ゼーレンヴァイス   作:朽木 堕葉

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 バン!

 執務室の扉を勢いよく閉められた音に、ケートネスの肩がビクッと震えた。樫の木造りの重厚な机の上で、深々と嘆息すると、疲れたように柔らかな革椅子に身を預けて天井を仰ぐ。

「僕だって、やるべきことをやっているんだよ……」

 苦悩の表情で、ケートネスは嘆いた。物凄い剣幕でやってきて、ついさっき退室するまで同じ顔でいたエリーゼの残像に向けて。

「まるで英雄の凱旋だ」

 ここまで聞こえてくる街中(まちなか)の歓声に、吐き捨てるようにケートネスはつぶやいた。

「エンシェント・ドラゴンを退治したのですから、英雄で間違いはないでしょう」

 ケートネスの傍で控えていた女性が口を開いた。事実を淡々と告げる感じに。

 赤髪を短く切りそろえた軍服姿――彼女の胸元には、真新しい勲章が飾られている。落ち着き払った雰囲気からは判別しにくいが、齢は若そうだった。

「これ以上、国力の低下を招くわけにはいかない。……そうだろう?」

 ケートネスは同意を欲した。エリーゼとの口論中は、彼女はだんまりで通していたが、

「ええ、この数ヶ月での損耗率は目に余るものがあります」

 今になって肯定した。

「……どうにかしないと」

〈アッシュガルズ〉全土で募兵を試みているが、これが芳しくない。銃器の数もゴーレムの数も、不足しているのが実情だ。

 魔導師団や騎士団は、まるで頼りにならない。ケートネスは、どちらも今や時代遅れの部隊だと思っている。

 扱いやすい銃器も、命令通りに操れるゴーレムも、すべて錬金術の産物だ。錬金術によって製法された火薬、そして鋼鉄の巨人を制御する精結晶(スピリットクリスタル)

 これらは魔導や剣技のような修練が必要ない。誰にも扱える大きな戦力なのだ。

「頼みの綱は――錬金術。しかし……」

 とはいえ、専門的な学問を必修しなければならない錬金術師は、まだまだ希少な存在である。それゆえ国は錬金術師を厚遇してきた。

 これまでは、その人手不足も問題はなかった。だが――

「クノッヘン卿さえいてくれれば……」

 ケートネスは稀代の錬金術師の名をつぶやく。

 彼が消息不明となってから、自立稼働型人形(オートマタ)――兵器としてのゴーレムの生産効率の低迷は顕著だ。

 王宮内や格工房での生産体制を、クノッヘン卿に一任していたツケがここに来て回ってきたのだ。部品の数が合わなかったり、納品されたものに欠陥品が混ざることが頻発している。

 何度目ともつかないため息を、ケートネスがこぼしたとき――

 傍らで控えていた女性の赤い瞳で理知的な光が踊った。机の向こう側、ケートネスの眼前まで回り込んでから、

「そうです。錬金術こそがすべてを解決するすべなのですっ」

 力を込めて、言った。そうして、紙束(かみたば)を上着の内側から取り出して、差し出すように机上に置いた。

「……これは」

 ケートネスが目を見張る。それをなにかの計画書だと見て取ったからだ。

「このアリアン・フランベージュにすべてお任せください。私はクノッヘン卿の技術をすべて継承しております。そして、王であるあなた様の補佐を務めるのが、現宮廷魔導士たる私の使命なのですから」

 新たに宮廷魔導士に着任した彼女の力説を聞きながら、ケートネスは計画書の題名に目を通した。

 妖精宝珠(スプライトジェム)内蔵型自立稼働型人形(オートマタ)生産計画――

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