またどこかから時計が巻き戻るような音が聞こえた。
この音が聞こえたのなら場面が戻ったということだ。
一旦状況を整理しよう。
今日や明日の段階では、本来の貪欲は俺以外安定した作業ができず脱走魔になるし、俺ですら安定する気はしない。
それがアンバー相手なら、今の俺ですらパーフェクトに収容でき鎮圧も手伝ってくれるというおまけ付き。
···困るのは本当の意味で俺専用になってしまうことだ。絶対他のアブノマの世話したらブチギレる未来が見える。最悪···いや、ほとんどの場合で職員を殺してしまう。
──扱いにくっ!!
「レイ、考え込んでいるところ悪いが、新しく入ったアブノーマリティの機嫌取りだ。行ってくれ」
···悩んでても仕方ないし、行くしかない···か。
「了解」
「先輩、また新アブノマの世話担当するんですね。生贄がんばってください」
「だから生贄じゃねぇよ」
前回のときと同じような会話をして、少し憂鬱な気分をしながら向かう。
「愛着作業だよ···な────普通に起きてるのかよ。卵の形してる装置みたいなのもない···って、そのバラバラになってるのがそうか」
収容室に入ると、粉々になっている何かと何故か晴れやかな表情をしているヤツがいた。
「ええ、起きるときに邪魔だったから壊しておいたわ。もう私は幸せだった時の
さっき俺が相手しなかったから職員を瞬殺したくらいに不機嫌···という訳ではなく、むしろその逆で晴れやかな表情して立っているアンバーがいた。
···なんでこれほどにこやかに、それに夢を見る必要がない?
コイツは卵型の何か分からない装置に自ら閉じ込めたはずだ。そんなヤツが、その装置をぶっ壊してにこやかに立っているなんて特異でしかない。
「···もう寝る必要はないのか?」
俺は恐る恐る聞くしかできなかった。自分が軽い気持ちで褒めたことが悪手だったことは分かっているが、それでもなんでこれほど晴れやかなのかは分からない。
それに前回起きたときは装置はそのままに起きていたはずだが、今回はぶっ壊している。
なんだ?何が起こってる?
「ええ。だって、あの時のわたしにはない幸せが今目の前にあるのよ?寝ている必要はないでしょう?」
アンバーの前に映ってるのは俺しかいない。
──俺がコイツの
···悪夢ならもう覚めてくれよ。
確かに綺麗だし欲望に飲まれるまでは人のために身を粉にして働くほどの善性だ。
優しさもあるし、多分俺に大きすぎるほどの興味を持ってくれてる。
考えれば考えるほど
だが、アブノマはアブノマだ。
死んでも死にきれず、どれだけ同じ殺され方をしても成長なんてしないような幻想体。
そんなのと付き合うなんて正常ではない。
だから、今揺れ動いている俺は絶対におかしい。
「じゃあ、今のお前は何を求めている?」
一度思考が固まりそうな頭をリセットするのと、現状を把握したくて声をかけた。
最悪な可能性しかないことは分かりきっているが。
「貴方しかないでしょ?」
1秒くらいでそう答えられた。
「···お前は俺に何を望む?」
「んー、そうね······」
先ほどの即答と打って変わって真剣に考え込んだ。
──そんなに考えられるのは怖いが、上手くアンバーを扱えられば戦闘員が増える。
···俺の心労とかその他大勢と引き換えにではあるが···
未来の自分を憂いながら、彼女を見つめていると照れくさそうに少し顔を赤くしながら笑った。
···だから、そういう反応するのはやめてくれよ。
普通にこっちも気恥ずかしいって。
「何をって言われると難しかったけど、今貴方の顔を見てはっきり分かったわ」
「···何が?」
どこか晴れやかなのに顔を赤くしてる貪欲が少し怖くて、可愛くて、心の整理がつかない。
「ただ隣にいてくれるだけで私は嬉しいわ。私といっしょに暮らさない?」
「そういうセリフは自分の家持ってからしてくれ」
──あぁ···コイツ可愛いなほんとに。
────────
「彼らは何をしてると思う?」
「新居の相談でもしているのではないでしょうか?私たちもどこかに建てますか?」
「···アンジェラ、君の冗談は分かりにくいよ」
「あら、よくお分かりで」
「──アブノーマリティ自体に変化があるよね?これってどうなるんだ?」
「鎮圧指示が追加されるだけで大して変わりませんよ。それに管理は彼が一任するでしょうし、WAWの戦力が加わったとポジティブに捉えましょう」
「──そういうものなんだ」
────────
「···とりあえず、いっしょに働いてみないか?」
同棲なんてしたら俺の胃に穴が開きそうだし、そもそも俺の部屋に2人生活できるスペースはない。
妥協案としての提案だ。
「昔と同じように悪を滅ぼせばいいのよね?簡単よ」
「そうそう、俺くらいしかまともに鎮圧できないから、アンバーが入ってくれるとマジで嬉しい」
「そうでしょうね、さっきの人間脆すぎて驚いたわ。貴方にしたのと同じような威力で打って死んでしまったし···もう少し教育したらどうかしら?」
「···ほんとにそう思う」
さっき来たばっかのアブノマに言われるレベルで職員は弱い。
──そのなかでこんな殲滅力のあるアブノマが仲間になってくれるのはほんとに助かる。
「···で私はいつ出ればいいのかしら?」
「あー、まあ助けが欲しいときは呼びに行くから待っててくれ」
「分かったわ···暇な間貴方はいっしょにいてくれるの?」
「いれる訳ないだろ。死ぬほど忙しいんだからな?」
「···仕事と私、どっちが大事なのかしら?」
「自分」
「そう···なら考えを改めさせる必要があるわね」
「はっ、普通に逃げるわ。じゃあまた鎮圧時」
扉を閉め、部屋の中から聞こえてくる声を無視して普段の業務に戻った。
試練やアブノマの脱走でのアンバーの活躍具合は凄まじく、心強い味方が増えた。
···しれっと俺の側に来てアッパーやフックを喰らわそうとしてくるのが普通に怖すぎるが、晴れやかな顔してるからまあ大丈夫だろう。
長かった15日目の業務が今回でようやく終わった。
「···面倒な業務お疲れ。今日も俺らは生きているなあ···」
緑の長髪に人生に絶望したような目、片手には酒のようなものを持って話しかけてきた。
こんななりでもセフィラで上司だ。だが、コイツと話すのは結構面白いし話が合う。多分考え方が似てるんだろうなあとお互い思ってる。
「まだまだ生きるから安心してエンケファリンでも飲んどけよ。ネツァク、お前はそういう生き方しかしないんだからさ」
「はっ···いつもにましてトゲが鋭いな。なんかあったのか?」
「いや別に何もねぇよ···あーいやただちょっとめんどいことになったから、お前に八つ当たりでもしようかなと」
「めんどいこと···?···あー、お前そういえば褐色のアブノーマリティに狙われてるらしいな。この地獄みたいな毎日にちょっとしたスパイスがあって良かったな」
「地獄みたいな毎日ではあるが、この会社ではまだ死人は出してねぇよ。まだ俺らは地獄にはいないし、これからもずっとアイツらは生かすぞ」
そう言うと、死んでた目が少し見開いた。
──コイツも死んでそうで死んでないから、反応結構面白いんだよな。
「···ここで職員が1人助かろうと、何の意味がある?死ぬのが1日伸びるだけだ。そんな場所で未来や希望なんてものは贅沢な話だろ?」
「そうか?俺は贅沢だなんて思わないし、職員はずっと生かすぞ。そう悲観するなよ。──こんな終わってる世界ではあるが、見渡せばお前の幸せだって見つかるかもよ?」
「はっ···俺の幸せは酒飲んでるだけで十分だ」
「──確かに、幸せや希望、未来とかを自分で探しに行かないようなヤツには贅沢だし意味のない話だな」
「···セフィラである俺に何を望めって言うんだ?聞かせてくれよ、リーダー···」
「さあな、そのくらい自分で見つけろよ。自分のことは自分でなんとかするしかねぇぞ。特にお前らなんて外から変えられるようなものじゃねぇだろ」
「──やっぱお前と話してたら酒が不味くなるね」
「ならよかったよ。最終的にはお前に酒をやめさせて現実を直視させるのが目標だし、その調子で頼む」
「···お前は悪魔か?」
「悪友だろ」
そう言って笑い合う。
いつか来る崩壊のときまで、俺はコイツらセフィラと上手く付き合えたらいいなと思う。
──女性陣は関わる気一切ないが。重いし。
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