「タキオン、蹄鉄の調子あまり良くないんじゃない?」
「うーん、確かにそういわれると」
いつものようにタキオンの素晴らしい走りを見ていると違和感があった。
タキオン自体のトラブルというよりも踏み込んだ時の反発が十分でない感じがあったため蹄鉄のトラブルではないかとあたりをつけた。
走り終わったタキオンの前に跪いて足の裏を見る。
「あー、やっぱり蹄鉄へたってるね」
「そうか、適当に購買で買うかなぁ」
「いやいや、道具は大事だからちゃんとしたの買わないと」
別に購買で買うのが悪いわけではないが、購買は発注して受け取る方がメインだ。棚に置いてあるのは試供品や緊急用の安いやつばかりであり、常用するのには品質がよくない。
「この際だから靴から全部一度見直すのもいいかもしれないね。買い物に付き合おうか」
「えー、トレーナー君が言うならまあ、構わないが……」
「ちょうど明日から休みだし、明日出かけようか。9時に正門前でいいかな」
「わかったよ」
こんな感じでタキオンと一緒に買い物に出かけることになったのであった。
府中駅前のスポーツ用品店に行くだけなので、いつものスラックスと黒ベスト、シャツという男性トレーナー御用達の服装ではなく、私服で来てしまった。何も考えない格好だったが大丈夫だろうか、タキオンとあまりに不釣り合いだったら嫌だな、などと思っていたのだが……
「トレーナー君、待たせたね」
タキオンの私服はひどかった。
下は七分丈の黒いパンツだ。見た感じヨガパンツか何かではなかろうか。
かなりラフとはいえ、そこはまだ許容されるだろう。
問題は上着だ。濃い紫色の長袖のシャツなのだが、襟口がギザギザに乱れていて、肩まで見えてしまうぐらい伸びているし、鎖骨のあたりに灰色のインナーが見えている。多分あれ、ブラジャーの紐だと思うのだが…… 見せブラなどといった高度なファッションをタキオンができるとはとても思えないし、単にだらしないだけだろう。
部屋着ならまだしも、外出するんだからもうちょっとこう、慎みが欲しいと願うのは俺の我が儘なのだろうか。
「タキオン、ちょっとだらしなくない?」
「いやぁ、私服がこれしかなくてね」
悲報、自分の担当ウマ娘、下着が見えるような私服1着しかもっていない。これなら制服を着てきてくれた方がまだよかった。
尻尾の位置も変だなと思って後ろに回り込んでみると、ズボンに尻尾穴も開いていなかったため微妙に付け根の部分の肌が見えている。
年頃の娘さんがこの恰好って、ダメでしょう……
「タキオン、靴の前に服買いに行かないか」
「えー、めんどくさいよぉ」
これを人前に出すのはいろいろ問題だと思い、予定変更して服を買いに行くことを提案したが、タキオンは渋る。
買い物嫌いそうだもんなぁ。どうやって説得するべきか。
「そんなに時間かからないから」
「でも選ぶのがめんどくさいよぉ」
「じゃあ俺が選ぶから」
「仕方ないねぇ」
どうにか勢いで説得したが、どの服にするかは俺が選ぶことになってしまった。
ちなみに前世から彼女いない歴と年齢がイコールで、女性やウマ娘の姉妹もいないので、女性ものの服を選ぶ経験など皆無である。
だが、タキオンに選ばせると今とそう変わらないものが出来上がりかねないので、どうにか頑張って選ぶ必要があるだろう。そう決意してタキオンを連れてまず、アパレル量販店へと連れて行くのであった。
某有名アパレル量販店は、品ぞろえが多く値段も安い。
カワイイ系からカッコいい系までいろいろな服が置いてあった。
「タキオン、どんなのがいいとかある?」
「トレーナー君に任せるよ」
ニヤニヤしながらこちらを見ているタキオン。本当にすべてこちらに任せるつもりのようだ。
タキオンの身長は159cm、スリーサイズはバスト83cm、ウエスト55cm、ヒップ81cmであるのは知っているので、サイズの表を見る限り、女性もののMでサイズはちょうどいいぐらいだろうか。
というか身長だけならまだしも体重やスリーサイズを知ってるのはちょっとヤバくないかと思うのだが、タキオンが教えてくれるからな……
気を取り直して尻尾穴の開いているウマ娘用の服のコーナーを見て回る。
あまり時間をかけているとタキオンが飽きてしまうだろうし……
「よし、これとかどうかな」
「えー、私には可愛すぎて似合わないよ」
俺が選んだのは白のブラウスと黒のハイウエストスカート、黒のネクタイというセットの服だ。価格も安くサイズも合っていそうだし、色合いは落ち着いているがかわいらしい感じがいいかなと思って選んだのだが、タキオンはいまいち乗り気じゃないようだ。
「タキオンは可愛いんだから、絶対似あうって。試しに試着してみない?」
「トレーナー君がそこまで言うならば……」
とはいえほかの候補をすぐ見つけるのも難しいし、ひとまず強く推してみると、タキオンは服をもって試着室の方へと向かってくれた。
「やっぱり似合わないと思うが……」
「やっべ、可愛すぎる」
着替えたタキオンがカーテンを開けて出てきたとき、思わず口から感想が漏れた。
何も考えないで選んだが、よく考えると俗にいう童貞を殺す服なんて昔言われていた組み合わせだ。前世も今も彼女いない歴と年齢がイコールな人間にとって破壊力があり過ぎた。
普段タキオンのことはタキオンとしか認識していないが、こういう可愛い格好をさせるとやっぱり女の子だなぁ、と思ってしまう。
「か、可愛いとかあまり言われると照れるんだが!?」
「いやすごく可愛いよタキオン。俺の担当が可愛すぎる」
「~~~!!!」
真っ赤になって手で顔を覆ってしまったタキオンだが、耳はピンと立ってこっちに向いているし、尻尾は高く振られているし、悪感情を抱いているようではなさそうである。
「ひとまずそれを買うんでいいかな」
「と、トレーナー君がそんなに気に入っているなら仕方ないねぇ!!」
謎のツンデレもどきな反応をするタキオンが可愛いし、特に高い服でもなかったのでここでの支払いを自分で済ませ、可愛い格好になったタキオンと一緒にそのまま次の買い物に向かうことになったのであった。
タキオンは走るということには真摯だし、知識も深い。
道具もこだわっているのかと思い込んでいたが、実際はかなりずぼらだった。
「適当にこの辺のでよくないかい?」
「適当でいいわけないだろ!?」
蹄鉄コーナーに並んでいる大量の蹄鉄を見てうんざりした表情を浮かべたタキオンはこんなことを言う。
まるで何も考えていないことがまるわかりだった。
「そういえば靴もボロボロだったし、新しいの買おうよ!」
「んー、トレーナー君に任せた」
「じゃあ任された」
若干飽きてきているタキオンをベンチに座らせ、足の寸法を測る。
左右対称、きれいな足だ。左右ともに長さ22.5cm、足囲232mm、足高95mm、ちょっと幅が広めだろうか。
22.5cmのEサイズ、22.5cmのEEサイズ、23cmのEサイズ、3種類の靴を用意し、ひとまず全部履かせてみた。
「二つ目の奴がいい感じかな。でもちょっと緩いかもしれない」
「ひとまず今のボロボロだからこれ1つ買って、もう一つオーダーメイドにしようか」
多少費用は掛かるが、オーダーメイドの靴もある。寸法も測ったのでいい感じのものができるだろう。
色とかもどれでもよいというので、黒系の汚れが目立たない色の靴を1足購入し、1足はオーダーメイドのモノを注文する。
そして今日の本命である蹄鉄である。
とはいえタキオンは完全に飽きているので、こちらで勝手に決めてしまおう。
レースとトレーニングで別の蹄鉄を使う、ということも珍しくないが、レースの時とトレーニングの時で感覚が変わってしまうし、何よりもずぼらなタキオンがそういう管理をちゃんとできるかという疑問もある。
なので兼用蹄鉄を使うことにする。兼用蹄鉄は基本アルミ合金製で、鉄製よりは耐久度が落ちるため消耗が激しく費用がかさむが先ほどの靴もタキオンが親から持たされているらしいカードで払っていたので、そこは大丈夫だと信じよう。
普通のものと、先に鋼が埋め込まれていて強度が高いもの、3種類を購入する。後は走ってもらってみて、タキオンに調子を見てもらうことにしよう。
「トレーナー君、買い物終わったかい?」
「ああ終わったよ」
こうしてタキオンとの買い物は手早く終わったのであった。
買い物自体は特に問題なく終わらせたが、その後がまた大変だった。
「靴と蹄鉄の管理もトレーナー君でしておくれよ」
と靴や蹄鉄の管理から丸投げされ、
「トレーナー君、私服の管理も頼むよ」
「トレーナー君、また服を選んでくれよ」
と私服を渡された挙句何度も服を選ばされて、最終的に自室の一角がタキオンのもので占領されることになる。
最終的に下着の洗濯まで丸投げされて断ろうとしたのだが、
「どうせクリーニングに出したら男性が洗うかもしれないだろう? じゃあトレーナー君でも問題ないと思うが」
等と屁理屈をつけられて押し付けられてしまった。
最近ちょっと派手になったタキオンの下着、と言っても完全にスポーツタイプだったものが少しフリルがついている程度だが、を洗いながら、トレーナーの仕事ってどこまでだったっけと思うのであった。
画像はTrinArtで作成したものに加筆修正
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