私だって、緩い感じの作品は書けます。
「――以上で今日の仕事は終わりだな。何かあるか?」
車の中でプロデューサーがハンドルを握りながら問いかけていた。
「特にはないかしら」
冬優子はつまらなさそうに窓の流れるビルを眺めていた。暇そうに外を見て、飽きたのか車内をぐるりと見まわす。
すると、どういうわけか後部座席中央のヘッドレストのうしろに何かがあるのが見えた。なにか茶色い――
「ユアクマ?」
「えっ」
唐突の発言に困惑するプロデューサーを無視しながら彼女はヘッドレストの後ろに鎮座していたユアクマに手を伸ばす。
「車内にユアクマのぬいぐるみがあるんだけど……あんた、知らない?」
「ん? あぁ、それは雛菜が置いたものだ。ゲーセンだったか何だったかの景品だったらしくてな。『車の中をかわいくするため~』とか」
「ふーん」
その言葉に彼女はたいして反応も見せずにユアクマを手の内で転がす。
「冬優子は好きなのか? ユアクマ」
「え? うーん……別に。かわいいとは思うけど、ふゆの趣味ではないわね」
「ぬいぐるみ嫌いなのか?」
「そんなんじゃないわよ。場所とるし、集めてたら際限ないから集めないようにしているだけ。飾るスペースと資金が無限にあったら全部集めてるわよ」
嘗めんじゃないわよ、と彼女は意味不明にプライドを顕示させるながらも両手でユアクマを持ち手足を左右に振って見せる。どうしてこのキャラクターには2つの顔があるのだろうかと雑な思考をしながらも、一通り人形遊びをすると冬優子はユアクマを元あった場所に戻してしまった。
*
「――これで今日の仕事は終わりだ。特に何かないか?」
別の日、プロデューサーは結華を乗せた車を運転しながら彼女の自宅へと向かっていた。
「うーん、とくには――」
冷蔵庫の備蓄の量を頭の中で想起しながら結華は車内を見渡す。そして彼女もユアクマのぬいぐるみを見つけた。
「ユアクマ……? これ、もしかしてひななんの?」
「ん――あぁ。雛菜がゲーセンでとったらしい。車のアクセサリーとかなんとか」
「へぇ、これはまたファンシーな……」
ファンシーというよりもミスマッチだろう。高級車の内装にはっきり言ってチープな出来のぬいぐるみはあまり合わない。
「このままいくと千雪姉さんあたりが飾り付けを始めるかもしれないね」
「それは――困ったな」
元々この社用車は社長の私物だ。現状だと社長は黙認してくれているが、あまりにもはっちゃけすぎると流石に撤去命令が下るかもしれない。
結華はユアクマの手足を動かす。手足を動かしているときに彼女ある一つのアイデアが思い浮かべる。
そのアイデアは少しわがまま過ぎるのではないだろうか。
(――いや、それでも)
少し我がままになってもいいのではないか。
社用車が赤信号で停止すると結華はバックミラーでプロデューサーにユアクマが見えるように構えると人形遊びの要領でユアクマの手を振って見せた。
「PたんPたん」
「どうした結華――いや、ユアクマかな」
「おっ、ノリがいいねぇ」
彼女はわざとらしい作った声でユアクマを使った人形遊びを始める。
「ユアクマはね、なにか甘いもの食べたいなー」
「そうか。じゃあ――」
「でもこんな夜だからなー、できるだけカロリーの低いものがいいなー」
「そっか……それじゃあ、この近くに和菓子屋があるんだけど何か買ってくか」
「さっすがPたん、わかってるねぇ!」
「ユアクマじゃなくって結華に戻ってるぞ」
「おっと、こりゃ失礼」
結華はぱたぱたとユアクマの腕をまるでバイバイするように動かすと中央座席のヘッドレストの後ろに戻した。
「ユアクマはどんな和菓子が好きなのかなぁ」
「うーん、蜂蜜とか?」
なんとなしの呟きにまじめに答えたプロデューサーがすこしおかしくて、結華は少し笑った。