コズミックアーカイブ(仮面ライダーフォーゼ×ブルーアーカイブ)   作:炙り中トロ

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どうも2週間ぶりです。対策委員会編も終盤です!



第12話 先・生・失・格

対策委員会のみんながアビドス砂漠で理事と接触する少し前、ゲヘナ学園の風紀委員会室では、仕事をするヒナの横でアコが反省文を書いていた。

二人以外の風紀委員は、美食研究会が釈放されて早々に問題を起こしたとかで仕事に出向いているらしく、部屋も、外の廊下も物静かだった。

そんな静寂をアコが破る。

 

「委員長、えっと…これはいつまで書けば……」

「今200枚くらいでしょう?1000枚反省文を書くって言ってなかった?」

「それは、その…それくらい反省してますという比喩でして…」

「口より手を動かしなさい。ただでさえ他の自治区に侵入して攻撃しただけでも大事なのに、アコの独断の結果、風紀委員会のヘリと戦車はほぼ全滅した。万魔殿からの文句を聞くのも、届いた書類を捌くのも私なんだけど?」

「……頑張ります。」

 

アコの判断でフォーゼとぶつかった結果、風紀委員会の巨大戦力は壊滅したに等しい。それによる戦力の低迷やこれからの予算案の見直しはヒナが行う。そして、面倒くさい生徒会に…

それと比べれば、アコの悩みなど贅沢なものである。

そこから、暫く静寂が続いた。そして、アコの反省文が約半分まで来たところで、アコはふとヒナに問いかける。

 

「……そういえば。ヒナ委員長、アビドスのホシノという方はお知り合いですか?」

「……いえ、実際会ったのはあれが初めて。」

「そうなんですか?以前からよく知っている方のように話されていましたが……」

「……小鳥遊ホシノ。天才と呼ばれた本物のエリート。2年前の情報部にいた時、ゲヘナにとって最大レベルの脅威になりうる存在としてリストアップされていた。私も情報部にいたことがあるから、その時に少しね。」

「……ただ、元々は攻撃的戦術を得意とした、かなり好戦的なタイプで、荒っぽくて鋭い印象だったのだけれど、会ってみたら大分のんびりとしていた。」

 

肉眼でホシノの姿を確認したわけではないアコは想像するしかない。確かに、聞いた限りだとヒナの語る2年前のホシノと今のホシノはかけ離れている。

一体、この2年で何があったのか……

 

「…なんにしても、あのまま戦っていたら、風紀委員会はほぼ壊滅状態に追い込まれることになっていたはず。あの場に先生がいたことも考えると、間違いなくそうなっていた。先生の力は風紀委員会の巨大戦力全てを壊滅させて、私のアレを弾くほど…少なくとも私以外の風紀委員会が全員でかかっても倒されるでしょうね。」

「私とは……あのいくつもあるスイッチを的確に使われたら、どれだけ低く見積もっても私の半分はある。」

「なっ…」

 

と、危うくとんでもないことになっていたと指摘を受けても、納得しきれていなかったアコは絶句した。

あのヒナが、決してお世辞や冗談など言わないヒナが、どれだけ低く見積もっても自分の半分の力がフォーゼにはあるというのだ。加えて、ヒナは百戦錬磨の実力者。相手の力を見誤るような人間ではない。

そんなヒナが認める存在とぶつかり合えば、風紀委員会は壊滅していた、というのは確実だろう。

リサーチが足りなかったことはアコの自業自得である。しかし、彼女の頭にある疑問は消えていない。

アコは風紀委員会の右腕、エリートである。そんなアコが基本となる情報を見落としていただなんて……

 

「しかし、アビドス側の戦力や情報の入手はしっかりとしていたはずなのですが……2年前の情報やシャーレの先生が協力しているなどという情報は…」

「…まぁ、ある日急に活動報告が途切れたからね。今じゃもう小さな学校になったし、情報部も途中からは脅威とはみなさなかったのかも。先生もまだここに来たばかりらしいし、もう少し様子を見たかったのかも。まぁ詳しく知りたいなら、情報部に直接行ってみることね。」

「さ、雑談の時間はおしまい。手を動かしなさい。」

「……はい」

 

話は思いの外、長引いてしまった。ヒナは反省文を進めるようアコに促すと、自分の仕事に戻る。

無心で書類をさばいていると、ふとヒナの脳裏に、情報部にいた頃にリスト表にあった目付きが鋭く、穏やかさの欠片もないホシノの顔が蘇った。

 

(それにしても…小鳥遊ホシノ。どうしてまだアビドスにいるの?あんな事があれば、どれだけ好きな場所でも離れたくなる。少なくとも、私ならそうする…なのに、なぜ…?)

 

事件の真相を知っているヒナでも、ホシノの心情までは分からない。ヒナはアビドスの方角を見て、疑問を脳内で繰り返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アビドス砂漠のカイザーPMCの施設内で、対策委員会とカイザーPMCの理事が対峙している。

対策委員会側は全員が理事を警戒しており、対する理事は護衛に囲まれ、余裕の表情だ。 

 

「アビドスが借金をしている相手……」

『カイザーコーポレーションの……』

 

何をされるか分からない…そのどこからともなくやってくる恐怖感が、対策委員会の皆を刺激し、無意識に理事を睨みつける。電波が安定したようで、アヤネは通信を再接続したのだが、理事の威圧感は画面越しからでも来るものがあった。

 

「正確に言えば、カイザーコーポレーション、カイザーローン、そしてカイザーコンストラクションの理事だ。今はカイザーPMCの代表取締役も務めている。」

 

理事はそんな彼女らの目が、少しばかり癇に障ったのか、揚げ足をとるように訂正を入れる。

しかし皆、そんな煽りに付き合うほど寛容ではない。

 

「それはどうでもいいけど、つまりあなたがアビドス高校を騙して、搾取した張本人って事?」

「……ほう。」

 

「そうよ!ヘルメット団と便利屋を仕向けて、ここまで私たちをずっと苦しませて来た犯人があんたって事なんでしょ!?あんたのせいで私たちは……アビドスは……!!」

「やれやれ…最初に出てくる言葉がそれか。勝手に私有地へと侵入し、善良なる我がPMC職員たちを攻撃し、施設を散々破壊しておいて……くくっ、面白い。」

「だが、口の利き方には気を付けた方が良い、ここはカイザーPMCが合法的に事業を営んでいる場所。まず君たちは今、企業の私有地に対し不法侵入しているのだという事を理解するべきだ。」

「……っ!」

 

確かにそうだ。ここはカイザーの所有地。無断で立ち入るのは不法侵入だ。

こればっかりは、力はどうにもならない。もうすぐ謎が解けるかもしれないという高揚と、謎が謎を呼ぶ状況から目の前が見えなくなっていたのだ。皆はなにも言い返せず、黙りこくってしまう。

次に理事が目を向けたのは、フォーゼだ。

 

「さて、君は確か、噂に聞くシャーレの先生だったかな?」

「ヘルメット団に便利屋にゾディアーツ……私が送り込んだ刺客を次々とねじ伏せてくれたそうじゃないか。」

 

その気になればここにいる兵をすぐに壊滅させることが出来る程の力があるフォーゼを前にしても、理事は怯んでいない。それどころか、勝ち誇っている。

 

「ここは我が企業がアビドスから買い取った土地、我々の所有地だ。そこに君は、指導者という立場でありながら教え子たちを引き連れて侵入したのだよ。大人ならこの意味が分かるだろう?」

「このことを連邦生徒会にでも告げ口すれば、君の立場と、アビドスの存続はどうなるかな?くくくっ…」

 

言葉に気を付けた方が良いという発言はフォーゼに対しても例外ではなかった。引率の先生に監督責任があるのと同じように、弦太朗にもそれがある。しかも、その責任を取るのは、後ろにいる教え子たちも同じこと……

 

「……」

「まぁ、私は親切だ。無闇に言いふらしたりはしないさ。」

「ただ、君のことは警戒していてね。まずはその武装を解いてもらおうか。なぁに、その瞬間撃ち殺したりはしないさ。」

「……分かった。」

 

フォーゼは言われるがままに変身を解いた。それを見た理事は愉快そうに笑う。あれだけ警戒していたフォーゼをこうもあっさりと黙らせられたのだから。ひとしきり笑ったあと、理事は話の筋を戻す。

 

「話を戻そうか。アビドス自治区の土地は確かに買い取ったとも。しかし、だからどうした?先程も言ったが、全ては合法な取引きの上で行い、記録もしっかりと存在している。まるで私たちが不法な行為でもしているかのような言い方はやめてもらおうか。わざわざ挑発するために来たわけではないだろう?」

「ここに来たのは、どうしてアビドスの土地を買ったのか、その理由が知りたいからだろう?まさか教師共々違法な行為をしてまでここに来るとは思わなかったが。」

 

理事が厭味ったらしい視線を皆に向けると、全員が理事を、その周りの兵を警戒し、いつ攻撃が来ても自身を、そして弦太朗を守れるように身構える。

理事にはそれが、怯える小動物のように見えた。

 

「良い機会だ、教えてやろう。私たちはアビドスのどこかに埋められているという宝物を探しているのだ。」

 

「はぁ!?」

 

理事の言葉は皆にとって煽りにしか聞こえなかった。

宝物を探している?まるで小学生がするような言い訳ではないか。

 

「そんなでまかせ、信じる訳ないでしょ!?」

「それはそう。もしそうだとすると、このPMCの兵力について説明がつかない。この兵力は、アビドスを力で侵略するためにある。違う?」

「……数百両もの戦車、数百名もの選ばれし兵士たち。数百トンもの火薬に弾薬……。たった五人しかいない学校に、これ程の用意をするとでも?」

「冗談じゃあない。あくまでこれは、何者かに宝探しを妨害された時のためのもの。先生がいるから、ヘルメット団や便利屋を退けたからと言って図に乗るなよ?君たち程度、いつでも、どうとでも出来るのだよ。例えばそう、こういう風にな。」

 

言うと、理事は自身の手の甲に触れる。通信機になっているようで、彼がどこかへと何かしらのメッセージを送信している音だけが砂漠に響き、風に乗って消えた。

同時に、アヤネがいる対策委員会の部屋の電話がけたたましく鳴り響いた。

 

 

 

 

 

鳴り続ける着信音からは恐怖すら感じる。また問題が増えるのか…と。だが、このまま無視をしても余計に面倒なことになるだけ…アヤネは恐る恐る受話器を取った。

 

『こちらカイザーローンです。現時点を持ちましてアビドスの信用評価を最低ランクに下げさせていただきます。』

「!?そんな、ちょっと待ってくださ…!」

『変動金利を3000%上昇させる形で調整。それら諸々を適用した上で、来月以降の利子金額は9130万円でございます。それでは引き続き、期限までにお支払いの方をお願いいたします。』

「そ、そんな急にどうして…!?ちゃんと毎月の返済はして…」

『と言われましても、理事の判断ですので、ご了承ください。では、失礼いたします。』

 

アヤネが反論するよりも前に、カイザーローンの担当はピシャリと電話を切ってしまった。ツー…ツー…という冷たい電子音が教室に響いた。

 

 

 

 

「きゅ、9000万円!?」

「…くっくっく。」

 

吹いたのは絶望の風だった。希望という太陽を隠した雲の下に冷たく吹く、冷酷な風。

そんな風を吹かせた張本人は、手を開いて閉じると、最後に紐を引っ張るかのようにグッと手を引いた。

 

「これで分かったかな?君たちの首に掛けられた紐が今、誰の手にあるのか。」

「ちょ、嘘でしょ!?本気で言ってんの!?」

「あぁ、本気だとも。しかしこれだけでは面白みに欠けるか?」

「そうだな、9億円の借金に対する保証金でも貰っておくとしよう。一週間以内に、我がカイザーローンに3億円を預託して貰おうか。この利率でも借金返済が出来るという事を、証明して貰わねばな。それくらいしてようやく信用に至る。」

 

アヤネは膝から崩れ落ちた。これからさらなる地獄が始まり…いや、始まりすらしない。こんな額、自分たちの限界の遥かに上をいっている。

 

『そんなお金、用意出来るはずが……今、利子だけでも精一杯なのに……』

「ならば学校を諦めて去ったらどうだ?」

「自主退学をして転校でもすれば良い、それで全て解決するだろう?そもそもこれは君たち個人の借金ではない。学校が責任を取るべきお金だ。何も君たちが進んで背負う必要はないのではないか?」

 

その上で、追い詰めるように甘い言葉で誘惑する理事。

確かに言う通りにすれば借金はなくなるが……

 

「そ、そんなこと、出来る訳ないじゃないですか!」

「そうよ、私たちの学校なんだから!見捨てられる訳ないでしょ!」

「アビドスは私たちの学校で、私たちの街。」

「ならばどうする?他に何か良い手段でも?それとも、借金の返済を月1億にでもしたら引き下がるかね?やろうと思えば、この指一本で可能だ。」

「……てめぇっ!」

 

これまで、怒りながらも沈黙していた弦太朗だったが、遂に堪忍袋の緒が切れ、叫んだ。激昂しながらフォーゼドライバーを取り出す。

 

「どこまで曲がってんだ!」

「おやおや、良いのかね?私の通報一つで君はシャーレの座を降りることになるだろうに。」

「知るか!みんながこれ以上苦しむくらいなら、俺が背負ってでも……!」

 

弦太朗はそう言ってドライバーを装着しようとするが、それを止める手が一つ。

 

「……ホシノ?」

 

ホシノは無言で弦太朗を制すと、みんなに向かって言い放つ。

 

「……みんな、帰ろう。」

「ホシノ先輩……!?」

「これ以上ここで言い争っても無駄。弄ばれるだけ。」

 

ホシノは逆らっては負だという現実に打ちひしがれながらも、悔しさを飲み込み、諭すようにそう言う。

そんなホシノに、理事はご満悦だ。

 

「クククッ、流石に副生徒会長は頭が良さそうだな。どこぞの怒りに身を任せて戦おうとする無粋な大人とは大違いだ。」

「……」

「では、来月の保証金と来月以降の返済については頼むよ、お客様。」

 

そこまで言った理事は愉快そうにも、狂ったようにも思えるほどに笑った。その笑いは、対策委員会のみんなを不愉快にさせる。

 

「存外悪くない時間だったな。さぁ、お客様を入り口まで案内して差し上げろ。」

 

ここに来て、自分たちをお客様扱い。最大の屈辱と、さらなる重荷を背負わされ、対策委員会はアビドス砂漠を去るのだった。 

 

 

 

 

 

 

 

帰ってからも、対策委員会はお通夜のような状態だった。

宝物を探している…などと子供騙しのような嘘でからかわれ、挙げ句、一週間で3億円を用意、出来たとしても、毎月9000万の利子……返せるわけがない。

それに、結局カイザーPMCの目的を掴むことは出来ず、弦太朗すら弱みを握られてしまった。分かったのは、アビドス高等学校は愚か、対策委員会すらもカイザーの手のひらの上で踊らされていたに過ぎないということと、これから先、更に過酷な生活が待ち受けているということだけだ。

痺れを切らし、シロコとセリカは普通の方法じゃ借金は返せないと踏み、再び銀行強盗に手を染めようとした。それを必死で止めるアヤネとノノミ。それはもはや喧嘩に近かった。弦太朗はずっと沈黙している。

結局ホシノがその場の全員を宥め、取り敢えず今日は解散ということになった。

そして全員が帰ったあと、弦太朗はただ一人、教室に残っていた。

 

「……俺のせいだ。」

 

 

 

『ここは我が企業がアビドスから買い取った土地、我々の所有地だ。そこに君は、指導者という立場でありながら教え子たちを引き連れて侵入したのだよ。大人ならこの意味が分かるだろう?』

 

 

 

その言葉が、弦太朗の中でぐるぐるといつまでも回り、囁いている。

問題解決の一点のみを見てカイザーPMCの施設に入ったせいで、対策委員会のみんなをもっと苦しめることになってしまった。守れなかった。もっと慎重に行うべきだった。この問題は力じゃどうにもならない。もう遅いのだ。

苦しめるどころか、自分だけでなく、アビドスのみんなを犯罪者にしてしまった。

 

『先生…』

 

アロナはなにか言いたげな顔で弦太朗を心配するが、彼の耳には届かない。

───────不意に、ドアが開いた。

 

「ありゃ、まだいたの?」

「!ホシノ……」

 

ドアが開き、ホシノが入ってくる。ホシノはコツコツと歩き、弦太朗の隣りに座った。

「どしたの先生ー?怖い顔しちゃって。いつもの陽気でポジティブな如月弦太朗先生はどこ行ったのかな〜?」

「……」

「あはは、ごめんごめん。今のは意地悪だったよ。」

 

ホシノはそう言って、謝り、弦太朗の顔を覗き込む。思い詰めたような彼の顔を見て、ホシノは今の弦太朗の気持ちが大体わかった。

 

「先生さ〜、もしかしてアビドスの借金が増えたのは俺のせいだ、とか思ってる?」

「……!」

「あ、やっぱり?もー、そんなこと思わなくていいのにさ〜。先生は悪くない。そもそも行こうって言い出したのは私たちなんだし。」

「でも……」

「大丈夫。これからだって。」

「みんなね、先生に感謝してるし、先生のことが好きだし、尊敬してるんだよ?アビドスを奮い立たせてくれたんだから。そんな先生が、そんな弱気で良いのかな〜?こんな時だからこそ、私たちを励ましてくれないと困るかも〜。」

「……」

「だからさ、頑張って。」

 

ホシノはそう言って、弦太朗に向かって見せたことがない笑顔をし、手を差し出す。

 

「ホシノ…ありがとな。」

 

弦太朗もまた、その手を取った。その顔は少しだけ、いつもの弦太朗に戻っていた。

弦太朗は決意した。やってしまったことは変わらない。だから、もう二度と同じ轍は踏まないと。そして、全力でみんなを守れるようにすると。それが、自分にできる最大の償いだから。

 

 

 

 

 

それから数分、二人は揃って星空を見上げていた。そんな中、不意に弦太朗が真剣な顔でホシノに話しかける。

 

「ホシノ、一つ聞きたい事がある。」

「ん~、何を?」

「……退部届。」

「……」

 

弦太朗は立ち上がり、懐から、すっかりしわくちゃになってしまったていた1枚の封筒を取り出した。その封筒には『退部届』と綴ってある。

ホシノには分かった。この状況で、朝の一人の後輩の情緒から、誰が弦太朗にそれを伝えたのか。

 

「うへ~…いつの間に!これ、盗ったのシロコちゃんだよね?」

「全くもう…いくら何でも先輩のカバンを漁るのはダメでしょ~」

 

そう言ったホシノは、弦太朗の手にある退部届を奪うようにして受け取る。そして封筒を撫でながら、じっくりとそれを見た。

しばらくすると顔を上げ、退部届届けをヒラヒラと揺らしながら口を開く。

 

「先生、きちんとシロコちゃんを叱っといてよ~?あのままじゃとんでもない大悪党になっちゃってもおかしくないってー。」

「あぁ、またいつか話しておく。今聞かないといけないのは、この退部届についてだ。」

「…そっかー……」

 

頷き、ホシノも立ち上がると、立ち上がった程度では補えない背の高さがある弦太朗を見上げる。彼の表情を見ただけで分かる。このまま帰らせてくれはしないだろう、と。ホシノは諦めたように笑い、体をグデーっと伸ばす。

 

「うーん、逃がしてくれそうには…ないよね~?」

「……まぁ、遅かれ早かれバレることではあったし、仕方ないかな。でも面と向かってっていうのも何だし…ちょっと場所を変えよっか?」

 

 

二人が歩いてきたのは対策委員会の部屋がある校舎から一番離れたところにある古い古い校舎である。そこは手入れなど行き届いておらず、もはや倉庫も同然である。

 

「けほっ…けほっ……うわぁ…どこもかしくも砂だらけ……」

「ま、仕方ないけどね。掃除をしようにも、そもそも人数に対して建物が大き過ぎて…。砂嵐が減ってくれたら良いんだけどねぇ…」

「うへ~、せっかくの高校生活が全部砂色だなんて、ちょっとやるせないと思わない?」

「……ホシノは、本当にこの学校が好きなんだな。」

「今の話の流れで、本当にそう思う?うへ、やっぱ先生は変な人だ。」

「よく言われる。お前はホントに何なんだって。」

「……でも、これは分かる。この学校が好きだから、ホシノはここに残った。そんなホシノだから、皆着いてきてくれてるんだぜ。」

「…………」

 

しばらくの間、静寂が続いた。ホシノは何を考えているのか、目線を逸らして窓の外を見る。表情までは分からないが、頰が赤らんでいるのが分かった。

ホシノは落ち着いたのか、深呼吸をして弦太朗に向き直る。

 

「……砂漠化が進む前、アビドスはかなり大きくて力のある学校だったって言われてるけど、そんな記憶も実感も、おじさんには全くないんだよね〜。最初から全部めちゃくちゃで、ちゃんとしたものなんて何一つない学校だった。」

「おじさんが入学した時のアビドス本館は、今はもう砂漠の中に埋もれちゃったし、当時の先輩たちだって、もう皆いなくなった。今いるここは、砂漠化を避けて何度も引っ越した結果に辿り着いた、ただの別館。」

「……ま、こーんな青春の欠片すらないところでも、ここに来たからこそシロコちゃんやノノミちゃん、アヤネちゃんにセリカちゃんと出会えたから、やっぱり、好きなのかもしれないなぁ~。」

「……これから作って…いや、これからもずっと続けていこうぜ。ここにだって青春はある。ホシノが満足いくまで、ずっと、ずっと俺は手伝う。先生だからな。」

 

言われたホシノは思い詰めたように、何かを悩むように顔を俯かせた。

ずっと言おうかどうか悩んでいた、まだ誰にも打ち明けていないこと……決心はついたようだ。

 

「────先生、正直に話すよ。」

「……頼む。」

「私は2年前から、妙なやつらから提案を受けてた。…提案というかスカウトというか、アビドスに入学した直後からずっと、何回もね。」

「……この前もそうだった。」

 

ホシノの脳裏に、今朝の、あの黒服の男の姿と声が蘇る。

 

 

 

『素晴らしい提案をしましょう。』

『もしアビドスを退学し、ここに入るのならば、現時点でのアビドスの借金のおおよそ半分を負担しましょう。』

『…ククッ、イエスならこちらにサインを。』

 

────何度も言ったはずだよ。断るって─────

 

『……まぁいいでしょう。いずれ、あなたは断れなくなるところまで行く。』

 

 

 

「誰から見たって破格の条件だったよ。でも当時は私がいなくなったらアビドス高校が崩壊する……そう思っていたからこそ、ずっと断ってたんだけどね…」

「……あいつら、PMCで使える人材を集めているみたい。」

「それって、どんな奴なんだ?」

「…詳しいことはよくわからないけど、私は黒服って呼んでる。」

「黒服……」

「何となくぞっとする奴で、キヴォトス広しと言えども、あぁいうタイプの奴は見た事がなかったし……怪しい奴だけど、別に問題を起こしている訳でもない。何なんだろうね、あのカイザーの理事ですら、黒服のことは恐れてる様に見えたけど…」

「……なら、あの退部届はなんなんだ?」

 

弦太朗の問いに、ホシノは静かに笑うとポッケから雑にねじ込んだ封筒を取り出して眺め始めた。

ホシノは封筒に顔を向けたまま、目線だけを弦太朗に向けて口を開いた。

 

「…まぁ、一ミリも悩んでなかったって言ったら嘘だし…なんていうか、ちょっとした気の迷いっていうかさ……」

「……でも、もういいかな。」

「─────うん、捨てちゃおっか」

 

最初は何か、弁明をしようとしていたホシノ。ただ、それももうどうでも良くなり、どこか吹っ切れたのか、ホシノは封筒の両端をつまみ、真っ二つに破いてしまった。

破れた上の間から、二人の目が合う。唖然としている弦太朗を前に、ホシノは苦笑いをしながら再び口を開く。

 

「余計な誤解を招いてごめんね。ただ、こんな話を皆にしたところで、心配させるだけで良い事も何もないだろうしさ……」

「でもまぁ、可愛い後輩にいつまでも隠し事をしたままっていうのも良くないし、明日、皆にちゃんと話すよ。聞かされたところで困っちゃうだけだろうけど、隠し事なんてないに越したことはないだろうし。」

「……でも、本音を言うと、あの提案を受ける以外の方法は思いついてないんだけどねぇ…」

 

と、目を細めるホシノ。弦太朗を励ましつつも、ホシノにもいつものような元気はない。

そんなホシノに、先程の恩返しをすると言わんばかりに、弦太朗は彼女の肩に手を置いた。

 

「絶対になんとかする。方法は絶対に見つけるからな。」

「…そうだね、奇跡でも起きてくれたら良いんだけど……」

「……奇跡、かぁ。」

 

励まされても尚、どこか諦めたようにため息を混ぜて笑うホシノ。

しばらく何かを考え込んだ後、ホシノはパンッと手を叩いた。

 

「さ~てと、この話はこれでおしまい!」

「じゃあ、また明日、先生。」

 

ホシノはそれだけ言うと、カバンを肩にかけて、弦太朗に背を向けた。

刹那、一瞬だけ振り返ると、ホシノらしからぬ勢いで、弦太朗に向けて手を振った。

 

「さよなら!」

 

再び背を向けて廊下を逃げるように走り抜けていくホシノ。

まるで、弦太朗には、彼女が自分を突き放しているように感じられた。

どうしても心配になってしまう。

 

「ホシノ!」

 

思わず、弦太朗はホシノの名前を叫んだ。ホシノは足を止め、また振り返る。

そこには、凛とホシノを見る弦太朗の姿があった。

 

「な、なに……?」

「俺が何とかする!ダチとして、先生として!絶対に!だから……!!」

「だから絶対に、明日は元気に登校してくるんだぞ。」

 

しばらく呆気にとられていたホシノ。だが、すぐに頰が緩んだかと思うと、彼女は打ち解けたようにフッと吹き出した。

ホシノは思った。この大人は本当に信頼できる。ずっと味方でいてくれる。

─────この大人になら、後輩の今後を任せられる。

 

「…うへへ、私、そんなに元気なさそうだったかな?」

「うん。ありがと、先生。」

 

ホシノは今の自分が出来る精一杯の感謝を弦太朗に伝えた。そんな彼女の表情は、屈託のない笑顔。ホシノはまたゆっくりと弦太朗に背を向けると、今度こそ、家に向かって走っていった。

ホシノが巻き上げた砂が、窓の外から入ってきた木枯らしに吹かれ、どこかへと飛んでいく。

弦太朗には、その木枯らしの音が何故か悪魔の笑い声に聞こえた。

──────聞こえただけだ。きっと気のせいだ。

弦太朗はただの予感一つのために、何故か必死に、そう言い聞かせるのだった。

 

 

 

 

 

 

その翌日、弦太朗はいつも通りに対策委員会の教室までやって来た。そしてドアを開けるのだが…

 

「先生!先生!」

 

入って早々、セリカがこれまでにないほど取り乱して弦太朗に掴みかかってきた。

 

「お!?おおっ!?どうしたんだよ!?」

「先生…これ……」

 

アヤネは今にも泣きそうな顔で弦太朗に封筒を渡してきた。

困惑しながらもそれを受け取る弦太朗……もうこの時点で察しはついていたのだが、そんなはずない、あってはならないという思いが理解を拒絶する。

弦太朗はまさかな…と思いながら封筒から紙を取り出し、書かれている内容に目を通し始めた。

 

──────────────────────────

アビドス対策委員会のみんなへ。

まずは、こうやって手紙でお別れの挨拶をする事になったこと、許して欲しい、おじさんにはこういう、古いやり方が性にあっててさ。

皆には、ずっと話してなかった事があって、実は私、昔からずっとスカウトを受けててね。カイザーPMCの傭兵として働く、その代わりにアビドスが背負っている借金の大半を肩代わりする…そういう話でね。

うへ、中々良い条件だと思わない?おじさんこう見えて、実は結構能力を買われててさ~。

借金の事は、私がどうにかする。すぐに全部を解決は出来ないけど、まずはこれでそれなりに負担が減ると思う。ブラックマーケットでは急に生意気なことを言っちゃったけど、あの言葉を私が守れなくてごめんね。でも、これで対策委員会も少しは楽になるはず。

アビドス高校からも、キヴォトスからも離れる事になったけど、私の事は気にしないで。勝手な事をしてごめんね。

でもこれは全部、私が責任を取るべき事。私は、アビドス最後の生徒会だから。

だから、ここでお別れ。じゃあね。

──────────────────────────

 

 

読みながら、震える手が止まらなかった。入っていたのは、弦太朗のサインを待つのみとなった退部届とその旨を伝える手紙のみ。

一気に顔面蒼白となった弦太朗は手紙をめくる。そこには、もう一枚手紙があった。

 

 

──────────────────────────

先生へ。

実は私、大人が嫌いだった、あんまり信じてなかった。

シロコちゃんが先生をおんぶして来たあの時だって、不良っぽくて駄目な大人が来たなって思ったくらいだし?そんな先生が仮面ライダーに変身した時なんかは、変身を解いた瞬間に拘束してやろうかなんて考えてた。

でも、先生はみんなを助けてくれてさ…うへへ、私の大人嫌いは治らないけど、先生なら信頼できるかも。だからこそ、勝手なことだけど、先生にみんなを任せたい。

先生みたいな大人と最後に出会えて、私は……いや、照れくさい言葉はもういいよね。先生、最後に我儘を言って悪いんだけど、お願い、シロコちゃんは良い子だけど、横で誰かが支えてないと、どうなっちゃうか分からない子で、悪い道に逸れちゃったりしないように、支えてあげて欲しい。

先生なら、きっと大丈夫だと思うから。

シロコちゃん、ノノミちゃん、アヤネちゃん、セリカちゃん。

お願い、私たちの学校を守って欲しい。砂だらけのこんな場所だけど、私に残された、唯一意味のある場所だから。

それから、もしこの先どこかで万が一、敵として相対する事になったら…

───その時は、私のヘイローを壊して。

──────よろしくね。

──────────────────────────

 

 

 

 

「……これでいい?」

 

ホシノは例のビルで、黒服と対峙していた。ホシノは黒服が用意した書類にサインを書く。

これでアビドスとの決別も……

 

「素晴らしい。約束通り、あなたの元いた学校の借金の大半は我々が負担しましょう。」

 

ホシノのサインに黒服は今までよりも高い声…歓喜の声を上げた。ホシノはみんなを救うため、アビドスを退学したのだ。

 

「クックック……まずは手始めに、こちらに着いてきてもらいましょうか。」

「……どこに行くのさ?」

「あなたには、我々の実験台になってもらいます。断る、という選択肢はございませんので。」

 

 

 

 

 

「ホシノ先輩ッ!!!」

 

教室に、セリカの悲鳴が木魂した。セリカは悲しむのではなく、ホシノに対する怒りの顔をしている。

 

「なんなのこれ!?切羽詰まったら何でもしちゃうって、自分が一番良く分かってるくせに!」

「こんなの…受け入れられるわけがない!」

「助けに行かないと……」

「ん、私が行く。危ないことは私が……!」

「待ってください!まずは足並みを揃えないと……」

 

度重なる苦しみ、それに追い打ちをかけるホシノの退学……限界だったみんなは感情を爆発させてしまう。

しかし、ホシノがいない今、落ち着くことも、話し合う暇すらもない。

 

ドガアァァーーーンッ!

 

「うわぁっ!?」

「爆発音…!?」

 

急に爆発音が響く。空いた窓から熱風が侵入し、教室を襲った。

 

「どうして急に…!?」

「アヤネ!街はどうなってる!?」

「し、少々お待ちください…」

 

アヤネはモニターに向かい、市街地の様子を確認する。

 

「え…!?」

 

市街地はまさに地獄絵図だった。カイザーPMCの兵が無差別に住民を襲い、街を破壊している。街は爆撃によって火の海となり、中には死傷者もいる。

 

「こ、こちらに向かって数百に近いPMCが接近中!更に住民に無差別に攻撃をしています!」

「カイザーPMC!?どうしてこのタイミングで…!?」

「と、とにかく応戦しないとです!!理由はどうあれ、アビドスが攻撃されていることに変わりはありません!」

「いや、まずはみんなを避難させねぇと…!」

「それにしても、なんでこのタイミングでこんな……!?」

 

みんな、色々と考えるが、そんな時間もない。

なにせ、カイザーの魔の手は、この校舎にも届いているのだから。

 

「!?誰かが侵入してきてる…!?」

「対策委員会を発見!こっちだ!」

「ぐわっ!?」

 

入ってきた一人目を、シロコがぶん殴って気絶させる。だが、数はまだまだいる。もう百に近い数が侵入しているのだ。

 

「いつの間にこんなところにまで…!」

「まずは学校にいる奴らを撃退しないと!」

「はい!行きましょう!」

 

 

 

 

 

「変身!」

 

弦太朗はフォーゼに変身し、カイザーPMC兵たちを次々と気絶させていく。

セリカ、ノノミ、シロコも連携を取りながら銃を撃ち、校舎の敵を鎮圧していく。どこから敵が現れるか分からない中、アヤネを置いていくわけには行かず、アヤネは持てるだけの救援物資と、敵の戦力確認用の端末を持って同席している。

そして、校舎の敵をすべて倒した次は、街での避難作業だ。

住民を避難させ、向かってくる敵を倒す中、アヤネの端末に反応が出る。

 

「!巨大な敵の接近を確認…カイザーの理事です!」

 

車に乗り、カイザーPMCの理事が現れる。その顔は相変わらず邪悪で、勝ち誇ったような顔をしていた。

 

「学校まで出向いてやろうと思っていたが、まさかこうなるとは…馬鹿な教師といい、間抜けな生徒といい、本当、考えることがわからんよ。」

「……これはなんの真似ですか?街を破壊だなんて、いくら土地の所有者だとしても、こんな権利はないはずです!」

「これは明確な違法行為です!連邦生徒会に通報しますよ!」

「結局スカウトなんて嘘だったってこと?それより、ホシノ先輩はどこ?」

「この悪党め!ホシノ先輩を返して!」

「お前、こんなことしてただで済むと思うなよ!」

 

自分を、友達を侮辱された。今にも叫びだしてしまいそうなほどの怒りに耐えながら、皆は理事に言葉を浴びせる。

そんな対策委員会の怒りの目にも、理事は余裕の表情だ。この理事が、下調べをしてきていないわけがない。アビドス程度に今の連邦生徒会は動かないだろう、そういう判断をしてきたのだ。

 

「面白い事を言うじゃないか。通報ならやってみるが良い。どうせ今の連邦生徒会は動かんだろう。その証拠に、これまで、誰か外部の者が君たちを助けたことがあったか?連邦生徒会に限らず、他の学校からなにかあったか?なかっただろう?それが証拠だ。」

「君たちに手を差し伸べるものなど、そこの力だけの無能な教師以外はいないのだよ。」

「……」

 

理事の冷酷なその言葉に、対策委員会の皆は押し黙ってしまう。

確かにそうだ。これまで、自分たちに手を差し伸べてくれた存在など、弦太朗を除いていない。

自分たちが如何に相手にされていないか、思い知る羽目になった。

 

「最後のアビドスの生徒会、小鳥遊ホシノが退学した。これでもう君たちは何者でもない。そしてアビドスには公的な部活、委員会、生徒会がない。挙げ句自治区すらない。これではもう学校としての運用は不可能だと判断……」

「!!」

「仕方ない。ならこの自治区の主人であるこの我がカイザーコーポレーションがあの学校を引き受けるとしよう。新しい学校名は……カイザー職業訓練学校とでもしよう。」

「は……?」

 

この男は何を言っているんだ?まだアビドスには自分たちがいるじゃないか。セリカはその疑問を理事に向かって吐き出す。

 

「何を言って…アビドスにはまだ対策委員会が……!」

「公的な委員会ですらない対策委員会がどうしたというのだ?」

「え……?」

「…!そっか、対策委員会は生徒会がなくなったあとに出来たから……」

「そうだ。そこに正式な許可も、その存在を示すものもない。」

「だが喜べ。アビドスがなくなれば、君たちの借金地獄からも開放されるのだからな。」

 

理事の発言は、対策委員会というものの存在自体を否定するものだった。あまりに完璧すぎる。本気でアビドスを奪いに来ているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんで!?何してる!?どうして街を……アビドスを攻撃するんだ!答えろ!」

 

ホシノはアビドス砂漠のカイザーの施設の中にある実験場で鎖で拘束されていた。ホシノはアビドスが攻撃されている様子を見て、今までみんなに見せたことがない口調で怒鳴り、檻の外にいる黒服を怒鳴りつける。

 

「……まぁ、そうですね、どうしてと言われましても……あなたが退学してしまったことにより、残念ながらアビドス高等学校にはこれ以上正式な生徒会メンバーが残っていないようですからね。これでは学校は成り立たないでしょう。」

「……!!」

 

ホシノはここでようやく気付いた。ハメられたと。ホシノは鎖をガシャガシャと引っ張り、拘束を解こうとする。だが、頑丈な鎖はそう簡単に解けない。 

 

「今すぐやめさせろ!こんな権利お前たちには────────!!」

「それは無理な相談です。私とアナタの間に交わされた約束は、学校の借金の大半を負担する代わりに学校を辞め、我々に協力してもらうことだけですから。」

「ぐっ……!!」

 

何が大半を負担するだ。元々コイツらは協力関係にあったじゃないか。いくら借金がなくなったって……他のすべてを失ってまでして守りたかったものがなくなるんじゃ意味がない!!

ホシノは必死にもがき、暴れ回る。

 

「……そもそも、なぜ私があんな下らない詐欺まがいの企業に協力をしていたのだと思いますか?」

「こんな小さな自治区を奪ったところで、ブラックマーケットのような無法地帯が増えるだけ。それでは、私は協力などしません。」

「……ですが、もし企業を主体とした学園が誕生したら?アビドスに現れるその存在はキヴォトスにどんな影響を及ぼすのでしょうか?」

「……っ!」

 

黒服は両腕を上げながら、そう高らかに語っていた……のだが、不意に両腕を下ろす。

 

「ですが、これは単なる余興に過ぎません。」

「我々の本当の目的は、あなたです。誤解を招いたのなら謝罪をしますが、私はそもそもカイザー所属ではありません。ただ、小鳥遊ホシノを退学させるという目的と利害が一致したため、一時的に協力をしていただけです。」

「私の目的はあなたというキヴォトス最高の神秘を解析し、研究し、理解する。」

「つまりはそういうことです。」

 

黒服はカイザー理事のような勝ち誇った顔はせず、ただ無機質に、己の目的と現状のみを伝える。そして、ホシノを閉じ込めている檻の付近のボタンを押し、シャッターを下ろすのだった。

シャッターを閉められ、周りが暗く、何も見えなくなった。それは、かつての自分……更に、これから先の未来のようだった。

 

「…………………………そっか。」

 

そんな暗闇の中で、ホシノはあることに気付いた。いや、これは悟ったというべきだろう。もはや涙などではない。もう笑みすらこぼれている。でも、目には光がない絶望の目。そんな歪な表情で、ホシノは呟く。

 

「……私、また大人に騙されたんだ。」

「ごめん、みんな…私のせいで……」

「シロコちゃん、ノノミちゃん、セリカちゃん、アヤネちゃん…………ユメ先輩。」

「ごめんなさい……」

「……」

「私は……」

「先生……」

 

ホシノは縋るように、助けを乞うように、最後の希望に縋るように、そう呟くことしか出来ないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「そんな…そんな事になったら、今までの私たちの努力が……」

 

一方のこちらも、絶望に染まっていた。もう何をしても詰み。勝っても負けても、アビドスを取られて終わる…

そんな状況で、どうやって希望を見出せと言うのか。

そんな今までの努力を嘲笑うかのように、理事は侮辱のための口を開く。

 

「ほう?まさか本気だったのか?本気で本来ならば何百年もかかるはずの借金を返そうとしていたのか?」

「これは驚きだ。てっきり、最後に諦める時、『でも頑張ったから』と自分たちを慰める言い訳をするために程々に頑張っていたと思っていたのだが。」

 

理事の発言は、これまでの対策委員会の努力全てを踏みにじる、対策委員会にとって最悪すぎる侮辱だった。

理事の目が醜悪に歪む。それでも尚、侮辱は止まらない。

 

「お前たちは一体どうしてここまで頑張ってきたんだ?なんのために?そこになんの意味があった?」

「…あんた、それ以上言ったら……!」

「撃つよ。」

 

酷すぎる屈辱に耐えきれなくなったセリカとシロコは銃口を理事に向ける。

だが、理事は顔色を変えない。相変わらず不快な余裕の表情だ。 

 

「撃てるものなら撃ってみろ。君たちの罪状と借金が増えるだけだ。ここから先の借金追加は黒服とは別のものなのでな。」

「上等じゃない…!喰らえ……!」

「でも…」

「…?」

「今ここで戦って、何かが変わるんでしょうか…?」

「アヤネちゃん……!?」

「先生もいます。勝つことはできるかもしれません。けど、この戦いに勝っても…何が残るんでしょうか…学校がなくなれば、戦う意味はなくなります……どうにか取り戻せたのて、大きな借金があって、ホシノ先輩はいなくて、私たちみたいな非公認の委員会だけが残って……」

 

理事が侮辱し、セリカとシロコが激昂する中で、とうとう諦めかける者すらでてきた。だが、言っていることは正しい。ここで勝っても、結局学校は持っていかれる。

 

「アヤネちゃん……」

「アヤネ…」

「もうこれ以上、私たちなんかに何が……」

 

アヤネは悔しさでいっぱいだった。いや、アヤネだけではない。その場の対策委員会全員がそうだ。こんなことを元凶の前で言わなければならないこと、それに反論することも出来ないこと、その全てが悔しい。

なのに、何も出来ない。ただ涙を流し、悔しさと無力さに打ちひしがれることしか出来ないのだ。

 

「確かに…もう諦めたほうが苦しまずに済むのかも……」

「どうして…どうして私たちだけこんな……」

「……」

 

シロコとノノミすらも諦めかけ、勢いがあったセリカすらも意気消沈している。全員が涙を流し、下を向いている。 

 

「何諦めてんだ!前を見ろ!みんなの青春への思いはこんなもんじゃないはずだろ!」

 

フォーゼは複数の戦車と戦いながらそう叫ぶが、彼の声すらもみんなには届かない。

もう何もかも終わり……

………不意に爆発音が響いたのは、その時だった。

最初はカイザーによる破壊行為だと思っていたが、理事が爆発に関する連絡を受けて慌てている。どうやらカイザーとは別の戦力の仕業のようだ。

各地で同じ爆発が起き、カイザーの隊が次々と壊滅していく。

 

「どうなっている!?アビドスの連中はここにいるので全員のはず……!」

 

理事ですら、その状態を掴めず、困惑する。そんな中、そいつ等は爆炎の中から姿を現した。

 

「全く…大人しく聞いていれば、何を泣き言ばかり言ってるのかしら……。」

「……!?」

「目には目を、歯には歯を、無慈悲に、孤高に、我が道の如く魔境を行く……」

 

覆面水着団のモットーを言いながら歩いてくるのは、見覚えのある四人組だった。

その見た目からゲヘナ生だと分かる。その正体はただ一つ。

 

「それがあなたたち、覆面水着団のモットーじゃなかったの?」

 

便利屋68。かつてはカイザーの手駒として対策委員会と激突した、陸八魔アルが率いる便利屋68だった。

 

「あなたたちは…!?どうして……!?」

「何をすればいいのか分からない、どうすればいいのかも分からない……やることなすこと全て失敗に終わる……ここを切り抜けてもこの先にも逆境と苦難しかない……」

 

アルのその一言は、まさに対策委員会の今を表している。四人の心に、アルの言葉が突き刺さる。

しかし、そこで終わりではない。

 

「………だから何なのよっっっ!!!!」

「えっ、えっ…?」

 

困惑するアヤネに対策委員会。そしてフォーゼ。そんな皆を無視し、アルは言葉を紡ぎ続ける。

 

「仲間が危機に瀕しているんでしょう!?それなのにくだらないことを考えてばかり…!あなた達はそんな情けない集団だったの!?」

「まーまー、眼鏡っ娘ちゃんは繊細なんだから、こんなこともあるって。」

「それより〜、可愛い可愛い眼鏡っ娘ちゃんを泣かせた罪は重いよ〜?だからこれはもう…」

「ぶっ殺すしかないよねっっ!!!」

 

対策委員会のみんなを叱咤するアルをいつも通りのニコニコ顔でムツキは宥める。

そんなムツキは前に出ながら、獰猛な顔で銃を構え、PMC兵を震え上がらせる。

 

「ふふっ、ふふふふふふふっ……」

「はあ…ただラーメン食べに来ただけなのに、こんな目に遭うなんて……」

「…爆弾で敵の増援を遮断。その隙に指揮官を仕留めて内側から崩壊させる。本当は風紀委員会空いてに使うはずだったんだけど、まぁ予行練習ってことでいいか。」

「目を開けなさい。腑抜けたあなた達に、真のアウトローの戦いを見せてあげるわ。」

「……ハルカ。」

「はいっ!」

 

アルが指示を出し、ハルカがスイッチを押せば、複数の爆弾が一気に爆破され、カイザーの隊を次々と吹き飛ばし、カイザー理事が徐々に無防備になる。

アルはそれを見て高笑いをし、フォーゼは混乱の隙をついて戦車をストレートパンチで粉々にした。

そしてアルの隣に並ぶ。

 

「よっ、久しぶり…でもないか。」

「ええそうね。元々はラーメンを食べるためにきたのだけど…」

「ラーメンって、柴関ラーメンか?」

「ええ、本当に、美味しかったから。」

 

そう言うアルの顔は少しだけ赤い。だが笑っていた。あの時のハードボイルドのためなら、ハードボイルド要素を邪魔するもの全てを認めないスタンスだったアルが、柴関ラーメンを素直に認めた。彼女も、成長しているということだ。

 

「…まぁいいわ。今こそ協業の時よ!合わせられるわよね?先生?そこの腰抜けたちに、今こそ真のアウトローの力を見せつけてやるわよ!」

「……分かった。やってやろうぜ!」

 

まさに無双だった。便利屋とフォーゼが手を組んだ強さは。戦車もヘリもすぐに破壊され、理事を守るPMC兵も瞬く間に倒されていく。

敵を壁や地面に叩きつけ、戦車を燃やし、爆風で飛んだ岩が戦闘機を撃ち落とす。

その戦いっぷりは、対策委員会を沸き立たせていく。

「き、貴様ら…飼い犬の分際で……!」

「ふん!知ったこっちゃないわよ!あんたより先生と一緒のほうが仕事がしやすいってだけ!」

「飼い犬に手を噛まれるっていうでしょ〜?それくらい予想できなかった〜?」

 

アルとムツキは共に銃を構え、理事に襲いかかる。だが、理事も多少の戦闘経験はあるようで、二人に対して互角に張り合う。

そんな便利屋とフォーゼを見て、対策委員会は…

 

「皆さん…」

「……そうだね。アルの言う通りだ。」

「…お陰様で目が覚めました。」

「ええ!非公認だとかなんとか、そんなのどうだっていい!」

「いま大切なのは、ホシノ先輩を助けること!」

 

立ち直った対策委員会一同は銃を構え直し、奮起してPMC兵たちを蹴散らしながら便利屋の隣に並んだ。

それと同時にアルとムツキが跳び下がり、風紀委員会と戦ったときのような並びになる。

それを見た理事は苦悶と怒りの表情を浮かべる。

 

「おのれ…!この期に及んで無意味な抵抗を!よくも……!!」

 

だが、みんなはもっと怒っている。特に、大切な生徒を、ダチを侮辱し、居場所さえも、意味さえも奪おうとした相手に、フォーゼは激昂していた。

 

「よくも俺の大事なダチを……!!」

「!!」ゾクッ

 

フォーゼのその気力に、理事の背中に悪寒が走る。だが、流石は1企業の理事。落ち着きを取り戻す。  

 

「忘れたか!?私の指示一つで連邦生徒会に通報が……!」

「それは聞き捨てなりませんね。」

「!?今度は誰だ!?」

 

通報についての話を切り出した瞬間、煙の奥から声が聞こえた。

 

「!この声は…!」

 

煙の奥から、その声の主が姿を現す。それは、青髪の、常に鋭い目をした連邦生徒会長の代理、七神リンだった。

 

「リンちゃん!来てたのか!?」

「誰がリンちゃんですか。……それはそれとして、申し遅れました。連邦生徒会所属、連邦生徒会長代理の七神リンと申します。」

「連邦生徒会長代理……!?」

「いや、それより、どうして連邦生徒会の人間がこんなところに……!?」

 

突然すぎる連邦生徒会の人間の登場に、一同驚きを隠せなかった。

だが、理事は却って好都合とばかりにリンに話しかける。

 

「聞き捨てならないというのは、連邦生徒会への通報に関してか?それならここで伝えよう。」

 

理事はそう言い、フォーゼを指差す。そこには、陥れてやるという悪意があった。

 

「そこの男は指導者という立場でありながら教え子を連れて我々の所有地に侵入し、挙げ句破壊行為を……」

「はぁ!?破壊行為って、そっちから襲ってきたくせに!!」

「黙れ!とにかく!あの男は指導者として相応しくない力だけがある存在だ!さっさと連れて行ってくれ!」

 

セリカの文句を大声で掻き消すと、理事はさっさと危険要素を排除したいと言わんばかりにまくしたてる。というか、勝ちを確信している。

─────だが、それは前提から履き違えている。

 

「……何か勘違いをしているようですが、私の目的は、あなたを連行し、取り調べを行うことです。」

「!?」

「な、なんだと!?」

「当たり前でしょう?詐欺まがいの取り引きに加えて、不当な額の利子、更には破壊行為まで…全て如月弦太朗先生からの報告書と、先程の通報で確認しました。更にゲヘナとトリニティにも噂が広まっているようでしたので。」

「なっ…!?」

「カイザーPMC理事、あなたを詐欺や破壊行為……諸々の罪で確保し、ヴァルキューレに引き渡します。」

「ぐっ…ならアビドスの生徒とあの男は……シャーレの先生はどうなんだ!?無断侵入に器物損壊……奴にも罪はあるはずだ!」

「いいえ。それは間違いです。」

「はぁ…?」

 

普通に考えればこれらも罪に該当するはず。なのに違うと言われる。理事は意味が分からず唖然とする。

だが、彼は忘れていた。彼が、如月弦太朗がどこに所属しているかを。

 

「先生が所属するシャーレとは、連邦生徒会長が設立した超法規的機関です。連邦生徒会長が付与した権限の下、シャーレ所属の人物は例外なく、キヴォトスの規約や法律による規制や罰則を免れることが可能。そして、先生はアビドスの生徒全員をシャーレに所属させています。つまり、キヴォトスの法はアビドスの皆さんと先生には無効となります。第一、あなたたちのような怪しい組織の捜査のために侵入したのですから、これも仕事の一環として認められます。」

「……へ?マジ?」

『私、言おうとしたじゃないですか……』

 

そんな権限あったなんて知らないぞと、素っ頓狂な声を上げるフォーゼと、呆れ顔のアロナ。どうやら、昨日アロナがなにか言いたげにしていたのはこれのことのようだ。

まぁともかく、弦太朗のしたことは犯罪でもなんでもない。仕事であるということだ。

 

「ぐぬぅ〜…!そんな横暴、誰の許可を得て……!!!」

「連邦生徒会長の許可ですが、何か?」

 

子供のように地団駄を踏む理事と大人のように冷静に対応をするリン。まるで子供と大人の言い合いだ。

結局のところ、理事が握った弦太朗の弱みなど対した問題ではなく、シャーレという組織の上で踊らされていたに過ぎないのだ。

 

「ゆ、許さん…!!こうなれば……!!」

 

追い詰められた理事は、激昂し、懐からゾディアーツスイッチを取り出した。

「!ゾディアーツスイッチ…!」

「やっぱり、カイザーが裏でスイッチを…!」

「私自ら、このアビドスをスクラップにしてくれる!」

 

理事はゾディアーツスイッチを押す。大柄な身体は暗黒のコズミックエナジーに包まれ、アルターゾディアーツへと変化を遂げた。

 

「アルターか…」

「はぁ…挙げ句暴走ですか。先生、お願いします。」

「先生!頑張って!」

「おう。任せろ!タイマン張らせてもらうぜ!」

 

『ウォーターオン』

 

フォーゼはゲヘナ学園で美食研究会のジュンコが変身したアルターゾディアーツと戦ったことがある。

その時は水で炎を無効化し、ライダーロケットドリルキックで一気に決めた。今回も同じ方法で倒そうと、フォーゼはアルターに向けて水を発射する。

 

「ぬんっ!」

「!?」

 

だが、なんとアルターはウォーターモジュールの水を火炎弾の連射で強引に蒸発させてしまう。

更にアルターは空中を浮遊し、空から火炎弾をフォーゼに向けて発射した。フォーゼはそれを転がって躱し続ける。

 

「くははっ、いつまで避けられるかな?」

「いつまでも避けてねぇよ!」 

 

『ジャイアントフットオン』

 

「これでも喰らえ!」

 

フォーゼはジャイアントフットモジュールを装着し、地面を踏む。アルターはそれがどうしたとでも言わんばかりにそれを見ていたが、少し経つと、自分の上に巨大な足型のエネルギーがあることに気付いた。

 

「なっ!?ぐわぁっ!?」

 

アルターはジャイアントフットのエネルギーに踏まれ、地面に叩き落された。

 

「一気に決めてやる!」

 

アルターを地面に落としたフォーゼは、エレキスイッチを装填した。

本来ならこの程度の相手に使うほどの力ではないのだが……今の弦太朗は、あの男が許せない。

 

『エレキオン』 

 

エレキステイツになったフォーゼはビリーザロッドのコンセントにソケットをはめ、アルターに斬りかかる。

アルターは火炎弾で抵抗しようとするが、フォーゼは身体を電気に変化させ、火炎弾を全て躱す。

そのままアルターの後ろに回り込み、ビリーザロッドで連続斬りを喰らわせた。

身体を電気に変化させるという能力に、アルターは驚愕するが、ならばと浮遊した。

 

「くははっ!ここまでは届くまい!もう先程の手には乗らんぞ!」

 

アルターはジャイアントフットをしっかりと警戒し、フォーゼに火炎弾で攻撃する。

 

「だったらこれだ!」

 

『ウインチオン』

 

無論、無対策の彼ではない。フォーゼはウインチモジュールを装着すると、ロープをアルターに巻き付けた。

 

「ライダー電気ショ〜ック!」

 

そしてビリーザロッドをロープに付け、ロープを通してアルターを感電させた。

 

「うわ…エッグ……」

 

その攻撃を見たセリカは引きつった顔をしてドン引きした。

だが、フォーゼの攻撃は止まらない。フォーゼはソケットを真ん中に差し替えると、電気の斬撃を飛ばして、麻痺して動けないアルターを撃ち落とした。

 

「こんな…バカな……!?」

「言いたいことはそれだけか。」

 

『リミットブレイク!』

 

弦太朗は優しい。だから、ゾディアーツに墜ちても、自分から正しい心を取り戻した者、本位ではない形でゾディアーツになってしまった者には攻撃をしない。

だが、相手は何も知らない子供を陥れ、貶める存在だ。そんな人間に、慈悲は与えない。フォーゼは間髪入れずにビリーザロッドにスイッチを装填した。

 

「ライダー100億ボルトブレイク!」

「……ガハッ!?」

 

フォーゼの容赦のない必殺技がアルターを襲い、アルターは耐えきれず、変身が解けて理事の姿に戻った。

 

「ぐうぅっ……!」

 

変身が解けたカイザーPMC理事は、体のところどころが破損しており、バチバチと回路から火花の散る音がする。それを見たPMC兵たちが慌てて理事に駆け寄り、肩を持つ。

 

「り、理事!怪我が!急いで治療を……!」

「ぐっ…一時撤退だ!体制の立て直せ!」

「はっ、はい!」

「覚えておけ…この代償は高くつくぞ……!」

「逃がすか!」

 

ここで理事を捕らえ、ホシノの居場所を吐かせ、リンに引き渡す。そうすれば全てが解決するはず。

ここで逃がすわけには行かないのだが、流石にカイザーは対策してきていた。

 

「!」

 

フォーゼとカイザーの間に、爆弾が落とされる。しかもただの爆弾ではない。超強力な煙幕弾だ。

 

「ぐっ…」

 

『エアロオン』

 

フォーゼはエアロモジュールを装備し、風で煙幕を掻き消したが、その時にはもう、カイザーの兵たちはその場にいないのだった。

 

「逃がしたか…!」

 

フォーゼは拳を握りしめ、変身を解く。ただ、相手は逃がしたが、みんな無事だ。そこは一つ繋がった。

「ふぅ…」

「やりましたね!」

「それにしても、覚えてろ〜!なんて言うヤツ本当にいるんだねぇ…あれこそ三流悪役の常套文句じゃん。」

「今の戦法、風紀委員会相手にも通じるといいけど…」

 

戦闘が終わったあと、みんなは各々の感想を口に出している。共通しているのは、みんな疲れているということだ。

 

「皆様、お疲れ様でした。」

 

そんな中で、戦闘をしておらず、移動もヘリできた故に、肉体的には疲れていないリンが口を開く。今まで何もしてくれなかった連邦生徒会の現代表を前に、セリカはなにか言いたげだったが、それより前に、リンが頭を下げる。

 

「申し訳ありませんでした。」

「えっ?へっ?」

 

いきなりの謝罪に、あの時、ヒナが、頭を下げた時と同じようにみんなは驚いた。

セリカは思わず勢いを失って2歩3歩後ろに下がると、躓いて尻餅をついてしまう。

 

「如月先生の報告書で、アビドスの皆様の現状を確認しました。これまでなんの対応も取らなかったこと、カイザーを放置していたことを心から謝罪します。」

 

リンはそう言うと、頭を上げて踵を返し、その場から去る…

その前に、数歩歩いたところで少しだけ振り返る。

 

「連邦生徒会の方で、カイザーの違法取引や詐欺、不当な借金に関する調査、並びにアビドスの皆さまへの必要最低限の物資の補給を検討しておきます。」

「…!!」

 

リンのその言葉に、アビドスのみんなの微かに見えていた希望が大きくなった。

連邦生徒会が介入してくれるなら、もしかしたらどうにかなるかもしれないという期待に胸を膨らませた。

 

「えっと、その…ありがとう!」

 

セリカのお礼が、去っていくリンの背中に、微かに聞こえた。

これなら、アビドスは大分マシな状況になってくれるはず。

───────残っているものは、ただ一つ。

 

「…ホシノ先輩。」

「……ホシノ。」

 

あとは、みんなが大好きで、みんなも大好きな先輩、小鳥遊ホシノが戻ってくるだけだ。

多分、次は今までで一番大きな戦いになる。戦いを前に、それぞれが、それぞれの覚悟を決めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

その夜、弦太朗はアビドスの某所にあるビルの前にいた。弦太朗はそのビルを睨みながら、ビルの中へと入っていく。

そして、無人のエントランスにあるエレベーターに乗り、理事室の階のボタンを押す。

エレベーターが上昇していく数秒ごとに、嫌な気配が強まっていく。弦太朗はそんなものに負けるかと、エレベーターの扉を睨む。

やがて、エレベーターは理事室の階に着き、扉が開く。

 

「クックック…はじめまして。お待ちしておりましたよ、如月弦太朗先生。」

 

理事室にいたのは、カイザーの理事ではない。ミレニアムでフォーゼを研究で邪魔した、美食研究会にスイッチを与えた、カイザーと手を組んでアビドスを追い詰めていた、あの黒服だった。彼のその異形な姿が出す雰囲気は、弦太朗に一瞬で相容れない存在だと理解させる。

 

「……これはどういうつもりだ?」

と、弦太朗は今日の夕方頃、丁度戦いが終わった時刻にシッテムの箱に送られてきたメールを黒服に見せる。

そこには……

 

──────────────────────────

如月弦太朗先生へ

小鳥遊ホシノの行方が知りたいのなら、指定する場所へ一人で来てください。

場所は──────

──────────────────────────

 

これは明らかな挑発だ。しかし、なり振り構っていられない。弦太朗は覚悟を決めてここに来たのだが、待っていたのは黒服だった。

 

「あなたとは一度こうして、顔を合わせて話をしてみたかったものでね。」

 

そう言う黒服の顔は、カイザーの理事よりも不気味に、不敵に笑い、そして歪んでいた。




冬映画アンケートは6月8日土曜日の23:59分に終了する予定ですので、是非投票してください!タイトルにつきましては、13話の後書きにて発表します!お楽しみに!

冬映画的な番外編でクロスオーバーしてほしい仮面ライダーはどちら?

  • 仮面ライダーディケイド
  • 仮面ライダーオーズ
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