契約締結後、タキオンと過ごす時間はかなり増えた。
といっても、タキオンの自由気ままな行動は予想できないため、普通の方法では捕まえるのは不可能だ。
ではどうやってタキオンを見つけられるようになったかというと、一つは耳飾りについているGPSだ。
ずぼらでスマホすら持ち歩くことを忘れることがあるタキオンだが、さすがに耳飾りをつけ忘れることはないようで、ここにタキオン自らがGPSを仕込んだ上でこちらの携帯電話からタキオンの現在位置がわかるように設定してくれたのだ。
プライバシーなさすぎないかと思うが、本人がやってくれたし、嫌なら本人が耳飾りのGPSを切ればいいだけだろうから渋々受け入れた。
「とはいえ誤差も大きいからなぁ」
GPSの現在地は3mほど誤差が生じうる。
そのため学園の大体どの辺にいるか、ぐらいしか分からないのだ。幸いタキオンの行く場所はそう多いわけではない。基本は実験室かトレーニングするための各種トレーニング施設、時々図書館ぐらいだ。
ある程度の場所がわかれば見つけられる可能性は低くなかった。
もう一つの手段は
「タキオン、迎えに来たよ」
「トレーナー君、毎日来なくてもいいんだが」
授業終わりに教室にタキオンを迎えに行くことである。
「だって、迎えに来ないとタキオンどっか行っちゃうじゃない」
「別にどこへ行ったっていいだろう?」
「いやタキオンと毎日会いたいし」
一応チート持ちなので、直接見れば万が一不調があったとしてもすぐに見つけることができる。当然万能ではなく、会って直接見ないと情報は得られないのだから、できるだけ毎日会ってタキオンの状態は確認したい。
「ま、まあそこまで言うなら付き合ってあげても構わないよ」
「じゃあお昼ご飯食べようか。それとも友達と食べる約束してる?」
「そんなものないから大丈夫だねぇ」
タキオンには友達がいないのだろうか。確かにカフェちゃんぐらいしか話している相手を見たことがないが…… まあ結構問題児だからしょうがないか。
タキオン自身、あまり孤独が苦手なタイプでもなさそうなので、口を出すことでもないだろう。
ひとまず二人してカフェに向かい食事をする。
タキオンは俺の作った食事を気に入ったようで、毎日作ってくれとねだってくるが、さすがにウマ娘の食事を三食全部作るのは骨が折れる。そのため自炊の弁当を少し多めに作ってきて、少し分けるということで妥協してもらっている。
なんせウマ娘は人間換算10人前ぐらい余裕で食べるわけで、米だけでも一食で一升ぐらい食べることもあるわけだから、作るのも大変だし運ぶのももっと大変である。
「トレーナー君、この唐揚げ美味しいねぇ」
「一個だけだぞ」
「もう一個欲しいねぇ」
「……はぁ」
渋々もう一つ唐揚げを渡すと美味しそうに食べるタキオン。
その美味しそうに食べる様子を見ると、まあいいかと思ってしまう自分もいて自分に呆れてしまう。
最近は食事をとられ続けているせいでタキオンはふっくらしてきているし自分はやせ始めてしまっていた。
食事が終わればトレーニングである。
まずは軽くウォームアップから始める。
体中の関節をすべて動かして異常がないかを確認する作業からである。
「相変わらずトレーナー君は変な動きをするね」
「タキオンの動きも相当変だぞ」
併走はできないが、それ以外の運動なら大体人間である俺でも付き合えるので、基本同じことをするようにしている。
体感することで動きの意味や注意点を実感するためである。
首、肩、腕、背骨、腰、脚、全部の関節を順番にとはいえ動かそうとすると、不思議な踊りみたいな動きになってしまう。
「トレーナー君は火星人かなにかかな」
「それを言い始めたらタキオンも同じだろう」
お互いに、この動きはここの関節が動くとか、この動きはよくないとかそんな感想を言いながら一通り体中の確認を行う。
それが終われば体を温めるためにジョギングである。トレーニングコースの外を軽く走って一周する。タキオンにとっては軽く、の速度だが、人間にとってはかなりの速度になるため、これだけで俺は基本バテる。
体が温まれば、フォームの確認をする。タキオンのフォームは癖もなく基本に忠実な綺麗なフォームなのであまり注意することはないが、時々新理論を反映させようとするので、それが適切かどうかを判断することもある。
今のところどれもあまりタキオンに合っていなさそうということで、最初の綺麗な癖のないフォームのままだ。
「トレーナー君、そんなに見つめられると照れてしまうよ」
「いや、タキオンって、カッコよくてきれいだなって思って」
「……」
思ったことを口に出しただけなのだが、タキオンは黙ってしまった。さすがに気持ち悪いと思われたのか、言葉選びに失敗したようだった。
若干居心地の悪い感じを覚えながら、ウォーミングアップを十分行った後に本番のトレーニングを行う。
といっても坂路一本かコースを一周走るだけ、というのが基本だ。
ハードなトレーニングをする場合坂路2本、コース一周半などもあるが、タキオンはそう体が強いタイプではないので、基本的なものだけしか行わない。
今日は坂路を走る予定になっており、タキオンと一緒に坂道の下まで移動する。順番待ちの列に並び、少し待てば順番は回ってくる。
「じゃあ頑張ってね、タキオン」
「行ってくるよトレーナー君」
そういって全力で走っていくタキオン。
「やっぱり速くてかっこいいなぁ」
他にも坂路で走っているウマ娘は多数いるが、正直タキオンが一番速くてかっこいいと思っている。
こんな子が自分の担当か、と思うと感慨深くなってしまう。
走り切るとコースに取り付けられている測定器からタイムが自動で送られてくる。4ハロン50秒ちょっと、ラスト1ハロン12秒ぐらいと、坂路とは思えないスピードだ。見た感じの良さだけでなくタイム自体もやっぱり素晴らしかった。
タイムを確認したら、坂路の上まで急いで移動する。備え付けの原付を飛ばせば1km以上ある坂路の上までとはいえ2分程度で到着する。この距離を1分程度で走るウマ娘の速度はやはりとんでもないなと実感する瞬間である。
「お待たせタキオン」
「大して待ってないよトレーナー君。すぐにクールダウンをしようかな」
坂の上でぐるぐる歩き回ってクールダウンを始めているタキオンに追いつく。
まずはタキオンをベンチに座らせると、氷嚢を脚に当てる。
前と後ろ、ふくらはぎのあたりと太もものあたり、合計8個当てる。
触ってみるとやはりかなり熱い。あれだけ速く走っているのだからそのエネルギー消費量も莫大だし、発熱量も莫大なのは間違いないのだろう。
とはいえ氷嚢を使えばすぐに冷えてくる。あまり冷やしすぎてもよくないので、ほどほどのところまで冷えたら終わりである。
「うーん、確かに感覚は悪くないね。変に火照っていた感覚がない」
「それならよかった。とはいえ冷やし過ぎもよくないからこれくらいがいいかなと思うんだ」
スポーツドリンクをタキオンに渡して、コース外まで歩いて移動してクールダウンを始める。
そして最後にクールダウンの締めとしてストレッチをして終了である。
「タキオン、背中押すよ」
「トレーナー君、ちょっとこれは恥ずかしいんだが」
「でも手で押すと変に力がかかっちゃうことあるから」
長座前屈するタキオンのことを後ろから押す。背中にべったり胸をつけて押すのは、接触面積を増やしてタキオンの体に負担がかからないようにするためだし、開脚前屈の時に太ももを押さえて膝が浮かないようにするのもストレッチの効果を上げるためである。
必要なことだしある程度は我慢してもらおう。
トレーニングなどは大体これくらいである。もっと長時間トレーニングを行うチームもあるが、タキオンもあまり長時間トレーニングを好かないので、短時間高効率を目指している。
ウォーミングアップが1時間弱、クールダウンが30分ちょっとなので全部で2時間もあれば終わるトレーニングで、夕方前には大体トレーニングは終わる。
このあとは、実験室かトレーナー室で実験したり論文を読んだりすることが大抵である。
大体グダグダと論文を読んだり議論したり、ということをしているうちに夜も遅くなるため、夕食をたべて、門限近くまであれこれして、タキオンを送り返す、そんなルーティンである。
「まあ、タキオンも満足してくれてそうだし、いい感じかな」
今のところタキオンの素質は開花しつつあるし、ケガなども特に兆候は見られない。このままいけばちゃんと活躍もできるだろう。
満足いく日常とカッコいいタキオンに今のところの生活は満足できているのであった。
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