15日目にもアブノーマリティが収容されています。
普通に間違えました。
今後気をつけます。
15日目、キセルを口に咥えながら管理人の指示を待った。
その指示を待つ中で、2つ違和感を感じた。
1つは、今日も新しいアブノマの追加があるはずなのに、俺へ管理の指示が来ないこと。
そして、景色がいつもよりリアルに見えるということだ。
前者はまあいいとしても、後者はマズイ。
多分認知フィルターが上手くかかってない。どうする···?
俺が悩んでいると、後ろから誰かの足音がし話しかけられた。
「今日はレイ先輩行かないんですか?···初アブノーマリティは先輩がいつも生贄に行ってたのに」
古参な後輩、クリスが戸惑うような顔をして近づいてきていた。
──生贄ではないが。
「生贄じゃねぇ···が、確かに妙だな。いつもは俺に相性が悪そうな作業指示してくるのに···PE-BOXの量がZAYINとかTETHとかなんじゃないか?」
リスクレベルの低いアブノマは高レベルの職員が相手にしたら逆に脱走するとか結構ある。
それを管理人が今までの傾向から掴んだのか?
···現実的じゃないな。多分アンジェラから何か言われたのが近いだろうな。
俺が思案しているのを不安そうな目で見ながら、後輩が口を開く。
「···大丈夫だと思いますか?」
「大丈夫なわけないだろ。俺が何の指示をされてないってことは「O-01-64が脱走した、対処頼む」──行くぞ」
ビーッビーッとクソうるさいアラームの後、管理人の苦しそうな声で脱走が報告された。
··· O-01-64? さすがに番号じゃ分からねぇな。
どいつだ?
こんなに早く脱走されたということは、カウンター1のアブノマだと思いながら、鎮圧の指示が出たところに向かった。
昨日もらった新武器の試し相手になるくらいのレベルのやつがいいなぁ···
──が、現実は非情だった。
グチャグチャッと何かが地面に這って動く音と、
ウフフッ!!アハハッ!!!と廊下全体に響く少女の笑い声。
グシャという音の後に、
──あー、俺ですら1人ではちょっと無理だな。
目の前に広がっていたのは、廊下一面に散らばる人の血だった。臓物すらも残っておらず、綺麗に血液のみ残っていた。
噛み砕かれた後に轢かれたから仕方ないか。
認知フィルターなしで、こういう惨状を見るのは
いつもの地獄と変わらない血の臭いが現実へと引き戻してくる。
そう分析してるなかで、またアラームが鳴り、死亡判定が重なると出てくるヤツらの脱走が報告された。
···これなんとかならないよな。
···いや、俺1人の新武器の練習にはなるか。
「せん···ぱい···」
まさしく地獄絵図の廊下を目の当たりにし、俺以外の職員はパニック状態手前だった。
ループの中では犠牲者を出してはいるが、今のコイツらは誰も経験していない。だから精神が脆い。
認知フィルター越しに見たとしても、
同僚の死に耐え、自分が死ぬかもしれないという恐怖に打ち勝てるヤツはそうそういない。
──仕方ねぇな。管理人からの指示もないし、指揮するヤツなんて誰もいねぇしな。
パンッ!
···結構手叩くだけで注意引けるんだな。
動揺から帰ってきたやつらの目を見ながら口を開く。
「お前らは他部門のアブノマの相手しとけ、ここには来るなよ。あと、アイツと対峙したらすぐ逃げろ」
···被害の甚大さ、開始してからまもない時間ということもあるしリセット確定だ。
けど、少し試しておきたいことがある。
まだ頭が切り替わってないヤツらの頭を叩き、少女の笑い声がする方へ向かった。
「──ガチでバケモノだな、コイツ」
後ろからだと、黄土色の魚?がオフィサーを粉々にしていることしか分からない。
いつも横から見ていたから、後ろから見るのは新鮮だった。
少女の甲高い笑い声とともに、グシャッとする音。その後に体が粉々になる音が聞こえた。血の匂いが濃くなり、余計鬱屈とした気分になる。
──ま、別に今日はやり直し確定だからどうでもいいか···
それに生きていようが死んでようがあまり関係ない。
「···逆にオフィサー始末してくれてありがたいな。魔弾のヤツの武器全貫通だから人殺さなくて済んだ」
オフィサーが人なのかどうかは置いておいて、少しは気が楽になった。
その気分のまま、廊下の入り口から狙いを定め「貪欲」に打ち込む。ダンッ ダンッ
···味方も貫通するだけあって、威力高そうだし射程長いな。だが、やっぱり近接の方が性に合ってるな。
そう思いながら、黄土色の魚に枯れることのない銃弾を浴びせ続けた。しかし、ずっと喰らわせ続けることはできない。
「あーそっち行かれるとマズイな···」
廊下から廊下へワープする特性だから、結構動き回らないとならない。
多分職員も犠牲になるだろうなと思いながら、管理人の指示に従い黄土色の後を追った。
なぜ私は欲望に負けてしまうの?
私だって始めは、彼らと同じく
···もう遠い昔のころの記憶で思い出せないが、確かそうだったはずだよね。
なのに、なんで私はそんな人たちを笑いながら食べてるの?なんでこれが「気持ちいい」と感じてしまうの?
──本当に自分が嫌いになる。こんな快楽が気持ちいいと感じるくらいなら、ずっと私は寝ていたい。
あの幸せな夢に浸っていたい。
魔法少女でなくなる前の、地位、名声、富、そしてあらゆる快楽を呑み込む前の、私が私であった毎日を見ていたい。
あのときは本当に幸せだった。快楽を感じたことがなかった私は「魔法少女」として皆んなを守るヒーローだったのに···
それがなんで今は、人や街を食い散らかす化け物になってるんだろ···
···後ろがさっきからチクチクするけど、私は後ろ向けないし、目の前の
···そんな威力の銃かなにかで私は倒れないわ。勇敢に立ち向かってくれるのは尊敬するけど、ごめんなさいね。
その程度じゃ止まれないわ。
しつこいわ。十数発で私は倒れないって。
だからしつこい!もう二十発は越えてるのに、なんで諦めないの??
──痛い、何発喰らったかも分からないけど、後ろに無数の穴が空いてそうなくらい痛い···
──いつも私はこうだった気がする。顔も見えない人に後ろから遠距離武器で殺される。
魔法少女だった私のように拳や近距離じゃないところに、少し憤りを感じる。
「さすがに35発くらいじゃ倒れないか···他の職員が与えたダメージ分を計算に入れるとあとちょっとだと思うけどな」
何回もワープされたが、ぶっちゃけコイツは背後を取れればあとは撃ち放題だ。中層が解放されてないから狭い廊下ばかりだが、それでもなんとかなる。
それに、今のように背後が取れていなくても端にいれば十分な量打ち込んで、エレベーター内に逃げ込める。
まぁ、そんなことをする前に倒れそうだが···
始めに比べ、動きが鈍くなった黄土色を見て、引き金を引いたときだ。
朝に話していたクリスが収容室の中から出てきてしまった。
俺の銃弾が彼の腹部を貫き、蹲った···動けなくなったみたいだった。
そんなことはお構いなしに彼の後ろからは、黄土色の魚がグチャグチャと少しずつ近づいてきていた。
多分あと2、3発撃てばコイツは死ぬが、クリスも死ぬ。動けないクリスを担いで逃げるのは現実的に不可能なほど、彼らの距離は近かった。
もう一度クリスを収容室に入れるほどの体力もないし、見捨てるのが1番賢い選択だと思う。
でも自分のせいで誰かが死ぬなんてことは絶対に嫌だ。それがリセットされる世界の出来事であっても、それだけは嫌だ。
だから、俺が選べたのはこれしかない。
「クッソ!!」
ダッ!という音が廊下全体に響き、息をすることもせず走り抜いた。
「···クリス寝とけ」
全力で走ってクリスより前に出て、近距離から銃をぶっ放す。これしか選択肢はなかった。
グチャグチャと魚が近づいてくる音が鮮明になりながらも、俺は引き金を引いた。あと2発くらいで倒せないと俺も、クリスも死ぬところまで黄土色が来た。
神は全く信じていないが、それでも神に縋りながら抵抗した。
気持ち良さよりも痛みがくる。矮小な餌を呑み込む快楽よりも痛みがくる。
始めはチクチクした痛みも、今では全身が張り裂けそうなほど痛い。
全身から血が吹き出したような疲労感や、力が抜けていく感覚がした。
私の命に終わりが見えたことに
ようやくまた眠りにつけると思い目を瞑ろうとしたけど、目の前の餌がどうしても気になった。
最後の餌を食べ、少しでも幸せになりたいと思い、最後の力を振り絞って餌の前まで来た。そのときだった。
今まで後ろからの痛みが、今度は前から来た。
···なるほど。そのライフルで撃ってたのね。
私と目と鼻の先にいるのにも関わらず、倒れた人を庇いながら銃を撃つ1人の戦士がいた。
呑み込まれるのが怖くないと思っているかのように、私のことをどうでもよさげな顔で見ながら銃弾を放っていた。
──この人はなんなんだろう?
崩れゆく体•意識の中、私はふと疑問に思った。
今まで私を目の前にした人は大抵、恐ろしいものを見る目で見てくるのに。彼はそんな目では見てこなかった。
···なんなの?私はこんなに醜いバケモノなのに、間近に来てもなんでそんな普通の目で見れるの?
···分からないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで分からないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
知りたいという
「···e···aんで?」
「あ?···お前鎮圧された後、通常時に戻んの?···まあいいか···で、なに?何か用か?」
手が届くところまで来て、突然黄土色の魚が光に包まれた。
そして光が収まるとそこには1人の女が立っていた。
魚の額らへんにチョウチンアンコウの提灯みたいにぶら下がっていた、眼球が飛び出ているようなぐちゃぐちゃしてる顔ではない。
ところどころ傷付いてはいるが生きている顔で俺を見てきていた。
···普通に綺麗だな。
青白なくるくる巻かれた髪に褐色な肌、エメラルドのような瞳にキリッとした目。海外の女優みたいに綺麗だ。
──いや、そこじゃない。なんでコイツ人間状態で立ったんだ?絶対そんな演出なかったよな?···まぁ何が起こっても、再スタートだから関係ないか。
考えないといけないのは、コイツの対処だろう。俺くらいしか安定して作業出来なさそうだし、俺でも低確率で普通になる……今日は付きっきりになるだろうなぁ···
そんなことを考えていると、「貪欲」が不思議そうな顔をしながら口を開く。
「あなたはなんで逃げなかったの?···私のことが怖くないの?」
逃げるなんてことが選択肢にあるはずもなく、後ろから撃つだけで片付くお前を怖いなんて思うはずがない──何より綺麗だしな。
「逃げるなんて選択肢にないし怖くないな。あと、むしろ今のお前は綺麗だと思うし」
──あ、ミスった。アブノマ相手への褒め言葉はいらないだろ。大抵碌なことにならない。
けど、言ったものは戻らないしな···
そう思案し、恐る恐る「貪欲」の様子を伺うと、キリッとした目から驚いたような目に変わり、顔を赤くしていた。
その後、俺が見ていることに気づいたからか「···アハハッ!」と笑った。
魚のときとは比べ物にならないほど、狂気を感じない可愛い笑い声だ。
目に涙がたまるほどの笑いが収まると手を差し出してきた。普通の少女が手を差し出してくるのなら普通に出すが、相手はアブノマ。それにコイツ相手は勘弁願いたい。
···コイツ生前は拳で戦ってたから、手差し出すんは怖いな···まあどうせ巻き戻るんだから変わらないか。
そう思い、差し出された手を取った。
···やっぱり力強っ···ってか絶対こんな挙動なかったよな??
これまでの全てに対し疑問に思い、目の前の「貪欲」に問う。
「この握手に何の意味があるんだ?お前は本当に貪欲か?」
無意味なんてことはなさそうだし、目の前のコイツが何故か蕩けた顔をしてるから意味はありそうだ。
···本当にその蕩けた顔はやめて欲しい。情欲が掻き立てられる。自制ランクがVになっていなかったら抱きしめてそうだ。
自制ランクVという強い精神で、目を瞑り少女の誘惑に抗ってると、繋いでる手を少し強めに握られた。
──えっガチで痛い。抵抗を表すような目を向けた。
そうすると、ムッとした顔から花が咲いたような笑顔に変わった。
──可愛い。綺麗な顔立ちの人が可愛い笑顔をするのは反則じゃないか??
「可愛いな」
「か、可愛い??···私そんなこと言われたことないのに···」
「なんだ?生前も可愛いって言われることなかったのか?そんな綺麗な顔してるんだし、普通に笑ってたら可愛いだろうに」
「ッ///!そ、そう??···ありがとう···」
──コイツへの賛辞が止まらない。熱に浮かされているような気がする。「墓穴の桜」に魅了されてるときと同じ感覚だ。···コイツが俺に魅了してきているのか?いや、コイツに魅了はなかったはずだ。
···ならなんだ?何が俺を掻き立てている??
そんな疑問もコイツの赤い顔を見れば消えていく。
本当にマズイ。アブノマと親交を深めることがマズイとは思っているが、体が言うことを聞かない。
逆にコイツと仲を深めようとする思考になる。
「名前は、名前はなんて言うんだ?」
「名前?···よく貪欲の王って呼ばれてたわ」
「そっちは知ってる。生前はなんて名前だったんだ?」
「────思い出せないわ···なに?もしかして、私のこと元の名前で呼んでくれるの?」
彼女の顔に少し笑みがこぼれた。
「さあ?ただただ興味があっただけだ。人間の
「フフッ、確かにそうね。じゃああなたに付けてもらいましょうか」
「名付け親俺かよ···なら、アンバーとかはどう?」
「アンバー?」
「琥珀色だしな」
「フフッ、単純だけど、ありがたく貰っておくわ」
また明るい笑顔になった。思考が彼女に侵食されていく。他のことは何も考えられない。
ボーっとした意識の中、コホンッと小さく咳をし、赤く可愛い笑顔のまま目を合わせてきた。
「私はアンバー。あなたの名前は?」
「俺はレイ。よろしくな、アンバー」
繋いだ手を強く握った。
···アブノマとの交流は百害あって一利なしと分かっているが、止まらない。
それに再挑戦が確定してるんだ。何をやってもいいだろ。
痛っ···ホントにコイツ力強いな。
目線を向けると、ジトーっとした目で俺を見ていた。
「···なんだ?」
「レイ、あなたは私のことどう思ってるの?」
「どうって綺麗だなって思ってる」
「···そう···なら好きなものは?」
「好きなもの?」
「ええ」
いきなり話題が変わり違和感を感じた。
その違和感はアンバーの顔を見るだけで確信に変わった。
「それから好きな食べ物、音楽、場所、タイプ、それに趣味とか···あとこれまでの生い立ちや人生観なんかも知りたいわ···!!!子どもが何人が理想なのかも···ああ!あなたのことはなんでも知りたい!!!」
この瞬間俺は選択を誤ったことに気づいた。彼女の目がドロっとしていたのが決定的だった。
俺はバカだ。アブノマは所詮アブノマ。その本質が変わることは一生ない。それなのに絆されてしまった。
···リセット確定していてよかった。
溢れ出る「欲」を聞き流しながら巻き戻しを待った。
俺が口を閉じた数十秒後、時計の音が聞こえた。
どこから鳴っているのかは分からないが、この音が聞こえた瞬間に場面が切り替わっている。
「レイ、新しく入ったアブノーマリティの話し相手になってくれ」
そして、大体
ほんとにそろそろ学べや。
···って、話し合いってことは「愛着」か。悪くないな。まぁ、洞察以外ならアイツはなんでもよかった気がするが。
「先輩、また新アブノマの世話担当するんですね。生贄がんばってください」
「だから生贄じゃねぇ」
さっき瀕死状態だったクリスが元気なことに少しホッとし、収容室に向かった。
誤字報告など待ってます。
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