「デジタル君」
「どうしたんですかタキオンさん」
アグネスタキオンが、神妙な顔をして同室の姉貴分アグネスデジタルに声をかける。
珍しい雰囲気にデジタルも傾聴の姿勢をとる。
「明日、トレーナー君と蹄鉄を買いに行くんだ」
「おお、デートですか」
「デート、なのかな?」
「私に聞かれましても」
タキオンがトレーナーにべた惚れなのと、それに自覚がないのをデジタルは理解している。
一方タキオンのトレーナーがそんなことを考えていないこともまた、デジタルは妹分のトレーナーとも何度か話しているので理解している。
とはいえお出かけをどうとらえるかはタキオン次第でもある。
「で、デートならば……」
「デートとは言ってないんだけどねぇ!」
「デートですよね」
「う、デジタル君がそういうならば……」
「じゃあデートです」
「デートか」
タキオンはデジタルに簡単に言い負かされた。
ぶっきらぼうで説明不足なせいでわかりにくいが、タキオンは結構押しに弱いのだ。
ということでデートとなったトレーナー君とのお出かけ。まず必要なのは……
「やっぱりデートならおしゃれでしょうね」
「ふむ」
「タキオンさん、どんな服を着ていくんですか?」
「どんなって、私の私服一つしかないが?」
「え、あの襟がべろんべろんでブラ紐見えちゃうあれですか?」
「あれだね」
アグネスデジタルは頭を抱えた。
どう考えてもデートに着ていく服ではない。というか外出していい服ではない。
ブラ見せとか高度なファッションなどではなくただだらしない上着と、尻尾穴も開いていないヨガパンツの組み合わせとか寝巻でしかないだろう。
「ご実家におばさまが用意していた私服あったと思うんですが」
「母が用意してくれたのはひらひらしてて嫌いなんだよ」
確かにタキオンの母が用意した服はひらひらしていてタキオンの好みではなさそうだと思ったが…… 全部実家に置いてきてしまっているらしい。それでも今一着しかないそれよりはましだったろうに。
自分の服を貸すか、と一瞬デジタルは考えるが却下する。デジタルの身長は143cmしかなく、体型も凹凸が控えめだ。一方タキオンは身長が159cmと結構高めであり、凹凸もしっかりしている。デジタルの方が一つ年上なのに…… デジタルは微妙に傷ついた。
とはいえ貸すのは無理だというのは明らかである。
「トレーナーさんとの待ち合わせ、何時ですか?」
「9時だね」
「……」
最悪トレーナーさんに会う前に服を買ってくる、ということも考えたがその方法も無理そうだ。
友人から借りる、としてもタキオンの友人などマンハッタンカフェぐらいしか思いつかない。身長はそこまで大きく差がないが、体型が違いすぎる。マンハッタンカフェのスレンダーな体型に合わせた服ではとても入らないだろう。特に胸。
姉のフライトも同様だしあの人の私服事情もタキオンと似たようなものだと思う。
ということでデジタルは諦めた。
「やっぱりデートは難しいかもしれませんね」
「え~」
「え~ じゃないです! 蹄鉄を買いに行くなら私服もトレーナーさんに選んでもらってください!」
「わかったよ……」
学園に入ってからデジタルはタキオンの身の回りの世話を焼き続けていた。可愛い妹分だと思うとどうしても甘くなってしまうのだ。だが、ちょっと妹分を甘やかしすぎたかな、とデジタルは正直反省するのであった。
そんな妹分がトレーナーに染められてクソカワイイ系の服を着て帰ってくるなんて、デジタルの目をしても見抜けなかった。
白ブラウスとハイウエストの黒スカートとか、これあれだ。童貞を殺す服とかいうやつだ。
デジタルが見る限りあのトレーナーは童貞だろうからトレーナーが死んでいないか少し不安になる。当然デジタルも即死だった。
「やっぱり似合っていないかなぁ……」
「そんなことないですよ! すごい似合っています!!」
もともとがお嬢様で所作がきれいなタキオン。清楚系の服もよく似合っている。
ただいつものずぼらなタキオンとのギャップがありすぎてダメージが大きすぎるだけである。
「なんでスマホをこちらに向けるんだい!?」
「写真撮っておばさまに送りました」
「母に!? やめてくれよ!!」
「もう送りました」
タキオンが放任主義と評するタキオン母は、タキオンと同じくツンデレ気質が強い面倒な性格をしているが娘が大好きだ。これを送ればお小遣いは堅いだろう。そんな実益も兼ねた行動をタキオンは止めることができなかった。
「でもお早いお帰りですね。お昼食べて夜食べて朝帰りでもよかったのに」
「朝帰り!? そんな破廉恥なことするわけないだろう!?」
「まあそこは冗談ですが、お昼ぐらい食べてきてもよかったのでは?」
「……」
「疲れて帰ってきちゃったんですかね」
「……」
容易に想像できる光景だった。
タキオンは買い物が好きではない。にもかかわらず服を買って、蹄鉄も買って、他にも何か買ったみたいだから本当に疲れてしまったのだろう。
トレーナーもそれを察して早めに解散、となったのだろうな、というのは予想できる風景だった。
「そういえばタキオンさん、買った蹄鉄や今日着ていった服は?」
「トレーナー君に預けた。トレーナー君に全部管理してもらおうと思って」
「ずぼらですねぇ……」
今までタキオンのトレーニング用品は基本デジタルが管理していたが、これからはトレーナーさんが管理するのだろう。一応、タキオンから預かっているあれやこれやもトレーナーさんに引き継いだ方がいいのかもしれない。
予備の靴、予備の蹄鉄、予備の体操着。そういったものをかごに詰めていく。予備のスポーツインナー……はさすがにこちらで管理するべきかとも思ったが面倒なのでかごに入れる。
基本的にタキオンはこだわらないので、そこまで量は多くない。デジタル本人の物の方が圧倒的に量は多かった。
「タキオンさん、これ」
「なんだい、これ?」
「トレーニング用具の予備や整備するための道具です。トレーナーさんがやってくれるならそちらに渡した方がいいと思いまして」
「ああ、いつもありがとう、デジタル君」
「お昼食べたらさっそくトレーナーさんに渡しに行けばいいんじゃないですか?」
疲れたのは本当だろうが、何となく不完全燃焼感があるのも間違いないだろう。
この後休むだけとしても、トレーナーさんの隣で休んでもいいはずだ。その口実にもなるだろう。
「さすがに買い物に付き合ってもらったのにトレーナー君に迷惑だろう」
「そんな面倒な遠慮しないでさっさと行ってきてください」
「ひぃん!」
デジタルは面倒になったのでタキオンを追い出すことにした。
このまま放置すると寂しくなってデジタルにダルがらみしてくるのは容易に予想できる。暇な時ならいくらでも構うが、そろそろ原稿もあるのでデジタルはあまり暇ではないのだ。
「下着もそのかごの中に入っていますし、朝帰りでも構いませんよ」
「そんなことはしないよ!? 夕飯前に帰るからね!!」
そういって真っ赤になりながらタキオンは出て行った。
「しかし、トレーナーさんというのはそんなにいいものですかね」
まあ異性がああやって尽くしてくれるのは楽しいものかもしれないが……
まだ契約をしていないデジタルにはあまりわからなかった。
「専属トレーナーもいいかもしれませんね」
オタク趣味なデジタルは大規模なチームの隅っこに所属してちょこちょこ走るつもりだった。だが、タキオンがあんなに掛かりながら楽しそうにしているのを見ると憧れが生まれる。
「まー、オタクなデジたんを受け入れてくれるトレーナーさんがいれば、ですけどねー」
別に優しいイケメンとか、ファンタジーにしかいないような大それた相手を望むつもりはないが、オタク趣味を全くの嫌悪感なく受け入れてくれる相手でないと、専属トレーナーは難しいとデジタルは思っている。そんな相手などまずいないだろうとデジタルは自分の中で結論をつけるのであった。
なお、タキトレに紹介されたトレーナーにアグネスデジタルは性癖を捻じ曲げられ情緒を壊され続けるのは、また別の話。
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