「あのさあクライン。」
「?。なんだ?」
「SAOの中に閉じ込められたプレイヤーってさ、人にもよるんだろうけど、なんで早く帰りたいのかな?」
茅場晶彦の衝撃的な演説の翌日である。俺はクラインと、その友達と共にフィールドに出ていた。モンスターへのチームでの立ち回り、回復ポーションの使い所、教えることは膨大だ。
その休憩中、俺は囚われてからずっと考え続けていることがあった。
演説の後、自分は自分でも不思議なくらい冷静だった。周りのあまりの取り乱し方が逆に自分を冷静にさせたのだろうか。否。俺は期待したんだ。新しい道を歩めると、これまでの人生を忘れて。
「おめえは帰りたくねえのかよ?普通みんなそう考えると思うぜ。まあでも、ほとんどの奴らが社会での自分の扱いを気にしてるんじゃねえか?オレだって社会人だ。働いてるとこクビにならねえかずっとヒヤヒヤしてんだ。」
社会での扱い?そんなのどうでもいい。とっくに底辺を知っている。
「あとは家族の心配だな。オレの親ももう若くねえ。」
そうだ。家族だ。母親は1人で俺と妹を育ててくれた。でもそんな母親もずっと家にいた訳ではない。俺たちを育てるためのお金を必死に稼いでくれている。なら妹は?俺がいなければ家の中で1人、夜遅くに帰ってくる母親をじっと待っているしかない。
「…!」
この世界では汗をかかない。しかし、俺はたしかに冷や汗が、俺の頬を伝う感覚を覚えた。
孤独。妹にそれを感じさせるのか?許されるはずがない。俺は初めて焦り始めた。早く家に戻って安心させなくてはいけない。
俺はそんな使命感に駆られた。
だからといってクラインを置いて攻略に向かう訳にはいかない。
「なあリオン。オレたちのこと、気にしなくていいんだぜ?もともとオレたちだけでどうにかするつもりだったんだ。」
俺の焦りを悟ったのか、クラインは俺を真剣な目で見つめた。
「いや、最後までやり切るよ。そうお前と、…キリトとも約束したんだ。結局、このゲームをクリアするなら大勢のチームプレイが必須なんだ。俺がここで焦ってもどうにもならない。」
「そっか。サンキュな。」
クラインは表情を変えなかったが、少し嬉しそうにも見えた。
俺は決意した。全力でこのゲームをクリアすること。早く帰って2人を安心させること。確かに現実は嫌いだ。しかし、大切なものを失うことの方が怖い。
「さて、じゃあモタモタしてらんねえな!」
クラインは遠くに見える蒼碧の空を見上げ、そう叫んだ。あと1週間程だが全力を尽くして教えられることを全て教える。俺はそう思い拳を握りしめた。