愛され少年ハタカくんとキラキラの魔法 作:ヨイヤサ・リングマスター
師匠である大魔法使いアラワカから、才能を妬まれて異世界へと飛ばされてしまった凄い魔法使いの少年ハタカ。
彼は転移先の異世界のかなり上空へと転移してしまったようだ。
かなりの高度であり、それに伴って落下速度もかなりのものだが、
ハタカは周囲の空気を操作して息苦しさもなく、そして恐怖すら感じることなく淡々と状況を分析する。
「むむっ! 転移は成功したようですが、……ここは空かな?
師匠のことです、きっと大空から大地に叩きつけられても平気な身体を作るため、トレーニングとして、あえて空に転移させたに違いない♪
感謝します、師匠!」
そしてハタカ少年は受身も取らず、重力の導くままに天空から轟音を響かせながら着地。もとい、落下。
まるで漫画めいて地面に四肢を投げ出した大の字の人型の大穴が出来たところで、それでも何の問題もなく彼は穴から這い出してきた。
「イタタタ……。ちょっと、たんこぶが出来たかもしれません。
師匠なら何とかしていたでしょうに、僕もまだまだ修行が足りないですね」
ちなみに彼の師匠の場合、『ジャガイモの皮向き』魔法しか使えない代わりに物理的には本当に最強なので平気だったりする。
性格は悪いし魔法の才能はからっきしだが、アレはアレで本当に世界最強の大魔法使いと呼ばれていたのだ。
すでに故人だが。
「さて、これからどうしたものか。
とりあえず、元の世界の“最強”は師匠なので、僕はこの異世界で世界最強の“大魔法使い”を目指すとしましょう!
そうすれば二つの世界で世界最強の二人が師弟関係ということになり、いつの日か共闘する日が来れば悪の魔王なども敵ではないに違いない!」
しかしその師匠はハタカ少年を送り出してすぐに事故で死んでいるのであった。
「ではまず人里を探すとしましょう。
やったことないけど、探索魔法を即興で使用してみた感じだと、北に5メートルのところに大きな門が見えますね。
一応、言語魔法も掛けておいたので言葉は通じるでしょうが、文化の違いで失礼がなければいいのだけど……」
そう、彼が落ちてきたのはこの異世界の中でも飛び抜けて辺境に位置する街、アイバス。
周囲を巨大な金属製の壁で囲まれた広さ8,479.38km²の街である。
人口は2,831,202人と、辺境の割に多い。特産物は辺境だけに数多く出てくる割と強い魔物の素材。
海はないのだが、何処からか湧いてくる牡蠣も有名なので牡蠣醤油やモミジを象った饅頭も美味い。
ただの街なのだが、腕の良い冒険者や武士団が多いため、もはや一つの軍事国家と行っても過言ではないほどに堅固な守りと圧倒的な武力を備えている。
ハタカがここで、さらに情報収集をしようと周囲を見渡すと、槍を構えた屈強な武士たちが10人ばかりで取り囲んでいた。
「スタァァァァァーップ! 動くな!
貴様は空からこのアイバスの街のすぐ近くに落ちて周囲の者を驚かせるという罪を犯した!
黙って付いてきてもらおうか」
誰何(すいか)してきたのは武士団たちのリーダー格だろう。
一人だけやたら目立つ海老茶色の鎧を着ている。腰に提げた太刀も華美な装飾こそないが実用性に富んだ一級品であることがハタカの分析魔法で理解できた。
他の武士たちは地味に鉄色そのままの鎧だというのに、一人だけ海老茶色の鎧。そして太刀は実直。
自己主張が激しいのか控えめなのか判断に困る男だ。
身長も優に2メートルを超えているであろう。
ハタカがまだ幼く小柄なこともあるが、見上げるほどの巨体ははち切れんばかりの筋肉で覆われた美丈夫であった。
「あ、どうも、僕はハタカと言います。
魔法使いをやっていまして、師匠に修行として転移魔法で飛ばされてきました」
「むむっ! よく見ると可愛らしい顔をしているな少年よ。
こんなにキラキラした目の少年が悪い奴とは思えん!
……よし決めた! この街の領主様に会わせるから付いてくるといい」
ハタカはとても可愛らしい顔立ちをしており、魔法使いだけあって華奢で庇護欲をそそられる肉付きの少年だ。
そしていがぐり頭はついつい触りたくなるので海老茶色の武士も自然な動作でウリウリし始めた。
ハタカは慣れているのでされるがままだ。
海老茶色の筋肉武士は、それだけの短いやり取りで完全にハタカの人間性を好意的に受け取ったのだ。これぞ筋肉分析なり!
「ちょっと、隊長! こんな怪しい少年を領主様に会わせていーんすか?」
「いやでも、これだけ綺麗な瞳をしている少年が悪い子だとは思えないな」
「むしろ、この可愛さでありながら、天高くから落下しても無傷な魔法の力は街の戦力としても有用なのでは?」
「まぁ、領主様なら上手くまとめてくれるでしょう(丸投げ)」
隊長の周りの下っ端武士たちも口々にハタカを見て議論するが、結局のところハタカの澄み切った綺麗な瞳は悪人ではないと判断したのだった。
「いきなり槍を向けて悪かったな少年……いや、名はハタカだったな?」
「はい、ハタカと言います。
修行として飛ばされたので、この街の領主様に街での滞在許可がもらえればここで修行をしようと思います♪」
「うむうむ、実にキラキラと輝く瞳だ。
そして私の名前はタロウ。このアイバスの街の保安部隊武士団の隊長をしている。
君の瞳の輝きは、きっとこの街に革新をもたらすだろうと期待をしているよ」
タロウは右手を差し出し、それを見たハタカはがっしりと握り返した。
シェイクハンド……すなわち握手とは、友好関係を築くための最初の一歩である。
保安部隊長であるタロウの握手をハタカが握り返したことで、彼に半信半疑だった他の鎧武者たちも全面的に信用することになったのだ。
良い笑顔で差し出した手を、良い笑顔で握り返してくれる相手が悪い人間なはずがない。
これこそがハタカの人間的魅力なのだろう。
先ほどまで槍と一緒に向けられていた敵意や警戒心は、すでに誰も持っていないのだから。
こうしてハタカは転移後、あっさりと今後の拠点となる街の保安隊たちと仲良くなることに成功したのだった。
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