お久しぶりですね。遅くなってごめんなさい。
これからもモチベ次第で早くなったり、遅くなったりします。
気長に待っててくださいね。
「やっぱりあの子は強い」
俺らが絶望ちゃんのところに着いたときには、もうオフィサーも職員もほとんど死んでいた。
軽い地獄を助長するように、さっきまで普通に生きていた職員も目は空洞になり多くの剣が刺さって動かなくなっていた。
──認知フィルターなしで見えているのに、このくらいの惨状に動揺しなくなってきた自分に少し嫌気が刺す。
「···レイ、大丈夫?」
「ああ、どうせあとで戻るし、今はあの騎士止めることしか考えてねぇよ」
吐き捨てるようにそう言い、嫌な現実を直視する。
クリスやメアリーが先頭に立って、古参組が数少ないパニックになっているオフィサーが標的になっているのをいいことに遠距離から攻撃していた。
アイツらにも人の心というものはないらしい。本当にアイツらはここの職員に向いてて安心だ。
「──ははっ!···やっぱアイツらここの職員に向いてるな」
「私もそう思うわ。貴方の後輩らしさ全開ね」
「···俺も倫理観投げ捨ててそういうことするしな。アイツらもその方法が取れてて安心だ。···メアリー!クリス!そのまま遠距離から援護頼む」
「「了解」です」
両方ともが苦い顔をしながらそう答えた。
···メアリーは分からないが、正義感の強いクリスのことだ。罪悪感とかがあっても不思議ではない。フォローしてもいいが、どうせこの世界は巻き戻る。
少しの苦痛くらいアイツらは耐えられるだろうが、早くこの世界を終わらせよう。
「──止めるか。お前の後輩に教えてやろう、俺らの方が強いことを」
「ふふっ···貴方がそういうこと言うの珍しくて笑っちゃった。ええ、止めて教えてあげないとね。私らの方が強いって」
互いに笑い合って、守るべき人を殺し回っている可哀想な騎士へ、最大戦速で向かった。
「合わせてくれ」「分かってるわ」
黄金狂に力を込め、がら空きの背中を狙う。
「まず1発、怯めよ」「···正気に戻って」
絶望が反対側にいるオフィサーめがけて剣を飛ばした瞬間、後ろから2撃重い殴りが入った。
···だが、そんなもの気にもしない様子で俺らの存在を認識した。
振り向きざまに剣を投げてくる。
「くッ···あっ···ぶねぇ!」「···まだまだここからだよね」
死を感じさせる剣が俺に飛んできたが、それを後ろに吹っ飛ばされながらも黄金狂でなんとか弾ききる。
···あの剣は一撃で俺の体力を4割くらい持っていくはずだ。3撃くらえば俺は死ぬ。俺以外も大体のやつは2発で死ぬ。
それほど、絶望ちゃんの後ろに漂っている剣は危険だ。
──そんな剣のターゲットが俺なのは悪夢でしかねぇ。···距離を詰められない。このくらいの距離があればまだ弾けそうだが、近距離で殴りながら回避するのは不可能に近い。今はアンバーや後ろにいるアイツらに任せよう。
···それにこの距離だとしても、本来攻撃しかできない黄金狂で弾くことは難易度が高すぎる。
「···頼むぞアンバー。···チッ!黄金狂!たまには敵を殴る以外にも役に立てって!」
──意識を変えなければならないときがきたか?
黄金狂に使われるのではなく、
普段殴るときは黄金狂が使い方を示してくれている。黄金狂に限らず、他の武器も同じで誰でも使えるようになっている。
だが、それではあの赤い霧のような威力はでないし、使い方が限定的になってしまう。
「──受け入れるか···」
E.G.Oはアブノマの自我の塊だ。武器も防具、ギフトだってアイツらの
自我を受け入れる。つまりアンバー、貪欲の王を受け入れる。
そう意識を切り替えた瞬間、決壊したダムの水のように「貪欲」が流れ込んできた。
「幸せになりたい」という原始的な貪欲。
「消えろ!死ね!」という深い 望。
その2つがさっきからずっと頭に響いている。それを無視してきたが、受け入れるときがきたみたいだ。
「···俺は···アンバー、貪欲の王を受け入れる···」
黄金狂を強く握りしめる。その瞬間完全に欲望に呑まれた。
「···ガッ···!」
止められない欲望が俺の体を侵食してくるのを感じ、意識が朦朧とした。思考が沼に落ちていく感覚がある···
幸せになりたい···!ああ!私は全てを飲み込みたい!この世の全てを···!──黙れッ!
···ふざけんなよ、こんな
なんで貴方は幸せになろうとしないの?今ある欲望に身を任せていっしょに幸せにならない?貴方だって欲望はあるでしょ?──黙れって言ってんだろ。
俺はそんな欲望任せになんて動きたくねぇし、俺には守るべき人がいる。投げ出していていい職ではねぇんだよ···!
···貴方だって気づいてるはずよ?この世界には救いがないってことに。それなのにまだ足掻くの?そんなに苦しい決断をしても辛くなるだけじゃない?──黙れ···!黙れって···この世界が終わってるのは知ってる···!けど、諦めていい理由にはなんねぇだろ···!
──そう。今の貴方にはそれが限界なのかも。またお話して。それに今は後輩の剣を逸らさないとね
「「先輩っ!!」」
···思考がクリアになる。さっきまで感じていた欲望が急に冷めていく。それと同時に死の予感があった。
「あっぶなっ!」
また一本俺の心臓めがけて飛んでくるのを、剣の側面を黄金狂に当て逸らした。さっきよりも遠い位置だったからか、その場で難なく逸らすことができた。
「···先輩、いよいよ化け物になりましたか?」「アンタ本当に人間やめた?」
「ん?···あーまあ、この距離ならギリギリ捌けるわ」
今の位置だったら攻撃できないが防御はできる。···けど、効率悪いしなんとかならないか?
「──管理人、オフィサーは全部死んだか?」
「······ああ、もう誰も残っていない」
近距離は···アンバーがめっちゃ殴ってる。···あ、良いフックが入った。
···ほんとにコイツらは強いな。後はコイツらに任せるか。
「···近距離行けないし、あとはお前らに頼むわ」
「分かってますよ」「···アンタなら近距離でも大丈夫そうだけど」
「普通に死ぬって」
──────
···本当に先輩の攻撃は痛い。
──それに私の剣が届かない···?
死を与えるはずの私の剣は、誰にも届いていない。
そんなことは初めてで、思考が少しクリアになる。
いつも守りたい人が守れなくて暴走してしまっていた今までの自分を恥じるが、まだ私の悲しみは消えていない。
それに、守りたかった人を殺した先輩と「守る」と言った貴方を許せていない。
──心が壊れてしまったからと言って、すぐ殺さないで。
そう思ってしまうのも私の心が弱いからなんだろうか。
──私の剣を止められるのなら、みんなを守って。
そう思ってしまうのは私の心が弱いからなんだろうか。
(守ると言った貴方は、
貴方を疑う心を止められなかった。頭は少し冷静になったが、猜疑心と悲しみで私の暴走はより止まらなくなった。
──────
(···剣が止まった?)
アンバーの良いフックが決まり、たじろいでから絶望ちゃんが動かなくなった。
止まってる間もアンバーは普通に殴っているし、これまでの攻撃分で多分あと少しで止まるだろう。
···けど、さっきの攻撃で倒れるほどの攻撃を与えてるとは思えない。
──嫌な予感がする。
俺は一歩後ずさったが、遅かったらしい。
「は?」
空気を切り裂くような速さの絶望の剣が3本。俺ではなく後ろにいる後輩に飛んできた。
「──ふざけんなよっ!!」
1番近い距離の人に飛んでくると思っていたが、どうやらそうではなかった。
飛んでくる複数の剣を全て撃ち落とせる訳はない。
1本だけ殴り落とせたが、後輩に2本飛んで行った。
「お前ら!!避けろ!!」
本来職員にはアブノーマリティの攻撃を避ける機能も弾く機能もない。職員に···いや、ただの人に捌ける攻撃ではないのは分かってる。
──だからこんな結果になるのも仕方ないって分かってるはずだ。
「···ぐッ、あ、はッ···!」
「──アンタ、本当にお人好しね」
クリスがメアリーを庇い、2本とも身体で受け止め、死にかけの状態になってしまった。
あと1本くらえば確実に死ぬと誰の目で見ても明らかほどのダメージを受け意識を失ったようだ。
──ああなると分かっていたはずなのに、メアリーの言うようにアイツはなんてお人好しなんだろうか。
──オフィサーを肉壁と捉え、職員も1人死ねば時間が巻き戻りまた復活すると考え、どうでもいいと思っている俺とは大違いだ。
時間が巻き戻ると知っているのなら、この世界の正常は多分俺の方なんだろう。
···けど、クリスの方がかっこいい。そう思ってしまい気まぐれを起こす俺はやっぱり半端なんだろうな。
「──アンバー含め遠距離で攻撃してる組、全力で絶望に攻撃を。俺は全力でお前ら守るわ」
「···アンタもクリスも本当にお人好しで、やっぱりこんな仕事してるのが不思議」
「俺はただのかっこつけなだけだ。クリスは本当にお人好しだな」
「あっそ、アンタがどう思ってようが私にとってはアンタらは同じ。どっちも意味の分からない異常者。あと···前来るよ」
「ああ!···ぐっ···!いってぇし気持ち悪いな···!」
もう一度来る3本の絶望を弾き飛ばそうとするが、1本だけ弾き飛ばせず星の音を貫通し腹に突き刺さる。焼けるような痛みも感じるが、それ以上に命を吸い取られる気持ち悪さの方が大きい。初めてくらうPALEの攻撃に慣れない。だが、その感覚に囚われるわけにはいかない。
腹に突き刺さった剣が消えた。消えたということは次弾が来る。
また絶望の剣を弾く準備をする。
「···ほんと意味分からない、普通に逃げればいいのに···私とクリスが死ぬだけでアンタは狙われてないんだからさ」
「お前も意味分かんねぇよ、後輩を捨てて逃げ出すのは先輩失格だろ」
「あっそ。···私らと貪欲が殴ってるし、多分もう少し。
「ああ···!」
次弾がまた3本来る。
それを2本弾き飛ばし、また1本腹に突き刺さる。
さっき以上に痛みと体から生気が削られるを感じた。
──もう1本刺さったら確定で死ぬ。理論でも直感でもなく、ただの事実だ。
「──いっ···!──意識が、まずい···な、ほんとに···!···メアリー!絶望は···あと···どれだけで倒れ···そう?」
「全然変化なし···どころか冷静に貪欲の殴りを捌き始めてるから私らの攻撃しか通ってない。それに顔だけはこっちをずっと見てるし···最低でもあと1回は来そう」
···だが、まだ絶望は倒れないらしい。
──次弾を弾かなければならない。
「···あと1本受ければ死ぬ。それでも先輩は変わらないんでしょ?···ほんとに意味分からない」
「ああ···!」
腹に刺さっていた剣が消え、次弾が来るのが分かった。
──今日2回目の濃い「死」が身近にある感覚がする。
全ての剣を弾ける訳がない。···俺はこの攻撃で死ぬ。
今回の自分を諦めるしかない。
「そう言うと思っ──は?」
自分の未来を諦めたときだ。目の前が銀河で覆い尽くされた。
「──そういや、ワープ能力···あったよな···」
銀河のようなドレスを纏っているのは、止まらない涙を流し哀しみに飲まれている可哀想な騎士しかいない。
──そのはずだが、俺の目の前にいるというのに涙を感じない。
さっきまで黒い涙を雨のように流していたのに、絶望の顔を見ると収容室にいたときと同じ目をしていた。
しかし、表情には戸惑いがあった。
「どういう、表情···なんだよ」
「······」
かすかすになった声で問いかけるも、やはり返答はない。
「···まあなんでもいいけど···暴走終わったんなら···収容室戻ってくれ···」
声を出すのもしんどくなってきたが、帰ってもらわないと鎮圧が完了したとは言えない。だから早く帰って欲しいし、そうでないなら早くこの地獄を終わらせて欲しい。
──その何とも言えない顔が1番困る。
「···はあ···もう悲しみは···止まったよな···?」
「······」
首を縦に振った。ということはこの世界はもうこれで終わりだ。絶望の騎士というランク詐欺の相手を終わらせられて、俺の捌く技術は上がった。あと、何よりE.G.O武器を従えてはないが
多量の満足感とこの地獄になってしまったことへの少しの悲しみを抱きながら、俺は意識を手放した。
──────
「アンジェラ、どう思う?」
「···どうとは?」
「いつものレイなら1人職員が死んだ時点で諦めたように傍観するか、蒼星のときみたいに勝てない相手に特攻するはず。なのに今回は職員を守るって判断になった。──彼は本当によく分からないね」
「···そうですか。私には···ただかっこつけた子どものように映りました」
「ははっ···アンジェラは本当に彼のことを良く思ってないね。煽られたことまだ根に持ってるの?」
「······」
「そっか。君の表情が最近分かりやすくて嬉しいよ。···じゃあ、今日はやり直そっか。今回の業務は収穫が多かったなぁ」
「······」
「でも、その表情はいつも分からないよ。それはどういう感情なの?」
「···貴方が管理人として成長してるのを嬉しく思っている気持ちです」
「──表情は分からないけど、それが本当のことを言っていないのはなんとなく分かるよ」
(···その微妙な顔は何考えてるの?いつかちゃんとした管理人になれば分かるのかな?)
絶望ちゃん回はあと1回で終わりですね。