コズミックアーカイブ(仮面ライダーフォーゼ×ブルーアーカイブ)   作:炙り中トロ

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3ヶ月もの間失踪してしまって本当にすみません!!
久しぶりの投稿ですがお願いします!!
それとタイトル変わりました

   



※少し内容に改変あり


第16話 狂・狐・狂・愛

「如月弦太朗先生…あなたは一体、なんなのでしょうか…?」

 

キヴォトスのどこかで、狐の面を被った生徒が静かに呟いた。着物風の制服を纏い、すぐ横には先端に刃が着いた銃が立て掛けられてある。

────狐坂ワカモ。弦太朗がキヴォトスで最初に戦ったゾディアーツに変身していた生徒だ。あの日、シャーレから逃亡して以来、彼女はずっとこの場所で身を潜め続けている。決して今になって様々な生徒と敵対することにビビってしまったわけではない。というのも、数日前から…正確には赴任した弦太朗と戦ったあの日からワカモの中に胸がドキドキと高鳴るような熱い感情が芽生えだしているのだ。彼のことを思い出すたびに湧き出る初めての感情…ワカモにはそれが何であるか分からない。

 

「やはり、ここは確かめる必要がありそうですね。」

 

分からない感情の正体が気になって気になって仕方がないワカモ。遂にその正体を探る決心がついたらしく、立てかけてある愛銃を手に持った。丁寧に手入れをされた先端の刃が鋭く光る。それに負けないほどに、ワカモの狐の面の奥の瞳がギラリと輝いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャーレは今、匆々たる空気に包まれていた。聞こえてくるのはカタカタとパソコンのキーボードを打つ音のみ。───弦太朗は凄まじい仕事量に忙殺されていた。

 

「仕事が追いつかねぇ…」

 

その理由は今まさに弦太朗が語ったように、いくら頑張っても仕事が減る速度が増える速度に追いつかないのだ。アビドスの一件から百鬼夜行…様々な学園の援助……様々な場所に行ったり来たり……更には書類の仕事まで…どうやるかは自由なのだから緊急性が低いものは後に回しても良いのだが、結局いつかはやることになる。あまりの仕事量の膨大さに今日は連邦生徒会から財務室長の扇喜アオイが派遣されてきているのだ。

 

「はぁ…リン先輩からは自由にやっていいと言われているみたいだけど、まさかこんなに溜め込むだなんて…もう少し計画的にやるべきだと思うわ。」

「面目ねぇ…」

 

連邦生徒会の財務室長というだけあり、決算関連の仕事がとても早いアオイ。それ以外の仕事も並み以上にこなせるため、仕事の減りは弦太朗の数倍速い。弦太朗は次々とタスクをこなしていくアオイを驚きと感心の目で見ながら自分の仕事をせっせと進めていく。

 

「キツイけど終わらす!2人でこの架橋を乗り越えて、ダチになろうぜ!!」

「聞いてはいたけど、先生は本当に熱くてポジティブな人なのね。悪い気はしないけれど。…とにかく、そうなりたいなら早く進めるわよ。」

「おうよ!」

 

二人はその会話だけ済ませると、黙々とした作業に戻る。二人共手早く正確に仕事をしていく。この調子なら夕方には終わりそうだが……

 

ジリリリリリリ…

 

そう簡単にはいかなかった。突然シャーレの固定電話から着信が響いた。弦太朗は「なんだ?」と思いつつもおもむろに受話器を手にとって耳に当てる。

 

「もしもし?」

「…先生、少しお時間よろしいですか?」

「その声って……リンちゃん?」

「リンちゃん呼びは…いえ、今は目を瞑ります。」

 

電話をかけてきたのはリンであった。普段から忙しい彼女がこうやって電話をかけてくることは滅多にないのだが…。その声音を伺うに少し動揺していることが感じられる。どうやら何かただならぬ事が起きたようだ。

 

「先生が初めてキヴォトスに来た日に戦ったゾディアーツのことを覚えていますか?」

「え?あぁ、オリオンか。それがどうかしたのか?」

「ここ数日であの時のゾディアーツのスイッチャー……指名手配犯の狐坂ワカモの目撃情報がシャーレの付近で相次いでいます。」

「どうかシャーレの力で、ワカモ逮捕に貢献してはくれませんでしょうか?その間の仕事はこちらが引き受けますので。」

 

二度耳を疑った。連邦生徒会がシャーレの仕事を引き受けることが一つ。もう一つは、狐坂ワカモがまだ捕まっていないこと、だ。決して各学園の自治やヴァルキューレを糾弾しているわけではない。アレだけ優秀な連中から未だに逃げ回っているワカモの底知れなさに絶句し、耳を疑ったのだ。

……何にせよ、確かにここまで強大で凶悪な生徒がいるとなると、確かにシャーレの出番かもしれない。

 

「本来ならこちら側で解決するべきことなのですが……以前ワカモを捕らえた組織が今は少々面倒…いえ、動けない状態となっていまして…」

「よし、分かった。俺に任せろ。」

「感謝します。ワカモの詳しい姿は追って連絡しますので。」

 

リンは用件を伝え終えるとピッと電話を切った。弦太朗は一息つくと、気合を入れて立ち上がる。少し驚いて彼を見上げるアオイに、弦太朗は一言。

 

「わり。ちょっと急ぎの用事ができちまった。」

「…分かったわ。リン先輩辺りからなにか頼まれたんでしょう?ここは私が片付けておくわ。」

「頼む。ごめんな。」

「別にいいけれど、なるべく早く戻ってきてちょうだいね。」

「おう。」

 

アオイに見送られ、弦太朗はシャーレを出た。

 

 

 

 

 

 

出たはいいものの、シャーレの周りは入り組んでいて広さもある。なんの手がかりもなしに探すのは至難の業だ。しかし、そこは連邦生徒会。リンが言ったように、しっかりと弦太朗の携帯にワカモの写真が送られてきていた……のだが………

 

「!こいつは…」

 

その生徒には見覚えがあった。弦太朗がシッテムの箱を起動するためにシャーレの地下まで行った時……

 

 

 

 

『あら、あららら……』

『あ、ああ……///』

『し、失礼いたしましたー!!』

 

 

 

「あの時の!!」

 

また驚いた。連邦生徒会を始めとして様々な組織や学校の警戒対象に入っているワカモがどんな人物かと思えば、まさかシャーレで遭遇していたとは……

あの時は何故か逃げていったが、もしあそこで襲われていたら、如月弦太朗二回目の青春はそこで終了していたことになる。そう考えると身震いしそうだ。

 

「そんな悪い奴には見えなかったけど、どこにいるんだ…?」

 

と、ワカモを探して周りをキョロキョロと見回していると、弦太朗の背中と誰かの背中同士が当たってしまった。ベチャッと何かが地面に落ちる音がする。

 

「ちょっとちょっとぉ!」

「今当たったせいで姐さんのアイスが落ちちまったじゃねぇかよ!?」

 

当たったのはここら付近に遊びに来ていたヘルメット団二人だった。その手にはアイスが入っていないコーンを持っており、足元には無残にも落ちて溶け始めたバニラアイスが落ちていた。

 

「あぁ…すまん!」

「すまんで済めばヴァルキューレはいらねぇんだよ!この春限定ギガジャンボミックスアイス 季節のフルーツを添えて…を弁償してもらわねぇとなぁ?」

「お、おう…悪かった…」

 

地面に落ちたアイスと後ろの店の看板のメニューにある春限定ギガジャンボ(以下略)を見比べると、あまりにも写真と実物に差がありすぎる。おそらく彼女が買ったのは何でもないただのバニラアイスだろう。そこは異を唱えたいところではあるが、弦太朗がぶつかったせいでアイスが落ちたことは事実。素直にカバンを漁って財布を探すのだが……

その瞬間に明らかにヘルメット団二人を狙った爆発が起きた。

 

「「ぐはっ!?」」

 

地面を抉り取るほどの爆発。ヘルメット団二人を気絶させるには十分すぎる威力だ。地面に倒れる二人を見て、焦りと心配が弦太朗を板挟みにする。

 

「お、おい!大丈夫か!?」

 

微かに心配が勝ち、二人の無事を確認しようと………したその時。

 

「……!!」

 

連続して銃弾が弦太朗の足元をかすめた。周りを見回してもどこから誰が撃ってきているか分からない。かなりの手練れだ。

分かっていることはただ一つ。

 

「狙いは俺か…!」

 

今の射撃…ヘルメット団二人に触らせまいとしたのか、弦太朗の心臓を狙ったのかは定かではないが、少なくとも救世主などではなさそうだ。

弦太朗は近くの建物の陰に隠れて、ある物を探して首を回す。ここはまだシャーレのオフィスに近い場所。ということは駐車場には……

 

「あった!!」

 

幸い駐車場までの距離はかなり近かった。弦太朗は素早くマシンマッシグラーに跨ると、エンジンを入れて、走り出した。銃弾と爆弾の雨あられが弦太朗を襲う。横から、上から、攻撃が弦太朗を襲う。しかし、何故かそれに明確な殺意は感じられなかった。誘導ともまた違う、まるで避けられるかを試されているかのような…。だが、そんなことを気にしてはいられない。少しでも油断したら蜂の巣になる。弦太朗はマシンマッシグラーのスピードを速めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここならなんとか……」

 

結局、夕方になるまでずっとマシンマッシグラーで走っていた。謎の爆発は様々な人を犠牲にした。作業員、通行人、不良……数多の人物があの爆発の犠牲となった。

どれだけの距離を走ったかも、この橋の上がどこなのかも分からない。携帯を見てみると、通知と着信で埋まっていた。

帰ってからアオイに何を言われるか、かなり怖いが、今大事なのは自分を攻撃した者が近くにいないかだ。

周りを見る感じ大丈夫そうだが……

 

「フフッ…やっと邪魔者が全員ご退場しましたね。」

「…!!」

 

不意にどこからか声がした……かと思うと、上の方にあるもう一つの橋から一人の生徒が飛び降りてきた。

その生徒の着ている百鬼夜行の着物を思わせる服…狐の面…刃物が付いた銃…10mはある高さから綺麗に飛び降りることができるその身体能力……間違いない。狐坂ワカモだ。

 

「シャーレでお会いして以来ですね、先生?」

「ワカモ…!あの爆発はお前の仕業か!?」

「ご名等。全ては先生と二人きりになるために行ったことです。」

 

爆発の犯人はお前か、という弦太朗の問いにワカモは悪びれる気など一切感じさせずに肯定した。流石は学生でありながらキヴォトス全体を脅かしていた指名手配犯といったところか。しかし、まだ疑問は残る。

 

「なんでそんなことを…?」

「理由は単純なこと。私の中にある疑問を解消させるためです。」

「疑問…?」

「ええ。あなたと戦い、そしてあの場で会った時から、ずっと私の胸の中で何かが熱くなり、高鳴っているのです。その正体、先生ならわかるのでは?」

「……」

 

全く分からなかった。いくら弦太朗といえど、生徒の心の中までは分からない。ましてや、ワカモのはまだ関わりが少ない。テキトーに返すわけにもいかず、言葉に詰まりそうになる。

だが、一つだけ言わなければならないことがある。

 

「ワカモ…お前はそれを知るためにあんな爆発騒ぎを起こしたのか?」

「…?ええ。そうですが?」

「ワカモ。」

「ひゃっ…!?」

 

先ほどと変わらず悪びれる様子がないワカモ。流石に看過できない。弦太朗は真っ直ぐとした目線をワカモの向ける。それを直視したワカモは思わず動揺し、後ずさる。

 

「分かんない事があって俺に聞いてくれるのは嬉しいけど、このやり方はやっちゃダメだ。」

「…え?」

「聞きたいなら、いつでも直接俺に来い。他のやつに迷惑をかけちゃダメだ。」

「で、ですが……」

「そこはお前自身が頑張んなきゃいけないとこだぞ。」

 

弦太朗が始めたのは説教であった。こんな爆発騒ぎを起こし、弦太朗に限らずいろんな人に迷惑をかけたワカモへの説教。

最初は驚いて話を聞くワカモだったが、いずれその目からは涙が溢れ、体は震える。

 

「き、嫌わないでください!」

「え?」

「お願いですから嫌わないでください!先生に嫌われたら私は…!!」

 

弦太朗は動揺が隠せなかった。あれだけ冷酷な軍曹のように受け答えをしていたワカモが突然、赤子のように泣き出した。 

そして、ワカモは泣きながら思っていた。

 

──なぜ私はこんなにも必死に謝っているのだろう?──

 

その答えを考えるために脳が働くよりも前に、弦太朗がワカモに声を掛ける。

 

「…大丈夫か?」

「…はっ!!申し訳ありません、私としたことが取り乱しました。お気になさらず。」

「……なぁ。」

「…?なにか?」

「ワカモはさ、誰かと二人っきりで話したいみたいな時って、ずっとこういうやり方をしてきたのか?」

「…はい。ソレが一つの楽しみにもなっているほどに。」

 

ワカモの答えを聞いた弦太朗はいたたまれない気持ちになった。どういった環境で育ってきたかは分からないが、破壊や爆破が一つの楽しみになってしまっていることはいいことではない。そこら辺の不良が暴れるのとはわけが違う。

ワカモのこの性格は矯正局では変わらないだろう。なら、ここはシャーレの出番だ。

 

「よし、決めた。」

「……?」

「ワカモ、明日一緒に遊びに行こうぜ。」

「はい!?」

 

思わず素でツッコんでしまうワカモ。そりゃそうだ。あんな説教ムードから突然遊びに誘われたりしたら、誰でも驚く。

それは弦太朗なりの考えがあってこそなのだろうが……

 

「そんな…何故急に…?」

「…多分、ワカモの破壊好きな性格は直せるようなもんじゃないって思う。だから、一緒にもっと楽しいことを見つけんだ!」

「……っ!!」

 

弦太朗のその言葉を聞くと、ワカモのあの謎の感情が再び溢れ出し、心臓が高鳴ってくる。果てしないドキドキにワカモは包まれていた。 

 

「わ、分かりました……では明日の朝、シャーレまで赴きますので……///」

 

ワカモはすっかり赤くなった頬を押さえながらそう言うと、先程の如く素晴らしい身体能力であっという間にその場からいなくなってしまった。

 

「よし、今日はこんなとこか。」

 

残された弦太朗もマシンマッシグラーに跨り直すと、ナビを頼りにシャーレに向けて走っていった。

その後、この時間までシャーレに残っていたアオイとヘルプで来ていたリンから大目玉を食らったのだが、それはまた別のお話……

 

 

 

 

 

 

翌日、弦太朗はシャーレの前でワカモを待っていた。吹く風は暖かく、長袖から半袖に衣替えをした人もちょくちょくいる。そうやって歩く人々を眺めながら待ち続けていると、こちらの方に歩いて来る音が聞こえる。それは靴ではなく、草履がアスファルトとこすれる音だ。

 

「先生…お待たせいたしました。」

「おっ、ワカモ!待ってた…ぜ……?」

 

弦太朗が言葉を失ったのも無理はない。花が咲き乱れ、風に吹かれて舞い落ちる中で彼の前に立っていたのは、仮面を外し、美しい着物を身にまとい、和風傘を差したワカモだった。昨日のワカモと脳内で比べ、見間違えてしまう程の美しさに言葉を失い、思わず見惚れてしまいそうだ。

 

「先生、どうかなされましたか?」

「あ、いや、すまん!大丈夫だ!」

「じゃ、行こうぜ!」

 

弦太朗はワカモの手を取ると、街に向かって歩き出した。こうして、弦太朗によるワカモの青春発見作戦が始まったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「青春といえばここ!遊園地だぜ!」

 

最初に二人がやってきたのはそう、遊園地である。弦太朗が初めて恋心を抱いた時も遊園地に来たものだ、と懐かしくなる。尤も、この構図はまるでデートだが、お互いにそんな意識はないはずだ。

 

「遊園地に来たなら、ジェットコースターだ。すんげぇ衝撃がドカーンって来るんだぜ!?」

「ふむ…」

 

テンションマックスの弦太朗に対し、ワカモは不思議そうに遊園地を見回す。そうして弦太朗イチオシのジェットコースターに乗り込むのだが、ワカモは終始真顔であった。

それはメリーゴーランドでもお化け屋敷でも同じであった。お化け屋敷に至っては異装したキャストを殴り倒してしまった。

 

「えっと…気に入らなかったか…?」

「ええ…あの程度の動きでしたら、毎日やっていましたので。」

「そ、そっか……じゃあ次行くか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ポップコーンのサイズはいかがなさいますか?」

「そうだな…ワカモはどんくらい食べたい?」

 

次にやってきたのは映画館だ。映画ならアクション物に限らず、ミステリー、ホラー、感動巨編……色々なジャンルがある。色々観ていけばどれかしらはワカモに刺さるはずだ。

 

「…では、Mサイズを。」

「かしこまりました!では、お楽しみください!」

 

ポップコーンとジュースを手に持つワカモ。そのままチケットの券売機に向かうのだが、ワカモの視線はずっと弦太朗に向いている。そのせいで近づいてくる不良に気付かなかった。

 

「おいおい、いいモン持ってんじゃねぇか。ちょうど金欠だったんだ。ソイツ寄こせよ。」

 

キヴォトスでは珍しい男子学生の声がワカモに唾を飛ばした。鉄の体に鉄のリーゼント、機械だ。キヴォトスの男子学生は皆、機械であるように見えるが、生身の人間はいないのだろうか?

何はともあれ、これはまずい。ワカモの様子もそうだが、何より不良の安否が…

 

「おい、このポップコーンは俺らの…」

「知るかよ大人は黙ってろ!いいから早くソイツを…!」

 

不良は弦太朗を押しのけてワカモが持つポップコーンに手を伸ばす。しかし、その手は届かなかった。

 

「いっづぅ…!?」

 

代わりに、骨が折れるような激痛が不良に走る。ワカモが不良の腕を掴み、あり得ない方向へと捻じ曲げようとしているのだ。

 

「私に対してこうも大きな態度を取る者がいるとは…少し俗世から離れている間に随分と舐められていたようですねぇ。」

「は…!?な、なに言ってやが…!ぐぅっ!?」

「存じ上げないのならその身体に教え込みましょうか?あなた程度、捻り潰すことなど造作もありません。」

「お、お前まさか…!厄災の…狐…!?」

 

ワカモについては何度もニュースで報道されている。不良は今にも真っ白になりそうな頭でテレビで見た狐坂ワカモと目の前の生徒を見比べてみた。

────仮面さえつければ、それはあの厄災の狐そのものである。それだけではない。その殺気、声音…それが今自分の目の前にいる生徒があの厄災の狐だと決定的に裏付けた。

一気に不良の顔が焦燥に染まる。しかし、ワカモにとっては知ったことではない。

 

「さぁ、右腕とお別れする準備は出来ましたか?」

「ち、ちょっと待っ…」

「ストーーーップ!!!」

 

今にも不良の腕がへし折られ、映画館では絶対に起こり得るはずがない惨状が起こりそうになったその直前に、弦太朗が二人の間に割って入った。

 

「先生?」

「やり過ぎだぞワカモ!そこのお前、悪かった!これでなんか食ってくれ!でも、カツアゲはやめるんだぞ!!」

 

弦太朗は気持ちばかりのお詫びに不良のポケットに千円札をねじ込むと、不良の素行の悪さだけ注意すると、ワカモを引っ張って映画館を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「うーん……」

 

公園のベンチに座って弦太朗は悩んでいた。普段から戦闘や逃走で過ごしていたワカモにとって、いきなり普通の遊びや生活をすることは難しいのかもしれない。ところどころでワカモが持つ凶暴性と、彼女にとっての普通が出てしまっている。

 

「先生、次はどうするのですか?」

 

ワカモはすっかり飽きていると言うか、『これ以上やってなんの意味があるのか?』という視線を弦太朗に向けていた。どうすればいいのか、弦太朗自身も見失っているところだ。どうにかならないかと考えていると、不意に腹の鳴る音が重なった。

 

「あら…」

 

どうやら、いろいろなところを練り歩いた結果、お互い空腹に気付かなかったようだ。時計を見てみると、もう昼の1時を回っている。

 

「そういや昼時だもんな、まぁ、なんか食ってから考えっか。」

 

と、弦太朗は近くのキッチンカーまで走ると、2千円を出して唐揚げの盛り合わせを2つ購入した。

カップからはみ出て山を作るほどに盛られた唐揚げを落とさないように慎重にワカモのところまで運ぶ弦太朗。そしてワカモに「はいこれ」と差し出す。ワカモはそれを受け取ると、なんと付属の爪楊枝を使わずに、飲み物でも飲むように飲み込んでいく。

 

「へっ!?ちょっ、マジ!?」

「……つい最近まではこれが普通だったので。食事にいちいち時間をかけていては遅れを取りますから。」

 

逃亡生活と矯正局での生活と脱走後……ワカモには精神的、肉体的な余裕はあっても時間の余裕はほとんどなかった。

故に食事は大して味がしないものを淡白に済ませていたのだ。つまり、ワカモは『食事を楽しむこと』を忘れているのかもしれない。弦太朗は自分が高校生だった頃に、奢ったジャンボ肉まんを吸い込むように腹に収めた友達のことを思い出しながらワカモに話しかける。

 

「いいかワカモ。唐揚げってのはもっとこう、ガブッ!て思いっきり噛んで味わうんだ。そうすりゃ唐揚げのエナジーが口ん中にグワって広がるんだぜ!」

「はあ…」

 

言われたワカモは手に持っている唐揚げが入った入れ物を静かに見ると、おもむろに側面に付属している爪楊枝を剥がして唐揚げに刺し、丁寧に口まで運んだ。

 

「……!!!」

 

一つ、また一つとワカモは腕を動かし、唐揚げを口にした。素早くはあるが、しっかりと味をその舌で感じ、歯ごたえを噛み締めた。

 

「どうだ?」

「…おいしいです。言われてみれば、お食事とは本来、このようにするものでしたね。」

 

ワカモが言ったように、知ったと言うよりは思い出したというのが正しい。2度に及ぶ長い逃亡生活ですっかり頭から抜け落ちていた食事の楽しさをワカモは今ここで思い出したのだ。

 

「よし!じゃあそういうとこから思い出していくか!」

 

今度こそ方針は完全に決まった。今のワカモの必要なのは、普通や当たり前の中にある幸せをもう一度思い出すことだ。

 

「じゃあ次は……」

 

二人はこの一日でいろいろなところを回った。ショッピングモールや野球の試合真っ只中のドーム、温泉街……流石に混浴をというわけにはいかなかったが、女湯から出てきたワカモはサッパリとした表情を浮かべていた。

この長い長い、余裕のない、普通なら経験するはずのない生活の中でワカモから抜け落ちた記憶が今、彼女に戻ろうとしていた。

 

「……」

 

しかし、それにそぐわない表情を浮かべるのもまたワカモ。先程まで目を輝かせていたとは思えないほど、その表情は退屈に満ちていた。

 

「ワカモ?どうかしたのか?」

 

問いかける弦太朗に、ワカモは気難しそうな顔を浮かべながら口を開く。

 

「……確かに楽しかったは楽しかったのですが、何か違うのです。」

「何か?」

「ええ…なぜ私があそこまで先生に夢中になっていたのか…分からなくなってきます。それが私の中で一番大切なものだったのですが……」

「一番大切なもの…」

 

そう言われた弦太朗は悩んだ。ワカモにとって大切なもの…ワカモの言葉を真に受けるのならばそれは弦太朗自身にある何かなのだろうが、この前までの自分と今の自分の何が違うのか……それがさっぱりわからない。

 

「どうすりゃいいんだろうな……」

 

キヴォトスに来てからの記憶の一つ一つを繋げて考えてみるが、一向に答えは出てこない。先ほどとは違い、沈黙が続くばかりの2人の周り。聞こえる音はもうすぐ夜が来ることを知らせる風の音のみ……かと思われたのだが、その静寂を破らんとする影が1つ……いや、2つ、3つ……

 

「…!!」

 

人間のものとは思えない足音が二人を異変へと誘った。目の前にいるのは、3体のゾディアーツ。ユニコーン、カメレオン、そしてオリオンだ。

 

「ゾディアーツ…!?なんでここに…?」

 

と、弦太朗が率直な疑問を口に出すと、ゾディアーツの中心に立っているオリオンがワカモを指差す。どうやら弦太朗は眼中にないらしい。

 

「狐坂ワカモ…脱獄して逃げ回ってるってのは知ってたけど、まさか遊んでたなんてなぁ?」

「…?貴女方とどこかでお会いしたことが?顔が見えないので分かりませんが…」

「ま、どーせ顔見せたところでアンタは覚えてないんだろうけど…」

「…?どういうこった?」

「狐坂ワカモは凶悪な指名手配犯だ。ソイツに対して恨み辛みを持ってる奴はゴマンといる。ワカモが逃げ出したってニュースが出たその日から、ワカモに恨みぶつけようとしてる奴らは動き出してんだよ。」

「で、俺らがたまたま見つけたってわけ。ソイツにはウチの島、随分と荒らされたからなぁ…」

「謝罪とかはどうでもいいからさぁ…巻き添え喰らいたくなかったらどいてなよ。」

 

口調やその声からオリオンとカメレオンの男二人とユニコーンの女一人。カメレオンゾディアーツの男は声が機械的な辺り、オートマタだろうか?

どうやら弦太朗が来る前にワカモが荒らした不良グループの一味らしい。不良特有の荒々しい殺意が漂う。確かに、昔のワカモは凶暴だったのかもしれない。しかし、今は更生へと向かっているのだ。それをここで邪魔させるわけには行かない。

 

「そうはいかないな。」

「あ?」

「ワカモは今成長してるとこなんだ。確かにちょっと前は荒れてたのかもしんねぇ。だからそこは謝ってもらう。けど、お前らが同じように誰かを傷つけたらもう、やられただけって言えなくなるぞ。」

「うっせえ!被害者だとかはどうでもいい!俺らはただムカつくソイツを潰してぇだけなんだよ!!!」

 

不良の気が長いわけもなく、オリオンは拳を振り上げて弦太朗に殴りかかろうとする。弦太朗はそんなオリオンを勇ましく睨むと、フォーゼドライバーを取り出した。

 

「変身!」

 

フォーゼへと変身した弦太朗は右ストレートでオリオンを殴り飛ばした。その構図は偶然にも、フォーゼがワカモを守る騎士のようになっている。

 

「……!!!?」

「……///」

 

途端、ワカモの中で何かが弾けたような感覚がした。頭が疑問から確信と熱に染まっていく。それを理解すると同時に、ワカモは気にもとめていなかったフォーゼの前に立つ3体のゾディアーツをこう認識した。

……………………害虫であると。

 

 

 

 

 

 

 

 

「仮面ライダーフォーゼ!タイマン張らせてもらうぜ!」

 

殺気立つワカモに背を向け、フォーゼは3体のゾディアーツに殴りかかった。複数のゾディアーツを相手するのはゲヘナ以来であるが、戦い慣れている弦太朗からすればハンデでもなんでもない。

 

『スパイクオン』

『シザースオン』

 

フォーゼはシザースモジュールでユニコーンの剣を挟んで止めると、スパイクで強烈な蹴りをお見舞いした。

ユニコーンは舌打ちをしながら後ろに下がり、他二人のゾディアーツと並ぶ。

 

「アイツってもしかして…」

「ワカモを追い返したっていうシャーレの先生か…!?」

 

あの日のフォーゼの活躍はネットニュースにもなった。当然不良たちもそれは把握しているのだが、よりにもよって今日ここで鉢合わせるとは思っていなかったようだ。

 

「どうするの?先生と出くわしたら逃げるって考えてたケド…」

「…二度目があるか…いや、確実にない復讐する機会が今なんだ。三人がかりで先生潰すぞ!!」

「はいはい、分かりましたよっと。」

「よし!じゃあ2人共、俺に続けぇ!!」

 

3人のゾディアーツは話を合わせると、フォーゼに向かって突撃してくる。

 

「仲良いんだな。荒れてなかったらきっと、3人で最高の青春が出来てたと思うんだけど…」

「……こうなったからには仕方ねぇ。」

 

対するフォーゼは3人に憐憫の目を向けると、迎え撃つために構えを取った……と、そのとき。

 

「…ん?」

「……え??」

 

目の前にいた…正確にはユニコーンとカメレオンの前を走っていたオリオンゾディアーツがいきなり、何の前触れもなく視界から消えた。脳の理解が追いつかないほどの早さで。

 

「……!!」

 

ただ、考えている時間はなさそうだ。なぜなら、考えに徹していたら、今の攻撃は防げなかったからである。

 

「なんかアイツ急に消えたんだけど!?」

「多分アイツなりの作戦があるんだ思う。とにかく先生を倒すよ!」

「…分かった。」

 

突然の出来事に戸惑うフォーゼとは対照的に、不良二人はそこまで驚いていないようだ。いや、驚いてはいるが、焦ってはいないというところか。物怖じせずにフォーゼに襲いかかる。

ユニコーンの猛攻がフォーゼの余裕を根こそぎ奪い取り、出来た隙を透明化したカメレオンがしっかりと拾う。2人のコンビネーションがフォーゼを追い詰めていく。

 

「やるな…!だったらこれの出番だぜ!」

 

『エレキ!』

『エレキオン』

 

それに対抗するためにフォーゼが取り出したスイッチはエレキスイッチだった。ロケットスイッチをエレキスイッチに切り替え、スイッチをオンにする。

 

「なんだ…電気!?」

「姿を変えられるの…!?」

「まだまだこれからだぜ!」

 

エレキステイツとなったフォーゼはビリーザロッドを構え、雷の如きスピードで2人のゾディアーツに突撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、突如消えたオリオンゾディアーツはというと…

 

「ガハァッ!?」

 

フォーゼが戦っている場所から少し離れた場所…詳しく言うなれば、ビルを一つ突き破った先の広場で横たわっていた。

決して、自分から移動したわけではない。何者かによって無理矢理押し出されたのだ。

 

「な、何が起こって…」

 

理由がわからず、一先ず周囲の様子を確認しようとするオリオン。そんなオリオンの耳に、靴とコンクリートがぶつかる音がゆっくりと入ってきた。

 

「お邪魔虫が一匹…」

「……!!」

 

声と音がする方を見ると、狐面の奥にとても子どもとは思えないほどの紅い殺気を押し隠した少女の姿があった。

 

「こ、ここっ…狐坂ワカモ…!?」

 

ワカモから感じる殺気は今まで以上…歴代最強レベルだ。自分に興味など示さなかったワカモからなぜこんな殺気が出ているのか、そんな事を考える暇すら彼には許されていない。

 

「さて、アナタが取れる選択肢は二つ。今すぐこの場から消えるか、私に貫かれるか……」

 

なぜなら、考えるよりも前にワカモからこの選択を迫られるのだから。

とはいえ、実力者からここまでの殺気を浴びれば、普通は尻尾を巻いてでも、泥に塗れるような情けない姿を晒してでも逃げ出すのが正しい判断だ。だが、この不良のワカモへの半端な恨みがその判断をせき止めた。

 

「クソが!こっちは鉄をもへし折る怪物になってんだぞ!いくら厄災の狐だからって、負ける通りがあるか!!」

 

オリオンはその重く強い拳と、重量に見合わないスピードで、ワカモも戦う覚悟を決めた。

 

「そうですか…では…!」

「なっ…!?」

 

しかし、腕を振り上げたその瞬間にはもう、ワカモはオリオンの目と鼻の先にまで接近していた。

不良が取ったワカモと戦うという選択。それは─────

 

「ここでお亡くなりになりなさい」

 

────────最悪の選択だった。

 

 

 

 

 

 

 

「は、なんだコイツ…!?」

「は、速い…!?」

 

エレキステイツになったその瞬間に形勢は逆転した。フォーゼの圧倒的なスピードを前に、連携攻撃も意味をなさない。

 

「これで決まりだぜ!」

 

『リミットブレイク!』

 

決まりだぜ!と言いつつ、フォーゼはビリーザロッドのプラグを左側のコンセントに差し入れると、カメレオンとユニコーンに背を向けた。

それを怪訝に見つめるカメレオンとユニコーン。

 

「な、なんだ…?」

「よくわからないけど、チャンスじゃない?こっちを見てない。」

「それもそうか。」

 

二人は話を合わせると、全速力でフォーゼの背に攻撃をしようとする。ただ、闇雲に近づくだけではない。カメレオンは、遠方からを伸ばして、近距離で何かされたときのための追撃をする備えをしている。ユニコーンは剣を振りかざして跳躍し、フォーゼの背を狙う。

 

「ハアァアッ!」

「ガッ…!?」

 

だが、それも意味を成すことはなかった。ユニコーンが間合いに入り、そして飛び上がる…回避行動が出来ないところまで来たところでフォーゼは振り向き、一閃。

 

途端に流れ込む100億ボルトの電撃。ユニコーンの肉体といえど耐えることは叶わず、フォーゼの頭のすぐ後ろで爆散した。

それだけではない。溢れんばかりの電撃はカメレオンの舌にも命中した。そのまま舌を伝い、電撃はカメレオンの喉元まで届いた。

 

「ぐぎゃああぁぁぁぁ!!?!?」

 

電撃は瞬く間にカメレオンの喉から胸に、頭に、敵、足に広がっていき、カメレオンは苦痛に満ちた悲鳴を上げながら倒れ込み、そのまま爆発した。

かろうじて意識はあるようだが、爆炎の中から排出された二人の不良は白目を剥き、身体は電気による痺れで痙攣していた。

 

「ク、クソ…」

「アイツは結局どこなのよ…」

 

二人は必死に体を起こし、体を震わせながら周りを見て、探し人を探す。

探している人物が見つかるのは、次の瞬間だ。

 

「ぐあああっ!!」

「「!?」」

 

轟音と断末魔が同時に響くと、赤い巨体が吹き飛ばされてきた。周りは砂煙に包まれる。砂煙の中を凝視すると、そこに赤い巨体の怪物はおらず、二人が探していた、もう一人の仲間が横たわっていた。

 

「な…!?」

「クッソが…!!」

 

砂利を握り締めて自分を吹き飛ばした存在を睨む不良。そしてその正体は…

 

「あらら…この程度でしたか…」

「…!!ワカモ!!?」

 

狐坂ワカモだった。フォーゼは驚きを隠せない。なにせ、今までホシノやヒナと言った強い生徒はたくさん見てきたが、生身でゾディアーツを倒してしまった生徒はワカモが初めてだ。

 

「さぁ、どうします?三人まとめて私に八つ裂きにされるか、それとも…」

「さっさとこの場を去るか。」

「「「……!?!?!」」」

 

ワカモの殺意が籠もった目を生身の状態で受けた三人は恐ろしさを通り越して命の危険すら覚えた。

もはや復讐などと言っている場合ではない。三人は捨て台詞を吐くと、その場から逃走していった。

 

「あっ…逃げられた……」

 

捉えるべき不良が逃げた…追うべきではあるが、ワカモの様子の方が気になる。何より、3人は恐怖のあまりゾディアーツスイッチを放って逃げ出してしまった。これならもう大したことはできないだろう。

 

「あぁ…先生」

「え…?」

 

フォーゼは唖然とした。いつの間にかワカモが自分のすぐ前まで来ている。全く気配を感じなかった。脳の理解が遅れ、それに比例して反応も遅れる。月光の下、フォーゼとワカモは見つめ合った。

 

「先生……いいえ、こう呼びましょう、あなた様…。」

「あ、あなた様って…」

 

あなた様…イズナの言っていた主殿と同じような響きだが、そこから感じる感情はイズナとは大きく異なっていた。

 

「ようやく分かりましたわ。私に足りなかったもの、そして感じていたものを…」

「か、感じていたもの…?」

「ええ、ええ!そうです。それは、それは……」

「先生、あなた様への愛情ですわ。」

「へっ…?」

 

思わず素っ頓狂な声を上げるフォーゼ。そんなフォーゼのマスクを見上げながら、ワカモはゆっくりとフォーゼドライバーのスイッチに手をかける。

 

「先程、あなた様が変身した時に理解しました。その戦士としてのお強いお姿と…」

 

ワカモはそこまで言うと、ドライバーの4つのスイッチを丁寧に押し上げ、フォーゼの変身を解いてしまった。

呆気にとられる弦太朗。そんな弦太朗の顔すら愛おしく見つめながら、ワカモは言葉を続ける。

 

「あなた様のその、凛々しく、愛おしく、勇ましいお顔……」

「あぁ、あぁ、あなた様こそが私の運命の御方…」

 

ワカモは逃亡生活をしていたとは思えないほどに綺麗な手で弦太朗の頬を撫でる。

 

「このワカモの愛…受け止めてくださりますか?」

 

ワカモはそう言うと、狐の面を外した。赤く、恋に焦がれた顔がさらけ出される。

最初こそ呆気にとられたが、自分の思いはきちんと伝えないといけない。弦太朗はそんなワカモの顔を真剣に見て、高校の頃の修学旅行を思い出しながら、口を開いた。

 

「…俺、恋愛だとかそういうのはよく分かんねぇ。けど…」

「ダチになることはできる。それに、友情を深めてお互いを知って……そういうのの先に、愛ってのがあるって俺は思うぜ。だから俺は、ワカモの良いとこも悪いとこも、全部ひっくるめてダチになる。」

 

そう言って、友情を育むための手を差し出す弦太朗。ワカモはコンマ1秒の迷いもなくその手を取った。そのまま友情のシルシを交わす二人。

 

「うふふ…このワカモ、あなた様をお守りすることにこの生涯を捧げます。」

 

ワカモは満足そうにそう言うと飛び上がった。驚くほどの跳躍力で5メートルはある建物の上に足を乗せ、弦太朗を見下ろす。

 

「あなた様、私のために頑張ってくれたところ申し訳ないのですが、私は普通の生徒のようには戻ることはできません。それが私の性というものですから。」

「…しかし……この私の愛は、いつか必ず受け止めてもらいます。」

「おう。けど本当に悪いことをしたら、その時は俺は全力でワカモを止める。」

「そういったところも、愛しております♡」

 

ワカモに勇ましく宣言する弦太朗を見て、ワカモはそう言い残すと、路地裏の影へと姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なるほど。それで狐坂ワカモは取り逃がしたと。」

「はい、すんません……」

 

翌朝、弦太朗はリンにワカモとのいざこざの件を報告していた。フォーゼですら再逮捕には至らなかったワカモの面倒さに、リンはため息を吐く。それでリンが怒こっていると思った弦太朗は頭を下げるが、リンは嘆息して弦太朗に言葉をかけた。

 

「いえ、ワカモについての情報をろくに与えずに向かわせた私たちにも非があります。あまり気負う必要はありません。それに、ゾディアーツスイッチを3つも回収できましたから、これでゾディアーツに関する研究も少しは進むはずです。」

「お、おう、そっか。」

 

怒ってはいない…それによって安心した弦太朗。

一方のリンは相当ストレスが溜まっているようで頭を掻く。

 

「まぁ、なんだ。たまにはこう、体休めようぜ!」

「…いえ、連邦生徒会長代行して、そのような時間は…」

「いいから!行こうぜリンちゃん!」

「ちょっと、分かりましたから引っ張らないで…というか誰がリンちゃんですか…」

 

ストレス解消と休憩のために、リンをシャーレの休憩室に強引に引っ張っていく弦太朗。そんな弦太朗の耳に、風の音と、何かが飛んでいく音が聞こえた。

不思議に思って音がした方を見る。そこには何もなかった。昨日聞いたような笑い声が少しだけ聞こえた気がしたのだが…

 

「気のせいか…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うふふふふ…」

 

同時刻、シャーレの向かいのビルの屋上に、狐の面を被った少女がどこからか着地した。その視線はまっすぐとシャーレの中の弦太朗を捉えている。

 

「このワカモ、いつでもあなた様を見ております♡」

 

どうやら、決して気のせいではなかったようだ。ワカモは弦太朗の姿がシャーレの奥に消えるまで、ずっと彼を見つめていた。




リアルの都合や出ないアイデアなど……もう週一投稿は厳しいかもしれませんが、こんな情けない作者でよければ、是非この作品をお願いします!!
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