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「これではまるで戦争よ!」
「ああ、そうだ。これは戦争だよ」
エリーゼとケートネスが、机越しに対面している。
「そう、れっきとしたこれは反乱なんだ」
エリーゼの歯に衣着せぬ物言いに気圧されることなく、ケートネスは冷静に――冷淡に言って返した。言葉の裏には、非があるのはこちら側じゃない、という意思表示がある。
エリーゼも即座に意図を察した。負けじと言ってのける。
「同じ国の人間同士――まだ、話し合いの余地があるはずでしょうっ」
「ないよ」ケートネスは即答した。
「なんですって!」
エリーゼが睨みつけると、ケートネスは視線を逸らした。エリーゼもつられるように目で追うと、窓の外は朝焼けの空に変じている。どこか昨夜の街中の火の手を彷彿とさせられ、良い気はしなかった。
「街の被害状況も、じきにわかる。敵の所在――潜伏先もね。すぐに反乱者どもを鎮圧してみせる」
窓から視線をエリーゼに戻したケートネスの目の奥で、光が揺らいだ。刃物にような鋭いが、すぐ折れてしまいそうな脆さが窺える。その安っぽさは、エリーゼには既知のものだ。
「この一件に片がついたら、キミも準備をしておくことだ」
「準備ですって?」エリーゼは眉をひそめた。
「僕とキミの婚礼の準備さ」
エリーゼは押し黙った。それを見越していたふうに、ケートネスはつづける。
「キミに拒否権はもうないんだよ。一年前、キミがそうなるように、僕に仕向けたことだ。各地の騒ぎで先延ばしになったのは致し方ない。だが、今回のような反乱が二度と起きないように、国が盤石であると証明してみせなければ、第二第三の反乱を招くだろう」
「……それはこの反乱を鎮めてからの話ね」
エリーゼは胸の痛みを
「反乱軍は、
迷った素振りをみせ、ケートネスは言い足した。
「……キミの誠意はどこにある?」
「誠意?」
「キミが渋る理由がどこにあるのか、とずっと思っていたんだ。あの少年を騙しているのが、心苦しいのかい?」
エリーゼの胸で、痛みが増した。ナイフに抉られる感覚。言い淀みがちに反論する。
「私とロウェルは、そんな……そんな関係じゃないわ」
「なら、なんら問題はないじゃないか」
「そうね」ナイフはエリーゼの急所を貫くに至った。
「キミは誰よりも――この僕よりも国を思いやっているはずだろう? 僕たちが結ばれることで、民も安心を得られるはずだ。違うかい?」
「そう、かも。ええ、きっとそうなんでしょうね」
エリーゼはかろうじて勝気な表情を維持していた。ケートネスにも、これが虚勢に映ったのだろうか。
「これが戦争である以上、キミが立ち上げた〈
「……そう」
「これは王としての決定なんだ。内通者がどこにいるかわからない以上、それは〈蝕天秤〉も同様だ。わかるだろう?」
「ええ、そうね」
戦況は一切、エリーゼには教えられない。言外にそれは理解していた。
エリーゼはフラワーゴーレムを伴い、執務室から退室した。入れ違いに、宮廷魔導士アリアンがノック音を響かせ、
「入れ」
信頼の表情を湛えてケートネスは迎え入れた。
アリアンは一礼し、「こちらを」手に持っていた書状を卓上に差し出した。
ケートネスがそこに記された文面を読み上げた。
【三日間の猶予を与える。それまでに、降伏を宣言しない場合、この国は途方もない悲劇を体験するであろう。――我らは空の玉座を願う者なり――】
ケートネスはぐぐっと歯を食いしばる。喜怒を顔に表していた。
「いいだろう、望むところだ」
くしゃっ、と書状を握りしめ、
「三日間くれてやるのは僕のほうだ。返り討ちにしたほうが、民の心証にも良い」
宣言するように吐き捨てた。
戦火から一夜明けた主要な通りは、ゴーレムや兵隊が臨戦態勢で配置されていた。エリーゼは、フラワーゴーレムの肩に身を預けながら、〈
「これまでは――前王様の時代は平和だったのに」
どこからか、だれかが言った声がエリーゼの
「平和、か」
フラワーゴーレムの顔にエリーゼは身を寄せた。
「平和って、なんなんでしょうね……」
わかっていたけれど、フラワーゴーレムは
“下も上もなくすこと”
それが導き出した答えのはずだったのに。
“上が下に。下が上に”
それはロウェルの夢から背くことだと思っていたのに。
なんだか、裏切られた気持ちだった。それから頭を振った。
「裏切ってるのは、私のほうか」
切々と眉根を寄せて、ぽつりとつぶやいた。
「ロウェルを裏切って。ケートネスも裏切って。私自身さえ裏切って――果てになにがあるというの?」
王宮の騎士団長室の窓から、次期王妃の様子をオネストは憂い顔で見ていた。やたらと整えた口髭を弄っている。考えに耽る際の癖で、それを見兼ねた様子で、従騎士の少女が気遣うように声をかけた。
「あの、オネスト様。いかがなされたのです……?」
「ああ、カレンか」
オネストは向き直ると、心配かけまいと豪気な笑みをみせた。
「ずいぶん、考え込んでいらしたようですが」
「いや、なに。詮無きことだ。おまえが気にすることでない。心配をかけて、すまなかったな」
がはは、と笑い声を上げて、オネストはカレンの頭に手を乗せ、無造作に撫でる。
「い、いえ。
カレンは委縮し、おさげ髪をゆらゆらさせて、弱々しく言った。
目を細めながら、オネストはこれでいいのかもしれない、と思っていた。
ケートネスが騎士団の解散と、魔導師団の縮小を検討していることについて。そうなれば、若い命を無駄に散らせてしまうこともなくなる。
時代は変わるものだな、レグナシオン。旧友の名を胸中で呼んだ。思い描いた姿は、血気盛んな青年の頃であったが。