期間空いているのにもかかわらず、多くの方に読んでもらえて嬉しいです。
今回はアンジェラさんと管理人とのコミュニケーションが主体です。管理は次から。
現実を見ることは正しいのか
21日目。
子供の涙が落ちると、星が空から降りてきた。
世界は幸せに包まれ、眠りに落ちた。
首への痒み、腹痛を感じたら、できることは、
もう二度と見ることの出来ない
最後の青空を見ることだけです。
それは花じゃない、
すべての職員にすぐに逃げるように指示しろ。
アンジェラいわく、今日までのアブノーマリティは逆行したとしても消えないらしい。だから、今日の2体は慎重に選ぶ必要がありそうだ。
──とりあえず、一旦花はないね。植物系には本当に嫌な思い出しかないし···
星の子どもか首の痒みなら、まあ星の子どもだろう。
そっちの方がリスクレベルが低そうだ。リスクレベルが高いのは逆行中でよさそうだし星の子どもだね。
いつもならそれで終わりになるが、今日からは2体選出になるらしい。
···武器や防具の数が少ないし、ちょうどいいはいいがリスクも高まる。
──面倒臭いの来ないでくれよ──そう思いながら、次のテキストに目を向ける。
機械の中の鍵穴からは、執拗な視線を感じる。
赤ん坊に、彼が好きなブドウ味のキャンディが
手に入ることを教えてあげてください。
あの野郎の首を私のベッドの上にぶら下げてやる。
それだけで、悪夢を見ることなく眠ることができる。
···「視線」か···こちら側や職員側の視線がキーとなる可能性もあるし、管理が面倒くさそうだ。
赤ん坊にキャンディの方が安全度は低そうで選ぶが、最後のアブノーマリティも有能そうだ。
その分リスクレベルも高そうだから、逆行中に来たら選びたい。
そう考えていると、後ろから「カツカツ」とハイヒールの音が聞こえた。
「管理人」
「なに?アンジェラ」
そう言いながら振り返る。
時々柔らかい表情を見せるが、基本的に無表情の彼女が今も氷のような表情を向けている。
「あなたは、『時には忘れ去られたものこそ美しい』という言葉を信じますか?」
そのくせ、意味の分からないことを言ってくる。そのギャップがどこかおかしくて、笑ってしまいそうになる。
「かつて、あなたが言っていた言葉です」
「そう···だっけ?ごめん、あんまり覚えてないな」
そう言っても何の表情も変わらない。彼に煽られた後や僕が失敗し学びを得ているときなんかは表情が読み取りやすいが、それ以外はずっと何を考えているのかが分からない。
「今なら私は信じられます。今、あなたがそれを見せてますから」
···だけど、久しぶりに彼女の気持ちが読み取れた気がする。眉毛が少し下がっていて、声色もどこか悲しみを含んでいた。
──僕は何かを忘れている···?それも多分アンジェラのことだ。君の悲しみの原因は、おそらく僕が忘れている記憶のなかにあるんだろう。
──思い出すしかない。けど、今は作業に集中しなければならない。···それに漠然とだが、このまま進んでいけば思い出すようなそんな感覚がある。
今は何も考えず、ただただミスをしないように作業をこなそう。
この日の作業は初の夕暮れだったのにも拘らず、1発で切り抜けた。
···僕も少しずつ成長しているのかもしれない。
──────
22日目。
この腕輪は欲深い者を許さないので、
誠実な者だけが着用しなければならない。
この肖像画は今この瞬間を捉える。
いつか失うしかないものを。
「木はただ与えていたものを
返してもらっただけなのですよ」
だから植物はいらないよ。誠実な者のみ着けられる腕輪か、肖像画か。
···誠実な者の判定に彼が入るのか怪しいし、肖像画にしようか。
ツール型であるし、そこまで脅威にはならないだろう。
──さて、昨日は安全だったが、今日はどうなるのか···
それはあなたの体のどの穴にでも侵入できます。
塵に帰りたいという彼女の願いは、
生きようとするものすべてを死に場所へと返すでしょう。
その笑顔は不気味で悲しみに満ちています。
──直感的に上か真ん中か、──上の方がリスクレベルが高そうだし取るか。だが、1番下もなぜか気になる。
···そのテキスト通りどこか不気味ではあるが、その分リスクレベルが高そうだと感じる。···また出てきたら取ろう。
この選択が正しいことを願った。
しかし、今日の業務は新規アブノーマラティに関心を寄せる暇もなく、彼の言葉を借りるならデバフ祭りで幕を閉じた。
──────
23日目。
床全体を覆う鮮血、ひどい恐ろしい叫び声、逃げる人々...
けれど人間の時のような音は出なかった。
私の計り知れない憎悪を込めて、
あなたにプレゼントを贈ります。
まあ下が1番危なそうだし、下を取るか。
首への痒み、腹痛を感じたら、できることは、もう二度と見ることの出来ない最後の青空を見ることだけです。
あの野郎の首を私のベッドの上にぶら下げてやる。
それだけで、悪夢を見ることなく眠ることができる。
いつか、あなたは知るかもしれない。
ルーレットが回転しているときの顔の絶望の意味を。
一昨日に引き続きのアブノーマリティが来た。昨日から気になっていたし取ろう。
そう思っていると、昨日にはなかったはずのファイルが机に置いてあった。それを手に取り中を見る。
「新しい管理人へ
我が社のために多大な貢献をしていると聞きました。
あなたの素晴らしい助力者であるアンジェラと共に、これからも我が社の繁栄に尽くしてください。
そこでは私に会うことは今はかないませんが私たちが会える日はそう遠くないと確信しています。我が社はあなたの献身的な努力を決して忘れません。
あなたに会える日を待ちわびながら。
ロボトミー社代表Aより」
これを見て、そういえば自分はAの代わりとして管理人をしていることを思い出した。···だけど、Aが帰ってくる素振りはないし、僕の仕事が終わる気配もない。
···それに、Aはどこに出かけたのか。何をしているのかも知らない。
カツカツ。
──はっ、本当にこの会社は分からないこと、知らないことだらけだね。
読み終わったタイミングで都合よく彼女は来た。本当に、よく分からない。
「アンジェラ」
「···Aがあなた宛に送った手書きのファイルを受け取ったようですね」
「うん。受け取ったし中身も確認したよ。アンジェラも見る?」
「いいえ、その必要はありません。Aがあなたに言いそうなことは想像がつきます。···Aはついにあなたを認めたのでしょうか?」
自分の業務を見ていない人に認められたってどうでもいい。ただ知りたいのは、Aが何をしているかだ。
「そっか、ならよかった。···それで、Aは何をしているの?」
「Aは少々長旅に出ています。旅の終着点が家であるように、もうすぐここに戻ってくるでしょう」
「長旅に出ているんだ。──彼や職員の口振りから考えて、外の世界は地獄なのに?」
長旅に出られるほど、外の世界は安全ではないはずだ。彼や職員が、「死と隣り合わせのこの職場よりも外の方が地獄だ」そう言っていたように外は旅に出られる状態ではない。
···それなのに長旅なんて考えられない。
そう思い疑問を投げかけた。
「──人の人生とは、それ自体が長い
いつもとなんら変わらない無表情で、想定していなかった答えが返ってきた。彼女はたまにとても詩的になる。
そのギャップがやっぱり笑えるし、可愛いと思える。
「···確かに、人生は始まりから終わりまでの長い旅のようって言えるね」
「同じ考えでよかったです。今この時も、管理人にとって旅の一つになりえませんか?」
「そうだね、苦しいときの方が圧倒的に多いけど、旅の一つになりうると思うよ。立ち止まらず、ずっと進もうとしてるしね」
僕がそう言うと、彼女は少し雰囲気を引き締めた。背筋が少し凍る。···何を言うんだ?
「──まだ寒い日は続きますが、また冬が終わろうとしています。雪に覆われた花がその顔を出し始めようとしてるのが分かりますか?」
その言葉を聞き、僕は「何を言っているのか?」と言いたかったが、その言葉は喉に詰まった。何故か今の僕にはその言葉に返す資格がない。そのように感じてしまった。
──何度考えても僕はそれに返す言葉を持っていなかった。「冬」というのが字面通りに受け取るようなものではなく、多分比喩なのだろう。
···昨日の記憶の話があったからか、花が記憶関連のことだと考えてしまう。
──もう少ししたら僕は何かを思い出せるのか···?
そういった期待感と少しの不安を胸に、今日の業務に取り組んだ。
しかし、その思いとは裏腹に目の前が揺れた。体勢が崩れそうになったが、アンジェラが背中を支えてくれたおかげでなんとかなった。
「管理人?大丈夫ですか?」
「···うん、大丈夫···ちょっと目眩がしただけだか···ら······アン、ジェラ?」
目の前が急に現実感を帯びた光景になった。
この光景は
けど、背中を持ってもらい近づいていたアンジェラの顔を間近で見てしまい心が落ち着かない。いつもは認知フィルターがある
「···やっぱり綺麗だね」
「はあ······なるほど。──認知フィルターへの妨害ですか。管理人どうされますか?」
この状態になった10日目に彼女は、
この認知フィルターが正常に作動していれば、職員が死にゆく場面も赤い絵の具に染まる可愛い人形に見える。
見るだけで精神を崩壊させるアブノーマリティたちも、モニターを通せば個性的なぬいぐるみに過ぎない。
認知フィルター導入前は、この席に座った多くの者が正気を失っている。
このように言い、最後には「私を信じて」と言っていた。
──確かに、現実と何も変わらない視界でオフィサーがアリのように死んでいく姿を見れるのかと問われれば、出来ないと言うしかない。
アンジェラの話にあったように、普通の視界で作業をした管理人の多くは正気を失っている。僕はそれほど精神が強くはないし、多くの人と同様に正気を失うだろう。
けれど、現実から逃げてばかりではカッコ悪い。そう思ってしまう。彼は認知フィルターなしで作業できている。
···それに、オフィサーといえど人は人だ。人を犠牲にするという残酷なことを現実を見ずに感覚が慣れてしまうのは外道だと思う。
──だから今回だけはやり遂げたいと思ってしまう。
「このままで行くよ。多分だけど、イェソド*1のセフィラコア抑制*2の副作用的なものだよね?···今回くらいはそのまま管理人としての仕事を全うする。だから、いつも通り隣で見守ってて」
普通に業務をすればどこかで精神が壊れる気がする。そのときにはアンジェラにサポートしてもらいたいって思うのは自分の弱さだろう。それでも隣にいてくれないと不安でしかない。
「──ええ。私はいつでもあなたの隣にいますよ」
僕のわがままを聞いて、彼女はいつもより柔らかく、それに嬉しそうな顔をしていた。──アンジェラが、それもリアルな視界でそういう表情をするのはダメじゃない?
どう考えても危機的状況なのにも拘らず、彼女が隣にいる安心感で何でもこなせそうな気が「管理人!お前の視界はどうなってる??」···君の焦ってる顔を見ると不安が勝ってしまうから控えて欲しいな。
「君と同じ視界だよ。どうやら認知フィルターが機能していないらしい」
「チッ···今日は本当に早く片付けるぞ。お前の精神が壊れる前にな」
うん。君の焦ってる顔を見ると不安になるけど、頼もしい顔を見ると安心する。
「──うん。新しく入ったF-01-57の管理や戦闘、頼んだよ」
「ああ、任せろ」
隣にはアンジェラがいて、画面の向こうにはレイがいる。
そんな安心感を感じながらも、初めてリアルで見るアブノーマリティにすぐ辟易とした。
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