ゼーレンヴァイス   作:朽木 堕葉

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 金切り声が上がった。

 カトレアの右腕が斬り飛ばされ、昏い花園に転がる。が、すぐさま右腕は、損傷個所からドロドロと粘液を滴らせて元通りになった。

 その手を突き出して、カトレアは言葉にならないで声で叫ぶ。闇の球体が一直線に飛んでいった。冥空神(めいくうしん)ニヒト・ヌル・ヘルの加護を受けた魔力の塊。

 それがリザの眼前に達して霧散した。妖精宝珠(スプライトジェム)が放つ魔力の奔流――七色の光の前に。

「あなた、いったいなんなのよ⁉」

 たまらない様子で、カトレアは喚いた。 

「アタシはアズが大好き」

 静かな口ぶりでリザは言った。

「さっきからなにを言っているのよ」

 カトレアはさらに声を荒げる。ついで、聞く者の耳をつんざくような悲鳴を発した。リザが左手の結晶をひょいと差し向けたのだ。虹の魔力の熱波が、カトレアの脇腹を半円状に溶かしている。

「アズはアタシたちを許してくれないかもしれないけど……」

 リザの顔が悲痛を帯びた。妖精宝珠は深い藍色を見せ、静謐な様相で明滅を繰り返す。

「あの(ひと)はわたくしのものよ!」

 カトレアは脇腹を再生させながら、憤怒の形相を露わにした。が、今度はリザが楽団の指揮者ような手振りをした。左右から煌びやかな魔力が押し寄せ――カトレアの上半身と下半身を二つに分けさせた。

 ろくに声も上げられず、カトレアは花園に伏したままリザを睨んだ。上半身から再生は始まっていたが、以前と比べると緩慢になっている。

 リザはカトレアに一方の手を伸ばした。一見、手を差し伸べるような所作だったが、手の甲にある結晶の突起が向かう先の中心に彼女がいた。

「アタシ、あなたのこと……嫌いじゃなかった」

 謝罪するようにリザは言った。

 その矢先――

「リザ!」

 ロウェルの叫び声が横殴りに振りかかる。

 いっそう、悲しそうにリザは眉を寄せた。アズランドがリザの前に立ち塞がっていた。

「アズ……」

「ヴルツェル!」

 カトレアはその背に、うっとりしたような表情をみせた。身体の再生を終え、立ち上がった。そして、瞠目する。それはまるで裏切られたような表情だった。

「リザ」

 アズランドはリザの肩に手を置いた。黒い痣のある手を。それから、ばつが悪そうな笑みで首を横に振った。

 衝撃のあまり、動けないのはカトレアだけではなかった。リザも、どうしていいかわからず――茫然となるほかすべがなかった。

「カトレアが衰弱したことで、正気に戻ったの?」

 それはエリーゼの声だった。アズランドは振り返らず答えていた。

「ああ、どうやらそうらしい。それとも、押しつけがましいご先祖様の助力のおかげかな」

 寝覚めが悪い夢だった、と苦笑して付け足した。苦々しい真顔になって、こうリザに告げた。

「もう、いいんだ。ここから先はぜんぶ(・・・)、俺の口から言わなければ意味がないんだ」

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