にわか管理人が職員に転生した   作:パッチワーカー

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 ちょっと長めかな。
 いつも3000字くらいがいいか、と思っていても結局4000〜5000字になってしまいます。
 
 


1日は24時間ではない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──れ、レイ···?」

 

 めんどくさいのを残して去りやがったネツァクを恨みたくなったが、これは俺の問題だ。

 

「···アンバー」

「なに?」

「ありがと」

 

 感謝されると思っていなかったのか、さっきまでの赤面した顔とは打って変わって目を丸くしていた。

 

「···この体になってから初めて、人を殺して感謝されたわ」

 

「お前がいなきゃ俺は死んでた。色んな意味でな」

「え?」

「ん?」

 

 なんだコイツ?何にそんな引っかかった?

 

「···貴方の精神は()()程度で死ぬの?」

 

 それを聞き自然と笑いが込み上げてきた。

 ···俺を高く見積もりすぎか、蒼星を低く見過ぎだ。

 俺はそんなに強くない。

 

「──はっ!···ALEPHの精神攻撃をあの程度って言えるお前が羨ましい。俺は普通にあの程度で死ぬさ。人間だしな」

 

「···そう···」

 

 一度話が切れ、なんとかなったか?と思ったが、別の厄介ごとが舞い込んできた。

 

「レイ、O-03-93の観察を頼む」

 

 管理人の申し訳なさそうな声を聞き、一気に現実へと引き戻された。

 

 ──さて、お前はさっきの全滅から何を学べたんだ?

 

 初心者ポンコツから変わっていることに期待しつつ、俺は気を抜けば軽く死ねる作業をしなければならない現実に意識を向け、引っ付いてくるアンバーを引き剥がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──何回見ても意識持ってかれそうになるな···」

 

O-03-93 蒼星

 この会社で初めてのALEPHで、脱走すれば一発KO。

 俺とアンバー以外碌に太刀打ちできないし、俺らもそう何回も耐えられない。

 それほど脱走させられないし、今のこの会社では管理難易度も高い。

 

 けど、自制と慎重が育っていれば結構簡単だ。

 ···一番装備が良い俺ですら一回の作業で半分ほど削られることを考えなければ、ALEPHの中でトップクラスに扱いやすい。優等生だ。

 

 俺が気を抜かず、ポンコツ管理人が指示とタイミングを間違わなければなんとかなる。

 

 

 

「────終わった。管理人、次は?」

 

 手と足の震えが止まらず、気を抜けば吐きそうになりながらも管理室から出た。···多分精神力をほぼ半分まで削られてそうだ。

 そんな素振りを見せないように、真顔で管理人にそう言葉を投げかけた。

 

 ここで返答はいくつか考えられる。

 そのなかで、

 

 俺以外の職員に対応させるって言えば三流。

 回復をさせずにこのまま蒼星に行かせるって言っても三流。

 ちゃんと回復させ、十分な体力で行かせるって言えばまあ及第点。

 

「よかった。···すまないが、今日は貪欲の王のところへ行かせられる暇はない」

「···今日の目標は?」

 

 ──さあお前はなんと言う?

 

「今日でO-03-93の装備を取り切る、そのためにレイには今日ずっと担当してもらうが、拒否権はないよ」

 

 労働者に対して、死刑宣告のようなことをさらっと言いやがった。

 

 ──コイツ、どんな心境の変化だ?

 今まで長い残業なんて行わず、目標エネルギー量に達した瞬間に終わってたのに。

 ALEPHの装備を1日で取り切るのなんて何時間かかると思ってる??

 普通に100時間くらいかかるんじゃね?まあ何時間であろうと、労働基準法もビックリな作業時間になることは確定した。まあ俺らの作業時間なんて正確には分からないし、ゲームでも何分が現実の何時間相当なのかは知らない。

 

 が、今までのホワイトな作業時間からでは考えられない時間勤務することになるのは明白だ。

 

 

 しかし、()()がロボトミーコーポレーションだ。

 死ぬほどの残業、残業、残業、残業、残業を越えた先に46日目。ひいては50日目が待っている。

 それが分かるのはもっと後だと思ったが、全滅で現実が見えたのか、はたまたアンジェラ(ラスボス)サマの進言か。どちらにせよ良い変化には変わりない。

 

 

「──はっ···!どういう心境の変化だ?」

「······っ······」

 

 そう俺が問うと、苦しそうな息づかいが聞こえてきた。

 これは多分全滅がメンタルにきてるな、と思ってた。しかし、少し違ったらしい。

 

「···君ですら、簡単に死ねることを再確認()()()()()()()からね」

 

 苦しそうな息遣いとは対照的に、対面で話したときのような明るい声色だった。何か吹っ切れたような、晴れやかな声をしていた。

 そんな声色も気になるがそれ以上に、()()()()()()()···?コイツ流石に気づいたか?

 

「···させてもらった?ただただお前が作業指示ミスっただけだろ。なにポジティブに捉えてんだ?」

 

「君とアンジェラの対応を見て分かったよ。君以外の職員だったら作業を完遂できないことを実際に作業した君は分かっていたはずだ。それなのに作業から外れたってことは僕を試したのかな?」

 

 ···よく現実が見えるようになったみたいで、俺は嬉しいよ。その真っ直ぐな精神が壊れないように生きていってくれ。

 

「及第点だな、まあそんなところだ。改めて()()()()()。お前はまともな管理人へと一歩近づいた。この調子で頼む」

 

「···おめでとうか、そんなにめでたいことじゃないけど、君ら2人からそう言われると良いことをした気分になる」

 

 ···はっ、アンジェラからも言われたのか。あの完璧なAIでも人を褒める機能があるとは、まあ本心100%じゃないだろうけど。

 

「良いことはしてないが、これもまた経験だ。だからさっきの決断ができたんだろ?···長時間労働の辛さ、お前は分かっているのか?」

 

「確かに良い経験にはなったね。···僕に長時間労働をするだけの能力があるかは分からないが、最後までやり抜くよ」

 

 コイツは長時間労働を甘く見過ぎだが、なんとかなるか。試練の対処とか管理指示ミスったら知らねぇが。

 

「···そ···なら死ぬまでこき使ってくれ。俺はお前の決めたことには何も言わねぇし、他職員への配慮くらいはしてやる。それ以外のことはちゃんとしろよ」

 

「──!ほんとに君は···ありがとう······」

 

 声が震えていた。──どこまでも善性の持ち主みたいで、少し吐き気がした。

 

「···あと、参考までに聞きたいけど何時間くらいかかると思う?」

 

「とりあえず50時間、最悪100時間?まあ大丈夫だ。この会社時間バグってるから。労基(試練)越えたら無限」

 

「···え?···今日24時間じゃ終わらない??」

 

 1日を24時間だと思うなよ。これからはずっとそんな生活が待ってるんだ、気張れよ。

 

「体感時間ならそのくらいで行けんじゃね?TT2プロトコルの関係上、お前の時間とこっちの時間じゃ違うってこともありそうだが、実際時間よりかは早く終わるさ」

 

「それ君はともかく、他の職員から苦情来る気がするけど···」

 

「気にすんな。どうせこれから生き残るんだったら、このくらいの労働が当たり前になってくる。メインルームに行けば回復できるし、過労で倒れる心配はない」

 

 それに()は長時間労働が可愛く思える地獄だろう。死亡率100%のオフィサーが毎日生えてくるんだから、そんな仕事でも就きたいヤツらが大量にいることが分かる。

 

「────君は一体何者なんだ···?」

 

「手元の資料にでも書いてあんだろ。俺はただの職員だ。お前とは違って何かを変えられる資格なんて持ち合わせていない、ただの生贄だ」

 

 そんな疑問を考えられる今は大丈夫だな。

 

 さあ、始めようか。こっからがロボトミーコーポレーションだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レイ先輩···なんかいつもと違いませんか?」

「そう?いつもと同じ···いや確かにちょっと変だな。いつもより休息時間が長い···か」

「いやそうじゃなくて、いつもは私たちがメインルームにいたら小言言ったり、話聞いたりしてくれるのに。今は誰とも話さずただ休んでます。···調子悪いんでしょうか···?」

「あの人が調子悪いんならこの会社は終わりだよ。···アンタはそんな心配してないで、早く蝶の管理行ってきな」

「は、はい!」

 

 一回の作業で半分の精神が削られる感覚は何度作業しても慣れない。この状態中は鎮圧指示やフォロー以外で誰かと話す気がなくなっていたが、どうやらそうは上手くいかないらしい。

 誰かが近づいてくる音が聞こえる。

 

「···アンタがそんな調子だから後輩の調子も狂うんだけど?」

 

 羊のような白い髪、タレ目なのに冷たい印象を受ける黄色の目、女性にしては高い身長で、多分俺の次に頼れる後輩。

 

「俺はずっとこんな調子だ、そっちが勝手にそう思ってるだけだろ」

 

「あっそ、アンタがそう言うんなら後輩のフォローとか今後一切しないし、勝手にやって」

「──はっ···やっぱメアリー、お前は向いてるな。嬉しい限りだ」

 

 メアリーは俺を睨みながら吐き捨てるようにそう言った。

 そんな彼女をロボトミ風に表すなら、頼りになる適格者って感じだろう。自制か正義が1番高そうだ。

 

「──こんなクソみたいな仕事、アンタが1番向いてるよ。私はただ生きていたいだけ、向いてる訳じゃない」

「生き残るために最善のことをするのはこの会社の職員で1番求められることだ。諦めろよメアリー、お前はこういう仕事が向いてる」

「チッ···で、今日の···っていうか最近のアンタは変すぎる。アブノマと仲良しごっこして、新しいアブノマの作業につきっきり。そろそろ私やクリスに新規アブノマの作業の引き継ぎ行うのに、そんな感じは一切しない」

 

 ···コイツよく考えられてるし、俯瞰できてるな。

 さすがこの会社に職員として入ってこれただけの能力はある。

 

「···だからなんだ?」

「ALEPHなんじゃないの?WAWくらいなら私たちでも対応できるけど、ALEPHはまだ無理だし」

 

 管理人よりも周りと自分が分かっている、こんな後輩がいて嬉しく思う。

 

「まあそういうことだ。今日は俺がずっと見るが、明日からはお前とクリスに交代で入ってもらうから今日死ぬ気で働いてくれよ」

 

 そう言うと鋭かった目が、一段と鋭さと冷たさを帯びた。

 ···普通に怖ぇ。

 

「今日だけで?···アンタやっぱりいかれてるんじゃない?今日でアンタに追いつくのは無理、もうそろそろ勤務終盤でしょ?」

 

 エネルギーの貯まり具合で考えるに、ゲーム時間でいえば15分か20分程度だろう。確かにいつもはこのくらいの時間で終わりが見えていた。

 しかし、今日は折り返し地点でもない。

 まだこれで1、2割くらいだろう。

 

「今日は洞察中心に、愛着も間に入れながら死なない程度にがんばれよ。今日の業務は死ぬほど長いからな」

「···は?」

「お前らがALEPHに耐えられるようにするんだ、短い訳がねぇだろ」

 

 今日育成できなければ、明日もまたALEPHを引いてしまうと俺が両方の対応をせざるを得なくなり、俺の身体がちぎれる。

 だから今日だけは絶対に残業地獄になる。これからも長くなると思うが、今日だけはそうしないとダメだ。

 まあ言っても理解できないと思うが、がんばれ。

 

「──あの管理人がそれを許すの?」

「ああ。なんならアイツの提案だしな、そうじゃなきゃ困る」

 

 そう言うと、メアリーは一瞬目を丸くした。

 目を丸くするメアリーを初めて見たが、普通に可愛い。普段の冷たいオーラとのギャップが良い。

 それに、もう立ち直るくらい精神が強いことが分かる。

 ···こういう職員がもっと必要だ。

 

「···ま、やれるだけやるしかないか···洞察と愛着ね、了解。クリスにも伝えとく」

「ああ、頼むわ」

 

 十分に回復したし俺も何度目かのチャレンジ行くか。

 

 

 

 

「蒼星のギフト1%とかだったし、100回行って6割ちょっとか···行けるか···?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 次回は地獄という名の残業をダイジェストで送り、18日目のアブノマくらいはいきたいです。

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