ゼーレンヴァイス   作:朽木 堕葉

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【挿絵表示】

(こちらが表紙絵となります)


魂の在り処-プロローグ-
     ※


 闇夜の木々の狭間(はざま)で、光が踊っていた。

 両手で包んでしまえそうな、小さく穏やかな光の群れ。人型に発光する妖精(スプライト)たちが、森の中を散策するように、ふわふわと飛び交っている。

 草花を覗き込んだり、泉の上で密集して輪をつくったりと、気ままな様子でじゃれていた。

 そんな戯れを、不意に一陣の風が乱した。妖精たちがわっと散らばり、茂みや木の葉の陰にそれぞれ身を潜める。

 一匹だけ、取り残されたように、宙にいた。

 その風を巻き起こして行った二人の後ろ姿を、じっと見て、首を傾げるような所作をした。

 それはきっと、よく、似ていたからかもしれない。その二人が、妖精たちと。

 二人は木々の間を抜け、空高くに場所を移した。

 どちらも、飛んでいた。妖精たちのように。

 ただ、妖精たちとは異なり、背には翼があった。

 妖精たちの光をかき集めたような、神秘的な光の翼が。両肩の間で、虹色に明滅する美しい結晶を生やし、そこからこぼれ出るようにして。

「お願いっ! もとのお姉ちゃんに戻って!」

 二人のうち、一人が訴えかけるように叫んだ。

 人形のような美貌をした少女だ。そして、相手も同じ(・・)顔だった。

 銀に海の色を混ぜ込んだような髪に、翡翠(ひすい)を削り取って()め込みでもしたような切れ長の瞳。胸元で輝く結晶は、群を抜いて、美しかった。

 明確な違いは、髪の長さくらいのものだろうか。

 悲痛な顔で訴えている少女は短く、空虚な表情で応じないでいる少女は、腰まで長く伸びていた。

 両者ともに、胸や背にあるものと同様の結晶の花を、両手に咲かせていた。

 髪の短い少女は、両手の甲から槍の穂先が突き出るようにして。

 髪の長い少女は、両手自体が結晶に包まれて鋭く伸び、曲剣(きょくけん)のように。

 不意に髪の長い少女が動き――瞬間、二つの結晶が激突した。カッと、光が弾けたあとには、髪の短い少女が、どうにか両手を交差させて、長大な刃をその間で受け止める姿があった。

「もう、やめて! お姉ちゃんっ!」

 刃の先で押し込まれながらも、髪の短い少女が、必死に呼びかけた。

 髪の長い少女が、眉根をわずかに寄せたように、なった。どこか、悲しそうに。

 それは、呼びかけた側の願望がみせた(まぼろし)だっただろうか。

 かすかな変化に希望を抱いた髪の短い少女が、刃越しに跳ね()けられ、闇空を降下させられていった。

 やっとのことで、体勢を立て直して顔を上げ、

「お姉ちゃ――」

 絶句した。

 髪の長い少女が、煌々(こうこう)とした光を長大な刃に溜め込み、振りかぶっていたのだ。

 あっという間もなかった。

 刃が振り下ろされ、解放された光の帯が、闇夜の空を大きく斬り裂いた。

 壮絶でいて、神々しい光の奔流だった。

 開闢(かいびゃく)さながらの光景は、奇跡の一つでも、穿たれた暗闇から生み落としても、不思議ではなかった。

 しかし、過ぎ去ったあとには、なにも残さなかった。

 髪の長い少女も、髪の短い少女も、いなくなっていた。

 ただ、遥か遠くに(そび)える大樹だけが、不変の異彩を放つばかりでいる。

 絶えず、虹色の輝きをまき散らしつづける――虹の大樹だ。この世界のどこにいても、見失わないでいられる存在。

 その樹はなにもかも、知っているかもしれない。

 二人の少女の行方を。その行く末すらも。

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