コズミックアーカイブ(仮面ライダーフォーゼ×ブルーアーカイブ) 作:炙り中トロ
「ぐぬぬぬ……!」
ゲヘナ風紀委員会の行政官、天雨アコは頭を抱えていた。最近の不良生徒集団についてである。
「最近、不良生徒たちは風紀委員と衝突することになると縦深を構築するようになりました…そのせいで手間がかかって対処しきれる気がしません…!!委員長であればそんなもの関係なく蹴散らしてくれますが……」
と、アコは歯ぎしりをしながら不良との戦闘報告の書類を乱暴に、憎たらしそうに睨んだ後、先ほどからずっと忙しくペンが走る音がしている横を見る。
「百鬼夜行自治区で美食研究会が暴れて…山海経では温泉開発部が……それに万魔殿のタヌキからまたいちゃもんが…はぁ…」
「あれでは当面動けそうにありませんね…」
ヒナが自分の肩を揉みながら心此処にあらずといった表情でペンを動かしていた。上からの嫌がらせに問題の多さ…多忙なヒナにこれ以上の仕事を頼むことは酷であることはアコが一番分かっている。
「帰ったよ…」
そこに、愛銃を肩にかけて、疲れた様子のイオリが入ってきた。戦闘があったのだろう、すぐにでもソファにもたれかかりたいだろうが、重苦しい空気がイオリからその気を奪った。
「あら、お疲れ様ですイオリ。問題の不良生たちの方はいかがでしたか?」
「あぁ…うん、残念だけど取り逃した…一応何人か倒したんだけど、こっちの損害のほうが多い…今チナツが救急医学部に運んでるよ。」
「分かりました……仕方のないことではありますが…中々解決には至りませんね…」
「しかも奴ら、『今の私らなら、なんだって出来るんだ!今度は委員長も連れてくるんだな!』とか言ってたよ…」
イオリの報告が、場を更に重くした。解決しない問題に、増えていく諸問題……最近はずっとこんな感じだ。しかも、ヒナが言っていたようにゲヘナ自治区の外で起こっている問題すらある。他校からの苦情が来る前に、問題児を捕まえ、不良集団による被害問題がゲヘナの中で留まっているうちに叩き潰さなければならない。
「しかし、まさか問題児自ら宣戦布告をしてくるとは…」
「ヒナ委員長が委員長になってからは初めてのことだね。事実、今まで以上に手こずってる…」
このままでは効果的な対処法を見いだせずに結局、美食研究会と温泉開発部を片付けたヒナに任せる羽目になる。便利屋68を捕らえるためにアビドスへ攻め入った時の失態を考えると、それは何としても避けたい…というのがアコとイオリの心情であった。
「…しかたない。」
しかし、その気持ちとは相反して、ヒナは机に手を置き、ゆっくりと立ち上がった。そしてアコに近づいて「ハイ」と言うと、アドレスらしき物が書き込まれた紙をアコに手渡した。
「委員長…これは?」
「シャーレへのメールアドレス。チナツから教えてもらったものだけど…いざなったら先生を頼って。」
「私は…ゲヘナの外の問題児をさっさと始末してくるわ。」
疲れと面倒事が増えたから来る苛立ちをエンジンに、ヒナは愛銃を携えて風紀委員会室から出ていくのだった。
「先生…かぁ……」
あの時、一瞬で眼前にまで迫ってきたフォーゼの姿を思い出しながら、イオリは静かに声を漏らした。
「おお!望遠鏡が出てきたぞ!?コレがクラフトチェンバーってやつの力か!?」
一方その頃、弦太朗はというと、連邦生徒会長が残したという装置、クラフトチェンバーを試運転も兼ねて使っていた。クラフトチェンバー…それは装置というよりは施設のようなものであり、そのルーツはよく分かっていないそうだ。
「そうだ、コレって入れれねぇかな?」
そう言って弦太朗が取り出したのは、この前不良生徒から回収した3つのゾディアーツスイッチであった。スイッチに関してはまだ分からないことが多く、連邦生徒会の研究も難航している。何か打開の一手になれば、という思いを込め、弦太朗はクラフトチェンバーを使うための石であるキーストーンを数個とゾディアーツスイッチ3つを投入した。
「うわっ…!」
すると、クラフトチェンバーは強い光を放ち、弦太朗は顔を覆った。光が少し落ち着き、おそるおそる目を開くと、
[一ヶ月]
クラフトチェンバーの製造完了時間予測画面に映し出された三文字が目に飛び込んできた。
「い…一ヶ月!?」
『ゾディアーツの力が邪魔をしているのでしょうか…?とにかくとても長いですね…』
見ると、クラフトチェンバーから留まることなく黒いオーラが浄化するように出続けている。アロマの言う通り、ゾディアーツの力が邪魔をしているのか、はたまた血抜きをしているのか…
「けどクラフトチェンバーだってダチだ!根気よく話せば応えてくれるはずだぜ!」
そう言って疑うことなくクラフトチェンバーに期待の眼差しを向ける弦太朗。彼の言った通り、クラフトチェンバーもそれに応えようとしているのか、少しオーラの放出量が増えた気がする。
『ピロン♪』
「なんだ、メールか?」
クラフトチェンバーに集中し切った弦太朗の意識をメールの通知音が呼び戻した。確認すると初めてメールを送ってきてくれた生徒らしい。こうやってシャーレを頼ってくれる生徒が一人、また一人と増えてくれるのは弦太朗からしても本望である。弦太朗は気合を入れてメールの確認ボタンを押した。
──────────────────────────
ご連絡失礼いたします。
ゲヘナ学園風紀委員会の行政官、天雨アコです。
この度、シャーレへ業務の依頼の要請のために連絡をさせていただきました。詳細は風紀委員会室にて説明をしますので、お忙しいところ恐縮ですが、少々お時間頂戴できますと幸いです。
何卒よろしくお願いします。
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『天雨アコさん……あ!この前アビドスに攻めてきた風紀委員会の人ですね。あの時は敵対していましたが…』
「けどこうやってあっちから話しかけてきてくれたんだ!ダチになる絶好の機会!逃すわけにはいかねぇぜ!」
アコから頼みがきた…それだけで充分だと言わんばかりに目を輝かせた弦太朗は雪崩のような勢いで荷物をまとめ、マシンマッシグラーでゲヘナへと向かっていくのだった。
「すごい…ここ最近、あんなに簡単に風紀委員会を撃退できてる…!」
「あの人がウチらに協力してくれるようになってから、アタシら変わったよな!!」
ここはゲヘナの外れ、不良や指名手配犯の溜まり場だ。そんな普段は物静かで時々抗争で騒がしくなる程度の郊外で、空気に見合わない賑やかな声が廃ビルの中庭から乱暴に響いていた。
「一介のはぐれ者集団の私達に縦深防御や補給法を教え込んでくれたからね。…急に現れたあの子が」
どうやら最近ゲヘナ風紀委員会と衝突、しかもゲリラ戦により撤退に追い込んだ不良グループらしい。
その中心にいるのは、ガスマスクをかぶり、防弾チョッキを装備した、他の不良とは明らかに違う不気味な一人の生徒。どうやら彼女が不良に戦い方を教えているらしい。
「……」
そして、そんな彼女の手には、ゾディアーツスイッチが握られていた。
「なるほど、行政官に呼ばれて。」
「おう、風紀委員会を手伝って、ダチになる!友情への第一歩だぜ!」
「ふふ、お変わりないようで何よりです。」
一方、弦太朗はゲヘナでチナツと出会うことができ、風紀委員会室まで案内されていた。久しぶりにまた話し、友情を確かめ合う、それまでは良かったのだが…
「なんか、浮かない顔してるな?なんかあったのか?」
「…おそらく、もうすぐ分かるかと。」
「…?」
チナツの声がいつもより低く、疲れており、それが表情にも表れていることを弦太朗は見抜いていた。何かあったなら力になりたい…そう思って話しかける弦太朗であったが、どうやらチナツの疲れは風紀委員会全体の状況に影響しているようだった。
「……ただいま戻りました。」
「あ、おかえりチナツ…って横にいるのは…」
「よっ、久しぶりだな!ダチになりに来た。てかこの部屋!すっげぇキレイ!」
「げっ…先生……」
扉を開くと、まるで西洋の王室のように美しく整えられた部屋が姿を現した。歩くたびにコツコツと部屋中に音が響く、一委員会の部屋とは思えない豪華さに興奮する弦太朗。対照的に、ほぼ寝るような体勢でソファーに深くもたれているイオリはどこかゲンナリしている様だった。
「アコちゃん、ホントに呼んだの!?」
と、イオリは部屋の奥で背を向けながら書類の虫となっているアコにそう問いかける。
「あら?」
アコはピクリと耳を動かして反応すると、とっくに気付いていただろうに、まるで今弦太朗がやって来たことに気付いたかのように、椅子から立ち上がった。
「ええ、私が呼びました。先生との関係の改善に加え、委員長が不在且つ不良相手に苦戦気味な今、少しでも戦力が欲しいと判断をしたので。」
「け、けどさ……」
「では、ここから状況を打開する案、イオリにはありますか?」
「うっ…それは……」
アコが弦太朗を頼ったことについて、イオリは何か物申したいらしいが、ヒナがおらず、他に有効な打開策がないことも事実。イオリは一瞬でアコに一蹴され、閉口してしまう。
アコはそんなイオリを一瞥したまま、弦太朗の方を向いた。
「改めまして、ゲヘナ風紀委員会にようこそ、如月弦太朗先生。」
「よろしくな。今日からアコとイオリも、俺のダチだな!」
「ふふっ、いきなり友達とは、相変わらず面白いお方ですね。しかし、今は私たちのお話を聞いてくださると。」
と、アコは弦太朗をも一蹴し、手に持っているパッドに何やら打ち込み始める。後ろを見ると、イオリは「誰がお前の友達になんか」という風に弦太朗を警戒していた。そして何とも言えない複雑そうな顔で立っているのはチナツ。
「では、こちらをご覧ください。」
そんな空気感もしばしば、アコはパッドを接続させたモニターに映像を映し出した。
瞬間、けたたましい銃声に加えて、画面越しでも分かる緊迫した戦闘の映像が耳に、目に飛び込んできた。
「これは?」
「先日の対不良グループの対処に向かった風紀委員会の戦闘映像です。」
アコが説明する間にも映像の中の風紀委員会による進行は順調に続いている…ように見えた。
『まだいるのか!!?』
しかし、そんな快進撃に見合わぬ声を画面からイオリが発した。不良共を蹴散らしたかと思えば、しばらく進軍するとまた別の不良集団が待ち構えている。そこを突破してもまだ次の不良達が待ち構えていた。進めば進むほどに、風紀委員会は消耗していくが、不良は逆に粘り強くなり、泥沼の戦いになってしまっていた。
『うわっ!?』
『なっ、なんだ!?』
しかし、転機が訪れた。突然鞭打たれたかのように吹き飛ぶ風紀委員会たち。彼女らにとって最悪の転機が訪れた。戦車はひっくり返り、突然建物の一部が崩れ…まるで透明に何者かが仕掛けたような攻撃に、風紀委員会の部隊は大混乱に陥り、やがて撤退してしまった。
「…このように、最近不良グループが戦略や作戦を詳しく練るようになり、風紀委員会は苦戦を強いられるようになりました。」
「今まで逃げるか正面から突進してきただけの連中が急に縦深なんて…一体どこで覚えたんだか…」
「ええ、昨日まで戦術的には初心者だった連中が急にあのような戦い方を思いついたとは到底思えませんし、バックに支援者がいる、と考えるのが自然でしょう。」
支援者…と聞いて、弦太朗が思い出したのはアビドスのカタカタメルメット団や便利屋68だ。彼女らはカイザーPMCの悪い大人たちから武器の支援を貰い、アビドス高校を脅かしていた。今回もカイザーやそれに準ずる組織が絡んでいるとしたらそれは生徒同士のいざこざの域を超える。
「しかも映像最後の正体不明の攻撃、ゾディアーツの可能性もあるでしょう。ということで、弦太朗先生には風紀委員会と共同して今回の不良征伐に当たっていただきたいのです。」
「任せろ、力になるぜ!」
こうして、弦太朗と風紀委員会との共同作戦が決まった。そして各々が準備をする中で、弦太朗はソファに座って中の手入れをしているイオリに近づいていく。弦太朗はイオリの隣に座り、肩に手を置いた。
「イオリ」
「…何?」
「よろしくな。今日からイオリも俺のダチに」
共に前線で戦う仲間として、イオリと友達になろうと明るく話しかける弦太朗。しかし、イオリは一言だけ「悪いけど」と言うと、銃を肩に担いで立ち上がり、弦太朗に背中を向け、冷たく見下ろした。
「私はお前と友達になる気なんてない。むしろ、さっさと事態を鎮めてお前との共同作戦なんて終わらせてやる。」
普通の人間なら会話を諦めて引き下がるほどに、イオリは冷徹にそう吐き捨てた。口だけでなく、全身から溢れ出るその拒絶反応の波は弦太朗すら押し流す
「なるほどな。よし!やっぱ、俺のダチになれ!」
「はぁ!?今の会話の流れでどうしてそうなる!?」
ことはできなかった。突き放されても弦太朗の友達になろうとする姿勢は変わらない。揺るぎないその熱意にペースを崩されたイオリはタジタジとツッコむので精一杯である。
「俺はイオリみたいな奴は尚更ダチにしたくなるタチなんだ。」
「…ふ、ふん!もし出来たら褒めてやる!…どうせ無理だろうけどな!」
完全にペースを崩される前に、イオリは一言だけ吐き捨てて部屋を出ていってしまった。それもまた、弦太朗の熱意を膨らませ、「よしッ!」と気合を入れ直して立ち上がるのだった。
『ここから先のエリア…ゲヘナ郊外の東地区はほぼ不良集団が占領している状態になっています。』
ということで、不良集団の根城になっているという郊外の東地区までやってきた弦太朗と風紀委員会の編成隊。
地面に落ちて曲がった看板に、ツタだらけの廃ビル、割れた道路やサビだらけのプレハブ…人の気配を感じないそこは、まるで荒野に鉄やコンクリートの塊を雑に置いたような光景であった。
『既に我々の動きは察知されている可能性もありますから、充分の注意を。特に先生は一発の銃弾が死に繋がりますので、隊の中心から外れないようにお願いします。』
「おう、頼りにしてるぜ」
そんな荒れた世界を風紀委員会は全方位に警戒を張り巡らせながら進んでいた。そうしてしばらく進んでいると、一番前を進んでいる風紀委員の足元を銃弾が掠めた。
「…ッ!警戒態勢!」
イオリの一声で、全風紀委員が銃を構え、人海の要塞を作り出した。そして、そんな要塞の前に、横何列にも渡って配置された不良たちが現れた。
「お?懲りずにまた来たのか?」
「今度は風紀委員長でも連れてきたか?」
風紀委員会に対する彼女らの反応は多種多様。しかし、一つ共通していることは、全員がもうヒナがいない風紀委員会を脅威とみなしていないことであった。
「フン、お前らなんかに委員長が出張るまでもない!アコちゃん!」
『……良いでしょう。第1隊から第3隊まで総員は突撃。それ以外は後方待機を。』
「よし!行くぞ!!」
いつまでも舐られていてたまるか、と言うように、イオリは遮蔽物を利用しながら不良たちへと迫り、一人、また一人と不良を捕まえていく。他の風紀委員も続き、正確な射撃や頑丈な戦車の突入であっという間に不良たちを撃破してしまった。
「うおお、すっげぇ!風紀委員会ってホントに強いんだな。」
『当然です。我がゲヘナ精鋭の部隊ですから。』
それを間近で見ていた弦太朗は風紀委員会の戦闘を見て感心していた。アコが自慢気に弦太朗に返答をしている間にも、風紀委員会は進撃を続けている。アコは戦況の判断と指揮を行いながらも、弦太朗に対して風紀委員会の強さの自慢を続けていた。
『奴ら、まだ抵抗を…!』
しかし、一つだけおかしい点があった。いつもなら逃げ出すレベルに追い詰めても、不良たちは戦いを続けている。抵抗を続ける不良たちに対し、風紀委員は戦闘せざるを得ない。最初は微々たる、少しの時間の消費にしか見えなかった。
「はぁ…はぁ……」
「くっ…!」
しかし、第一陣、第二陣と不良たちが構築した縦深に食い込めば食い込むほど、風紀委員たちの負担は大きくなっていく。
イオリは持ち前のフィジカルとタフネスで不良をなぎ倒しているが、後方の委員たちがそれに追いついていない。
『…まさかこれほどとは…』
目を見開きながら声を漏らすアコ。強くなったとは聞いていたがまさかこれほどとは…。
『第4隊から第7隊までの全待機部隊に告ぎます。今すぐ突撃をして前方部隊の支援を!』
戦況がこれ以上悪くなる前にと、アコは待機部隊全ての突撃を判断した。アビドスではこれが功を奏し、フォーゼ以外の生徒たちの体力を削ぎに削ぎ、ヒナの介入さえなければ勝利できるところまでいっていた。
…しかし、今回は違った。
『第7隊、包囲されました…』
『なっ…!?』
突撃を命じて僅か15分で、アコの耳に待機部隊すべてが敵に包囲されたとの情報が飛び込んできた。何が起こったのか、まるで分からない。言葉を失ったアコに最早、指揮をする余裕など残っていなかった。
「なら、俺の出番だな。」
そこで出てくるのが弦太朗だ。フォーゼの力なら包囲されている部隊の救出だけでなく、事態の収束も見込める。
『…なるべく頼らないで終わらせたかったのですが仕方ありません、先生、お願いします。』
「おうよ。」
弦太朗はフォーゼドライバーを装着すると、戦場に向かって走っていくのだった。
「宇宙キターッ!」
決めゼリフと共に飛び込むように戦闘に乱入したフォーゼは、シールドモジュールで風紀委員に迫る銃弾を弾いた。
「お前ら、大丈夫か?」
「は、はい!」
「後は任せとけ!」
殴ってはいけないのなら、武器を全て奪ってしまえばいい。フォーゼはホイールスイッチを取り出し、ホイールモジュールのスピードを駆使して不良たちの武器を奪おうとした。
───その時、何かがフォーゼの足元のコンクリートを砕いた。報告にもあった、正体不明の攻撃である。
「これは…」
だが、フォーゼにはこのような攻撃をしてくる相手に心当たりがあった。まだフォーゼになって間もない頃に戦い、キヴォトスでも一度戦った相手だ。
『レーダー・ランチャーオン』
フォーゼがレーダーモジュールを覗いてみると、建物から建物へ飛び移り、四方八方から風紀委員に攻撃を仕掛けるゾディアーツの姿が見つかった。
ゾディアーツの正体を確信したフォーゼはランチャーモジュールから数発のミサイルを発射し、レーダーモジュールが示す場所へ正確に命中させた。廃ビルが大きく破損し、煙雲立ち込めるビルの壁。そこにゾディアーツはもういなかった。
「…まさか見破られるとは思わなかった。見事だと褒めておこう。」
ゾディアーツはミサイルが当たる直前に地面へと流れていたのだ。透明化を解いたそのゾディアーツ、カメレオンゾディアーツは慌てる様子を見せず、むしろ攻撃を見破ったフォーゼを讃えてみせた。全員の視線がカメレオンゾディアーツへと集まり、緊迫した雰囲気の中、響くカメレオンゾディアーツの拍手…という異様な光景。その静けさをフォーゼが破った。
「お前、誰なんだ?こうやって不良を助けて、目的は何だ?」
「…じゃあ、始めようか。」
カメレオンは問いに答えることなく、長い舌を正確にフォーゼに打ち付けようと鞭の如きスピードで飛ばした。
「うっ…!!いってぇ…!」
何とか腕を十字に組んで防御したフォーゼであったが、打たれた衝撃と痺れるような感覚がフォーゼの手から肘まで伝っていた。
「やっぱり、あの舌の攻撃、まともに喰らうわけにはいかねぇな。」
『シールドオン』
フォーゼはシールドモジュールを装備してカメレオンの舌を火花を散らせながら弾いた。いくらカメレオンの鞭のような舌と言えど、コズミックエナジーを秘める鋼鉄の盾を砕くことはできない。フォーゼはシールドモジュールの縁越しに敵の姿を追った。
しかし、見渡す限りゾディアーツの姿はなかった。
さっきまで確かにあったゾディアーツの姿が、幻の様に風へと流れていった。
(透明になりやがったな…)
しかし、逃げたはずがない。それは、戦いに身を投じてきたフォーゼの勘と、カメレオンゾディアーツの能力を知っている弦太朗だからこそ分かる。
しかし、一つだけ問題があった。
(……どこにいやがんだ…?)
カメレオンの位置が全くと言っていいほど掴めないのだ。忍者でも相手にしている…といえば分かりやすいだろうか、四方八方にいて、どこからでも襲ってくる……そんな恐怖感がフォーゼを包んだ。
「うわっ!!」
瞬間、フォーゼの左腕を激痛が貫いた。
反射的に息を呑む。視線を落とすと、フォーゼの白い腕から煙が出ていた。カメレオンの舌がフォーゼを叩き付けたのだ。
背中に、腹に、頭に……カメレオンの舌がフォーゼを蹂躙する。
フォーゼはシールドモジュールを装備してカメレオンの舌を弾いた。
反撃をしたいところだが、がむしゃらに拳を振るっても当たるはずがない。なら、ミサイルで広範囲爆撃?そんなことをすれば周りの生徒まで被害を被るだろう。
「なら、こいつで行くぜ!!」
『ファイヤー』
状況を打開すべく、フォーゼが取り出したのはファイヤースイッチ。スイッチを押してファイヤーステイツになった瞬間、体から噴き出す炎がカメレオンの舌を焦がした。
「……ッ!」
「どうだ、この体!熱いだろ!」
フォーゼは得意気に言い放つと、ヒーハックガンから炎を吹き放った。カメレオンは炎を走りながら躱していく。近づこうとすれば火炎の餌食、舌を伸ばしてもフォーゼが持つ炎の身体がそれを阻む。まさに鉄壁……かに思えた。
「……フッ!!」
「…!」
カメレオンは大きく飛び上がり、古びたプレハブの屋根に飛び乗った。フォーゼは咄嗟に反応し、ヒーハックガンをプレハブの屋根に向けるが、それには微かな隙が生じる。カメレオンはその隙を逃さなかった。
「ハッ!!」
「…なにっ!?」
カメレオンの不気味な舌が空気を裂き、フォーゼの手を正確に捉えた。
次の瞬間、ヒーハックガンが跳ね飛び、宙を舞う。カメレオンはフォーゼの手からヒーハックガンを叩き落してしまったのだ。
「嘘だろ…!」
フォーゼの口から思わず漏れた言葉は風でかき消された。呆然とするフォーゼに、追加の攻撃が容赦なく襲いかかったのだ。
「クソッ…!」
【シールドオン】
辛うじてシールドモジュールで舌を弾くフォーゼ。しかし、息を切らせているフォーゼに対してカメレオンは微動だにしていない。フォーゼの体力だけが削られて振り出しに戻ったかのようだ。
「も、もう持ちこたえられない…!!」
「うわあぁぁぁ…!!」
「クソッ…まだだ!!」
「……!!」
しかも、後ろでは風紀委員の戦線が崩壊しつつあった。包囲され、体力を削られ、最早満身創痍である。今ではイオリが他の委員の分まで戦っている。
「くっ…!ここは引くしかねぇ!」
フォーゼはそう言ってジェット噴射で風紀委員と不良たちの間に割って入ると、エアロモジュールを起動し、煙を噴射した。前が確認できないほどの濃い煙が晴れると、そこからフォーゼたちはいなくなっていた。
「逃げられたか…」
「けど、シャーレの先生がいてもアタシたちが勝てた!もう風紀委員会なんて怖くねぇぞ!!」
しかし、上がったのは悔し声どころか「勝利した」と喜ぶ声。カメレオンはそんな不良たちを尻目に、アジトの方へと歩いていった。
「いってぇぇ!!くうぅぅ〜〜!!」
撤退後、弦太朗は風紀委員室のソファで悶えていた。
「早い治りに痛みはつきものです、ほら、もうすぐ終わりますから我慢してください。」
チナツカメレオンにやられて傷ついた弦太朗の左腕に消毒液を塗っていたのだ。軽く消毒をしたあと、絆創膏と包帯を巻いて出来上がりである。
「先生、傷の方は大丈夫ですか?」
「アコ…おう、こんくらいならすぐ治る」
ちょうどよく、アコが部屋に入ってきた。持っている端末には先ほどの戦闘データが映し出されており、アコの表情には焦りが滲んでいた。
「実際に戦闘を見て、ただの不良があんな戦術を使っていたことには驚かされました。……しかし、それ以上に驚いたのは、あのゾディアーツの異常な戦闘力です。」
アコの言う通り、あのカメレオンゾディアーツはフォーゼを相手に息を切らさずに戦っていた。いくらただの人間とキヴォトスの人間との差があるとは言え、ゾディアーツと戦い慣れているフォーゼを相手に、だ。その動きはまるで、訓練された軍人のようであった。
「おそらく、ゲヘナの者ではないでしょう。しかしそうなるとわざわざ不良を支援する動機が見えてきません。それにあの複数の層で構成された防衛線…突破の手口が見つからないのが現状です。」
「……行政官がここまで焦る姿、アビドス以来です。」
チナツの言う通り、アコはとても追い詰められているように見える。ヒナがいないことでの現状や、苦戦…それがシャーレに所属している弦太朗の前で表れてしまったのだから。
「…アコ」
「…?」
そんなアコに話しかけたのは、当然弦太朗である。
「俺は作戦とか動かし方とか、そういうのは何も分からねぇ。だけど、アコがこんなことで挫けるやつじゃないってことは、分かる」
「…!」
弦太朗からの励ましに、アコは初めて弦太朗の目を見た。励まされるだろう…とは思っていたが、その声が、そして目が、あまりにもまっすぐすぎるのだ。
「アビドスの時だって、アコはずっと落ち着いてて、諦めなかった!そんなアコを、俺は信じる。」
「…分かりました…ここまでやられた以上、私も本気を出します!必ずあの縦深を突破する方法を編み出してみせます!」
弦太朗に励まされたアコに気合が入った。「私がこんなところで終わるわけがない」その心に火がついたのだ。
それを聞いた弦太朗は微笑み、力強く頷く。
「良いじゃねぇか、その意気だ!俺はアコを信じる!」
その言葉には、アコへの確信と信頼が滲んでいた。
「…先生が色んな生徒から信頼を得ているのは、自分もまた生徒を信じているから、ですか?」
「ったりめぇだ。ダチがダチを信じなくて、誰が信じるんだ」
「…ええ、おっしゃる通りですね。」
アコはそう返すと、手を止めて弦太朗の目をまっすぐ見た。その表情から先ほどまでの焦りは洗い流され、リラックスしているように見える。
「では、私も先生を、そして風紀委員会の皆さんを信じて作戦を考えましょう。友人として約束します、必ずこの状況を打開する、と。」
「おう、頼むぜ」
弦太朗が差し出した手をアコは頷いて受け取る。そして二人は友情のシルシを交わすのだった。
「よし、じゃあ俺は出来ることをやる。コーヒーくらいなら淹れて…」
「…いえ、先生には私のお友達のお世話をしていただきたいです。たぶんきっと、無理をしているでしょうから。」
「そこッ!」
一方、イオリはひたすらに訓練をしていた。四方八方から不定期に立つ鉄製の的を、正確に素早く撃ち抜く。撃ち抜けば次、撃ち抜けば次と的は増える一方で、反比例するようにイオリの体力はなくなっていく。イオリの射撃は追いつかなくなってきてきた。
「はぁ…はぁ……くっ、まだまだ…!」
イオリは休みたい気持ちを汗に濡れた髪と共に乱雑に払った。そうして再び銃を構えた刹那、イオリの頭にふわりと柔らかい重みが乗せられた。
「よっ、やっぱりイオリの腕はすげぇな。」
「先生…」
弦太朗がイオリの様子を見ていたのだ。イオリは頭に乗せられたタオルで汗を拭いながらため息をつき、ベンチに座り込んだ。
「何、私を笑いに来たの?」
「そんなんじゃねぇ。ほら」
「…ありがと」
弦太朗の手から投げられたお茶をキャッチしたイオリは缶を開けて火照った体に冷たいお茶を流し込んだ。
息を整える時間すら惜しいというように、イオリは缶を置くと、再び銃を構えた。
「ちょちょちょ、無理すんなって!一旦休め!」
当然、弦太朗は止めに入る。なにせ、イオリの顔は熱でも出ているように真っ赤だ。これ以上の特訓は体調不良に繋がってしまう。
「うるさい離せ!お前に私の何が分かる!?」
しかし、イオリは弦太朗の手をはねのけた。その顔には苛立ちと焦りが入り交じっていた。
「イオリのことはまだよく分からねぇ…けどな」
対する弦太朗の表情も、真剣そのものだった。
「イオリは俺の大切なダチだ。ダチが無理してるのを見て、ほっとけるかよ。」
押し切ろうとするイオリは口を開きかけたが、弦太朗の強い視線に気圧され、結局何も言えなくなる。
悔しげに息を吐き、イオリはタオルを頭にかぶせたまま、その場に腰を下ろした。
「何かあるなら、話してくれ」
「……悔しいんだよ。風紀委員会は委員長ワンマンのチーム…そう言われて、あんな不良に好き放題やられてるのが…!けど、確かに委員長は強い。他の風紀委員が総出でかかっても蹴散らせられるくらい…だから、だからこそ私は委員長の何倍も努力をして、少しでも委員長の背中を見ないといけないんだ!」
イオリは胸の奥からの思いを吐き捨てると、タオルで汗を思いっきり拭い、銃を構えて街への射撃を再開させた。
先程まで、それを心配そうに見ていた弦太朗であったが、ふと何かを決したように立ち上がった。
「分かった、そういう根性は嫌いじゃねぇ。」
そして弦太朗は陳列してある銃を一つ手に取り、的に向かって放った。
「なっ!?」
流石のイオリもこれには驚愕し、銃を降ろして丸い目で弦太朗を見る。
「先生、銃を使うのは初めてだろ!?」
「あぁそうだな。銃のことなんて引き金を引く以外何もわかんねぇ!」
「そんな素人が練習なんてして、どうする気だ!?」
「どうもこうもねぇよ、イオリが全力で特訓するなら俺も特訓する。隣で一緒に走れるのがダチだ。」
「…なら、せめて全力でやってみろ!邪魔だけはするなよ!」
こうして、弦太朗が的を当て損なっている隣で、イオリは何度も正確に的に銃弾を命中させた。そんなイオリの顔は、先ほどよりもリラックスしていて、楽しそうに見えた。
「「はぁ…はぁ……」」
30分後、2人はベンチに座って冷たいお茶を流し込んでいた。スコアはイオリが全ヒット、弦太朗が0ヒットと圧倒的だ。
「どうだ先生…これが私の実力だ…!」
「スゲーなイオリ!お前の成長、マジでヤベーぞ!」
イオリがニヤリと勝ち誇ると、弦太朗は最大限の賛辞を送った。そして、お互いに頑張って汗を流した。もう、2人の心は打ち解け合っていた。
「先生」
「ん?」
「…お前と友達になる気なんてない…って言ったけど、それ…今なら撤回してもいい…」
イオリが頬を赤らめながら小さく呟いた言葉を、弦太朗は1文字も聞き逃さなかった。
「ホントか!?なら絶対に!俺のダチになってくれ!」
「ちょっ…!くっつくな!!」
弦太朗は疲れなどなかったかのように目を輝かせながらイオリに抱きつく。彼にとって友達になるまで打ち解けるというのは、それほど重要なことなのだ。
そして二人は友情のシルシを交わすのだった。
「このままゲヘナ学園のすぐ近くまで進むぞ」
翌日、不良たちはカメレオンゾディアーツに引き連れられてゲヘナ学園に向かって進んでいた。もうすぐ東地区の出口も見えてくるころだろうか。風紀委員会を止めた縦深を崩さずそのままに進める姿はまるで敵に引導を渡す槍のようだった。
「風紀委員長が不在のゲヘナで混乱を起こせば、ゲヘナの弱体化が見込める。ここら一帯を占領してやる…」
「そうはさせるか!」
ヒナがいない、という情報を掴んでいたカメレオンは、勝ちを確信していた。確信するあまり、ゲヘナに行おうとしている計画が思わず口からこぼれるが、その口は一人の少女の言葉で閉ざされた。
「……またやられに来たのか?」
カメレオンと不良軍団の前に立つのはイオリ、チナツ、弦太朗、そして風紀委員会の面々だった。
カメレオンは嘲笑するように吐き捨てると、指を鳴らした。瞬間、不良たちは素早く縦深を組む。
「無駄だ、何度やってもヒナがいないお前たちはこれを突破できない。このまま押し進んでやる。」
カメレオンがそう言うと、先の戦いでは持ち場の死守に尽力していた不良たちの野砲が、掘り進む塹壕が、それらが形成する縦深がゆっくりと前進を始めた。それはまるで、鉄の壁が迫ってきているようだった。
「くっ、来る…!」
「絶対に止めないと…!」
そんな縦深の壁の前にその堅牢さを知る風紀委員たちは物怖じしてしまっていた。
『皆さん。』
そんな彼女たちの前に、アコのプログラムが現れた。そんなアコに真っ先に信頼を寄せたのは、弦太朗だ。
「あれを何とかする方法、思いついたんだろ?」
『ええ、もちろんです。すでに一部の司令官には説明済みです。少々慣れない戦法ですが、風紀委員会の精鋭たちなら実現してくれる…私はそう信じています。皆さん、私の無茶振りに付き合っていただきますが、よろしいですね?』
アコは笑みと余裕を維持したまま、風紀委員たちにそう宣言した。しばらく顔を見合わせていた風紀委員たちだったが、すぐに覚悟は決まったようだ。
「まぁ、アコちゃんの無茶振りなんて今に始まったことじゃないし…」
「やります、とことんまで!」
『ちょっと!今に始まったことじゃないとはどういうことです、イオリ!?……まぁ問い詰めるのは今度にしましょう。では、風紀委員会、作戦開始!』
「何度来ようが、この縦深を突破できるものか」
一方、カメレオンは指揮のために奥まで下がっていた。その手には通信機が握られている。カメレオンには自信があった。力押しの風紀委員会が何層にも壁を築く縦深を突破できるわけがないと。
しかし、カメレオンは風紀委員会を…そして天雨アコを舐めすぎた。
『第一陣が突破され…ぐわぁぁ!!』
「…なに?」
通信機から縦深の第一陣が突破されたと告げられた。それは、カメレオンが前々から下がってから僅か数分であった。初めてカメレオンの頭に疑問符が浮かぶ。何が起きているのか、分からなかった。
不良たちは教えられた通り、何層もの壁を築くように部隊を配置していた。
最前線を突破されても、第二陣、第三陣が控えている。それが縦深防御だ。
昨日のように風紀委員会が真正面から力で押してくなら、縦深はほぼ確実にそれを受け止められる。
「ま、待て…ちょっと待てよ…」
だが、迫ってきたのは人としての風紀委員会ではなかった。
空からは編隊を組んだ戦術ヘリコプター、地上からは、砂煙を巻き上げて走る戦車の群れが迫っていたのだ。
『行政官、敵と接触しました。布陣はこの通りです』
『…ここですね。一番薄い。ここを撃ち抜きます』
不良の第一陣の目前に迫った風紀委員会の司令官の一人は、敵の状況をアコへと伝達した。そしてアコは圧倒的な戦力眼で敵の状況を把握。そして、すぐに縦深防御の薄いところを見つけてみせた。後はほぼ流れ作業だ。
「やべぇ!もう耐えられねえ!」
薄い一点を集中砲火された第一陣は、瞬く間に崩壊し、穴が開く。そこに風紀委員会の戦車が雪崩れ込み、 開いた穴から一気に後方へ回り込んだ。
「おい、指示は!?早く出してくれよ!?」
後方に助けを求める声が上がるが、もう遅い。戦いは、戦車が走り出すよりも速く始まっていたのだから。
戦車が突撃を始めるとほぼ同時に、戦術ヘリコプターが敵の陣地後方へと滑り込み、補給部隊と通信部隊を次から次へと炎に包んでいたのだ。
戦車が正面から、ヘリコプターが奥から、縦深は崩されつつあった。
『ぐっ…!第二陣は防御線を縮めろ!何としても穴を開けるな!』
辛うじて、通信機の一つだけが第二陣の通信隊へ連絡できた。不良たちは指示通りに防衛の幅を縮める……のだが…
『…ええ、予想通りです。』
それすらアコは読んでいた。不意に、第二陣の側面のビルが倒壊する。倒壊したビルの煙の中から、戦車部隊が現れた。なんと、戦車がビルをぶち破って側面から突進してきたのだ。
「嘘だろ…!?」
「鉄のビルを鉄の戦車で壊すなんてめちゃくちゃだ!!」
『ふふっ、これくらい頑丈でないと風紀委員会の戦車としては力不足ですから♪』
廃ビルを戦車部隊で強引に突破する……敵の誰もが不可能に思えることを、アコはやってのけたのだ。それは単にアコの有能さだけではない、アコと風紀委員会たちの互いの信頼あって成り立ったものだ。
『追い打ちをかけます。混乱している隙に縦深をすべて破ってください!』
こうして、側面からの奇襲を受けた第二陣は呆気なく突破された。
通信隊や補給が壊滅し、それぞれが孤立した層は最早縦深ではなく薄い線と化していた。そんな孤立した薄い線に、ヘリコプターの爆撃と群れた戦車とそこにピッタリと付いていく歩兵の雷の如き突進が迫る。
盤石に思われた縦深防御は、まるで足元をえぐられた城のように、第三陣、第四陣と続けて崩れ落ちていった。
「天雨アコ……まさかこれほどとは…!!」
築き上げた縦深を破壊し尽くされ、もはや崩壊していくだけの不良軍団を見たカメレオンに、ゲヘナに残る気などなかった。
透明化して逃げようとするカメレオンの肩を、銃弾が掠めた
「…?」
振り返ると銃口を向けるイオリと、ドライバーを装着した弦太朗がそこに立っていた。
「逃がすかよ!」
「お前はここで捕まえてやる!」
「…やるしかないってことね…」
カメレオンはすぐに逃げることを諦め、構えを取った。
「アコがなんだけやってくれたんだ、今度は俺たちの番だぜ!!」
『3・2・1』
「変身!…宇宙キターッ!!」
対する弦太朗はフォーゼへと変身し、イオリも銃をリロードさせてカメレオンと対峙した。
「そのカメレオンの皮を剥いでやる!」
「タイマン…じゃなくて、共闘させてもらうぜ!」
「一人が二人になった程度で、私には勝てない!」
カメレオンは昨日のように姿を消し、あちこちを跳び回った。プレハブの屋根やコンクリートを蹴る音こそ聞こえるが、どこにいるかフォーゼには分からない。
「……そこだッ!!」
だが、イオリには分かる。イオリの正確な射撃でカメレオンが移動した先のコンクリートを打ち抜いた。足場をなくし、カメレオンの姿勢が崩れる。その隙をフォーゼは見落とさなかった。
「行くぜ!リベンジ青春パーンチ!」
「ごはっ!?」
フォーゼはジェット噴射でカメレオンに接近し、豪腕のパンチを右頬に叩き込んだ。フォーゼの強烈な一撃が初めて、カメレオンにヒットした。
「くっ…クソッ!!」
カメレオンは再び姿を消し、今度は地上を走り回った。それでも、イオリは耳を研ぎ澄まし、一瞬の音も聞き逃さなかった。
「そこだ!」
「そこか!!」
『ロケットオン』
イオリが即座にカメレオンの位置を特定し、銃弾を放つ。銃弾はカメレオンの舌を撃ち抜き、舌は力なく引っ込んでいく。そして銃弾の後を、ロケットモジュールを装備したフォーゼが追っていた。
「ライダーロケットパーンチ!!」
「ぎゃあッ!!?」
フォーゼのロケットパンチがカメレオンに直撃した。カメレオンは吹き飛び、透明化も遂に解除された。
「な…どういうことだ……」
なぜ、昨日の今日でいきなり自分の透明化と身体能力の合わせ技が突破されたのか、カメレオンには理解が及ばなかった。
だが、フォーゼとイオリからすれば、理由は簡単だ。
「とうだ!これが私たちの特訓の成果だ!」
「日々日々進化する俺たちの力!見せてやるぜ!」
『ドリルオン』
『ロケット・ドリルリミットブレイク!』
昨日特訓した的の立つ微かな音、それを頼りに射撃をしていたイオリにとって、怪物が動く音は大きすぎたのだ。
そして、イオリと一緒に特訓したことにより、フォーゼもイオリと息を合わせられる。フォーゼは空へと飛び上がった。
「ライダーロケットドリルキーック!」
「クソッ…!」
迫るフォーゼのキックに、カメレオンは最後の手段に舌を伸ばしてドライバーを狙う。
「させるか!」
しかし、イオリの射撃により、舌はいとも簡単に弾かれてしまった。最後の悪あがきも失敗に終わった今、もう打つ手などない。
「ガアァアァァァッ!!?」
フォーゼのドリルキックがカメレオンを容赦なく襲い、カメレオンは爆散したのだった。
「さて、正体見せてもらうぜ。それともラストワンか?」
地面に着地をしたフォーゼはカメレオンが立っていた爆破地点へと歩き、スイッチと、そしているならスイッチャーを回収しようとしていた……のだが…
「…ッ!!」
「なにっ!?」
突如、フォーゼに銃弾が放たれ、その後すぐに煙幕がフォーゼを包んだ。放たれた位置的に間違いない、カメレオンのスイッチャーだ。
「……!」
何とかスイッチャーを見つけようとするフォーゼの視界に、一瞬だけ白い服と、骸骨が描かれた腕章が映った。しかし、それを最後に、スイッチャーは完全に姿を消してしまった。
「逃げられた…!」
「まぁなにはともあれ、委員長が返ってくる前にことを収められてよかったです。」
と言ってソファに沈み込んだアコは、深く息を吐く。面倒な仕事も一段落し、久しぶりのブレイクタイムだ。
「長丁場になったけど、何とか終わったね…委員長も明日には帰ってくるらしいし。」
と、中のお手入れをしながらイオリが呟く。今回の件は無事に終わったが、ここはゲヘナ。いつ何が起こるかわからない。常に備えるのがイオリのモットーだ。
「逃がしちまったけど、カメレオンゾディアーツに勝てたのは二人がいてこそだ!今日の二人!昨日より絶対に強かったぜ!」
「…ま、次また一緒に戦うことがあったら、その時もよろしく頼むよ、先生」
弦太朗にお礼を言われたイオリとアコ。
もうイオリの胸のどこにも、弦太朗への敵意はもう残っていなかった。イオリは肩の力を抜き、ふっと、自然に受け入れるような穏やかな笑みを浮かべた。
「よし!じゃあこれ飲め!俺の青春コーヒーだ!」
と、弦太朗はソファにもたれるイオリ、アコ、チナツにコーヒーを出した。弦太朗が風紀委員室に常設してある豆から淹れたオリジナルのコーヒーである。
「…先生?私たちもコーヒーくらい自力で淹れられますよ。何より、私の淹れるコーヒーの方が美味しいかと。」
「まぁそう言わず飲んでみろって!俺の青春コーヒー!飲んだら身体に宇宙が染み渡るぜ?」
アコのやんわりとした否定にも屈せず、弦太朗はグイグイとコーヒーをテーブルに置いた。…その瞬間、アコの中で何かが弾けた。
「…それはつまり、私の淹れるコーヒーより先生の淹れるコーヒーの方が美味しいと?」
「え?」
「何度も委員長にコーヒーを提供してきたこの私の腕を、容易く上回るとでも言うんですか!?」
「いやそんなつもりじゃ…嫌だったんなら悪い、下げるわ…」
「はぁ!?別に飲まないとは言ってませんが!?」
「え!?ちょ…えっと…ごめん…!」
アコがよく分からないまま弦太朗にキレるのを横目に、イオリは、
(面倒くさぁ…)
と若干引きながらコーヒーを口にした。ちなみに味は普通だった。
そんな様子をチナツは苦笑いしながら眺めている。
こうしてゲヘナは一時の平和(?)を守ることに成功し、これからも風紀委員会の活動は続いて行くのであった。
「つまり、みすみす逃げ帰ってきたと?」
「そ、そんなつもりでは…」
ここはキヴォトスのどこか。常に濃い雲が空を支配し、陽の光が差し込まないどこかで、必死に弁明をする者がいた。
それは、カメレオンゾディアーツのスイッチャーであった。そして、彼女が弁明する先にいるのは、白いドレスを身に纏う黒髪の女性……そこだけ聞くと普通だが、異様なのは血で塗られたように真っ赤な上半身と不気味な目で埋め尽くされている仮面のようなナニカだ。そんな異形の人物の前で、彼女は必死に弁明をしていた。
「ええ、事情は分かりました。しかし、私の学園に失敗する者は不要です。しかし、捨て置くのも惜しい…なら私の従順な駒へと変えてしまいましょう。」
「ひっ…!そ、それだけは……」
「従順な駒へと変える」その言葉が放たれた瞬間、彼女の恐怖は最高潮に達した。
そんな彼女を前に、異形の女性はゾディアーツスイッチを取り出した。…ただのスイッチではない、ホロスコープスのスイッチだ。
……………
気付けば、彼女は静かになっていた。静かになった…というよりは人形のようになったという方が近いだろうか。不気味に整った行進をしながらその場を歩き去っていく彼女はまさに人形と呼ぶにふさわしかった。
「シャーレの先生ですか…」
残された異形の女性は顎に手を当てて思考する。
「まぁ、しばらくは泳がせておきましょう。いずれ刈り取ることになるのですから。」
そう言って笑う異形の女性にあるいくつもの目が、一斉に赤く光った。
前々から気になってた学マス始めたんですけど、アカン!楽しすぎる!
初心者目線だと親愛度を10にするのは結構試行回数と時間がかかるんですけど、回数を重ねるほどアイドルたちに愛着が出てくるし、何よりコミュを読めば読むほどアイドルたちの自分に懸ける想いや葛藤がひしひしと伝わってきて、それが曲となって最後に出てくるもんだからプロデューサーとしては「何が何でもやってやるからな!!」ってなるんですよね
ことね…いつか絶対NIAで優勝しような