今日から始めるプロパガンダ! 作:のすと
すみません。タイトルを変更しました。
1.始発駅は爆弾テロ(誓歴924年/3月22日)
「俺」はテロで死んだ。
地球という星、日本という平和ボケした国の、平成という世に生まれ、令和にて――その元号に全くもって似つかわしくない死因で死んだ。
本当に唐突だった。情景描写など当てにならないもので、何か良いことでもありそうだと誰でも考えるような、そんな美しく晴れ渡った空の下で爆発が起こったのだ。
正直、何があったのか全く分からなかった。事前のスピーチも犯行予告もなかったから。いや、あったのかもしれないが、少なくとも俺は何も聞いちゃいない。
何があったのか把握しようとしても、目が開かなかった。
襲い来る激痛を訴えようとしても、声が出なかった。
助けを呼びに行こうとしても、足が動かなかった。
上に多い被さっているナニカを――人型のソレをどけようとしても、腕が動かなかった。
ただ、残った聴覚だけが、周囲の音を勤勉に収集していた。
怒号、悲鳴、泣き叫ぶ子供の声。
何かが破裂する音、燃える音、崩れる音。
まさに地獄絵図――だったのだろうけれど、正直、まったく現実感がなかった。
ヘリの音や、サイレンの音を聞いた時なんかは、「そういえばドップラー効果って学校で習ったな」なんて場違いな感想を抱いたくらいだ。それくらい唐突で、理解できなかった。
それで――そう。そのあと、どこかに運ばれた気がする。それで冷たい床に置かれたのだ。
怪我人を冷たい床に寝かせるとか何を考えてるんだと的外れな憤りさえ感じたけれど、怪我人が多すぎてベッドの数が足りなかったのだろうか。それとも、過剰な痛覚がベッドの温もりすら掻き消してしまっていたのかもしれない。あるいは――既に俺が死んでいたとも考えられる。
聴覚は死後も残り続けるなんて話を聞くが、だとすれば俺は一体どの段階で死んでいたのか。そんなことすら分からない有様だった。
というか。死因についても、運ばれた先でやたらと「テロ」という2文字を聞いたので、多分これはテロだったんだなと推測しただけだ。もしかしたら、ただのガス爆発とかの事故だったのかもしれない。
ただ、痛みにせよ何にせよ。人間、キャパを超えると一周回って冷静になるらしく。どうせ死ぬならガス爆発よりもテロの方が意外性あって面白いな、とか。死後の世界でエピソードトークをすることになった時、結構いい話のネタになるんじゃないかな、とか。でもやっぱり痛いな、とか。テロリストさんマジうざいな、とか。金輪際こんな理不尽な死に方は御免だな、とか。
そんな風にとりとめのない思考をお手玉のようにグルグルして、最期の最期に浮かんだのは「あぁ、まだ親孝行してないな」という、間の抜けた感想だった。
そうして、「俺」は死んで――
■■■
――「私」が生まれた。
今世の名を「スピーカー・シハイシタイン」。キエル国の由緒正しき名家シハイシタイン家のご子息さま……すなわち、お貴族様です。
齢5歳にして前世の記憶っぽいものを朧気ながらに思い出した、純真無垢にして無邪気でありながら聡明なスピーカー美少年は、まず前世では初詣すら行かなかった不信仰者の分際で、見ず知らずの神様に感謝を捧げました。不幸な死に方をした分、贅沢のできるビップな転生先を選んでくれたと考えたのです。ついでに顔も良かったので、これは人生勝ち組だと確信しました。ルッキズムに凝り固まったゴミのような思考でした。
気分を良くしたスピーカー美少年は、よし今世はしっかり親孝行をするぞと意気込みます。なんて立派な子なんでしょう。これはもう道徳の教科書に載せて後世まで語り継ぐべき。
ところで、昔の人は言いました。「親孝行したいときに親はなし」と。昔の人は頭が良いです。人間いつ死ぬか分かりません。時にはテロに巻き込まれて死ぬこともあります。親孝行は常日頃からコツコツしておくべきなのです。思い立ったが吉日精神を大切に。親孝行の積み立て貯金です。
そんなわけで、まずは両親のお仕事を手伝ってみようとスピーカー美少年は思いました。
「……何? 儂の仕事を手伝いたい? おお、スピーカー! 何という孝行息子だ! 儂はお前が誇らしいぞ!」
「お父さん、いつもありがとう!」「お仕事てつだいたいな!」と愛くるしさ一杯のぶりっ子しぐさをすると、父親は感涙に咽び泣いて天に祈りを捧げました。大成功でした。
しかし、存外、親の仕事というものを子供は詳しく知らないものです。5歳児ならば尚更。スピーカー美少年はこの時に初めて父親の仕事を知ることとなりました。
「ならば早速、儂が建設中の強制収容所に向かおう! あの汚らわしい悪魔の民族が絶対に逃げ出せないような、強固な監獄にせねばならんのだ。殺処分するための毒ガス室も造られねばならん。やることは山積みだぞ!」
心の底から、神は死んだと思いました。死んでないなら今から特大の五寸釘をぶち込みに行きたい気持ちでした。