にわか管理人が職員に転生した   作:パッチワーカー

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 5000字くらいに収まりました。
 3000字くらいにしたいんですが、なぜか長くなりますね。


善と悪

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこかからか時計の音がして目が覚める。

 主要メンバーは生き残ったが、それ以外の職員は消し炭になったし当たり前の判断だ。

 それに絶望ちゃんのチュートリアルもでき、「白昼」の対処法も学べたんだ。この巻き戻しは有益なものになったはずだ。

 

「──管理人、強めのヤツを騎士のところへ入れといて。それ終わったら俺行くわ」

 

「ああ、分かっている」

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

 

 

 前見たときと変わらず、涙を流してはいない絶望ちゃんと相対する。

 ···悲しみに苛まれ、止まることのない涙が止まっていることを喜ぶべきなのか、はたまた変化を怖がるべきなのかの判断はつかない。

 

 

「──どうせ覚えてるだろうから聞かせてくれ。アンバーは、貪欲の王はどうだった?お前が知ってるアイツだっただろ?」

 

「······」

 

 絶望ちゃんは首を縦にも、横にも振らない。それに困惑が見て取れる。多分なんとも言えないんだろう。

 加護を受けていたヤツをぶっ殺したのは、紛れもなくアンバーだ。けど、被害を止めるために全力で挑んでいた姿を間近で見ているのもまた事実だ。

 

「──まあ気長に見定めてくれ。結構長い付き合いになるだろうし」

 

 あの管理人には「逆行」するといった発想はない。あったとしても、こんなにくそ長い残業していた5日間をやり直そうとは思わないだろう。多分次の5日間が逆行週になる気はする。

 

 ──アンジェラさんがどうあの管理人を導くかによって変わるが、今のままだとさすがに武器•防具が貧弱すぎる。

 このあたりで装備を集めないと「()()」は対応できない。なんなら、「夕暮れ」すら怪しい。

 

「···お前のその顔はなんなんだ?絶望は止まったんじゃないのか?」

 

 死にかけの俺を見てたときと同じ顔をしているのが、なんだか気に食わない。値踏みされているような、何かを確かめるようなそんな顔が気にさわる。

 

「······」

 

 静かに首を縦に振った。まあ、あの黒い涙が流れていないことで大体分かってた。──だが、なんで止まったのかは分からない。

 

「···なんで涙を止められたんだ?」

「······」

 

 さっきとは違い、静かに首を横に振った。分かってないという意思表示だ。本人に分からないのなら俺も分からない。だけど、多分コイツは気づいたんじゃないのか。

 

「──『善と悪』っていうのは、誰の視点で見るかによって変わるんだ。お前の目だと、俺やアンバーは正義とは言えないんだろうけど、()()が救いたいヤツは救ってる。それを()と取るか、()と取るかはお前に任せるわ」

 

「······」

 

「まあお前が認めなくても、俺の正義は自分が守りたいヤツを守ることだ。それ以上でもそれ以下でもない。多分アンバー、お前の先輩も同じ考えだ。それをどう捉えるかはお前次第だ」

 

 俺の行動は完全なる善ではないし、悪であるとも言い切れない。オフィサーやパニックになった職員を見殺しにしているのは悪だが、守りたい職員を守っているのは善だ。

 ──世界の全てを守ろうしていた絶望ちゃんにとっては、「悪」に映るだろうが、それは仕方ない。

 

 オフィサーを守り切れるわけがないしな。普通にそれは無理だし、時には生贄として差し出すんだ。「全部守ってみせる」なんて夢物語みたいなのは無理だ。

 ···ただ、死なれたら困る職員を守るのは全力でするのは変わらない。だって、死なれたら1日の始まりからリスタートになるし、めんどくさい。

 だから、今まで通りでいい。守りたいものだけ守って、それ以外はどうでもいいってスタンスがこの職場には必要だ。

 このスタンスは多分『善と悪』でもない。この世界はそう簡単に分けられるものじゃない。

 

「──」

「あと、世界は『善と悪』の二極で構成されてるわけじゃないんだ。──まあいいか···さっきも言ったが、これから長い付き合いになるし、またいつかでいい。じゃあまた」

 

 ···作業終了の時間になったし、言いたいことは全部言った。

 後は、俺じゃなくて絶望ちゃんが決めることだ。

 

「······」

「···なにか言いたいことがあるのか?」

 

 最初のときのように、祝福を付与するのではなく、頬にギフトをつけようとするわけでもないはずだ。

 ···なのに、頬に手を添えられている。

 

「··· 涙が、絶望が止まって良かったな。──整理がついたら、お前の先輩と話してあげてくれ。待ってると思うし」

 

 そう言うと、いつもの場所へと戻った。

 

 ···変わることのないアブノマだろうが、アンバーが変わったように絶望ちゃんも変わるかもしれない。

 それが良いか悪いかは知らないが、()()()ことは良いことなんだろうなと思う。

 

 そんなことを考えながらすんなりと出て、聞いてるであろう管理人に報告する。

 

 

「コイツには正義が高そうなヤツ当てといて。その方が相性いいし」

「···君の正義も高いはずなんだけどね···」

「さっきのを聞いてただろ?俺の正義とアイツの正義は全然違う。彼女の正義と俺の正義では比べものにならない」

「確かに。君は自身の周りを守れればそれでいいって思ってるしね」

「まあな。誰がオフィサーなんて助けるかよ」

 

 そう言うと、スピーカー越しから笑い声が聞こえてきた。

 

「変わってないようで何より。──では、今日も1日犠牲者無しで頼む。仕事時間は長いから気をつけろよ」

「命令口調、気持ち悪いな」

「これでも頑張ってるんだよ、慣れてくれ。···くれぐれも育ってる職員殺さないでくれよ」

「分かってるって」

 

 少しずつ管理人として慣れてきたのか、意識の切り替えが早くなってるのは良いことだ。このままロボトミの管理人としてふさわしくなってくれ。

 ···けど、アンジェラさんはどっちの方が好きなんだろうな。管理人としてふさわしい冷酷なコイツか、管理人としてふさわしくない優しいコイツか。

 ──まあ、どっちでもいいか。

 

「あと、今日と明日も長い残業するから覚悟して取り組んでくれ」

 

「お前の方こそ、しょうもないミスするなよ?···ん?今日と明日だけか?」

 

「21日目からは逆行しようと思っていてね。一旦長い残業は今日と明日で終わりだよ」

 

「···記憶残らねぇアイツらからすればずっと長い残業してることになるけどな」

 

「あ、···まあそういう世界だし···ね」

 

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

 

 「守る」と言った貴方は、自分の体を犠牲してまでも守っていた。「私を止めて」と言っていた先輩は、今度は私を止めていた。

 ···けど、わたしが守りたかった人を守れなかったことも、殺したことも変わらない。

 

 ──貴方は善なの?悪なの?

 ──先輩は善なの?悪なの?

 

「──『善と悪』っていうのは、誰の視点で見るかによって変わるんだ」

 

 貴方のその言葉は正しいのだろう。あのときに私は「善と悪」に絶対はないと悟ったはずだ。

 分かってる、分かってるはずなのに、それでも私は「善と悪」に分けたがっている。

 それが何故なのかは自分でもよく分からない。

 

 私の涙が止まった。絶望から流れていた私の涙が止まる日が来るなんて考えてもいなかったことが起こった。

 ···でも、何が原因なのかは分からない。

 

 分からないことだらけでうんざりするけど、今はそれでいいと思えた。

 

 私が感じた光と、私の先輩がここにはいる。2人のことを見守りながら、私は私の「  」をもう一度見つけよう。

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

 

 

 コツコツ、

 

 今回も紫の白昼が来たが、エレベーターや廊下に職員を避難させたことによって簡単に終わった。

 絶望ちゃんの加護持ちも生きてるし、職員の死亡は今日もない。

 

 コツコツ、

 

 昨日よりかは短い残業時間であったが、他の職員から愚痴が溢れてるくらい長かった。

 ただ、職員全員は分かっている。

 

 「外はもっと地獄だ」「外に比べればこんなもの···」と。

 みんなゴミみたいな世界で生きてきたんだ。そのくらいの心意気がなければどのみち死ぬ。

 

 コツコツ。

 

 就業時間外に目の前にいるコイツはそうではないんだろうけど。

 

 氷のような表情をして、俺を睨みつけている女がいた。

 コイツが来るときはどうせ管理人絡みだ。

 

「──アイツは少しずつ()()()になっていっているけど、アンジェラさん的にはどうなんだ?冷徹で、職員の命よりも仕事を優先させるのは、ここの管理人像としては当てはまってるんだろ?···ただ、アンタが好きなア「黙りなさい」──あっそ、アンタが俺のところに来たってことはそういうアレかと思ったけど、そうじゃないのか?」

 

 コイツほんとに「黙りなさい」しか言わねぇな。どう考えても俺に話しかけてきてるくせして、考えてることを読まれたら俺の言葉を一蹴する。

 ···マジでめんどくさいが、あのアンジェラさんが来てくれたんだ。揶揄うタイミングなんてそんなにないからな。存分にやらさせてもらうわ。

 

「──じゃあ、アンジェラさんがアイツに求めてるのはなんなんだよ。ここの管理人としては正しい成長をしてるのは間違いないし、それはアンタも感じてるんだろ?···いい加減諦めろ。アンタが何か行動しなきゃアイツはずっとあのままだ」

「······」

 

 多分俺やアンジェラさんからの助言を聞き、おままごとみたいに歪んだ画面を見て、オフィサーや育ってない職員を簡単に助けない判断を下すようになるのはそう遠くない未来だ。なんなら処刑弾や魔弾の射手に依頼して、自らが殺すことにも躊躇いがなくなるだろう。

 

 見てるものが違うっていうのも大きいが、それを正そうとする人がいないのが1番の問題だ。

 別に俺は止めようとは思わないし、アンジェラさんも止めようはしない。

 

 ──けど、アンタはそんな人の心がなくなった管理人は好きなのか?アンタが好きになったアイツはそんな性格なのか?

 

「──俺は別にアイツがオフィサーや育ってない職員をゴミ同然に扱うのを止める気はない。そっちの方が俺たちの生存率は上がるし、仕事が円滑に回るだろうしな」

 

 俺らがアイツを止めるメリットなんてものはない。

 ···ただ、アンタがどんなアイツを好きになったか。心優しいアイツだったのなら、台本にはない立ち回りが必要になる。

 

 ──まあ多分、この人はなんにもしないんだろうけど。

 そう思い、言いたいことだけ言いながら彼女を背にして歩きを進めた。

 

「──自分が動く気がないくせして、人を頼ろうとするのはどうなんだ?···そろそろ気づけよ。アンタの台本にはないことをしないと、この世界は終わんねぇ」

 

「────ええ。私もそう思っていたところです」

 

 珍しく返事が返ってきた。けど、相談に乗ってあげるほど俺は優しくはない。自分で考えて自分で悩め。最高のAIを自称するアンタには屈辱的だろうけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

 19、20日を越え、チェックポイントまで来た。

 この週は逆行となる分、害悪が来てもギリ耐えられる。

 ···が、多分この週では上層のセフィラコア抑制*1を全て終わらせるだろう。というか、やってもらわないと困る。

 

 ···ホドの能力低下だるいなぁ···

 

 そう考えていたが、実際にはもっとキツイ現実が待っていた。

 

 

 

────────

 

 

 

 21日目は、銀河の子と夢見る流れが入り、チェックポイントになった。

 最近危なそうなのを取ってきていた管理人の思考とは違い、銀河と夢はそんな危険そうなのは書かれていないはずだ。そう疑問に思い聞いてみると、逆行するときに危険そうなの取るために、進行時は危険そうじゃないのを取りたいと言っていた。

 まあ気持ちは分かるし、今回のアブノマは結構当たり寄りだ。やっぱ、コイツ運あるな。

 新規アブノマの作業をしてると、白昼が終わっているのにも拘らず新しい試練が来た。

 しかし、深紅の夕暮れであったため何も苦ではなく終わった。緑じゃなかったらなんとかなりそうだ。

 

 22日目、裸の巣と異界の肖像が入った。だが、今日はコイツらの管理以上にやることがある。

 夕暮れをクリアしたということはアイツのコア抑制が来る。デバフ、デバフ、デバフをかけてくるホドのセフィラコア抑制が来た。しかし、蒼星とか対処できなさそうなのは教育チームに収容されているため、クリフォト暴走*2はつかず、ホドのセフィラコア抑制をなんとか完遂できた。

 

 上層で、1番面倒臭いのはどう考えてもホドの能力低下とかいうデバフだ。それを乗り越えたらあとはどうとでもなる。

 

 ──そう思っていたが、現実は少し違ったらしい。

 

 

 

 

────────

 

 

 23日目、いつも通りみんなに挨拶しながら準備をしていたときだ。

 突然、目の前の色が鮮明に見えるような気がした。何回か瞬きをすれば元に戻ったが、問題は俺ではなかった。

 

 

「──レイ先輩···認知フィルターの効力が消えました···」

 

 

 

 

 

 

 

*1
コア抑制とは、セフィラごとのミッションをすべて達成すると開放されるボス戦。コア抑制では本来の管理業務に加え、管理人に不利な特殊ルールが追加で適用される

*2
一定時間作業しないと面倒臭いことが起こる





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