愛され少年ハタカくんとキラキラの魔法   作:ヨイヤサ・リングマスター

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 ハタカは異世界で生まれました。この世界の生まれじゃありません。

 異世界の大魔法使いの弟子です。

 しばし遅れを取るどころか、こっちの世界でも他の追随を許さぬ強さ。

 そんなハタカがお好き? ああ、結構。ますます好きになりますよ。そんなお話。

 


第12話:ただのハタカですな

 ある程度大きな人の営みがある場所では、必ずと言っていいほど教育機関はしっかりとしている。

 

 それは教育するべき児童が未来を支えることになるため、職人にしろ商人にしろ、後継としても教育は国なり街にとって大切なことだ。

 

 アイバスの街は辺境にあるが、辺境だからというのか珍しい高ランクモンスターが多く生息する地域にぽっこりと位置し、高ランク冒険者も多い街だ。

 広さ8,479.38km²の街というのは伊達ではない。本当に結構デカいのだ。

 

 この街の冒険者たちは低ランクで燻っている者でさえ、他の土地で良い大学を出た大手企業の「部長」クラスの人たちと同等の稼ぎがある。

 

 そんな稼ぎを叩き出すのは小学校を卒業したかも怪しい者だったりするので、当然のように稼いだお金は右から左へ。

 目的がなければ貯金をする冒険者はほとんどいないのだから街には潤沢なお金が集まっていく。

 

 それが結果としてアイバスの街の商人や職人を潤わせ、その利益を目論んだ人が集まり王都よりも栄えていると言っても過言ではない。

 

 だからだろう。国からの支援を一切必要とせず、交流もそこそこに独自の発展を遂げたこの街はもはや国と言える。

 

 もっとも、アイバスの街が含まれるヒマワリ王国を治めるスラベーマ王様は領主のハーバルとは大学時代の同期で、

 「ベーちゃん」「ハーちゃん」と呼び合う関係だったために主従の関係にありながらも仲は良好。街も国も滞りなく平和を謳歌している。

 

 とまぁ、そんな感じで、稼ぎに稼いでいる金持ち冒険者の街アイバスでは、学校だけでなく孤児院もきちんと環境が整っている。

 

 冒険者が幾ら強くとも、時には死ぬ者もいないわけでは無いため、孤児院は実際大事だ。

 

 お金に関しては街が広く、人口も多いので無駄遣いはできないが、それでも清潔で快適、親を亡くした子どもたちが笑顔で暮らせる程度には良い孤児院だ。

 

 今日のハタカは、冒険者として孤児院の依頼を受けていた。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「……よっと、これで全部かな?」

 

 アイバスの街でも一番冒険者ギルドから近い『ピエーホール孤児院』の屋根の雨漏りする箇所を確認するハタカ。

 

 すでに一人前とも言えるCランク冒険者となった今でも、彼は街中での雑用依頼は毎日何かしら受けている。

 

 誰からも好かれるハタカだが、彼自身も周りの人間をみんな好いているからだ。

 

 簡単な依頼なら日に何件受けても問題はないし、困っている人は出来る範囲で助けたくなるのが彼の良いところなのだから。

 

 

「オー♪ ハタカサーン、ありがとデース♪

 お陰で雨が降るたびに子どもたちがお茶碗やバケツを置いて『貧乏人ごっこ』をしなくなりマース♪」

 

「いえ、ピエーホールさん。

 これも冒険者たる僕の仕事ですから」

 

 

 ハタカに怪しげなエセ外国人口調で話しかけるのはこの孤児院の院長、ピエーホール。

 またの名を“産業スパイ”のピエーホールと呼ばれている。

 

 彼は無類のカレー好きで、カレーなら何杯でも食べられる底なしの胃袋から“バケツ男”のピエーホールなどとも呼ばれている。

 そして産業スパイとして最初はこの街にやってきた、現・孤児院のオーナー。

 

 

「もう、ハタカったら謙遜のし過ぎは嫌味になっちゃうわよ♪」

 

「あはは、すいませんジュリアさん。

 どうも僕は人助けが好きなので、雑用依頼は息をするように日常なんですよ」

 

「そうね、それでこそのハタカだもんね♪(うわ、いまのハタカの笑顔可愛すぎ♪)」

 

 

 そしてこちらもまた、いつものようにパーティを組んでいるジュリアは屋根の上は危ないから、という名目でハタカのお尻を揉み揉み掴んで支える係をしていたりする。

 

 ちなみに彼女はヨーグルトが大好物で、ヨーグルトなら何キロでも食べられる“バケツ女”ジュリアの異名を幼い頃にとっていたとかいないとか。

 

 

「それにしても、ここまで屋根に穴があいていたのに誰も修理しなかったんですか?

 下位ランクの冒険者には雑用依頼を受ける人も多いでしょうに」

 

「ええ、実はここ最近のことです。

 この孤児院はちょっと厄介な人から目をつけられているのデース」

 

 ピエーホールの語る孤児院の現状。それはハタカの中に常に輝く太陽の如き煌きにダイレクトに届くものであった。

 

 彼、ピエーホールは貴族の末席に属する男である。

 

 元々、この街は領主であるハーバルが、ヒマワリ王国の初代国王から任された先祖代々の領地なのだが、

 ピエーホールは王国の北端にあるカライン男爵の関係者として、独自に発展し続けるアイバスの街の調査を云いつけられていたのだ。

 

 当初こそは主人でもあるカライン男爵の言うように調査に来たピエーホールだが、

 目にしたこの街への感動と、親を亡くした幼い子らを見捨てられぬ義侠心により孤児院を勝手に設立。主人の金で。

 

 当初の目的ではそこそこの大きさの商会を立ち上げて稼ぎながら調べる予定だったのに、儲けがない孤児院の運営によりカライン男爵からは資金援助がなくなってしまったという。

 

 それにピエーホールは、領主ハーバルに正直に「私は産業スパイです」などと言ったのだ。

 

 彼自身はその人柄と孤児院の運営手腕によって信頼を得たが、カライン男爵の名は路傍の石ころよりも価値のないものとなってしまったのだという。

 

 それで何かにつけてカライン男爵はチンピラを雇ってはしょっちゅう孤児院に嫌がらせをしまくっているというのだから、いくら屋根を直してもすぐに壊されてしまう。

 

 保安部隊も捕まえようと躍起になっているが、やたら足の速いチンピラばかり集められているので捕まえられずにいるのが現状だ。

 

 

「……許せませんね」

 

 貴族とは――人の上に立つ人間とは、それに値する人間であることを常に証明し続けなければいけないというのがハタカの自論である。

 

 人それぞれに考えはあるのだろうが、それでもハタカは面白くないと思った。

 

 

「ほら、今もそこの通りから歩いてくる奴ら、アイツ等がこの孤児院にいつも石を投げてくるチンピラ集団デース。

 手にペンキを持っているから、今度は落書きをしていくのかもしれまセーンネ」

 

 

 見るからにガラの悪い集団が20人ばかり集まってこちらに向かってきている。

 

 ハタカはジュリアを下がらせると、その集団に向かい出す。

 

 

「あん?」

 

 チンピラ集団のリーダー格と思しきゴツイ中年がハタカに気づく。

 

「僕は冒険者のハタカです。

 この孤児院に嫌がらせをするのをやめてもらえますか?」

 

「てめぇ、ふざけたこと抜かしてっと……おぉ!?」

 

 何も考えずに丸太のような腕を振り上げたチンピラリーダーだったが、ハタカの顔を見たことで表情が変わる。

 

 

「(な、なんて綺麗な目をしたガキだ……)」

 

 あまりにも真っ直ぐに、キラキラとした瞳で見つめられたことで、自分がこれまでに行ってきた悪行に初めて罪悪感を感じるチンピラリーダー。

 

 そしてリーダーと同様に戸惑うチンピラ集団たち。

 

「お願いします。

 皆さんにも何かしら事情があるのかもしれませんが、この孤児院はピエーホールさんや子どもたちが暮らしている場所なんです。

 荒らさないでください」

 

 怒りを滾らせた目をしていたのなら、暴力で出迎えただろう。

 

 見下す目をしていたのなら、同じように殴るだろう。

 

 だがハタカは違った。

 諭すように、ゆっくりと静かに語りかけたのだ。

 

 チンピラといえど人間だ。少しも良心を持たない者はいない。

 その良心を心から信じて、チンピラ達に嫌がらせをやめるように頼んでいるのだ。

 

 これだけで、ほとんどのチンピラが涙を流して己の悪行を悔いだした。

 

 だが……、

 

 

「こんなガキがなんだってんだ!?

 リーダー達が嫌がらせの意思を見せないのなら、俺はこのガキを叩き潰すだけだ!!」

 

 チンピラリーダーに負けず劣らずの巨漢チンピラはキラキラの瞳に罪悪感を感じつつも当初の目的である嫌がらせを行おうとペンキと刷毛を天高く突き上げる。

 

 そして、ペンキと刷毛を通行人の邪魔にならないように道路の脇に置くと、

 拳を握り締めてハタカに殴りかかる。危ない!!

 

 「……」

 

 それを見つめるハタカの瞳には悲しみと憐れみの色が浮かんだ。

 

 同年代と比べても小柄なハタカでは、この巨漢チンピラのパンチを防ぐことはできないと思うだろう。

 

 だが、巨漢チンピラの拳をハタカのものではない大きな大柄な手が防いだ。それはチンピラリーダーだった!

 

 

「俺らは社会のゴミで屑で、何の価値もないが、それでも人間だ!

 だがなぁ、それでこんな可愛らしい少年が殴られていい理由にはならねぇ!

 人間なら、誰だっててめぇの罪を悔いることが出来るんだ!!」

 

 当初の目的は嫌がらせだ。

 巨漢チンピラはハタカを殴ろうとしたが、腹が立って殴ろうだなどと、これはもう嫌がらせどころではない。人として最低な行いだ。

 

 チンピラリーダーの掛け声に刺激を受けたチンピラ集団は、

 一斉に拳を天高く振り上げるとハタカを殴ろうとした巨漢チンピラを囲んで殴る。囲んで殴る。囲んで殴る! とにかくもう殴りまくる!!

 

 ハタカはといえば、特に何をしたでもないのだが、少し様子を見守っていただけで孤児院に嫌がらせをしようとしたチンピラ集団は自然消滅することとなったのだった。

 

 

「オー♪ ハタカサーンの心が伝わりマーシタ♪」

 

「いえ、ピエーホールさん。

 これは彼らの心に善の心があったからです。

 僕は彼らに悪いことを悪いと感じてもらえるように、心を開いて接しただけですよ」

 

「ハタカ……すてき♪」

 

 目にハートを浮かべてハタカに飛びつくジュリア。そんな彼女の頭を優しく撫でてあげるハタカ。

 

 ハタカの放つ凄いキラキラのオーラがチンピラ集団に悪の愚かさを気づかせたのだ。

 

 かくして、孤児院の治安は守られ、チンピラ集団は自ら保安部隊の詰所に出頭し、

 奉仕活動で罪を償ったあとは冒険者なり職人の弟子なりで真っ当に働くようになったのだそうだ。

 

 ハタカ自身も、今回得た報酬で少ないながらも孤児院でお菓子作りをして子ども達と遊んで、珍しく年相応な楽しげな笑顔を見せていた。

 

 それを見て、ジュリアはさらに惚れ、チンピラ集団は自分を改心させてくれたハタカに感謝を示す。

 

 善意が善意を呼び、悪意を消していく。

 それがアイバスの街の日常となったのもハタカのキラキラした瞳のおかげなのかもしれない。

 

 




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