ギリ2ヶ月以内ですね。
認知フィルターなしにアブノーマリティを見ることや職員や
メンタル面の強化といえば聞こえは良いが、実際にはただの苦行だ。
「──俺らの視界が現実になっているのは、おそらくセフィラが暴走している副作用だ。前の時みたく能力が低下するデバフみたいに直接の影響はないが、それ以上にお前らの精神がイカれる可能性が十分考えられる」
管理人ばかり気にしていたが、職員の精神も飛ぶ可能性がある。最悪今日の作業で犠牲者を出したとしても、どうせ逆行するんだ。なんとかなる。けど、作業時間が無駄に長くなるだけだ。生きられるならその方がいい。
「──幸い蒼星には暴走はつかないし、もし行かなければならなくなっても俺が行くし安心してくれ。それ以外のアブノマで精神が削られるようなことは新しいの以外だとないはずだ」
今日のアブノーマリティが何かは知らないし、なんとも言えないがそれ以外はどうにでもなる。──規制済みとかが来たら普通に諦めるが、そんなゴミ運はないと思いたい。
「──だから、オフィサーや他職員の死に気をつけてくれ。今日はリアルの死を何度も見ることになる」
今まで軽く見逃していたオフィサーという害悪の死ですら大きなダメージになる。それに、人の死を何度も見逃していたことに気づけば、今後の行動が鈍る可能性がある。
···オフィサーを庇い出すとか、犠牲を出す指示に反発するとかは、まあ考えられる。
そんなゴミみたいな行動を許容できるわけがないし、そんな職員はいらない。そういうやつは確実に死ぬし、周りにも被害を及ぼすだろう。
「慣れろとは言わないが、いつも通り気にするな。気にしたら精神はイカれるし、自分自身も死ぬぞ」
死を直面したときに今までよりも多くのWHITEダメージを受ける、みたいな効果があればそうなるだろう。
「外を思い出せ。ゴミみたいな、地獄みたいな世界を考えろ。いらない気持ちは捨てろ。──今日だけはクソな現実を直視しよう。この世界は隣を歩いていた人が、さっきまで話していた人が簡単に死ぬ世界なんだ。甘ったれたことはなしだ」
外は昨日まで生きていたヤツが普通に死んだり、仲良く話していたヤツが自分の命を狙ってきたりする。
後者のことがない分、今の状況の方がマシだろう。
「──自分の命を最優先に、今日も生き残るぞ」
いつもなら軽く返ってくる言葉も今日はない。
「ええ、僕たちは最悪な世界で生きていましたし、今日くらいは大丈夫です」
「──私たちはそんなに脆くない。──アンタがそんな感じになるの珍しいよ」
ただ、重い言葉は返ってくる。覚悟が決まりきっている後輩がいてよかった。他の後輩たちも程度の差はあれど、覚悟は決まってそうだった。
···やっぱこの世界イカれすぎだ。
「それならよかった。···簡単に片付けてさっさっと終わらせるぞ」
「「「「はい!」」」」
──────
「──新しく入ったF-01-57の管理や戦闘、頼んだよ」
「ああ、任せろ」
命令口調ではなく普通に話している時点で大丈夫ではないが、この際どうでもいい。
··· F-01-57と番号で言われても分からないが、ピンとこないし大丈夫だろ。作業内容は洞察だし、そうそうヤバいことにはならないはずだ。
F-01-57の管理室の前まで行き、ドアを開ける。
「──あー···」
言葉が喉に詰まった。面倒臭いがまあ許容範囲内だ。
佇まいが戦士のそれであり、認知フィルターなしでは気を抜くと手が震えてしまいそうになるくらいの威圧感がある。
鋭い黄色の目がこちらを向き口を開く。
「ここには毛皮の野郎はいるか?見つけたら教えな。私がその糞野郎の頭を切り落とした日には、仕事の報酬は無料にしてやるよ」
暗い服を着た黄色の目の女性で、目元まで覆う赤いフードが印象的。また顔は傷だらけであり、それを隠すように特徴的なマスクで顔を覆っている。
F-01-57、アブノマの最初の番号は識別番号で、「F」はfairy tale。つまり、「童話•架空の物語」などが該当する。
···コイツはどう考えても「赤ずきん」がもとになっている。
「すまないが、ここに毛皮の野郎はいない。けど、脱走するヤツはいるから手に負えなくなったら仕事を依頼するわ」
「そうか。確かにここにはあの野郎の臭いを感じない。──気長に待つとするよ」
F-01-57、赤ずきんの傭兵。
グリム童話の方ではなく、起源となった民話などの方に近い。顔や体には見ることが憚られるほどの傷跡があり、それらはオオカミによってつけられたと考えられている。
「なあ」
壁にもたれかかり、すぐにでも行動を起こせるような体勢を取り俺に対する警戒心をひしひしと感じる。
「···なあ」
──今はオオカミがいない分、なんとかなる。けど、いたら害悪寄りになってしま···は?あっ、ぶな!!
「──ここには射撃訓練ができる場所はある?それと今粉々にしたものを片付けて」
避けなければ眉間に当たっていただろう弾は俺の真後ろにあった鏡を粉々に割った。──あーそういえば、自分の顔や体見るの嫌いだったよな。
「射撃訓練できる場所はあるが、お前が俺たちに被害を出す未来しか見えない。鏡は片付けておく」
──さすがアブノマ。しっかり思考回路がイカれてる。お前らを鎮圧以外で外に出すわけないだろ。
「そう。なら勝手に練習するよ」
「──できる限り人に被害は出さないでくれ」
「さあ?積極的に狙う気はないが、間違えるときが来るかもしれない。それに、そっちから攻撃されたら私も殺しに行く」
「そ、まあ積極的に狙わないんなら。···じゃあ鏡の破片取ったし、またな」
一度攻撃されただけで他のコミュケーションミスはない。洞察としての行動もしっかりした。
「···私の顔を見て驚かなかったやつは久しぶりだ。──良い関係になれることを期待してるよ」
さっきまで感じていた威圧感は消え、少し柔らかく言葉を発した。
──まあ俺はお前の外見知ってるし、驚きは少なかったな。
「ここの職員はお前の外見に驚いたり、嫌悪感を抱いたりするようなヤツらじゃねぇ。気に召すと思うし、期待せず待っとけよ」
「そうか、期待せずに待ってるよ──終わらない戦いを続ける者同士気が合うかもな」
「──は?···あーまあ、お前らアブノマといっしょにされたくはないが、似たようなものだな」
赤ずきんとオオカミとの戦闘は終わらないし、終われない。どちらもアブノーマリティという枷がある以上、殺しきれないし死にきれない。
俺も、職員たちも管理人の手によって死んだとしても巻き戻る。
確かに、似たようなものだ。
赤ずきんの言葉が脳を駆け巡りながらも、作業を終え管理室を後にした。
(···赤ずきんか。今の戦力でもオオカミがいなければ、なんとかはなりそうか···)
赤ずきんとオオカミ。単体でも面倒臭いが、揃えば一気にヤバくなる。脱走はするは周りを巻き込んで殺し合いをするは、まあ揃えるメリットはない。
(この世界に『赤ずきん』があるわけないし、管理人が知るすべはない)
「管理人、さっきの会話聞いてたか?」
「さっきが何を指しているのかは分からないけど、君たちの会話は聞いていたよ。···毛皮というと獣かな?」
「そうだろうな。一般的に獣って言われるようなヤツだろうし、そういう文言のアブノマは気をつけろよ。揃えたら脱走祭りが開催されるだろうし」
「···そう。君がそう言うなら気をつけるべきなんだろうね。了解」
「頼んだ、コイツはまあ自制が高ければ誰でも良さそうだが、メアリーが適任そうだ。適当に当てといてくれ」
話した感じ、顔見て驚いたり悪いイメージ持ったりしたら引き金を引きそうだ。気をつけるに越したことはない。
「分かったよ。じゃあ、レイはどこに行くんだい?」
「蒼星」
「···君は本当にチャレンジャーだ。無理はしないようにね」
「お前も、命令口調で話すの忘れずにな」
「···ああ、分かってる」
「そうか」
────────
警戒を知らせるアラートが鳴った。
別に気をつけるべきことはないし、普段なら平然と作業をし、試練を対処するだけのはずだ。
だが、今日だけは違った。
いつもは見殺しにするオフィサーを庇いに行きそうになる者、見殺しにし死んでいるのを見て吐きそうになっている者、必死の形相でアブノーマリティを早く殺そうとする者、平然と試練を片付ける者。
ただ、どの者も作業をする手は止まってない。むしろ、いつもよりも早い。
お遊戯会の画面からいきなり地獄に変わったのだから、普通なら手が止まりそうだ。それなのにここまで動いているのは、やはり今までの環境だろう。現代日本ならいざ知らず、ここの外は単なる地獄だ。
──この異変を起こしたヤツは甘かった。そう思わずにはいられなかった。
「──気を抜くと持ってかれるぞ、集中···」
思考を作業に集中させる。この施設最大の事故要員から離れずに作業を徹底する。
────────
何も見えてなかったのは私だったのですね···
「──なあネツァク。それができるんならもっと後で良かったんじゃないか?脱走するALEPHとかWAWが多くなってからの方がダメージが与えられると思うが」
業務をすぐに終わらせて、酒の臭いを漂わせいつもより辛気くさい顔をしてるヤツのところへと向かった。
この異変は起こる日が日なら大事故に繋がっていても不思議ではない。それなのに、ここでしたのが違和感でしかなかった。
「···イェソドのコア抑制のタイミングでしか弄れそうになかったからな···それでも少しは乱れるかと思った。けど、お前らはそうさせなかった。はぁ···どこまでもここは地獄のような場所だな」
この原因を作ったであろうヤツはエンケファリンを片手にくたびれ、ここへの愚痴を漏らしていた。
「ここも地獄だが、外も地獄だ。──外の地獄さを甘く見てたみたいだな」
「それもある。けど、脅威となるアブノーマリティが脱走しなかったのが痛かったな。──なんでお前は蒼星から離れなかったんだ?」
「この事件がどっかの誰かさんの策だとして、蒼星が逃げ出したり、俺以外が蒼星を担当したりすることが面倒くさかったからな。──蒼星の収容室に何かしようとしてたのか?」
「さあな···今となってはどうでもいいことだ。──ああ、くそ···」
酒を飲んでいるが、その顔に酒気はなく死んでしまいそうになっている顔をしている。
「──何が目的だったんだ?単なる嫌がらせ···ってわけではないだろ?」
「···お前を「ネツァク」···あー···」
氷のような声、いつもよりキツい目、···普通に怒ってるらしい。多分この周しか起こらなかったことが起こって動揺しているんだろう。──流石、アドリブには弱い脚本家。今が煽るチャンスだ。
「アンジェラさん的には管理人の認知フィルターがなくなってどうだったんだ?その美貌を褒められたんじゃないのか?」
「ははっ、アンジェラさまとしてはよかったのか?」
「···あなたたちはどこか似ていますね。私の怒りを恐れないところは特に」
まあそれはちょっと思う。お互いどこか諦めていて、それなのに生きようとしている。···まあ、今のコイツは死のうとしてるけど。
「──まあ似たもの同士だが、生きようとしていないコイツといっしょにしないでくれ」
「俺としてもごめんだ。こんな意味の分からない狂人といっしょにするなよ」
「──はあ···」
「その苦虫を潰したような顔、管理人に見せたらどう?好感度上がると思うが」
「あんたのその顔見るの久しぶりだな。他のセフィラが見たら驚きそうだし、見せたらどうだ?」
「······」
アンジェラさんは俺たちの顔を一目見て踵を返した。──ネツァクになんか言うと思ったが、普通に帰ろうとしてて笑える。
「どこまでも台本に沿って動くのは無理だと思うぞ」
「···アンジェラさまお得意の聞こえないふりかよ。ビール自販機のときといっしょだな」
「······」
俺たちの恨み節にも何の反応も示さずに普通に帰って行った。──ちょっと手強くなったな。前だったら何かしらの反応はあっても不思議ではなかった。···アンジェラさんも成長してんのか。
「···酒飲みすぎるなよ」
「やっと酒の肴ができたんだ。まだまだ飲むよ」
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