コズミックアーカイブ(仮面ライダーフォーゼ×ブルーアーカイブ)   作:炙り中トロ

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ブラックマーケットのお話で、第一章は終わりにしたいと想います。
え?原作と違う?まぁ大丈夫でしょ知らんけど


第9話 銀・行・強・盗

「はい。では、ありがとうございました。」

「おう。なんかあったらまたいつでも呼べよ!」

 

ある日のキヴォトス。弦太朗はトリニティで正義実現委員会との早朝のトレーニング協力の依頼とハスミとの食べ歩きを終え、ハスミに校門まで送ってもらって、トリニティから出てきた。

 

「うし……」

 

弦太朗はハスミと別れると、校門に停めてあったマシンマッシグラーに跨る。

 

「次は、アビドスだな。」

 

 

 

 

 

 

砂に覆われた街、アビドス。この街を自治している学校、アビドス高等学校は、廃校寸前。それを阻止するべく、アビドス廃校対策委員会は億単位の借金を少しずつ返済したり、シャーレの如月弦太朗の協力を得て、学校を襲う不良集団や何者かの依頼を受けてきた便利屋と戦ったりと、毎日大忙しである。

それは、当然今日も同じことで…

 

「あっ、先生!おはようございます。」

 

弦太朗がアビドスまでやってくると、対策委員会の一人、奥空アヤネとバッタリ会った。

とは言え、今はまだ6時30分頃。生徒が登校するには早すぎる時間だ。

 

「アヤネ?こんな早くからどうしたんだ?」

「えっと、今日は利息を返済する日でして、色々と準備が必要なんです。」

「早めに登校して値段の確認をしたり、ついでに設備の点検をしたりするので……」

「大変なんだな。」

「まぁ、この学校には教員もいませんからね…」

 

アヤネはそう言いながら設備に使う道具箱を持つ。だが、量が多く、2回に分けないと運べなさそうだ。

 

「よし、俺も手伝う。」

「え?」

「俺は対策委員会の顧問だからな!」

「……はい、よろしくお願いします。」

 

弦太朗はその後、アヤネの仕事を手伝った。結果、アヤネはいつもの倍早く仕事を終わらせられたのだった。

 

 

 

 

「ありがとうございました、おかげで作業が早めに終わりました。」

「ダチとダチは助け合うもんだからな。」

 

弦太朗はそう言って、どのタイミングで買ったのか、キンキンに冷えたコーラをアヤネに手渡した。

 

「あ、ありがとうございます。」

 

アヤネはコーラを受け取って、口に流し込んだ。疲れて火照ったアヤネの体に冷たいコーラが流し込まれる。

落ち着いたアヤネは弦太朗に一つの質問をする。 

 

「えっと、先生はどうしてそんなに友達にこだわるのですか?」

「ダチになりゃ、お互いのことがもっと分かるからな。気持ちさえあれば、先生と生徒だってダチになれる。俺はそう信じてる。」

「……」

「えっと、先生!」

「お?」

 

アヤネは少しだけ何かを考えていたが、やがて結論が出たのか、弦太朗に話しかける。

 

「シロコ先輩とセリカちゃんから、友達になったとは聞きましたけど、私とは、まだでしたよね…?」

 

アヤネはそう言って、弦太朗に手を差し出してくる。

 

「私でよければ、是非、友達に。」

「おう。」

 

アヤネの気持ちを弦太朗は当然受け入れる。二人は友情のシルシを交わすのだった。

 

「あっ、先生じゃーん!」

「?」

 

そんな二人の間に、割り込む影が一つあった。

それは、昨日対策委員会とバチバチにやり合った便利屋68の一人、浅黄ムツキだった。

 

「やっほー!こんなところで会うなんて偶然だねー!」

「あはは!ちょっと重いかもだけど、我慢してねー!あ、さっきのやつ私にもやってよー!」

 

ムツキは敵対していることなんて知らんと言わんばかりに、飛び上がって弦太朗に抱きつく。

しかもかなり強引に友情のシルシを交わしてきた。

そして確かに、弦太朗は重いと思っていたが、年頃の女の子の前でそんな事は言えない。アヤネはそんな二人を見て、顔を真っ赤にしている。

 

「な、なにをやってるんですか!離れてください!」

「ちょっと引っ張らないでよー?」

「あ、よく見たらラーメン屋で会ったアビドスの眼鏡っ娘ちゃんじゃーん。」

「襲撃の時にも会いました!それに眼鏡っ娘ちゃんではなく、アヤネです!」

「なんですかいきなり馴れ馴れしく…!敵対しているはずじゃ…」

「えー、別に私たち眼鏡っ娘ちゃんたちのことが嫌いなわけじゃないしー。」

 

アヤネはムツキを睨みつけ、あくまで敵対していることを示している。対するムツキは敵意なくニヤニヤ笑っている。今のムツキに敵対する気はないようだ。

 

「部活でやってるだけだしさ、部活じゃないときくらい仲良くしたいじゃん?」

「い、今更公私を区別しようと!?」

「うん。それに、シャーレの先生だってあんたたちだけのもんじゃないでしょ?別にいいよね?せーんせ。」

「俺はアビドスも便利屋も喧嘩しないで仲良くしてほしいけどな。それとスイッチも捨ててほしい。」

「うーん、それは無理かなー。アルちゃんモチベ高いから、てきとうにやるとおこられちゃう。」

「ま、先生もいつか便利屋に遊びに来なよー。みんな喜ぶからさ。」

 

ムツキはそう言うと、弦太朗とアヤネの肩をポンと叩き、何が入っているのか分からない大きなカバンを背負い直す。

 

「そんじゃ、また今度ねー。せーんせ、眼鏡っ娘ちゃーん。」

「今度なんてありません!今度あったら撃ちます!」

「はいはーい。」

 

ムツキはアヤネの言葉を軽く受け流すと、どこか満足気に去っていった。

 

「なんなんですか、あの人は……!」

 

 

 

 

 

 

「……お待たせしました。変動金利等を諸々適用し、利息は788万3250円ですね。現金でいただきましたので今月は以上になります。」

「カイザーローンと契約いただき、ありがとうございます。来月もお願いいたします。」

 

ムツキと会ってから1時間後、他のメンバーも登校し、利息を回収する銀行員に膨大な現金を渡していた。あまりに多すぎるその金額は、トランクケースに入れないと渡すことすらままならない。

 

「……」

「今月もなんとか乗り切ったねー。」

「…あとどのくらい?」

「307年返済なので、えーっと……」

「言わなくていいわよ!」

「どうせ死んでも返しきれないんだし、聞いてもストレス溜まるだけよ…!」

 

銀行員は現金輸送車を走らせてアビドスから去っていき、対策委員会一同はいつものことのようにそれを見ている。だが、それは決していい顔ではない。いつも笑っているホシノも神妙な顔をしているし、セリカは弦太朗を認めていなかった頃のような顔で輸送車を睨みつけている。

 

「というか、どうしてカイザーローンは現金での返済しか受け付けていないのでしょう?わざわざ現金輸送車まで手配して……」

「……」

 

ノノミはだんだん見えなくなっていく現金輸送車を見ながらそう呟く。シロコは黙っているが、その目はどこか輝いている。

みんなは、シロコのその目の意味がなんとなく分かっていた。 

 

「シロコ、言っとくけど、あの車は襲っちゃ駄目だぞ?」

「うん、わかってる。」

「計画もしちゃダメ!」

「う、うん……」

 

弦太朗に忠告されて、シロコはカバンから紙を取り出す。

だが、計画しようとしていることもセリカに見抜かれ、シロコは渋々断念する。

 

「ま、今向き合うべきは目の前の問題でしょ。」

「とにかく教室に戻ろっかー。」

 

ホシノはみんなを宥め、一同は教室へと戻って行った。

 

 

 

 

「全員揃ったようなので、2つの事案について話したいと思います。」 

 

数分後、対策委員会の部室に集まったみんなにアヤネは話し始めた。

 

「まずは、昨日の襲撃についてです。」

「昨日私たちを襲ったのは、便利屋68。ゲヘナ学園の生徒たちが独自に立ち上げた部活とのことです。」

「ゲヘナ学園の……」

 

アヤネの話によると、便利屋68はゲヘナではかなり危険で素行の悪い集団として知られている。

お金さえ貰えればなんでもする、情け無用がモットーである。社長を名乗っている陸八魔アルを筆頭に、嬉々としてトラブルを楽しむ爆弾魔であるムツキ、アルのこととなると、周りを見失い、暴れまくるハルカ、参謀として作戦の指揮をしながら戦闘も行うカヨコの4人で構成されている。

そして、アルの部下の三人はそれぞれ課長、室長、平社員の肩書を持っているようだ。

そして今は、アビドス自治区のどこかに潜んでいるらしい。

 

「へぇ~、本格的だねぇ。」

「社長さんなんですね〜!」

「ゲヘナ学園では企業が許可されてるの?」

「…アロナ、どうなんだ?」

『はい、おまかせください!』

 

アビドスの生徒が知らないのはもちろんのこと、弦太朗もまだキヴォトスに来てから日が浅い。だから、各学園の校則までは分かっていない。

だが、アロナなら別だ。

 

『えーっとですね、ゲヘナは生徒のみでの企業は禁止です。普通に校則違反ですね。』

「サンキュ。調べたけど、校則違反だな。」

「つまり、社長だとかなんとか、勝手に名乗ってるだけってことです。」

「とにかく!非行の限りを尽くしているかなりの問題児なんです!そんな連中がこのアビドスを狙っている事がわかった以上、もっと気を引き締めないといけません!」

 

アヤネは拳を握りしめ、体を震わせながらそう言う。その顔には分かりやすい怒りがある。

 

「えっと、アヤネちゃん、さっきからすっごい憤りを感じるんだけど…なにかあったの?」

「……いえ、なにも。続きまして、セリカちゃんを襲ったヘルメット団の黒幕についてです。」

 

セリカはアヤネの謎の憤りに気付き、心配して聞くが、アヤネはそれをはぐらかし、さっさと次の話に移る。

 

「ヘルメット団の使用していた武器の残骸……先生に解析していただき、調査をした結果、あの素材は現在、ブラックマーケットでしか取り引きされていないことが分かりました。」

「ブラックマーケット……」

 

ブラックマーケット…それは、今は生産されていない違法なものも含めた大抵の品物を取り揃えた所謂闇市である。

不良や警備のオートマタが闊歩し、数々の犯罪用の武器や薬が販売されている、まさに無法地帯である。

そこには、学園の目から逃れた不正な部活や危険なサークルが集まっているという噂が数え切れないほどある。

更に、便利屋68もそのブラックマーケットで問題を起こしているという情報があるらしい。

 

「なら、そこがポイントですね!」

「はい!2つの出来事の共通点を漁ってみるのも方法の一つだと思います!」

「よ~し、じゃあ決まりだね。ブラックマーケットを調査してみよう。」

「よし。なんかあったら俺が守る。安全第一でな。」

 

こうして、対策委員会一同は、ブラックマーケットに赴くことになるのだった。

 

 

 

 

 

 

こうして、弦太朗と対策委員会はブラックマーケットまでやってきた。

ブラックマーケットは噂通り、不良や押し売りが集まって、如何にも怪しい取引を行っている。その光景は同じアビドス自治区とはとても思えない。まるで別の街にでも来たようだ。

 

「ここがブラックマーケット…」

「わあ☆なんだかとても賑わっていますね?」

「賑わってる……って言っていいのかなこれ…?」

「連邦生徒会の目が行き届いていない場所がこんなに巨大化してるなんて思わなかった。」

 

当然だが、対策委員会も弦太朗もブラックマーケットに来るのは初めてだ。

故にブラックマーケットの光景を物珍しそうに眺めている。

 

「ま、私たち普段はアビドスにばっかいるからねー。外のことはよく分かんなくて当たり前だよ〜。」

「ここもだけど、他の学区のブラックマーケットの中にはもっとヤバいのもあるみたい。」

『皆さん、油断しないでください。ブラックマーケットは違法な物が取り引きされている場所です。何が起こっても不思議ではありません。』 

 

と、アヤネはモニター越しに言う。残念だが、アヤネはあまり力がない。どちらかと言うと、頭脳や救援物資を使った後方支援でこそ本領を発揮するタイプだ。

だから危険が大きいブラックマーケットには行けず、アビドスに残ってモニタリングしているのである。

そして、事件は唐突に……

ダダダダダダダダダッ!っと銃声がブラックマーケットに響いた。

 

「!今のは……」

「銃声だ。」

 

突如、ブラックマーケットに銃声と走る音が響く。だが、こんなことはブラックマーケットどころかキヴォトスでは日常茶飯事だ。だから誰も気にかけていない。

 

「う、うわああ!まずっ、まずいですー!!つ、ついてこないでくださいー!!」

 

そんな中で、一人の生徒が悲鳴を上げながら逃げ惑っている。後ろからは不良が二人、追いかけてきている。

 

「ん?あの制服って…トリニティか?」

 

今朝トリニティに行った弦太朗には分かる。あの制服はトリニティ総合学園の生徒だ。

 

「ね、ねぇ、何かこっち来てない?」

「わわわっ、どいてくださいいい!」

 

ドンッと音が響き、セリカはタックルを受け、二人揃って尻餅をつく。トリニティの少女は汗を散らしながら慌ててセリカの手を引く。

 

「いたた、ごめんなさい!」

「わ、私は大丈夫だけど……」

「そっちは大丈夫か?なにかあったのか?」

「え、えっと……」

 

トリニティの生徒が何かを言おうとする前に、後ろから追手の不良が追いついてきた。

 

「何だおまえらは。どけ!あたしたちはそこのトリニティの生徒にようがあるんだ!」

「あうう…私の方は特に用はないのですが……」

「トリニティはキヴォトスで一番金を持っている学校だ!だから拉致って身代金をたんまり頂こうってわけさ!」

「拉致して、金を要求!なかなかの財テクだろ?」

「興味があるならお前らも聞くか?身代金の分け前は……」

 

そのセリフが最後まで言われることはなかった。

 

「うぎゃあっ!?」

 

シロコとノノミが二名のチンピラを殴って気絶させてしまったせいである。

アビドスは借金があるだけあって、お金に対しての想いは強い。それに、弱い者いじめは許せない性分だ。チンピラの行為はアビドスの逆鱗に触れたのだろう。

 

「悪人は懲らしめないとです☆」

「うん。」

「あ…え?え……?」

 

その早業に、トリニティの生徒は呆然とするのだった。

 

 

 

 

「あ、ありがとうございました。みなさんがいなかったら、学園に迷惑をかけちゃう所でした。それにこっそり抜け出してきたので……」

「あ、申し遅れました。私、阿慈谷ヒフミと言います!」

 

阿慈谷ヒフミと名乗ったトリニティの生徒は対策委員会のみんなにお礼を言う。

対策委員会も弦太朗も、返事として自己紹介をする。

 

「よ、よろしくお願いします!」

「噂には聞いてましたけど、あなたがシャーレの先生なんですね…トリニティで正義実現委員会の皆さんと戦ったっていう……」

「おう、よろしくな!」

 

ヒフミは噂のシャーレの先生を前に少し怖気付いていたが、弦太朗は友好的に接する。

それが弦太朗の魅力。弦太朗の屈託のない笑顔は誰も彼も引き込んでしまうのだ。

 

「あはは…不束者ですが、よろしくお願いしますね。」

 

ヒフミも対策委員会と弦太朗に対する警戒を解き、友情のシルシを交わした。

 

「これでヒフミも、俺のダチだな!」

「ヒフミちゃん、よろしく〜。」 

「……えっと、それで、トリニティの子がどうしてここに?」

「あ、あはは...それはですね...実は探し物がありまして…」

「もしかして……戦車?」

「もしくは違法な火器?」

「化学武器とかですか?」

「えっ?い、いいえ…えっとですね、ペロロ様の限定グッズなんです。」

 

そう言って彼女はカバンからぬいぐるみを取り出す。

一見すると鶏のようであるが、酩酊したかのような目に名前の通り、ぺろりと垂れている舌がついている。しかもオマケに口にチョコミントアイスの飾りがくっつけられているという実に趣味の悪いおまけ付きだった。

そう。一見おとなしそうに見える彼女も、ペロロ様のためならブラックマーケットだろうがなんだろうが、そこにペロロ様がいれば突き進む立派なキヴォトス人なのである。

 

「ペロロ?」

「限定グッズ?」

「はい!これです。ペロロ様とアイス屋さんがコラボした、限定のぬいぐるみ!」

 

ヒフミによると、限定生産100体。それを巡って、ペロロオタクの間で大戦争が勃発し、いつの間にか行方知らずとなってしまったらしいぬいぐるみらしい。それがアビドスのブラックマーケットに流れてきていると知って、学校をサボって来たという。

 

「わあ☆モモフレンズですね!私も大好きです!ペロロちゃん可愛いですよねぇぇ!私はミスター・ニコライさんが好きなんです!」

 

しかし、ノノミだけは理解できるらしい。

 

「分かります!ニコライさんも哲学的なことがカッコよくて!最近出たニコライさんの本善悪の彼方も買いましたよ!それも初版で!」

「いやぁー何の話だか、おじさんにはさっぱりだなー。」

「ホシノ先輩はこういうファンシーなやつには興味ないでしょ。」

「ふむ、最近の若いやつにはついていけん。」

「年の差ほぼないじゃん…(汗)」

「まぁ、普通なら俺くらいのが言うよな。」

 

ヒフミとノノミがいかにも女子高生っぽい会話をする中で、ホシノは年頃のおじさんみたいなことをボヤくのだった。

当然、年齢に差はあんまない。

 

「えっと、ところでアビドスの皆さんと先生は、何故こちらに?」

「私達も似たようなもんだよ、探し物があるんだ~」

「今は生産されてなくて手に入りにくい物なんだけど、ここにあるって話を聞いて。」

「私と同じ感じなんですね、それで、何を探しに?」

 

違法兵器の証拠を探しに来た、だなんて言えない。言ってしまって、ヒフミがトリニティの生徒会であるティーパーティーに報告されたら、アビドスもシャーレも警戒対象に入れられてしまうだろう。

だが、幸か不幸か、災いは降り掛かってきた。

 

『皆さん、大変です!四方から武装した人たちが向かって来ています!』

「へ!?」 

 

アヤネのドローンが的反応をキャッチしたのだ。その正体は、先程、ボコボコにした不良二人とその仲間だ。

 

「望むところ。」

「あぁもう!さっきからこんなんばっかり!」

「こ、今度は私も加勢します!」

「ゾディアーツはいないので、先生は下がっていてくださいね。」

「おう!頼んだぜ!」

 

 

 

 

 

 

 

「いたぞー!」

「さっきはよくもやりやがったなぁーっ!」

「多勢に無勢だ!ボコボコにしてやる!」

 

対策委員会一同とヒフミが武器を構えたタイミングでチンピラ軍団が皆の目に見える距離まで迫ってきた。

そして、戦いの火蓋が切って落とされたわけだが…

 

 

ドカァーンッ!

 

「うぐぐ……」

「ざけんなよ、強すぎだろ……」

 

 

対策委員会とヒフミの前に、一分持たずに倒されてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

「ここまで来れば大丈夫でしょう……」

 

あの場では勝ったが、どうやら不良仲間はまだいたようで、どんどん不良が来ていた。

ぶっちゃけ、その程度ならいくらでも返り討ちに出来るのだが、ヒフミ曰く、ブラックマーケットで騒ぎすぎるとマズいらしく、ここまで逃げてきた一同。

 

「危なかったな…あのまんま戦ってたら、どうなってたか……」

「はい、ブラックマーケットは連邦生徒会の手が及んでいない場所の一つですし、ブラックマーケットだけでも学園数個分の規模に匹敵しますから、決して無視は出来ません。」

 

どうやらヒフミはブラックマーケットがかなり危険な場所であると認識しているらしく、不良を振り切ってもなお、焦燥の顔は消えていない。

しかも、ブラックマーケット専用の銀行やスーパーのような店や組織まである。ブラックマーケットの奥まで知ろうとした者は何人も消されているらしい。

 

「…ふ〜ん、ヒフミちゃんここの事、随分詳しいねぇ……」

「えっ、そうですか?危険な場所なので、しっかり事前調査をしたからでしょうか…?」

 

と、神妙な表情でヒフミをジロジロと見るホシノ。そんな視線に、ヒフミはしどろもどろに身振り手振りで反応する。

しばらく間が空いたと思うと、ホシノはポンと手を鳴らした。

 

「……よし、決めた!」 

「助けてあげたお礼に、私達の探し物が手に入るまで一緒に行動してもらうねー♪」

「え?ええっ?」

「わぁ☆良いアイディアですね!」

「なるほど、誘拐だね」

「はいっ!?」

「誘拐じゃなくて案内をお願いするだけでしょ? 勿論、ヒフミさんが良ければ、だけれど。」

「嫌なら、別に大丈夫だ。みんなにはキツく言っとくし、ブラックマーケットの外まで送る。」

 

最初は雷に打たれたかのような衝撃で固まっていたヒフミだが、セリカと弦太朗に優しく助言され、少し考える。

思考の時間は短く、すぐに結論は出た。

 

「あうぅ…私なんかでお役に立てるかは分かりませんが、アビドスの皆さんにはお世話になりましたし、喜んで引き受けましょう。」

「よーし、それじゃあ、ちょっとだけ同行頼むね~。」

 

こうして、対策委員会のメンバーにヒフミが一時的に加わるのだった。

 

 

 

 

 

 

一方、便利屋68の事務所では、受話器の音がジリリリリと響いていた。

だが、誰も電話に出る気配はない。アルは苦い顔をして受話器を睨みつけ、カヨコはため息を吐き、ムツキはう〜んと唸っている。ハルカは相変わらずオドオドしていた。

 

「アルちゃんどうしたの?電話出ないの?」

「……」

「随分表情が暗いね。ひょっとして、クライアントから?」

「……」

「うわ、そりゃそんな顔にもなるわ。失敗した……なんて言わないといけないんだし。」

「アル様……」

「…くっ……」

 

電話には出づらいし、プロ(自称)として、失敗したという報告は出来ればしたくない。だが、失敗した以上、報告するしかない。無視するわけにはいかないのだ。

アルは意を決して受話器を手に取った。

 

「…はい。便利屋68です。」

「……カイザーPMC理事様。」

 

カイザーPMC理事───────それは、カイザーPMCという軍事会社の代表取締役である。

────────そしてその会社は、カイザーローンと同じ系列の会社でもあった。

アルは彼に任務失敗の報告を始めるのだった。

 

 

 

 

 

「ふむ、興味深い報告だ。」

 

失敗報告を受けた理事だったが、怒ることはなかった。

もしかしたら寛大な性格なのだろうかと、アルは一瞬思ったが、その思いはすぐに打ち消されることになる。

 

「ここまでの練習は拝見したよ。で、実戦はいつだ?」

「うえっ!?あれが実戦だったんです…が……」

「うん?」

「い、いえ!なんでもありません!実戦はすぐにでも……一週間以内には!」

「!?」

「ふふっ……はい、お任せください。」

 

あの男、報告の内容が実戦であるとわかっている上で言っている。何かと抜けているアルでも、そのくらいのことは流石に分かる。

だが、依頼を受けた手前、今更無理ですと引き下がる訳にはいかない。

アルは次こそアビドスを落とすと約束し、電話を切るのだった。 

 

「……社長、まさかまた戦うの?バイトを雇うお金どころか事務所の家賃を払うお金ももうないのに。」

「……あのクライアントは私もよく知らないけど、大物なの。絶対に失敗するわけにはいかないわ。」

「とはいえ、バイトの傭兵抜きでアビドスと戦えるかなぁ……?先生さえいなければって感じだけど。」

「とにかく!このままでは終わらせないわよ……!まずはお金を手に入れないと。だから、融資を受けるわよ!」

 

そのアルの唐突な一言に、ムツキとカヨコは狐につままれたような顔を見せた。

 

「は?アルちゃんブラックリスト入りしてるでしょ。」

「違うわよ!私は指名手配されて口座が凍結されただけ!」

「そうだっけ?……あそっか、風紀委員会にやられたんだよね確か。」

「くっ、風紀委員会め、まさかここまで痛めつけるなんて……!」

「中央銀行に行っても門前払いだろーね。」

「うるさいってば!他にも方法はあるんだから!見てなさい…じゃなくて着いてきなさい!」

 

アルはそう言うと、勢いよく椅子から立ち上がる。他のメンバーはやれやれと言いながらも、アルについて行くのだった。

 

 

 

 

 

「ふむ……」

「奴らの戦力自体は数値通りのはず……計算ミスか?」

「だが、ゾディアーツが返り討ちに遭う程の力があるというのは明らかに…」

 

カイザーPMC理事は便利屋からの報告を受けた後、想定外の事態に唸り声を上げる。

彼は数日前にヘルメット団に渡したリンクスゾディアーツが倒されたという報告を受けていた。故に、リンクスより強いペガサスゾディアーツのスイッチを便利屋に提供した。

だが、多少渡り合えたとは言え、ペガサスゾディアーツすら事実上の返り討ちに遭ったという。

 

「報告にあった先生を名乗る大人が変身した仮面ライダーフォーゼとやらが関係しているのか?」

「────お困りの様ですね?」

「……」

 

理事の後ろには、フォーゼを銃撃して妨害したり、美食研究会にゾディアーツスイッチを提供した黒服が立っていた。

そう。黒服はこのカイザーPMCにもスイッチを流していたのだ。

 

「……いや、困ってはいない、ただ計算に少々エラーが生じた、アビドスの連中の戦力が予想より強かった、それだけの事だ。まさかゾディアーツが2度も返り討ちにされるとは……」

「いえ、このデータに不備はありませんよ。」

「……何?」

「正確には、不備は『なかった』…と言ったほうが正しいでしょうか。」

「……どういうことだ?」

「簡潔に言いますと、アビドスに協力している者がいます。おそらく先程あなたが仰っていた、仮面ライダーフォーゼでしょう。」

「……そいつを知っているのか?」

「えぇ彼がアビドスにどのような影響を与えたのか、はたまた、彼は何者なのか、探りを入れてみるべきかもしれませんね。」

 

黒服はそう言い残し、オフィスから出ていった。

 

「仮面ライダーフォーゼ…先生とは何者だ?」

 

残された理事はそう呟く。そんな彼の手には、ゾディアーツスイッチが握られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、しんど……」

「もう数時間は歩きましたよね?」

「これは流石に、おじさんも参ったな~、腰も膝も悲鳴を上げてるよー」

「えっ…ホシノさん、おいくつなんですか?」

「ほぼ同年代っ!」

「あら……」 

 

と、そんなこんなで歩いていると、ノノミが何かを見つけたようで、進んでいる道から外れた場所を指差す。

 

「あんなところにタイ焼き屋さんが!」

 

ノノミが指差す先には、タイ焼きの屋台が出されていた。

あんこや生地の香ばしい匂いが風と湯気に乗って漂ってくる。それを感じ取ると、お腹が空いてくる。

 

「ホントだ、こんな所にも屋台があるんだね〜。」

「あそこで少し休みましょう、タイ焼き、私がごちそうします!」

 

と、そういうわけで少し立ち止まって、近くのベンチでタイ焼き休憩を楽しむ一同。

 

「ん、おいしい。」

「いやぁ、丁度甘いものが欲しかったところなんだ~」

「あはは…私も貰っちゃって、すみません、有難く頂きますね」

「すみませんアヤネちゃん、アヤネちゃんの分は取っておきますから…」

 

ノノミは申し訳無さそうに宙に浮いているドローンに話しかける。そ室からモニタリングしているアヤネは物理的にタイ焼きが食べられないのだ。

 

『いえ、私は皆さんと違って歩いていないので、机にあるお菓子でも食べておきますね。』

 

とまぁ、暫しのブレイクタイムを楽しんでいたのだが、問題は道は進めど、問題はなにも進んでいないことである。

 

「それにしても、ここまで情報がないなんてありえません…妙ですね……」

「お探しの戦車パーツの情報、絶対どこかにある筈なのに、探しても探しても出てきませんね……販売ルートに保管記録……全て何者かが意図的に隠している様な、そんな気がします。」

 

と首を傾げるヒフミ。結局、探している物が戦車パーツであることはヒフミに話したが、事情を伝えたら納得してくれた。

 

「いくらブラックマーケットを牛耳っている企業でも、ここまで徹底して統制をする事は不可能なはずですし…」

「そんなに異常なの?」

「異常というより、普通、ここまでやりますか?という感じですね。」

「ブラックマーケットに集まっている企業は、ある意味開き直って悪さをしていますから、逆に変に隠したりしないんです。」

 

ヒフミはふと皆から視線を外し、キョロキョロと周りを見る。

そして一つのビルに視線を当てたかと思うと、そこを指さした。

 

「例えばなあそこのビル……あれはブラックマーケットに名を馳せている闇銀行です」

「闇銀行!?」

「闇銀行はブラックマーケットも最も大きな銀行の一つです、聞いた話だとキヴォトスで行われる犯罪の15%の盗品があそこに流されているとか……」

 

横領、強盗、誘拐……様々な犯罪によって獲得した財貨でヘルメット団が使っていたような違法な武器や兵器に使い、それによって戦争や別の犯罪が起こる。

それを助長しているのが、この闇銀行なのだ。

 

「……そんなの、銀行が犯罪を煽っている様なものじゃないですか……」

「その通りです。ブラックマーケットでは、銀行すら犯罪組織のひとつとなっているんです。」

「ひどい!連邦生徒会はなにやってんの!?」

「色々理由があるんだろうねー、どこもそれなりの事情があるんだろうからさ。」

「現実は、思った以上に汚れているんだね、私達はアビドスにばかり気を取られ過ぎて、外の事をあまりにも知らな過ぎたかも……」

「俺もシャーレの先生として、もっとこういうとこにも目を向けねぇと……」

 

ブラックマーケットとは言え、ここもアビドス自治区の一部。ここに限らず、自分たちの知らないところで、徐々にアビドスの侵略が始まっているのかもしれないと、対策委員会の面々は顔をこわばらせ、身震いをする者もいた。

 

『みなさん!北側から武装をした集団の接近が確認されました!』

『もうすぐ視認できる距離まで来ます!バレたと断定はできませんが、ひとまず身を潜めてください!』

 

気を休める暇も、落ち込む暇もないと言わんばかりにアヤネのドローン探知が多くの兵の反応をキャッチする。

アヤネの言う通り、連絡があった直後に、すぐ近くにいると分かるほどの大きさで耳に車のエンジン音と数多の足音が伝わってくる。

整えられた規律のある足音とその数……何かしらの心当たりがあるヒフミが悲鳴を上げるように皆に顔を向ける。

 

「ま、まさかマーケットガード!?」

 

マーケットガードという存在に勘づいたヒフミは先程の穏やかさはどこへやら、我先にと近くの木陰に身を潜める。ブラックマーケットについて調べ尽くしてきたヒフミの異様な慌てっぷりに、対策委員会と弦太朗は何も言わずに隠れる。

 

「ひ、ヒフミちゃん?急に慌ててどうしたんですか…?」

「…マーケットガードはこのブラックマーケットにおける治安機関の最上位組織なんです。もし先程の騒ぎを聞かれていたら……」

 

と、ヒフミは慎重に顔を出し、先程自分たちが座っていたベンチの前まで差し掛かったマーケットガードと、彼らが護衛をしているように見える車を眺める。

 

「……パトロール?護衛中のようですが……」

「トラックを護送してる…現金輸送車だね。」

 

と、銀行強盗を企ていたこともあり、すぐにトラックが現金輸送車だと見抜くシロコ。このまま銀行強盗常習犯に成り下がらないように指導をする必要はあるかもしれないが、そんなことを考える暇もなく、トラックはゆっくりとどこかに進行を続けている。ノノミはふと、現金輸送車が向かっていく方向に目をやる。

 

「あら?あちらにはさっきの闇銀行しかありませんが……」

 

ノノミの言う通り、現金輸送車が走っていく方向にあるのは闇銀行のみ。現金輸送車が銀行に行くというのは何らおかしいことではないのだが、問題は、出てきた現金輸送車の運転手である。

 

「今月の集金です」

「ご苦労様、早かったな、ではこの集金確認書類にサインを。」

「……確認完了、いいでしょう。開けてくれ、今月の集金だ。」

「では、失礼します。」

「見てください…あの人……」

「あれ…?な、なんで!?あいつは毎月うちに来て利息を受け取ってる銀行員……!?」

「あれ、ホントだ。」

 

みんなの言う通り、出てきたのは今朝もアビドスまで来てみんなが汗水たらして稼いだ利子を受け取った銀行員だ。

トラックの車種にナンバー、銀行員が付けているプレートまで全て同じというおまけ付き。

しかしおかしい。なぜその銀行員がブラックマーケットなんかにいるのか……

 

「……どういう事?」

『車もカイザーローンのもの……間違いないですが……』

「か、カイザーローンですか!?」

「ん?ヒフミちゃん、知ってるの?」

「カイザーローンといえば、カイザーコーポレーションの運営する高利金融業者です。」

「有名な…?マズイところなの?」

「あ、いえ、カイザーグループ自体は犯罪を起こしていません、ただ、合法と違法の間のグレーゾーンで上手く振舞っている多角化企業で、トリニティ区域にもかなり進出しているので、生徒たちに悪影響が出ないようにティーパーティーでも目を光らせているんです。」

「ティーパーティー……あのトリニティの生徒会が、ね」

 

怪訝な表情で闇銀行に入っていくトラックを眺めるホシノ。

ゲヘナ、ミレニアムと並ぶマンモス校のトリニティの生徒会が警戒していると知り、自身の中の警戒心も強まったのだろうか。 

 

「……アヤネちゃん、さっき入っていった現金輸送車の走行ルート、調べられる?」

『……試みたのですが、ダメです。全てのデータをオフラインで管理しているようで、ヒットしません。』

「だよねー……」

 

悪徳業者に片足突っ込んでいるカイザーほどの組織がハッキングや情報漏洩の対策をしていないはずがない。最初から期待はしていなかったであろうホシノだが、静かな怒りとため息は隠せていない。

 

「……そういえば、いつも返済は現金だけでしたよね、それはつまり……」

「私たちが支払った現金が、ブラックマーケットの闇銀行に流れていた……?」

「じゃあ何?私たちはブラックマーケットに犯罪資金を提供してたってこと!?」

「……」

 

信じて返金をし続けていたお金は全て犯罪に使われていた、その事実を目の当たりにし、意気消沈してしまう対策委員会の一同。

弦太朗に至っては、今にもフォーゼドライバーを取り出しそうな勢いでキレている。

ヒフミは痛ましそうに口を開いた。

 

「……さっきサインしていた集金確認の書類があれば、もしかしたら証拠になるかも……」

「……でも、考えてみたら、書類はもう銀行の中ですし、無理です……。しかもあそこはブラックマーケットでも最も強固なセキュリティを誇る銀行で、あれだけのマーケットガードが目を光らせてますし……」

「それ以外で集金ルートを確認するには……ええっと……」

どうにかアビドスの力となり、恩返しができないかと試行錯誤するヒフミ。そんな彼女の手に、ポンとシロコの手が置かれた。

「うん、他に方法はないよ。」

「えっ?」

「ホシノ先輩、ここは例の方法しか。」

「なるほど、あれかー。あれなのかあー。」

「ええっ??」

「あ……!!そうですね、あの方法なら!」

「何、どういう事?……ねぇ、まさか私が思ってるあの方法じゃないよね?」

「……」

 

なんとなくシロコの考えている方法に察しがついたのか、ホシノに続いてノノミとセリカも声を上げる。ノノミはニコニコしているが、セリカはどこか慌てたような声でシロコに訴えかける。

シロコは言葉は不要と言わんばかりに目を輝かせてセリカを凝視する。

それで全て理解できた。

 

「……多分、そういうことだよな……」

「う、嘘っ!?本気で!?」

「あ、あのう、全然話が見えないんですけど…あの方法って、何ですか?」

 

わけがわからないといった様子で首を傾げて皆に問いかけるヒフミ。シロコはヒフミの肩に手を置いたまま、片手で器用にカバンを漁ると、例のブツを取り出した。

 

「残された方法はたった一つ。」

「銀行を襲う。」

「はいっ!?」

 

先日作っていた覆面を被ってやる気満々のシロコ。ヒフミはシロコのまさかの発言に、考えるよりも前に思わず声が上がる。

他の反応を伺おうと周りをみると、なんと対策委員会の面々全員がシロコから渡された覆面をつけ、念入りに名札を鞄の中にしまっている。

 

「だよねー、そういう展開になるよねー。」

「わぁ☆そしたら悪い銀行をやっつけるとしましょう!」

「はぁー、もう……マジでやるってんなら、とことんまでやるしかないか!銃に弾詰めて、脅し文句も考えるわよ!」

「こうなったら止めても聞く耳持たないでしょうし、どうにかなる……いえ、、どうにかしましょう!!」

「……」

 

意気揚々と準備を進める一同だったが、弦太朗は流石に考えた。闇銀行と言えど、流石に強盗は……と。

そうやって考える中で、弦太朗は少し前に聞いたとある友達の言葉を思い出す。

その友達は今やインターポールの捜査官をやっているのだが……

 

 

『世界中の犯罪を追いかけていると、闇銀行や運び屋組織と激突することあってな。』

『普通なら色々と調査をするものだが、緊急を要するときや凶悪性が高い闇組織を調査する時、重要な書類や資料の奪還時は、正面から襲うのも一つの手だ。』

 

 

その言葉を思い出し、弦太朗の決意は固まった。これはお金目的の行為ではなく、お金を不正に騙し取られたことの証拠の獲得。更に、犯罪の未然阻止だ。

……うん、大丈夫だな。と、弦太朗は納得してみる。

そしてなんと、弦太朗すらも白い覆面をつけた。額に書かれた数字は40。

 

「俺が全責任を取る。ただし、怪我せず怪我させずだぞ。」

「あわわわわ……」

 

しかし、未だに戸惑いっぱなしの生徒が一人。ヒフミはとんでもないことになってしまったと頭を抱えだす。

 

「ごめんヒフミ、あなたの分の覆面は準備が無い。」

「うへー、って事はバレたら全部トリニティのせいだって言うしかないねー。」

 

そこに追い打ちをかけるシロコとホシノ。そもそも覆面を持っていることも意味不明であるし、況してやここはブラックマーケット。冗談で済ませるつもりとも思えない。

 

「えぇっ!?そ、そんな……覆面…なんで、えっと、だから……あ、あぅ……」

「それはかわいそうすぎます。」

「ヒフミちゃん、取り敢えずこれでもどうぞ☆」

「えっ?あの、ちょっと……?」

 

と、ヒフミに先程買ったタイ焼きの袋を半ば強引に被せるノノミ。ヒフミは何を被せられたか分からず、被せられた袋を両手であちこち触る。

 

「ヒフミちゃん似合ってるぅ!タイ焼きの紙袋!」

「ん、完璧」

「ちゃんと番号も書いておきました、ヒフミちゃんは五番です☆」

「見た目はラスボス級じゃない?悪の根源だねー、親分だねー。」

「や、闇銀行の襲撃、私もご一緒するんですか?」

「そりゃもちろん。今日は私と一緒に行動するんだから、一蓮托生だよねー。」

「…もう私、生徒会の人たちに見せる顔がありません……」

「問題ないよ!私らは悪くないし!悪いのはあっち!だから襲うの!」

「それじゃあ先生、例の台詞を。」

「対策委員会とヒフミと俺!出撃だぜ!」

「おーッ!」

「お…おっー……?」

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました、お客様。」

 

一方その頃、便利屋は不正な闇銀行で融資の審査を受けていた。朝早くから出発し、もう昼過ぎになった頃にやっと結果が来た。

 

「何が『お待たせしました』よ!?本当に待ったわよ!6時間も!ここで!融資の審査になんで半日もかかるの!?別に他に客いないのに!私の連れなんか、あそこのソファーで寝ちゃったし!」

「私共の内々の事情でして。ご了承ください。それに、お客様はそのような態度を取れる状況にはいないのでは?」

「あ、うう……」

 

アルは押し黙る。アルは表側の銀行口座が凍結されている身。

ここで逆らったら、融資も何も受けられない。

 

「融資を受けたいのであれば、辛抱強くお待ちいただくことも大事かと。それとお客様、お連れの方ですが、あそこで眠られては困ります。」

「警備の方、起こして差し上げなさい。」

 

パチンッと店員が指を弾く。雇われのヘルメット団が寝ている便利屋の面々を強引に叩き起こした。それは、ここから先の警告とも取れる。

 

「ほら、起きた起きた!」

「むにゃ……うは!?なになに!?」

「……!」

「あぁっ、す、すみませんっ!居眠りしてすみません!」

「み、みんな……」

「さて、では一緒にご確認を。お名前は陸八魔アル様、ゲヘナ学園の2年生ですね。便利屋68の社長……とのことですが、これはペーパーカンパニーでは?書類を見る限りでは、財政が破綻していると言わざるをえませんが。」

「ちゃ、ちゃんと稼いでるわよ!まだ依頼料を回収出来てないだけで…」

「それと従業員は社長含めて4名との事ですが、課長、室長、平社員と……銘打ってはいるものの、各肩書に対する具体的な業務内容や差別点はなし。意味のない肩書きの無駄遣いでは?会社ごっこでもしているのですか?」

「ち、違うわよ!肩書があったほうが仕事の依頼が来やすいというか……!」

「はいはい、つまりは『それっぽさ』があるからでしかないと。次ですが、必要以上に事務所の賃貸料が高いですね。財政状況に見合った物件を選ばなければ、例え事業計画や業務内容がしっかりしていても破産までは時間の問題になります。」

「纏めますと、これでは融資は難しいですね。融資どころか投資…社内ベンチャーも厳しいかと。」

「そ、そんな……」

「まずはより堅実な職を探し、就職しては?日雇いや期間工など、手っ取り早く始められるものもありますが。」

「……っ!」

 

銀行員からの冷たいその言動にアルが感じたのはショックと怒り。人を侮辱し、自分の下の存在として見る横柄な態度。きっとそれを目の前にいる無機物はどうとも思っていないのだろうが。アルにとっては耐え難いものがあった。

 

(ムカつく……もう大暴れして銀行のお金持ち出してやろうかしら……?いや、ここからお金を持ち出せたとしてもブラックマーケットから抜け出すのは至難の業、マーケットガードがあんなにいるんだから。)

(でも案外、実力はそんなでもなかったりするのかも……私たち4人なら、全員叩きのめして……いや無理…ブラックマーケットを敵に回すなんて、そんな勇気ないわ……)

(くそっ…何よこれ、情けない……キヴォトスで一番のアウトローになるって心に決めたのに、私は……)

(融資だとかなんとか、つまらない事ばかりにずっと悩ませて……私が望んでいるのはこれじゃない、何事も恐れず、何事にも縛られない、ハードボイルドなアウトロー…そうなりたかったのに……)

 

悔しさで唇を噛むアル。そんなアルの感情に強く反応するかのようにあのポケットの中にあるゾディアーツスイッチが強いエナジーを発するが、彼女はそれに気づかない。

否、気づくよりも前に、事態は起こった。

 

「な、何事ですか!?停電!?」

「一体誰が、パソコンの電源も落ちたぞ!?」

 

突然、銀行のすべての電気が落ちた。銀行員と来ていた客が混乱したのも束の間。銀行中に銃声の音が響き渡った。

今度はそれに驚く間もなく、無数の大理石の床を踏む足音とマーケットガードたちの悲鳴が聞こえる。

しばらくの間怒号と悲鳴でいっぱいだった銀行内だが、そう時間が立たない内に静かになる。

次の瞬間、パッと電気が点いたかと思うと、そこには、覆面を着た謎の集団が立っていた。

その内の一人、2番のシロコは銃を天井に向け、もう一発発泡する。

 

「全員その場に伏せなさい!持っている武器は床に捨てて!」

「言うこと聞かないと、痛い目に遭いますよ☆」

「あ、あはは……皆さん怪我しちゃいけないので、伏せていてくださいね…」

「ぎ、銀行強盗!?」

「非常事態発生!非常事態発生!」

 

便利屋を担当していた銀行員が外へ通報しようと身体に埋め込まれている電子機器を通して連絡を入れようとする。しかし、そんなモノは無意味である。

 

「無駄だよ〜、外部に通報される警備システムの電源は落としちゃったからねー。」

 

と、ホシノは呑気に銀行員に脅しかけると、銀行員はもはや怯えることしかできない。

外部通報の電源は、フォーゼがレーダーモジュールでの解析の元、ハンドモジュールの高性能AIが完全に解除してしまった。

しかも近くにある監視カメラはシッテムの箱のハッキングにより証拠など残らない故に、先生がこれに協力したことなど、バレる心配はゼロである。

もちろん、こんなことはこれっきりであるが。

 

「ほらそこ!!伏せてってば!下手に動くとあの世逝きだよ!?」

「皆さん、お願いだからじっとしててください…あぅう……」

 

セリカとノノミとホシノは銃を片手に脅しをかけ、銀行員たちを次々と伏せさせ、携帯の類を没収する。

ヒフミは相手の気を遣って色々言っているが、それが余計周囲の恐怖を引き立てる。

そしてアヤネが銀行のシステムを落とす。もうすぐシャッターも落とされるだろう。

隙を見て逃げようにも、入り口前には弦太朗。完璧な布陣である。

 

「ここまでは計画通り!次のステップに進もうー!リーダーのファウストさん!指示を願う!」

 

と、ホシノはヒフミにそう言うが、当然ヒフミは心外だ。

「えっ!?えっ!?ファウストって、わ、私ですか!?リーダーですか?私が!?」

「リーダーです!ボスです!因みに私は覆面水着団のクリスティーナだお♧」

「うわ何それ!いつから覆面水着団なんて名前になったの!?ダサ過ぎだし!それと『だお』って何、『だお』って!?」

「うへ、ファウストさんは怒ると怖いんだよー?言う事聞かないと怒られちゃうぞー?」

「あう…リーダーになっちゃいました……これじゃあティーパーティーの名前に泥を塗る羽目に……」

 

 

 

 

「あれ、あいつら……」

「あ…アビドス……?」

 

もちろん銀行に来ている便利屋一行もその様子を見ている。

当然ブラックマーケットの闇銀行の襲撃などという思いつくこと自体がおかしい行動を目の当たりにし、カヨコどころかムツキですら訝しさで首を傾げている。

 

「だよね、アビドスの子たちじゃん。覆面なんかしちゃって何やってんだろ?知らない顔もいるけど……」

「ね、狙いは私たちでしょうか!?なら返り討ちに……!!」

「いや、ターゲットは私たちじゃないみたいだけど……」

「アルちゃんは何してるのさー?」

 

 

 

 

「監視カメラの死角、警備員の人数と動線、銀行内の構造、全て頭に入ってる。無駄な抵抗はしないこと。」

「そこのあなた、このバッグに少し前に到銀行員「わ、分かりました!何でも差し上げます!現金でも債券でも金塊でもいくらでも持ってってください!!」

「そ、そうじゃなくて、集金記録を……」

 

シロコが言い終わるより前に、銀行員はカバンをぶんどるように受け取ると、奥に向かって走り、何束かのお札がしわくちゃになる勢いでお札をカバンに詰める。

それをシロコに押し付けるように渡した。

 

「ど、どうぞ、これでもかと詰めました!どうか命だけは!」

「あ…う、うーん……」

 

 

 

 

「か、かっこいい…!」

 

その一部始終を目撃していたアルはというと、目を輝かせて尊敬の眼差しを向けていた。

 

(や、やばーい!この人たちなんなの!?ブラックマーケットの闇銀行を襲うなんて!どう逃げるつもりなのかしら!?いえ、それ以前にこんな大胆な計画を立てちゃうアウトローが未だに実在するなんて!めちゃくちゃ手際いいし、超プロフェッショナル!まるでこのためだけに生まれてきたみたい!ものの5分でやってのけたわ!)

(か、かっこいい…!シビれるっ!これぞまさに真のアウトロー!うわぁ…な、涙出そう!)

(こ、これは私も負けてられないわ……!!)

 

正体が対策委員会であることなどつゆ知らず、場違いなまでに興奮をして一人で盛り上がるアルに、流石に3人は呆れ顔である。

 

「全然気付いてないみたいだけど……」

「むしろ目なんか輝かせちゃって。」

「わ、私たちはここで待機でしょうか?」

「私たちにアビドスも銀行も助ける理由はないし、社長もあんな状態だから、ひとまず隠れていようか。」

「は、はい。」

「あれ?でもアルちゃんなんかやって……」

 

 

 

 

「あの、シロ…い、いや、ブルー先輩!ブツは手に入った?」

「あ、う、うん。確保した。」

「それじゃ逃げるよー!全員撤収!」

 

ホシノはシロコが持っているパンパンに膨らんだカバンを確認すると、もうここに用はないと撤収を促す。

 

「アディオ~ス☆」

「け、怪我人は居ないようですし……すみませんでしま、さよならっ!!」

「目には目を、歯には歯を、無慈悲に、孤高に、我が道の如く魔境を往く────それが私たち覆面水着団!覚えといてねー。」

 

ドタドタと、特にヒフミは他より大きな足音を立てて銀行から撤退していく。

ホシノの2秒で考えた謎のモットーを最後に、覆面水着団は完全に銀行から消えた。

 

「や、奴らを捕らえろ!道路を封鎖!マーケットガードに通報だ!一人も逃がすな!!」

 

対策委員会がいなくなった後、銀行員は焦りと怒りを混ぜながら叫び散らした。

 

 

 

 

 

「待てー!」

「逃がすかー!」

「う、うわあぁぁっ!?追ってきましたぁ!?」

 

銀行から逃げ、ブラックマーケットの出口を目指す一同だったが、銀行員が呼んだ警備員たちが銃を片手にすぐに追ってきた。

全力で逃げるが、このまま逃げていても学校まで追ってくるだろう。

 

「よし、ここで倒しちゃおう。」

「はいっ!?あの方たちと正面からやり合う気ですか!?」

「大丈夫大丈夫〜うちの子みんな強いから〜」

 

慌てるヒフミに対して、ホシノは余裕の表情だ。その証拠に、対策委員会メンバーは向かってくる警備員を片っ端から倒している。

 

「み、皆さん、やっぱりお強いんですね。」

「おう。みんな強くてすげぇんだ。」

「ぐはっ!?」

「ぐわあぁぁっ!?」

「つ…強い!?」

「まだまだ行きますよ〜☆」

「ほらほら!そんなんじゃ勝てないよ!」

 

あっという間に、何人もいた警備員はほんの数人にまでなっていた。一方の対策委員会一同は無傷だ。

 

「お前達何をしてるんだ!」

「?」

 

そこに、警備員たちのリーダーの警備長らしき人物がやってきた。

 

「強盗ごときに何をやってる!もういい、私がやる!」

『皆さん気を付けてください!あの見た目、おそらく警備隊のリーダーです!』

「お前たち…一人残らず逃さんぞ!」

 

警備長はそう言うと、懐からゾディアーツスイッチを取り出した。

 

「!あれは……!」

「ゾディアーツスイッチ!ブラックマーケットにも流れてたのか!?」

「へっ?はい?」

 

警備長は銃を投げ捨て、ゾディアーツスイッチを押した。

すると、警備長の体はコズミックエナジーに包まれ、身体がゾディアーツに変化する。

 

「ひ、ひぃぃぃぃっ!?」

 

ゾディアーツを初めて見たヒフミは腰を抜かした。

噂では聞いているはずだが、現物は迫力が違う。その上、トリニティにはまだゾディアーツは出没していない。

この反応も当たり前だろう。だが、対策委員会メンバーは割と慣れている。

 

「!」

「出たわね!」

 

何食わぬ顔でゾディアーツを睨むと、銃口を向ける一同。しかし、真っ先にゾディアーツに銃弾を撃ち込んだのは対策委員会の誰でも、ましてやヒフミでもなかった。

 

「へっ?」

「今のは……」

 

と、後ろを振り返る一同。そこに立っていたのは、先程目を輝かせながら銀行強盗の一部始終を見届けたゲヘナの生徒…

 

『、あの人って……!』

「陸八魔アル…!?」

 

便利屋68のアルが決め顔で煙が出ている銃口をゾディアーツに向けていた。

 

「さっきの銀行の襲撃見せて貰ったわ。ブラックマーケットの銀行をものの五分で攻略して見事に撤収、アナタ達、稀に見るアウトローっぷりだったわ!」

「正直、凄く衝撃的だったというか、このご時世にあんな大胆な事が出来るなんて、感動的と言うか……!」

「え、えぇ……」

「私もそんなアウトローになりたいの!だから、手伝わせてちょうだい!加勢するわ!!」

 

と、アルは憧れと対抗心が混ざりあった瞳を皆に向けると、懐からゾディアーツスイッチを取り出し、スイッチを押した。

 

「さぁ!特訓がてら勝負よ!」

 

ペガサスゾディアーツとなったアルはトントンと足で地面を鳴らすと、相手のゾディアーツに蹴りかかった。

 

「えっと…どうする?」

 

と、振り向いて問いかけるシロコ。予想外の事態にポカーンとしていた一同はハッとする。

 

「え、えっと、まぁ逃げればいいんじゃない?」

「なんか盛大な勘違いをしてるっぽいけどねー。」

「ともかく、ラッキーなことに変わりはありません!早く逃げましょうっ!!」

 

目の前で戦闘している2体のゾディアーツを一瞥して出口まで走っていくヒフミ。仮にもリーダーの判断であるし、それに従って他の皆も出口へ向かっていく。

そんな中で、弦太朗だけ、ゾディアーツを見据えながら、しんがりのホシノに耳打ちする。

 

「俺はアイツをどうにかしてから行く。アビドスで落ち合うぞ。」

「……了解。」

 

弦太朗は皆が走り去ったのを確認すると、誰もいない物陰に隠れた。

 

「あいつは……」

 

弦太朗はペガサスと戦うゾディアーツに見覚えがあった。しかも最近。

あれは、ハウンドゾディアーツ。ユウカと共闘して倒した、ミレニアムでスケバンが変身したゾディアーツだ。

 

「とにかく、やるか!」

 

弦太朗はフォーゼドライバーを腰に巻き、スイッチを入れる。

 

「変身!」

「行くぜ!」

『先生!』

 

弦太朗はフォーゼに変身し、飛び出していこうとするが、それをアロナが止めた。

 

「アロナ?」

『今のアビドスの人たちは端から見れば強盗団です!ここで先生が加勢して、変な噂を広められたら……』

 

確かに、可能性は十分にある。ゾディアーツを倒せる力があるフォーゼを、ブラックマーケット側も危険視している筈だ。出来るものなら始末したいと思っているだろう。もし今、邪魔したら、間違いなくブラックマーケット側はフォーゼの悪評を捏造しようとするだろう。

先程は監視カメラに対してだったから有効だったが、シッテムの箱やフォーゼシステムといえど、記憶の改変はできない。

だが、フォーゼにも策はある。

 

「だったら……」

 

 

 

 

 

 

「そこをどけ!」

 

ゾディアーツVSゾディアーツにおいては、経験や生身の戦闘能力、周辺の環境が物を言う。最初こそは遮蔽物を利用して立ち回っていたペガサスだったが、地の利は向こうにあり、流石にきつい。

ペガサスは息切れしながらも構えを取る。そしてまた拳と脚がぶつかり合う……その刹那。

 

『ロケット』

『リミットブレイク!』

 

「ぐわっ!?」 

 

突然、ハウンドがブラックマーケットの外の方まで吹っ飛んだ。

 

「へっ!?なになに!?」とペガサスは驚くが、すぐに気を持ち直してハウンドを追いかけていった。

 

 

 

 

 

ブラックマーケットの外……というより、ブラックマーケットからかなり離れた無人の港まで、ハウンドは吹っ飛ばされてきた。いや、吹っ飛ばされた…というよりは、何かに突かれて飛んできたような…

 

「あ、ゾディアーツ!!」

「……!?」

 

ハウンドが立ち上がると、すぐ目の前にフォーゼがいた。

フォーゼはステルスモジュールで姿を隠し、ロケットモジュールのリミットブレイクの加速で5秒の間にハウンドをここまで連れてきたのだ。

しかし、今のフォーゼの言い振り的に、偶然ゾディアーツを見つけたように見える。如月弦太朗、迫真の演技である。 

 

「こ、こんなところにたまたま、ぞでぃあーつが!!」

「ぞ、ゾデアーツは見過ごしちゃオケネーゼ!!」

『先生、演技下手……』

「お、オッホン!とにかく!タイマン張らせてもらうぜ!」

 

ホシノにかっこよく宣言し、勢いよくハウンドを連れてきたは良いものの、ここまで来て締まらずにため息をつくアロナ。意外にもこれでバレていない。フォーゼは咳払いをしてごまかすと、ハウンドに殴りかかった。

そんなに時間はかけていられない短期決戦が必須だ。

 

『スモークオン』

 

「おりゃっ!」 

 

フォーゼはスモークモジュールを装備し、自分とハウンドを煙で隠した。

 

「……!?」

 

ハウンドは理由もわからずに煙の中でウロウロする。

そんなハウンドの耳に、終わりを告げる音声が響いた。

 

『リミットブレイク!』

 

「!」

 

気付いた時にはもう遅かった。ハウンドの目の前には、デカいドリルが迫っているではないか。

 

「ライダーロケットドリルキーック!」

「ちょっ待っ……ぐわあぁぁぁっ!」 

 

フォーゼのライダーロケットドリルキックを喰らい、ハウンドゾディアーツは木っ端微塵に爆発し、ついでとばかりにスイッチも砕けた。

 

「うし。」

 

かくして、フォーゼがブラックマーケットにいたという事実は、銀行強盗を企てた本人たちを除き、誰にも知られることなく幕を閉じたのだった。

 

 

 

「あ、あれ……?」

 

フォーゼが港から戻っていった数分後、ペガサスことアルがようやく港まで走ってきていた。

しかし、もう戦いは終わっている。ペガサスは呆けた声を出しながらその場でキョロキョロするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、覆面水着団一行は無事、警備員の包囲網から脱出することが出来た。

 

「はひー、息苦しい。もう脱いでいいよね?」

 

もううんざりであるとばかりに乱暴に覆面を脱ぐセリカ。それに続いて、シロコ以外の全員が覆面を脱ぐ。

だが、ここはまだブラックマーケットの敷地内。決して油断はできない。

 

「のんびりしてらんないよー、急げ急げ。追っ手がすぐ来るだろうからー。」

「出来るだけ早く離れないと……もうすぐ道路が封鎖されてしまうかも……」

「……あの、シロコ先輩、覆面脱がないの?邪魔じゃない?」

「……」

 

セリカに問われても、シロコに覆面を外そうとする様子はない。それどころか、お気に入りのぬいぐるみを抱くように可愛がってすらいる。 

 

「天職を感じちゃったっていうか、もう魂の一部みたいなものになっちゃって、脱ぎたくないんじゃなーい?」

「シロコ先輩はアビドスに来て正解だわ、他の学園だったら、物凄い事やらかしてたかも……いや、やってるわね、確実に。」

「そ、そうかな……」

 

自分の後輩にまさかの断言を下されたシロコ。流石に恥じらいを感じたのか、シロコは静かに覆面を脱いだ。

それを教室から聞いていたアヤネ。アヤネもまた、覆面をつけっぱなしにしていたのだが、セリカとシロコの会話を聞いて、頬を赤らめながら覆面を脱ぐのだった。

 

 

 

 

『封鎖地点を突破。この先は安全です。』

「やった、大成功!」

 

数分経ち、ブラックマーケットの敷地から完全に脱出した一同。安堵のため息を吐いたり、息を切らして膝を押さえていたり、あくびをしたりと、反応はそれぞれである。

 

『にしても本当にブラックマーケットの銀行を襲ったなんて、まだ実感がないですが……』

「シロコちゃん、集金記録の書類はちゃんと持ってるよね?」

「う、うん、バッグの中にあるにはあるんだけど……」 

 

ホシノの確認に対し、シロコは何故かバツが悪そうに返事をする。それを皆が疑問に思っていると、シロコは静かにバッグのチャックを開ける。

 

「……へ!?」

「うわっ!?」

「嘘でしょ!?」

「なんじゃこりゃ!?カバンの中に…札束が……!?」

「うえええええっ!?シロコ先輩、現金盗んじゃったの!?」

「ち、違う、目当ての書類はちゃんとある。このお金は銀行の人が勘違いして勝手に…」

「どれどれ……うへ、軽く1億はあるね。本当に5分で1億稼いじゃったよー。」

 

と、ホシノは札束を取り出して眺めながら嘆息する。

一方のセリカは大喜びである。目を光らせてバッグの中の札束を眺める。

 

「やったあ!!何ぼーっとしてるの!運ぶわよ?」

『ちょ、ちょっと待ってください!そのお金、使うつもりですか!?』

「うん、これで少しでも借金を返さなきゃ!」

『そんな事したら…本当に犯罪だよ、セリカちゃん!!』

「は、犯罪だから何!?そもそもこのお金は私たちが汗水流して稼いだお金なんだよ!それがあの闇銀行に流れてっただけ!」

「それに、そのままにしておいたら、犯罪者の武器や兵器に変えられてたかもしれない!そんな悪人のお金を盗んで何が悪いの!?」

 

アヤネは諭すようにセリカを説きつけるが、お構いなしに叫ぶセリカ。そんなセリカに同調する声がまた一つ……

 

「私はセリカちゃんの意見に賛成です、犯罪者の資金ですし、私たちが正しい使い方をした方が良いと思います。」

 

ノノミだ。決してお金に目がくらんでいるわけではなく、危険なことに使われるよりは、という発想だろう。まさかの先輩からのセリカヘの同意。アヤネは言い黙ってしまう。

 

「ほらね!これさえあれば、学校の借金をかなり減らせるんだよ!?」

 

勢いづいたのか、セリカはもうこの一億円を返済に充てることは決まったこととでも言うようにまくしたてる。

そんな状況に一石を投じようとしたのか、ホシノが口を動かした。

 

「んむ……それはそうなんだけど、シロコちゃんはどう思う?」

「自分の意見を述べるまでもない、ホシノ先輩も、今はいないけど先生も反対するだろうから。」

「へっ!?」

 

即答だった。あれだけ銀行強盗にやる気を出していたシロコが。ホシノから圧力があるわけでも、ましてや脅されているわけでもない。我慢をしている様子もなく、まっすぐに毅然とそう言っていた。

そんなシロコに、ホシノはゆっくりと拍手を送る。

 

「うへ、流石シロコちゃん、私の事、分かってるね。」

「私達に必要なのは書類だけ、お金じゃない。」

 

次にホシノはセリカとノノミに、いつもとは雰囲気が違う、本当に真面目な顔を向けてそう言い放った。その剣幕に、勢いづいていたセリカも思わずたじろぐ。

 

「これは悪人の犯罪資金だから良いかもしれないけど、その次はどうするの?こんな方法に慣れちゃうと、繰り返す内に平気で同じことをするようになるよ。そしたら、ピンチになるたんびに『仕方ないよね』とか言いながら、やっちゃいけないことに手を出すようになると思う。」

 

そこまで言うと、ホシノはいつものゆるい表情に戻る。だが、全身から感じられるその真剣さは抜けていなかった。

 

「うへ~、このおじさんとしては、可愛い後輩がそうなっちゃうのは嫌だなー。先生も、大切な生徒が、そんなことを始めるのは嫌だと思うし、変身してでも止めに来ると思うよ?」

 

少し優しくなったのも束の間、またキッと突き刺すようにセリカを見据える。

 

「そんな方法で学校を守ったって何の意味もないよ。」

「こんな方法使うんなら、最初からノノミちゃんのゴールドカードに頼ってたよ。そうでしょ、ノノミちゃん?」

 

その視線はノノミに向く。ノノミは過去の何かを思い出した中、すっかり意気消沈して、静かに口を開く。

 

「……言われたこと、今でも覚えています。いくら頑張っても、きちんとした方法で返済しない限り、アビドスはアビドスじゃ無なくなってしまうと。」

「うへ、そういうこと。だから、このバッグは置いてくよ。頂くのは必要な書類だけね、これは委員長としての命令だよー。」

 

もはやセリカに同調する者はいなかった。5対1の状況になり、返す言葉もないセリカは「あぁあぁーーっ!!」と叫びながら頭を掻き毟った。

 

「あぁぁもう!分かったわよ!私が悪かった!お金はいらない!」

「でもやっぱりもどかしい!意味わかんない!こんな大金を捨てる!?変な所で真面目なんだから!」

「他のみんなも、異論ないね?」

「委員長としての命令なら。」

「えっと、私はアビドスさんの事情はあまり知りませんが、このお金を持っていると、何か他のトラブルに巻き込まれるかもしれません……災いの種、みたいなものですから。」

「あは…仕方ないですね、このバッグはここら辺に置いときましょうか。」

「ほい。」

 

と、ホシノは持っているバッグを近くの電柱にボスっと置いた。

 

「未練はあるけど……もういいわ吹っ切れた!ここに用はないし、さっさとトンズラするわよ!」

「ん、それは賛成。」

「行こう!夕陽に向かって!」

「夕陽、まだですけどね……」

 

なかなかにコメディチックな会話をしながら帰っていく覆面水着団。そんな彼女らを、遠目からカヨコとムツキとハルカは見ていた。

 

「アルちゃん急に走り出したと思ったけど、ここにはいないみたいだねぇ……」

「社長がなんか動き出したの、もっと早く気付くべきだった…」

「とりあえず探しに行こっかー。」

 

と、覆面水着団にの背に背を向け、反対方向へと歩き出す2人。そんな2人とは裏腹に、ハルカの目は電柱の近くにあるナニカを捉えていた。

 

 

 

 

 

 

無事に銀行強盗を終え、いよいよ持って帰った集金記録を確認していた一同。なのだが……

 

「な、なにこれ!?一体どういう事なのっ!?」

 

対策委員会の部室で、セリカの大声と机を強く叩く音が響き渡った。

 

「現金輸送車の集金記録にはアビドスで788万円集金したと記されてる。私達の学校に来たあの輸送車で間違いない。……でも、その後すぐにカタカタヘルメット団に対して『任務補助金500万提供』って記録がある……」

 

その理由はそう。集金記録表に、この前撃退したカタカタヘルメット団の名前があったからだ。しかも、支援、という形で。

 

「それって、私たちのお金を受け取った後に、ヘルメット団のアジトに直行して任務補助金を渡したって事だよね!?」

「任務だなんて、しかもヘルメット団に……?」

「…ということは、まさかヘルメット団を手引いていたのは、カイザーローン!?」

「けど、その任務って、アビドスを襲わせること…だよな?そんなことして、何が……?」

 

今の会話の通り、この記録が偽造されたものでなければ、カイザーローンはあの手この手でアビドスを潰そうとしていることになる。しかし、弦太朗がボヤいた通り、それをするメリットが思い浮かばない。そんなことをしたら、むしろ借金の取り立てができなくなり、カイザーローン側が損をするはず……

 

「この件、銀行単独の仕業じゃなさそうだね。カイザーコーポレーション本社の息がかかってるとしか思えない。」

「……はい、そう見るのが妥当ですね。」

カイザーコーポレーションにカイザーローン……アビドスを襲う脅威の黒幕の正体がだんだん分かってきた。

 

だが、こんなことをして、その延長線上に何を求めているのだろうか……

弦太朗は考えてみるが、結論は出ないままだった。

 

 

 

 

「みなさん、色々とありがとうございました。」

「変な事に巻き込んでごめんなさい、ヒフミさん。」

 

結構勝手にあっちこっちにヒフミを連れて行ったことに、今になって罪悪感を覚えてきたのか、頭を下げるノノミとアヤネ。そんな2人を、「まぁまぁ」とヒフミは制した。

 

「あ、あはは……」

「今度遊びに行くから、その時はよろしくー」

「はいっ、もちろんです。」

「まだ詳しい事は明らかになっていませんが…これはカイザーコーポレーションが、犯罪者や反社会勢力と何かしらの関連があるという事実上の証拠になり得ます。」

「戻ったらこの事実をティーパーティーに報告します!それと、アビドスさんの現在の状況についても…」

 

ヒフミは今日の経験を経てどこか気合が入ったのか、それともアビドスの力になりたいのか、このことをティーパーティーに報告する気マンマンだ。

だが、ホシノは特に大きなリアクションはせず、のんびりと口を開く。

 

「ま、ティーパーティーはもう知っていると思うけどね。」

「えっ?」

 

と、素っ頓狂な声を上げるヒフミ。世間知らずな面が大きいヒフミからすれば、ティーパーティーといえど、他の自治区の情報まで握っているとはあまり信じられないだろう。

 

「あれ程の規模を持つ学園の首脳部なら、それくらいはもうとっくに把握してると思うよ。みんな、お茶飲んで遊んでばかりじゃないだろうしさ。」

「そ、そんな…知っているのに皆さんの事を……」

「うん、ヒフミちゃんは純真で良い子だね。でも世の中、そんなに甘くないからさ。」

「向こうも忙しいってのもあるだろうけど、アビドスみたいな弱小校なんて、トリニティみたいなマンモス校の前じゃなぁんにもできないからさ、サポートって名目で悪さをされても、阻止する力がないんだよねー。」

「もちろん、ヒフミちゃんを疑う気はないけど、万が一ってこともある……それをスルーしたから、アビドスはこの有様になっちゃったんだよ」

 

きっぱりとそう告げるホシノ。その表情は、セリカを説教したあの時と瓜二つ。

まるで、自分が経験したかのような説得力がそこにはあった。

それを正面から聞き、自分が何を言っても無理だと判断したヒフミは、話題の転換を狙う。

 

「えっと…本当に、一日で色んなことがありましたね。」

「そうだね、楽しかった」

「……楽しかったのはシロコ先輩だけじゃないの?」

「いやぁー、ファウストちゃん、お世話になったね。」

「よっ、覆面水着団のリーダー!」

「そ、その呼び方はやめて下さい!」

 

最後までホシノとノノミには弄り倒されてしまったヒフミ。ただ、そこに確かな友情は芽生えていたのか、最初と違って赤面よりは笑顔のほうが勝っている。

 

「と、とにかく、これからも大変だとは思いますが、頑張って下さいね、応援してます!」

「……では!またどこかで!」

 

ヒフミはそう言い残すと、トリニティの自治区がある方向へ向かって走り去っていった。途中ヘルメット団に襲われないか、一抹の不安はあるが、一人でブラックマーケットまで赴き、銀行強盗を経験した彼女なら心配はいらないだろう。

 

「さて、皆さんお疲れ様でした、今日はゆっくり休んで、明日改めて集まりましょう。」

「じゃ、今日のとこは解散〜」

 

そんなこんなで、今日という日も終わっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

一方その頃………

「なあああああにいいいいーーっ!!??」

「覆面水着団がアビドスですってええっ!!??」

「あはは!アルちゃんめっちゃショック受けてんじゃん!超ウケる〜!」

「はあ…やっぱり気づいてなかったのか……」

 

あの後、港の埠頭で途方に暮れていたアルを見つけ出した3人。アルは二人から覆面水着団の正体をバラされ、白目をひん剥いて絶叫するのだった。

 

「あ、あの……」

 

そんな中で、ハルカは電柱の影に置いてあったバッグをアルの前にドサッと置いた。どうやら拾ってきたようだ。

 

「このバッグ、どうしましょう?アビドスが置いて行ったみたいなんですけど……」

「アビドスが?忘れ物かな?何が入って……?」

 

ムツキはしゃがみ込み、バッグの中身を覗き込む。それに釣られて、他の3人もバッグの中を除くと……

 

「……!?」

「ひょええ!?」

「ええええーっ!?」

「これ、アビドスが盗んで行ったお金……!?なんでこんなところに……!?」

 

中に入っていたのは、当然ホシノの命令で対策委員会……ではなく覆面水着団が置いて行った一億円。

そんな事情を、便利屋68の面々が知るはずもなく、大慌てである。

 

「えっと……もしかしてこれでもう食事抜かなくてもいいんですか?」

「そういう問題じゃないわよ!!どうしろってのよこんな大金!!私たちで銀行に返しに行けって言うの!?いや喧嘩売った矢先もう無理じゃない!?どうするのよこれ!?いや欲しいけど!欲しいけど!!」

「こんなんで得るお金って何よーーーー!!!!」

 

日が暮れ始めた静かな港の埠頭に、アルの悲しい叫び声だけが空と海に向かって木霊していた。

その後、少し話し合ったが、結局一億円は持って帰ることにしたのだった。

 

              対策委員会編第一章 完

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