突然だが、私は死んでしまった。
死ぬ寸前の記憶も覚えている。キャリア志向が強かった私は色恋や寝食には目もくれずに仕事と推し活一直線だったのだが、色恋はまだしも寝食を蔑ろにしたのが不味かったようで不摂生や不規則な睡眠で恐らく免疫機能が落ちていたところ、見事インフルエンザにかかりしかもこじらせてそのまま死んでしまったのである。
「さて、あんたももうぼちぼち次の人生を歩んでもいい頃合いになったんだけどなぁ……」
この方は私の担当になった女神殿で、私は今この女神殿の仕事を手伝っている。
「お願いします! 次の人生、絶世の美女! 可愛いの権化! 反則級のセクシープロポーションにしてください!」
私が前世でキャリア志向になった理由は顔面偏差値が中の下ぐらいで容姿も美ボディとはいえず、なんともまあ普通のちんちくりんだったからである。
「いやまあ別にそれぐらい私の下でよく働いてくれたから融通してあげるけどさあ……そういうことじゃないのよね。あんたこのまま次の人生でも仕事仕事でまた早死にするつもり?」
「うぅっ……返す言葉もない……」
女神殿は頬に両手をあてて暫く試案すると、何か閃いたようでパチンと一回両手を合わせた。
「そうだ! あんたのその仕事に対する上昇志向、アスリートとしてスポーツに転換したら良いわ! そうしましょう! あんた確か野球好きだったわよね。野球の漫画とかゲームの世界に入れたげる」
私の推し活、それは野球。前世の私はカープ女子だったのである。シーズン中も仕事で残業する時はラジオで試合中継を聴いていたぐらいである。
「じゃああんたの要望を聞いて絶世の美女、可愛いの権化、反則級のセクシープロポーションにしたげるとして……ほっ!」
女神殿が手をかざすと手の中に何枚かのカードが現れた。
「えーっと……うんうん、こんなトコでしょ。そいっ!」
次に手を横にかざすと福引きのガラガラが現れた。
「これは私がやるわ。はいっ!」
女神殿がガラガラを回し中から球が出てくる。
「3! 3だよ、見て。
引いた球には「Ⅲ」と書かれている。女神殿が嬉しそうに確認するように見せてくる。
「3枚も引いていいんですか? 私の元々の要望と併せて4つになりますよ?」
「あんたは私の下でよく働いてくれたからこんぐらいはしたげる。さあ引け、ほれほれ」
そう言いながら女神殿はカードを少しシャッフルしてから私の前に広げた。
「えっと……じゃあ、これと……これと、これで」
私が3枚のカードを引くと選ばなかったカードが女神殿の手の中でスウッ透けだして消えていった。
「見して見して、おっ!お~っ!かなりの引きじゃない。これも私の下で徳を積んだからかしら?」
女神殿が私の引いたカードをまじまじと見る。
「まず、『パワプロ成長』パワプロは知ってるかな?」
「ええ、少ししかやったことありませんがなんとなく」
「これはね『練習や試合での経験をポイント習得して、それを使って任意で自分を成長させる事が出来る』ってもんよ。まぁ、一応は練習や試合だけど、他にも色々なイベントでポイントが手に入ったりスキルが身に着いたり、能力が上がることがあるわ」
パワプロは少しだがやったことがある。ああゆう風に成長できるのはいい。
「次は、『天才の入部届』これは初期能力が高くなってセンスが良くなる特殊能力が付いて成長に必要な経験値が低く抑えられる。つまり少ない練習で人より成長できるってことだね。このカードは扱う人によっては怠けたりするんだけど上昇志向のあるあんたなら使いこなせるでしょ」
私が……生まれながらの天才? 女神殿はそう言ってくれたけど生まれる前から生まれながらの天才だって決まっていて果たして私は大丈夫なのだろうか……
「で最後が『手術の成功手形』これはねぇ……」
「ちょ、ちょっと待ってください! 手術ってこれもパワプロの成功したら能力大幅アップするけど失敗したら同じぐらい下がるってアレですか!?」
「そだよ~」
ちょっとそこは軽いノリでいってほしくなかった……
「待ってくださいよ! そんな危ない人体実験みたいな手術やるような人がいる世界に行くんですか!?」
「そこは私がちゃんと合法的な感じで辻褄合わせるから。引いちゃったもんは仕方ないよ。今更変えらんないよ?」
「ま、まあ出会わなければいいですし。出会っても手術しないって言えばいいんですもんね! そうですよね!?」
私は怯えているが女神殿は何だか不満そう。いや、いくら成功するって言われたって……
「てか全部パワプロじゃないですか!」
「野球選手の育成モノってなるとパワプロになっちゃうからね。アイテムの持ち込みは2つまでなんだけど3つを引くなんてそれだけでも運が良いんだからね? さ、キャラメイクをしよう」
女神殿が手をかざすと何もない空間に近未来的な透明のスクリーンが浮かび上がった。
「えーっと、まず名前は、マルティナ・ホセフィーナ・ブレット・ラドクリフ……」
「え!? アメリカ人!? 私、アメリカ人になるんですか!?」
「心配しないでもちゃんと日本に住んでるアメリカ人だから安心して」
いやいきなり今度からお前アメリカ人だからって言われても困るなぁ……
「どうしてもアメリカ人なんですか?」
「私が決めたことだけど、あんたが今度生きていく世界には苗字にルールが決められているの。あんたの後ろにその世界が漫画になってる本を入れた棚を置いておいたから読みながらついてきてもいいよ」
「え? うわぁっ!」
ふと後ろをみるとそれまで何もなかった場所に本棚が置かれ、漫画が置かれている。
「たま……よみ……あーなんか聞いたことあるなこの漫画。プロ野球選手から名前着けてるでしたっけ?」
「そそ、『ラドクリフ』ってのもアメリカの野球選手の名前。ピッチャーとキャッチャーの二刀流で活躍してた選手でピッチャーとして500勝以上して4000個以上三振を
「はあっ!? 知らないですよそんなメジャーリーガー! 女神殿、それ私が生きていた世界とは別世界の話ですよね!?」
ラドクリフなんてメジャーリーガー聞いたこともないしそんな凄い成績を残した選手の話ならたとえ大昔の選手でも聞いたことあるはずだ。
「メジャーリーガー……う~ん、メジャーリーガーといえば確かにメジャーリーガーなんだけど、メジャーリーガーじゃないって言っても合ってるっちゃ合ってるというか……とりあえず、日本じゃあんまり名前が知られていない選手なんだよね。でもあんたの世界の話よ」
「またまたぁ、担いでるんでしょう?」
「ホントだってば! あと、『ラドクリフ』だけじゃなくて『マルティナ』も『ホセフィーナ』も『ブレット』も全員二刀流で活躍した選手が由来だから」
本当に聞いたことがない……やっぱり女神殿は私のことを担いでいるんだと思う。
「左とかスイッチヒッターとかカッコいいけど私が由来に選んだ人は全員右投げ右打ちだからあんたも右投げ右打ちね。」
「これってよく足が速いからって左打ちに転向させられる人とか聞いたことあるんですけど。私がそうなったら転向できないんですか?」
「出来るよ。そこはあんたの努力次第だから」
ここもポイントが必要なのかな……
「ポジションは勿論二刀流!」
「ピッチャーとキャッチャーですか?」
「いやピッチャーとショート。でもこれは初期設定だから努力次第で増やせるよ~」
ピッチャーとショート、身体能力の権化だ。天才型に相応しいと思う。
「次はピッチングフォーム! といっても下地はあるけど最初は初心者だから選べるフォームも少ないんだけどね」
「えっと……じゃあオーバースローで。真上から投げ下ろすってカッコいいですから」
「分かってるわね!」
初心者がいきなり横や下から投げても変に思われるからというのもあったりする。
「じゃあ同じ感じでバッティングフォーム!」
「普通のにしましょう。癖のあるやつだと直されるかもしれませんから」
「つまんないの! あ、フォームも途中で弄れるけど注意してね?」
私がカープを応援している時も活躍していたのにフォームを弄ってからダメダメになった選手を知っているので重々承知。
「成長タイプは『マニュアル』。これじゃないと『パワプロ成長』の意味がないからね~」
「そうですねー」
「最後に、肌の色は黒だよ~。名前の由来にした選手、全員アフリカ系だからね~」
「日本人じゃないのは分かっていましたけどちょっと目立ちますね……」
黒い肌は日本人の中に入ると目立つから虐められないか心配ね……
「『これでいいですか』、『はい』っと……」
女神殿が「はい」を選択するとスクリーンが小さな発光体に変わった。
「これでやることは終わりだよ。はい!」
パチンと女神殿が指を鳴らすと場所が空の雲の上に場所が移り変わった。
「ここはもう球詠の世界の空の上だから後は
「え!? 飛び降りるんですか?」
「まあそんなとこよ。安心して落っこちるんじゃなくてゆっくり降りるから……さ、いってらっしゃい」
「はい、ありがとうございました」
意を決し、私は雲の上から飛び降りた。
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