今日から始めるプロパガンダ! 作:のすと
0.総統代理スピーカー・シハイシタインの演説(誓歴944年/11月10日/16:00)
権力の座に座り、人を顎で使うのと。
西日に当たって寝そべり、顎に畳の痕を刻むのと。
さて、どちらの方が「
問われれば、私は後者であると即答する。
暗殺に怯える毎日なんて真っ平だし、権力闘争や忖度で胃に穴を開けるのも御免だ。
日がな一日まんじりと何もせず、ぼーっと食っちゃ寝生活を謳歌したい。働かないで食う飯は美味い。
だのに……
「敬愛する総統閣下は恐れ多くも仰られた! 我ら有能にして勇猛なるアルキエ人こそが、唯一にして絶対の最良人種である、と!」
……どうして私は、こんなプロパガンダ演説をぶちかましているのだろうか。
「何故か? それは我らが、選ばれた民族だからに他ならない! 人類を導けと、他ならぬ神が、そう望まれたのである!」
広場にすし詰めとなった、数千人へ。
ラジオやテレビで放送を聴く、数千万人へ。
文節を細かく区切り、活舌を良く、身振り手振りを加えて。
声は大きく。比例するように主語は大きく。
神を信じぬ身で神を語る。騙る。
「しかし――それを良しとせぬ者たちがいる」
誰にも分かりやすい、明確で共通の敵を指し示せ。
「キエルの国民よ、選べ! あの悪魔の民族の穢れた手に、パンを、水を、土を、服を、家を、友を、そして家族を――我らの全てを奪われるか!」
さらに分かりやすくなるよう、身近なものを1つ1つ列挙しろ。
「或いは! 奴らを駆逐し、神の指し示す未来へと至るか! 選べる手は二つに1つだ! さぁ、国民よ――」
突きつける選択は分かりやすい2択で。
軽い比喩をアクセントに。
最後の締めの――キャッチコピー。
「――
瞬間。
応じる声、声、声、声声声―――。
地響きと見紛う聴衆の歓声は、なるほど力強く勇猛だ。
だが、この国の置かれた絶望的な状況を鑑みれば、それは国の崩れゆく音にも聞こえた。
とはいえ、大した差はない。どちらも醜く酷い音であることに変わりはないのだから。
「流石は、あの秘密情報局のトップ、スピーカー局長殿ですな。この上なく素晴らしい演説でしたぞ。……それとも、今は総統殿、とお呼びした方がよろしいですかな?」
「ヴァルクン殿。全ては総統閣下のお言葉です。この身は所詮、非才の身。しがない鼠の頭目に過ぎません」
「ご謙遜を。貴殿の耳目は徹底にして、その声は遥か千里を超え……おっと、あまり引き留めては姫様に叱られてしまう。お会いしに向かわれるのでしょう?」
「……えぇ、まぁ」
「はっはっは! お熱いことだ! この国の未来は実に明るい! 神と共に踊れ!」
思考停止したブタめ。この国の未来に勝利などない。許されたのは敗北のみだ。
本当に。本当に、どこで何を間違えたのだろうか、私は。
決まっている。
総統閣下の娘、姫様――あの「
あの3年前の日から、全てが狂ったのだ――。