コズミックアーカイブ(仮面ライダーフォーゼ×ブルーアーカイブ)   作:炙り中トロ

11 / 18
第11話 借・金・砂・漠

「……アコ、この状況、きちんと説明してもらう。」

 

『ゲヘナ風紀委員長の空崎ヒナ…外見情報全てが一致します。本人で間違いありません。』

『ですが、風紀委員長ということはゲヘナのトップ…この状況でそんな人まで……』

 

アヤネは絶望した。向こうの数をかなり減らせたとは言え、こちらの体力はほぼ限界。そんな中でキヴォトストップクラスの実力者が来てしまっては勝ち目なんてないに等しい。

 

「や、ちょっと待て。なんかおかしい。ちょっと様子を見るぞ。」

 

フォーゼの言う通り、向こう側の様子が変だ。その原因はアコがヒナに黙って半ば侵攻の形でアビドスに攻め入ったからであろう。アコは冷や汗を流し、他の風紀委員も緊張している。

 

 

 

 

 

 

 

 

『こ、これはその、素行の悪い生徒たちを捕まえようと……』

「素行の悪い生徒たち?美食研究会は拘束中だし、便利屋68のこと?どこ?今はアビドスにシャーレと対峙してるように見えるけど。」

『え?便利屋でしたらそこに…』

 

と、アコは先程まで便利屋が立っていたところを見る。ヒナもそれに釣られてその方向を見るのだが、その場は人っ子一人おらず忽然としており、ただ木枯らしが吹いているだけだった。

 

『い、いつの間に逃げたのですか!?さっきまであそこにいたのに……』

「……」

 

『え、えっと…委員長、全て説明いたします。』

「……いや、もういい、大体把握した」

「察するに、ゲヘナにとっての不安要素の確認及び排除、そういう政治的な活動の一環ってところね」

『……』

「でもアコ、私達は風紀委員会であって生徒会じゃない。シャーレ、ティーパーティー、それに連邦生徒会長……そういうのは万魔殿のタヌキ達にでも任せておけば良い。詳しい話は帰ってから、通信を切って校舎で謹慎していなさい。」

『……はい。』

 

ヒナの口から無常にも発せられた冷酷な言葉。アコはなにか反論するでも、説明をするでもなく、ヒナの指示に従って通信を切った。

その判断は正しい。ここでなにか言っても、見苦しいだけである。自業自得ではあるが。

 

「……」

 

主犯格のアコが謹慎になり、風紀委員会のターゲットである便利屋68も逃亡した今、アビドス側も風紀委員会側も沈黙を守っている。

 

「……じゃあ改めてやろうか。」

 

『ちょっ!?ゲヘナの風紀委員長といえば、キヴォトスでも互角に戦える人を見つけるほうが難しい強者中の強者ですよ!?まともにやり合っても勝ち目なんてありません!』

『すぐに戦おうとしないでくださいっ!ここは下手に動かず、交渉に持ち込むべきです!』

「う、うん、ごめん……」

 

シロコ、まさかの再戦宣言。今ここで戦えば、この辺り一帯が灰燼と化しかねない。戦いが勃発する前にアヤネが慌ててシロコを止める。

銀行強盗の件といい、シロコはけっこう好戦的なのかもしれない。ある意味ガッツがあると言える。だが、アヤネに口説かれ、更にヒナの威圧感もあってか、素直に引き下がる。

アヤネは『全くもう…』と愚痴りながらドローンをヒナに向かって飛ばす。

 

『こちら、対策委員会です。はじめまして、風紀委員長ですね?』

『こちらの状況については理解していますでしょうか?』

「……もちろん。」

「事前通達無しでの他校の自治区への無断兵器運用、及び現地での他校生徒との衝突。確かにこれは重い罪ね。」

「けれど、そちらが風紀委員会の公務を妨害したのも事実。違う?」

『……っ!?』

「……」

ヒナがそう言った瞬間、対策委員会のみんなが殺気立つ。それは、ヒナを除く全風紀委員がビビるほどに。フォーゼも若干動揺している。

 

「……それで?アビドスを無茶苦茶にされた私達に謝れとでも言いたいわけ?それとも喧嘩両成敗にでもしろと?」

「私たちの意見は変わりませんよ?」

「そっちがその気なら…!」

 

ヒナから感じた恐怖感、威圧感は本物だ。三人がかりでヒナに挑んでも蹴散らされるだろうし、他の風紀委員も同時にかかってきた日には一分持てば良い方だ。

だが、そうだとしても、無断で自治区への侵入をされ、暴れられた挙げ句、行政官のみでは飽き足らず、風紀委員長にまでこんな理不尽なことを言われたら、黙ってはいられない。

 

『ま、待ってください!まだ敵の数はまだまだ未知数で便利屋もいません…風紀委員長に対抗できるのは先生のみ……それでも勝てるかどうかは微妙です…どういうわけか味方を止めるのも大変ですし……』

 

唯一怒りを堪えて冷静に考えているアヤネには分かる。この戦いに勝ち目はない。

フォーゼであれば風紀委員会を一掃する力はあり、ヒナとも互角に戦えるかもしれないが、弦太朗は立場上、本気で戦うことはできない。それに、今にも戦い始めそうな三人を止めるのも大変だ。

フォーゼも「落ち着けって……!」と説得しているが、彼女らの憤りはそう簡単に止まりそうにない。

 

『あうぅ…こんなときにホシノ先輩がいれば…』

「……ホシノ?」

「アビドスのホシノって…もしかして小鳥遊ホシノ?」

『……え?』

「?」

 

ホシノの名を聞いた瞬間、これまでただ淡々と言い分を告げていただけのヒナがこちらに質問をしてきた。

それほどホシノは影響力がデカいのか?ホシノという人間が双方にとって未知数なこともありフォーゼは疑問に思う。

……そんな中、今話題に上がっている彼女が現れた。

 

「うへ~、こいつはまた何があったんだか、凄い事になっているじゃ~ん」

「!!」

「えっ!?」

『ホ、ホシノ先輩!?』

「先輩!今までどこにいたんですか!?」

「うへへ、ごめんごめーん、ちょっと昼寝しててさ〜」

「……!!」

 

こんな状況であっても平常運転。ホシノが帰ってきた。なんやかんやで頼りになるアビドスのみんなの先輩。こんな状況でも変わらないのほほんとした態度に少しだけ苛立ちながらも、大半の感情はようやくホシノが帰ってきたことで生まれた希望である。

それに対して、これまで冷静だったヒナは驚いたような顔をし、動揺していた。

 

「昼寝ぇ!?こんな大変なときに!?こっちではゲヘナの風紀委員会が…!」

「でも、全部倒した。」

「全部…ではないですが、まぁ大体は。」

「風紀委員会、ね…便利屋でも捕まえに来たの?」

「……」

 

ホシノとヒナは互いに見つめ合い、観察する。顔が鋭いヒナはもちろんのこと、ヘラヘラしているホシノにも隙がない。

だが、ヒナはそんな中で、もう一人の人間を観察していた。それは───────

 

「……」

「ま、よくわかんないけど、これでアビドスは勢揃いだよ。ってわけで、風紀委員長ちゃん、やってみる?」

「……1年の時とは随分変わった、人違いじゃないかと思うくらいに。」

「……ん?なに?私のこと知ってるの?」

 

「1年と時とは随分変わった」というヒナの言葉に、ホシノの顔が少し鋭くなる。そして先程までより真面目な口調でヒナに迫るように聞いた。

 

「情報部にいた頃、各自治区の要注意生徒はある程度把握していたから。」

「特に小鳥遊ホシノ……あなたの事を忘れる筈がない、あの事件の後、アビドスを去ったと思っていたけど…」

「……」

「そうか、そういう事か…だからシャーレが…」

「…だとしたら、把握しておいたほうが良いかも。」

 

ヒナはホシノに聞こえないくらいの小声でそう呟くと、一瞬視界からホシノを外し、フォーゼを…弦太朗を見る。

 

「…?」

 

フォーゼも話は聞いていたが、意味がわからなかった。なぜここでシャーレが出てくるのか、自分が来る前のキヴォトスで、アビドスで、ゲヘナでなにがあったのか……

 

「……まぁいい。私も戦うためにここに来たわけじゃないから。」

 

ヒナはそう言って、ホシノに踵を返す。そしてそのまま去ると思いきや、フォーゼの方を見た。

と思うと、ヒナは突如としてフォーゼに襲いかかった。ヒナの銃撃を跳び下がって躱す。

だが、休む暇など与えず、ヒナはフォーゼに接近して格闘戦に持ち込む。

 

「どういうつもりだ!?」

「あなたがシャーレの先生でしょ?嫌いなわけじゃない。あくまで興味本位だけど、あなたを試させてもらう。」

 

ヒナはそう言うと、愛銃のデストロイヤーから紫色の銃弾をいくつも放つ。終幕:イシュ・ポシェテと呼ばれるヒナの必殺技だ。

 

「!」

『シールドオン』

フォーゼは喰らう直前にシールドモジュールを装備し、ガードする。だが、それでも高すぎる威力にフォーゼは少し押されていく。

 

「ぐっ…!」

 

『シールドリミットブレイク!』

 

「オラッ!」

 

フォーゼはリミットブレイクを発動し、ヒナのイシュ・ポシェテを弾いた。

 

「…」

「噂には聞いていましたが…まさか変身した先生相手にあそこまでやれるなんて……」

「アレを弾いた!?」

 

双方にとって、フォーゼとヒナの強さは予想を遥かに上回っていたらしく、互いにその強さに驚愕する。

特に驚いていたのはイオリである。ずっと最前線でヒナの戦いを見てきたから分かる。アレを耐えたのは、フォーゼが初めてだ。

 

「次は先生の番よ。遠慮なんてせず殴ってくればいい。」

 

ヒナはそう言うと、なんとデストロイヤーを下げ、無防備になる。

フォーゼのスペックは凄まじい。いくらヒナとは言え、正面からストレートパンチでも喰らったらただでは済まないだろう。

だが、それは弦太朗の望むところではない。

 

「いや、生徒を殴るなんて先生として無理だ。いや、俺は先生じゃなくても、無防備なヤツを殴る趣味はねぇ。俺の力は、やり過ぎたやつを連れ戻すことと、ダチと青春を守るためにあるんだ。だから……」

 

フォーゼはそこまで言うと、スイッチを上げて変身を解く。それは、自分に敵意がないことの証明だった。

 

「俺はヒナとは戦わねぇ。」

「……そう。」

 

ヒナはその言葉を聞くと、特に引き止めずに踵を返した。

 

「…嘘はついていない……あなたになら任せても大丈夫そうね。」

 

ヒナは誰にも聞こえない声でそう呟くと、チナツとイオリの方へ歩いていった。

 

「……二人共、撤退準備、帰るよ。」

「えっ!?」

 

いきなりフォーゼと戦い始めた辺り、このまま戦争でもおっぱじめるのかと思っていたみんなだったが、ヒナのその言葉に一同、面食らう。風紀委員会の方からは動揺と困惑の声が上がっていた。

しかも、それだけでは終わらない。ヒナはアビドスの面々の側まで来ると、目を閉じて頭を下げた。

 

「えっ?」

「頭を下げました……!?」

「事前通達なしでの無断兵力運用、他校の自治区で騒ぎを起こした事。この事については私、空崎ヒナより、ゲヘナ風紀委員長としてアビドス対策委員会に対して、公式に謝罪する。」

「今後、ゲヘナの風紀委員会が無断でアビドス自治区に侵入することは無いと約束する。どうか許してほしい。」

「先生も、さっきはいきなり襲いかかったりしてごめんなさい。大人であるアナタを少し試したかったの。これは風紀委員会としてではなく、空崎ヒナとして謝罪させてもらう。」

 

更に弦太朗にも近寄り、頭を下げて謝罪をした。

ヒナが弦太朗に攻撃を仕掛けたのは、弦太朗を試すためだったらしい。と言っても、強さを試すのではない。そもそも、強さに関しては美食研究会事件の報告書で大体確認している。

ヒナが気になったのは、弦太朗自身のことである。

──────ヒナはホシノが1年生の頃に起こった事件のことを知っている。

だから、弦太朗がフォーゼという強大な力を守るために使う心があるのか、襲いかかった後に敢えて無防備になることで試したのだ。そしてヒナの中で弦太朗は、信頼に値した。

そして謝罪が終わると、「帰るよ」と言って、ゲヘナの兵を率いてアビドスから消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

「うへ、とりあえず終わったみたいだけど、ここで何があったのかなぁ〜?」

「そうですね、事態がなんだか大きくなりつつありますし、一度戻ってまとめてみましょうか。」

 

対策委員会も状況整理のために校舎へ戻ることになり、その場から去っていく。

 

「……先生。」

「お?」

 

そんな中、シロコは怪訝な顔で弦太朗に話しかける。

 

「さっき、風紀委員長と何を話してたの?」

「……聞こえてたんだな。」

「うん。耳が良いから。内容まではわからなかったけど。」

「……」

 

そうだ。シロコは耳が良い。ビートモジュールの音を聴いて真っ先に倒れるくらいには。

弦太朗はヒナと話したことを思い出した。

これは、ヒナに謝られたあとのこと……

 

 

 

 

「……それと、あなたに伝えておきたいことがある。」

「俺に?」

「えぇ、カイザーコーポレーションって知ってる?」

「!…ざっくりだけどな。」

 

思いも寄らないワードが出てきて、弦太朗は面食らう。どうやらカイザーコーポレーションの悪徳さはゲヘナも危険視しているようだ。

 

「……これはまだ、万魔殿も、ティーパーティーも掴んでいない情報なのだけど、アビドスの捨てられた砂漠、あそこで、カイザーコーポレーションが何かを企んでいる。」

「アビドス砂漠で…?」

「そう。本当なら廃校予定のアビドスに教える義理はないのだけど、一応ね。」

「じゃあまた、今度はもっと平和な形で会いましょう。」

 

 

 

 

 

「…後で皆の前で話す。大事なことだからな。」

「……分かった、帰ろ。」

 

これは、シロコ一人だけに……とかそういう話ではない。もしかしたらカイザーコーポレーションの中枢を知る手がかりになるやもしれない。

弦太朗は皆の後を追って歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「大将、大丈夫?」

「おう、大丈夫だ。悪いな、バイト出来なくなっちゃって。」

 

それから少し経って、弦太朗、セリカ、アヤネの3人は柴関ラーメンの大将のお見舞いに来ていた。出来るなら全員で無事を確認したかったのだが、大人数で病院に押し掛けるわけには行かず、ノノミ、シロコ、ホシノは先に学校に戻っている。ひどい怪我はなかったが、大事を取って2日間の入院だそうだ。

不本意にとは言え、店を爆発させた便利屋は逃げてからどこに行ったか分かっていないが、目撃情報によると、事務所らしき場所から荷物を運び出し、アビドスの外へと引っ越して行ったらしい。やはり、風紀委員会に場所を知られた以上、長居するわけにも行かないということか。

 

「ま、このラーメン屋も近々畳む予定だったんだ。それが少し早くなっただけさ。」

 

その言葉に、「えっ!?」という大将を除く3人の声が病室に響いた。

閉店など初耳である。柴関でバイトをしているセリカですら聞いていない。

 

「店を畳むなんて…いきなりなんで……!?」

「そうですよ!あんなに美味しいのに!」

「…退去命令が出ててな。」

「退去命令が……?」

 

退去命令が出ている……それはおかしい話だ。キヴォトスはほぼ全体が学園都市である。だからアビドスのような小さな学校であってもそれが学校として機能していれば自治区となり、その地域をまとめ上げることが出来る。そしてもちろん、アビドスは柴関ラーメンに退去命令など出していない。

「……そっか、みんなは知らなかったんだな。」

 

4人の表情から、知らないことである、そう読み取ると、驚きの事実を口に出した。

 

「…何年か前、アビドスの生徒会が借金を返さなくて土地や建物の所有権が移ったんだ。」

「!」

「えっ!?」 

「う、嘘!?アビドスの自治区なのに!?じゃあ今は一体誰が……!?」

 

二人が驚くのも無理はない。何年か前となれば、自分たちが入学するより前からアビドスの自治区の運営権利は譲渡されていたことになるのだから。これは自分たちが今、なんの借金を返し続けているのかと悩みかねない問題だ。

問題となる、アビドスの所有権を手に入れた何者かの名前を、弦太朗は大体察しがついていた。

ヒナから貰った情報の中にあった会社名、そして、ブラックマーケットに行ったあの日、学校前と闇銀行で見た会社のトラック…それらを照らし合わせると……

 

「カイザーコーポレーションか?」

「!!」

「……っ!?」

「あぁ…確かそんな名前だったような……」

 

アヤネは思考を張り巡らせた。カイザーコーポレーションは借金があるアビドス高校だけでなく、アビドス自治区全体に手を伸ばしていた…?となると……

 

「私は少し調べたいことがあるので先に戻っててください!」

 

アヤネはそう言って病室から飛び出して行った。セリカはそれに驚きながらも、「ま、待ってよー!?」と、アヤネの後を追って駆け出していってしまった。

その場に残された弦太朗と大将だが、弦太朗も帰って伝えなければならないことがある。長居はできない。

 

「ワリ、俺も用があるから今日は帰る。大事にしてくれよな。」

「おう、そっちもよろしくな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アヤネとセリカがどこへ向かったのかは分からないが、ヒナから聞いたこと、大将から聞いたことを一刻も早く伝えないといけない。

弦太朗はマシンマッシグラーを飛ばしてアビドスまで駆け抜けた。

そして校舎へと入り、みんなが待つ教室へと向かう。その途中で……

 

ドンッ!

ガッシャーンッ!

 

椅子と机の倒れる音が、教室の中から廊下まで響いた。

「!?今のは……!?」

 

弦太朗は音のした方に駆けて行く。場所はアビドスの校舎の奥の教室。ホシノのお昼寝スポット。

そこから異常な音が響いた。これは、ホシノになにかがあったのでは…

廊下は走っちゃいけませんとか、そんなことを言っている場合ではない。弦太朗は急いで空き室へ向かい、ドアを開けた。

 

「いたた…痛いじゃ~ん、どしたのシロコちゃん?」

「……いつまでシラを切るつもり?」

「うへ~、何のことを言ってるのか、おじさんにはよく分からないなぁ。」

「嘘つかないで。」

「嘘じゃないって~……」

 

喧嘩……というよりは、一方的な尋問、或いは言いがかりをしているようにも見えた。シロコはホシノに掴みかかり、ずっと何かを叫んでいる。そんなシロコをいつものように受け流そうとするホシノ。

このままエスカレートしていったからどうなるか……ドアが開いたのは、その瞬間だった。

 

「ホシノ!シロコ!なにがあったんだ!?」

「あ、先生、帰ってたんだね。」

「なら、尚更好都合。」

 

シロコは突然の弦太朗登場に少し驚いたが、すぐに気を取り直してホシノと向かい合う。

 

「先生も来た。これ以上は隠し通せないよ。」

「だから何にもないって〜。こーんなおじさんに、なんか秘密があると思う〜?」

「…いつ間でもこうなら、もう力づくで……!」

「!待てシロコ!」

 

埒が明かず、イライラしていたシロコは手を振り上げ、ホシノの胸ぐらを掴もうとする。

弦太朗は止めようとするが間に合わない。

 

「ストーップ!」 

 

そこに飛び込んで来たのはノノミだった。少し厳しい顔でシロコの手をホシノの目の前で止める。シロコとホシノは二人揃ってノノミを見つめ、シロコは気まずそうに目線を逸らした。

 

「ノノミ……」

「シロコちゃん、これは?」

「……ホシノ先輩に用事があるの。先生にも頼ろうと思ったけど、やっぱいい。悪いけど、二人きりにして。」

 

ノノミに睨まれたシロコは目を合わせようとせず、「二人には関係ない」とでも言うように突っぱねた。

ここまで冷たいシロコは初めてかもしれない。そんなシロコを前に、ノノミは──────────

 

「うーん、それは駄目です☆」

 

素直に立ち去るでも、更に怒りのボルテージを上げるでもなく、いつも通りに、笑顔でシロコに話した。これには、興奮気味だったシロコも少し狼狽えた。

 

「対策委員会に、『二人だけの秘密♡』みたいなものは許されません。何ていったって、運命共同体ですから!」

「……でも」

「ですから、きちんと状況の説明もしてくれない悪い子には──────」

「お仕置き☆しちゃいますよ?」

「う、うーん……」

 

ノノミに詰め寄られ、すっかり調子が崩れてしまったシロコ。

狙ったかどうか定かではないが、ずっと気難しくシロコとノノミを見ていたホシノが口を開いた。

 

「えっとねぇ…実は、おじさんがこっそりお昼寝してたのがバレちゃったんだよね~」

「私の怠け癖なんて今に始まった事じゃないとは思うけど、にしたってすごい勢いで来るもんだから、ちょっとビビっちゃってさ〜。シロコちゃんは真面目だからね〜。さて、そろそろ集まる時間だし、行こっか」

 

ホシノは特に大きな反応はせず、普段と同じで、ホシノならやっていてもおかしくないことをカミングアウトした。

ただ、いつものホシノより、明らかに口調が早い。まるで何かを誤魔化しているかのようだ。

しかし、ホシノは3人にそれを設置され、考えられるよりも前に立ち上がると、ドアから外へと出ていった。

ホシノがいなくなった今、シロコができることもない。シロコはすっかり意気消沈し、ホシノに続いて部屋から出ていった。

 

「あらら…まぁ、誰しもいいたくない秘密の一つや二つ、あるとは思いますが……」

「それにしたって…な……」

 

昼寝のし過ぎ……にしては、ホシノの言った通り、怒り過ぎである。一番感情的なセリカですら、こんな机や椅子を倒してまで問い詰めたりしないだろう。

……なにか、ホシノには重大な秘密がある。シロコは何かしらの形で、それを見つけてしまった。

二人は、そう思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

「……」

(気まずい……)

 

弦太朗、ホシノ、シロコ、ノノミの三人が教室に集まり、後はアヤネとセリカの帰りを待つのみ……なのだが、とにかく気まずい。

ホシノはどこか訝しげな表情をしているし、シロコは未だにホシノを睨んでいる。ノノミはそんな2人を心配し、不安な顔をしている。

どうしたものか…と、弦太朗が困っていると……

 

「ただいま戻りました!」

「みんな見て!大変なの!」

 

慌ただしい様子で二人が帰ってきた。二人は図書館から借りてきたのか、何かの資料本を机に広げたりしていたが、その場の空気に気付き、徐々に静かになる。

 

「…え?なにこの空気……」

「えっと…なにかあったんですか……?」

「や、今は大丈夫だ。それと、おかえり。」

「あ、えっと…ただいま…ってそうじゃなくて!」

「とんでもないことがわかったんです!これを!」

 

アヤネが指さしたのは、白い紙に黒い線が引かれ、所々に番号が割り振られている本の一つのページである。地図のようなそれが表しているのは、本来ならばアビドスが管理する地域の情報である。

 

「直近までの取引が記録されている、アビドス自治区の土地の台帳、『地籍図』と呼ばれるものです。」

「土地の所有者を確認できる書類、という事ですよね?でも書類なんて見なくても、アビドスの土地はアビドス高校の所有で──────」

「私もずっとそう思ってた!でも、そうじゃなかったの!」

「…大将から話を聞いて、調べてみたんです。その結果、柴関ラーメンを始めとしたこのアビドス自治区の殆どが──────私たち、アビドス高校の所有では、なくなっている……ということが分かりました。」

「えっ!?」

 

アヤネのその言葉に、ホシノが思わず呟き、食いつく。

これまで聞いた中で、一番大きなホシノの声。そして動揺。もの静かなホシノが声を上げるほどに、事態は深刻になっていた。

ホシノは厳しい目つきで聞き返す。

 

「……どういう事?アビドス自治区がアビドス所有じゃないって、そんな訳─────」

「現在の所有者はカイザーコンストラクション……ここにはそう書かれてあります。」

「─────!!」

 

ホシノはより一層険しい顔で地籍図を睨んだ。弦太朗は顎を触りながら、地籍図を見る。前も今も職が教師なだけあり、こういうことへの理解は早い。

 

「カイザーコンストラクション……カイザーってことは……カイザーコーポレーションとかカイザーローンと同じってことか。」

「それって、柴関ラーメンも……?」

「…はい、大将はその事を知っていた様です、退去命令も随分前から出ていたようで、いずれ起きることだった…と言っていました……」

 

ホシノだけでなく、明らかに動揺を隠せない対策委員会の面々。本来落ち着くべき状況だが、それができるほど出来た人間ではない。なにせ、まだ子供なのだから。

それに、この事実を、アビドスを管理するべき自分たちが把握しておらず、住民たちが続々とアビドスを出ていった…それはとても悔しいことである。

 

「既に砂漠になってしまった、本来のアビドス高校本館と、その周辺数千坪の荒れ地、そしてまだ砂漠化が進んでいない市内の建物や土地まで……所有権がまだ渡っていないのは、現在本館として使っているこの校舎と、周辺の一部地域だけでした……」

「で、ですが、どうしてこんな事に?学校の自治区の土地を取引きなんて、普通出来るはずが…」

 

ノノミの言う通りである。どれだけの大企業といえど、一方的に学園の所有物たる自治区を買うことはできないはずである。

その学園が許可を出したりでもしない限りは……

不意に、ホシノが口を開いた。今度は、至って冷静に。

 

「……アビドスの生徒会、でしょ。学校資産の議決権は、生徒会にある、それが可能なのは普通に考えて、その学校の生徒会だけ。」

「……はい、その通りです、取引きの主体はアビドス前生徒会でした…」

「でも、アビドスの生徒会は2年前に無くなったはずでは…?」

「その通りです、ですので、生徒会が無くなってからは取引き自体行われていません。」

「そっか…2年前」

 

ホシノは2年前……まだ自分が1年生の時を思い出して、目を細めて頬杖をついた。

対照的に、セリカの怒りは頂点に達していた。それは、今までのカイザーへの怒りというより、アビドスへの怒りである。

 

「何やってんのよ!その生徒会の奴らは!学校の土地を売る?学校の主体は生徒でしょ!?どうしてそんな事……!」

「こんな大事に、ずっと私たちは気付かないままいたなんて……」

「……それぞれの学校の自治区は、学校のもの、余りにも当たり前の常識です。当たり前すぎて、借金ばかりに気を取られ、気付く事が出来ませんでした…」

「私がもう少し早く気付いていれば…」

「ううん、それはアヤネちゃんが気にする事じゃないよ。」

 

もう遅いが、もっと早く気付いていれば…という悲壮に落ち込み、項垂れるアヤネ。そんなアヤネを諭すように励ますホシノ。

これはアヤネちゃんが入学するより前どころか、対策委員会が出来るより前の話である。アヤネが気に病む必要はないというのはその通りだ。

 

「……ホシノは何か知ってるのか?」

「確かに、ホシノ先輩も、アビドスの生徒会でしたよね?それならなにか…」

「え!?生徒会入ってたの!?」

「はい、確か、最後の生徒会の副会長だったと聞きました。」

 

 

「…まぁそんな事もあったね。二年も前の事だし、そもそも私もその辺の生徒会の先輩たちとは、実際に関わりはなくってさ。私が生徒会に入った時には、もう生徒会の人たちは殆ど辞めちゃってたから。」

「その時はもう在校生も二桁になってたし、教職員もいない、授業なんてものはもう、とっくの昔に途絶えてた。」

「生徒会室も、そうと言われないとただの倉庫にしか見えないとこだったし、引継ぎ書類なんて立派なものは一枚もなかった。ちょうど砂漠化を避けようとして、学校の本館を何度も移してた時期だった事もあってね……そもそも、最後の生徒会って言ったって、新任の生徒会長と私だけだったし。」

「……その生徒会長は無鉄砲で、ホント、バカみたいに何も分からないで、生徒会長になってさ。会長なのに校内でも随一のバカで、私の方だって、嫌な性格の新入生でさ。いや~、何もかもが滅茶苦茶だったよ。」

 

ホシノは窓の外の砂景色を眺めながらそう呟いた。「バカみたいに何も分からないで」のところを強調するように話していたのは、意識したのか、それともそうではないのか…

 

「校内随一の馬鹿が生徒会長…?何それ、どんな生徒会よ…?」

「成績と役回りは別だよ、セリカ。」

「そもそも、セリカちゃんも成績はそんなに…」

「わ、分かってるってば!どうして急に私の成績の話になる訳!?一応ツッコんでおいただけじゃん!?」

「……」

(ツッコメねぇ……!)

 

弦太朗は何も言えない。弦太朗も高校生の時の成績はかなり悪かった。大事な地学の試験テストで4点だったこともある。

それに、無鉄砲で、何も分からないまま……そういう点では、昔の自分と似たような人物なのかもしれない。

 

「……それにしても、どうして前の生徒会はカイザーコーポレーションにアビドスの土地を売ったのでしょうか?」

「実は裏で手を組んでたとか…」

「いえ、それは違うと思います…」

「うーん…私もしっかり関わってないから推測しかできないけど、ちゃんと学校のためを想って、色々と頑張ってた人たちだったんじゃないかな~って思ってる。多分、最初は借金を返そうとして…って感じなんだろうね。」

「でも、こーんな田舎の土地が高く売れるわけないし、残ってる土地を売り続けるしかなかった。そんなところだろうね。」

「何それ、何かおかしくない?最初からどうしようもないっていうか…」

 

セリカの言う通りである。土地を売る前の時点で、アビドスの借金は相当に膨らんでいた。その上で土地を売っても高くはつかないと言うのなら、悪循環に陥る以外の結末は考えられない。

そして、借金、カイザーコーポレーション、カイザーの系列会社であるカイザーローン……その全てを合せると、なんとなくだが結論が見えてくる。

 

「アビドスに金を貸したのもカイザー……」

「……!!」

 

弦太朗が呟くと、皆ハッとしたように目を見開いた。

アビドスは悪質な罠に嵌められたのかもしれない。外道が考える、甘い甘い見事な罠に。

 

「……カイザーローンが学校の手に負えないくらいの金を貸して、利子だけでも払ってもらうよう、土地を売るように仕向けた。」

「きっと最初は、要らない砂漠や荒廃した土地でも売ったらと、甘言を弄したのでしょう」

「どうせ砂漠と化した使い道のない土地、その提案を断る積極的な理由もなく…」

「しかしそんな安値で売った所で借金が減る訳はなく、土地は減る一方で…」

「アビドス自治区そのものが少しずつカイザーコーポレーションのものとなる……何年も前からずっと、そういう計算をしていたのかもしれません…」

 

とても暗く、陰鬱な話である。ずっと騙され嵌められ搾取され……今やアビドスは消滅の危機に瀕している。

だが、こちらも大きな手がかりを掴んだ。

 

「……学校の借金、アビドスが陥っている状況、そして、私たちが先生と見つけ出した幾つかの糸口……全てが少しずつ繋がってきている気がします。」

「カイザーコーポレーションはアビドス生徒会が解散し、土地を購入する方法がなくなり、まだ手にしていない『最後の土地』であるこの学校を奪うために、ヘルメット団を雇用していた……そして、先生の出現を危惧して、今度は便利屋を…」

「これらを踏まえると、カイザーコーポレーションの狙いは、お金ではなく、土地だったという結論で間違いないと思います!」

「……しかし、そうなると、次の疑問が出てきますが…どうして、土地なのでしょう?アビドス自治区は、もう殆どが荒れ地と砂漠、砂まみれの廃墟になっているのに……」

「確かに…こんな土地を奪ったところで利益になるとは思えませんが……」

「う~ん……」

 

全ての辻褄が合う真実が掴めたが、確かに、こんな土地を手に入れたところで、カイザーには1ミリのメリットもない。田舎にブラックマーケットのような場所が出来るだけだ。

 

 

 

『…これはまだ、万魔殿も、ティーパーティーも掴んでいない情報なのだけど、アビドスの捨てられた砂漠、あそこで、カイザーコーポレーションが何かを企んでいる。』

『本当なら廃校予定のアビドスに教える義理はないのだけど、一応ね。』

 

 

 

「!そうだった!」

「先生?」

 

弦太朗はヒナから言われたこと、それを伝えることを思い出し、皆にヒナからの話を伝えた。

 

「アビドス砂漠で…」

「カイザーコーポレーションが…」

「何かを企んでいる…?」

「そんなこと、どうしてゲヘナの風紀委員会が…?それにどうして先生に……?」

 

弦太朗の話を聞いたみんなは、半信半疑だった。試すためとは言え、ヒナが弦太朗に襲いかかったこともあるが、何よりなんの根拠もない。不確定すぎる。

顔を見合わせ、互いに意見を交わし合う対策委員会。それを見ていたセリカは、じれったいとばかりに立ち上がり叫んだ。

 

「あぁもう、そんな難しい事を考えるよりもやったらいいでしょ!どうせアビドスの砂漠はうちの自治区なんだから、実際に行ってみればいいじゃん!何がなんだか分かんないけど、この目で見たほうが早いって!」

 

少しの間呆気にとられていた一同。だがすぐに頬を緩める。覚悟は決まったようだ。

 

「……ん、そうだね」

「いや~、セリカちゃん良い事言うねぇ、こんなに立派に育ってママは嬉しいよ、泣いちゃいそう。ティッシュちょうだい。」

「な、何よこの雰囲気!?私がまともな事を言ったらおかしい訳!?」

「あ、あはは、そんな事は……ですが、セリカちゃんの言う通りです!」

「よっしゃあ!みんな、行こうぜ、アビドス砂漠へ!」

 

弦太朗のその大声にも負けないみんなの返事が、教室に木魂した。

 

 

 

 

 

 

 

「先生、ちょっといい?」

 

アビドス砂漠に向かうため、各々が準備をする中、弦太朗はシロコに呼び止められた。

弦太朗はシロコについて行き、先程ホシノが寝ていた空き部屋に入る。

 

「これ、ホシノ先輩のカバンから見つけたの。悪いことだってことは、分かってるけど……」

 

シロコは、思い詰めた顔をしながら、バッグから封筒サイズの紙を取り出し、弦太朗に見せた。 

「退会・退部届…対策委員会小鳥遊ホシノ……!?」

 

その文面を見た弦太朗は唖然とする。これを受理されるということは、アビドスを去る……退学するのと同義であるから。

 

「シロコ、これ…」

「……うん、書いてるままの意味だと思う。」

「多分、先輩は取られたこと、知ってると思う。」

「違和感があったの。ホシノ先輩があそこまで長い時間席を外すなんて事、今までなかった。それに、あんなに追い詰められるまで、先輩が来ないなんて…それが引っかかって……」

「……また後で話そうぜ。」

「……うん。」

 

シロコは思い詰めたような顔のまま部屋を出ていき、残った弦太朗は紙を握りしめた。

分からない事が多すぎる。ホシノは誰よりもアビドスを、そして対策委員会のみんなを愛し、守るために必死になってきたはずだ。あの時弦太朗に向けた目も、みんなを脅かす存在になり得ないか、観察していたに違いない。そんなホシノが、何故このタイミングでこんな……

これまで一切の迷いがなかった弦太朗に、初めて苦悩が生じた。

 

 

 

 

 

 

 

なんやかんやあり、一同はアビドス砂漠に到着した。

数年間無人の砂漠となると、危険は付き物。砂漠内には戦闘用のドローンやオートマタなどがかなりの数徘徊している。

アヤネがドローンのカメラから様子を確認してはくれているが、完全に無戦闘で進み切ることは難しいだろう。

 

砂漠の奥の最深部では、『大蛇のような巨大な機械生命体が目撃された』、なんて噂もある。

 

そこまでは行かないとはいえ、ヘルメット団や便利屋が引き連れていた傭兵とは比べ物にならない数の敵が襲いかかってくるかもしれない。

 

「これが、捨てられた砂漠…思ってた以上に過酷ね……」

「アビドス砂漠…この先は私たちも初めてです。」

 

ノノミが息を呑みながらそう呟く。今みんながいる場所は、数日前にセリカを拐ったヘルメット団の基地の近くだ。

もっとも、ヴァルキューレに捕まったか、カイザーコーポレーションに用済みとして始末されたか、基地の中は蛻の殻だったが。

そこから更に、殺風景な砂漠の奥へと進む。それは、ホシノを除いて初めてだ。

 

「いや~久しぶりだねぇ、この景色も。」

「先輩はここに来たことがあるの?」

「うん、前に生徒会の仕事で何度かね~。もう少し進めば、そこにはなんと、かつてアビドスの砂祭りが開かれていたオアシスが!」

「えっ、オアシス?こんな所に?」

「ん、まぁ今はもう全部干上がっちゃったんだけどね~、元々はそんじょそこらの湖よりも広くて、船を浮べられるくらいだったとかま、私も実際に見た事はないんだけど。」

「砂祭り…私も聞いた事がある、アビドスでは有名なお祭りで、凄い数の人が集まるって。」

「そうそう、別の自治区からもそのお祭り見たさに人が来る位だったからね、まぁ、砂漠化が進みはじめるより何十年も前の事だけどさ。」

「へぇ、今はこんな砂まみれの景色だけど、ここでそんな凄いお祭りがね…」

 

ホシノが語るお祭り、その盛り上がりの面影はもうここにはない。あるのは砂だけだ。セリカはアビドスに起こった砂嵐と、カイザーに怒りを覚える。

 

『……っ!みなさん!前方に何かあります!』

 

しばらく歩いていると、アヤネは何かを見つけたようで、その方に指を差す。それに釣られ、皆もその方を見る。だが、こちらから見えるのは干からびたオアシスだけである。

 

『巨大な町……いえ工場、或いは駐屯地?なんなのかは良く分からないですが、何か、大きな施設が、向こうに……肉眼で確認出来る位置まで進んでみてください!』

 

アヤネの言葉に従って、アビドスは正体不明の建築物に向かって前進を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

「何、これ……?」

 

それはさながら、大規模なキャンプ地、或いはネット掲示版のホラー板で聞くような宗教施設のようだった。

 

「…こんなの、昔はなかった」

 

ホシノは訝しげに施設の建物の一つを睨みつけた。

今彼女が言った通り、2年目にこんな建物はなかった。これがどんなものであれ、少なくとも自分たちに利益があるものとは思えない。

それの答え合わせをするかのように、銃声が響いた。

 

「うわっ!?何なに!?」

「っ、銃撃!」

「侵入者だ!」

「捕らえろ、逃がすな!」

 

銃弾と共に、数ある建物の中から続々と兵が出てきた。まぁ、自分たちの自治区とは言え、こんな塀に囲まれた如何にもなところに入ったらなら、お約束みたいなものかもしれない。

 

『前方から所属不明の兵力の攻撃です!』

「よく分からないけど、歓迎の挨拶なら返してあげた方が良さそうだね?」

『先生!』

「よし……やるぞ!」

 

 

 

 

 

しばらく経ち、地面には謎の兵が数十、数百と倒れている。だが、それすら雀の涙に思えるほどの兵が無尽蔵に建物という建物から飛び出してくる。

 

「こいつら…!一体一体はそんなに強くないけど邪魔っていうか、面倒くさいというか……なんか、今まで戦ってきた奴らの中でも一際厄介って感じが…!」

「ん、下手したら風紀委員会より面倒。」

「何なのでしょう、この方たちは……それに、こんなところで何を?」

「……カイザーPMC」

 

ホシノが鋭い目つきと言葉で呟いた。その目線の先には、カイザーPMCと書かれたロゴが書かれている壁があった。

 

 

「ってことはこいつらもカイザー!?どこへ行ってもカイザー!カイザー!カイザー!一体、何なの!?」

「それに、『PMC』、という事は……」

「え?なにかマズい言葉なの?」

「PMCとは、民間軍事会社の事です」

「ぐ、軍事…!?」

その物騒な言葉に、外壁を蹴飛ばしていたセリカの動きが止まる。

『ヘルメット団のようなチンピラとはレベルが違います。本当に組織化されたプロの戦闘集団……名の通り軍隊のようなものです』

「!!」

「軍隊ぃ!?」

「退学した生徒や不良の生徒達を集めて、企業が私兵として雇っているという噂がありましたが、まさか……」

 

ノノミの推測が最後まで語られることはなかった。ただでさえ相手の頭数が多いというのに、突然警報まで鳴り出した。

と同時に、空から、そして施設の奥の方から、轟音が鳴り響いた。

 

『これは……大規模な兵力が接近中!戦闘ヘリに戦車……物凄い数です!』

『包囲が完成する前に離脱してください!急いでその場から脱出を……!』

 

アヤネは慌てながらそう言うが、相手はプロである。ただ逃げていても確実に捕まってしまう。

 

「……仕方ねぇ!」

 

弦太朗はこの危機を脱するべく、フォーゼドライバーを取り出す。

 

「変身!」

「宇宙キターッ!」

 

『ランチャー・レーダーオン』

 

フォーゼに変身した弦太朗はランチャーモジュールとレーダーモジュールを装着し、標準を合わせる。

 

「アロナ!」

『任せてください!』

「喰らえ!」 

 

フォーゼはミサイルを発射し、ヘリを撃墜し、戦車を破壊する。向こうの方は爆発で燃えているから、暫くは大丈夫だろう。

 

「みんな!逃げるぞ!」

 

フォーゼはみんなを守るようにして、その場から走って行った。

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ……」

「キリがないなぁ、これは……」

 

しばらくすると、流石に対策委員会の面々に疲れが見え始めた。ホシノ以外の者は風紀委員会との連戦であることも相まり、今にも倒れてしまいそうだ。

フォーゼは身体から来る無尽蔵の体力により、まだまだ戦闘が可能だが、逃げながら、みんなを守りながら戦わなくてはならない。しかも、殺してはいけないというオマケ付きだ。だから先程のようにミサイルを撃つ時はレーダーモジュールとアロナにミサイルの威力や標準を事細かく調整してもらわなければならない。みんなが疲れてきた以上、ロケットモジュールやジャイロモジュールで飛び回って戦うのも無理だ。

 

『……せい、聞こえますか?包囲網を抜け……また……が……不安定…が……接近………』

 

更に、元々電波の調子が悪かったことと、カイザーがどこかと連絡を取り合っているのか、回線が混雑した影響で、アヤネどの通信が途切れてしまった。それでも尚、更に増える兵力。

そして遂に、包囲を許してしまう。

 

「……絶体絶命?」

「うへ、包囲されちゃったかー…」

「ど、どうしよう……!?」

「ぐっ……」

 

まさに絶体絶命だ。強引な突破も可能だが、それではフォーゼしか助からない。

そんな状況の中で、兵たちの後ろから車の音がしたかと思うと、兵が横に逸れ、道を作り始めた。その道から重厚感を感じさせる大柄な機械生命体が歩いてきた。

その男は大きな目でアビドスを見下ろす。

 

「ふむ、侵入者とは聞いていたが…まさかアビドスだったとは…まさかここに来るとは思ってもいなかったが……まぁ良い。」

「勝手に人の私有地に入り、暴れた事による被害額、君達学校の借金に加えても構わないが…まぁ、大して額は変わらないな。」

 

男を、ホシノは鋭く睨む。それはもう、ものすごい勢いで。

その理由は単純だ。黒服と話した時、ずっと二人の横に立っていた男。強いガードマンだと思っていたが、どうやら違うらしい。

 

「あんたは、あの時の─────」

「うん?確か、例のゲマトリアが狙っていた生徒会長、いや、副会長だったか?」

(ゲマトリア……?)

 

男の方は特にホシノに興味はないらしく、誰であったかの記憶も曖昧なようだ。

フォーゼはそんな彼を見ながら、彼が言った、ゲマトリアという存在に疑問符を浮かべる。

そんなことをしていると、男が再び声を出した。

 

「そうだ、面白いアイディアが浮かんだ、便利屋やヘルメット団を雇うよりも良さそうだ。」

「べ、便利屋…?何言ってるの…?」

「……あなた達は、誰ですか?」

 

ノノミの質問は、男にとって愚問もいいところだったらしい。呆れたようにため息を吐くと、語りだした。

 

「……まさか、私の事を知らないとは、アビドス、君達なら良く知っている相手だと思うがね?」

「私は、カイザーコーポレーションの理事を務めている者だ。つまり、君達アビドス高等学校が借金をしている相手だよ」

「!!」

「嘘っ!?」

「……」

「あんたが…」

 

借金を仕掛け、敵をけしかけた元凶を前に、アビドスの皆は驚くと同時に、凄まじい怒気で理事を睨みつける。

理事はそれを一切無視し、咳払いをする。

 

「……では、古くから続く借金について、ちょっとした昔話でもしようか。アビドスの諸君?」

 

機械故に口はないものの、そう言う彼は、ほくそ笑んでいるように思えた。

 




【お知らせ】
突然ですが、来週の投稿はお休みさせていただきます。大まかな理由は、最近リアルの方が少し忙しく、それが今週〜来週にかけてピークになるからです。ここ最近も忙しい中で執筆に回す時間が少なくなった結果、前回と今回のように投稿時間が遅れてしまいました。
再来週からはペースを戻しますので、よろしくお願いします。
コメントの返信は普通に行います。

冬映画的な番外編でクロスオーバーしてほしい仮面ライダーはどちら?

  • 仮面ライダーディケイド
  • 仮面ライダーオーズ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。