3ヶ月以上経ってたのビックリしましたし、サブタイ付けるのも忘れてたのもビックリしました。
「レイ先輩、質問があるんですけど···」
「なんだ?」
朝、メインルームで号令を始める前に休んでいたときに声をかけられた。
顔を見ても名前が出てこない後輩からだ。おそらく昨日くらいに入ってきた若い男で、正義が1番高そうだと思う。
「オフィサーの人たちってなんでいるんですか?」
「肉盾、アイツらのご機嫌取り、ルーレットの確率減らし、──それ以外の存在理由はない。普段なら害悪なだけだし無視でいい」
タゲ取りや攻撃を受け流すときの盾など使い方はある。それに平和では自分の存在意義を感じられない魔法少女のために処分する。
あとは、ルーレットだ。赤ちゃんが喚き散らしたときや入っただけで精神が半分持っていかれるヤツ相手への最終手段のときでの的にするなど俺らが生きるためのデコイだ。
それらを差し置いても敵か味方で分けると、どちらになるか迷うところではあるが···
まあ、どちらにせよ職員がこんな葛藤した顔した原因になっているし害悪なのは間違いないな。
「そんな使われ方しかないのに、毎日彼ら•彼女らは···」
「お前は、『カルネアデスの板』って知ってるか?」
「?カルネアデス?···いえ、知りません」
「まあ知らなくて当然だし気にしなくていい、そもそも俺の故郷の話だしな。──自分が生きるために人を見殺しにしたり、突き飛ばしたりするのは許されるのかって話だ。···お前はどう思う?」
「······許されるでしょう。誰が許さないっていうんですか?」
『カルネアデスの板』っていうのは本来、海で難破したときに、1人しか掴まれない板を他の人から奪い、生き残った場合、その行為は道徳的に許されるのかっていう話だ。全部話してもいいが···この世界に海があるのか、見たことがあるのか、──そしてなにより「道徳」なんてものはあるはずがない。あったら逆に怖い。
こんな正義が強そうなやつでも、「許されない」とは言わない。裁く機関もなければ、裁く人もなく、裁く法もここにはない。
周りを見ても、誰1人として「許されない」と思っていない。···本当にこの世界は終わってる。
「だろ?──だから、お前が気に病む必要は一切ない。こんな世界なんだ、自分のことを最優先にして怒るやつなんて誰もいねぇよ」
「そのくせ、アンタは職員を、特に私やクリスのことを死んでも守ろうしてるけどね。私たちからすれば、『誰が言ってんの?』って言いたくなるよ」
ふんっと鼻で笑いながらメアリーが入ってきた。いつものことながら刺々しい。
「古参の職員が死ねば業務に支障をきたす場合が容易に考えられ、俺の業務が増える。特にお前ら2人が死んだらパンクして終わる。お前らが死ぬことと俺が死ぬのは同義ってことだ」
「そ、新人でもアンタなら助けそうだけどね」
···まあ、そうだろうな。時を戻せることを知ってるのなら俺はできる限り全員助ける。けど、時が戻らないんだとしたら、俺はどうするんだろうか。
「まあ、とにかく自分の命が1番、次に同僚の命、それ以外は別にどうとでもなるから頑張ってくれ。オフィサーは虫くらいに思ってていい」
「──どこまでいってもここは腐ってますね」
「こんな世界に産まれたんだ、仕方ないと諦めろ。アイツらの命はアブノマのエネルギーより軽い。優先順位を間違えるなよ」
「···ずっと疑問だったんだけど、そのエネルギーはどこに行ってるの?」
羊のようなタレ目からは想像できないほど鋭く貫き、声には温度が感じられなかった。···そこまで気になるか?
「さあ、俺も知らねぇ。···おそらく、T社*1やR社*2にはエネルギー提供してそうだが、どのくらいの量してるのか。それに本当にしているのかも分からないし、気にしても意味ねぇだろ」
白と黒を織り交ぜて話した。···光の木云々をコイツらに話すメリットはない。
「私らが命張ってエネルギー作ってるんだ。それが何に使われてるかくらい知ってもいいんじゃない?」
「まあそれはそうだ。けど、メアリーが気になるなんて思ってなかった。お前は生きていられればなんでもいいと思ってた」
いつかの日に、彼女は「自分が生きてさえいればいい」とそう言っていたような覚えがある。そんな彼女がこの会社のことを気にしたことに違和感を感じた。
「最近度を越えた残業が多いから、そんなにエネルギーが必要なのかって思っただけ。···それに、アンタがやけに協力的だし知ってるんじゃないって思ったの」
「──確かに、先輩なら『めんどくせぇ』と一蹴しそうですが、普通に受け入れて作業してますよね。僕たちの成長を考えてくれてるのは分かりますけど、それ以外にもあるんじゃないですか?」
──まあ、ALEPHやここから起こる試練•セフィラコア抑制を知らないと成長のありがたみが分からないよな。
実力が足りず死ぬ、(管理人の)注意不足で死ぬ、生贄になって死ぬ、訳もわからず死ぬ、────育成されていないとその日を越えることができず死ぬ。
それが、職員にはどう足掻いてもうまく伝わらない。だって、コイツらには
本来なら何回も何十回も味わっているはずのことが、生きている職員は体験していない。本当に問題ではあるが、そもそも外は死んだ方がマシの地獄だ。そのおかげでなんとかはなっているが、多分どこかで判断が鈍る。同僚を助けようとして道連れになったり、オフィサーを助けようとして無駄死にしたりすることが容易に考えられる。
···どこか進行する週で職員を失くす経験をしていた方が良さそうだが、戦力ダウンになるしそもそも管理人はそんなことしなさそうだ。
「そういうことはALEPHを簡単に管理できるようになってから言ってくれ。俺だって気を抜けば死ぬヤツらなんだ。まだまだお前らが完璧に管理できるわけがねぇだろ」
ALEPHがそう易々と来られては困るが、アブノマの恐ろしさを感じさせられるようなヤツが欲しいと願った。
──そう願った結果どうなったんだろうか?
──────
目が覚めると褐色の綺麗な肌で視界が覆われていた。──手で触るとスベスベしているが、その下にはしなやかな筋肉があると感じる。
「起きて最初にするのが太ももを触ることなんて、マナーがなってないんじゃない?」
バシッと頭を叩かれ、意識が鮮明になっていく。
···文句を言ってはいるが、寝起きの頭でもよく分かる安堵の表情と声をしていた。──その感じ、俺は倒れていたらしい。
「お前にマナーを説かれるとはな──枕になってくれてありがとう。···で、なんで俺はアンバーの世話になってるんだ?」
起きる前に今日の朝のことを思い出していたのは覚えている。けど、それ以降の記憶が曖昧だ。···倒れているってことは、何かアブノマの管理をしたってことだ。──俺が倒れるほどのやつがいるのか?
「私は知らないけど、さっき放送で管理人が『レイが回復したら話がある』って言ってたわ」
「それはこの部屋だけの放送か?」
そう言いながら周りを見渡す。どうやら、アンバーの部屋に連れてこられたみたいだ。
この部屋だけなら知られるのはアンバーだけ。けど、全体の放送なら俺が倒れるほどのアブノマがいることが通じて、良い緊張感が齎せそうだが。
「さぁ?貴方を連れてきてからはここにいるし、放送がきたのはここにいたときだし。でも、管理人の声的にこの部屋だけだと思うわ」
「声?」
「あの人すごい焦ってたみたいだったから。あんな声普通の職員に知られたら恥ずかしいでしょ?」
「はっ、アイツそんなに焦ってたのか。──俺が気を失う前、何か言っていたか?」
「面白いことは何も言っていないわ」
そう言いながらこちらを見て笑っていた。ただの笑顔ならいい。しかし、その笑みは安堵の笑みではなく揶揄うような笑みだと感じた。
「──何かあったのか?」
「廊下をいっしょに歩いたくらいよ。···貴方をお姫様抱っこしてね」
「······それ誰に見られた?」
「数人にしか会ってないし、大丈夫じゃない?あとは、管理人には見られてるでしょうね」
「────そ、普通に一回死んでくるわ」
「待って?」「それは待って欲しいな」
目の前の声と、スピーカーからの声が聞こえた。···なんだ、今は落ち着いているのかよ。
「──焦った声してた管理人が何の用だ?」
「君がそこまで削られてるのがまず悪い。──でも、君が目の前のモノと向き合おうとしない姿を見て、
「隣にいる誰かさんがね。人の不幸や死にかけてる姿を見てそんな顔が出来るのは流石としか言いようがないな」
「──心が晴れる気分がしましたね」
「本当に性格が良いですね。そんなんだから貴女は素直になれず、
「······あー、君たちのじゃれ合いは結構だけど、対面でしてくれないかな?僕にこの雰囲気は耐えられないよ」
···アイツも「じゃれ合い」と言ってるし、これはただのジャブの打ち合いだ。けど、俺のジャブが間違って顎の先を掠めたのかもしれない。
「···で、俺はどんなアブノマの相手をしてこうなったんだ?」
「やっぱり忘れてるんだね。──見た目はこちらからは分からない。見させないと言わんばかりに加工されている印象を受ける姿をしている」
──まあそうか。俺の精神を削りきられそうになるヤツなんて、盲愛様、規制済みくらいしかいない。
入っただけで精神の半分を持っていくことがここまで俺の負担になるなんて、管理人のときは思いもしなかった。
「なるほどね。──俺以外の誰かは行かせたか?」
「まだだね。一応その他の業務は遂行しているけど、そこまで進んでいるわけではないよ。クリスやメアリーに行かせてみるのも考えたけど···」
「アイツ相手に俺1人は効率が悪すぎる。なにせ、一回でほぼ全て削られて回復する時間が必要になるしな。···アイツらが行けるかどうかは知らんが、戻れる内に試しておいてくれ」
「了解、あの2人にそう伝えてくる。···思い出したらアブノーマリティの特徴とか教えて」
「分かった。···2人が行った後に俺も行くし、命令してくれ」
「そのときが来たら知らせるよ。じゃあ、
「ああ、
どちらの声もどこか分かりきってるようだった。何か諦めたようで、少し先の未来が見えて、面倒だと思っている風だった。
···なんだ、アイツも気づいてるのか。──あの2人を失ってからの俺たちが恐怖を振り撒く厄災に勝てんのか···
まあいいか、一回確かめてみたい。俺一人でどれだけ抗えるのか、管理人が対処法が分かっていないアブノマの処理ができるのか。
「私も戦う?」
「あーまあ初めは待ちかな、俺らがいたら頼りそうだし」
「そう、レイって分からないわ。貴方は職員のことを大事にしてるけど、今回は違うのね」
「アレの相手するのに俺一人じゃ近いうちに終わるし、確かめないとな。あとは、俺や古参の職員がいない中でアイツらがどう動くのかが気になる」
「──管理人よりも管理人らしい思考ね」
そう言って、紅茶の準備を始めた。遠くない内に消えて終わるんだ、今のうちに贅沢はしておかないと。
「そうかもな。──何か食べるものある?」
「何か甘いもの出すからちょっと待ってて」
甘い匂いと華やかな匂いがこの部屋を満たし、他愛もない会話で時を紡いでいく。
血生臭い匂いと涙が他の部屋を満たし、助けを求める声や泣き叫ぶ声が木霊する未来と反比例するような緩やかな時間が流れていった。
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