夢のなかにいる。少なくとも現実ではない。それは間違いないようにアズランドには思えた。
手の甲に刻まれた白い花の痣が、黒く染まりゆくことに、戦慄を覚える光景――
違う。これは、俺の夢じゃない。
不意に周囲が暗転した。
中年と思わしき夫婦が、逆さまになって木の棒に吊り下げられている。四階ほどの高さはあるだろう。曲芸師が使うような大道具に似てもいたが、そこに姿を現したのは処刑人らしき風貌の二人だ。高枝切りバサミのようなものを持ち出して、老夫婦に歩み寄る。
どうやら、
やがて縄が切られ、ほぼ同時に夫婦は落下した。アズランドに音は聞こえなかったが――首のへし折れる音を勝手に想像した。
またぞろ、視点は変化する。
そのつど――そんなものに、俺は見覚えなんてない。アズランドは拒絶した。
ほかのだれかの生涯を見せられるのは、なかなかに苦痛だ。特に、この人物は悲惨な運命の持ち主である。
……これが俺の先祖か。笑えない冗談はよしてくれ、とアズランドは宙を仰いだ。
そこに困惑顔のロウェルが見えた。おそらく俺と戦っているのだろう、とアズランドは察した。
時折、そこにはおぼろげながら、またべつの光景が映った。川に深く潜り込んで水面を見上げるような感覚。きっと、あれが今現在の出来事なのだろう。
一瞬、交戦するリザとカトレアの姿が映り、ドクンと二つの鼓動が鳴った。一つはアズランドのものだったが、もう一つはこの空間そのものがまるで震撼したように感じられた。
それが引き金となったように、周囲で目まぐるしく悲劇の騎士の生涯は移り変わっていった。
アズランドは眩暈がしそうだった。
ふと、時の流れが穏やかになったかと思えば、ベッドの上で天井を見上げている。おもむろに伸ばされた手のシワを見て取るに、老衰期を迎えているらしい。
いったい、どんな末路を見せつけられるのか。アズランドは眉をひそめていると――綺麗な白い髪をした美女の微笑が間近になった。聖女と呼ばれていた頃のカトレアである。
――私はあなたに近衛騎士として忠誠を誓う者です。……愛を誓うことなど許されてはおりませぬ。ですが、私はあなたを愛しています。今少し、お待ちいただけませんか。有無を言わせぬほどの武勲を立て、あなたの前にこうして頭を垂れず並び立てるそのときまで……。
熱っぽい声が木霊した。なぜかその声は、はっきりと聞き取ることができた。アズランドは不愉快そうに眉を寄せた。嫌なくらい、自分とそっくりな声だった。
カトレアの細い手が眼前に見える。悲劇の騎士が、口づけをしたのだろう。
そして、闇が周囲に降りてきた。闇のなかを騎士の声が、果てしなく響き渡った。
後悔に