ホープフルステークスは無事勝利をおさめ、皐月賞を目指しながら調整を続ける途中、バレンタインデーが訪れた。
当然ながら、タキオンは本命チョコを作っていたのだが……
「ふむ…… どうしようか」
出来上がったのは豚丼の味がするチョコレートだった。
ふざけたわけではない。
主にタキオンの世話でトレーナー君に、疲れを取るためのチョコレートを、と考えた結果出来上がったのだ。
主成分はアリチアミン、ニンニク独特の臭気成分であるアリシンと水溶性のビタミンB1、チアミンが合わさることでできる物質だ。これが非常に疲れに良いので、それを主成分に据えるつもりだったのだが……
「確かに豚肉とニンニクを精製してチョコに加えるのはやり過ぎだったかもしれないねぇ」
出来上がったのは見た目は普通のチョコレートだが、食べてみるとニンニクたっぷり豚丼の味である。ご飯にのせて食べられそうな味になってしまった。
まずいわけではないが、明らかにチョコレートではない。
これでも一応少女漫画から学んだ乙女の感性が多少残っているタキオン的にですら、これを本命チョコとするのは気が引けた。
次にはビタミンCたっぷりチョコを作ってみた。レモン1万個分ぐらいのビタミンC入りである。どうでもいいが実際のレモン1個には大体レモン5個分ぐらいのビタミンCが含まれている。
そして食べてみたら……
「すっぱい!!」
すごくすっぱかった。
ほかにもいくつか作ってみたができたものはいまいちなものしかない。
いやこれはこれで面白い試みではあるんだが……
何が体に良さそうか、トレーナー君と議論を交わしたくなるようなラインナップになってしまった。
特に予定もなければこの後トレーナー君との実験に移るのだが、今回はバレンタインの本命チョコを作るのだ。これではいけない。
このまま作っていても愉快な実験チョコしかできない予想がついたので、タキオンは協力者を集めることにした。
「それで私ですか」
「頼むよ、カフェ」
タキオンが頼ったのはマンハッタンカフェであった。
なんせ彼女の実家は喫茶店であり、お菓子作りの知識があるのを知っている。
料理は化学を旨とするタキオンも先ほどまでヘンテコチョコレートを量産していたようにある程度はできなくはないのだが、どうすると美味しいものができるのかという知識については全くなかった。
「どうせカフェも自分のトレーナーにチョコを作るんだろう?」
「作りませんが?」
「どうせ材料も買ってあるんだろう?」
「作りませんが!?」
ムキになって否定するカフェだが、それが嘘だとタキオンにはわかっている。
トレーナー君に紹介されたトレーナーと上手くやっているのは聞いているが、どうも今まで言っていたカフェの好みと今のトレーナーがまるっきり違うせいか、どことなく意地を張っているのをタキオンは知っている。
「ねえ頼むよか~ふぇ~」
「引っ付かないでください!!」
「か~へ~」
「わかりましたよ! 仕方ないですね!!」
カフェは基本ちょろいのだ。本当にやりたくないことでなければ大体押し切れる。
まあカフェもトレーナーに渡すチョコを作る口実になるだろう。
そうして二人、チョコレートをせっせと作るのであった。
甘くて、手作り感があって、あまり難しくないものにしたので、作るのはそう苦戦しなかった。
「タキオンさん、手際良いですね」
「料理も実験も根本は同じだからね」
「じゃあ自分一人でも作れたのでは?」
「食べてみるかい? 豚丼味のチョコ」
「そんなもの作る方が大変ですが」
一つ食べて、微妙な顔をするカフェ。チョコだと思って食べたら豚丼の味だったら誰だってそんな顔になるだろう。しかも微妙においしいとなると変な顔になるのはしょうがない。
「普段ならそれでもいいかもしれないがね、本命チョコを渡そうというのにそれではおふざけが過ぎるだろう?」
「……え? タキオンさん、トレーナーさんに告白するんですか?」
「もちろんだよ」
「……まあこれなら問題ないですか」
手作り感あふれるチョコクッキーは味も悪くないがあまり手間がかかっている感じがしないものだ。
とはいえタキオンがいきなりホールのチョコレートケーキなどを持って行っても不自然だろうし、これくらいの方がらしいか、とカフェも思い直した。
「では頑張ってきてください」
「カフェもちゃんとトレーナーに渡すんだよ」
「いえ、これは自分で食べます」
ツンデレモードに入ってしまったカフェを置いて、タキオンはトレーナー室へと向かうのであった。
「トレーナー君、ハッピーバレンタイン!」
「タキオン、ハッピーバレンタイン。これ、チョコレートね」
「わぁい!!」
トレーナー室でトレーナー君からチョコをもらった。ミックスナッツと干し果物がたっぷり入ったブラウニーだ。
絶対美味しいやつじゃないか、と尻尾がぶんぶんしてしまう。
ただ、こちらは本題ではないのだ。
「トレーナー君、私から、本命チョコだ」
「ありがとうタキオン…… 本命チョコ?」
「本命チョコだ。意味は分かるだろう?」
顔が真っ赤になっている自覚はあるが、ここで引くわけにはいかなかった。
チョコを受け取り、少しトレーナー君は悩むそぶりを見せた。
「ありがとうタキオン。えっと、ただ、今の時点で俺は答えられないよ」
「まあそうだろうね」
ここで、俺もタキオンのことが大好きだったんだ、という答えが返ってくるとは思っていない。トレーナーとはウマ娘のレースを支える存在であり、信頼は必要だが馴れ合ってしまい過ぎれば甘さとなり結果につながらなくなってしまう。
トレーナー君がそれを分かってないはずがない。そういう話をちゃんとできるのは引退後だろう。
「ひとまず他の誰かに目を奪われないように牽制をしているだけさ」
さすがに独占力が強すぎるか、とも思うがここでぽっと出の泥棒ウマ娘に横から攫われるのだけは我慢ができるものではない。
「あと、引退後は期待してるからね」
そういってトレーナー君に近寄り、頬に口づけを落とす。
さすがに恥ずかしくなりすぎて、そのままブラウニーを抱えて、タキオンは部屋から出るのであった。
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