辛味、皮の苦みがあとから押し寄せてくる。

 悩んだ末に恐る恐る「この味は今流行ってないんじゃないのか」と言うと、店主は顔をリンゴのような色にしてわめきだした。わけがわからない。「批評歓迎」の文字は嘘だったのか。「感想歓迎」なら手心を加えたかもしれないが「批評」なら欠点、改善点の提案をすべきなのではないだろうか。私がそう述べると、周囲の屋台番たちの目線がおかしくなってきた。いいところを無理やり探して褒めるのが正解だったのだろうか?

「おい!」

 怒声が聞こえたかと思うと、頭を黒い布で覆われた。浮遊感と強風に煽られるような感覚の後、目の前には全く別の景色と共に友人が立っていた。

「助かった」

「気をつけろよ」

 友人は私の肩を支えて歩き始めた。

「あいつら一世紀くらい前からいろんなとこで市場やってんだ。農家以外できない奴らの集まりだから、独特のルールがある。お前はルールを破った」

「そうなんだ」

 私は言った。

「でも、ルールを知らない人もリンゴ買いに来るんじゃないの」

「農家の中にはそれを忘れてる奴もいる」

「もう市場じゃなくて農家会合に改名したらいいんじゃ」

「市場自体は悪いもんじゃねえんだよ。たまに美味えリンゴがあるし」

 と言って、萎びてほとんど紫色になったリンゴを渡してきた。

「市場のじゃないけど、俺のお気に入り」

 ためらったが、空腹には勝てない。口に運ぶ。ねっとりとした食感と柔らかさに目を見張る。

「美味しい。美味しいけどサツマイモの味」

「リンゴ市場には卸せん品だ、わざわざ農家に行って箱で買ってる。お前みたいな特殊性癖はああいうところに行かなきゃダメだ」

「まだそんな奇人がいるんだ」

「市場に来ないのにはいろいろ理由があるんだ、本気で支えるなら褒めに行かねえと。たまに褒められなくても作ってるのがいるけど」

「ふうん。で、これ作ったの誰?」

「今日紹介するよ」

 私はほとんど庇われるようにしながら、もう一口そのリンゴをかじった。懐かしいような味がした。

 

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