コズミックアーカイブ(仮面ライダーフォーゼ×ブルーアーカイブ)   作:炙り中トロ

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第13話 手・繋・豪・炎

「立ち話もなんですし、こちらの席へどうぞ。」

 

と、黒服は弦太朗を用意した椅子へと案内し、自身も椅子に腰掛ける。

弦太朗は座らず、用意された椅子を睨む。当然だ。敵が用意したもの。座った瞬間に麻酔が撃たれてもおかしくない。

 

「心配なさらず。その椅子、及びこの部屋にはなんの仕掛けもありません。嘘だと思うのなら、シッテムの箱で調べてみると良いでしょう。」

「……」

『先生、その人の言っていることは本当です。確かに、この部屋にはなんの仕掛けもありません。』

 

嘘はついていない…か。弦太朗は素直に椅子に座り、黒服と対面した。

姿勢良く座り、黒服を真っ直ぐ見る弦太朗。対する黒服は、手を組み、面妖に弦太朗を見据える。

 

「あなたのことは知っています。連邦生徒会長が呼び出した不可解な存在…あのシッテムの箱の主であり、連邦捜査部シャーレの先生。」

「あなたを過小評価するものもいるようですが、我々は違います。」

「まず、我々はあなたと敵対するつもりはありません。むしろ協力関係を築きたいとすら思っております。アビドスなどという小さな学校は、全くもって問題ではありませんが、あなたの存在は決して小さなものとは言えないのです。仮面ライダーフォーゼという強大な力、シャーレという権力。その2つを併せ持つアナタは私たちの計画の一番の障害となりうる存在。敵対することは避けたいのですよ。」

 

黒服は弦太朗と戦う意志はないようだ。てっきりゾディアーツにでもなって襲ってくることを想定していた弦太朗は面食らう。

だが、こちらも聞くことを聞かなければならない。 

それに、私『たち』というのも気になる。

 

「お前はなんなんだ?目的はなんだ?なんでゾディアーツスイッチを持ってる?」

「おっと、自己紹介がまだでしたか?これは失礼。私たちはあなたと同じキヴォトス外部の者ですが、あなたとはまた違った世界の住人です。適切な名前がありましたのでそちらを。私たちのことはゲマトリアとお呼びください。そして私のことは黒服とでも。この名前が気に入っていましてね。」

「私たちゲマトリアは観察者であり、研究者であり、探求者です。ここまで言えば、何故カイザーと協力をしてまで、小鳥遊ホシノを手に入れようとしたのか、分かるでしょう?」

「…」

「まぁ、あなたと同じ不可解な存在と捉えていただいて問題ありません。一応お聞きしますが、私たちたちの仲間になるつもりはありませんか?」

 

黒服の言葉は弦太朗をイライラさせる。つまり、カイザーと協力してアビドスを苦しめたのも、ホシノの弱みに付け入り、アビドスから引き剥がしたのも、全て自分の研究のためということじゃないか。

しかも、それでいて彼は自分をその仲間に入れようとしている。弦太朗はそれが許せない。

 

「んなもんに興味はねぇ。俺はホシノを連れ戻しにきたんだ。」

「…クックック……」

 

弦太朗のその言葉に、黒服は愉快そうに笑う。それが弦太朗を更に苛立たせる。

 

「先生、あなたの言動が如何に正当性に欠けているか、理解していますか?小鳥遊ホシノはもうアビドスの生徒ではありません。生徒という枠組みから外れた以上、あなたにはもう彼女をどうこうする権利などありませんよ。」

 

黒服はそう言って、ホシノの退学届のコピーと協力のサインの書類を見せてきた。

だが、これは無意味だ。この書類には、足りないものがある。

 

「いや、まだだ。」

「…ほう?」 

 

これ以上何があるのかと、黒服は興味深そうに少しだけ身を乗り出して問う。

対する弦太朗は、書類の最後の欄、顧問のサイン欄を指差す。

 

「対策委員会の顧問の俺が、アビドスの先生の俺が、まだここにサインをしてねぇ。」

 

弦太朗の言う通り、顧問用のサイン欄に弦太朗のサインもハンコもない。これではまだ、ホシノの退学を正式に認めることは出来ない。

 

「だから、ホシノはまだアビドスの対策委員で、副生徒会長で、俺の大切な生徒だ。」

「…なるほど、あなたが先生である以上、担当生徒の去就にはあなたのサインが必要……そういうことですか。」

「先生と生徒…なかなかに厄介な概念ですねぇ……」

 

黒服は残念だと言うようにそう呟くと、書類をしまい込む。最初は何食わぬ顔をして強引な理屈で話を進めるタイプだと睨んでいたが、意外と素直だ。

 

「お前らはみんなを騙して、気持ちを踏みにじって、苦しみを利用した。俺はお前らみたいな曲がったやつが大嫌いなんだ。」

「……ええ。否定はしません。私たちは他人の不幸よりも自分たちの利益を優先しました。その行動は善か悪かと問われればきっと悪でしょう。」

「……ですが、ルールの範疇でもあります。」

 

黒服はそう言うと、視線をチラリと窓の方に向ける。窓の外には、砂に埋もれた街が映っていた。

 

「アビドスに降り掛かった砂嵐は私達のせいではありません。かと言って他に誰か明確な元凶や悪役がいるわけでもない。大変珍しいことではありますが、天変地異とはそういうものでしょう。」

「私たちはただその機会を利用したに過ぎません。砂漠で水を求め、死にゆく者に水を提供する。ただし、一生働いても取り返しがきかないほどの額で。」

「ただそれだけのことです。持つ者が持たざる者から搾取する。知識のある者がない者から奪い取る。世間ではありふれた話です。特別私たちが心を痛めて責任を取ることでもありません。大人であるあなたなら分かるでしょう?」

「そういうことですから、アビドスからは手を引いていただけませんでしょうか?ホシノさえ諦めてくれれば、アビドスの借金やカイザーPMCのことについては全て私たちが解決させます。そうすればあの子たちは学校に通い続けられます。ホシノ自身もそれを望んでいます。どうですか?」

 

黒服の主張は、全てが間違っているというわけではない。倫理だとか道徳だとかはさておき、大人というのはそういう存在だ。その中に弦太朗のような一風変わった者がいるだけ。出会って数日の他人なんて切り離して保身に走る人のほうが多いだろう。

だが違う。弦太朗は違う。出会って間もなくでも生徒は生徒。ダチはダチだ。弦太朗は提案する黒服を正面から睨み、言い放つ。

 

「断る。」

「……どうして?」

 

理解が出来ないといった様子で黒服は問う。今の提案は普通に考えれば理想的な提案だ。だが、それではアビドスのみんなの心が満たされない。

 

「どうあっても私たちと敵対するつもりですか?先程も言いましたが、これはホシノも望んでいることで──────」

「お前らが言いくるめたんだろうが!あいつらを良いように利用して!」

 

黒服が言い終わるよりも前に、弦太朗は机を叩き、立ち上がる。その手にはフォーゼドライバーが握られていた。そのまま腰に装着する。フォーゼの恐ろしさを知っている黒服なら、変身される前に反撃するか、逃げるかの託を取るはずなのだが、黒服は座ったままだ。黒服はフォーゼドライバーを真っ直ぐ見据える。 

 

「……先生、確かにそれは先生のみが使えるキヴォトス最強の力です。」 

「しかし、その代償もうっすらとですが知っています。」

「え…?」

 

弦太朗の口からその場にそぐわない間抜けな声音が出た。フォーゼに変身する代償なんて、今まで聞いたことがない。そんなこと、フォーゼドライバーをつくった男の息子でさえも言わなかった。

 

「……おや、知らないのですか?元いた場所とは勝手が違うのでしょうか?まぁ、知らないのであれば説明いたしましょう。」

「……まず、本来ならばあなたの使う武器はそれではありませんでした。本来使うのは、大人のカードと呼ばれるものです。あなたも持っているでしょう?所謂クレジットカードです。」

「クレジットカード……」

 

弦太朗は財布を取り出し、クレジットカードを見る。天高にいた時から持っていた、至って普通のクレジットカード。こんなものにものすごい力が宿ってたとは考えられないが……。

 

「ですが、あなたの中に眠る、キヴォトスの住民のものとはまた別の神秘的な力が反応を起こし、その力がフォーゼドライバーという形で具現化した……と私は推測しています。しかし、実物があるのではなく、あくまで具現化したというだけ。この考察が正しければ、そのシステムは一度失われたもののはずです。」

「……!」

 

図星だった。確かに弦太朗は元いた世界で、フォーゼドライバーを溶鉱炉に放り投げる形で失った。平和になった世界で、教え子に大切なことを教えるために。

とはいえ、今の問題はそれではない。ゾディアーツが暴れる世界でドライバーが具現化したのならばむしろ好都合だ。

 

「……で、代償ってなんなんだよ?」

「あなたの中に眠る神秘ですよ。変身する度に、あなたの神秘が少しずつ失われていきます。幸い、あなたの中に眠る神秘の総量は無限に近い。しばらくは変身し続けても問題はないでしょう。」

「とは言え、デメリットのみとは限りません。キヴォトスの生徒との神秘との重なり合いもそうですが、なによりアナタの神秘を直接使っているだけあり、その力は通常の何倍にも強化されているはず。」

「……!!」

 

黒服のその一言で、弦太朗の中にあった疑問が解けた気がした。

───────何故、エレキステイツに元はないはずの「肉体を電気エネルギーに変えて移動する力」が備わっていたのか。

加えて、キヴォトスの人間が変身したより屈強なゾディアーツにフォーゼのパンチやキックが効いていたのも……

 

……いや、それも力が増したことの一因ではありそうだが、まだ何かが足りてない気も…何か別の、決定的なものが……

 

弦太朗が考えるよりも前に、黒服は話を戻した。

 

「……ですが、総量が無限に近いと言っても、近いというだけであって決して無限というわけではない。変身する度に削られていくはずです。あなたの生が、時間が。」

「ですから、それはしまっておいてください。あなたにも自分の生活や、『戻る場所』があるでしょう?それに、変身して暴れ回るおつもりですか?抵抗する力がない私に対して?」

「……」

 

確かに、ここでドライバーを取り出すのは、頭に血が上っていた。

それこそ、カイザーの施設に侵入したときと同じ轍を踏んでしまうではないか。

弦太朗はドライバーを仕舞った。

 

「……そもそも、アビドスなど元々あなたの知るところではありません。どうでもよいではないですか。」

「断る。」

「なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?ねぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?」

「なぜ?どうして断るのですか?それは一体何のためなのですか?」

 

絶対にゲマトリアとは手を組まないし、アビドスを見捨てる気もないという強固な意思を見せる弦太朗に、黒服は目を押さえ、なぜと連呼する。

それに対し、弦太朗はキッパリと答える。

 

「今まで、あいつらを苦しみから助けてやるヤツが1人もいなかった。」

「……何が言いたいのですか?だからあなたが助け、その責任を取るとでも?偶然呼ばれ、出会っただけの他人であるあなたが?なぜそんなことを?何を思って取る必要のない責任を取ろうとしているのです?」

「そんな大層なもんじゃねぇよ。俺はただ、あいつらに寄り添って、助けて、ダチになりてぇだけだ。」

 

弦太朗は真剣な顔で、1秒の暇も与えずに即答する。黒服は少し考えたあと、一つの結論にたどり着いたようで、再び口を開く。

 

「……なるほど、つまりあなたは弱き者を救済する存在であるということですか。そしてそれこそが、大人のすべきことだと…」

「…先生、その認識は間違っています。あなた以外の大人はそんな存在ではない。望む通りに社会を改造し、法則、規則を決め、常識と非常識、平凡と非凡を分ける。騙し欺き丸め込み…権力のある者、知識のある者、力のある者がない者を支配する。それが大人です。」

 

弦太朗の掲げる大人と黒服の掲げる大人は真っ向から対立していた。弦太朗の言うことはそうだ。弱き者を守るために、仮面ライダーを始めとする戦士たちは戦ってきたのだ。それは弦太朗に限った話ではない。ただ、黒服も間違っていない。弦太朗はそんな大人を見たことがある。

 

「……自分とは関係のない話、などとは言わせません。」

「この学園都市における膨大な権力と権限。そして神秘の数々……その全てが一時的とはいえ貴方の手の上にありました。つまり、あなたはこの学園都市の支配者になり得たのです。」

「しかし、あなたはそれを一切の躊躇いなく手放した。理解できない行為です。その選択になんの意味があるのですか?真理と秘技、権力、お金、支配力……その全てを捨てるなどという無意味な選択を、どうして!」

 

黒服は無意識なのか意識したのか、大声でまくしたてる。そんな黒服を前にしても、弦太朗は躊躇いも何もない。

弦太朗の頭の中に、アビドスのみんなの、なんてことのない、でも、楽しくて、かけがえのない日常が浮かぶ。

黒服やゲマトリアに関しては、分からないことだらけだ。一つ分かるとすれば、黒服は目的のためにみんなを利用した。この状況で、そんな外道に向ける言葉は一つだ。

 

「お前じゃ100回言っても分かんねぇよ。」

「…」

 

黒服の迫真の問いかけにも毅然と答える弦太朗を見て、黒服も理解を得てもらうのは厳しいと判断したのか、諦めた様子でため息をつく。  

 

「いいでしょう。交渉は決裂です。あなたのことは気に入っていたのです。仕方がありません。」

 

黒服がそう言うと、弦太朗は次の話。むしろこれが本題だ。ホシノがどこにいるのか聞き出そうとする。だが、それより先に黒服が口を開く。

 

「…先生、小鳥遊ホシノを助けたいですか?」

 

「……!今すぐ場所を言え!」

「そうかっかなさらずに。彼女はPMC基地の中央の倉庫の中にいます。とある方法で観測した神秘の裏側…それを生きている生徒に適用できるか──────そんな実験を始めるつもりです。」

「…そう。ホシノを実験台として。」

「……」

「そしてホシノが失敗すればあの狼の神を…と思っていたのですが、前提から崩れてしまったようですね。彼女にはある意味ではホシノより深い神秘が眠っているので、中々の逸材だったのですが……」

「まぁ、そういうことですので、精々頑張って生徒を助けてください。微力ながら、幸運を願っていますので。」

「……」

 

黒服の話は終わった。本来ならもうここに残る理由はないのだが、弦太朗は立ち上がり、ずんずんと黒服に近づいていった。そして拳を振り上げ…

 

「……」

 

弦太朗の拳は黒服の肩の上を掠り、壁に当たった。弦太朗は黒服を睨む。先程黒服が言った狼の神……おそらくシロコのことだ。

シロコにそんな力があるかは分からないが、ホシノだけに飽き足らず、他の生徒まで実験に巻き込もうとしている辺り、本当に弦太朗が嫌いな人間だ。

弦太朗は黒服を睨んだまま低い声で言う。

 

「俺の生徒に…ダチに手を出そうってなら、容赦しねぇぞ。」

「……これはこれは、気分を害されたのでしたら謝罪いたしましょう。」

 

黒服の癪に障る言い回しに更に怒りを覚える弦太朗だったが、下手に手を出すのも悪手だ。弦太朗は壁から手を離し、踵を返す。 

 

「あぁそうだ。一つ質問に答え忘れていましたね。」

 

黒服はそう言うと、ゾディアーツスイッチを取り出した。と言っても、あれはサンプル。変身できやしない。

 

「何故コレを持っているか…についてですが…」

「降ってきたのですよ。なんの前触れもなく。突如として。」

「それがキヴォトスに害を及ぼすことはありませんでした。なにせ、コズミックエナジーの存在など、キヴォトスの者にとっては関係ありませんから。観測する必要すらないでしょう。」

「しかし、我々は違いました。コズミックエナジーを観測し、研究した。その結果、ゾディアーツが生まれたのですよ。今は実験も兼ねて、キヴォトスの様々な住民に配っております。良い実験ができていますよ。」

 

つくづく虫唾が走る野郎だ。今すぐぶん殴ってやりたいが、人質がいる以上、下手に手は出せない。ただ、こいつがどれだけスイッチをばらまこうが、自分が全て倒し、助けてやる。

そう思いながら去ろうとする弦太朗の背中に向かって、黒服は最後に一言。

 

「……如月弦太朗先生、ゲマトリアは、あなたのことをずっと見ていますよ。」

 

弦太朗がその言葉に返事をすることはない。無視をし、エレベーターを降り、異質な空気が漂うビルから去っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

「先生、おかえり。」

「お待ちしてました〜!」

「先生!」

「先生…」

 

弦太朗はアビドスに戻り、対策委員会のみんなと会う。その顔には絶対にみんなを守るという決意と情報を掴んできたという自信が表れていた。

 

「なにか情報を掴んできたって顔だね。」

「おう!じゃあ改めて────────」

 

弦太朗は一度アビドスのみんなの顔を眺める。みんな、絶望なんてしていない。 弦太朗と同じ、決意に満ち溢れている。

 

「ホシノを助けに行くぞ!!!」

「ん、行こう。」

「ホシノを助けて、ここに連れ戻す!」

「はい!そう言ってくださると思っていました!」

「それでそのあとは、しっかり叱ってやんねぇとな!」

「はい!自分で言ったことを守れなかったんですから、叱ってあげないと!」

「おかえりって言って、ただいまって言わせてやろうぜ!」

「うん!……えっ!?」

 

ここまで順調にホシノを助けてからのことを話し、みんなそれに異論はなかったが、最後の弦太朗の言葉に、セリカが顔を赤くして声を上げる。

 

「なにそれ恥ずかしい!青春っぽい!背筋がゾワッとする!」

「いいだろ!?ただいまとおかえりは青春のお母さんだ!」

「はぁ!?またわけ分かんないことを…」

「ん、私はやる。」

「え、えっ!?」

「セリカちゃんがやらなくても、私もやりま〜す♪」

「えっ?ええっ!?」

「わ、私も。ちょっと恥ずかしいけど……」

「か、勝手にして!私はそんなこと絶対にやらないから!」

 

恥ずかしがり屋で、そういうことに抵抗を持っているセリカにとっては、確かに恥ずかしいことかもしれない。でも、他のみんなは我こそはと、やると言う。

セリカはいつものように叫んで顔を背けるが、その顔は……

 

「…でも、絶対にカイザーが邪魔してくる。」

「…はい。私たちだけでいけるかはかなり怪しいです……」

 

一つ壁にぶつかった。あの数のPMC兵を相手にしていたら、弦太朗はともかく他のみんなは保たない。体力が尽きて倒れてしまうだろう。

だが、カイザーを警戒しているのは、対策委員会だけではない。弦太朗はそれを知っている。

 

「……俺に考えがある。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「頼む!手伝ってくれ!」

 

翌日、ゲヘナ学園の校舎の前……どこか中世の城のような雰囲気を醸し出す場で、弦太朗はヒナとイオリの前で土下座していた。

 

「はぁ…お前、大人としてのプライドとかないのか?」

「今はそんなこと言ってる場合じゃないんだ。だから頼む!俺に出来ることなら何でもやる!」

「……」

 

土下座をしている弦太朗とひたすらに弦太朗を見ているヒナには分からないが、イオリの目は微かに笑っている。なんせ、イオリはフォーゼにデコピン一発でノックアウトされたことをかなり根に持っている。風紀委員会の幹部としてのプライドが傷ついたのだ。

 

「そうだな…じゃあそのまま私の足でも舐め──」

「先生、顔を上げて。」

 

イオリがよからぬことを言い終わる前に、ヒナは弦太朗に語りかける。

出鼻をくじかれたイオリは「ん?」と不思議そうにヒナを見る。

ヒナはそんなイオリに構うことなく口を開く…

 

「自分のために頭を下げる人間なら、これまで何度も見てきた。でも、生徒のために跪く先生は初めて。」

「いいわ、話を聞く。私に何をしてほしい?」

「い、委員長!?」

「なに?なにか文句があるの?」

「い、いや…」

 

ヒナは自分に異を唱える存在が不満なのか、それともイオリの企みに気付いていたのか、イオリを睨みつけて黙らせる。

 

「!本当か!?」

 

そのタイミングで弦太朗は顔を上げ、ヒナを見る。ヒナはふっと笑い、弦太朗に手を伸ばした。

 

「サンキュー!」

 

弦太朗はその手を取る。同盟が結成された。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ここはトリニティ総合学園。ゲヘナと対を成す学園だ。

その学園の中央、生徒会であるティーパーティーのテラスで、現ティーパーティーホストの桐藤ナギサと、ヒフミが対面していた。

生徒会長ということでナギサは忙しく、なかなか会う機会が持てなかったのだが、ようやく対面でき、ヒフミはナギサにカイザーのことを報告したのだ。

 

「…なるほど、ご説明ありがとうございます。ヒフミさん。確かにその先生の言葉が本当なら、このまま聞き流すわけにはいかなそうです。」

「例の条約も迫っていますし、今は下手に動くわけにはいかないのですが……そのPMCという企業が我が校の生徒に悪影響を及ぼしかねないということは間違いなさそうです。」

「ええ、今回は特例ということで、なにか考えたほうが良さそうですね。」

 

この言葉はつまり、トリニティもカイザー対策に向けて動いてくれるということだ。マンモス校のゲヘナに加えて同じくマンモス校のトリニティまで味方についたのはかなり大きい。

 

「あ、ありがとうございます。ナギサ様。」

「となると、どうしましょうか……」

 

ただ、ナギサも言っていた通り、今のトリニティにはなにか大事な条約が近いようで、正義実現委員会を投入するなど、あまり派手に動くことは出来ないらしい。

ナギサは少し悩んだ後に、結論が出た。

 

「確かちょうど、牽引式榴弾砲を扱う屋外授業があったはずなので、今回はちょっとしたピクニック……ということにしていきましょう。」

「牽引式榴弾砲というと、L118の?」

「はい。他ならぬヒフミさんのお願いですので、全てお任せします。細かいことはこちらの方で。」

「愛は巡り巡るもの。いつかヒフミさんの愛が巡って私にお返ししてくれることを期待していますね。ふふっ……」

「あ、あぅ…」

 

ナギサはにこやかにそう笑い、ナギサのよくわからない言い回しにヒフミは反応に困る。だが、ナギサが考えているのはそこだけではない。もっと遠くまで見据えているのだ。

 

(それに…いえ、確実にシャーレの先生には借りを作っておいたほうがよさそうですからね。この前の件では助けられてしまいましたし。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし!こんなもんだな!」

「屋台で作るラーメンもなかなかいい感じじゃーん!」

 

更にここはアビドスの柴関ラーメンがあった場所。そこでは柴関ラーメンの大将が屋台の柴関ラーメンを経営していた。

 

「まぁ、柴関ラーメンは元々屋台から始めたからな。懐かしいもんさ。」

「も、申し訳ありません、私のせいで……死にましょうか?死んでいいですか?死ねばいいんですね!?」

「まぁまぁ、それにしても、店を閉めるって聞いてたけど、またやってくれて良かったよ〜!」

 

柴関ラーメンには、ラーメン屋を爆破させたことを白状し、迫真の謝罪を見せるハルカと宥めるムツキ、無言でラーメンを啜るアルとカヨコ。便利屋68が客としてきていた。

ムツキの質問に、大将は少しだけ不思議そうな顔をする。 

 

「それがなぁ、昨日、目が覚めたら枕元にすげぇ量の金が入ったバッグがあってな……店の再建のために使ってくださいって書かれてたもんだからありがたく使ったんだが、誰が置いたんだろうな……」

「……(汗)」

 

お金を置いたのはアルだ。流石になんの罪もないラーメン屋を爆破したことには負い目を感じていたようで、一億円を置いておいたのだ。大将は目の前に寄付した者がいるとは思わないだろう。

 

「ごちそうさま。」

 

やがてみんなはラーメンを食べ終わり、手を合わせると立ち上がった。

同時にムツキは目の色が少し分かり、銃をクルクルと回す。

 

「さて、そろそろ行こうか?」

「社長、本当に行くの?この戦いに参加したところで私たちにはなんのメリットもない。報酬なしでPMCと戦うなんて……」

 

便利屋は今からカイザーに襲撃をかけるつもりだ。でも、カヨコの言う通り、この戦いをしたところで、得るものはない。

 

「何言ってんのさカヨコっち。アルちゃんをよく見てみなよ。」

「…うん?」

 

ムツキにそう言われ、アルの方を見てみれば、アルは目を細め、引き締まった顔をしていた。

 

「あの顔!今にも『報酬なんてここの美味しいラーメンが食べられただけで十分よ』とでも言いそうじゃーん!」

「……」

「そうなのですか?流石ですっ!多くを語らず一杯のラーメンで地獄へと赴く姿はハードボイルドそのものですっ!」

 

ハルカが興奮し、カヨコとムツキがじんまりと

アルを見つめる。そんな部下たちを前に、アルは一言だけ放つ。

 

「……さぁ、私と一緒に地獄の底までついてくる覚悟はできたかしら?」

「…くふふっ。」

「はぁ…なんだか損ばかりな気がするけど……仕方ないね。」

「頑張ります…こんどこそ全て壊しちゃいます……!」

アルの言葉に、ムツキは不敵に笑い、カヨコはまた面倒なことになりそうだとため息をつき、ハルカは怪しく笑う。

そして、アルはというと……

(言っちゃったーーーーー!!!!!)

(ラーメン食べたらすぐ帰る予定だったのに、なんか流されて言っちゃったぁっ!!)

(もう取り消したり逃げれるような空気じゃないし…それに相手はPMC!冷静に考えりゃ勝ち目なんてないじゃない!どうすれば良いのよこの状況!?)

 

勢いで言ったのはいいものの、いやよくない。アルはこの先の大激闘を予想し、勝手にパニックになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして最後に、アビドス高校。シロコ、ノノミ、セリカは銃の調子、弾数を整え、アヤネは支援機器の最終チェックをしている。

そこに、弦太朗がゲヘナから戻ってきた。

 

「みんな、準備はできてるな?」

「うん、バッチリ。」

「補給もたっぷり!おやつも入れました!」

「こっちも準備できたわ!睡眠もしっかり取ったし、お腹もいっぱい!負ける気がしないわ!」

「私も地図を最新化しておきました!先生の情報によると、ホシノ先輩はカイザーPMCの第51地区の中央倉庫にいるはずです。一番安全なルートを発見したので、案内します!」

 

対策委員会のみんなの元気な様子を見た弦太朗は自身もニコッと笑うと、笑顔を崩さないまま真剣な眼差しになり、高らかに叫ぶ。 

 

「じゃあ行くぜ!ホシノ救出作戦!開始だ!」

 

 

 

 

「……そうだったな。」

 

弦太朗が叫ぶのと同じタイミングで、柴関ラーメンの大将は呟いた。

もう便利屋も出発している。

 

「忘れてたよ、ダメになったんなら、またやり直せば良い。大事なのは、ラーメンを食べに来てくれるお客さんの方だ。」

「お客さんがいる限り、店は消えない。そういうもんだ。だから…」

「行ってこい、対策委員会。」 

まだ客がいない柴関ラーメンの屋台から、ひっそりと大将の応援が小さく木霊した。

 

 

 

 

 

「どいたどいたー!!」

「ん、対策委員会が通るよ。」

 

対策委員会はカイザーPMC兵を蹴散らしながら突撃していく。その破竹の勢いに逃げ出す者すら現れ、アビドス砂漠はパニックに陥っている。その勢いは、あの時の覆面水着団の時にも匹敵する。

 

 

 

「お、おのれ…!」

 

もちろんその様子を理事が見ていないはずもなく、対策委員会の映像を見て怒り、目が激しく発光する。

 

「兵力を結集して奴らを止めろ!北方の対デカグラマトン大隊もだ!」

「了解!」

「我々にここまでして、ただで済むと思うなよ…!」

 

理事はそう言って対策委員会たちが映っている画面を睨みつける。

しばらくその状態が続いていたが、理事は違和感に気付く。

想定通りなら追加兵力がもう到着しているはず。なのに、到着するどころか影すら見えない。対策委員会はどんどん侵攻してきている。

 

「一体どうなって……」

「北方に少数の兵を確認!援助隊と交戦しているのを確認しました!」

「む、北方だと?」

 

そこにいるのが追加兵力を足止めしている存在か。どんな輩か確認してやると言わんばかりに、理事はドシドシと北方エリアを映す画面に近付き、PMC兵を除けて確認する。

 

「あ、あれは…まさか……!?」

 

『敵の反応をキャッチしました。一個大隊の規模です、委員長。』

「分かった、準備して。」

 

理事が驚くのも無理はない。そこにいたのは、キヴォトスでも最強格の一角とされるゲヘナ風紀委員会の委員長とその幹部だったのだから。 

 

「はぁ…なんで私がここに……」

(イオリはともかく、なんで私まで…)

 

と、イオリが面倒くさそうに呟くと、横にいるチナツが釣られてため息を零す。

 

『まぁまぁ、せっかく委員長が反省文の代わりにと免除してくれたんですから、頑張りましょうね。』

「まだ風紀委員会の仕事も残ってるし、手早く片付けよう。」

「行くよ。誰一人としてここから先には通さない。」

 

ヒナはそう言うと、敵の軍勢を睨む。何人かの兵はそれだけで怖気づき、気絶していた。

そんな相手に、ヒナとイオリは容赦なく襲いかかり、蹴散らしていった。

 

 

 

 

 

「あぁもう、しつこい!」

「やっぱり数が多いです…!」

 

一方の対策委員会側は、ヒナたちが足止めしている方とは別の方角から波のように押し寄せてくるPMC兵相手に苦戦していた。全員に疲労の顔が見える。

体力が保たない。だが、ホシノがいる中央倉庫までもう少し…

弦太朗はフォーゼドライバーを取り出そうとする。

 

『使う度に削られていくはずです。貴方の時間が、生が。』

 

「……っ!」

 

だが、黒服のあの言葉がフラッシュバックし、変身を躊躇う。弦太朗にも戻る場所がある。

このまで来て間に合わないのか……と思ったときだった。

という大きな音が響いたかと思うと、大量のミサイルがPMC兵の大群に降り注いだ。

突然の爆撃に、PMC兵たちはパニックになり、対策委員会のみんなは呆然とする。

 

「支援射撃…?」

「L118……トリニティの牽引式榴弾砲です!一体どうして…?」

「トリニティが…?」

 

弦太朗もトリニティには行っていない。なら、この支援は、1人しかいないだろう。あの日、一緒にブラックマーケットを駆け抜けた…

「わ、私です…」

 

通信に、見覚えのある生徒の姿が映った。

 

「あっ!ヒフ──────!」

「い、いいえ!私はヒフミではなくファウストです!」

『……(汗)』

 

阿慈谷ヒフミ……もといファウストは身バレを防ぐために覆面水着団の覆面を被っていた。セリカが本名を言おうとしたところに慌てて言葉を被せる。最も、その中で自分の名前を言ってしまっているのだが…

 

「わぁ!ファウストさんお久しぶりです!自分で名前を言ってしまっていますが、そこはご愛嬌ということで☆」

「えっ?あっ!えっと…あうぅ……」

 

ノノミにツッコまれて、ヒフミはようやく自分の失言に気づく。覆面に隠れてよく見えないが、多分複雑な顔をしている。

 

「まぁ、なにはともあれ、助かった!ありがとな!」

「うん、すごく助かった。」

「ファウストちゃん!ありがとうございます!」

「はい、では皆さん…頑張ってください!」

 

ヒフミはそこまで言うと通信を切る。それと同時に、牽引式榴弾砲の第2砲が発射され始めた。

 

『アレのおかげで、PMC兵たちは私たちの相手をする余裕はないはずです!今のうちに進みましょう!』

「ええ!ヒフ……じゃなかった!ファウストがつくってくれた時間は絶対に無駄にはしないから!」

 

 

 

 

 

 

「ぐぬぬ…!ゲヘナに続きトリニティまで……!奴らの位置はどこだ!?」

 

理事は拳を握りしめ、怒鳴る。ゲヘナだけでなくトリニティまで敵に回ったことによるストレスと怒りが原因だろう。人間だったら禿げている。  

「現在南東2kmの位置を進んできております!」

「もうそんなところまで…!ならゴリアテを出せ!なんとしてでも止めろ!」

 

 

 

 

 

 

「!あれは……」

 

理事が指示を出したのとほぼ同時に、対策委員会の前に巨大な戦闘ロボと複数のPMC兵が出現した。これはゴリアテ。カイザーPMCが誇る強力な戦闘ロボだ。そのパワーは戦車の比ではない。PMC兵だけでなく、そのゴリアテが何台もあるのだ。

 

『来ます!!』

 

ゴリアテ軍団が対策委員会に襲いかかる。みんなは対抗するために構えを取る。

その時、どこからか銃弾がゴリアテに炸裂した。

ゴリアテはバランスを崩して倒れる。

「うわぁっ!?」

「また支援…?今度はどこから……?」

 

と、シロコは銃弾が飛んできた方向に目を向ける。

そこには、100に近い数の戦闘ドローンが浮いていた。シロコはその内の一機をまじまじと見る。

 

「あのロゴ…ミレニアム?」

「え?」

 

予想しない名前が上がり、弦太朗は素っ頓狂な声を上げる。ミレニアムには何も言っていないし、ヒフミのようにアビドスと綿密な関係を持っている者もいない。そんなミレニアムが何故支援をしてくれているのか……

 

「おい。」

「!」

 

考える中、ドローンがいる方から一人の声が響く。見ると、砂漠に四人の生徒が立っていた。見た感じメイド服を着用しているようだが、太陽に照らされて顔はよく見えない。

その四人の中の右中央にいる一番小さいスカジャンを羽織った生徒は対策委員会に向かって言う。

 

「ここはアタシたちが引き受けてやる。さっさと行きな。」

 

ドローン軍団はPMC兵を攻撃し続けている。それを見るに、味方ではありそうだが…

 

「なんだかよく分かりませんが、あちらに敵意はなさそうですよ?」

『なぜミレニアムが協力してくれるのかは分かりませんが…考えるのはあとです!先に進みましょう!』

 

ゴリアテ軍団はミレニアムによる謎の支援部隊に任せ、対策委員会はその場を後にした。

 

「さぁ、掃除を始めるぞ。」

 

先程の生徒はそう言い放つと、ゴリアテに飛びかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おのれぇっ!」

「理事!どちらへ!?」

 

理事は激怒した。ゲヘナ、トリニティに続いてミレニアムまでカイザーを攻撃し始めた。

理事は顔を歪める。

 

バチバチッ…

 

「!」

 

その時、理事の強い負のエネルギーとゾディアーツスイッチが共鳴した。

理事がスイッチを取り出すと、スイッチは変形した。だが、それはラストワンではない。それはかつてハルナが手にした、ホロスコープスの力だった。

理事の目が、サソリの針ように鋭く光った。

 

 

 

 

 

 

 

「…ここは……」

 

ゲヘナ、トリニティ、ミレニアム……数多の助けを受け、アビドス対策委員会はPMC基地の目と鼻の先まで来た。

そこは、近くに来たことはあるものの、来るのは初めての場所。

そこは、本来なら街だった場所。この砂の下には、かつてのアビドスが眠っているのだ。

そしてそこは……

 

「これ…学校……?」

『はい…この痕跡を見るに、おそらく学校かと……』

「砂漠の真ん中に学校…もしかしてここって…」

「お察しの通り、この下にあるのが本来のアビドス高等学校だ。捨てられて廃墟と化したここが、かつてのアビドスの中心だった。かつてキヴォトスでもっとも強大だった学校がこの下に埋まっている。」

 

そこは、アビドス高等学校の本館。それを宿敵、カイザーPMC理事が告げた。彼の周りにはPMC兵が護衛についている。そんな彼らを、対策委員会は睨みつけた。

 

「……!」

「……」

「あんたは……!!」

「ここまで来たか、対策委員会……」

 

理事はそう言ってみんなを見る。その態度は先程まで取り乱していた理事と同一人物かと疑うほど冷静だった。

 

「……ホシノ先輩はどこですか?」

「あの副生徒会長なら向こうの倉庫にいる。もうゲマトリアによる実験が始まっているかもしれないがな。」

「……っ!」

「行きたければ行くがいい。我々を振り切れるものならな。」

 

ホシノの身に危機が迫っていると知り、対策委員会は道を急ごうとするが、PMC兵たちが道を阻む。

 

『この数…PMCはここで総力戦に持ち込むつもりです!そう簡単に突破させてもらえはくれなさそうですね……』

「だったら…!」

 

弦太朗は一気に突破しようとフォーゼドライバーを取り出す。

だが、黒服の言葉が蘇り、弦太朗を躊躇わせる。

その時、轟音が響き、また爆発が起こった。 

 

「なに!?」

「また爆発!?今度は誰が…」

 

みんなが驚く中、爆炎の中に4つの影が見える。爆炎は四人を恐れるように二方向に別れる。

 

「はぁ…こっそり手助けしようと思ってたのに……」

「まーまーいいじゃん!やっほー!」

「はぁ…」

「お、お邪魔します…」

『便利屋の皆さん…!?』 

 

現れたのは、便利屋68の四人だった。部下3人の雰囲気は相変わらずだが、アルはいつものポンコツ社長ではなく、どこか威厳のある、堂々とした風靡をしている。そんなアルは真剣な目をし、対策委員会に言い放つ。

 

「何モタモタしてるの?ここは私たちに任せて、さっさと行きなさい!大切な人がすぐそこにいるんでしょう!?」

「!」

「!!」

「そうそう!はやくおじさんの人、助けに行きなって!」

「不本意ではあるけど、たくさんお世話になったから…」

「ここから先には1人も通しませんので…!」

 

便利屋は銃を構え、最初にPMCの前衛部隊を撃ち抜いた。その目はアウトローな殺戮集団とも、全てを撃ち抜く鷹の目をしているとも言える。

 

「お、お礼なんて言わないからねっ!」

「で、でも…全部終わったらその時は、柴関ラーメンに来てね!ご馳走するから!」

「はい!このご恩は必ず!」

「ん、ありがと。」

 

対策委員会のみんなは便利屋にお礼を言うと、その場から走り去る。

 

「先生!」

「アル…?」

 

みんなに続こうとする弦太朗を、アルが止めた。アルの言葉に反応し、弦太朗は振り返る。

アルは弦太朗を少々厳しい目で睨む。 

 

「仲間のためなら自分がどうなろうと迷わない…それが上に立つということよ。」

「…!」

 

アルから放たれたその言葉の意味を、弦太朗は考える。数秒で結論は出た。

弦太朗とアルには上に立つものという共通点があった。アルには見抜かれていたのだ。弦太朗になにかあったということを。

アルは弦太朗と同じ立場に立っていても、パニックにはなるかもしれないが、躊躇わなかっただろう。

弦太朗は忘れていたことをようやく思い出した。ダチを救うためなら迷わない…その心意気を。

 

「……アル、本当にありがとな。」

「……ふん、分かればいいのよ。」

 

アルはあえて弦太朗の顔は見ずにそう返した。そして、弦太朗の気配がなくなったところで、叫んだ。

「さぁ!始めるわよ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

『ホシノ先輩の位置が確認できました!あのバンカーの下です!!』

「急ぎましょう…!」

「うん、行こう。」

 

数々の助けを経て、とうとう対策委員会はホシノのすぐ近くまでやって来た。もうホシノは目と鼻の先。

だが、そんなみんなを最後まで阻む存在がいる。

 

「行かせはせん……!!」

 

カイザーPMCの理事である。身体中の金属を熱するほどの怒りが彼からは出ていた。

 

『カイザーの理事……!!』

「しつこい…!」

「あぁもう!どこまで邪魔をすれば気が済むのよ!!」

「どいてください!さもないと…!」

 

理事は便利屋との激戦の中、1人戦線を抜け、対策委員会を追ってきたのだ。理事を睨む対策委員会を前にした彼のその姿に冷静さなどなく、昨日の荒々しい性格になっている。それはまるで、暴走した機械のように。

 

「対策委員会…ずっとお前たちが目障りだった。だからこれまであらゆる手段を講じ、お前たちを苦しめ、学校から引き剥がそうとした……。」

「それでもお前たちは滅びかけの学校に最後まで残り、しつこく粘って、どうにか借金を返済しようとして!あれほど徹底的に懲らしめたのに、苦しめたのに、毎日毎日楽しそうに!!!」

「貴様らのせいで、私の計画は目茶苦茶だ!」 

 

理事は子供のように喚き、文句を言い、八つ当たりの如く怒鳴り散らす。そんな理事を、対策委員会は冷徹に睨む。

 

「ふん、あんたみたいな下劣で浅はかな奴が何をしても、私たちの心を折ることなんて出来ないわよ!!」

「ホシノ先輩を返してもらう。」

「あなたのような情けない大人には絶対に屈しません!」

『それに、私たちはもう5人だけじゃありません!トリニティの皆さんに、ゲヘナの風紀委員の皆さん、ミレニアムのお方、便利屋の皆さん…そして先生!頼れるお友達がいるんです!』

 

理事の歪んだ目とは真逆の、真っ直ぐな対策委員会のみんなの眼差しに、理事の怒りと、憎悪が最高潮に達する────────。

 

「貴様らァッ!どこまで私をコケにすれば気が済むのだッ!」

 

理事はそう言うと、ホロスコープススイッチを取り出した。ホロスコープススイッチは理事の負の感情に反応するように闇のコズミックエナジーを排出する。

 

「もういいッ!貴様ら全員葬り去ってくれる!!!」

 

理事はそう叫び、ホロスコープススイッチを押した。彼の巨体は闇のコズミックエナジーに包まれる。

彼が変化したのはアルターゾディアーツではない。細身となり、マントを羽織り、胴体には蠍座のコアが刻まれている。サソリのような獰猛な頭は見ただけで思わず縮こまってしまいそうだ。

 

「あいつは…!!」

 

現れたのは、蠍座の上級ゾディアーツ、スコーピオンゾディアーツ。ピスケスゾディアーツと並ぶ黄道十二星座、ホロスコープスの一人であり、かつての世界ではフォーゼが最初に戦ったホロスコープスだ。

 

「貴様らに引導を渡してやる!!!」 

 

スコーピオンは低く唸り、対策委員会のみんなに毒針を向ける。そんなスコーピオンの前に、弦太朗が立ちはだかる。

 

「俺はもう絶対に迷わねぇ…!生徒を!ダチを守るためなら、俺は戦い続けてやる!!」

「戯言を!!」

「戯言なんかじゃねぇってこと、お前に見せてやる!」

 

弦太朗は決意を叫び、フォーゼドライバーを装着する。また黒服の言葉が、頭に走る。だが、もう躊躇わない。この身をかけてみんなを守る…それが大人で、先生で、仮面ライダーとしての責任であると思い出したから。 

 

「変身!!」

 

弦太朗をコズミックエナジーのスモークが包む。

そして次に立っていたのは、右ストレートでスコーピオンゾディアーツを殴り飛ばす、仮面ライダーフォーゼの姿だった。

 

「仮面ライダーフォーゼ!タイマン…張らせてもらうぜ!」 

 

『エレキ!』

『エレキオン』

 

フォーゼは開始早々エレキステイツになり、ビリーザロッドでスコーピオンに斬りかかる。

スコーピオンはバク転で攻撃を交わしながら毒が籠もった足の針でフォーゼを攻撃する。生身ならばこの一撃で致死量の毒が入るのだが、フォーゼは保護システムで無事だ。尤も、頭の針を使われれば怪しいのだが…

 

『シールドオン』

 

フォーゼはシールドモジュールで毒針の攻撃を防ぐと、今度こそビリーザロッドによる攻撃を命中させた。

スコーピオンは反撃に、フォーゼの身体にも効く尻尾の毒を打ち込もうとする。だが、フォーゼはこれを身体を電気にさせて攻撃を躱し、一瞬でスコーピオンとの間合いに入り、ビリーザロッドで強烈な電撃を浴びせた。スコーピオンは地面を転がる。

 

「ガハッ…ゲホッ……!」

「見たか!これが仮面ライダーフォーゼだ!」

「流石先生です!」

「先生!そんな奴さっさと倒しちゃって!!」

「おう、これで最後だ。」

 

『リミットブレイク』

 

一刻も早くホシノを助ける。それが目的のフォーゼはセリカの言葉を聞き入れ、エレキスイッチをビリーザロッドに差し込む。

リミットブレイクを告げる音声はスコーピオンにとっては処刑の合図にも聞こえる。だが、スコーピオンは怯えていない。それどころか、より闘争心を燃やしている。

 

「舐めるなよ…!私の憎しみがこの程度のものだと思うな……!」

 

ビリーザロッドを構え、トドメを刺そうと向かってくるフォーゼを前に、スコーピオンはそう呻く。その時だった。

 

「!」

 

スコーピオンの身体から、白いエネルギーが出現した。そのエネルギーの量は凄まじく、エレキステイツすら凌ぐレベルに感じる。

 

「ほう…まだこんな力が残っていたか……」

 

追い詰められていたスコーピオンは躊躇いなくそのエネルギーを身体に取り込んだ。

すると、スコーピオンの身体が変化していく。肥大化した肉体が持つ大型の毒針に六本の大脚。それはもはや人型ではなく、巨大なサソリに近い。それは超新星と呼ばれる、ホロスコープスのみに許される究極体……その名を、スコーピオンノヴァ。 

 

「フンッ!」

「うわっ!?」

 

スコーピオンノヴァは肥大化したエネルギーを纏わせた巨大な尻尾でエレキステイツのリミットブレイクを発動前に弾き、フォーゼを吹っ飛ばす。

 

『先生…!』

「まだだ!」 

 

フォーゼはジェット噴射で飛び、上のスコーピオンの胴体を攻撃しようとする。だが、超新星によってスコーピオンのすべての力が上がっている。ビリーザロッドの攻撃は腕で防がれ、当たればダメージは受けるものの、決定打にはならない。

フォーゼは右脚の一撃で吹っ飛ばされる。更に攻撃を受けてエレキスイッチが外れ、エレキステイツが解除されてしまう。

 

「ぐっ…!」

「消えろ…!消えてしまえ!!」

 

スコーピオンはトドメを刺そうと、針のように尖った巨大な脚を振り上げ、フォーゼの心臓を貫こうとする。

 

「させない。」

「お仕置きですよ!」

「喰らいなさい!!」

 

その直前に、シロコの支援ドローンとノノミのガトリングガン、セリカのオーラが籠もった銃弾がスコーピオンの脚を攻撃した。スコーピオンの脚がズレ、フォーゼのすぐ横の砂を貫いた。

 

「面倒な真似を…!」

 

スコーピオンは自身を攻撃した対策委員会を睨む。対策委員会もまた怯まず、スコーピオンを睨む。

 

「みんな…!?」

「ん、先生は一旦下がって。」

「先生が回復するまでは私たちが!」

『先生はこちらで回復を!』

「目障りな奴らめ…!まずは貴様らからだ!」

 

キヴォトス人とは言え、生身の人間ではゾディアーツを相手にするのは少々厳しい。しかも、相手は上級ゾディアーツの進化体なのだ。

そんな相手にも対策委員会は果敢に挑みかかった。対策委員会として、先生一人に任せるなんて出来ないから、自分たちが助けられてきた分、今度は自分たちが先生を助ける番だと、その一心で戦った。

だが、やはり実力差は明確。3人ともボロボロにされた。アヤネは参戦できない状況に打ちひしがれた。

 

「まだ…まだ……!」

「こんなの、今までに比べれば…!」

「大したことなんてない…ですよ……!」 

 

それでも立ち上がる。それは一見、無意味な行動に思えた。しかし、それはフォーゼに…弦太朗に元気を与えた。

 

「うおおおおおおっ!オラァッ!」

「グオッ!?」

 

フォーゼは走り、スコーピオンを殴り倒した。フォーゼはボロボロの…だが勇ましい顔をしている対策委員会に向かって叫ぶ。

 

「みんなありがとな。おかげで元気が出てきたぜ!!」

 

フォーゼの元気な返事に、対策委員会のみんなもニコッと笑う。

それを見たスコーピオンは…理事は憎悪で更に心が歪む。

 

「またそうやって楽しそうに…!!ボロボロのくせに……!全員纏めて消え失せてしまえ!!」

 

スコーピオンがそう叫ぶと、奴の身体から暗黒のコズミックエナジーが大量放出される。これはもはやエネルギーの暴走と言ってもいい。

だが、そんな怪物を前にしても、誰も怯まない。一人ではないのだ。 

フォーゼはみんなの前に立ち、堂々とスコーピオンに言い放つ。

 

「嫌なこった!明日も学校だ!みんな一緒にな!」

「うん。」

「ええ!」

「はい☆」

『はい!』

 

フォーゼの力強い叫びに、対策委員会のみんなは力強く返事をする。みんなが発す迫力に、スコーピオンは押されていく。それはまるで、燃え盛る炎を前にした虫のように。

 

「!!!!!」

 

その時、空に炎が発生した。そしてその炎に、対策委員会のみんなから溢れ出した輝く神秘が集まっていく。

 

「えっ!?なっ、なにこれ!?」

『なんだかよくわかりませんが…これ…!』

「うん。すごく熱くて、力が出る。」

「うんうん!まるでヒーローにでもなった気分です!」

 

アビドスの四人の力……だけではない。奥の方から、もう一つの力が。方向的に間違いない、これは、小鳥遊ホシノの力だ。5人の力が、フォーゼの上にある炎に集約した。すると、炎は一段と燃え上がり、やがて形作ってフォーゼの手のひらに落ちた。

 

「これは…!」

 

フォーゼの手に握られていたのは、20番のスイッチ、ファイヤースイッチだ。ファイヤースイッチは対策委員たちの思いに共鳴するように凄まじく光る。

 

「グワアァッ…!?」

 

それは、攻撃を仕掛けようとしていたスコーピオンノヴァを吹き飛ばすほどに。

 

「よし…行くぜ!!」

 

『ファイヤー!』

 

フォーゼはファイヤースイッチから来る想いを受け止め、ファイヤースイッチをフォーゼドライバーに装填する。

 

「みんなの熱い想い…受け取ったぜ!!!!」 

 

『ファイヤーオン』

 

音声が響き、フォーゼの身体を炎が包む。そして炎がフォーゼに収束し、フォーゼの姿は豪炎のように赤い、炎を身に纏う戦士、ファイヤーステイツになっていた。

その手に持っているのは、火炎放射器にも、消化器にもなるファイヤーステイツの専用武器、ヒーハックガン。

 

「!!」

「身体が…赤く……?」

 

「その程度で、この私を倒せると思ったか───!!」

 

スコーピオンは身体中から火炎を射出し、フォーゼに撃ち込む。これがベースステイツやエレキステイツなら、これで変身が解除されていただろう。 

 

「……」

「!!」

「なに!?」

 

だが、ファイヤーステイツとなった今なら違う。火炎はファイヤースイッチに吸収された。これがファイヤーステイツの能力。ファイヤーステイツの前に、炎系の攻撃はすべて無効だ。

 

「へっ、なんだそりゃ!」

 

フォーゼはスコーピオンの攻撃を笑い飛ばし、お返しとばかりにトリガーを引き、火炎を撃ち込む。

その威力はエレキステイツより高い。これまで防御されればダメージが通っていなかったスコーピオンが怯む。

 

『!攻撃が効いてます!!』

「まだまだいくぜ!」

 

次にフォーゼはジェット噴射でスコーピオンの胴体まで接近すると、スコーピオンを思い切り殴る。

すると、フォーゼの身体は炎を纏い、殴り、蹴る度にスコーピオンの身体が燃えた。

エレキステイツがスピードなら、ファイヤーステイツはパワー。今のフォーゼのファイヤーステイツは、身体中から炎の噴射が可能だ。

スコーピオンは反撃に脚と尻尾でフォーゼを殴ろうとするが、尻尾は火炎弾で防ぎ、脚はヒーハックガンで受け止めた。そしてスコーピオンの体から離れるときに、置き土産と言わんばかりに、炎をまとわせた右足でスコーピオンの胴体を回し蹴り。スコーピオンは地面に倒れた。

 

「これでも喰らいやがれ!!」

 

フォーゼは炎をエネルギーをヒーハックガンに集中させ、トリガーを引く。すると、赤く光るヒーハックガンからとてつもない威力の火炎弾が放たれ、炎がスコーピオンを空中に打ち上げた。

 

「ば、バカな……!?」

 

ファイヤーステイツになった瞬間自分を圧倒するフォーゼに、スコーピオンは驚きを隠せない。だが、これは単純な話。人々からの応援を受ければ受けるほど、仮面ライダーは強くなる。対策委員会のみんなの熱い応援がある今、フォーゼが一人で戦う理事に負けるはずがない。更に、弦太朗はずっと走ってきたことや連戦なのが祟り、体力が少なかったが、みんなのエナジーでその問題も解消された今、もうスコーピオンなど敵ではない。

 

「これで決める…ダチの熱さを思い知れ!」

 

フォーゼはそう叫ぶと、ファイヤースイッチをヒーハックガンに装填する。  

 

『リミットブレイク!』

 

フォーゼの熱い感情に共鳴するかのように、ヒーハックガンは赤く輝く。

その輝きに、フォーゼを囲っていたオーラと、ファイヤーエネルギーが吸い込まれる。

 

「ライダー爆熱シュート!!!!」

 

フォーゼがトリガーを引くと、一瞬だけ光が走り、フォーゼの周囲が灼熱の青い炎と同じくらい暑くなった。

それは火炎弾などという規模のものではない。炎の波だ。

波を形作った炎がスコーピオンに向かっていき、スコーピオンはそれを全身で受ける。

 

「ぐっ…こんなもの……!」

「こんなものがッ……!」

「うおおおおおおおおおっ!!!!」

『先生!!』

「先生頑張って!!っていうか、私たちの力使って、負けるなんて許さないから!」

「負けないでください!!」

「先生……!!!」

 

スコーピオンの必死の抵抗は意味を為さない。皆の応援によって力を増した炎がスコーピオンの身体が瞬く間に燃えていく。

「こんなものが……こんな………ぐわあぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

スコーピオンはなすすべなく炎に飲まれ、爆発した。

 

「決まったぜ。」

 

 

 

 

「ガハァッ!?」

 

フォーゼに倒されて変身が解かれた理事は地面に落ちる。下が砂漠であったことと鋼鉄の身体が幸いし、無事ではあったが、体の節々が故障しており、自動復旧には時間がかかりそうだ。

 

「……」

「如月弦太朗…!よくも…よくも……!!」

「お前にトドメを刺すのは俺じゃねぇ。」

「なんだと……!?」

 

弦太朗のその言葉に理事は戸惑うが、弦太朗は真意を答えることなく去っていった。数秒後、理事は弦太朗の言葉の意味を絶望を以て知ることになる。

 

「やっとあんたに一発かませるわね…!!」

「……!?」

 

彼の前に、対策委員会の三人が並ぶ。それだけではない。弦太朗が手配したヘリコプターに乗ってきたアヤネまでいる。

みんなは怒りに満ちた顔で理事を睨み、銃を構える。理事の目の光はどんどん小さくなる。それは怯えだ。

 

「待っ─────!」

 

命乞いをする暇など与えられず、理事に無数の銃弾が炸裂した。断末魔すら銃声に掻き消され、理事は砂漠の真ん中、自分が建てた施設の前で気を失うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

全員がその場から去ったあと、黒服が来て、神妙な顔で理事の近くに転がっているスイッチを回収した。

 

「ふむ…スイッチに関しては、もっと研究を進めるべきですね。」

 

黒服はそう呟くと、歩き出し、アビドスから去っていった。

 

 

 

 

 

  

 

 

ホシノは思い出していた。ずっと目を背けていたもう戻ることも、会うことも出来ない。そんな人との思い出。

 

 

 

『ねぇ、ホシノちゃん。私ね、ホシノちゃんと初めて会った時、これは夢なんじゃないかなって思って、何度も頬をつねったの。ホシノちゃんみたいな可愛くて強くて、頼れる後輩がそばにいてくれるなんていう夢みたいなことが、本当に嬉しくて…。』

『うーん、うまく説明できてないかもしれないけど……。ただ、こうしてホシノちゃんと一緒にいられることが、私にとっては奇跡みたいなものなの。』

『毎日毎日、こうして一緒にいるじゃないですか。昨日も今日も、明日もそうです。こんな当たり前のことで、何を大袈裟なことを。』

『はぅ…だって……』

『奇跡、というのはもっとすごくて、珍しいもののことですよ』

『……ううん。ホシノちゃん。私は、そうは思わないよ。』

『ねぇ、ホシノちゃん。いつかホシノちゃんにも可愛い後輩ができたら、その時は────』

 

 

 

 

「……」

 

約束は、守れなかった。もうすぐ実験が始まる。もうアビドスは壊滅状態で、みんなは追い出されて退学……

実験を受けたら自分が自分でなくなるかもしれない。 

そんな状況でホシノは───────

 

「先輩はこの中にいるはずです!」

「ん、壊れない…もう一回……!」

「あぁもうなんでこんな硬いのよ!?」

「開きません…!」

「めんどくさい!こうなったら体当たりよ!みんなどいて!」

 

微かに耳に声が聞こえた。ホシノはそれが誰の声か最初は分からなかった。だが、安心できる、好きな声であることは理解できた。

それを皮切りに、誰の声かが分かってきた。止まりかけていた思考が動き出す。同時に、身体が自由になる。

 

(一体、何が…)

(身体が自由に…夢……?)

(みんなの声が聞こえたし、夢か…)

(最後の最後に夢で会うなんて…)

(声…夢でもいいから、最後にもう一度だけ……)

 

みんなとの新しい思い出……脳裏に浮かぶたびに泣きそうになる。そんなかけがえのないみんなと、夢でもいいから最後に会いたい。

そんな想いで、ホシノは歩を進める。

同時に、外を閉ざしていたシャッターが開いた。外から白くて眩しい光が入り込んでくる。その光にホシノは思わず目を瞑り、尻餅をついてしまう。

そんなホシノに、また声が聞こえた。

 

「ホシノ先輩!!!!」

「え…?」

 

尻餅をついた時、痛かった。だから、これは夢ではなく、現実だ。現実のホシノの耳に、大好きなみんなの声が届いた。ホシノはゆっくり目を開ける。

もう会えない、会ったとしても敵として会うことになる……そう思っていた。

でも、違った。ホシノの前には、優しくて暖かい、みんなの顔があった。

 

「あ、あれ…どうやって……」

「どうして…だって私は……」

 

ホシノは戸惑う。もしかしたら助けに来るかもしれないとは思っていた。でも、本当に来て、しかもカイザーPMCを退けてしまうだなんて……

 

「ホシノ。」

 

呼ばれ、ホシノは振り返る。そこには、ドライバーを付けた弦太朗がいた。見れば弦太朗は砂まみれの傷だらけ。他のみんなもそう。しかし、みんな、満足そうな顔をしている。

 

「そっか、先生が、みんなが……大人が…ね、ふふっ……」

 

ホシノは理解した。弦太朗が、対策委員会のみんなが、危機を乗り越え、カイザーを退け、みんなで頑張って自分を助けてくれたのだと。

ずっと、大人を信用せずに生きてきた。しかし今、目の前にいるのは子供のために全力で走り、戦った大人である。そんな弦太朗を見て、ホシノは思わず笑みがこぼれる。

ホシノは弦太朗の手を取り、立ち上がる。そして、今度こそ彼と友情のシルシを交わした。

 

「これでホシノともダチだな!」

「うへへ…こういうのもありかもね。」

「…お、おかえりっ!先輩!」

「ああっ、セリカちゃんに先を越されてしまいました!恥ずかしいから言わないって言ってたのに、ズルいです!」

「う、うるさいうるさい!順番なんてどうでもいいでしょ!」

「無事で良かった。」

 

相変わらずツンデレなセリカ、をからかうノノミ、感情をあまり表に出さないシロコ、あははと笑うアヤネ…いつもと変わらないメンバーに、ホシノはまた笑みがあふれる。

 

「ホシノ先輩、おかえりなさい!!」

「おかえりなさい、です!!」

「ホシノ先輩、おかえり。」

「おかえり、ホシノ。」

 

セリカに続き、アヤネ、ノノミ、シロコ、弦太朗もおかえりの一言をホシノに届ける。ホシノは笑いながら、みんなの表情に気づく。 

 

「なんだか期待に満ちた顔をしてるけど、求められてるのはあのセリフ?」

「ああもう!分かってるなら焦らさないでよ!!」

「うへ~…」

「全く、可愛い後輩たちのお願いだし、仕方ないなあ…」

 

今、このアビドス砂漠には色んな人がいる。

どうにか身体の調整を整えて逃亡する理事。

アビドスから消えるように去っていく黒服。

カッコつけたのはいいものの、敵が結構しぶとくて全員ボロボロになりながらもなんとか勝利を収めた便利屋68。

難なくゴリアテ軍団とPMCの部隊を全部倒したミレニアムのドローン軍団とメイド服姿の四人組。

同じく簡単にPMCの部隊を壊滅させたヒナとイオリとチナツ。

牽引式榴弾砲でPMCを大混乱に追いやったヒフミ率いるトリニティの部隊。

激戦の末に大切な人を助けられたアビドス廃校対策委員会とシャーレの先生、如月弦太朗。

そして、助けられた小鳥遊ホシノ。

そんな様々な思いが渦巻く砂漠で、一人の少女の、純粋で、暖かい言葉が響いた。

 

「ただいま」

 

 

 

 

 

 

 

数日後、弦太朗はシャーレのオフィスで仕事をしていた。アビドスの問題はひとまずこれで踏ん切りがついたということで、次の仕事に移っているのだ。

だが、デスクワークは辛い。弦太朗は書類とのにらめっこに疲れ、机に突っ伏した。

不意に、シッテムの箱が起動する。

 

『先生先生!』

「?どうした?」

『アビドスのアヤネさんからメッセージ動画が来てますよ!』

「!本当か!?」

『はい!開きますね!!』

 

 

 

アロナがメッセージを立ち上げると、元気な顔をしたアヤネのホログラムが現れる。

 

『こんにちは、先生!』

『アビドス対策委員会は今日もまた、慌ただしいです。あの後、対策委員会は先生の公的な認証によって、アビドス高等学校の正式な委員会として承認されました。非公認だったせいで酷い目にあったという部分も大きいので、一安心です。』

『お陰様で対策委員会は、正式にアビドス生徒会としての役割も担う事になりました。個人的にはホシノ先輩に生徒会長になって頂きたかったのですが、断固として拒否されてしまいまして…新しい生徒会長はまだ決まっていません。』

 

アヤネからの近況報告だった。生徒会長は決まっていないが、生徒会ならできた。これならアビドスの運用もだいぶ楽になるだろうし、もう悪い大人に利用されることもないだろう。そこは安心ポイントだ。

 

『柴関ラーメンは屋台として営業を再開しました。』

『大将もまたやる気を取り戻して、セリカちゃんもバイトが出来ています。お客さんもきてくれているようで良かったです。時々アビドスから出ていった便利屋の皆さんも来ているらしいですよ。』

 

あの後、有名なラーメンブロガーによって柴関ラーメンの味が高評価で拡散されたらしく、店が繁盛しだしたとのこと。これなら、店を構え戻せるのも時間の問題であろう。もう便利屋68という名の団体常連客がいるのだから。

まぁ、本人たちが納得しているかはさておき。

 

『先生のおかげでホシノ先輩の件は解決しましたが、アビドスの借金は相変わらず9億円のままです。これは最初とあまり変わらないのですが……』

『変わったことといえば、カイザーローンはブラックマーケットでの不法な金融取引がバレて、連邦生徒会の捜査が入るとのことでした。ヒフミさんの報告を受けて、トリニティが手を回してくれたのでしょうか…?』

『あ、連邦生徒会といえば、代行が手を回してくれたらしく、アビドスは今後、不定期ではありますが、弾薬や医療品などの補給物資をもらえるらしいです。今まで連邦生徒会に対しては疑心暗鬼だった私たちですが、これで少しは信頼できそうです。』

 

弦太朗は今度リンにお礼を言いに行こうと決めた。弦太朗は対策委員会の顧問だし、生徒を助けるよう手回ししてくれたら感謝するしかない。

無機質で感情を表に出さないリンだが、しっかりとみんなを見ているのだと、弦太朗は思った。

 

『カイザーコーポレーションの理事はあの後、生徒誘拐事件の主な容疑者として指名手配されているそうです。まぁ、連邦生徒会がまともに機能していない今、そう簡単には捕まらなさそうですが……』

『カイザーコーポレーションは自分たちとは関係ないと主張するために、即日に解雇しただとか…大人って怖いですね……。あ、いや、先生のことは言ってないですよ!?』

 

と、慌てて訂正に入るアヤネ。時々抜けてるところがあるのもアヤネらしい。

 

『それから、無理に引き上げられていた利子についても問題として挙がって、最終的には以前より遥かに少ない利子の支払いで済む形になりました。』

 

『ただ、アビドス自治区については、相変わらずカイザーコーポレーションが保有したままで……アビドスとカイザーの取引自体は違法ではなかったので、ひとまずは仕方ないですね…』

『結局、カイザーコーポレーションがあの砂漠で何を企んでいたのかは、分かりませんでした。宝物を探している…というのが本当なのか嘘なのか……ともかく、まだ警戒の芽を緩めるべきではありませんね。』

『……それから、黒服という人について。先生とホシノ先輩からの情報を元に、色々調べてみたのですが、これといった情報は何も出てきませんでした…全ての罪がカイザー理事に被せられていたようでして、黒服の本当の名前も、正体もわからず…後は、シャーレにお任せとさせていただくことになりそうです。』

 

黒服……「私たち」と言っていた辺り、多分ゲマトリアとは組織の名前で、他にも仲間がいるのだろう。もしかしたら、これから先、戦うことがあるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

「……それでは、アビドス廃校対策委員会の定例会議を始めます!色々ありましたが、まだ借金がなくなったわけではありません!」

「でも、一月の利子は大分減った。」

「そうだね~、休憩も大事だし、たまにはの~んびりお昼寝でもしようよ〜。」

「うんうん!最近忙しかったですし、のんびりするのは大賛成です☆」

 

アヤネが会議を始めると、早々にホシノとノノミがのんびり顔でのほほんとしたことを言う。いつものことだ。

 

「何言ってるの!これでもまだギリギリなんだから気を抜かずに頑張らないと!!ほらこれ見て!このグラフィックボードで仮想通貨を…」

「……って何…?なんでそんな生暖かい目で見てくるの!?」

「セリカの詐欺話はさておき、もっといい話がある。これ見て。この経路から建物に侵入すると─────」

「どっちも却下〜。」

 

そんなのんびり屋二人をセリカが叱り、また詐欺師騙されて紹介された詐欺話をしだす。叱られるのはお前だと言わんばかりにシロコがセリカの話を遮り、もっと叱られるのはお前だ案件の強盗の話をしだし、2人揃ってホシノに却下される。

これもいつものことだ。

 

 

 

 

『対策委員会は相変わらずこんな感じです。』

『何も変わらないいつもの感じに戻ってしまいましたが、でも、本当に良かったです。』

 

そういうアヤネの顔はとても満足げだった。みんながいるありふれた日常というものは、とてもありがたいものである。

 

『現状の報告はこんなところです。では、今後もよろしくお願いしますね、先生!』

 

対策委員会……それは、固い絆で結ばれた小さな学校の5人組。5人揃ってこその対策委員会であり、5人いればどんな壁も越えていける。そして、対策委員会と如月弦太朗もまた、強い絆で結ばれている。だから会うことは少なくても、心は繋がっている。

そんなみんなの日常が、今日もまた始まるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ふふっ…」

 

ミレニアムのとある一室で、車椅子に乗った白髪の少女がパソコンを見ていた。

耳に携帯を当てており、どうやら誰かと通話をしているようだ。

 

『あぁ、砂漠にいたカイザーとかいうのはぶっ潰した。後のことは知らねぇけど、アビドス?の奴らがどうにかしたんじゃねぇか?』

「ええ、感謝します。アビドス砂漠の調査において、カイザーは邪魔でしたので、追い出す大義名分ができて助かりました。」

『にしても、アンタと会長が組むなんてどういう風の吹き回しだ?』

「…まぁ、私としても不本意だったのですが…」

『ま、アンタらがどういう関係でもアタシには関係ねぇ。アタシらの仕事を増やさねえ程度に勝手にやりな。』

 

そこで、通話相手が通話を切った。口調から察するに、通話相手は対策委員会の助太刀をしたスカジャンメイド服姿の生徒だろう。

白髪の少女はパソコンに向き合う。パソコンには、砂漠の奥の方のデータ、蛇のような機械生命体についてのデータに加え、シャーレの先生、如月弦太朗についての情報がびっしりと並んでいた。

 

「…リオとの協力は不本意でしたが、取れたデータ自体は面白いものですね。シャーレの先生…彼ならこの調査に協力してくれそうです。かなりの戦力にもなりそうですし。」

「えぇ、問題ありません。この超天才清楚系病弱美少女ハッカーが必ず突き止めてあげますよ。」

「…デカグラマトン。」

 

一人しかいない、少し暗い部屋に、彼女の声だけが響いた。

 

               対策委員会編二章 完




対策委員会編、楽しんでいただけましたか?
さて、アンケート結果と例のタイトル発表!…の前に、今回の黒服との対話で出てきた「如月弦太朗の中の神秘」について。「そんな設定どこから出てきたんだコノヤロー」と思われている方もいると思いますので、補足をさせていただきます。
これは仮面ライダージオウ超全集の「仮面ライダーは各世界の軸になる存在であり、その源であるライダーの力は変身者が潜在的に持っている神秘の力である」という設定を使っています。どうにかフォーゼドライバーに大人のカードっぽいけどベクトルは違うデメリットをつけれないかと考えてたんですけど、これはもうジオウに感謝ですよ。


さて、それではいよいよ、アンケートの結果にいきましょう!
投票総数はなんと138票!50票くらいで終わると思っていただけに嬉しい限りですよ!
さて、肝心の結果は……

仮面ライダーオーズ   77票
仮面ライダーディケイド 61票

16票差で仮面ライダーオーズに決定という結果となりました!投票していただいた皆様、本当にありがとうございました!


そして、このアンケート結果、冬映画(的なもの)のタイトルは…

【仮面ライダー×仮面ライダー オーズ&フォーゼ MOVIEデカグラマトン】
とします!パヴァーヌ編1章の終了から少し経った後くらいを目安に投稿しますので、よろしくお願いします!

冬映画的な番外編でクロスオーバーしてほしい仮面ライダーはどちら?

  • 仮面ライダーディケイド
  • 仮面ライダーオーズ
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