ソードアート・オンライン ゼラニウムの兎   作:フローゼン

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エクストラスキル

「生産職?」

 

「そう、防具屋とか開こうかなって思ってる。」

 

「ふーん。じゃあもう前線には出ないんだね。」

 

「…だから、店の準備は私だけじゃすごく大変だから。手伝ってくれる?」

 

「え、さっきここに着くまでって…。」

 

「…手伝ってくれるよね?」

 

「あ、はい。」

 

 第一層が攻略されてから約1時間。俺とミトは第二層の主街区に丁度たどり着いたところであった。

 

 しかし解せない。聞き間違えたのだろうか。ミトは確かにそう言ったはずだ。

 

 まあ、とてつもない圧をかけられたが、了承してしまったものは仕方がない。しばらく彼女に協力しよう。

(なんかこき使われてるなあ。まあ、いいか。)

 そう思えるくらい不思議と嫌な気分ではなかった。

 

「いえ、今日は私も用事があるから。次の機会にしましょう」

 

「そっか。実は俺もやりたいことあったんだ。数日かかっちゃうかもしれないけどもいいかい?」

 

「わかった。また連絡して。」

 

 そう言うと俺たちは街の中心で別れた。

 

 

――――――――――

 

 

 やりたいことと言うのは単純で、2層で取れる希少なアイテムや武器もしくはスキルを獲得したいのだ。

 

 しかしそれを求めて2層を歩き回るのはあまりにも非効率であり、数日では終わらないかもしれない。

 

 なので情報屋のアルゴに連絡してみることにした。『2層になにかいいものはないか。』と。

 

 すると、返事が瞬く間に返ってきた。内容は2層の主街区の門で待て、との事だ。おそらく道案内でもしてくれるのだろう。

 

「よっ!リオン坊!!」

 

「!」

 

 突然後ろから声が聞こえる。振り向くと、そこには金褐色の巻き毛と地味な色のレザーを身につけた少女が右手を上げながら近づいてきた。彼女が《鼠のアルゴ》だ。

 

「アルゴ。久しぶり。」

 

「聞いたヨ。ボス戦、大活躍だったみたいじゃないカ。」

 

「…まあね。」

 

「キー坊のことも聞いたヨ。でも気にすんナ!オネーサンが飛びっきりの情報を教えてやるからサ。」

 

「…うん。」

 

「しょーがないナァ。本当は売るつもりなかったんだけど、もっといい情報をやるヨ。んーとりあえず名前だけで500コルかな。」

 

「わかった、払うよ。どんなのだい?」

 

 そう言うと、メニューから代金を支払う。

 

「エクストラスキルだヨ。」

 

「…なんだって?エクストラスキル?そんなんベータだと6層からしか…。」

 

「そりゃ、オイラ以外ベータ終了間近まで知らなかったからナ。他のベータテスターは場所すら知らないヨ。」

 

「へえ、それでどんなスキルなの?」

 

「《体術》ダ!オイラも詳しい事は分からないけど、場所、買うカ?」

 

「うーん…。」

 

 《体術》か。当然だが聞いたことすらない。憶測だが、武器なしで攻撃したりするのだろうか。そう考えると、俺の短剣とは相性がかなりいいだろう。相手の武器を素手でいなしながらダメージを与えることだって可能だ。

 

「いいね。買うよ。」

 

「毎度あり!と言いたいケド、1つ条件があるゾ。絶対オイラを恨むなヨ。」

 

「はあ?半分教えてもらって、そこからは私情でシークレットなの?情報屋の名も廃るんじゃない?」

 

「…それもそうだナ。わかったヨ。言うヨ。でもさっき言ったこと、忘れんナ。」

 

「わかったってば。」

 

「じゃあ、着いてきナ。」

 

 

――――――――――

 

 

「ここダ。」

 

 アルゴが指を指した先には、岩壁に囲まれながら、小屋が1つ建っていた。

 

 すると、躊躇なく小屋の扉を開け放つ。俺も特に驚くことはなく、すぐ後ろをついて行く。

 

「あのNPCに話しかければ、クエストが発生するんだ、クリアすればエクストラスキルをくれるヨ。」

 

「わかった。」

 

 俺はNPCの前に立つ。ボロボロの道着を着たオッサンで、まさに《体術》という感じの容貌だ。

 

 座禅したオッサンはこちらに目を向け言った。

 

「入門希望者か?」

 

「はい。」

 

「修行の道は長く険しいぞ?」

 

「大丈夫。」

 

 オッサンは立ち上がると、小屋の外に出て、俺もそれについて行く。

 

「汝の修行はたった1つ。両の拳のみで、この岩を割るのだ。なし遂げれば、汝に我が技の全てを授けよう。」

 

「は?え、ち、ちょっと待って。そんなのむ──」

 

 俺が言葉を言い終えるより先に、オッサンは目に見えない速度で俺の顔を撫で回した──と思ったがどうやら違うようだ。

 

 明らかにアルゴの様子がおかしい。彼女が顔に浮かべるのは、同情──ではなく嘲笑、いや爆笑だ。

 

 俺は急いで手を顔に当てた。そしてその手を視界に入れると、なんと綺麗な漆黒である。

 

 そこでようやく俺は悟った。俺の顔には何かが描いてある。何かは分からないがおそらくかなり屈辱的な絵面であろう。

 

「…ぷっ、にゃハハハ!」

 

 声に出すのは我慢していたようだが、ついに限界が訪れたようだ。こっちを見ながら腹を抱えている。

 

「その証は、汝がこの岩を割り、修行を終えるまで消えることは無い。信じているぞ、我が弟子よ。」

 

 そして、言いたいことを全て言い切った、クソ師匠は、小屋へと戻って行った。

 

「ねえ!アルゴ!どうしてくれんのさ!ていうか俺の顔今どうなってんだよ…!?」

 

「おいおい、恨まない約束だゾ、リオン坊。分かったらあきらめてさっさとクエスト進めるんだナ。…にゃーハハハハハ!!」

 

 そう言われると何も反論できない。…仕方ない、早めに終わるよう願いながら進めるしかない。

 

「それにしても、もう1回楽しませてもらったヨ。何回みても面白いもんだナ!」

 

 アルゴの視線を辿ると、気が付かなかったが、人が1人横たわっていた。

 

「も…、もう無理…。」

 

 俺は好奇心でその人物の元へと駆け寄り、そのまま顔を覗いた。

 

「キ、キリト!」

 

 俺の目に映ったのは、見覚えのある顔──ではあったが、明らかに以前見た時と違う部分がある。猫ひげだ。何故か彼には猫ひげがあった。

 

「…まさか俺も!?」

 

「ご名答!!」

 

「アルゴ、君ベータテストのときこのクエスト諦めたんだね…。」

 

 彼に生えている、いや描かれている猫ひげは、アルゴのものとほとんど一致していた。

 

「ほら、大丈夫?起きて!」

 

「はっ!?」

 

 寝転がっている彼の肩を叩くと、彼はガバッと身体を起こした。

 

「…?ってあれ、リオンどうしたんだ?」

 

「どうしたって…。こんなとこで寝てる暇あったらさっさとこのクエストクリアしようよ。」

 

「…ああ。というかリオン、お前もクエスト受けたのかよ。」

 

 そう言うと彼は自身の頬を指差した。

 ──そうだった。正直こみ上げた笑いを必死に我慢していたが、冷静になって考えてみれば、俺も彼と全くと言っていいほど同じ状況であった。気づいた瞬間、細かく震えていた自分の肩も微動だとしなくなった。

 

「ごめん。」

 

「?」

 

「俺、勘違いしてた。勝手に傷ついてたんだ。君は裏切ったんじゃなくて、自分を犠牲にして…。」

 

「…俺が勝手にお前やアスナから離れたんだ。何を思われても仕方がないって思ってたし、今でも思ってる。」

 

「…」

 

「リオン、悪かった。」

 

「君は何も悪くないよ。俺が勝手に──」

 

「クエスト、協力して早く終わらそうぜ、それでチャラ!」

 

「──うん…そうだね!」

 

 彼の寛容さに心底救われた。もし彼と会えなかったら、俺はきっとずっと勘違いをした。

 

 考え事をしてしまったが、今は目の前の岩に集中することにしよう。正直こんなもの壊せる気がしないが、やるしかない。

 

 刹那、俺の手は瞬時に方に担がれた。

 

 一呼吸を終える。

 

 そしてついに振りかぶった手刀は残像を帯びながら岩の中心に吸い込まれた。

 

「…いってえ!!」

 

 ──本当に数日で終わるのだろうか。

――――――――――

 

 

 3日後、俺とキリトはクエストを終え主街区《ウルバス》に帰ってきたところだった。

 

 到着してからはすぐに別れて、街の中心に向かった。

 

 ミトと別れて3日も経ってしまったが、彼女の手伝いを約束してしまったので仕方ない。

 

 俺はクエストで溜まった疲れからくる気だるさを必死に振り払いながら歩き続ける。

 

 しばらく経つと、中心の広場に到着した。辺りを見回すと、かなり人が多く、おそらく1層から転移してきたプレイヤーだろうと思考をめぐらす。

 

 なかなか見つからないと思ったが、彼女が大きな鎌を持っていたことと、このゲームでは少なめの女性プレイヤーであることから予想外に早く建物の壁に寄りかかっている姿を確認できた。

 

 近づいていくと、彼女もすぐに気づいたようで俺が立ち止まるよりも先に話しかけてきた。

 

「遅かっ…た…ね。…なんか…やつれた?」

 

「…やっぱそう見える?」

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