ゼーレンヴァイス   作:朽木 堕葉

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 ロウェルは昏く沈んだ表情で、見渡していた。

 戦災を。“おっさん”がなにをしたのかを、今一度、この目でたしかめたかった。

 被害が著しいのは、空の玉座(エンプティ・スローン)の進軍経路であった東側(イーストサイド)から南側(サウスサイド)にかけてで、崩れた家々が一面に広がっている。そこはもう、ロウェルがよく知る街並みではなかった。

 仮設されたテントの下では、懸命な治療処置が行われている。

 医師の姿だけでなく、魔導士――にしてはちょっと変わった衣装をした人たちが、緊張した面持ちで治療にあたっていた。

 怪我人はみな、明滅する魔術式のうえで寝かされており、魔導士の一人が、力強く呪文を発する。つづいて幾重の声が重なり――唱和となって治癒魔術が効力を発揮する。

 一人は傷を修復しながら、折れ曲がった脚が徐々に本来あるべきほうへ戻っていく。

 また、腹部から多量の血を流し、もがくように、繰り返し吐血していた者さえ、あらゆる損傷が癒え、穏やかな呼吸を繰り返すようになっていた。

 悲鳴じみた声を何度も聞き、奇跡のような力を目の当たりにして、ロウェルはいたたまれなくなって、たまらず逃げだした。

 無力だと思い知らされた。ここにいて、ロウェルにできることは皆無なのだ。

 俯きながら、とぼとぼロウェルは歩いた。行く当てもなく。

「なにが一日百(ヴァーチェ)だよ……」 

 壊れた街並みを目にして、なんの意味もなかった――痛切にそんな想いがこみ上げてくる。これまで行いのすべてが、くだらなく感じて仕方なかった。

 瓦礫(がれき)に埋もれたゴミ同然だ。意味も価値ももたないもの。

 不意にロウェルの視界に、首だけとなったゴーレムが転がっているのが映り――蹴っ飛ばしていた。

「あっ……」と、ロウェルは顔を上げた。

 蹴っ飛ばしたゴーレムが、弧を描いて道端に座り込んでいた男に命中する。しかし、男は微動だにしない。途方に暮れた様子で、崩壊した邸宅を見ている。

 かと思えば、

「また、おまえか。錆ついた鋼鉄(ラスティー・スチール)……」

 振り返り、ロウェルをそう呼んだ。死んだ魚のような目をして、咄嗟にはだれかわからなかったが、特徴的なチョビ髭と厚ぼったい唇でハッとなった。

「おまえ……デジール、か?」

 

 

 西側(ウエストサイド)の丘を登り切った途端、アズランドは目を見開いて、立ち止まった。

「ちょっと見ないあいだに、様変わりしたもんだ」

 苦笑して、魔導士協会本部の現状を言い表す。

 敷地内の至るところで、戦闘の名残りが見て取れる。捲れかえった石畳――さらには、七つのうち、四つの塔が倒壊していた。象徴たる神像のほうだけは、いずれも形を保っているのが、皮肉めいている気がした。

「ミスルトウ様っ。新たに救助された重症者が北側(ノースサイド)に運ばれたとのことです!」

 大声でだれかが告げた。

 アズランドが視線を向けた先には、見目麗しい淑女がいた。悩ましげな表情を一転して引き締めると、

「わかりました。私が参りましょう」

 決然と告げるなり、アズランドが上って来たのとは反対側の階段を下ってゆく。アズランドはその後ろ姿――修道服を意識し、見直したような眼差しをしばし注ぐ。道中、神の奇跡(ちから)で命を取り留める光景を、そこかしこで見てきた。

 慈愛を司る地母神――リーベ・ルチェ・エイルによる魔術によって。

()の神の本懐、か」

 と、アズランドはつぶやいた。波打つ金髪を流す背に向けて。彼女がその神を信奉する最たる人物である塔長(とうおさ)であるのは、三年以上前から人づてに聞いていた。

 そして頭を振ると、真っ直ぐ、今なお健在でいる一つの塔に入って行った。

 

 

 アズランドは薄暗い螺旋階段を上りつづけていた。気持ちその足取りは重い。ときおり、繰り抜かれた窓から差し込む陽射しに、緊張した面持ちが照らし出される。

 途中、各階にある幾つかの部屋を素通りしていった。

 ある部屋では瞑想中の者たちの姿が。またべつの部屋では書物を読み漁る者。倉庫代わりの小部屋で雑談に興じる人影。

 なんてことはないさ。いつもと変わらない。

 胸中でアズランドは自らに言い聞かせる。と、そのとき、剣戟の音が耳に聞こえ、通りかかった部屋の前で足を止めた。

 この塔でもっとも大きな広間――闘技(とうぎ)()だった。刃を交える二組の魔導士が、攻防を繰り広げている。手にしている得物はバラバラだったが、すべて本物の刃物である。

 例え命を落としても、試練の過程のこととして処理され、法的に咎められることなどもない。この場に限っては、魔導士もそれくらいの権力は未だに有しているということだ。

 アズランドには見慣れた眺めだ。このような場が存在するのは、戦神を崇める塔ならではだろう。

 片手剣(ショートソード)での手合わせは、一時期ここで頻繫に繰り返したものだ。最初の頃は散々に打ち負かされたが、半年もすれば、対等に渡り合えるようになっていた。

 そこらで見切りをつけてからは、ここには足を踏み入れていない。それ以降は、銃の扱いを磨き、魔術の習得に勤しんだために。

 そして、“真相探し”に明け暮れた……。

 生き急ぐような自身の影を尻目に、アズランドは再び歩き出した。

 闘技の間があるのは十階。用があるのは、最上階となる十二階だった。

 思いのほか早く階段を上り切ると、十二階にただ一つ存在する部屋を眼前にして、アズランドは少しのあいだ立ち止まっていた。扉の前で、自嘲気味に独り言をこぼす。

「こんなことで、気を揉んでる場合じゃないな」

 意を決して、扉を数回ノックした。

「俺です。アズランドです」

 名乗ると、

「入れ」

 なかから低い声が答えた。

 アズランドは扉を軋ませながら開いていった。入室したその途端、重圧を感じた。魔力を感じ取ったわけではなく、それは一人の老人が放つ威厳に()るものだ。

 アズランドは奥の机の向こうに座る、その強面の老人の名を呼んだ。

「サロース塔長(とうおさ)

 各七つの塔――その代表の一人である彼の表情に変化はなかった。しかし急に咳き込みはじめ、引き出しから粉状の薬を喉に入れ、机上のコップの水で流し込んだ。

 アズランドはその様子を、入室してから一歩も動かずに見ていた。机以外に家具の類いもなければ、飾りっ気もない殺風景な部屋だった。目のやり場にするとすれば、壁に立て掛けてある長大な剣か彼本人しかない。

 アズランドがサロース塔長の姿を見るのは、これが二度目だ。

 四年前に、この塔を訪れたとき以来。

 そのときアズランドがこの人から抱いた感想は、おっかない 

の一語に尽きた。サロース塔長も、取るに足らない若造のような目つきを向けてきたはずだ。

 しかし、今では印象が異なる。四年前と今のやつれた顔を比べれば、一目瞭然だった。まるっきり衰弱した様子でいる。ここの魔導士たちのあいだで広まっている不治の病という噂話は、でたらめではないらしい。

 あの地母神の力を用いれば、傷を癒すことができる。しかし、その力で病は治せない。神はそれほどまでに、全知全能ではない――とアズランドは知っていた。もし、そうであるならば、ロウェルの夢だって、もっと現実味を帯びていたことだろう。

 サロース塔長が落ち着いてきた頃合いを見計らって、アズランドは口を開いた。

「……その、病状はあまり――」

「我々は戦神である主を――フォルティス・ヴェル・ヘルモーズ様を崇拝する」

 アズランドの言葉を跳ねのけるように、サロース塔長が言った。

 アズランドは萎縮しかけたが、視線を交えて意外そうな表情になる。彼の眼差しが四年前とは違う気がした。

 まるで値踏みされているような――好ましくない感覚に抗うようにアズランドは返した。

「……曲がりなりにも 、俺もそうしているつもりですけど」

 喉を潤したおかげか、サロース塔長は、ハキハキと澱みなく話をつづける。

「戦神は一人だけではない。我らがフォルティス・ヴェル・ヘルモーズ様ともう一人――」

「ツォーン・ジ・オーズル……」

 アズランドのつぶやきに、サロース塔長は深く頷いた。

「戦神がお与えになる力は魔術だけではない。わかるな?」

「……武器の扱いですか?」

「当たらずといえども遠からず」

「と言っても、ここでその手ほどきなんて受けたことなんてないですけどね。祈りや精神統一、神についての書物を読み漁ったくらいしか。……俺の戦いかたってほとんど我流だし」

 苦言を呈するように言って、アズランドは肩をすくめた。サロース塔長はかすかに頷く。そうであるだろうな、というふうに。

「同じ神を崇めながらも、おまえは一匹狼であったものな」

「俺が手っ取り早く強くなるためには、そのほうが楽だっただけです」

「肝要なのは、武器を執る心構えだ」

「心構え、ですか。それならべつに――」

「万全だと?」

 険しさを帯びたサロース塔長の眼が、射抜くようにアズランドを見ていた。凶悪な魔物と相対するのとは似ているようで別種の戦慄を覚えながらも、アズランドは負けじと言って返した。

「……もし、万全じゃないとして。問題があるんですか」

 サロース塔長は、しばし目を閉じた。そして、言った。

「フォティア=ウェルテックス」

「その名前……」アズランドは目を見開き、つぶやいた。

「そうだ。お主と相対した娘の名だ」

 すべてお見通し、というわけか。アズランドはむかっ腹が立つのを抑え、

「何者なんですか?」

 逆に洗いざらい聞き出してやろうと思った。それくらいには、この強面の顔にも慣れてきていた。

「なに、大したことはない。……ただ、三人の塔長を殺害した娘、というだけのことだ」

 事もなげにサロース塔長は言ってのけた。ここ近年、王都で盛んな球技の試合結果でも口にするみたいに。

 アズランドはさすがに茫然となった。そのあいだに、

「シュパース・テラ・ヨルズの塔長。フロイデ・レガロ・フノッサの塔長。そして、ツォーン・ジ・オーズルの塔長の三名をだ」

 諳んじるようにサロース塔長が告げた。アズランドは矛盾を感じて眉をひそめる。

「ツォーン・ジ・オーズル? 待ってください。フォティアの魔術は、ツォーン・ジ・オーズルによるものだったんですよ?」

「アヤツの秘蔵っ子が、あの娘でな」

 一瞬――サロース塔長がアヤツ(・・・)と口にしたとき、その(いか)めしい表情に親しみがわずかに滲んだのを、アズランドは見逃さなかった。

「奴らに加担するために、内側から? 親代わりの人物まで亡き者にしてまで?」

 アズランドのその疑問には応じず、サロース塔長は冷厳としてこう告げた。

「おまえなら(かな)うかもしれぬ」

 反射的に、アズランドの表情が屹度(きっと)なる。そんな揶揄が言いたくて、呼びつけたのかとさえ思えた。声高にこう口にした。

「冗談は結構だ。すべては、あなたが出向けばいい話だ。あなたが重病でそれが不可能だと言うのなら、あなたがこの塔から選りすぐりを選んで差し向ければいい。そして、俺が未熟者だと言いたいなら、その通りだ。……その自覚はある」

「ワシで勝てる相手ならば、おまえをここに呼んではおらんよ」

 微動だにせず返って来たサロース塔長の言葉に、アズランドは当惑した。咄嗟に言っている意味を理解できずにいた。

「……俺にあなたの援護でもしろ、と?」

「ワシはおまえに任せたい。そのために、ここに招いたのだ」

 アズランドは瞠目した。

「そこがわからない。……まだ信仰も鍛錬も四年かそこらの俺に、なぜ白羽の矢が立つというんです」

「おまえの素質を買っておるからだ。魔導士もいずれ消えゆくだろう。我らはそれから逃れようとは思わぬ。じゃが、最後まで正しい在り方を貫き通すべきである、と考えている」

「買い被りが過ぎる。俺が背負うことじゃないし、適任者はほかにいるはずです」

 アズランドが呆れたように踵を返し、退室しようとした刹那だった。

 ガッ!

 と室内の石壁の一部が崩れ落ちた。

 アズランドが踵を返しかけた格好のまま、視線を転じる。そこには、壁に立て掛けてあった長大な剣を執るサロース塔長の姿があった。

 並々ならぬ闘志を立ち昇らせて。そして、自分に向けられた剣尖(けんせん)から、明確な殺意が宿るのをアズランドは察した。

運命(さだめ)に抗うと決めた魔導士もまた多い。彼女もまた然り」

「運命、ね……」

 アズランドは片手剣(ショートソード)抜剣(ばっけん)して、ぼそりとこぼす。物怖じを感じさせない面構えだが、その内面では、有り余るほどの恐怖を押し留めていた。それが勇気を司る神の教義――恐怖を胸に立ち向かうことである。

 恐怖を捨て去るのではない。むしろ恐怖を抱くことに意味があった。そこから一歩踏み出せた者に、フォルティス・ヴェル・ヘルモーズは力を与えてくれる。

 そう、アズランドだって信じている。

 サロース塔長も、言うまでもなく同様だろう。それもアズランドよりもずっと自然な心持ちで臨んでいられるはずだ。

 ややあって、サロース塔長の口元にシワが浮かんだ。それが笑ったのだと判ずるまで、アズランドが苦労しているあいだに、彼は言った。

「ここではちと手狭だ。場所を移すぞ」

 

 

 サロース塔長が闘技(とうぎ)()に現れたのを目の当たりにした魔導士四人の顔は、なかなかに見物だった。先ほど剣戟を響かせていた二組だ。揃って、口をあんぐりさせてぽかんとなっている。

 そりゃそうだ、とアズランドは苦笑した。噂では病で()せているはずのサロース塔長が出歩いているのだから。

「少し、場を借りるぞ」

 サロース塔長が短く告げるや、魔導士たちは一礼すると隅に退いた。

「さて……」

 広間の中央に立ち、サロース塔長は担ぐようにしていた長大な剣を両手で構えた。

 アズランドは(あらた)めてその得物を注視した。柄の装飾品と剣身に刻まれた文字から魔力が感じられる。

 ……塔長が扱う武器――ただの剣なわけないか。そう思いながら、アズランドは、鞘から片手剣(ショートソード)を抜いた。蒼い剣身の切っ先を、サロース塔長に向けて言った。

「幾つか、質問してもいいですか?」

 サロース塔長は黙したままだった。アズランドは、それを了解と受け取った。

「ここで俺はあなたと戦わねばならない?」

 サロース塔長は頷いた。

「……なぜだかは置いておくとして、命がけで?」

 同様にサロース塔長は頷く。

手段(・・)はなんでもアリで構いませんか?」

 三度、サロース塔長は頷いてみせた。

 アズランドは、右手で拳銃をホルスターから素早く抜き取った。

 両手の得物をサロース塔長に示してみせる。片手剣の切っ先を胸の位置に。銃口は額を捉えて。

 その構えに、サロース塔長は愉快気味に口を開いた。

「そろそろ、準備はよいか」

「最後にもう一つ」

 撃鉄を上げながらアズランド。それが最大の謎だという口ぶりで訊いた

「どうして、俺なんだ……?」

「お主が、魔導士であって、魔導士らしからぬから。言えるとすれば、それくらいだ」

「どういう意味――」

 話しかけたアズランドの前で、サロース塔長が動いた。半ばアズランドの意識を外れ、瞬間的に片手剣を握る手が動き――数倍は大きな長大な剣と斬り結ぶ。

「最後、と言ったであろう」

 サロース塔長が、殺伐とした声音で言った。その顔の半分が刃に隠れて、見えないでいる。

 その刃の先で、アズランドは徐々に押されつつあった。どちらの剣も、魔力を放出しておらず、腕力によって押し負けているのだ。

 ちらと膨れ上がっているサロース塔長の力こぶを目に留め、アズランドは心中でぼやいた。

 ロウェルならいざ知らず、俺の領分じゃないだろ。

 と、長大な剣の裏から、アズランドは拳銃を発砲した。不意を突いたにもかかわらず、サロース塔長には大きく退いて避けられてしまった。

 そうでなければ、急所を撃ち抜いていた――その事実をアズランドは受け止め損ねている。この戦いに意味を、未だ見いだせない。

 サロース塔長は口早に呪文を唱えた。すると、長大な剣の刃に(いかずち)がバチバチと流れはじめる。

「おまえの覚悟を試みる」

「覚悟だって?」

 疑問を投げ、アズランドも同様の魔術で片手剣の剣身に雷を巡らせる。

 いったい、なんの覚悟だ? アズランドは疑問を片手剣に乗せて振るった。サロース塔長は油断なく、手にする剣で弾いた。が、アズランドは立て続けに斬り込んだ。

 筋力でも魔術に於いても劣勢なのは目に見えている。アズランドに分があるとすれば、俊敏さくらいのものだった。

 相手は病を抱えた老人――などと気に病む必要はない。相手がサロース塔長なのだから。理不尽な果たし合いで、命を落としてやるつもりなんて毛頭なかった。

 わずかな隙を突いて、アズランドはサロース塔長の側面に回り込み、流れるような連撃を仕掛ける。蒼い剣身が幾つも残影となって目に映る速さで。

 観客となった魔導士たちも、後手に回るサロース塔長の姿に意想外な表情を浮かべている。だが、その顔が一様にアッとなった。

 アズランドの連撃が止まった。

 当のアズランドは戦慄を覚え、丸く目を見開いた。

 サロース塔長が、素手でアズランドの繰り出す斬撃を受け止めるさまに。雷の走る刃を、雷で覆った片手でがっしりと掴まれている。

 いつの間に、呪文を唱え、発現させていたというのか。その問いは、サロース塔長が長大な剣を、片手で真横に振りかぶったことで、消え失せた。

 (まばた)き一つあとには、胴体が二つに分かれている自分の姿を脳裏に思い描いた。

 時が緩やかに進む感覚にアズランドは陥っていた。

 死に瀕した際、それはしばしばあった。それなりに死地は経験したと思うのは、自惚れになるだろうか、と自問してみる。

 いつ、死んだって構わない(・・・・・・・・・)目的(・・)を果たしたあとであれば。

 アズランドの顔に苦笑が浮かんだ。諦念(ていねん)を帯びて。

 かつて(・・・)の望みは叶えている。

 ()の望みは……。

 その言葉を胸中で唱えた――瞬間、脳裏で光が(またた)いた。

 すべてがリザの顔だった。

 不意に、青ざめたリザの顔が強烈に胸を打った。

 俺がここで死ねばリザはどうなる?

 あのろくでもない紛い物の正体は? だれがあんなものを生み出した?

 “それを知らずして死ぬのはまっぴらごめんだ”

 ここ数年間、(すが)っていた行動原理に背中を押されたアズランドは、(まばた)きとともに、自分でもありえないと思える速さで屈みこんだ。ブン、と重い風切り音を伴い、刃はアズランドの頭髪を数本だけ薙ぎ、雷に焦げついた。

 刹那的な出来事――それはまだ、終わっていない。間断なくアズランドは、剣を振り切った無防備なサロース塔長の顎先に、銃口を突きつけていた。

「昔は、それさえ果たせればどうなっても構いやしない――なんて思っていた。だけど、今は違う……!」

 不敵とも真剣ともつかない表情で、アズランドは告げた。冷や汗で濡れた頬は拭えず、様になっているとは言い難いかもしれない。

 だがしかし、サロース塔長は満足げに笑んだ。短く賞賛の声がした。

「見事だ」

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