油断•怠慢•過信、おそらく全部だ。
一度職員が一瞬でO-03-93に吸い込まれていったときにやり直すか、彼に頼むべきだった。
そうでなくとも、彼の精神がすり減りきる前にやり直さなければならなかった。
──認知フィルター越しに見ても、目がO-03-93と同化し、膝をつき、吸い込まれたくてO-03-93に手を伸ばしていた。
そんな状態はおかしいに決まっているし、精神がなくなりかけているのは把握できていた。
···それなのに、僕はいつも通りにやり直すことができなかった。体と頭が動かず呆然としてしまった。
彼と貪欲の王の2人なら、PE-BOXが30あるこのアブノーマリティでも倒せると思っていた。
···本当に認識が甘かった。そうでしかなかった···
「管理人」
情けない自分を笑うものだと思っていたけど、そういう訳ではなかったらしい。
いつもと同じような顔で話しかけてきてくれた。
「···なに?」
アンジェラの声を聞き、少し正気に戻った。
···言われるような内容は大体分かるよ。やり直して業務を再開しろ···でしょ?
そう思ったが、彼女からは意外な言葉が出てきた。
「おめでとうございます」
「──は?」
···意味が、分からない。何が「おめでとうございます」だ。
指示を出してきた職員が死に、ずっと助けてもらってきた彼さえも見殺しにしてしまったんだ。
──何が···おめでとうございますなんだよ···なにも、なにもめでたくなんてない···
「管理人としてこの経験は価値のあるものですよ?祝福してもいいでしょう」
僕の困惑した顔を見てか、そう言ってきた。
「ふざけるなよ···僕はこの会社を、職員たちを全滅させたんだ···何もめでたくないだろ···!」
後悔しかない自分には到底その祝福は受け取る気にはならない。
そして、その後悔をまるで良いことみたいに言ってくるアンジェラに怒りがでた。
が、そんな感情もアンジェラの目を見て引いていった。
···君はなんで、そんなに···
「人はそのような後悔を感じて成長していくものです。だから貴方の後悔はこれからの糧になります」
──懐かしいものを見るようなそんな目をして、普段の彼女からは考えられない発言をした。
···完璧なAIと自称するアンジェラがこんなことを言う違和感がある。
まるで、後悔して成長したきた人を間近で見てきたような発言だ。彼女が隣で見てきた人は···ああそうか···
──僕の前の管理人がそうだったのか。
そう考えると納得がいった。
多分僕と前の管理人が重なって見えたんだろう。
だからそんな慈しむような顔をしているのか?
君は前の管理人とどんな関係だったんだ?
思考がまとまるよりも先に、この地獄を終わらせた。
──────────
「···eイさん?──レイさーん!」
「────ん···あー、ごめんごめん。ちょっとぼーっとしてた」
「先輩がそうなるの珍しいですね。貴方がしっかりしてないと僕たちが死ぬんで気をつけてくださいよ」
「お前らももっとしっかりし、職員として強くなってくれ···まあ、毎回言ってるが、命を大事に。気を抜いたり、作業ミスったりして死んでもどうにもならないしな。じゃあまた、全員で終業時間迎えるぞ」
「「「「「はい!」」」」」
目が覚めると、さっき顔が蕩け蒼星に吸い込まれていったヤツらが普通にいた。
ほっとはしたが、さっきとの落差とコイツらの顔を見ていると蒼星を思い出してしまう。
···吐きそうな気分だなほんと。
「あ、そうだ〜レイさん〜!」
さっき声かけてきた古参な職員シャルロットに呼び止められた。
「なんだ?」
「アンバーちゃんが寂しそうに待ってましたよ?レイさんのこと健気に待ってたのに行かないのは男の人としてどうなんですか?」
ゲームの中では職員の性別は特に設定されていなかったが、この世界では普通に別れている。
だから、シャルロットみたいな女性はこういう話好きなんだろうな。
···こんな元気な彼女も顔を蕩けさせ蒼星に吸い込まれ行ったんだよな。
──ダメだ、今職員の顔見てると思い出す。
うざすぎる、頭からさっきの光景がへばりついてる。
「あとでちゃんと行くから黙ってろ。あとあんま余計なこと話すなよ?」
「大丈夫ですー!昨日はレイさんのことばっか話してたので!」
「それはそれで嫌だな」
「欲張りすぎません?!」
「まあいいや、じゃあお前ら気をつけて作業しろよ」
これ以上コイツらの顔見てると死にそうになる。
──早く、早くどこか行かねぇと···
元気な声を背に、その場から足早に去った。
当てもなくふらふらと彷徨っていると、酒の臭いがキツイところにいた。
──こんな臭いしてるのはアイツしかいない。
「···ははっ!···アンタがそんな顔になってるのは滑稽だな」
「──ネツァクか···俺は今どんな顔してる?」
今の俺がちゃんと話せるのは管理人やアンバー、そしてセフィラとか吸い込まれてないヤツらしかいない。
いつもみたいな緑髪ではなく、
少しの救いとして会話したかったが、コイツはそういう感じではないらしい。
「地獄にいる俺と同じ顔をしてる」
「はっ···機械のお前と同じ顔してるなんて俺も落ちぶれたもんだ」
「そう見栄張って現実から逃げるなよ」
「酒に頼って現実から逃げてるお前に諭されるなんてな···どういう風の吹き回しだ?」
いつも酒に頼って現実から逃げているネツァクが言わなそうなこと言っていて驚いた。
しかも、彼の顔を見ると、いつものへべれけ顔ではなく真剣な···いや諦観した表情をしていた。珍しいにもほどがある。
その表情のまま俺をまっすぐ見て口を開いた。
「──お前は明日も何かをやり遂げるだろうさ。それも誰も職員は死なさないという立派なことをな。それを管理人や他のセフィラがお前の事を褒めるだろう」
「職員は誰も死なさないってお前に言ったしな」
「···そうだとしても、俺の部門でまた事故が起きて、その事故で何人かが死んで、何人かは狂い、何人かは一生回復できない傷を負うだろう」
「?──お前は何を···いや、ああそうだな」
時々、セフィラたちと話していると話が噛み合わないときがある。
管理人時代のときもそういうことが多々あり、多分コイツらは特定の場面でそういう風に言うことがプログラミングされている。
だから多分これもその一種だろう。そう思い、適当に合わせた。
「その時、ホドは俺を慰め、イェソドは俺が守らなかったルールに怒って、マルクトは明日からもっと頑張ろうと発破をかけるだろうさ。誰も俺のせいだと口にしないが、結局は俺の責任なのは確かなんだ」
「ああ」
「その責任から逃げるのは間違っているのか?」
「逃げ方が不健全だが、別に責任から逃げることは悪くないだろ」
「そう思うなら、なんでお前は逃げない?そんなに逃げたがってる顔をしているのに」
···は?···プログラミングされてる会話じゃないのかよ。いやでもそうじゃなきゃ、さっきの事故云々の話はここでは起こってない···なんだこの違和感···?
しかもめんどくさいことを···
原作をしっかり覚えている訳ではないが、そんな感じの流れではなかったことは分かる分違和感がある。
「···逃げてもなんともならねぇからな。俺ができることは全うするさ」
「アンタはアンジェラからの薬の打診断ったらしいな。薬はすべてのことに無感覚になるようにしてくれるんだ。なぜ、それに頼ろうとしない?」
「その代わりに認知フィルターを要求した。これさえあればなんとかなる」
薬で麻痺させ業務を遂行させるのは不健全の塊だろう。まだ現実を変換する認知フィルターの方がマシだ。
もう今はその効力を発揮してるのかは怪しいが。
「けど考えてみろ。さっきまで同じ飯を食べてた仲間が木っ端微塵になって、その残骸を正気のまま片付けられる人間がどれほどいると思う?認知フィルターがあっても、仲間が死んだ事実は変わらないし、それを受け止める職員の神経は正常のままだ」
──それはそうだ。お人形劇のように見えてても事実は変わらないし、受け取るヤツの神経はイカれてない。
事実として、今の俺はさっきのことを受け止め切れてはいないんだ。
···コイツの言い分は···確かに正しいのかもしれない。
「大丈夫に見えて、本当は誰一人大丈夫じゃないんだ。誰もが何かに頼らないと生きてはいけないんだよ。アンタは何に頼ってるんだ?少なくても今は認知フィルターかかってないだろ」
···なんでコイツはそんなに分かるんだよ。
「はっ···今もちゃんと認知フィルターかかった世界だから安心しろよ」
「前会ったときでは考えられない顔をしていて、俺の体が機械に見えてるのにか?」
「──チッ···」
「もう一度聞くが、アンタは何に頼ってるんだ?」
「···俺は···」
──俺は何に頼ってるんだ?
職員は頼られる側、セフィラは頼りない、管理人は初心者ポンコツ、アンジェラはそもそも味方ではないだろう。
思考が沼に沈んでいく感覚が···する前に身の危険を感じた。
自分の死ぬ感覚がし、飛びついてくる何かを避ける。
「ッ?!あっぶね···!おいアンバー自分の力考えろって」
「この状況で避けるのはないんじゃないの?」
「俺普通の人間だし死ぬわ」
「私が普通じゃないとでも?」
「はっ···どこが普通なんだ?」
「ムカつくわね···って、そうじゃなくてっ!レイ、貴方大丈夫なの?」
「······ああ。そうか、そうだった···」
「···レイ?」
俺を殺す勢いで飛びついてきたとしても、心配してくれているのは変わらない。
それにこれほど泣きそうな顔してまで俺を心配し、身を案じてくれるのはコイツしかいない。
悩んでいた自分がバカらしい。
隣に来たアンバーの肩を抱き、心底嫌な顔をしているネツァクを見て口を開く。
「ネツァク、俺はコイツ。アンバーを頼ってる。だからお前やアンジェラみたく、酒や薬に頼るようなことはしねぇ」
「···ああ、そうかい。精々アンタが死なないように願ってるよ」
「俺もお前が酒止めるように願ってるさ」
苦虫を噛み潰したような顔をしてネツァクは去っていった。
そのため、この場に残ったのは、
「──れ、レイ···?」
顔を若干赤くして俺を見つめているめんどくさそうなのだけだ。
評価や感想、お気に入り、しおり、感想などがモチベーションになって書けています。
これからもよろしくお願いします!