モルモット君ではないアグネスタキオントレーナー   作:雅媛

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4-3 想像よりもデートらしい Sideアグネスタキオン

 蹄鉄を買いに行くためにトレーナー君とお出かけすることになった。

 買い物という作業自体正直あまり好きではないが、トレーナー君とのお出かけならまあ、そこまで悪くはない。面倒ではあるが。

 

 とはいえ異性とのお出かけの経験など全くないため、他人からのアドバイスを聞くことにした。相手は同室のアグネスデジタルである。

 カフェに聞いてもあまり有益な情報が出てこなさそうだし、デジタルは自分で恋愛漫画を描くぐらいには恋愛に精通している*1ことから、相談相手にうってつけだと思ったのだ。

 なにより幼馴染でありタキオンのこともよく知っている。

 

「おお、デートですか」

 

 だから開口一番そういわれてしまいタキオンは固まることしか出来なかった。

 

「で、デートなのかな?」

「私に聞かれましても」

 

 いや、多分デートではない、多分、きっと、違うかもしれない。

 そんなよくわからない意味のない考えが頭を回る。

 

「デートといえば……」

「デートとは言ってないんだけどねぇ!」

「デートですよね」

「う、デジタル君がそういうならば……」

「じゃあデートです」

「デートか」

 

 こうしてデジタルに丸め込まれ、明日のお出かけはデートということになってしまった。

 しかし、デートというのは好きあった異性が出かけることではないだろうか。トレーナー君は確かにタキオンのことが大好きだろうが、タキオンはトレーナー君のことを好き…… なような気もするがいやこれは単に感謝の気持ちでしかなくて、異性として好きなわけでもなくてそもそも相性がいいかどうかもわからないし、でも遺伝子的に相性のいい相手の匂いはいい匂いと感じるという噂をもとにするとトレーナー君のベッドの匂いはこう癖になる匂いでいやいや異性の匂いを嗅ぐなんてそんなアグネスタキオンは変態じゃないんだよ、みたいなことをタキオンはぐるぐると頭の中で考えてしまう。

 そんなタキオンの混乱を尻目に、デジタルは話を続ける。

 

「デートといえばおしゃれでしょうね」

「ふむ」

「タキオンさん、どんな服を着ていくんですか?」

「どんなって、私の私服一つしかないが?」

 

 さすがに制服を着ていくわけにもいかないし、一張羅を出すしかないだろうが、それを聞いたデジタルは胡乱な表情を浮かべた。

 

「え、あの襟がべろんべろんでブラ紐見えちゃうあれですか?」

「あれだね」

 

 あれはない、デジタルの目が語っていた。

 

「ご実家におばさまが用意していた私服あったと思うんですが」

「母が用意してくれたのはひらひらしてて嫌いなんだよ」

 

 確かに実家にはいろいろな服があったが、タキオンの好みではなかった。

 なのでどれも持ってきていない。一つぐらい持ってくるべきだったか、と今更ながらにタキオンは後悔した。

 

「トレーナーさんとの待ち合わせ、何時ですか?」

「9時だね」

「……」

 

 実家は関西で取りに行くことも難しい。

 デジタルはオタク趣味の割にはファッションに結構うるさいのでかわいい服を結構持っているが身長も体型も違いすぎる。カフェや姉のフライトも同様だ。知り合いには借りることが難しい相手しかいない。

 

「やっぱりデートは難しいかもしれませんね」

「え~」

 

 もしかして自分のちょっとエッチな格好にトレーナー君を悩殺してしまうのでは、などと考えたタキオンだったが、デジタルのごみを見るような目をみて、気を取り直す。

 デート失格の烙印を姉貴分に押されてしまったようだ。

 しかしもうどうしようもないだろう。

 

「え~ じゃないです! 蹄鉄を買いに行くなら私服もトレーナーさんに選んでもらってください!」

「わかったよ……」

 

 特に作戦も何も決まらす、明日のお出かけに挑むことになるのであった。

 

 

 

 時間通りに門の前に行くと既にトレーナー君が待っていた。

 ジーパンに白いTシャツ、黒いカーディガンと無難だが悪くない格好だ。

 一方のタキオンの恰好はこれである。なんとなく駄目な気がしてきたが、他に選択肢もないので進むしかない。

 

「トレーナー君、待たせたね」

 

 そう声をかけるとこちらに振り向くトレーナー君。そして第一声が

 

「タキオン、ちょっとだらしなくない?」

 

 だったのでタキオンは泣きたくなった。やっぱり駄目だったか、とタキオンは思った。

 

「いやぁ、私服がこれしかなくてね」

 

 強がってもしょうがないので正直なところを話す。現にこれしかないのだ。

 渋い顔をしていたトレーナー君は少し悩むと

 

「タキオン、靴の前に服買いに行かないか」

 

 と提案してきた。デジタルから言われていたことだが、タキオンはそれでもいまいち気が乗らなかった。

 確かに私服を別に買いたいが、一方で服の選び方などタキオンは全く知らないのだ。変なのを選ぶとトレーナー君に余計幻滅されてしまうかもしれない。

 そんな恐怖感を抱いたタキオンは

 

「えー、めんどくさいよぉ」

 

 等とごまかす。正直めんどくさいというのも嘘ではないが。

 だが、タキオンの答えにトレーナー君も引き下がらなかった。

 

「そんなに時間かからないから」

「でも選ぶのがめんどくさいよぉ」

「じゃあ俺が選ぶから」

「仕方ないねぇ」

 

 トレーナー君が選んだ服を着てトレーナー君が幻滅する、ということはありえないだろう。なのでトレーナー君が選んでくれるならまあいいか、とタキオンは思った。

 そしてその決定を後悔することになるのだが、後悔は先に立たないモノである。

 

 

 

 トレーナー君に連れてこられた店は安価な服を扱う量販店であった。

 お嬢様なタキオンには縁のない店であり、名前は聞いていたが入ったことなどまるでなかった。

 

「タキオン、どんなのがいいとかある?」

「トレーナー君に任せるよ」

 

 そもそもどうやって選ぶかからもわからない。店員に持ってきてもらうのか、自分で手に取っていいのか、誰かが似合うものを選んでくれるのか。そういったところからタキオンにはわからなかった。

 トレーナー君は勝手がわかっているようで、ずんずんと奥に進み少し並んでいる服を眺めるとセットとなっている服を手に取る。

 

「よし、これとかどうかな」

「えー、私には可愛すぎて似合わないよ」

 

 白いブラウスに黒いハイウェストのスカートという清楚系の服である。

 タキオンはデジタルやカフェと違って自分が可愛いと思っていない。カッコいい系とかカワイイ系とそういう話ではなく、基本外見に自信があるわけではないのだ。

 そもそも外見に気を遣わない質だから、そういうのに気を遣うウマ娘と比較すること自体おこがましいと自覚していた。

 だからこそ清楚系の可愛い服とかとても似合うと思っていなかった。

 

「タキオンは可愛いんだから、絶対似あうって。試しに試着してみない?」

「トレーナー君がそこまで言うならば……」

 

 だがトレーナー君が選んだ服であり、強く推してくるものだから、試しに着てみることにした。

 どうやら試着室で勝手に着替えていいらしい。服を脱ぎ、ブラウスを羽織り、スカートを履く。着心地は悪いわけではない。生地が安っぽく感じるが、値段を考えればこんなものだろう。

 スカートを一度手で持ち上げ下ろして、ふわっとさせる。

 清楚な服を着たタキオンが鏡に映る。

 似合わない気がする、というのがタキオンの正直な感想であった。

 

「やっぱり似合わないと思うが……」

「やっべ、可愛すぎる」

 

 試着室のカーテンを開けてトレーナー君に来ている姿を見せる。

 トレーナー君の反応はタキオンの予想外のものであった。

 トレーナー君は真摯でちょっと口さがない。

 良いものを悪いと言ったり悪いものを良いと言ったりすることはないのをタキオンは知っていた。

 反射的に出たトレーナー君の言葉は本音なのだろう。

 嬉しさと恥ずかしさで顔が火照る。多分今、タキオンの顔は真っ赤だろう。

 

「か、可愛いとかあまり言われると照れるんだが!?」

「いやすごく可愛いよタキオン。俺の担当が可愛すぎる」

「~~~!!!」

 

 トレーナー君の可愛い連呼にタキオンの頭は沸騰した。

 こんなに可愛いといわれた経験など全くないタキオンに耐えられるものではなかった。

 思わず顔を手で覆うが何も解決にはならなかった。

 

「ひとまずそれを買うんでいいかな」

「と、トレーナー君がそんなに気に入っているなら仕方ないねぇ!!」

 

 タキオンができることはちょっとした強がりを言うだけであった。

 

 

 

 この私服のまま、靴や蹄鉄の買い物を済ませたころには、タキオンは満身創痍であった。主にトレーナー君の誉め言葉によって。

 ちょこちょこ可愛い可愛いと褒めてくるのだ。

 トレーナー君は褒める教育の実践をしているらしく、普段から速いとかカッコいいとか可愛いとかタキオンを褒めるのだが、今日は当社比通常の3倍ぐらい可愛いが多かった。なのでタキオンは赤くなりっぱなしである。

 買い物に慣れないのも相まって完全にグロッキーになってしまったタキオンを見たトレーナー君は、昼食を食べる予定という当初の予定を切り上げて早めに解散することになったのだった。

 

 残念ではあったが、もうライフはとっくに0になっていたし、もう今日は休もうと思っていたのだが、そこで追撃を焚きつけてきたのがルームメイトのデジタルであった。

 

「タキオンさん、これ」

「なんだい、これ?」

「トレーニング用具の予備や整備するための道具です。トレーナーさんがやってくれるならそちらに渡した方がいいと思いまして」

「ああ、いつもありがとう、デジタル君」

「お昼食べたらさっそくトレーナーさんに渡しに行けばいいんじゃないですか?」

 

 今までデジタルに管理を任せていたタキオンのレース用グッズを、まとめて渡されたのだ。こういった管理をデジタルに任せているのは悪いと思っていたが、確かにトレーナーがついたのだからトレーナーにお願いするべきだろう。

 だけど今日じゃなくてもいいんじゃないかな! タキオンはそう思い

 

「さすがに買い物に付き合ってもらったのにトレーナー君に迷惑だろう」

 

 と抵抗したのだが、

 

「そんな面倒な遠慮しないでさっさと行ってきてください」

「ひぃん!」

 

 といわれて追い出されてしまった。

 そういえばそろそろイベントがあるとかも言っていたので、原稿作成作業に集中したいのもあるのだろう。デジタルの同人誌作成にはタキオンは何も戦力にならないので、部屋にいないのが一番の助けだ。

 

 仕方がないのでそのままトレーナー君の部屋へと向かう。

 チャイムを鳴らすとトレーナー君が出てきた。

 

「あれ、タキオンどうしたんだい?」

「いや、今まで道具をデジタル君に管理してもらっていたのだが、さきほどトレーナー君にお願いした方がいいんじゃないかといわれてね」

「ああ、デジタルちゃんにはいつも迷惑かけてるもんね」

 

 そういってトレーナー君はタキオンが持ってきた籠を受け取る。

 

「ついでに少しここにいさせてくれよ。デジタル君、原稿があるから集中したいらしいんだ」

「なるほど、まあ何もないけどどうぞ」

 

 そういってひょいひょいとタキオンを上げるトレーナー。

 休みの日。おしゃれな格好。二人きりの密室。

 これはやはり誘われてるのでは、と恋愛漫画しか知識がないタキオンの頭によぎるが、脳内カフェの「無理やりは嫌われますよ」という言葉を思い出し思いとどまる。

 かといってそういった色恋沙汰について何も聞けないのがタキオンである。

 へたれたまま、タキオンは床に横たわった。

 

「疲れちゃった? しばらく寝ててもいいよ。昼ご飯は?」

「なにもたべてないー」

「卵チャーハンぐらいしか材料ないけどいいかな」

「なんでもいいよ」

 

 

 

 床にうつぶせのまま寝転がっていると疲れが出たのだろう、すぐに寝てしまったタキオン。

 だが起きたときにはベッドで寝ていた。トレーナー君が運んでくれたのだろう。

 全身がトレーナー君の匂いに染まっていて、何となく幸せな気持ちになってくるタキオン。

 

「あ、タキオン起きた? ご飯食べる?」

「ん~」

 

 タキオンが起きたのに気づいたトレーナー君が声をかけて近寄るがタキオンはまだ寝ぼけていた。

 ふわふわした頭のまま、近寄ってきたトレーナー君をベッドに引きずりこむ。

 

「ちょ、タキオン!?」

「ふにゃぁ」

 

 そのままトレーナー君の背中に手を回し、顔を胸にうずめながら再度眠りにつくタキオン。

 人間はウマ娘に勝てないので、振りほどくことができないトレーナー君。

 

 タキオンが現状に気づいて悲鳴を上げるのにはまだ少し時間が必要であった。

*1
とタキオンは思っているがデジタルも異性との交流経験はまるでないお嬢様である。喫茶店で手伝いの経験がある分カフェの方がまだ異性との交流について知っている。




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