モルモット君ではないアグネスタキオントレーナー   作:雅媛

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2-1 お互いを知るのは大事なことです Sideトレーナー

 さて、アグネスタキオンの担当になったからには彼女のことをよく知らないといけない。

 だが、それが結構骨が折れる作業である。

 予定通り動くといったことが極端に苦手なようで、また、衝動的にやりたいことをやってしまうところが結構ある。そのせいで授業をバックレるのもしばしばだ。

 これで成績がいいんだからどういうことなんだろうか。天才少女なのだろうか。

 

 まあタキオンに協調性というものを教えるのは少し難しそうだと理解したし、それを強要するのも教育的にいいとは思っていないので、そのあたりはひとまず置いておく。

 今最大の懸念点は、こちらが積極的にいろいろしないと、タキオンは会いにすらこなさそうだという点である。恐らく彼女の行動パターンにトレーナーに会いに来るというものが含まれていない。なので受け身ならばずっと放置されるだろう。

 

 一応アグネスタキオンと同じ旧理科準備室を使っているマンハッタンカフェ、カフェちゃんが

 

「タキオンさんに用事があるなら、私に声をかけてくれれば連れて行きますよ」

 

 とは言ってくれたが、さすがにそれはカフェちゃんに負担をかけすぎる。

 そもそも学生の指導は教官やトレーナーの仕事であり、自発的な交流ならまだしもまかり間違っても生徒にやらせる話ではない。ルームメイトや友人である彼女に頼る方法は使いたくはなかった。

 

 

 

「で、どうしてトレーナー君はカフェとお茶を飲んでいるんだい?」

「私が飲んでいるのはお茶ではなくコーヒーです」

「そういう意味じゃなくてだね!! トレーナー君は私の担当だろう!?」

 

 ということで、ひとまずタキオンが立ち寄る可能性が高い場所、旧理科準備室に常駐することにしたのだが……

 ノートパソコンを持ち込み、のんびりとカフェちゃんとコーヒーを飲んでいたら現れたタキオンが怒り始めた。

 

「タキオンがどこにいるかわからなかったから。ここならそのうち来るだろうと思って」

「私に会いたいなら連絡してくれればいいじゃないか!!」

「いや、タキオンの連絡先しらないし」

 

 契約する約束をした日、タキオンにねだられて論文のコピーをいくつか渡した後、タキオンはそのまま連絡先も教えてくれず論文を読むのに集中してしまったため連絡先すら知らないのだ。その時同じく部屋にいたカフェちゃんの連絡先は聞いていたが、さすがにカフェちゃんからタキオンの連絡先を聞くのも個人情報の問題もあるだろうしためらわれた。

 

 そのためひとまず旧理科準備室で待っていたのだ。カフェちゃんに迷惑をかけるだろうと思ってお土産に珈琲の粉を買って行ったら美味しく淹れてくれたので二人で楽しんでいたところだったのだが…… そんなに怒ることだろうか。

 

「あ、タキオンもコーヒー飲むか?」

「私は紅茶派なんだけどねえ!!」

 

 新しい情報が一つ、タキオンは紅茶派だということが手に入る。

 問題は、現在紅茶は持ってきていないということだ。カフェちゃんは珈琲派だからおそらく彼女のスペースに紅茶は置いていないだろう。タキオンのスペースはごちゃごちゃしているし、どこに何があるかわからない。

 

「タキオンさん、うるさいです」

「カフェも私のトレーナーにちょっかいかけないでほしいんだがねぇ!!」

「はいはい、喧嘩しないの」

 

 めんどくさそうな表情をするカフェちゃんは置いておいて、カフェちゃんに迫ろうとするタキオンを止めるべく体を割り込ませたら、タキオンが勢い余って抱き着いてきた。

 

「タキオン、情熱的すぎないか?」

「あ、ああああああ!!」

 

 慌てて飛びのくタキオン。年頃の娘さんには異性が近づきすぎるのは刺激が強すぎただろうか。

 ひとまず落ち着くためにも少し移動した方がいいかもしれない。

 

「さて、タキオン。タキオンのための紅茶がないから、一緒に購買まで買いに行こう」

「え、あ、ああ、わかったよ」

 

 案外素直に応じてくれたタキオンを連れて、俺は購買へと向かうのであった。

 

 

 

 学園の購買にはいろいろなものが売っており、紅茶だけ見ても棚一つぐらいの数がある。

 

「さて、タキオンはどんな紅茶が好き?」

「サバラガムワかキームンかな」

「ミルクティーが好み?」

「ふむ、トレーナー君も紅茶は詳しいのかな?」

「紅茶派だからね。珈琲も飲めるけど」

 

 サバラガムワはセイロンの低地産の紅茶で苦みが特徴だからミルクティー向け、キームンは中国紅茶で香りが特徴でミルクティーにもストレートにも向いている紅茶だ。

 

「じゃあトレーナー君はどんなのが好きなんだい?」

「ウバのミルクティーかスパイス淹れてチャイにするかかな」

「じゃあそれにしよう」

 

 そういってタキオンはウバ茶の缶を手に取った。

 

「いいのか?」

「トレーナー君の好みのを淹れてくれよ。あ、砂糖は多めでお願いするよ」

「まあ構わないが…… スパイスは大丈夫?」

「辛くなければ大丈夫だよ」

 

 なら試しに一回飲ませてみて、文句があれば修正するなり別のものにすればいいだろう。

 

「スパイスも必要だし、トレーナー室でいいかな」

「そうだねぇ。よく考えたらトレーナー君の部屋に入ったことないからちょうどいいかもしれないねぇ」

「ついでに契約書にサインもしてほしいし」

 

 購買でこの後お菓子も購入して、俺はタキオンを連れてトレーナー室へと移動したのであった。

 

 

 

「ふぅん、悪くない部屋じゃないか」

「適当にくつろいでていいよ」

「お、ソファもあるじゃないか」

 

 部屋について早々、タキオンはソファにぽふんと座り、置いてあったクジラの人形を抱えた。某北欧の家具屋で買ったぬいぐるみだが、妙に抱き心地がいいやつだ。タキオンも気に入ったらしく抱きしめている。

 

 そんなタキオンを尻目に俺は部屋の隅のキッチンに向かう。IHの上に鍋をおいて、紅茶の葉をたっぷり入れて、そこに水を浸る程度入れる。これが沸騰すればまず第一段階だ。

 

「ずいぶん乱暴な淹れ方だね」

 

 タキオンがぬいぐるみを抱きしめながらこちらに寄ってきた。ずいぶん気に入ったらしい。

 

「煮出す方法だからね。香りが飛んじゃうという人もいるけどチャイ自体、安い茶葉を使う方法だし、スパイスで香りが加わるからあまり問題ないんだよ」

「ふーん。で、そっちのが使うスパイスかい?」

「そうだよ。こっちがカルダモンでこっちがクローブ。後はナツメグとクミンとコリアンダー、あとはショウガだね」

 

 スパイス棚には大量のスパイスが置いてあり、今回使うスパイスの瓶はすでに棚から取り出している。

 

「使っていないスパイスもあるみたいだけど、スパイスの選択は何か意味があるのかい?」

「スパイスは漢方薬でもあるから、胃腸に良いのを今回は選んでみたんだ」

「胃腸? トレーナー君は胃腸が弱いのかい?」

「いや、全然」

「じゃあなんで胃腸に良いスパイスを?」

「タキオンが胃腸があまり強くないかなと思って」

 

 ぱっと見の印象だが、タキオンの体は全体的に細い。恐らく食が太いタイプではないだろうと思っていた。正直、ケガなどを予防するのに一番いいのは食べることだ。もちろん食べ過ぎて太り過ぎれば負担が増えるが、基本的にはアスリートウマ娘は動けばすぐ痩せるのでいかに多く食べて体型を維持するか、の方が重要である。

 偏食で食べることの価値を見出していないならまだしも、タキオンは学者肌だし体調維持に食事が重要なのはわかっているだろう。それでも食べてないなら食べられないと考えた方が良さそうだ。

 

「ふぅん、つまり私用のブレンドということかな?」

「そういうことだね。味はまあ…… 飲んでみて気に入らなかったら改良するから教えてね」

 

 そんな雑談をしながらスパイスをドバドバと入れていく。漢方薬を煎じるのと同じイメージだ。

 スパイスの香りがトレーナー室に充満し始める。

 

「なんというか、カレーの匂いだね」

「ここから紅茶抜いて唐辛子入れればカレーだよ」

「トレーナー君は料理もするのかい?」

「食べるのは体調管理の基本だからね。ある程度はできるよ」

「ふぅん」

 

 十分煮立った紅茶とスパイスのブレンドに牛乳を注ぐ。そして沸騰する直前まで温めて、はちみつを入れて甘さを足せば完成である。タキオンは甘いのが好きそうなので多めに入れる。

 茶漉しで漉して、マグカップに入れたものをタキオンに渡す。

 ぬいぐるみを片手にソファに戻ったタキオンが、カップに口をつける。

 

「ふむ、悪くないねぇ」

「お気に召して幸いだ」

「でももっと甘い方がいいねぇ」

「いやこれでもかなり甘い方だが」

 

 自分でも一口飲んでみるが、かなり甘い。はちみつを結構入れたし、さらに甘くするのはさすがにちょっとヤバい甘さである。

 

「あまり甘いものばかり食べてると食事が入らなくなるぞ」

「ふむ、トレーナー君がそういうならこれで我慢してあげよう」

「謎の上から目線……」

 

 なぜかどや顔するタキオンだが、まあ中等部の子のカワイイ我が儘だと思って軽く流しておこう。

 

「そうだトレーナー君。夕飯はカレーがいいな」

「なんで夕飯の話に急になったんだよ」

「トレーナー君が作ってくれよ」

「ええ…… タキオンどれくらい食べるんだ?」

 

 正直ウマ娘の食事量、特にアスリートウマ娘の食事量は半端ない。

 昼間のカフェテリアに行けばデカい丼をかっ込んでいるウマ娘だって珍しくないのだ。普通の人間二人分では、タキオン一人を満足させられるかどうかもわからない。

 

「普通のウマ娘よりは食べない方だよ」

「はぁ、まあ仕方ない。門限までには帰れよ」

 

 とはいえともに食事をすればその分会話も生まれるし、いろいろ情報交換もできるだろう。

 そう思ってトレーナーはタキオンの注文通りカレーを用意したのだが…… 普通のウマ娘1食分以上用意したのにほとんどすべてタキオンに食べつくされてしまうのであった。




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